2012年12月27日木曜日

6_107 ボイジャー1号:協同作業


 今年最後のエッセイになります。一年をふりかえろうかと思ったのですが、あまり生産的でないので、いつものように淡々と綴ろうと思いました。今を遡ること35年前。その時にスタートした研究が、今も継続していること、そして大きな成果を挙げていることを紹介しましょう。

 1977年9月5日、アメリカ、フロリダ州ケープカナベラルのメリット島にある空軍基地から、探査機が打ち上げられました。先行して8月20日に兄弟機というべき探査機も打ち上げられています。これらの探査機は、ボイジャー計画に使用されたものでした。先発して打ち上げものをボイジャー2号機、後発を1号機と呼ばれています。もともと同じ日に打ち上げられる予定だったのが、1号機がシステムのトラブルのため遅れたとされています。
 2つの探査機が連続して打ち上げられたのは、その頃、太陽系の惑星が同じ方向に並ぶ時期にあたっていたためです。外惑星(地球より外側の惑星)を連続的に、少ない燃料で接近し観測できる、非常にいい時期にあたっていました。その時期を活用するために、2機が同時に打ち上げられたのです。その探査は、惑星グランドツアーと呼ばれました。
 ボイジャー1号機、2号機は、実際にすばらしい惑星の写真を送ってきました。まさに、惑星グランドツアーをして、その鮮明な惑星の画像がいたるところで使用されました。ボイジャーの画像が、私たちの木星や土星、海王星、天王星などの惑星のイメージをつくりあげたといえます。
 35年間、それも冥王星よりずっと離れたところにあるボイジャー1号、2号は、現在も運用されています。もっとも速いスピードで動いているのはボイジャー1号で、秒速17kmで太陽系から遠ざかっています。現在は、光のスピードで17時間もかかるところにいます。太陽系の外と内の境界にいます。
 太陽系の範囲は、ヘリオスフィア(太陽圏と訳されています)と呼ばれています。太陽からの太陽風の届く範囲のことで、太陽から放出されたプラズマ(太陽からのイオン化した粒子)が飛んでいける範囲です。境界では、太陽系外からくる粒子や磁場と太陽風が衝突するところになるはずです。まだ確かめられていません。
 その境界にボイジャー1号が達したというニュースが、今年12月5日に届きました。予想では、ヘリオスフィアから抜けると太陽風はゼロになるとされていました。ところが、太陽系外から高エネルギーの粒子がヘリオポーズに流れ込んでいることを示すデータが送られてきました。予想外のデータでした。
 ヘリオスフィアの外では、荷電粒子が飛び交っていることから、「磁気ハイウエー」と呼んでいます。ボイジャー2号機もヘリオスフィアに近づき、形状が歪んでいることを示すデータを送ってきました。そのうち境界に達するはずです。データが届けば、「磁気ハイウエー」の実態が、解明されることになります。期待したいものです。
 データを淡々と今も送り続ける無人探査機が、人の知らいないところで活動しています。指示された命令を、35年も淡々と実行する機械があったのです。人類がいけるはずもないところで、活躍するロボットとともいえます。
 現代社会で、実は、ロボットがいたるところで働いています。ロボットは、意志を表明しないので、危険や退屈、過酷さ、死など、人には行けない世界を、調べて情報を送ったり活動しています。これがロボットの素晴らしいことです。
 そして、その情報を35年間待ち続け、読み続ける研究者も、そこにはいます。人とロボットの協同作業のすばらしさを教えられました。この知恵は、もっといろいろ場面で活用できるでしょう。

・寒波・
連休は日本は寒波に見まわれ、
しばらく冬型が続きそうです。
北海道も冷え込んでいます。
通常や我が家は、太陽がでると暖かくなので
暖房をきるのですが、
太陽がでても一日暖房がはいったままでした。
大学はまだ授業日になっているので、暖房が入っていますが、
寒さが強いので、研究室はあまり暖かくありません。
でも、仕方がありません。
これが北国の冬ですから。

・最後のあがき・
いよいよ今年最後のエッセイとなりました。
いつもいっていると思いますが、
時間に区切りがあるわけではありません。
年末や年始は人間が便宜的に決めた
時間の区切りにしかすぎません。
しかし、人間だから、その区切りを必要以上に重視します。
私も今年1年の区切りとして、
残された日々でどこまで仕事や研究ができるかをやろうとしています。
日数が少ないので、大したことはできませんが、
すんな数日も積み重ねれれば大きなものになります。
そんな日々の努力が必要なことを感じるためにも、
年末に最後のあがきをいつもします。
もちろん今年もです。
あと4日あります。
少しでも前に進みましょう。
そして、よいお年をお迎えください。

2012年12月20日木曜日

1_110 最古のクレーター 2:意義

 最古のクレーターが、30億年前の衝突でできました。クリーンランドの西の海岸沿いから見つかりました。古いものなので、クレーターの形態は不明瞭ですが、いくつも証拠が示されています。では、この古いクレーターが発見された意義は、いったなんだったのでしょうか。

 前回、地球最古のクレーターは、約20億2300万年前のフレデフォート・ドームだと紹介しました。しかし、今年の夏、もっと古いクレータが発見されました。約30億年前のもので、クリーンランドから見つかりました。
 デンマークやイギリスのガルディア(Adam A. Gardea,Iain McDonaldb, Brendan Dyckc, Nynke Keulena)たちのチームが、発見して報告しました。論文のタイトルは、「Searching for giant, ancient impact structures on Earth: The Mesoarchaean Maniitsoq structure, West Greenland」(地球の巨大で古い衝突構造の探査:西部クリーンランド、太古代中期マニツォーク構造)というものです。
 地下20~25kmに直径約100kmのクレーターの構造があるようです。地表にもそれなりの痕跡はありますが、明瞭なクレーターの構造はみられないようです。3年間以上かけて調査をしたそうです。2010年までは内陸部で野外調査をして、2011年には海岸沿いを調査したようです。
 その結果、クレーターの証拠として、磁気異常があること、変形はしているが丸い構造があること、割れ目のような構造が多数あること、砕かれた岩石が丸い地形の中心付近に広く分布していること、もともとあった花崗岩類が砕かれて溶けていること、さらにいろいろな鉱物で衝突の証拠が示されています。
 彼らは、衝突した天体が、直径30km以上の小惑星か彗星で、クレーターももともとは500~600kmほどあったとかもしれないと見積もっています。
 地下深部に存在することと古いことで、明瞭なクレーターの地形は残っていません。しかし、クレーターといってもいいような構造のみえる地質図が示されています。衝突の確実な証拠ではなさそうですが、それなりの根拠がありそうです。
 これがクレーターだったとして、30億年前のクレーターが見つかった意義は、どのようなものでしょうか。
 30億年前の時代にできたクレーターが残っていることは、非常にまれなことのはずです。なぜなら、そもそも30億年前の地層が、当時のまま現在まで残されている地域が、非常に限られています。そんな限られた地域にもクレーターの証拠があったとなれば、地表は隕石の衝突は、たびたび、そしていたるところにあったことになります。
 地球上の古いクレーターの数は少ないので、その頻度に対して結論はでませんが、月のクレーターをみると、40億年前から38億5000万年前の間に、激しい隕石の衝突(後期重爆撃)があったこと、地球の衝突スフェルールからは、34億7000万~32億3000万年前の間と26億3000万~24億9000万年前の間、21億~17億年前の間に何度かの衝突があったことがわかりました(本エッセイの1_105から107)。今回のクレーターは、約30億年前のもので、今まで見積もられていたデータとは一致しません。新たな衝突のピーク時期があったのか。たまたまその時期に一つだけ衝突があったのか。それともスフェルールからの推定が間違っているのか。いろいろな疑問が生じます。
 あまり、これといった意義はないような気がします。もしかすると、この論文は、過去の不確かさを伝えたことが、一番重要な意義だったかもしれませんね。

・不調・
今週は、土、日曜日をしっかりいつものように休んだのに、
なぜか月曜日の朝が起きられずに
1時間ほど寝過ごしました。
火曜日の明け方は激しい寝汗をかきました。
熱もなく、食欲も普通にあります。
でも、なんとなくボーっとしています。
どうも風邪にかかっているようです。
週末には学生と飲み会があります。
無理せずに休養しながら
日々を過ごして治しましょう。
教員は休めないのが辛いところです。

・師走に・
いよいよ今年も終わろうとしています。
しかし、まだ12月は2週間も残っています。
1年で考えると52週分の2週です。
まだまだ やりたいこと、
やれること、やるべきこと
があるはずです。
日々を疎かにしないこと。
こんなことを師走になると
いつも考えてしまいます。

2012年12月13日木曜日

1_109 最古のクレーター 1:最大・最古

 クレーターは、隕石が天体に衝突してできるものです。地球にできたクレーターは、大気や降雨、流水などの侵食、風化、さらには大地の運動によって、痕跡は薄れていきます。やがては、消えて行く運命なのでしょう。しかし、規模が大きなクレーターは、その痕跡を長くとどめます。

 太陽系で表面が硬い天体には、すべてクレーターが見つかっています。月や火星、金星、水星はもちろん、木星や土星の多数の衛星、ハレー彗星などにも見つかっています。小惑星であるイトカワにもクレーターがあることは、「はやぶさ」が撮影した写真がニュースに何度も放送されていたので、記憶にも残っていることでしょう。太陽系の天体では、ごく普通に隕石の衝突とクレーターの形成があったことを意味します。
 太陽系は、多数の小さな固体物質の形成からはじまり、それが集積して大きくなりながら成長してきたと考えられています。多数あった小さな天体が、大きな天体になるには、衝突・合体がありました。そこにはクレーターが形成されます。小天体は、最終的には大きい方の天体に吸収され、いくつかの少数の巨大天体へと成長していきます。集積、衝突、合体によって天体が成長してきたという誕生の歴史も、クレーターは物語っているのです。
 月は、地球からよく見える天体で、人類は古くから眺めてきました。望遠鏡でみるとクレーターが多数あることがわかります。そのため、人類は古くからクレーターを見ていたことになります。月には大気がなく、天体の内部の活動も誕生初期に停止しているので、古いクレーターが残っています。月の表面には、天体誕生の痕跡がそのまま残されているのです。
 地球にも、もちろんクレーターがあります。世界各地でクレーターは見つかっています。日本列島でもクレーターとされているものもありますが、地形的に明瞭で、だれもがクレーターとわかるものはありません。地球のクレーターの多くは、比較的新しい衝突で形成されたものです。地球では、大気の風化や降雨の侵食と、プレートテクトニクスや火山活動などの大地の営みによって、古い大地は更新され続けています。そのため、地球では古いクレーターは消えていく運命にあります。
 地球最古のクレーターは、南アフリカ共和国の中央部、フリーステイト州にあるフレデフォート・ドーム(Vredefort dome)と呼ばれるクレーターです。約20億2300万年前の衝突で形成されました。かなり古いクレーターですが、現在まで残っているのは、非常に大きかったためだと考えられています。現在、クレーターは、直径約50kmの中央ドームとその周囲に直径約190kmリング状の外輪山として残っています。もともとのドームは直径300kmもあったとされています。侵食で今のサイズになったとされていますが、このクレーターは世界最大となっています。
 アメリカ合衆国アリゾナ州にあるバリンジャー・クレーターは、非常に有名です。直径は約1.2から1.5km、深さ170mの規模ですが、クレーターらしい姿をしていて、観光地にもなっています。約5万年前にできた新しいクレーターで、地形が侵食されていないため、クレーターらしさをよく残しています。
 バリンジャー・クレーターと比べても、フレデフォート・ドームはとてつなく大きかったことがわかります。さらに比較的大地の営みが少ない安定大陸の真ん中にあったことも幸いしたのでしょう。大きなクレーターで大地の営みが激しくないところにあるものは、残りやすくなります。
 カナダのオンタリオ州にあるサドベリー・クレーターも18億5000万年前ものですが、直径62から30kmで、深さも15kmもあります。形成時には直径200から250kmの円形のクレーターだったと考えられています。サドベリー・クレーターも古い時代ですが、巨大だったので今まで残っていると考えられます。ちなみにサドベリー・クレーターは、地球上では二番目に大きなクレーターです。
 20億年前くらいが、地球でのクレーターが残る限界ではないかと考えられていたのですが、今年の夏、もっと古い(約30億年前)と考えられるクレーターが発見されました。次回、その詳細を紹介しましょう。

・3大衝突・
フレデフォート・ドームとサドベリー・クレーターは
メキシコのチクシュルーブ・クレーターを合わせて
3大衝突クレーターとされています。
本文でも紹介した2つのクレーターは古いものですが、
チクシュルーブ・クレーターは、
恐竜絶滅の原因とされている衝突よってきたもので、
白亜紀の終わりに形成されています。
他の2つに比べると新しいものです。
フレデフォート・ドームは世界遺産に登録されています。
地球の歴史上、重要なものであるためです。
しかし、紹介したクレーターは残されたものに過ぎず、
地球形成初期には、もっと大きな衝突やクレーターもあったはずです。
それを地球の営みが、消していったのです。

・ホワイトクリスマス・
北海道は11月下旬の初雪から、
ずっと雪が残っています。
12月になっても温かい日もありましたが、
その後、すぐに寒くなり雪がつもります。
もう根雪の様相となっています。
夏から秋にかけて暑い日が続きました。
その反動のように、寒い日が来たと思ったら、
一気に冬、そして根雪にまでなったようです。
いよいよ北海道はホワイトクリスマスとなりそうです。

2012年12月6日木曜日

6_106 不確定の破れ 3:検証


 不確定性原理には間違いがあり、小澤の不等式での表現のほうが確かになるということが、理論的に示されました。さらに続いて、実験による検証でも示されました。その実験は少々の「不確かさ」があるため、今後、さらなる「検証」が必要になりそうです。

 2003年の「小澤の不等式」の理論では、2つの測定で一方の精度を上げても、他方の誤差が際限なく大きくなることはなく、一定の範囲に留まるということが示されました。この「小澤の不等式」は、理論によって導かれた仮説にすぎません。仮説を検証するためには、実験が必要となります。その実験結果が、今回の報告になります。
 2012年1月15日のNature Physicsという科学雑誌の電子版に、
J. Erhart, S. Sponar, G. Sulyok, G. Badurek, M. Ozawa, and Y. Hasegawa
"Experimental demonstration of a universally valid error-disturbance uncertainty relation in spin measurements"(スピンの測定における普遍的に確実な誤差分布の不確定性関係の実験的検証)
という報告が発表されました。少々難解なタイトルで、中身もよくわかりません。
 スピンとは、素粒子の角運動量の特性のひとつで、磁場の影響を受けます。スピンの測定は、不連続でとびとびの値として観測されます。スピンの異なる方向の成分は、素粒子の位置と運動量に相当します。この2つの方向にも、不確定性原理の関係が生じます。
 エルハートたちは、原子炉から出てくる中性子のスピンの2つの方向を順に、2台の装置で精度よく測定しました。一方の成分の誤差を限りなくゼロに近づけると、不確定性原理の式では他方の成分の誤差は際限なく大きくなり発散するはずです。しかし実際の測定では、1.5ほどの値に収まっていて、無限に大きくはなりませんでした。両者をかけても、不確定性原理より小さな値になります。
 その結果は、不確定性原理で示されている誤差より、小さくできることを示したとなります。従来の不確定性原理は正しくなく、小澤の不等式のほうが正しいことを意味しています。
 小澤の不等式が正しいことが確かめられたら、位置や運動量の関係だけでなく、時間とエネルギーの関係でも不確定性原理が働くので、それも「破れている」可能性がでてきます。
 ただし、この実験が充分に正確かというと、必ずしもそうではなく、まだ「不確定性」が残されているようです。難しい実験は、さまざまな制約条件や誤差がつきまといます。ですから、エルハートたちの実験もひとつの結果、それも誤差の大きいものなので、別の装置、別の仕組みでの測定がなされていくべきでしょう。そして小澤の不等式が正しいかどうかを、再度、検証していく必要があります。
 もし小澤の不等式が正しいことが判明すれば、どんな世界が出現するのでしょうか。精度の不確実性が整理されたので、今まで諦めていた精度の新素材、新技術などのが発明できるかもしれません。いくつかの影響が考えられています。
 ひとつは、重力波の発見です。重力波は一般相対性理論でその存在が予言されているのですが、まだ見つかっていないものです。時空間のゆがみが、光速の波動として伝わる現象です。その歪みは非常に小さいので、検出限界が不確定性原理にかかるとされていました。今までは、根拠が不確かなまま実験が進められてきたのですが、今回の検証によって理論的根拠が確からしくなってきたわけです。重力波の検出が可能になるかもしれません。
 また、量子暗号の分野への影響もありそうです。まだ達成されていない技術なのですが、量子コンピュータのようなものができたとき、そのセキュリティにかかわる問題です。量子による暗号を送信したとき、盗聴されたしましょう。盗聴による測定がされたら、不確定性原理の制約があるため、盗聴の痕跡が検知できると従来はされていました。しかし、今回の検証によって、その限界が変わるかもしれません。もしそうなれば、セキュリティが高いと期待される量子暗号が、成立しなくなるかもしれません。もっと精度を上げる必要があるかもしれません。将来の技術にとって、非常に大きな影響を与えるかもしれません。まだできていない技術なので、今後の展開しだいでは、他の応用も生まれることでしょう。
 今回の成果は、基礎的な研究なので、他の分野の技術として社会還元されていくのは先の話になるでしょう。しかし、このような基礎科学がまったく新しい世界を生み出す可能性も秘めているのです。

・添削・
今、私たちの大学は、卒業研究の提出が間近に迫っています。
私のすべての空き時間が、
4年生への添削に費やされています。
「大変だったけれどもやっとできた」という
自分なりの達成感を持ってもらいたいと思っています。
苦労が大きいほど、努力が大きいほど
達成感は大きくなります。
卒業研究は、研究としての客観的な評価も重要かもしれませんが、
教育的な視点では、そのような評価が最優先ではないかもしれません。
私は、個人個人の達成感が一番重要だと思っています。
ですから、最後の最後まで、赤を入れ続けるのです。

・根雪・
北海道は雪模様ですが、
先日、温かい日があって、雨も降りました。
残っていた雪が少しは溶けたのですが、
雪が固まったところが、
スケートリンクのようにつるつるになりました。
非常に歩きづらく、転びそうで怖かったです。
こんな日が繰り返されながら
根雪へと進みます。
今年の初雪は遅かったのですが、
根雪は早そうです。

2012年11月29日木曜日

6_105 不確定の破れ 2:乱れ


 一見確固たる対象があったとしても、ごく微小な世界でみると、そこにさまざまな不確かさが紛れ込んでいます。観測による不確かさ、対象自身がもっている「乱れ」も不確かさを生みます。不確かさを正確に観測するということは、いろいろな困難、問題があるようです。

 ハイゼンベルクは、素粒子のような小さな物質では、位置と運動量を同時に観測しようとすると、ある一定量以下に誤差が下がらないことを示しました。どちらか一方を正確に測ろうとしたら、他方が不確かになっていくというものです。さらに観測は、実験系に影響を与えるという深刻な問題も提起しました。この観測者の影響は重要な概念であったので、大きな反響がありました。
 しかし、ハイゼンベルクの「不確定性原理」には、いくつかの課題もありました。
 ひとつは、量子力学では、素粒子の位置も運動量も「もともと決まっていない」という、ボーアたちの解釈(コペンハーゲン解釈とよばれるもの)があります。そもそも同時に正確に測ることなど、できないことだというのです。この解釈には、アインシュタインは強く反発をして、「もともと決まってるのだが、人間にはわからないだけだ」と考え、「隠れた変数理論」と呼ばれています。のちに「神はサイコロを振らない」(1926年12月にアインシュタインからマックス・ボルンに送られた手紙)とい有名な言葉となる批判をしました。
 解釈論争だけでなく、実際には、ハイゼンベルクの「不確定性原理」は仮説であり、厳密な証明がされないまま使われてきたという経緯もありました。さらにハイゼンベルクの不等式には間違いがあることは、以前から知られていました。実際には、測定装置による測定誤差と、観測によるエネルギー添加での生じる素粒子本体の誤差があるはずなのに、それが区別されないで表現されている点です。これは、ボーアらがすでに指摘していました。概念やその指摘している内容の重要性のみが、独り歩きしてきました。
 2003年、小澤正直(名古屋大学)さんによって、ハイゼンベルクの式の不備が理論的に改善され新たな不確定性原理である「小澤の不等式」が提唱されました。この不等式には、位置と運動量の誤差のほかに、測定前の位置と運動量における量子の「乱れ」が導入されています。不確実性には、測定するときに生じる誤差以外にも、素粒子のような小さいの物質がもっている量子的な状態がもっている不確さ、つまり「乱れ」(量子的乱れ)があります。その両者は区別して取り扱うべきであるというのです。
 小澤の不等式では、一方を精度よく測定しても(誤差が0に近づく)、他方が限りなく大きくなることはなく、一定の範囲に留まるというのです。小澤さんとの長谷川祐司(ウィーン工科大学)さんたちのグループが、精密な中性子観測実験で、これを実証したという報告をしました。それが、今回のテーマとしたものでした。

・改変・
学問は基礎的な部分になればなるほど、
改変は大きな衝撃をもって多くの科学者に届き、
多くの人の目に触れ、
チェックを受けることになるはずです。
ハイゼンベルクの「不確定性原理」の出現の時もそうでした。
ボーアやアインシュタインなど
当時の錚々たる科学者が
その内容を検討し、反論し、問題を指摘しました。
基礎的、根本的な理論になるほど
それが改変されることは稀で
「改変」のほうが間違いであることも多くなります。
「光より速いニュートリノ」もそうでした。
今回は少々違っています。
まず、従来から不備があったにものかかわず、
それを修正することなく
有耶無耶にして生き残ってきた理論だったことがあります。
さらに改変の手続は、まずは理論ありきでした。
つぎに実験による検証がなされました。
手順としてはもっとも堅実な歩みをしてきています。
その真偽の検証には時間がかかるはずです。
たとえ、現状で正しそうに見えても
やがて間違いが見つかるかもしれません。
この研究も、先の研究を破れを塗り替えるという
同じ道を歩んでいるからです。

・大荒れ・
北海道は、週の初めから、大荒れの天気が続いています。
私たちの街は、雪が毎日降っているだけで、
多少の交通障害はありましたが、
雪による大きなトラブルはありませんでした。
室蘭や新冠など噴火湾沿いでは、
停電や交通に大きな乱れがあったようです。
まるで真冬のような吹雪模様でした。
根雪にはまだ早いのですが真っ白な日が続ています。

2012年11月22日木曜日

6_104 不確定の破れ 1:観測


 不確定性原理とは、物理学における観測には限界があることを示しています。それ以上に、客観性や観測者の影響について考えるためにも重要なきっかけとなっています。最近、不確定性原理に破れがあるという報告がなされました。それを紹介しながら、不確定性について考えていきます。

 少々前の話しになるのですが、重要な研究成果が報告されました。現在の物理学、あるいは科学において、非常に根源的な問題に関する報告です。それは「不確定性原理」に関するものです。量子的な世界における論理的な方程式で表されたもので、観測の限界を示すものです。最先端の実験装置を用いておこなわれた観測なので、実証性の高いものです。報告も、2012年1月15日付の"Nature Physics"の電子版に掲載されました。権威ある科学雑誌なので、実験やデータの信頼性はあるものです。
 そもそも不確定性原理とはどういうものでしょうか。いくつかのバリエーションがあるのですが、1947年、ドイツの物理学者ハイゼンベルクによって、思考実験として提唱されたものです。
 素粒子のような小さな物質で、位置と運動量を同時に観測しようとしたときに生じる問題です。素粒子の位置を決めるためには、素粒子を見なければなりません。見るためには「光」が必要となります。正確に測るには、できるだけ波長の短い「光」でなければ誤差が大きくなります。素粒子は小さいので、光でも当たると、その影響で運動量が変わってしまいます。光の波長が短いほど、そのエネルギーが大きくなります。正確に測ろうとするほど、光の波長が短くなければならず、エネルギーも大きくなり、運動量の変化も大きくなります。逆に運動量を測るときも、正確を期するほど、位置の精度が不確かになるということが起こります。
 これは、素粒子の世界では、観測誤差をある量より下げることができないことを意味します。つまり、観測の精度には限界があるこということです。さらに、科学にとって、もっと深刻な事態を招くことになるかもしれないのです。
 そもそも実験や観測とは、研究者によってなされているものです。観測者の影響をなしに実験や観測ができるかということです。実験や観測の客観性が保証できるのかという問題提起です。
 観測者の関与しない実験や観測もあるでしょうが、観測者の影響を与えるものもあるはずです。実験や観測は、基本的に観測者の影響は「ないはず」とみなして、データを集めています。繰り返し実験を行なったとき、明らかにおかしなデータがでてきたら、原因不明でもそのデータはとり除いてしまいます。実験システムで、おかしなデータは取り除くようなプログラムがなされていたら、たびたび出てくるデータがあっても、無視されているかもしれません。あるいは、プログラムのデータの取り除き規制を強くすれば、恣意的なデータを集めていることになるかもしれません。そんなデータでも多数集めると、統計上は、正しさを保証しているように見えます。もしそのデータが稀にしか起こらない現象を捉えていたとしたら、どうなるでしょうか。
 深く考えると、なかなか大変な問題です。科学の根本的な問題ともいえます。不確定性原理ではハイゼンベルクの誤解あったことがわかっています。紹介する報告では、限界を超えた測定が可能であることを示しています。そ内容は次回としましょう。

・貴重な経験の場・
大学は、来年度に向けて入試が
もうスタートしています。
AO入試は夏からすでにはじまっており、
もう合格発表も終わっています。
今週末から推薦入試がはじまります。
一般入試についで受験者が多い入試なので、
大学では、教職員が総出で対応します。
受かる人もいれば、落ちる人もいます。
悲喜こもごもですが、
人生にはそんな勝負の時期も
必要なのかもしれません。
ただ、若者にとって受験戦争がないのは
いいことなのでしょう。
しかし、最大限の努力、その努力が報われない挫折を
味合わなければならないときもあること。
周りの同世代の中で自分の置かれている位置を知ること。
そんな精一杯の自分実力、能力が
社会にどの程度通用するのかを
教えてくれてもいたのかもしれません。
そんな競争を経験しない受験生もいいます。
大学全入時代の若者は、幸せかもしれませんが、
貴重な経験の場もなくしてしまったかもしれませんね。

・冬到来・
北海道は一気に冬になりました。
週末から雪に一気に降り積もり、寒波襲来です。
ただし、札幌気象台観測史上、
3番目に遅い初雪の記録だそうです。
戦後ではもっとも遅い初雪だそうです。
その後も、寒気が居座り、寒い日々が続いています。
地域のよっては、雪で列車が遅れも出ています。
今年は、夏も長く、秋もそれほど寒くなかったのですが、
冬は少々遅れましたが、
寒さはしっかりときたようです。

2012年11月15日木曜日

6_103 評価と徒労感


 日本はいろいろな面で制度疲労が起きている気がします。研究の世界でも、研究の評価システムが導入されていて、それに追われています。評価システムが研究の成果公開を促してることは事実です。その影では、研究者の大きな徒労感が漂っています。それを憂いて日本学術会議が提言を出しました。

 このエッセイの読者の中には、研究者の方もおられると思います。そして、国公立の教育研究機関におられるかた、特に理系の方々は、日々何かに追われている気がしませんか。日々研究自体に追われているのは、健全な状態と思いますが、それ以外の何かかに追われていませんか。研究の本来の成果とは違う、「業績数」や「業績評価」、「社会貢献度」などのような得体のしれないものに、日々追い回されている気がします。
 毎年、業績を申告するとき、一喜一憂していませんか。順調に研究が進んでいるときはいいでしょう。しかし、上手くいかない時もあるはずです。そんな年の業績報告はつらいものです。でも、業績数と研究の進捗と、あるいは成果と満足感が、本当に一致するのでしょうか。
 有能な研究者のところには、学生や院生が多数いて、研究費も多く得られ、彼らを動員して研究業績を増やしている研究者も多々います。業績が増えれば研究費が増え、そして学生も増える、という好循環をうんでいるように見えます。そのような研究方法もありでしょう。
 大きな予算で行う研究もあるでしょうが、多くの研究者は、個人の興味に基づく個人規模の研究に従事しています。これが大多数の研究者の姿のはずです。ひとりの研究者として、自分自身の興味や好奇心にもとづいて、自分でその答えを得るという喜びが基本ではないでしょうか。
 研究なんて、見通しが違ったり、失敗のこともあるでしょう。そんな一年もあるでしょう。同じような努力や熱意を持って研究を進めても、うまくいかに時もあるはずです。ところが、研究室や研究費が多くなるほど失敗は許されない状況に追い込まれます。代表者たるもの、その心労は大きなものとなります。
 さらにいえば、研究の評価は、掲載された雑誌のレベル、他の研究者がどれだけ引用するか、などに基づいて数値化されています。自分が面白いと思って取り組んだ研究に、だれも注目しなければ、どんなに先見性があっても、評価を受けないでしょう。したがって、どうしても評価を受けそうな「今はやり」テーマを中心にして、要領よく研究しようという風潮が生まれます。今やそれこそが現在の研究の正しいありかたと思っていないでしょか。地球温暖化、iPS細胞しかり、地震・津波の研究もしかりです。
 日本学術会議が10月26日に「我が国の研究評価システムの在り方」という提言を公開しました。そこで、若手の研究者が評価に大きな負担を感じていることを指摘して、その改善を求めています。研究の評価システムは必要ですが、その評価システム自体が、研究者の徒労感を生んでいるといっています。私も同感です。
 そもそも評価システムは、かつて国家予算を使っている研究者が何をしているのかわからない「象牙の塔」になっていたため、研究成果の公平な評価が必要とされました。科学技術基本法(1995年)を受けて、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法のあり方についての大綱的指針」(1997年)ができ、研究の評価システムが導入されました。
 この制度は一定の成果を上げたと思います。ところが現在では、必要以上に評価が重んじられている気がします。評価を考えるあまり、個人のレベルでの好奇心の基づく研究、息の長い研究などを捨てているように思います。評価システムへの過剰な対応が、研究の健全性を失わせている気がします。
 もしかすると、このような徒労感、閉塞感は、研究者だけでなく、背景は違っているでしょうが、日本のいろいろな社会、階層、業種で起こっていることなのかもしれません。少々、日本の将来が心配になりますが、老婆心でしょうか。

・私の不健全さ・
私のいるのは私学の文系大学です。
ですから私のような理系の研究者は少々異質です。
しかし、自分の存在理由を示し、
自分自身で確認、確保するために、
毎年決まった成果を出すことを
自分に義務付けています。
途中経過でもいいから一定の基準になったら
それを公開するようにしています。
ですから、論文ネタというべきもものを
いくつも抱えています。
実は下書きレベルですが、
論文の粗稿を2、3編もっています。
1年間の研究休暇の間に書き溜めたものです。
定期的に論文が書けなかった時の非常用です。
でも、これって非常に不健全ではないでしょうか。
定期的に成果を出すことが第一義になっていて、
研究することが二の次になっています。
研究して成果が出たら報告するというのが
健全な研究パターンのはずです。
反省を兼ねてこのエッセイを書いたのですが、
論文を定期的に公表することが
今の私の研究動機になリ下がっています。
私の研究の状態は明らかに
業績中心の不健全なものになっています。
いかがなものか、悩ましいいです。

・気の緩みに注意・
私の町では、天気がいいと雪虫がいっぱい飛び交い、
秋も終わり冬も近くなってきました。
ところが、冷え込みがそれほどではありません。
雨も温かいものです。
気圧配置で一気に冬になってしまうので、
気を抜かないようにしないといけません。
長男が研修から帰国した翌日
風邪で寝込んでしまいました。
これは気の緩みでしょう。
我が家は長男の風邪菌が蔓延しているので、
体調には注意です。

2012年11月8日木曜日

2_111 ウイルス 3:関係の有無


 ウイルスと他の生物の系統上の違いは、それほど大きくかけ離れているものではないようです。他の生物内にみられる違いよりは少ないほどのようです。ただし、ウイルスと他の生物との系統関係を論じるには、いくつかの課題もあるようですが。

 2012年8月24日にナシャーたちは、「巨大ウイルスは細胞を持つ祖先と共存していて、古細菌、細菌、真核生物などのグループとともに一つの別のグループをなしていた」という論文を発表しました。ウイルスは、すべての生物と共通の祖先から進化してきたことになるということを報告したものです。
 生物の系統関係は、DNAの塩基配列を比較することが通常の調べ方です。今回、ナシャーたちは、タンパク質を大規模に比較する方法を用いて検討して、系統樹を再構築しました。もちろん、分析したタンパク質は、ウイルスや他の生物も共通してもっているものです。系統解析したのは、ウイルスとバクテリア、古細菌、真核生物です。まあ、すべてのドメインの生物に対しておこなったということです。
 実は、私には、論文に示された系統解析の図の見方がよくわかりません。論文では、いくつかの図が示されていますが、それらの図から類推すると、ウイルスは、やはりバクテリア、古細菌、真核生物とはかなり違っているようです。
 ある図では、ウイルスを根っこ(root)とすると、そこから古細菌につながり、そしてバクテリアと真核生物に分かれるという系統樹が示されています。また別の図では、やはりウイルスは古細菌に一番近縁のようですが、ウイルスと古細菌の違いは、真核生物と古細菌の違いほどのようです。見ようによれば真核生物内の違い大きくは、古細菌とウイルスの違い以上にありそうです。
 もしこの研究結果が本当であるならば、ウイルスは生物の仲間になります。現生の生物とは分子レベルでみると結構違っているようですが、その違いは、生物のドメイン間の違いやドメイン内の違いよ大きくはなさそうです。
 さらに、もしかするとウイルスが生物のより祖先に近いのかもしれません。そうなると、ウイルスは生命誕生の謎を秘めているかもしれません。
 ただし、いくつかの疑問もあります。
 そもそも系統関係がない生物で系統解析ができるのか。できるとしたら、共通するなんらかのタンパク質があるということになり、すでに生物として系統関係があることが判明しているのではないか。
 ウイルスは、生存戦略として寄生という仕組みをとっていますので、不要な機能は極力排除、捨てていく方向で進化しています。DNAがやタンパク質でも同じことが起こっているはずです。となると、そもそも「間引かれたタンパク質」による系統解析を適用していいのかという疑問があります。するにしても、消えた情報をどう補って比較するのかという疑問があります。
 もし従来通り、ウイルスは生物でも無生物でもないと所属不明の存在と考えるなら、ウイルスと生物の進化上の関係は、解けない謎となります。でも、今回の研究をもとに「関係あり」として進めば、ウイルスの誕生の謎を解き明かすことできるかもしれません。そんな可能性を感じさせてくれる研究でした。今後の展開が期待できるのですが、生物学ではあまり注目されていないのは、なぜでしょうか。

・学問の限界・
ウイスルを生物でないといっているのは、生物学者です。
ウイスルを調べているのも、生物学者です。
ウイルスを生物として調べているのも生物学者です。
今回のウイルスは生物と
密接な系統関係があるとしたのも、生物学者です。
こうしてみると、生物学界内の意見の不統一が
外部に漏れてきているにすぎないのかもしれません。
ウイルスという実在のものが、
生物か無生物かすらわからないのは、
あまりに生物学が非力にみえます。
なにも生物学だけに限ったものではありません。
学問全体が同様の限界をもっています。
今回のような究極の生物?ウイルスは、
その学問の限界を見るために
いい話題なのかもしれません。

・秋深し・
北海道はここしばらく冷え込みも一段落です。
ただし、自宅はもう冬モードになっているので、
室内のストーブは温度設定をして
つけっぱなしです。
20度を下回ると自動的に点火するようになっています。
ですから、自宅内では寒さを感じることはないのですが、
着込んでさえいれば外部もそれほど寒くありません。
次男は、自宅で温かいとすぐに裸足、半袖になってしまいます。
そのまま学校にいってしまうので風邪をひかないか心配ですが、
今のところ大丈夫のようです。
秋は深まっているのですが、
里の雪はもう少し先のようです。
次男にも冬はまだまだのようです。

2012年11月1日木曜日

2_110 ウイルス 2:共通祖先


 ウイルスが生物であるという報告が、今年8月に出されました。その結果を、私は衝撃をもって受け取りました。しかし、生物学界の方では、それほど反響が聞こえてきません。なぜでしょうか。まあ、そんな疑問はさておき、報告をみてきましょう。まずは、タイトルからはじめましょう。
<hr>
 私は、ウイルスは生物だと考えています。なぜなら、ウイルスは、生物学の範疇で扱われているし、生物との比較なくしては語れないからです。少なくとも無生物としては、決して扱えない存在だからです。
 生物学では、ウイルスは、「生物と無生物の中間的な存在」とされています。つまり、生物と認めたくない、という主張が見え隠れしています。実際、ウイルスは、前回も紹介しましたが、さまざまな点で生物と大きく違っています。
 ウイルスは、タンパク質と核酸だけで構成されています。核酸は、生物ではDNAとRNAの両方をもっているのですが、ウイルスは、どちらかしか持っていません。ウイルスは、単独でいるときは、生命活動をほとんどしません。他の生物(宿主とよびます)の細胞に入った時のみ、増殖していきます。ただし、自身では材料も用意することなく、エネルギーもつくることなく、すべて宿主の細胞の機能を利用しています。
 生物としての営みを極力排除して、遺伝情報のみをもち、それ以外の機能はすべて宿主のものを利用しています。この生存戦略が一番の違いといえます。生命活動をしていない点を重視する人は、ウイルスは生物ではないと主張します。
 もし、生物とウイルスが進化のどこかの段階で関係が判明すれば、ウイルスが生物であるという重要な根拠となります。その関係とは、生物からウイルスが派生した、ウイルスから生物が派生した、共通の祖先となる生物から派生した、という3つの可能性が考えられます。
 2012年8月24日にナシャーたち(Arshan Nasir, Kyung Mo Kim and Gustavo Caetano-Anolles)が、次のような報告をしました。
"Giant viruses coexisted with the cellular ancestors and represent a distinct supergroup along with superkingdoms Archaea, Bacteria and Eukarya"
 訳すると、「巨大ウイルスは細胞を持つ祖先と共存していて、古細菌、細菌、真核生物などのグループとともに一つの別のグループをなしていた」となります。つまり、ウイルスは、すべての生物と共通の祖先から進化してきたことになるという報告です。
 これは上で述べた、ウイルスが生物を決定づける可能性の3番目のものを発見したこと意味しています。
 もしこの報告が本当であれば、ウイルスは生物だ、もしくは生物であった、ということになります。さてさて、本当のところは、どうなるでしょうか。

・紅葉・
北海道では、秋が里に降りてきました。
里の木々は、一気に紅葉が進み、
葉を落としています。
ある講義で、落ち葉を拾ってしようするので、
雨がふらなければ、絶好の時期となります。
そんな天気になればいいのです。
こればかりは、どうしようもありません。

・Monolog・
次回、論文をもう少し詳しく紹介する予定です。
もしこの報告が本当であれば、
ウイルスを生物扱いすべきだ
という主張が通りやすくなります。
そしてなにより、生物学を
より広いものにしていく可能性が生まれてきます。
詳しくは、別のエッセイで紹介しました。
興味ある方は
Monologの
http://terra.sgu.ac.jp/monolog/2012/130.htm
で見てください。

2012年10月25日木曜日

2_109 ウイルス 1:生物とは

 ウイルスは生物だろうか。それとも生物ではない、他のなにかなのか。これは、結構、悩ましい問題です。それに関する論文が、夏に出ました。発表からしばらくたってしまっているのですが、それを紹介しながら、生物と無生物の境界について考えていきましょう。

 ウイルス(virus)は、ラテン語を由来としていて、「毒液」や「粘液」という意味をもっていました。古代ギリシアの「医学の父」とも呼ばれるヒポクラテスは、病気を引き起こす毒という意味で用いたそうです。かつて、日本では「病毒」と訳されたことがあるそうです。
 ヴィールス(ビールス)とも発音されることがあります。ヴィールスはドイツ語の発音ですので、どちらも間違いではないのですが、今では、ラテン語発音に近い「ウイルス」が採用されています。
 生物としての活動を満たさず、生物らしくもなく、無生物とも呼べない生物らしさもあります。現状の生物の扱いも、高校の生物の図録資料集をみると、「生物と無生物の中間的な存在」と書かれています。無生物ではなく、「非生物」と呼ばれることもあります。
 考え方によって、どちらにでもなるような存在のようです。
 生物は、一つの入れ物の中で、遺伝情報としてDNAに持ち、その情報をRNAが運び、タンパク質を形成します。タンパク質が代謝という生物の営みをします。営みの結果として、自分の分身を生み出し、増殖していくことを目標としています。まれに増殖時に変異がおき、変異の積み重さなることで、元とは違った生物への進化していくことも、生物の営みのひとつに組み込まれています。
 生物の定義を、生物学の用語でいうと、個体、代謝、複製、進化という4つのキーワードに収斂できます。言葉にすると簡潔に述べることができる生物の定義なのですが、現実には、そう単純にはいかないようです。
 階層の違っている概念を生物の定義としていることに、矛盾を生む要因があるのかもしれません。細胞という単位で示される個体は、代謝と複製の場、あるいはその環境を提供するものです。代謝と複写にはDNAやRNAが関与します。進化は、DNAを介在しながら、長期にわたる変化の累積の結果です。
 生物の定義には、時空間において、概念やスケールの違うものが混在しています。階層の違う時空を、DNAが介在しています。そのようなスケールの違いが、混乱を生み出しているのでしょう。
 ウイルスは、DNAあるいはRNAをもち、他の生物の代謝機能を用いて増殖していくという戦略をとっています。自身は、生物としての機能の一部しかもっていません。大きさも最小限にしています。それを生物と呼んでいいのでしょうか。それが今回のテーマです。
 今年の夏に、このテーマに関す論文が発表されました。その内容を紹介しながら、考えていきたいと思っています。

・切り替え・
北海道、札幌では、
教員採用試験の結果がでました。
そこには、悲喜こもごもの思いが渦巻きます。
現役で受かった人は、喜びとともに
今後の自信へのゆらぎあるでしょう。
臨時採用で頑張っていた人は、
喜びとともに
来年の赴任地への思いが飛んでいるでしょうか。
ダメだった人は、
今後の自分の進路の再考をするでしょうか。
気持ちを切り替えて来年の採用試験に向かうでしょう。
出てきた結果は、もう変わりません。
素直に受け入れて、
次のステップに心を向けなければなりません。
そんな、切り替えを期待します。

・冬支度・
北海道では、初雪があちこちの山で観測されました。
先日、通勤時に毎日眺めている手稲の山並みに
白い冠雪がみられました。
自宅でもはじめてストーブをたきました。
例年より遅いか早いのか、わかりません。
今年の夏が、遅くまで暑かったため、
秋の訪れが、早く、短く感じます。
各地の植栽には、冬囲いがはじまりました。
そろそろ冬支度ですね。
しかし、次男はストーブをたいたら
半袖のTシャツになっていました。
まだ、次男の夏は終わっていないのでしょうか

2012年10月18日木曜日

4_108 羽越調査 5:有耶無耶


(2012.10.18)
 9月におこなった調査のシリーズは、今回で終わりにします。今回は、羽前と羽後の国境にある関(せき)の話です。関ができたのは、地形的に険しいところだからです。その険しさは、火山活動でした。シリーズの最後は少々「うやむや」になります。


 富山、長野、新潟、山形、秋田へとたどった野外調査の最後は、鳥海山にしていました。ただし、鳥海山に向かう前に、一箇所いってみたところがありました。ある史跡でした。
 日本海側の昔の国名でいうと羽前(山形県)と羽後(秋田県)の国境(くにざかい)にあり、三崎(みさき)山があります。南の不堂崎から大師崎そして観音崎まので3つの三崎があるので、三崎山と呼ばれています。三崎山は、鳥海山から流れた火山噴出物からできています。海岸は、日本海の荒波で侵食を受け、切り立った断崖になっています。
 海岸は断崖絶壁が連なり険しく、山間を通る三崎峠は、「馬も通れない」ほどの険しい難所とされていました。
 地形的に険しいところは、通れるところが限られるため、交通路の要や戦略的にも重要な地となります。9世紀頃、対立する蝦夷(えぞ)の侵入を防ぐために関がつくられていたようです。
 今回行きたかった史跡は、「有耶無耶(うやむや)の関」と呼ばれているところです。「うやむや」とは、はっきりしない、あいまいな、という意味です。「有耶無耶」の由来は、「うやむや」ではっきりしていないようですが、「有耶無耶」はもともと「有りや無しや」とよんだものを、「うやむや」と音読みしたという説もあります。語源も有耶無耶です。
 実はもうひとつ「有耶無耶の関」とされているところがあります。陸前(宮城県)と羽前(秋田県)の国境であった笹谷(ささや)峠のあたりにあったとされるものです。候補も2つあり、うやむやです。
 今回いったのは、山形県と秋田県の県境、三崎峠付近の関のあとになります。現在は国道脇のパーキングエリアに「奥の細道」や関の跡と示す看板がありました。しかし、それだけで何もありません。
 小高い丘を登る小道があったので、登ってみたのですが、すぐ下ってしまい何もないところでした。そこから少し歩くと、日本海の見える断崖にでました。すぐ脇には展望台もあり、雄大な日本海がみえました。でも、それだけで、なにもないところでした。
 有耶無耶の関があまりになにもないところなので、どこかにあるのだろうか不安になりました。歩いて旅行されている方が、展望台にいました。もしかした知っているかもしれないと思い、彼に聞いたら、ここが有耶無耶の関であるということも、ご存知ありませんでした。どこが有耶無耶の関なのかも、うやむやでした。
 パーキングエリアに看板だけがある史跡で、ほんとうに有耶無耶なところか思ってしいました。帰ってきてから案内図を写した写真をみて、気づいたのですが、旧道をさらにいったところに関のあとがあるようです。それを知らずにいました。
 その時私は、旅の最後が有耶無耶にならないように、最後の目的地である鳥海山に車を向けました。

・入試シーズン・
大学は来年度の入学に向けて
いろいろな動きが活発になってきました。
私立大学は国公立と比べて早めに動きます。
AO入試はすでにはじまっていて、
10月下旬にその合否の結果が発表されます。
11月には推薦入試の募集がスタートします。
そうなるといよいよ入試シーズンが
本格化してきます。
もちろん教員はそれに駆り出されます。

・それぞれの秋・
全国的に今年の夏から秋の暑さは
例年にないものでした。
9月下旬から10月にかけて
北海道では一気に秋が深まってきました。
ひと雨ごとに、朝夕の冷え込みが強くなっていきます。
自宅内でも一枚羽織らなければ肌寒さを感じます。
ストーブの使用もそろそろかもしれません。
紅葉は少々遅れているようですが、
秋の深まりを感じさせる日々が続きます。
しかしなぜか、うちの次男は
Tシャツ一枚で今も過ごしています。
家内からいわれて、
学校への行き帰りはヤッケを羽織っているようですが。
次男の夏はまだ終わっていないようです。

2012年10月11日木曜日

4_107 羽越調査 4:光輪

 秋の調査の最終目的地は、鳥海山でした。鳥海山は大きな山で、いろいろな地質学的見所があるのですが、今回は、ちょっと眺めるだけで、小手調べのようなものです。でも幸運なことに、ほんと束の間、雲が切れて山頂を眺めることができます。そして、もうひとつ、いいことが・・・


 秋の調査の終わりに、鳥海山を目指しました。鳥海山は、山形と秋田の県境にある大きな火山です。何度かの噴火の記録があり、1974年3月から5月にかけては噴気を出したことがあるので、活火山に分類されています。
 現在は、無料になった鳥海ブルーラインを使えば、海抜0mの海沿いの国道から、標高1100mまで一気に登ることができます。
 蒸し暑い残暑の残る9月でしたが、平日のせいもあり、交通量の少ないブルーラインを登って、5合目の鉾立(ほこたて)につきました。鉾立で鳥海山を見ることにしたのですが、周辺は晴れているのですが、山頂付近だけ雲がかかっていました。展望台でガスのかかった奈曽渓谷をみていました。それはそれで幻想的ではあったのですが、ブロッケン現象が起きました。
 背後に太陽があり、自分の影が霧などにできることです。そのとき、影の周辺の霧の水滴によって光が散乱され、影の周りに虹の輪ができます。そのような影と虹が織りなす現象を、ブロッケン現象と呼んでいます。日本では、光輪とか御光(ごこう)、御来迎(ごらいごう)などと呼ばれてています。
 ブロッケン現象ができる条件は、太陽と自分と雲が一直線に並ばなければなりません。平地でも、早朝に霧が出ていると、見えることがありますが、なかなか起きない現象です。高山や飛行機に乗ったときに、条件さえ良ければ見ることができます。まあ、現在では飛行機にのったり、高山に車で上がることが簡単にできるようになりましたので、見える機会は増えたはずです。しかし、常に起こる現象でもないので、珍しい現象であることには変わりありません。
 自分の姿を写す影が虹に彩られる現象は、やはり御光や光輪という呼び名がふさわしいように思えます。手を振れば影も周りの虹も手を振ります。不思議な現象です。
 鳥海山ブルーラインを登りはじめたのは、午後3時を過ぎていました。その日は晴れていたのですが、鳥海山の山頂には、雲がいつもかかっている状態でした。ですから、今回の調査では、鳥海山の山頂を見ていませんでした。うまく雲が切れれば山頂が見えるかもしれない、だめでもともとのつもりでブルーラインを進みました。
 交通量が少なく、緑も多かったので、非常に快適なドライブでした。5合目の展望台についてから眺めても、山頂には雲がかかっていました。ブロッケンが起きたあとしばらくしたら、山頂の雲も晴れました。非常に幸運でした。

・虹・
ブロッケン現象でみえる虹色と
本来の虹とは、厳密には違っています。
虹は、水滴によって、光が屈折と内部反射されてできます。
ブロッケン現象は、雨の粒よりもっと小さいな水滴である
霧による散乱でできるものです。
と原理は紹介できますが、
その不思議さはいずれも同じでしょう。
そして見た時の感動も同じようなものです。
ただし、ブロッケン現象は自分が中心になっています。

・不運・
鳥海山についていはのは、
夕方近い時刻だったので、
山頂や周辺を散策する時間はありませんでした。
1000m以上も高いところだった鳥海山5合目は
涼しかったのですが、
当日宿泊予定のにかほ市象潟(きさかた)は、
海沿いにあり蒸し暑かったです。
これは不運でしょうか。
まあ、思い出はいい方だけ残るので
いいのかもしれません。

・いつも忙しい・
大学は大学祭もおわり、
学生たちも落ち着きを取り戻したようです。
1、2年生の学生にとっては、
12月まで大きな行事もなく、淡々と講義が進みます。
ただし、4年生の就職の決まっていない人は就活を
3年生は12月から就活が本格化してきます。
教員採用試験を受けた人は、
これから結果がでてきます。
大学は、AO入試や推薦入試など、
来年度の入試がもうスタートしています。
一見淡々としたようにみえても、
よくよく考えると、慌ただしいことが
水面下では起こっているのです。
まあ、いつも忙しいということでしょうか。

2012年10月4日木曜日

4_106 羽越調査 3:安房峠

 飛騨から信濃に抜ける道は、古くから生活道として使われていました。大正時代からは観光道路として重要性が増し、昭和には峠道が整備されました。平成になってトンネルができました。そんな安房峠とトンネルについて考えました。


 今回は安房峠を通ろうかどうか迷いました。地元の人に聞くと、細い道でほとんど車が通らないから現状は知らないといっていました。まあ、通れることできるようなので、予鈴通り通っても良かったのですが、眺めたい山には雲がかかっていたので、眺望はなさそうなので、目的地を上高地に変えました。
その時、峠とトンネルについて考えてました。
 安房峠とは、長野県松本市と岐阜県高山市との間にあり、国道158号が通っています。飛騨山脈の南に位置して、アカンダナ山と安房山の鞍部にあたり、標高は1790mもあります。このような山深いところの峠ですから、冬期間は通行止めになります。
 岐阜県と長野県の交通の要所でもあり、交通量の多い国道だったのですが、ヘアピンカームも多数あり、大型車が通るときは、切り返しが必要になり、交通渋滞を起こしていました。観光客の多い時期には、通過に5時間以上のかかっていたといいます。
 1997年12月、安房峠の下に安房トンネルができ、冬季も通行が可能になり、渋滞も解消されました。安房トンネルを通れば、5分で向こう側に行くことができました。かつての渋滞は嘘のように消え、峠道は静かになりました。
 このトンネルは、焼岳(やきだけ)火山の下を通過します。もちろん、マグマの中を掘るわけではないのですが、高温の部分を通過します。ですから、かなり危険な工事でもありました。細心の注意がはらわれ、トンネル工事は無事終わりました。
 国道への新しい道路の取付工事中に水蒸気爆発が起こり、4名の作業員がなくなっています。またトンネル工事の影響で雪崩や土砂崩れも起こり、ルートの変更や旅館の移転もされました。
 私は岐阜から向かいましたが、その日の宿泊は、松本側の旧道をトンネルから少し戻ったところにある中の湯温泉旅館でした。移転した旅館は、この中の湯温泉旅館でした。安房トンネルも安房峠も通りたいし、安房トンネルは有料なので2度も通るつもりはありません。なかなか難しい選択です。最終的に、トンネルを3度通ることになりました。
 実際には、岐阜の安房トンネルの入り口にあたる平湯温泉の駐車場にレンタカーを止め、そこからバスで上高地に向かいました。バスで上高地を往復することになるので、安房トンネルを2回通ることになりました。
 ご存知のように上高地はマイカーの乗り入れた禁止なので、公共の交通機関で行くしかありません。9月上旬だったので、夏休みも終わり、紅葉にも早い時期だったので、バスも数人乗っているだけで、のんびりと行き来できました。
 上高地で岳沢を見たあと、バスで岐阜側にもどり、レンタカーで自分の運転で安房トンネルを通りました。トンネルは、その掘削には地質の影響を受けるので、地質学者の興味をひきます。しかし、トンネルが出来ると、交通量の多いトンネルはコンクリートしかなく、車の流れに乗っかているだけで、その背景を感じる余裕がありませんでした。少々時間がかかっても、峠道を通ったほうがよかったのかな。後悔先に立たずですね。

・焼岳・
岐阜の新穂高温泉にいき、
長野の中の湯温泉旅館にいったのは、
焼岳を見るためでした。
焼岳は、活火山です。
現在は一部が登山可能ですが、
北峰は登頂はできますが、
南峰は崩落等で危険なため立ち入り禁止になっています。
中の湯温泉旅館は焼岳の登山口にあるので、
止まっている方の何割かは、登山客でした。
泊まった翌日、雨だったのですが、
いけるところまでいくという登山も客いました。
私は、見るだけでいいのです。

・上高地・
上高地にいくのは2度目でした。
最初は上高地に宿泊して、
2日間散策して堪能しました。
でも、もし天気がよくて
峠を通ることになっていたら、
上高地は行かなかったはずです。
天気がもう一つでしたが、
一時期だけ、雲が切れ岳沢がみえました。
やはり大きな山は迫力があります。
その谷あいをぬって流れる梓川もきれいで素晴らしいです。
そのヨーロッパのような景観を持った上高地に
観光客が多いのもうなずけます。
チャンスがあれば、紅葉に時期にいきたいものです。

2012年9月27日木曜日

4_105 羽越調査 2:カミオカンデ

 越中(富山)は、安房峠を通り信州へいくための通り道でした。札幌からは富山空港からいくのが便利だなので、昼の便だったので焼岳に行くには遅いので一泊をするつもりでした。一泊を観光地ではない神岡でしました。その理由は、・・・・。


 羽越調査の初日は、富山空港に昼過ぎの到着だったので、目的地(焼岳)の近くの神岡までいき宿泊しました。
 神岡は古くから(奈良時代)からあった鉱山で、明治初期から2001年まで、三井金属鉱業株式会社が採掘していました。神岡鉱山として有名でした。
 この地域の地質は、飛騨の変成岩(片麻岩)と花崗岩(船津花崗岩、約1億8000万年前)、その上を手取層群(1億年前ころ)が覆っています。変成岩の中の石灰岩に花崗岩マグマが貫入した時に鉱床(スカルン型)ができました。鉱床は閃亜鉛鉱と方鉛鉱を主としたもので、亜鉛、鉛、銀などが採掘されていました。
 神岡鉱山の跡地の地下1000mに、ニュートリノを観測するためのカミオカンデが設置され、神岡は有名になりました。カミオカンデは、地下深部に陽子の崩壊によるニュートリノを観測するための巨大な装置です。
 神岡鉱山は、地下深部の丈夫な岩盤の中にあります。1000m分の岩石がカミオカンデの上をカバーしているので、「雑音」が少なくニュートリノ観測には適しています。また、大量の水をタンクにいれるのですが、きれいない水があることもカミオカンデ設置にむいていました。
 大量の水をタンクに貯め、タンクの壁には特殊な光電子増倍管が1000本も設置されています。ほとんど反応をしないニュートリノですが、まれに物質と反応することがあります。その反応は、水分子中の電子に衝突したとき、青白い光(チェレンコフ光)が発生します。その儚(はかな)い「かすか」な光を、光電子増倍管で検出する装置です。水の量が多いほど感知能力は高くなります。
 カミオカンデは、宇宙からくるニュートリノを観測するので、1987年偶然起こった超新星爆発によって飛び出した大量のニュートリノを観測しました。その結果、カミオカンデには、ニュートリノ望遠鏡としての機能もあることがわかりました。今では、望遠鏡の機能やニュートリノ性質についての研究も重視されています。
 カミオカンデ設立の中心となった小柴昌俊さんは、超新星爆発の観測の業績が評価されてノーベル物理学賞を受賞しました。
 現在、そのカミオカンデは役割を終えて、新たに(1996年から)スーパーカミオカンデが動きだしました。カミオカンデの跡地には、別の目的の研究施設ができています。
 一般公開は7月に行われているようですが、それ以外は研究する人しか入れません。近くの道の駅の「宙(スカイ)ドーム」で、カミオカンデの紹介がされています。そこに光電子増倍管の実物も展示されていました。テレビやホームページで施設や光電子増倍管を見たことがあるのですが、実物の光電子増倍管をみることができました。通り道だったのですが、あえてここに宿泊することによってカミオカンデを「かすか」にですが、体験することができてよかったです。

・超新星爆発・
カミオカンデがとらえた超新星爆発(SN1987A)は、
1987年2月23日にみつかりました。
私がニュージランドにいるときに報道されました。
そのとき同行した友人が天文マニアだったので、
超新星爆発の位置がわかり、
写真をとることができました。
超新星爆発は大マゼラン星雲でおきたものでした。
大マゼラン星雲は南半球でみえる星座なので
非常に幸運でした。
山奥の山頂で光害のない澄んだ空気のなかで
見ることができました。

・過疎・
富山空港から安房トンネル方面に向かいました。
ですから富山にいるつもりが、
神岡に向かう途中で岐阜県飛騨市になりました。
泊まったのビジネスホテルで、
早めに着いたので管理人のひとと
いろいろな話しました。
鉱山町で過疎が進んでいるとのことです。
田舎にいくといつもこの話が出ます。
しかし、神岡は鉱山町として発展して
三井が設立した神岡高等鉱山学校や病院もあったほどです。
しかし、一時は6万人もいた鉱山労働者も
閉山直前は、何度もリストラで激減しました。
他の鉱山や炭鉱も同じような歩みをしたのでしょうかね。

2012年9月20日木曜日

4_104 羽越調査 1:黒部川扇状地

 久しぶり(1年半ぶり)に、地球地学紀行のシリーズをお送りします。越中(富山)、信濃(長野)、越後(新潟)、羽前(山形)、羽後(秋田)をめぐる旅でした。今回は、その中のいくつかの地点を紹介していきます。まず最初は、黒部川です。


 9月9日から14日まで、野外調査にでかけていました。千歳空港から富山空港へ向かいました。千歳空港はあいにくの曇り空でしたが、富山に着くときには雲が晴れて、景色が見ることができました。富山空港へ着陸態勢にはいるとき、日本海側から海岸にそって下降していきました、その時、黒部川河口をみることができました。
 そして思いました、「これが地図帳でよく見た扇状地だ」と。
 昔のことなので定かではないのですが、中学校や高校の地図帳で、扇状地の説明で使われていたのが、黒部川の航空写真だったと記憶しています。その写真とそっくりの景色を、飛行機の窓から見ることができました。
 扇状地とは、河川(今回は黒部川)が、山地の急傾斜から平野の緩傾斜になるときにできる特徴的な地形です。広げた扇子(せんす)のような地形です。扇子の根本にあたるところ(扇頂といいます)が、川が山地から平野に出るところ、山地と平野の境界になります。川は、山地の急傾斜のところでは、侵食と運搬の作用が激しく働いています。それが扇頂からは、堆積作用に転換することになります。
 大量の土砂が、扇頂から下流にむかって堆積していきます。堆積が続くと、地形的に高くなり、やがて流路が変わり、新たに低いところへと向かいます。その結果、扇頂を中心として、放射状、同心円状に等高線が並んだ地形が形成されます。扇状地は、土砂たまる先端(扇端といいます)まで広がっていきます。
 扇状地の堆積物は粗い土砂を多数含んでいるので、河川の水は、扇状地では、かなりの量が浸透していきます。水は、伏流して地下水になっていくものも多く、もともとあった平野部の不透水層にまで達します。扇状地の扇端で、地下水が自噴する湧き水が点々とできることがあります。また、扇状地では、井戸を掘ると簡単に地下水ができます。水の豊富なところとなります。
 上流に人がほとんど住んでいない河川の扇状地は、非常にきれいな湧水が出ることになります。黒部川では湧水群があります。
 そんな特徴をもった黒部川扇状地ですが、一度は行きたいところだったのですが、飛行機から見ただけで、時間と調査ルートの関係で寄ることができませんでした。黒部川は、上流もふくめて、思い残しのできた地となりました。そんな時は、次の機会を待てばいいだけなのです。

・残念ネタ・
出かけたときの様子は、
別のメールマガジン(GeoEssay)に書くことが多く、
なかなか地球地学紀行を書く機会がありませんでした。
四国に滞在しているときは、
毎月書いていました。
この度、富山、長野、新潟、山形、秋田へと
調査に出かけました。
GgeoEssayに使いづらいような
残念なネタを紹介することにしました。

・今どきの扇状地・
手元にある最近の高校の地図帳をみてみると、
扇状地の例として使われているのは、
冨士川の支流の京戸川が
甲府盆地の平坦地に出たところの
航空写真が使われています。
黒部川の河口付近は、
今でも扇状地であることは変わりません。
なぜか、黒部川扇状地は地図帳にはないようです。

2012年9月13日木曜日

5_107 みちびき 2:GPS

 「みちびき」はGPSの電波を補完するものです。しかし、同じ衛星が4機なければべ運用できません。そして、7機になれば、日本独自のGPSシステムが樹立できるのですが、政府の考え方次第ですね。

 「みちびき」は、一日のうち8時間ほど準天頂にいる軌道となっています。このような人工衛星が、3、4機あれば、常にどれかが日本上空にいることになります。準天頂衛星の短所である、受信機が固定ではなく、全方位アンテナでよければ、準天頂のメリットを活かせることになります。
 このようなメリットを利用できるものとして、GPSがあります。GPSは、全地球測位システム(Global Positioning System)で、今ではカーナビや携帯電話の位置情報として、多くの人に利用されています。
 準天頂衛星は、日本地域専用(オーストラリアも)のGPSの精度の向上として利用できます。
 GPSの原理は、受信機が正確な時計をもっていれば、3つの衛星の電波が受信できれば、受信機の位置を特定することができます。正確な時計がないときは、4つの衛星の電波があれば、位置を特定できます。つまり、最低4機の電波が受信できなければな、正確な位置を決めるのには利用できません。
 地球全体を衛星でカバーするためには、24機が必要になります。ただし、故障に備えてバックアップも必要になります。
 現在使われているGPSは、アメリカがもともと軍事用に打ち上げたもので、31機のGPS専用衛星を利用しています。全世界をカバーするためには、24機で運用可能ですが、7機は予備としての役割りと、位置の精度を上げるために利用されています。衛星の数が多くなれば位置精度は高くなります。
 GPS衛星の電波を、アメリカは公開しているので、世界の国々が利用しています。
 以前、アメリカ軍は、民生用には(仮想敵国も利用可能とになるので)精度を上げられないように、妨害電波を混入させて100m程度の精度しかないようにしていました。今ではその妨害電波は解除されていて、10m前後の精度があります。ただし、衛星の受信状況によって精度はばらつきます。
 GPSのの問題点は、日本のように山が多いところや、都市部のビルの多いところでは、衛星の電波の補足が難しい状況がよく起こります。位置の精度を上げるには、できる限り天頂に衛星があることが、重要な条件になります。
 それを満たそうとするのが「みちびき」です。4機体制での運用がはじまれば、常にGPSにおける精度を保証できます。また、誤差の補正情報を送ることができれば、1m以下の誤差にできると考えられています。
 今後、4機体制になると、24時間、どれかの衛星が必ず、日本上空にいることになります。さらに、7機体制で運用できると、アメリカのGPS衛星を使わなくても、運用可能となります。まあ、どこまでいけるのは、政府の判断次第ですが。
 7機は無理でも、現在の1機では、試験しかできませんので、4機体制になることを祈りましょう。

・バックアップ・
私は、調査で、GPSを2台使っています。
1台は車に置きっぱなしにして
移動ルートを記録しています。
もう1台は、腕時計タイプのGPSで
サンプルや記載をしたときの位置を
記録するために使用しています。
毎日GPSのデータは取り込んで
パソコンにバックアップをしています。
大量の画像を記録するので、
毎日デジタルカメラのデータをパソコンに取り込みます。
以前は、それらをDVDに焼いていたのですが、
それが時間がかかり、なかなか大変でした。
予備のためで、いまだかつて破損して
DVDからのデータを使ったことはありませんでした。
パソコン以外に、ポータブルのハードディスクに
バックアップをとっていました。
それで十分でした。
今では、容量の大きUSBメモリ(126GB)に
バックアップをとるようになりました。

・テザリング・
現在調査中です。
いつもならデータ通信用の機器を持ってるのですが、
今ではそれも契約がきれたので、
今回は持って行きません。
メールが使えないと少々不安ですが、
まあ、調査に専念しましょう。
今後、テザリングができるスマートフォンがあれば
それに乗り換えたいと思っています。
でも、なかなか満足のできるスマートフォンがありません。
iPhoneがよさそうなのですが、
テザリングができません。
我が家が使っているキャリアはauで
iPhoneが使えるようになったのですが、
デザリングが日本ではできません。
そろそろiPhone5がでるようなので
テザリングができるのなら
即乗り換えなのですが。
どうなることやら。

2012年9月6日木曜日

5_106 みちびき 1:準天頂

 「みちびき」という人工衛星が、試験運用中です。準天頂衛星初号機というのが、「みちびき」の正式名称です。この人工衛星はどのような目的で、私達にどのようなメリットがあるのでしょうか。まずは、準天頂衛星初号機という言葉の意味からみていきましょう。

 日本の人工衛星「みちびき」というのをご存知でしょうか。2010(平成22)年9月11日に、H-IIAの18号機によって、種子島宇宙センターから打ち上げられたものです。「みちびき」は、正式には準天頂衛星初号機と呼ばれています。
 少々わかりにく言葉ですが、準天頂衛星初号機とはなんのことでしょうか。その説明をしていきましょう。説明が、「みちびき」の特徴を紹介することになります。
 天頂とは、地上からみて真上のことで、準天頂とは「ほぼ真上」のことです。日本の衛星ですから、日本から見て「ほぼ真上」という意味です。天頂に衛星がとどまるのは、実は非常に難しいことなのです。
 人工衛星は、上空を飛んでます。飛ぶことで遠心力を発生して引力に釣り合っています。遠心力は地球の中心と機体の延長線上にあります。地球の自転に合わせて人工衛星が同じ位置を飛ぶのは、非常に難しいことになります。周回軌道を飛びながら静止できるのは、赤道上空の軌道だけです。
 赤道上を地球の自転と同じ速度で飛べば、地表から見ると、衛星が止まっているように見えます。赤道上からは、その軌道の衛星は、天頂にあることになります。
 スカパーやBSなどのテレビ放送用の人工衛星は赤道軌道上にあります。そのような静止軌道は、受信用のアンテナを同じ方向に向けていおけばいいので、テレビなどの連続受信をするために、アンテナを固定させて置けるという便利さがあります。
 しかし、日本から見ると赤道上の衛星は、見上げる角度(俯角)が低くなります。また、高緯度ほど俯角は小さくなっていきます。東京では43度ですが、北海道では35度くらいになります。山や隣に高い建物があると電波が遮られます。
 日本の上空に静止することは、現実的には不可能となります。天頂に準じることなら、なんとか可能です。ただし、ある時間しか、そこには留まれませんが。
 赤道上の静止衛星にも、長所や短所があります。静止軌道をとるか、準天頂をとるかの選択となります。
 準天頂衛星とは、高度約3万2000~4万kmの軌道を、傾斜角40度ほどで、約一日(正確には23時間56分)かけてめぐります。「みちびき」の準天頂軌道は、日本の上空に長い時間いるように設定されていますが、移動しているので、受信用のアンテナを常に動かすか、指向性のないアンテナで電波を受ける必要があります。
 準天頂衛星は、地上から見ると日本からオーストラリアにかけての上空を8の字を描く軌道を巡っています。衛星が日本上空にできるだけ長くとどまるような軌道ですが、「みちびき」の軌道では、一日の内の3分の1しか、日本上空にありません。でもその間は、衛星が真上にあることになり、山やビルの多いところでも、信号が受信可能になります。このような長所を活かして、「みちびき」は利用されています。
 初号機とは、今後2号機、3号機と打ち上げが続くということを意味しています。計画では、4号機まで続くことになっています。「みちびき」は、準天頂衛星の初号機にあたり、現在、実証実験がされています。
 では、「みちびき」は、いったいなんのための衛星なのでしょうか。それは、次回としましょう。

・パラリンピック・
オリンピックが終わり、今はパラリンピック開催中です。
私は、オリンピックに続き、
パラリンピックにもはまっています。
前回の北京オリンピックは
アナログ放送の時期であったのと、
我が家の録画システムもあまりよくなかったので、
日々の結果をみるだけで
個々の競技を詳しく見ることができませんでした。
今では、地デジにもなり、
我が家でも、衛星も受信できるようになり、
4チャンネル同時録画もできるビデオになりました。
いろいろなチャンネルで録画しては、
興味あるところをみています。
こうみてくると、この4年間に
我が家の映像視聴状況も大きく変わってきました。
その延長線で、パラリンピックも初めて見たのですが
なかなか見応えあります。
NHKなどの裏の人間ドラマもみると
よりパラリンピックも面白くなります。

・新学期・
北海道の人は、暑さに弱いので、
私も家族もぐったりしています。
ただし、夕方からは涼しい風が吹くので、
夜は快適に眠れるので、何とかが疲れがとれています。
まだ暑い日が続いてます。
先日も夜中に激しい雷がありました。
あまりの激しさに目が覚めてしまいました。
その後は蒸し暑くて、なかなか寝付けませんでした。
そんな暑い中、二学期がはじまりましたね。
今年は、9月1日、2日が土・日曜日だったので
少々長い夏休みだったようですね。
北海道では、小・中・高校の夏休みは
とっくに終わっているので、
新学期の始まりという気がしません。
大学はまだ夏休みの真っ最中ですが。

2012年8月30日木曜日

1_108 LHB 4:シミュレーション

 LHBは本当にあったのでしょうか。LHBをサポートする論文を紹介します。しかし、よくみると論文の展開は、シミュレーションになっています。過去の大事件ですが、人にとって過去は、推定するしかありません。その推定が本当かどうかは、検証のしようがありません。最終的には、信じるか信じないか、それしかないのでしょうか。

 地球上で見つかっている、いくつかの衝突スフェルール床をもとに、LHBに関係する論文が2つ書かれていることを、前回、紹介しました。その論文の内容を紹介します。
 一つ目は、
 Impact spherules as a record of an ancient heavy bombardment of
Earth.(地球の古い重爆撃の記録としての衝突スフェルール)
という論文で、スフェルール床の厚さから、衝突した天体の大きさを見積もります。
 この方法は、白亜期末(K-Pg境界)の恐竜を絶滅させた隕石に用いられたものです。隕石に特徴的にみつかるイリジュウム(Ir)を用いて、衝突で飛び散ったIr総量(地層中のIr量×地層の厚さ×地球表面積)を見積もります。隕石のIrの濃度から、隕石の大きさを推定します。この方法を用いれば、スフェルール床があれば、対応するクレータがなくても、小惑星の性質を探ることが可能となります。
 論文では、時代ごとのスフェルール床と他の天体のデータ(月、火星)を照合しながら、小惑星の衝突頻度、サイズ分布を割り出し、昔ほど多いことを示しています。その結果、35億年前のほうが衝突が激しかったことを示しています。つまりLHBが38億年前ころをピークに、爆撃は衰えていったことに対応しているというものです。
 もうひとつの論文は、
 An Archaean heavy bombardment from a destabilized extension of
the asteroid belt.(小惑星帯の不安定外縁部からの太古代の重爆撃)
で、スフェルール床がいくつもあることから、LHBは今まで考えられていたものよりもっと長い期間継続していたというものです。その原因を、ある特別な軌道をめぐる小惑星帯の変動としています。
 月の41億から37億年前の10個の盆地を形成したクレータから、ある軌道をもった小惑星の衝突に由来することが判明しました。その軌道は、地球と火星の間を回わるもの(Eベルト)ですが、現在ではこの軌道をめぐる小惑星は少なく、残っているのは軌道が大きく傾斜したグループ(ハンガリア小惑星群)だけです。
 ハンガリア小惑星群のサイズ分布を調べると、37億から17億年前までの間に、地球に70個ほどのクレータを、月に4個、K-Pg境界の衝突以上のクレータができたことを示しています。このような衝突頻度は、衝突スフェルール床と月のクレータの頻度とも一致していました。
 Eベルトの小惑星は、LHBの時期に巨大な惑星が移動したことによって、運動が不安定になり、軌道が乱されたと考えられています。その結果、多くの小惑星は、地球や月に衝突し、今では軌道上の小惑星は、ほとんどなくなっているとされています。
 さてさて、シミュレーションと実測データが混在した話でした。実体はそこにあるでしょうか。古い時代を推測する話です。信じる信じないは、人それぞれでしょうね。

・仮想から現実へ・
シミュレーションは、
現実を仮想化された世界で再現したもの
だといえます。
ですから、現実では見れないような
条件を再現して見せてくれます。
今回は、地球の過去の歴史でです。
シミュレーションは、仮想世界ですから
最終的には、信じる信じないの判断になります。
個人やいち研究者のレベルの判断ならいいのですが、
シミュレーション結果が、
組織や国、国際的な判断に利用するのは、
注意が必要なはずです。

・暑い夏・
北海道は、8月下旬にもかかわらず、
蒸し暑い日が続いています。
いつものなら、もう秋風が吹いても
おかしくない頃なのですが・・・。
今年は太平洋高気圧が頑張っているようです。
今週は多少の雑用はありますが、
やっと一息つける時期となります。
この期に、メインに使っている
デスクトップパソコンを更新しています。
今まで使っていたものが不調になったので、
新しいものに先日更新しました。
その移行作業を先週末からやっています。
大量のデータをコピーしています。
夜間は、トラブルがあると嫌なので、
パソコンの前にいる時だけ、
データのコピーを続けています。
ですから、余計に時間がかかるのですが、
以前、壊れていたファイルがあり、
そのファイルのために、突然再起動が起こり、
ハードディスクを傷つけたことがあります。
今回も一度原因不明の突然の再起動が起こりました。
これがあると、システムを壊すことがあるので怖いです。
今のところ大丈夫のようですが。
しばらくは、暑い夏になりそうです。

2012年8月23日木曜日

1_107 LHB 3:衝突スフェルール床

 LHB(後期重爆撃)の反論への議論がでてきました。LHBがあったとする考えに基づいて、古い地層から見つかった新たなデータ、衝突スフェルール床からの展開でした。

 前回、LHB(後期重爆撃)に対する反論があることを紹介して、主な反論として、2つを紹介しました。反論は、「データに偏りがあるのではないか」と「継続していた爆撃の最後の衝突ではないか」というものでした。これらの反論に対するさらなる反論(このようなものを議論と呼びます)は、なかなか困難であるということも紹介しました。
 ところが、2012年5月3日のイギリスの「ネイチャー」誌に、2編の論文が掲載されました。
 Impact spherules as a record of an ancient heavy bombardment of
Earth.
(地球の古い重爆撃の記録としての衝突スフェルール)
 An Archaean heavy bombardment from a destabilized extension of
the asteroid belt.
(小惑星帯の不安定外縁部からの太古代の重爆撃)
というものです。これらの論文は、LHBの現象に、新たな知見を加えるものでした。つまり、LHBがあったという立場で書かれた論文です。
 2つのいずれの論文も、古い時代の地層から見つかっているスフェルールの濃集した「衝突スフェルール床」を用いて調べられたものです。
 スフェルールとは、激しい衝突が起こると、落ちた隕石や衝突された地球の岩石が、溶けたり蒸発して飛び散ります。やがて冷えて小さな液滴となり、球状に固まります。球状に固まったものを、流星塵、宇宙塵などの分類に基いてスフェルールと呼んでいます。この論文では、「衝突スフェルール」とよんで、宇宙塵のものと区別しています。
 大きな衝突が起こると、スフェルールは、広い範囲に飛び散ります。白亜紀末の恐竜の絶滅を起こした隕石が、直径10kmでした。このサイズの衝突があると、全地球にその放出物が飛び散ることが確認されています。
 ですから、大きな天体(直径10km以上)の衝突があり、土砂がたまりやすい場に降ったスフェルールは、地層の中に薄い層として保存されていることが起こります。そのような濃集層を、「衝突スフェルール床」と呼び、何枚かみつかっています。
 今までに、34億7000万から32億3000万年前の間に7床、26億3000万から24億9000万年前の間に4床、21億から17億年前の間に1床が発見されています。今後も、衝突スフェルール床は、注意深い調査がなされれば、見つかる可能性があります。
 これらのスフェルール床を基礎データとして、論文は展開されています。その詳細は、次回としましょう。

・テクタイト・
小さな隕石で宇宙塵、流星塵と呼ばれるものが、
定常的にたくさん降ってきています。
その塵には、そのまま落ちてきたものと
地球落下時に溶けて球状になっているものがあります。
溶けて球状になっているものを
スフェルールと呼んでいます。
他にも、スフェルールに似たものとして、
テクタイト(tektite)があります。
テクタイトも、隕石の衝突によってできたもので、
溶けて液として飛び散ったものが
飛んでいるときに固まったガラス状のものです。
飛びながら固まったガラスは、
流線型や滴状、ボタン状などの
飛行していたような形態をしています。
スフェルールと起源は同じですが、
サイズが大きくものをテクタイト、
小さいものをスフェルールと呼んでいるようです。

・集中講義・
今週は集中があるので、
多分このメールマガジンを書いている余裕がありません。
ですから、一週前に予約送信しておきます。
一日4時間の授業を3日間することになります。
初めての経験です。
講義の準備はできているのですが、
体力と声が心配です。
50名あまりの学生受講しています。
本当はもっと少ない受講生を予定していたのですが、
広い教室で授業をすることになります。
まあ、頑張るしかありませんね。

2012年8月16日木曜日

1_106 LHB 2:反論

 LHB(後期重爆撃)という地球創世時に大事件があったという考えがあります。ただし、それに対する反論も古くからあります。その反論は、なかなか手ごわいもののようです。その反論を紹介しながら、LHBの意味を考えていきましょう。

 月の形成史の研究から、40億年前から38億5000万年前の間に、激しい隕石の衝突、LHB(Late Heavy Bombardment:後期重爆撃)があったことがわかりました。月の母星せある地球にも、同じようにLHBの事件が、起こってたと考えられています。
 LHBの認定に関しては、古くから反論があります。反論は大きく分けると、2つの点についてで起こっています。
 一つ目は、データの偏りの可能性です。
 年代のデータは、アポロ計画で持ち帰られた試料に基づいています。持ち帰った試料の大部分が、「雨の海」という大きな一つの衝突クレータの近くから飛び散ったものではないかという疑問です。「雨の海」のクレータは巨大です。その衝突は激しく、その衝突によって飛び出した放出物が、かなり大量であったと考えられます。実際にシミュレーションの結果もでています。もしかすると、アポロ計画の着陸地点すべてが、「雨の海」からの放出物に覆われている可能性もあります。
 クレータのあったところが、どんな時代の岩石でできていても、その年代は衝突によって消されてしまいます。衝突の高温高圧の条件によって、岩石が溶けて飛び散るときに、年代が新しくなってしまいます。これが、39億年ころに年代が集中している原因ではないかという批判です。
 これは、あり得ることです。この反論に対抗するには、「雨の海」の影響をあまり受けない地域からの試料で、年代測定を実施することが確実でしょう。ところが、アポロ計画以降、人類は月に調査にはいってないので、新たな試料を入手することができません。反論への反論もなかなか難しいようです。
 2つ目の反論は、LHBが継続していた衝突の最後のものに過ぎないというものです。
 月も地球も激しい衝突がずっと継続していたのですが、39億年前の衝突で終わったという考えです。ある時期に激しい衝突があると、それ以前の表面の物質の年代が、すべてリセットされたのではないかというものです。激しい衝突によって、大量の放出物が飛び散り、地表を覆ってしまうはずです。39億年前に激しい衝突が終わると、39億年前の物質に表面がすべて覆われているはずです。
 飛び散ったものがすべて溶けるわけではなく、溶けずに飛び散った古い岩石の破片もあるでしょう。そのような破片は、年代測定できないくらい小さく、情報が読み取れていないのかもしれません。
 これもなかなか手ごわい反論です。いろいろな古い年代の物質がないことを示さなければなりません。ただし、小さい破片までも39億年前の年代であったとしても、反論を否定できません。なぜなら、激しい衝突が表面を覆い尽くしたかもしれないからです。
 このような反論を考えていくことは、地球や月の歴史について考えていくことにもなります。逆にどちらかの反論に根拠が与えられると、LHBの存在が危うくなります。
 最近、LHBを支持する2つの論文が提示されました。その内容は次回としましょう。

・科学の進歩・
ある分野で、ある新説がでると、
それに対する反論がよくでてきます。
そんな新説には、重要な意味があるということです。
新説に注目されているということで、
その分野の研究に携わっている
研究者が多いということを示しています。
注目されている分野では
今もいろいろな考え方があり、
まだ結論がでていないということです。
このようにして、科学は進んでいくのではないでしょうか。

・洪水・
近畿地方で激しい雨で各地で
洪水の被害が出ました。
皆さんは大丈夫だったでしょうか。
私の実家周辺でも被害がありました。
幸い実家は被害がありませんでしたが、
親戚(叔母)の店舗が2度ほど水に浸かったようですが、
幸い大きな被害はなかったようです。
せっかくのお盆休みで
出かける予定がダメになった人も
いるかもしれませんが、安全無事がなによりですね。

2012年8月9日木曜日

1_105 LHB 1:ないことの意義

地球の年代区分は、岩石の記録にもとづいておこなわれます。岩石がなければなりません。記録が「ない」ことに、もし理由があれば、「ない」ことにも意味があるのかもしれません。今回は、後期重爆撃(Late Heavy Bombardment:LHB)があったのか、なかったのか、の話題です。

 地球のはじまりの時代は、「冥王代(めいおうだい)」と呼ばれています。冥王代のはじまりは地球の誕生で、終わりが40億年前くらいです。「くらい」といったのは、年代がはっきり定まっていないたいめです。終わりだけでなく、はじまりも、実ははっきりしていません。なぜなら、冥王代は、自己完結的に年代が定義されるものではなく、他力的、受動的に定義されているからです。
 冥王代のはじまりは、地球の誕生時となります。しかし、地球は多数の微惑星の衝突合体によって成長してきたものです。では、どの微惑星を地球とするのか、どの時点から地球と呼ぶか、などよって冥王代のはじまりは変わってきます。それに、今は亡き微惑星や成長中の原始地球を、時代の定義に利用することは、実証的ではありません。それに、定義によって変わります。
 冥王代の終わりは、次の時代の太古代のはじまりに当たります。太古代以降は、地球の年代区分として厳密に定義されています。そもそも年代区分とは、現存する岩石にもとづいて編成されているもので、その時代の岩石がないことにははじまりません。太古代のはじまりは、最古の岩石になります。太古代以降の年代区分は、岩石記載に基づいて構築可能となります。
 現存する最古の岩石は、40億年(正確には40億3000万年前)のものですから、それ以降が年代区分が成立することになります。太古代はじまり頃の岩石は、バラバラになっていることも多いですが、各種の岩石が分布しています。そして、38億年前ころからは、いろいろなところから見つかってきます。堆積岩もみられます。38億年前以降、大陸の面積あるいは体積が、保存可能などに大きくなり、安定して存在していたのかもしれません。38億年前ころからあちこちに岩石が見つかることに、何か意味があるのでしょうか。
 38億年前より古い時代は、陸が少なく、陸の岩石も少ないために、稀にしか残されなかったのでしょうか。陸形成は、海と密接な関係があるので、海が38億年前から安定的に存在できるようになったのかもしれません。
 あるいは、陸はそれなりあったのが、消してしまうような事件が起こったのかも知れません。特別な事件があったというには、それなりに証拠が必要になります。
 アポロ計画で月の岩石が大量に持ち帰られました。月の岩石や砂粒の年代測定に基づいて月の形成史が編まれました。そこから、40億年前(41億年前とすることもあります)から38億500万年前の間に、激しい隕石の衝突があったことがわかりました。これを根拠に、特別な事件が考えられています。
 隕石は、惑星の公転軌道より外から飛来して、軌道を横ぎるときに衝突するものです。地球の衛星の月に隕石が大量に落ちてきたということは、地球にも同じ程度に落ちてきた可能性があります。このような隕石の爆撃は、地球形成時に起こった激しい隕石の衝突よりもあとの時期なので、後期重爆撃(Late Heavy Bombardment)と呼ばれ、LHBと略されています。
 38億年前より古い岩石があったことは、より古い鉱物(42億年前)の存在からわかっています。陸があったとしても、LHBによって地殻がひどく破壊されてしまったので、38億年前より古い岩石が見つからないのかも知れません。しかし、その考えにはいくつかの反論があります。その反論の内容は次回としましょう。

・真夏の夜の夢・
LHBとしましたが、いくつかの名称があります。
月激変(Lunar Cataclysm)や
後期隕石重爆撃(Late Heavy Meteor Bombardment)などがあります。
ここでは、地球に適用しているのでLHBを用いました。
月はアポロ以来人類はいっていません。
無人探査機(かぐやなど)は、月を訪れていますが、
せっかくの人類のフロンティアとして
開拓された月が遠くなっています。
有人火星探査などもいわれていますが、
費用、技術、危険性などを考慮すると
よっぽどの必要性がないと
実施には踏み切れないはずです。
夢として語るのならいいのですが、
現実性を考えるなら、
有人による月探査の再開のほうでしょう。
そんなことを真夏の夜の夢として考えています。

・集中講義・
いよいよ大学は、定期試験も終わり夏休みに入ります。
ただし、集中講義が8月下旬にあり、
受ける人はお盆明けから大学講義です。
私も、集中講義の担当になっています。
その準備をお盆中にしなければなりません。
なかなかきの休まらない日々が続きます。

2012年8月2日木曜日

2_108 ヒ素では生きていけない 2:反論

ヒ素を利用して生きているらしいGFAJ-1をめぐる議論がありました。実験条件の厳密化とDNAの成分分析からの反論です。そこには、重要な内容が含まれていました。反論も含めて議論が深まることで、生命の本質にかかわる重要な鍵が見つかるかも知れません。

 ヒ素を体内に取り込み生きているバクテリア、GFAJ-1は、以前紹介したウルフ-サイモン(論文の第一著者)らの培養実験で、ヒ素のある環境を好んでいることがわかりました。彼女らの実験では、GFAJ-1は、リンだけ、あるいはヒ素だけの環境では成長できず、リンが極端に少なくヒ素がたくさんある条件でより増殖したというものでした。その結果、GFAJ-1には、リンはある程度は必要ですが、ヒ素が多い環境を好み、不可欠としている生物であることがわかりました。
 以前のエッセイでも書いたのですが、論文の公開前に、NASAが大々的に記者会見までしていたので、そのやり方に少々顰蹙(ひんしゅく)をかっていました。この論文が報告されたあと、同じ条件で実験をしても、同じ結果が得られないという批判がありましたが、公式な反論はこれまでありませんでした。まあ科学ですから、公表の仕方は、論の是非や本質とは関係なく、冷静に論理的に評価、批判しなければなりません。
 正式な反論が、7月8日発行のサイエンス誌(電子版)に公表されました。スイスの工科大学チューリヒ校とアメリカのプリンストン大学の2つの研究グループが、別個に出しました。その2つの論文では、別々に(独立といいます)実験がおこなわれたものなで、その再現性はいいものと考えられます。つまり、信頼できる科学的な反論だということです。
 彼らの実験では、ウルフ-サイモンらの論文と同じ条件でおこなうと、同じ結果を得ました。ここまではいいのですが、リンをもっと減らしていく(ゼロではない)と、GFAJ-1は増殖できなくなりました。さらに問題は、GFAJ-1のDNAを調べたところ、ヒ素が検出されませんでした。あったとしてもごく少量だそうです。ヒ素がDNAのリンの多くを代替しているわけではなかったのです。
 この実験結果は、ウルフ-サイモンらの以前の内容を、否定するものではありません。より厳密に限定していったということです。リンが少量とはいえ、GFAJ-1には必要不可欠であることは、実は、ウルフ-サイモンらも、リンのない条件で培養実験をしているので、知っていたことです。
 問題は、DNAにヒ素がなかったことです。つまり、DNA内でリンの代わりとしてヒ素を使っていたのではないということです。ウルフ-サイモンらDNAにリン酸があることは知っていました。もし、DNAにヒ素はなく、すべてリンであれば、その他多数の普通の生物のDNAと変わらなくなります。
 この反論によって、論点が整理されてきました。
 GFAJ-1が繁殖するためには、ヒ素が必要なことは確かです。ヒ素がGFAJ-1のDNAの主要成分でないことが判明したので、問題は、ヒ素がどこにあり、どのような機能を担っているのかです。
 例えば、DNAをつくるために、あるいはなんらかの代謝をするために、ヒ素が使われているのかも知れません。本質は、GFAJ-1におけるヒ素の役割です。その役割がわかり、他の生物にも普遍化できるかどうかが重要となります。もし生命機能として普遍化できるなら、「第2創世記」があったかもしれません。

・調査行・
もう8月です。
北海道は暑い日が続いています。
今年の講義の後半は、苦しい日々が続きました。
そんな苦しさを解消するためにも
研究調査に出たいのですが、
少々精神的にも疲れて、
動く気力が湧きません。
でも、それではますますストレスがたまるので、
厳しいスケジュールの合間をぬって、
9月上中旬に1週間ほど調査に出ることにしました。
その決意を固めるためにも、
チケットを先日予約しました。
やるということをもう決めてしまいました。
まだ宿はとっていなのですが、
だいたい周るコースを定めつつあります。
久しぶりに四国から離れた調査になります。
ただ、スケジュールが混んでいるので、
体調を崩さないようにしなければ。

・構造浸食・
次の論文のために、新しい論文を
集中して読んでいます。
構造浸食に関する一連の論文です。
重要な意味がありそうです。
いくつか重要な根拠(データ)に基づいていること、
今までの疑問点を解決できそうなことが
素晴らしい点です。
これは、新しい視点を地球科学に導入する可能性があります。
なんといっても重要なのは、
新しい現象を予言している点です。
反証可能性を提示しているのです。
まるで新しいパダライムの提示にみえますが、
パラダイムなるかどうかは、
今後の検証、展開しだいです。
機会があれば、紹介してきたいと思っています。

2012年7月26日木曜日

2_107 ヒ素では生きていけない 1:GFAJ-1

以前、生物には毒となるヒ素を好んで利用する変わった生物がいることを紹介しました。その生物の発見は、メディアをにぎわせながら報告されました。当時もいろいろな反論があったのですが、科学的な根拠のある報告でした。最近、その結果に対して、まとめて反論がだされました。そのあたりの事情を紹介していきましょう。

 以前、GFAJ-1と呼ばれている特殊な生物が発見されたという話をしました(2_86:2011.01.06発行~2_89:2011.02.03発行)。覚えておらえるでしょうか。この生物は、ヒ素(As)を体内に貯めて、ヒ素のある条件を好んで繁殖しているという特異なものでした。最近、再びGFA-1が話題になってきました。その話を紹介しましょう。
 生物にとって、リン(P)は欠くことのできない成分の一つです。他にも、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、酸素(O)、イオウ(S)があります。その中でも、リンは代替のできない不可欠な成分だと考えられていました。
 体内でリンは、DAN(生物の中で遺伝情報を記録しているもの)やタンパク質(生物の体を構成し機能を司るもの)、ATP(エネルギー代謝をおこなうもの)などを形成するために、不可欠な成分となっています。リンがなければ、生物は生きていけないはずです。
 生物にとって不可欠の成分は、化学的に似た性質のもので代替されることがあります。化学的には、リンと似たヒ素(周期律表でリンの下にある)が入れ替わることは可能です。それは理屈の上であって、実際にそんなことをしている生物は存在しないとされていました。
 ところが、GFAJ-1はリンの代わりにヒ素を用いて生きているということが、前回のエッセイの内容でした。単に生きているけるのではなく、リンがなくヒ素がある環境を好んでいるという報告でした。この発見の重要性は、地球外生物の多様性、地球生物の異質な生物群の存在など、生命の可能性を広げることになりました。
 生命の仕組みにおいてリンは不可欠ですが、そのリンが別の元素に置き換えられる可能性がでてきたわけです。地球において、リンは、かなり少ない元素です。ヒ素は、もっと少ない元素なのですが、多様性があることは重要です。少ない資源でも、一つでなく代替があれば、生命の多様性が増えていきます。量ではなく、質の多様性が生まれます。大量の生物量はなくても、多様な生物種、あるいは多様な生態系が可能になります。
 地球でもそのような多様性があるのなら、地球外でも可能となるはずです。これは、リンとヒ素の代替だけでなく、他の成分、他の生命機能も代替できることを示唆します。そんな可能性を広げる発見だったのです。
 多様性の方向性を地球に向けると、地球の生物で全く違った生き方のグループの可能性を示すことになります。現在の地球では、すべての生物は一つの祖先から出発したと考えられています。祖先が一つであるというのは、現在の生物は、すべて共通の仕組みをもっているためです。しかし、全く違った生き方をする風変わりな生物がいれば、もしかすると起源の違う祖先の生物の系統を見つけることができます。このような別の起源の生命群の誕生を、「第2創世記」と呼んだりしています。もしかすると、第3創世記、第4創世記・・・の発見ができるかもしれません。
 GFAJ-1の存在は、そんな可能性を広げたのです。
 ところが、この報告に異論を唱えた論文が、アメリカの権威ある科学誌「サイエンス(電子版)」に7月8日発表されました。その詳細は次回にしましょう。

・正しい情報開示・
大学は最後の講義が終わりつつあります。
いつも一番暑い時期に定期試験なので
そんな日に当たると学生はつらい思いをします。
ただし、今年はそれほど暑くないので、
しのぎやすいのですが、
これからどうなることやら。
そういえば北海道電力も計画停電が
アナウンスされていますが、
本当に足りないのでしょうか?
どのような条件のとき、
どれくらい足りないのでしょうか。
正しい情報開示がなされていないので、
判断のしようがありません。
正確な情報を公開してもらいたいものです。
これが一社独占の弊害なのかも知れませんね。

・勝つこと・
子供たちの学校は、夏休みです。
長男はグラブが引退のはずですが、
予定外に地区の大会に勝ち続けていて
試合が続いています。
あまり強くないクラブなのですが、
今年はそこそこ強いチームなっているようです。
勝つ限り8月7日まで試合が続きます。
今日試合があります。
それより上の大会がないのではないで、
本人もそろそろ引退したいそうです。
しかし、勝つのは、やはり気持ちいいようで、
それなり練習にも力がはいるようです。
毎日真っ黒に日焼けしながら
クラブ活動を続けています。

2012年7月19日木曜日

2_106 大不整合 3:生物鉱化作用

大不整合は、単なる欠損ではなく、地形や圏の境界でもありました。次なる時代への影響も少なからずあったようです。ただし、不整合にはその証拠は残っていません。その後の堆積物の中に、広く薄く残されていました。そこから、カンブリア大爆発への影響の痕跡が読み取られました。

 北アメリカ大陸だけでなく世界中でみられる大不整合は、地球の歴史においてどんな意味を持つでしょうか。
 ペーターとジャイネスは、地質のデータベース(Macrostrat)を活用して、北アメリカ大陸での大不整合の意義を調べました。大不整合は、古い基盤の岩石とカンブリア紀からオルドビス紀初期までたまった地層の間に時代にあります。カンブリア紀以前の地層は、陸地になっていたためたまっていません。地層の欠損となります。
 カンブリア紀以降の地層の堆積岩の化学的特徴から、どのような環境であったかを、彼らは調べています。その結果、大不整合の上に溜まった地層には、他の時代の地層と比べて、いくつかの際立った特徴がみつかりました。不整合の面積が広いこと、海が浅海であること、陸棚の炭酸塩が多いこと、などでした。この結果から、どのような意味が読み取れるでしょうか。
 大不整合の時期、北メリカ大陸は広範囲に陸化していて、大陸では激しい風化が起こっていました。ダーウィンや多くの古生物学者も、大不整合は、地層の欠損を意味していると考えていましたが、別の意味があると主張しています。大不整合は、陸-大気から海洋-大気への地形境界面の変化ともみなすこともできます。陸地の境界面で起こっていた風化作用が、浅海になったときに、海洋環境に大きな影響があったのではないかと考えました。
 広い大陸で激しい風化が起こり、そこに海が侵入してきました。広い大陸に浅海が広がります。浅海の海水では、イオンの濃度が一気に上がり、アルカリ性も強くなりました。それは普通の海の環境とは大きく違っていました。その結果、生物鉱化作用(biomineralization、殻は骨などの形成)が起こり、その後カンブリア紀の大爆発が引き起こされたのではないかとしています。
 従来カンブリア大爆発はカンブリア紀以前(クリジェニ紀からエディアカラ紀)に起こったとされています。もしそうなら、順序が逆で、しかも数千万年ほどの年代差があります。彼らは、すでに誕生していた多様な祖先型動物に、環境変化によって生物鉱化作用が促進され、それがカンブリア大爆発となったのではないかとしています。
 ペーターとジャイネスの仮説は、膨大なデータに基づいています。それなりの説得力もあります。量が質を保証する訳でないですが、量は発言者の自信を生みます。コンピュータの進歩や情報量の増加によって、デジタル情報処理は大きな武器になります。今後も科学は、その手法も取り入れて進むでしょう。
 提唱される説は、これからの検討が答えを出すことになるでしょう。各地の試料の再検討、新しい精度の良い分析などが、根拠となり、決着をみるでしょう。今後も見守って行きたいと思います。

・計画停電・
西日本では激しい集中豪雨で、
各地に被害がでています。
お見舞い申し上げます。
幸い北海道は、夏の快適な天気になっています。
乾燥しているので風があると、
木陰では涼しいくらいの快適な時期です。
我が家では、夜は窓を閉めて寝ています。
7月下旬から8月上旬の暑さはわかりませんが、
2010年夏並に熱くなるようだと、
電力不足が心配されています。
しかし、節電、計画停電ですみ、
それで乗り越えられるのであれば、
北海道には原発は、
要らないことになるはずなのですが・・・・

・一杯一杯・
大学は、まだ講義中です。
7月一杯まで、講義がおこなわれ、
8月に定期テストがあります。
それが終わると、お盆に入りますが、
教員は採点、入力、評価をして
お盆明けに成績提出となります。
その後、夏の集中講義あります。
8月は、一杯一杯です。
もちろん7月もですが。

2012年7月12日木曜日

2_105 大不整合 2:データベース

「大不整合」は北アメリカで広く認められ、その直上には似たような堆積物がたまっています。広い範囲にたまっている地層に対して、地質データベースを用いて、データ解析をして、その特徴を探ろうとしたのが今回の報告でした。

 2012年4月19日のネイチャー誌に報告したのは、ペーターとジャイネス(S. Peter and R. Gaines)でした。不整合とは何かは、前回紹介しました。アメリカ大陸では、広範囲でみつかる「大不整合(Great Unconformity)」として有名なものがあります。その不整合は、グランドキャニオンの谷底に連続的に見つかり、多くの人の目に触れる典型的なものでもあります。それだけでなく、地質学的にも、先カンブリア紀とカンブリア紀の境界にあることで、非常に重要な意味があると考えられます。そのために、わざわざ「大(Great)」がつけれられ、「大不整合」と呼ばれています。
 先カンブリア紀の岩石は、大陸の古いもので変成作用を受けています。その上に不整合として、浅い海でたまった堆積岩が重なっています。その時代には、似た堆積物が、北アメリカの大陸に広く分布しています。その下には不整合があります。同じような不整合と堆積物は、アメリカ大陸だけでなく、世界的に見られるものであることがわかっています。そのため、「大不整合」がどんな意味をもつのかが重要だと考えられます。
 ペーターとジャイネスは、アメリカ大陸の「大不整合」の意義を調べるために、少々変わった方法を用いました。彼らは、地質のデータベース(Macrostrat)を活用しました。
 Macrostratというデータベースは、世界各地の地質について、1475地域から、3万3965の層序的ユニットについて、9万以上の属性について記録されています。属性は、位置や年代区分だけでなく、化石や岩石種、環境、地質構造などのデータがあります。
 北アメリカから、大不整合の直上に堆積したソーク層(Sauk Sequence)と、それに相当する地層をデータベースから選び、特徴を調べました。
 ソーク層のたまった年代は、カンブリア紀からオルドビス紀初期(5億4200万から4億7200万年前)です。それ以前は大不整合なので陸地化しているので、地層は欠損しています。その間、北アメリカは陸地化していたことになります。その陸地化が、カンブリア紀になって海が広がった時(地層の堆積時)にどのような影響を与えたかを、データベースから探っています。
 カンブリア紀のはじまりは、生物に大きな進化が起こった時期です。「カンブリア大爆発」と呼ばれています。それと大不整合とはどんな関係があったのでしょうか。次回、それを紹介しましょう。

・休みなく・
大学の講義も終盤となりました。
15回の講義をしなければならないので、
7月一杯講義をすことになります。
そして、8月の上旬に定期試験となります。
その後、採点、集計、評価をして
お盆明け直後が成績の提出になっています。
その後すぐに、夏の集中講義が続きます。
気の休まることがありません。
その合間をぬって研究もしなければなりません。
今も論文の締め切りに追われています。
大学教員は、夏も休むことなく
働かなけばならないようです。

・Macrostrat・
地質データベースであるMacrostratは
http://macrostrat.org/
というサイトにあります。
私はまだ使ったことのがないのですが、
統計的に処理するには便利なデータベースだと思います。
ただしまだベータ版でバージンも0.3となっています。
一部の機能しか公開していなようなので、
今後、完成すれば公開されることになるようです。
現在北アメリカ、ニュージーランド、深海掘削のデータ、
カリブ海が公開されています。
現在オーストラリアが準備中だそうです。
「数は力(Strength in numbers)」としています。
その証明の一つとして、今回の報告があります。

2012年7月5日木曜日

2_104 大不整合 1:不連続面

科学雑誌ネイチャーに、カンブリア紀の生物の大進化に関する新しい仮説が掲載されました。今回のエッセイでは、その概要を紹介しましょう。まずは、仮説提唱にとって象徴の場となったグランドキャニオンからはじめましょう。

 アメリカ合衆国アリゾナ州のロッキー山脈をぬって流れるコロラド川沿いに、グランドキャニオン国立公園があります。だいぶ昔になりますが、南側(左岸側)から見るポピュラーな観光コースに二度訪れたことがあります。河床まで降りることはなかったのですが、いくつかの観光コースを散策し、ツアーにも参加しました。
 北側(右岸)からコロラド川を眺めるためには、長い距離を走り、ユタ州からいくしかありません。遠いので、一泊してでかけましたが、あまり観光化されていないので、ひなびた感じがして、それなりの味わいがありました。ただし、朝夕はいいのですが、昼間は、谷の北側から眺めることになるので、逆光でみることになります。写真や景色を堪能するには、少々興ざめしてしまいますが。
 今回の話題は、イギリスの2012年4月19日付けのネイチャー(Nature)誌の表紙を飾ったグランドキャニオンからです。表紙となったグランドキャニオンには、大きな不整合が写されています。そして「生命の力(Life Force)」と書かれています。
 そもそも不整合とは、いったいどんなものでしょうか。不整合とは、地層の関係を表す言葉で、「整合」ではないものです。地層は海底にたまった土砂が固まってきたものです。地層が連続的に積み重なったものを「整合」とよびます。不整合は、地層の連続してない、不連続の関係を示す言葉です。
 整合としてたまった地層が、大地の作用によって盛り上がり、陸になることがあります。陸に上った地層には、堆積作用はなくなり、こんどは浸食作用を受けるようになります。浸食によって地層は削られ、浸食の状況によって、不規則な凹凸(山や谷など)ができます。その後、陸にあった地層が、大地の営みによって沈降して海になることがあります。すると、削られた地層の上に新しい時代の地層が、再度堆積することになります。
 このような履歴をもつ地層の境界は、物質的にも不連続で、時間的にも不連続となります。この不連続面を不整合と呼んでいます。年代のギャップが大きいほど、不整合の規模は大きくなります。
 不整合のなかでも、グランドキャニオンでみられる不整合は、「大不整合(Great Unconformity)」と呼ばれて、特別な扱いを受けています。その意味するところは、次回としましょう。

・グランドキャニオン・
5億4200万年前がカンブリア紀の始まりです。
その前後にGreat Unconformity(大不整合)が形成されます。
グランドキャニオンだけの話であれば、
局所的、地域的な話になるのですが、
どうもそうではなく、全地球的な事件になりそうです。
残念ながら今回の大不整合は、
日本ではみることのできない現象です。
日本では、古生代の地層は断片的にしか見つかりません。
アメリカ大陸こそが、今回の事件解明の場として
ふさわしいところとなります。
私は、以前にいったグランドキャニオンを思い出しながら
今回紹介する報告を見ました。

・キャンプ・
はや、7月です。
北海道も夏らしくなって来ました。
曇や雨の日は蒸し暑い日もあります。
次男の小学校では、今週にキャンプがあります。
テントを張り、夕食を自炊して、
夜にはキャンプファイアをします。
グループごとにテントで寝ます。
翌日は昼前に帰宅となります。
親も手伝いにでることになります。
家内は夜の読み聞かせにいくようです。
夜9時半からの行事への参加です。
我が家の朝型の生活とは違っていますが、
まあ特別な日だから、子どもたちは、
興奮してなかなか寝付けないようですが。

2012年6月28日木曜日

3_112 下部マントル 4:二層対流へ

下部マントルが始原的隕石の成分に似ているということは、地球ができてからほとんど変化することなく、現在に至ったことになります。一方、上部マントルは、固有の進化を遂げたことになります。この結果は、地球の歴史を書き換えることになるかもしれません。一つの論文が、主流派に大きな変更を迫ることがあります。今回の結果もそのような役割を果たすかも知れません。

 上部マントルと下部マントルは、地震波の観察で物性に違いのあることがわかっていました。その違いは、結晶構造の違いとするか、成分が違いとするか、の2つの考えありました。趨勢は、成分は一緒で、結晶構造の違いではないかという考えでした。今回、村上元彦さんたちは、成分の違いだという実験結果を報告しました。
 下部マントルは、上部マントルとケイ素の多い点で違っていました。下部マントルは、太陽系の初期にできた隕石がもっていた組成に近いまま、現在に至っていることがわかってきました。一方、上部マントルは、もともとの隕石の成分から、ケイ素が少なくなっているということです。
 上部マントルのケイ素分は、一部は大陸地殻にいったと考えられます。プレートの運動によって、列島では火山活動が起こり、大陸地殻と同じような成分のマグマができ、噴出します。複雑な過程を経ますが、結果として、マグマは、上部マントルからケイ素の多い成分として取り除かれていくことになります。いったんできた大陸地殻は、密度が小さいので、すがた形が変わっても、地表にあり続けます。そのケイ素の分が、大陸地殻と地表に保存されることになります。40億年以上わたって、大陸地殻はつくり続けられています。その結果、ケイ素成分は、上部マントルから抜かれたことになります。
 この説には、問題がいくつかあります。
 まず、上部マントルのケイ素の不足分は、大陸地殻だけでは、足りないようです。上部マントルは、地殻に比べると、圧倒的に体積も質量も多いためです。ですから、不足のケイ素の一部は、地殻だけでなく、外核(とけた鉄でできています)に溶け込んでいるかもしれません。しかし、下部マントルをジャンプしてケイ素だけを運ぶのは可能でしょうか。まだ、十分検証されていないところです。
 次に、マントル対流の問題です。地震波トモグラフィの結果から、従来は、上部と下部マントルを通じて対流している(一層対流)ようにみなされていました。もし今回の結果と推定が正しければ、上下のマントルで対流が別々になっている(二層対流)可能性が強くなります。あるいは一層対流であっても、特別なメカニズムを考えなければなりません。
 もし、上下のマントルが、遷移帯を境にして、混じることがなく二層対流を続けてきたとしたら、長い時間別々の進化をしてきたことになります。これを採用すれば、従来の地球の進化シナリオを書き換える必要がでてきます。面白くなってきました。
 今までの定説が覆ることは、積み上げてきたものが、崩れていくことになります。新しい枠組みのもとで、新しい説が構築されていくことになります。その前に、いろいろな検証が必要となるでしょうが、もし今回の一つの論文によって大きな変化が起こることは、なかなか刺激的です。

・快晴の青空・
北海道はいい気候になって来ました。
例年より涼しいような気がします。
前期の講義も3分の2が終わりました。
近隣の大学では大学祭も終わりました。
初夏の陽気になってきました。
早朝、快晴の青空は
何事にも代えがたいよさがあります。
天候不順でしょうか、残念ながら、
そんな日が今年は少ないようですが。

・後追いの思い・
今年は、なんだか息絶え絶えとなっています。
仕事が重なっているので、
余計に辛いのかも知れませんが、
不況や時代のせいでしょうか。
いろいろなところで一杯一杯の状態で
働いている人が多数いるようです。
我が組織にも、重要なポストについている人で
そんな状態の人が何人かいるようです。
もし倒れれば、組織の犠牲となります。
辛いのなら、そこまで耐えずに
早目に仕事を降りればよかったのにと
多くの人が思ってしまいます。
後追いでのそんな思いは役に立ちませんが。

2012年6月21日木曜日

3_111 下部マントル 3:相違

下部マントルは上部マントルとは違うものでできていることを、村上さんたちは明らかにしました。結果自体は、想定内であったのですが、実証的に示したことが重要です。実証には高度な実験装置がいろいろ使われています。それは、日本の技術を背景にした成果であるといえます。

 村上元彦さんたちは、下部マントルで想定される化学成分の物質を用いて、それを超高温高圧装置を用いて下部マントルの条件を再現して結晶を作成します。その結晶は、下部マントルで存在できる結晶の組み合わせになっているはずです。さらに、結晶をその条件に保ったまま、結晶の性質をSPring-8を用いて測定しました。結晶の性質としては、主に弾性波速度を測定します。弾性波速度とは、地震波速度と同じとみなすことができます。ですから、実験の結果と、地球内部で得られている物性の情報と照合することが可能になります。
 村上さんたちは、上部マントルの化学成分を用いて実験をしたら、弾性波速度が地震波速度の値と一致しないことに気づきました。これは、下部マントルの物質は、上部マントルとは違っていることを意味します。
 実験をすすめた結果、現実の下部マントルの地震波速度の観測値と一番合うのは、93%以上がペロブスカイト型(一部、岩塩型になっている)の結晶の場合でした。ペロブスカイト型は、カンラン岩が遷移層より深部の条件でできる結晶でした。そこに少しの二酸化ケイ素(SiO2)の高温高圧の結晶(スティショバイト型とよばれる)が加わっていました。
 地震波速度に合う成分をもつものは、あるタイプの隕石でした。その隕石は太陽系の素材になったようなもので、始原的隕石ともよばれ、炭素質コンドライト(C1に細分されている)です。
 始原的隕石は、以前から考えられていたマントルの成分の候補の一つでした。時には、マントル全体が始原的隕石からできていると考えられ、主要な候補とともなっていました。しかし、研究が進み、上部マントルや遷移帯の実体がわかってきて、始原的隕石とは違っていることを示されました。ただ、下部マントルが不明のまま残されていました。それが今回、始原的隕石だと判明したわけです。
 上部マントルの成分に比べて、下部マントルは、ケイ素が多いことがわかりました。これは、上部マントルと下部マントルは成分が違うものでした。つまり、結晶構造の違いではなく、「もの」が違っていたのです。マントルは上下2層の構造持っていることになります。
 さて、この本質的に違っている2層構造の持つ意味はどんなものでしょうか。次回としましょう。

・重要性・
マントルの成分については、
私も以前、研究をしていたことがあります。
いろいろなアプローチの方法があるのですが、
私は、同位体組成から調べていました。
同位体を扱っている研究者は、
始原的隕石を前提にいろいろ検討を加えていました。
その発想は、
地球は始原的隕石が集合してできたのだから、
という単純なものでした。
地球は、始原的隕石をスタートにして
時間とともに、化学的分化が起こった
とする考え方です。
したがって、村上さんたちの結論自体は
以前にもあって真新しいことはないのですが、
実証的に示した点が重要です。
以前からあった始原的隕石は仮説や前提であったのですが、
今回、その仮説に根拠を示したことになります。
その点で非常に重要な成果だといえます。

・旭川出張・
北海道も夏めいてきました。
ただし、また肌寒い日がありますが、
気温は確実に上がっています。
そんな中、またまた出張しました。
メールマガジンは事前に予約発行するので、
火曜日に作成して発行手続きをしています。
ですから出かける前に作成しています。
旭川の様子はまだ報告できませんが、
道内の旭川なので、
車で2時間あまりで行くことができます。
講義があるのですが休講です。
補講が必要になるので、少々面倒ですが。

2012年6月14日木曜日

3_110 下部マントル 2:SPring-8

マントルと核(コア)は、岩石と鉄、固体と液体という大きな性質の違いがあります。地球深部の大雑把な特徴はわかっていますが、下部マントルの実態はよくわかっていません。今回、下部マントルは上部マントルとは違うことが分かってきました。その結果は、日本が誇るSPring-8という巨大な世界最高峰の装置を使っておこなわれた実験によるものでした。

 上部マントルと下部マントルの境界は、遷移層とよばれています。遷移層が形成されるのは、上部マントルの鉱物が、より高温高圧の条件になるため、より高密度の鉱物に変化(相転移といいます)するためだと考えられています。上部マントルの岩石を構成する鉱物は、数種類あるため、一度に相転移がおこるのではなく、条件に差があります。その差が、遷移層の幅を生んでいると考えられます。
 上部と下部のマントルは、相転移によって物性が違っていますが、マントル全体の化学組成は、一様なのではないかと考えらていました。それは、マントル対流で物質が循環されているからです。しかし、検証されているわけではありませんでした。
 以前紹介したエッセイで、愛媛大学の入舩さんたちが、高温高圧発生装置とSPring-8を使って、遷移層の下部には、ハルツバージャイトと呼ばれるカンラン岩があることを明らかにしました。それは、沈み込んだ海洋プレートに相当するもので、周囲のマントルのカンラン岩とは異質な成分があることを示していました。
 SPring-8とは、兵庫県の播磨科学公園都市にある大型放射光施設です。ここでは、世界最高の放射光を発生することができます。電子を光速近くまで加速し、磁力によって曲げる時に発生する強力な電磁波を利用します。この電磁波は、いろいろな物質を通り抜けぬけることができる強力なものです。電磁波を、非常に細く絞ることができ、微小な物質の性質を調べることができます。
 しかし、遷移層より深部の下部マントルの様子は、入舩さんたちの装置では達成できな高温高圧条件でした。
 その限界を突破したのが、東北大学の村上元彦さんたちのグループでした。報告は、先ごろ、科学雑誌(Natureの2012年5月3日号)に報告されました。彼らの装置は、温度2700℃、圧力124万気圧(124 GPa)を発生できるものです。マントルと核の境界(グーテンベルク不連続面と呼ばれています)は、深度2890mにあり、3200~4200℃、134万気圧(136 GPa)という条件になると考えられています。ですから、村上さんたちの高温高圧発生装置で、マントルの底付近の条件を再現できることになります。この装置でマントル物質を高温高圧状態にしたまま、SPring-8を使って鉱物の性質を調べることがなされました。
 超高温高圧装置とSPring-8を用いておこなった実験の結果、上部マントルと下部マントルは、組成が違っていることがわかりました。
 その詳細は次回としましょう。

・SPring-8の紹介・
研究者にとっては、最先端の装置が
利用できるのは素晴らしいことです。
装置は価格、必要設備、維持管理によって、
大学や学部、学科、研究室の単位で導入されます。
もっと巨大になると国家予算、
あるいは国際協力によって導入されます。
日本が世界に誇れる装置はいくつかありますが、
SPring-8の世界に冠たる装置でもあります。
今まで多くの実績を上げてきましました。
その紹介ビデオが以下にあります。
豊かな未来を照らす光 SPring-8(平成21年制作)
http://youtu.be/pvFnXbkCfvs
見えなかった世界が見える(平成17年制作)
http://youtu.be/ONW_7eHxpNU
また、年間の運用費用は約80億円強です。
安いと思うか、高いと思うかは人それぞれでしょうが、
私は安いものだと思います。

・ダイヤモンド・
高圧高温発生装置は、小さなものです。
ただし、ダイヤモンドを2つ用いておこなわれます。
尖った先を向きあわせて、締め付けて高圧を発生します。
平底よりピンヒールの靴に踏まれるほうが痛いのと同じで、
面積を小さくすると、
かけた圧力が何倍にもできます。
そこに、レーザーをあてて高温にします。
このような装置をダイヤモンドアンビルといいます。
宝石の単結晶ダイヤモンドを用いますので、
効果な装置です。

・青森行・
今日(6月14)の昼に青森に向けて大学を発ちます。
教育実習の現地指導のためです。
ゼミの担当の先生が行く予定ですが、
担当の先生が別件で不在なので
空いている私がいくことになりました。
まあ、ゼミは違えど同じ学科の学生です。
頑張っている姿を見学してきましょう。

2012年6月7日木曜日

3_109 下部マントル 1:対流

マントルは、一層対流か二層対流か、上部と下部の岩石は同じなのか違うのか。マントルについて、まだ解明されていないことが、いろいろあります。マントルは、近いようで遠いところ、人類はもちろん行くことも、見ることもできない未知の世界です。マントルでも、特にわかっていない下部に関する新しい情報が出てきました。マントルの最新情報を紹介しましょう。

 このエッセイでは、マントルの構造や構成などについて、何度か取り上げてきました。上部マントルの特徴や遷移層の特異性はわかってきたのですが、このたび(2012年5月)、新しい論文が出され、今までわかっていなかった下部マントルの様子が解明されました。それは、均質であると考えられていたマントルが、上下で成分が違うという報告でした。
 その説明に入る前に、マントルの概略をまとめておきましょう。
 マントルは、カンラン岩と呼ばれる岩石からできています。マントルは、特別な場所以外、すべて固体の岩石からできています。岩石のとけたマグマがあることから、マントルも溶けているように勘違いをされることがあります。地殻およびマントルは、基本的に固体の岩石からできています。
 岩石は、力を加えると割れてしまいます。地表でみられる岩石には、実際に多数の割れ目があります。割れ目には、ズレ(変位)のできているものもあります。岩石の大きな変位は、断層とよばれます。断層ができたということは、激しい破壊があったことになり、地震が起こったことを意味します。日本列島のように、海溝で海洋プレートが沈み込むようなところは、大きな力がかかっています。そのような場では、固い岩石がよく割れます。つまり地震がよく起こる場となります。
 物質の性質のひとつに粘性というものがあります。粘性とは、柔らかさ、流れやすさを表す数値です。小さいほど流れやすくなります。岩石は、温度が上昇すると、粘性が小さくなります。ある温度以上になると岩石は、割れることなく、固体のまま流動性を示すようになります。深さ100kmほどで、岩石は流動性を持つようになります。それより上の固い岩石の部分がプレートとして板状に移動していきます。このような岩石の性質が、プレートテクトニクスという現象を起こします。
 また、物質は、温かいものは密度が小さく、冷たいものは大きくなります。岩石も同じで、地球深部の温かいマントルの岩石は流動性をもっているので、上昇してきます。地表付近まで上昇してくると、一部は固い海洋プレートとなり海洋底を水平に移動してていきます。海底下で海洋プレートおよびその下のマントルは、冷やされていきます。やがて冷えて密度が大きくなった岩石は、海溝でマントルに沈んでいきます。これが、マントル対流と呼ばれているものです。マントル対流は、地球の熱を、地球表層、そして宇宙空間に運ぶというメカニズムとみなすことができます。
 このように、一見、単純明快なマントル対流ですが、マントル対流のスピードは、せいぜい年間10cmから数cm程度です。地表ではプレートの移動として実測されていますが、地下深部の対流を観測することはできません。しかし、対流が起こっているという証拠はいくつかみつかっているので、マントル対流はあると考えられています。
 地震波でみると、マントルの深度650km付近に境界が見つかっています。地震波にみえるほどの物性の違いが、その境界にあることになります。境界は一つの面ではなく、ある程度の幅があり、層としてとらえられているので、遷移層と呼ばれています。マントルは、遷移層で上部と下部に分けられています。しかし、上下のマントルにどのような違いがあるのか、特に下部マントルの特徴がよくわかっていませんでした。それは、マントル対流の実態を解明する上でも重要なものとなります。
 今回の報告は下部マントルの物質をある程度限定したという報告でした。詳細は、次回としましょう。

・実測不能・
マントル対流の運動の実測はなかなか難しいものです。
プレートの動きはVLBIという仕組みで
年間10数cmというゆっくりとしたものを
実測値として調べられています。
VLBIという手法はマントル対流へは適応できません。
マントル対流を実測するのは非常に困難なのです。
類推、推定するしかありません。
プレートの運動は重要な情報源ですが、
水のような綺麗な対流ではなく、
遷移層に溜まった後の落下や、
不思議な上昇メカニズム(プルーム)などがあるので、
実態とともに、そのスピードはよくわかっていません。
数100kmかなたの深部はわからないとだらけです。

・母の来道・
今週末から来週末にかけていろいろ行事があるので、
慌ただしくなります。
まずは、母が来道します。
今回は短期間ですが、
次男の小学校最後の運動会の見学が一番の目的です。
母は、畑で作物を作っているので、
長期の滞在は草が生えるので嫌がります。
でも、次男も区切りになるので、
母の来道を期待しているようなので、
呼ぶことにしました。
私が空港までの送迎をすることになっています。
だいぶ高齢になってきたので、
北海道に来るのは大変になってきました。
できれば孫の顔をみることを
励みにしてもらいたいものです。

・金星・
現在6月6日の昼前です。
金星が太陽面を通過する現象が起きています。
いくつかのネットのサイトで生放送がなされているのですが、
TBSのライブ中継がなかなかきれいです。
それを画面に出して時々みています。
北海道は朝は晴れていたのですが、
途中から曇って来て小雨もぱらつきました。
でも、TBSは九州からの中継なので
きれいにみえます。
金星は明らかに黒点よりはっきりと大きく見えます。

2012年5月31日木曜日

3_108 海台 5:ゴンドワナ大陸

(2012.05.31)
 海台をめぐるいくつかの話題を紹介してきました。今回はシリーズの最後となりますが、この海台が地球の歴史の上で、不思議な由来を持ったものであることがわかってきました。その謎は、過去に存在した巨大な大陸とその分裂の謎を解く鍵となるかもしれません。

 バタビア海台は、海底にありながら、大陸を思わせる証拠がいろいろ見つかってきました。不思議な岩石(花崗岩や片麻岩、化石を含む堆積岩)や陸地にみられる地形があることもわかってきました。
 バタビア海台の構成している岩石の年代はまだ測定中ですが、10億年前くらいまで達するのではないかと考えられています。片麻岩は、岩石が高度の変成作用を受けたもので、大陸を特徴付ける岩石でもあります。そして古い時代のものが多くなっています。もし、そのような古い年代が測定されたとしたら、海底の岩石(多くは1億年前より新しい)と比べて、明らかに古いものとなります。
 今後の研究が待たれますが、現状の証拠から、研究者たちは次のような推定をしています。
 バタビア海台はもともと巨大な大陸の一部で、その大陸が分裂した破片ではなかいと考えられています。位置関係からみると、インド大陸(現在はユーラシア大陸に衝突している)がオーストラリア大陸から分離した時、その破片ではないかと考えられています。そうすると、もともとあった大陸は、ゴンドワナ大陸となります。
 ゴンドワナ大陸は、現在のアフリカ大陸、南アメリカ大陸、インド大陸、南極大陸、オーストラリア大陸、アラビア半島、マダガスカル島が集まっていた大きなものでした。さらに遡ると、ゴンドワナ大陸もパンゲア超大陸の一部で、1億8000万年前頃に分裂してできたと考えらています。さらに、インドとオーストラリア、そしてバタビアの分離が、1億3000万年前ころに起こります。
 その分裂過程の詳細は、よくわかっていません。インド大陸の岩石は、大陸同士の衝突で山脈の下にもぐりこんだり、破壊されて、記録があまり残されていないようです。もし本当にバタビア海台がゴンドワナ大陸の破片であれば、その経緯が記録として残っていかも知れません。ですから、バタビア海台の調査の動向に期待されます。
 しかしながら、わからいこともいろいろあります。例えば、バタビア海台はいつまで陸上に顔を出していたのか、なぜ水没したのかなど、謎はまだまだあります。これが科学の現状もであるのですが、ネタが尽きなければ、科学者の仕事もあり続けるわけです。

・月の長短・
5月も終わりです。
私にとって5月は、あっという間の月でした。
ゴールデンウィークやゼミの飲み会など
いくつかの行事はあったのですが、
記憶に残るようなものが少なかったような気がします。
行事がいろいろあると、記憶が残るので
あれこれあったなあと、それなりの時間の長さを感じます。
6月は祝日はないのですが、
教育実習中の学生の指導のために各地に出張します。
そのために、講義を休み、時には宿泊をするため、
日常とは違った大きなできごととなります。
実習指導が重なると、長いひと月となるのでしょう。
6月はそんな月になりそうです。

・ジンギスカン・
5月下旬から6月にかけては、
北海道は一番いい季節になります。
ただし、今年は5月上旬暖かったのですが、
中旬から天候が不順になり、
寒い日が何度もきました。
我が家ではストーブはたかなかったのですが、
学生に聞くと、5月下旬なのに朝には
ストーブをたいていたといっていました。
霧氷がついたというニュースも流れていました。
せっかくのいい季節もこれは台無しです。
今週末は小学校でPTA主催の環境の整備の活動と
その後にジンギスカンがあります。
恒例の行事ですが、次男も今年で卒業なので最後となります。
この小学校とは、あしかけ9年間の付き合いです。
記憶に残すため、いろいろ参加していこうとかと考えています。

2012年5月24日木曜日

3_107 海台 4:バタビア海台

このシリーズの2回目で、海台にはいろいろな成因があることを紹介しました。その一つとして、大陸地殻が沈降したものがあるといいい、後で紹介するといいました。今回と次回のエッセイで、大陸起源の海台を紹介します。

 前回まで、巨大な海台であるオントンジャワを紹介しました。もうひとつまったく違う海台について、面白い報告が2011年11月に出されましたので、連続のエッセイで紹介します。海台の起源をめぐる内容の論文でした。
 場所は、オーストラリア西部の街パースの沖、西へ1600kmのあたりに、高まりがあります。バタビア海山(Batavia Seamount)とグーデン・ドラーク(Gulden Draak)と呼ばれている、海底の高まりですが、これまでその実態がよくわかっていませんでした。大きさは、2つの高まりを合わせて約60,000平方kmあり、北海道ほどの広さがあります。
 一連の海台として、正式な名称はまだありませんが、本稿では、「バタビア海台」と呼びましょう。
 調査があまりなされていない海域なので、国際的な研究者が集まって研究されました。研究チームは、バタビア海台は起伏にとみ、深さも2000mから1000mほどまで、多様であることを明らかにしました。海台は、周囲の深海底に対して、約4600mも高くなっています。海台の上部の凹凸は、陸地での侵食地形に似ていて、海台周辺の平らなところは、海食台のような地形だと考えられました。
 研究チームによって、バタビア海台の深度2500mのガケから、岩石が採取され、調べられました。その岩石は、なんと花崗岩、片麻岩、砂岩でした。これらは、海底や海山を構成している岩石ではなく、大陸を構成している岩石だったのです。さらに、堆積岩には、化石を含むものが見つかりました。その化石は、海に住む二枚貝でした。化石の二枚貝は、浅海で生活していたと考えられます。
 つまりバタビア海台は、変化にとむ陸の侵食された地形と、海の侵食を受ける海岸線(海食台、二枚貝)、そして海底で堆積する場(堆積岩)があったことになります。さらに、陸でも大陸を想定させるような岩石(花崗岩や片麻岩)もあります。
 これは、いったい何を意味するのでしょうか。次回としましょう。

・金環日食・
金環日食はご覧になられたでしょうか。
私は、あいにくの天気で見ることができませんでした。
もともと北海道は金環日食ではなく
部分日食にしかならないのですが、
80%以上が隠れる大きな部分日食になります。
ただ、終わりの数分の間、晴れ間ができたので
少しだけ欠けた太陽をみることができました。
テレビの特集できれいない金環日食をみたのですが、
今回の日食は、見れないことが
記憶に残るものとなりました。

・リラ冷え・
北海道は季節としては
一番いいころとなりました。
札幌では5月23日から27日まで
ライラックまつりが始まります。
ライラックは、リラとも呼ばれています。
曇で風が吹くと、すごく寒い朝もあります。
この時期のそんな冷え込みを「リラ冷え」といいます。
北海道的でしょうか。

2012年5月17日木曜日

3_106 海台 3:オントンジャワ

私たちが日ごろ目にしている火山と比べると、オントンジャワ海台を生み出した火山は、あまりに巨大でした。そんな巨大な火山であるがゆえの隕石説の登場でした。隕石の衝突によって、大きな火山が発生した例もあります。では、超弩級の火山の原因は、なにでしょうか。

 オントンジャワ海台は火山によってできたことは、岩石の採取から明らかになりました。そのような巨大な火山の原因が、隕石(地球外説)か、熱いマントル上昇流(地球内説)かが、問題になっていることを前回紹介しました。2012年2月16日の科学雑誌(Scientific Reports)に、フィリピン大学のTejada1さん、ハワイ大学のRavizzaとPaquayさん、そして海洋研究開発機構の鈴木勝彦さんが共同で、その起源に決着をつける論文を報告しました。その論文に基づいて説明していきましょう。
 隕石由来かマントル由来かの違いは、化学組成から判別できます。K-T境界の恐竜絶滅の原因が、隕石であるときに利用されたのもこの方法でした。
 隕石には白金族の元素(周期律表で白金の近くにある元素群)の濃度が大きいことが知られています。その濃度をオントンジャワ海台の岩石で調べればいいことになります。
 ただし鈴木さんたちは、少々複雑な手順で調べています。オントンジャワ海台の火山活動をしていた時期に、火山活動によって海に白金族元素が広がっていることを、以前おこなった研究で突き止めています。そこで、火山活動の同時代に海底にたまっていた堆積物(イタリア中央のゴルゴアセルバラというところ)を用いて、白金族の元素を分析をしました。
 その結果、白金族元素の割合が、隕石のものとは全く違うもので、マントルから由来したマグマによってできたことがわかりました。そして、隕石説を否定できたとしています。
 鈴木さんたちは、今までの研究の成果も加えて、オントンジャワ海台の形成過程とその影響を調べました。火山は、2回活発な活動をしていることがわかっています。両者の火山活動は、噴出物の量の多さから、地球史上最大規模の火山活動ではないかと考えられているものです。
 一度目の活動(1億2460万年前)で、大気中に二酸化炭素が大量に加わり、急速な温室効果がスタートしました。活動の終わる頃には、前回紹介しました「海洋無酸素事変」が起こります。その後、二度目の活動(1億2420万年前)が始まります。二度目の火山活動は、一度目よりは激しいものでした。はじまったばかりの海洋無酸素事変も、二度目の火山活動が起こったことで、継続します。無酸素事変の期間は、約100万年間に及びました。その結果、前回紹介した放散虫の大絶滅が起こったと考えられています。
 白亜紀末(K-T境界)の隕石衝突の事件では、大規模な絶滅が起こったことは有名です。今回の研究で、大規模な火山活動でも、大絶滅が起こることが明らかになりました。地球の大異変は、環境に大きな変化を与え、その変化が急激であれば、生物は適応できずに滅びてしまいます。そんなことを今回の研究は、示しているのでしょう。

・白金族・
白金族とは、
ルテニウム:原子番号44 Ru
ロジウム:原子番号45 Rh
パラジウム:原子番号46 Pd
オスミウム:原子番号76 Os
イリジウム:原子番号77 Ir
白金:原子番号78 Pt
の総称です。
いずれも地殻には少ない元素で、
多くは核(コア)にあると考えられています。
隕石では、元素の分離(正確には分化といいます)が
おこっていないので、
白金族の濃度も比較的高くなっていることがわかっています。
白金族の農集を、根拠に
K-T境界で隕石の衝突があったことが証明されました。
今回は、白金族の農集がないことが
隕石の衝突を否定ました。
面白いものです。

・疑問・
今回の論文において、なぜ、
オントンジャワ海台の火山岩や
その直上の堆積物を調べないのか
という疑問が生じます。
その答えは、隕石の衝突によって
マグマが形成されたとしても、
マグマ自体は多くはマントルが溶けたものとなります。
ですからマグマの中に隕石の痕跡がないからといって
隕石を否定したことにはなりません。
また、海台直上の堆積物は、
火山活動の終了後に堆積したものなので、
隕石の痕跡が残っていない可能性があります。
ですから、確実に隕石の痕跡を捉えるには、
少々離れてるかも知れませんが、
同時期に堆積したものを
試料にしたほうがいいことになります。
でも、あまりに離れているのは
少々気になりますが。

2012年5月10日木曜日

3_105 海台 2:巨大火山

火山はマグマによってできます。マグマはマントルが「何らかの原因」によって溶けたものです。その原因はなにか、というのが今回のテーマです。大規模な火山になると、普通ではない原因も考えられます。その有力な説として、地球外に起因する可能性も考えられています。

 海台には大きなものがあり、中でもオントンジャワ海台は、最大級の大きさがあることを前回紹介ました。オントンジャワ海台も含めて、海台はどのような起源があるのでしょうか。
 海台は、いろいろな成因があるとされています。火山活動によってきた海山や海洋島が沈降してできたもの(サンゴ海海台やベロナ海台)、海流によって堆積物がたまったもの(ブレーク海台)、断層などの構造運動でできたもの(キャンベル海台)、大陸地殻が沈降したもの(後で紹介します)、大規模で火山活動できた火山などが挙げられています。海台とは、地形としての区分名にすぎず、多様な成因があることになります。つまり、海台ごとにその成因を解明してく必要があるわけです。
 オントンジャワ海台は、活動時期が白亜紀前期(約1億2千万年前)の玄武岩の火山からできていることがわかっています。オントンジャワ海台は、大きいので、そのような火山は、地球(現在でも地球史上)でも、最大といえる大きさがあります。
 そのような超弩級の火山活動が海底で起こったのならば、地球環境に大きな影響を与えた可能性があります。
 火山活動に伴われて大量の噴出されたであろう二酸化炭素は、海底の噴火であっても、すぐに大気に達します。大量の二酸化炭素が大気に加わることになります。加わった二酸化炭素の量に応じて、温室効果によって温暖化が起こったはずです。
 実は、オントンジャワ海台の火山活動と同じ時期に、海水中の酸素が欠乏する「海洋無酸素事変」が起こっています。その原因は、温暖化によって陸地にあった氷床がほとんど溶けて、冷たい海水が大量に深海底に流れこみ、海水の大循環を止めてしまったと考えられています。その結果、海水に酸素が供給されなくなったのではないかとされています。
 同じ時期に、海のブランクトンの仲間(放散虫という種類)で、約40%もの大絶滅がありました。その大絶滅は、海洋無酸素事変によるとされています。放散虫の大絶滅も、もとをたどっていけば、この火山活動が原因ではないかということです。
 火山活動を起こした原因として、2つの説が唱えられています。下部マントルからの熱いマントル上昇流がマントル上部で大規模に溶けたためという説と隕石の衝突によってマントルが溶融してできたという説があり、長年論争されてきました。隕石の衝突による絶滅は、白亜紀末の恐竜絶滅が有名です。似たような規模の隕石の衝突があれば、上で述べたような環境異変や大絶滅も起こりえます。
 問題は、火山の原因が、隕石(地球外説)か、熱いマントル上昇流(地球内説)かということになります。オントンジャワ海台の物理探査や海底掘削などによる調査が進んできて、実体が少しずつわかってきました。そして、今年になって日本人研究者によって、決定的な証拠が出され、起源について決着を見ました。その詳細は次回としましょう。

・全原発停止・
原子力であろうがなかろうが、
電気にその由来の色はありません。
しかし、使う心にはその色を気にしてしまいます。
5月5日、北海道の泊原発が定期点検で停止しました。
これで日本では稼働中の原発はなくなりました。
だからといって、安心できるはわけではありません。
放射性物質はそこにまだ存在するのです。
そして動かすべきだと、必要だ考える人もいます。
放射性物質や放射線は無色無臭で、
その存在を感じる感覚器官は人間にはありません。
体が感じころには、死の恐怖が訪れるのです。
安全や安心は、他人や国から一方的に与えられるものではなく、
いつの時代であっても努力して手に入れるものなのでしょう。
手に入れる努力、守る努力をしなければと思います。
でも、なにをどうすべきか、悩みます。

・遅めの春・
長かったゴールデンウィークも終わりました。
天候の不順も少しずつおさまり、
北海道にも心地より春が訪れるようになります。
今年の桜は、少し遅目でしたが、
遅れた春を急ぐように足早に咲いては散っていきます。
今週でわが町の桜のピークも終わりそうです。
そして、すぐに初夏を迎えるようになります。
北海道の一番いい季節です。

2012年5月3日木曜日

3_104 海台 1:巨大海台

海洋は、まだまだ謎に満ちています。最初の謎解きは、多くの人が興味をひく、特別な場です。ありふれた場所は、代表的なところが解明されれば終了です。あとは特徴的なところへとつき進みます。海底の調査研究もその順に進んできました。

 海底には、さまざまな地形があることがわかってきました。列島や大陸の縁にある海溝、巨大な山脈である中央海嶺、海嶺を切る巨大な横ずれのトランスフォーム断層、点々と多数分布する海洋島や海山などの火山。海底は大陸以上に多様な地形があります。それぞれの地形は、地質学的背景をもっています。
 変化に富む海底ですが、いまだに未知の世界で、わからないことが一杯あります。海底は、専用の大きな調査船と特別な観測機器がないと調査がでないので、個人が自由に調べることはできません。研究をするためには、大きなプロジェクトを組む必要があります。大きなプロジェクトには、莫大な税金が投入されますので、明瞭な目的と規模に見合った成果が要求されます。
 海底地形は、大まかには知られています。そのために、概略の地形に基づいて、多くの研究者の興味をひく場で、プロジェクトが組まれ、調査が入ります。そして、より詳細がわかってきます。
 幸い海洋島は、海上に顔を出しているので、島に行く手段さえあれば、個人でも調査が可能です。しかし、個人の興味では、海底は調査ができないところです。また、興味を引く話題性に乏しいところの調査は、後回しにされます。
 調査船が自由に使えないころは、海域では、海洋島が主な調査対象でした。その後、海底の音波探査や海底の地磁気の調査によって、海底地形や形成過程の概要がわかってきました。深海底の平らなところは、いくつものボーリングがなされ、典型的なところはおさえられました。一番広い代表的なところがわかってきたので、それでよしとされました。
 興味の中心は、まずは中央海嶺、ついで各地の海山、海溝付近になり、現在では列島の付加体付近が、それに加わりました。いずれも海底地形では特徴のあるところでした。
 「海台」の実体解明が、他の海底には比べて遅れていたのですが、近年その研究が進められてきました。海台とは、海底より高い台地状の地形のところで、非常に大きな規模のものがあることもわかっていました。以前は海台の上部は平らだと考えられていたのですが、調査が進むにつれて、複雑な地形があることがわかってきました。海台には、いくつかの起源があると考えられています。
 中でも巨大な海台について、最近、その実体がわかってきたので、シリーズの紹介していきましょう。まずは、海台の中でももっとも巨大なオントンジャワ海台です。オントンジャワ海台は、西太平洋の赤道付近、ソロモン諸島の北にあります。面積186万km2、体積2690万~6130万km3(見積もりの誤差は大きです)で、関連する周辺の部分も含めると全体で面積488万km2、体積3640万~7600万km3になり、面積は地球の約1%、日本の面積の約14倍にもなります。
 その海台の正体は、次回としましょう。

・粘り強さ・
個人の努力で目標を達成できないのは、
いち研究者としては、歯がゆいものです。
それでも諦めることなく興味を維持していれば
やがては叶えられることがあります。
そのためには絶えることなく
他のことをしながらも、
興味を維持する粘り強さが必要です。
その粘りが、研究には一番大変なのですが。

・真面目な学生・
ゴールデンウィークの中2日間は、
授業をしていても学生の数が幾分少なく感じます。
でも、思ったより多くの学生が出席しています。
聞くと体育会系のクラブでは大会があるとのこと。
そして、後半の連休に帰省するという学生も多いようです。
まあ、素直で真面目な学生たちが
大半なのでしょうね。

2012年4月26日木曜日

6_102 生命の起源6:科学へ誘い

このシリーズで紹介しまたように、生命の起源については、いろいろな説が提唱され続けています。それぞれの説で、今でも新しい知見が示され、新しい論理が展開されています。生命の起源は面白いテーマで、なかなか目の離せないものであります。シリーズの最後に未知からの科学への誘(いざな)いを紹介します。

 海は、現在も精力的に探査され、500ヶ所以上の熱水噴出孔が発見されてきました。500ヶ所は多いでしょうか。少なくはないのですが、海洋の広さからすれば、ほんの少しかも知れません。探査が及んでいる地域も、ほんの一部ではないでしょうか。海には、まだまだ未知の領域がいっぱいあるはずです。
 ある熱水噴出孔からほんの数メートルしか離れていない別の噴出孔で、全く違う生態系が見つかっています。噴出孔の熱水は、黒いもの(ブラックスモーカーと呼ばれています)がいくつも見つかっていました。その後、硫化物や金属の少ない白い熱水をだすもの(ホワイトスモーカー)も見つかりました。さらに、海嶺以外のマグマの活動のない地域から、冷水が噴出するところも見つかり、そこではメタンを利用している微生物(メタン酸化細菌)を基盤にする生態系があることがわかりました。
 未発見の不思議な生物や生態系が、地球上にはまだまだありそうです。新しい発見のたびに科学者は驚かされていますが、そんな驚きこそが科学の楽しさではないでしょうか。
 生命の誕生は、地球形成以来、もっとも古く大きなイベントでしょう。そのため多くの研究者が興味を持ち、チャレンジしてきました。
 最初に誕生した生命の化石は、たぶん残っていないでしょう。なぜなら最初の生物は、あまりに儚(はかな)く、あまりに脆(もろ)く、あまりに少なかったはずだからです。最古の生命の化石があったとしても、その化石が現在の生物の直接の祖先とは限りません。何度もの生命の誕生のチャンスはあったはずです。たった一度のチャンスを地球の生命がものにしたとは思えません。ですから最古の化石が、私たちの祖先との関係は不明なのです。過去の唯一の物証ともいうべき化石でさえも、祖先として証拠能力は危うのです。
 地球の広さ、海の広さ、時間の長さに対する、これが現在の私の科学の到達点です。この到達点は、地球の45億年の時間の流れの中の「現在」という切片にすぎません。私たちは知っていることは、まだまだ少しかないのです。地球や生物の歴史は、奥深くもっと多様で知りえないものでしょう。私たちは、もっと謙虚に自然をみ、調べ、理解していく必要があります。驕(おご)ってはならないのです。
 生命の起源が古いが故に、実証が困難で、今も謎として残っているます。そんな未知だからこそ、私たちを科学へ誘います。生命の起源から、そんなことを感じました。

・新情報・
生命の起源に関する情報は絶え間なく出てきます。
火星の生命が30年前に見つかっていた、
大不整合の形成はカンブリア爆発を引き起こした、
などの報告もありました。
それぞれ興味をそそる内容ですが、別の機会としましょう。
科学のテーマは大きな流行もあります。
そのようなテーマは、資金も人材もつぎ込まれ
一気に研究が進み多様な発見や体系化が進みます。
一方で、ひとつのこと、マイナーなテーマを
こつこつと飽くことなく続けていく研究もあります。
そんな研究から大発見や新しい分野が生まれることもあります。
どちらの研究も大切ではないでしょうか。

・ゴールデンウィーク・
あれよあれよという間に、
4月もあと少しです。
今回のメールマガジンが4月最後の号となります。
次号から5月となります。
今年は、新入生の担当の講義は後期からで、
前期は大人数の講義に混じっているだけです。
でも、せっかくの長い休みですから
リフレッシュしたいものです。

2012年4月19日木曜日

6_101 生命の起源5:熱水噴出孔

生命の起源の本命ともいうべき深海の熱水噴出孔が今回の内容です。1977年に熱水噴出孔が発見されて以来、多数の研究がなされてきました。それは生命誕生の場として、有利な点が多々あるためです。しかし、それでもまだ未知はいっぱいあります。

 ここまで「生命の起源」のシリーズで起源について、いくつかみてきました。生命の起源説は、地球外と地球内に大別されました。地球内説として、地表の陸や地下温泉の最新動向を紹介しました。主流派は、なんといっても海、それも深海の熱水噴出孔です。では、シリーズの最後に、熱水噴出孔での生命誕生説の概要をまとめておきましょう。
 かつて深海は、未知世界ではあったのですが、静かで暗く冷たいところで、生命活動のない、変化のない「死の世界」のよなところだと考えられていました。1970年代から、深海の実体は、潜水艇で調査できるようになって、明らかになってきました。
 深海には、活発な場があることがわかってきました。最初の熱水噴出孔の発見は、ガラパゴスの海嶺に潜ったアメリカのアルビン号で1977年のことでした。各地の深海に潜水艇がもぐり、調査をすすめていくと、熱水を噴出しているところが、多数あることがわかっていました。今では500ヶ所以上の噴出孔が見つかっています。
 なによりの驚きは、生態系の発見でした。陸地のものとは全く違う生態系が、そこにはありました。微生物だけでつくっている生態系ではなく、貝、エビ、カニ、魚類などの多様な生物種が織りなす生態系でした。
 地上の生態系における生産者は植物で、太陽光をエネルギー源とする光合成を基盤にしています。深海底では太陽光は届かないので、別のエネルギーを用いている生態系でした。エネルギー源は、噴出している熱水でした。深海の海水温は2℃ほどなのに、熱水の温度は400℃ほどにも達するものもありました。熱水が、エネルギーとなり必要物質の供給源でした。
 生態系において、熱エネルギーと熱水に溶けているさまざまな成分が重要な役割を果たしています。噴出孔では、高温の熱水に溶けていた成分が、周りの冷たい海水に急激に冷やされることで、析出、沈殿をします。それが噴出孔のまわりに付け加わって、煙突状(チムニーとよばれています)になります。チムニーの周りに、深海の不思議な生態系が形成されていました。
 生産者としての微生物は、熱水に含まれている硫化水素を利用するもの(イオウ酸化細菌)です。酸化還元の化学反応によって生じるエネルギーを利用しています。酸素がまったくない環境(嫌気性)で、りっぱな生態系が成り立つことがわかってきました。
 噴出孔の環境は、酸素と太陽エネルギーを中心としている地表の生態系と比べて、効率は悪いのですが、地球初期を想定すると、生命誕生の有力な場といえます。なぜなら、まず酸素は地球では20億年前ころに形成されたものですから、酸素を利用する生物が最初の生命とは考えられません。また、地表は初期の生物にとって、変化の激しい環境、有害の太陽光(紫外線)など、非常に過酷な環境です。深海は、地表に比べると安定した環境だといえます。そして、生命活動のエネルギーとしてだけでなく、生命誕生のための化学合成の環境として充分なりうるものです。
 多数の生物起源にかんする研究が、深海の熱水噴出孔でなされてきました。熱水噴出孔を前提にした実験もいろいろなされてきました。その結果もあって、今では多くの研究者も、深海の熱水噴出孔が生命の誕生の場ではないかと考えるようになってきました。
 しかし、残念ながら、熱水噴出孔が生命の誕生の場という決定的証拠はまだ見つかっていせん。現在の生態系はあくまで、現在生きている生物によるものです。最初の生物によるものが継続しているわけではありません。地球のように、多様な生物があらゆる環境にいる星では、もはや原始の生物はいないでしょう。証拠が見つかるかどうかも疑問です。また、今までの生物と関係なく独自に新たな生物が生まれることは、生存競争の激しい地球では難しいのではないでしょうか。

・永遠の謎の魅力・
自分の由来が、あるいは自分の祖先が
どのようにして出現したのかは、
興味の尽きないテーマです。
しかし、上で述べたように、
生命誕生の謎は、なかなか実証できない難問です。
永遠の謎かもしれません。
そんな謎だからこそ、
より興味を惹かれていくのかもしれません。

・4月も中旬・
新学期がはじまったと思ったらもう4月も中旬です。
時の流れは早いものです。
来週末からはゴールデンウィークがはじまります。
もう少し講義が進んで
大学の日常になれてからの方がいいと思いますがが、
現状の日程ではきついようです。
ゴールデンウィークは慌ただしい環境変化をした
学生にとっては一息の時期かもしれません。
自分を取り戻すいい機会かも知れません。
ただ、5月病になっては元も子もないのですが。

2012年4月12日木曜日

6_100 生命の起源4:熱い泥沼

生命が地表でできたという説が、最近出されました。新しい説では、火山地帯で熱水が流れる泥の沼のようなところを想定しています。もちろん似た考えからは以前からありましたが、新しく提唱するために、最新のデータが提示されています。それなりの説得力もあります。さて、この新しい説を信じることができますか。

 地球内の生命起源説で、陸地での誕生の可能性を指摘する論文が発表されました。もちろん、なにもない陸地では、生命は誕生しません。それなりの条件が必要です。有機物を無機的に合成するのですから、材料と合成のためのエネルギー源が必要です。そして、多様な試行錯誤が必要なので、その条件がありふれた場で多数存在すべきでしょう。さらに重要なのは、そのような条件の方が、他の説より有利だという証拠も提示されなければなりません。
 2012年2月13日にムルキジャニアナ(Mulkidjaniana)たちが発表したもので、「Origin of first cells at terrestrial, anoxic geothermal fields(陸地の無酸素の地熱地帯での最初の細胞の起源)」というタイトルでした。陸地でそのような条件を満たすところは、火山地帯でした。熱い温泉が湧き出し流れ、泥の沼をつくっているような場所です。熱い泥沼を想定したのは、いくつかの化学成分を根拠にしています。
 深海の熱水噴出孔を取り囲んでいる環境は、海水です。しかし、細胞内に蓄えられている液体は、海水とは化学成分が違っています。一般の細胞内の液体には、現在の海水より、はるかに多くのカリウム(海水の10倍)、リン酸塩(1万から1千万倍)、および遷移金属(鉄やマンガン、亜鉛などが数桁倍)を含むのに対し、ナトリウムは海水の1/40ほどしかないという特徴があります。実は、以前からこのような化学成分の違いは、問題とされていました。
 この問題を解決するには、細胞の体液が変化した、細胞が周りの環境から必要な成分を選択的に取り込んだ、原始の海水と現在の海水とは違っていた、などという打開策があります。しかし、そのためには、何らかの進化、仕組み、変化のためのプロセスを提案し、その根拠も示す必要があります。
 一方、素直に、細胞ができた環境と似た液体を体内にもっているはずだとする考えもあります。そのような場を、海以外で探そうというアプローチになります。海水はナトリウムが多く、カリウムが少ないのですが、火山の熱い泥沼ではカリウムが多く、ナトリウムが少ないところもあります。最初の細胞の「孵化場(hatchery)」として、陸地を考えるのであれば、現在とは違う原始大気のもとで考える必要があります。原始大気は、酸素がなく二酸化炭素の多い成分であったこと考えられています。さらに温泉がわいているような場であれば、成分や合成のエネルギーも調達可能です。
 有機物の合成と細胞内の化学的特徴をつくるには、蒸発の激しい浅い泥の池(金属硫化物と多孔質ケイ酸塩鉱物がまじっている状態)であれば、先ほどの化学成分の条件を満たす環境ができそうだとされています。実際に火山の熱い泥沼にみられる濃縮された蒸気に似ていることがわかりました。
 さて、陸地の熱い泥沼ですが、説得力あるデータが出されています。それでも、地表は生命の「孵化場」としては、過酷に思うのは私だけでしょうか。酸素のない大気ではオゾン層ができないので、DNAを鎖ができてもすぎに切ってしまう紫外線も強かったはずです。植生のない大地は、大雨や洪水があれば、地表は簡単に洗われ、せっかくの泥沼も一時的に消えてしまうこともあるでしょう。火山は移ろいやすいものです。火山活動はやがては終わりを告げます。せっかく合成された最初の細胞も、絶滅してしまわないでしょうか。また、できた生命をどのようにして海に運び、どのようにして組成の違う冷たい環境に耐えられるようにするのでしょうか。そんな困難さが、この説にはありそうです。

・誕生場論争・
生命の誕生の場として、
ダーウィン以来、地表は候補になっていました。
そしていろいろな候補地が挙げられました。
しかし、地表は多様な環境がある分、
その環境の周辺は過酷で、維持も難しく、
海まで移動しなければなりません。
そんなハンディをいつも抱えています。
その点、海中や深海底は穏やかな環境が保証されます。
そんなせめぎあいが、生命の誕生場論争には
常につきまとっています。

・淡々と・
4月もあれよあれよという間に過ぎていきます。
新入生で大学は賑やかになりました。
今日からはもう授業が始まります。
半年で15回の講義ですから、
7月一杯まで講義がぎっりしつまり
8月に定期試験です。
夏休みにも集中講義が入ります。
教員も大変ですが、学生も大変です。
まあ、年度当初からグチをいっても仕方がありません。
淡々とことを進めてきましょう。

2012年4月5日木曜日

6_99 生命の起源3:地下温泉

生命の起源として、地球外の可能性は論理的には否定できませんが、やはり地球内の起源を探ることは不可欠でしょう。生命の地球内起源説で一番有力な説は、深海の熱水噴出孔ではないかと考えられていましたが、最近、地下の鉱山内の温泉で、古いタイプの生物が見つかり、初期の生物の可能性が指摘されました。

 生命の起源を地球外に求めた研究をいくつか紹介しました。次に、地球内起源の新しい研究結果を紹介します。
 地下鉱山の内部に流れる温泉に生息する微生物で、非常に古いタイプの生物が発見されました。実は、その研究結果は、熱水噴出孔の可能性を示すものでした。
 海洋研究開発機構の髙見英人さんらが報告した研究です。「A deeply branching thermophilic bacterium with an ancient acetyl-CoA pathway dominates a subsurface ecosystem(深くで分岐した古いアセチルCoA経路を持つ好熱性バクテリアが地下生態系では支配的である)」というタイトルで、2012年1月に公表されました。
 髙見さんたちは、海底の熱水噴出孔と似た環境を想定して、地下鉱山で70°Cほどの温泉の流路を探しました。そして、その温泉の中に棲んでいる微生物群を見つけて、採取されました。微生物の群れの中から、好熱性バクテリア(Candidatus Acetothermus autotrophicumという名前、以下アセトサーマスと呼びます)を見つけ、ゲノムの解読をされました。
 生命の誕生は、熱水噴出孔だとするのが主流の考え方です。熱水噴出孔の環境は、比較的温度の低く、アルカリ性の熱水のあるところだと考えられています。そのような環境では、水素と二酸化炭素からエネルギーを得るための代謝が、もっとも古いタイプになります。そのような代謝は、論文のタイトルにあったアセチルCoA経路というものになるはずです。
 それを検証するために、髙見さんたちは、アセトサーマスを選び、ゲノムの解読をされました。
 解読の結果、アセトサーマスは、初期の生物(コモノートと呼ばれている)が持っていたと考えらえているエネルギー代謝機能であるアセチルCoA経路であることがわかりました。知らているバクテイアの中では、始原的なもので、もっともコモノートに近いことがわかりました。つまり、アセチルCoA経路がもっとも古いタイプの代謝であることを、髙見さんたちは、検証したことになります。
 この研究は、地下の熱水で生物が発生した可能性を示すことにもなりますが、そのような環境には、原始的な代謝形態を残す生物が今も生息していることも示しています。ということは、深海の熱水噴出孔より試料採取や多様性の確保がしやすくなります。研究しやすい場を得たことなります。そんな研究の可能性も拓いたことになります。今後も地下の坑道で研究が進められることが期待できます。
 生命の地球内起源説では、地下だけでなく陸地での誕生の可能性を指摘する研究が発表されました。次回はそれを紹介しましょう。

・科学の宿命・
過去の記録に残りにくい現象や事件を研究するとき、
いくつもの可能性が提唱されます。
それらのどの可能性が正しいのかは、
最終的な決着を見る場合は少ないはずです。
なぜなら再現性のない過去の出来事ですから、
正しいかどうか検証不可能だからです。
生命の起源の研究は、証拠の過多や論理の優劣で
追求されていくことになります。
論理的ではないのですが、
歴史性を含む科学の宿命なのかもしれません。
その点では科学的なのかも知れませんね。

・新入生・
いよいよ4月の新年度です。
大学も入学式を終え、
新入生がキャンパスを賑わせています。
教員もこの時期になると気分一新します。
なにより新入生の顔をみると
清々しい気分になります。
そんな新入生を見ながら、
いつものことですが、
新しい講義の準備に追われています。

2012年3月29日木曜日

6_98 生命の起源2:生命の材料

生命にとって必須のDNAをつくる材料が隕石から発見されました。それが、地球外で形成され、地球のもたらさたことを慎重に検証されました。生命の材料が地球外でも形成可能だというインパクトのある結論になります。その研究の概要を紹介しましょう。

 地球外生命に関わる報告は、2011年8月のアメリカ科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されたました。論文のタイトルは、"Carbonaceous meteorites contain a wide range of extraterrestrial nucleobases"(炭素質隕石は地球外の核酸塩基を広く含む)というものでした。NASAの研究者のCallahanたちが報告でした。
 隕石は生命の地球外起源説の検証するために非常に重要な素材となります。なにしろ隕石は地球外の物質で、太陽系のどのタイプの小惑星から由来したのかが検証されてきました。前に紹介したイトカワから持って帰った試料の成果が出はじめたためです。
 隕石の中には、炭素をたくさん含んでいる炭素質隕石というタイプがあります。その中には、有機物を含んでいるものがあることがわかっています。隕石の有機物について議論をするとき、地球の生物由来の「汚染」ではないかという問題がつきまといました。
 そのような疑問を解消するために、Callahanたちは、12個の隕石を分析しました。そのうち7個は南極で発見された隕石を含んでいました。分析の結果、アデニンとグアニンを発見しています。これらは、DNAの構成する塩基の4つのうち2つにあたります。生命活動に重要なヒポキサンチンとキサンチンという有機物も発見しています。
 さらに、地球上ではまれな3つの核酸塩基類似体(2,6-ジアミノプリンと6,8-ジアミノプリンというもの)も発見しました。これら2つの成分は、地球上の生物活動ではできないもので、地球の汚染ではないことを示しています。それらの成分は、隕石が発見された場所の土壌や南極の氷を調べたところ、そこからは発見できないものであり、地球外のものであることを示しました。これらの検証は、信頼できる手続きを経ているといえるます。
 生物にとって不可欠である有機物が隕石にあることはほぼ確定されました。太陽系内の小惑星の母天体で生命の材料の一部が合成可能であること、また地球にもたらされるときの衝突による激しい熱や圧力でも分子が壊れず、地表に達し、残ることを意味します。地球外で生命の材料が合成され、地球に供給され、地球でそれらを組みたてればいいという仮説をサポートすることになります。
 もっと視野を広げると、他の大きな天体(火星や木星や土星の大きな衛星など)でも、生命の素材はある程度揃えることが可能であることを示ししています。
 一方、生命の地球内起源説でも、新たな展開がありました。地球の生命の誕生の場は、深海の熱水噴出口ではないかと考えられています。これも何度も議論されて、多くの研究者がこの立場で研究しているのですが、そこで新しい証拠が見つかりました。

・まぐまぐに感謝・
3月26日から4月1日まで家族で
故郷に帰省しています。
独居の母に会うためです。
来年度は子どもたちが
卒業、入学の時期になるので動けません。
今年が春に出かけられる少ないチャンスとなりました。
長期の不在となるので、
このエッセイも事前に作成して予約配信しています。
おかげで長期出かけるときでも
定期的にエッセイを発行することができます。
ありがたいシステムです。
まぐまぐに感謝です。

・b-mobile・
出かけるときでも、いまでは多くの人が
インターネットに接続しています。
ある人はスマートフォンでおこなう人もいるでしょう。
ある人はデータ通信専用の機器を持っている人もいるでしょう。
私も1月まではデータ通信専用の機器を使っていました。
四国に滞在しているときは、docomoも通信専用機器を
2年契約で使用していました。
もちろんそれなりの通話料は支払っていました。
使わない時も基本料金が必要でした。
今では解約してので、出かけるときにネットに繋ぐことができません。
以前購入していた3ヶ月50時間使用できる
b-mobileの通信装置を数年ぶりに
セットアップして接続しました。
新しいソフトを見つけて、インストールしたら
無事動いてくれました。
これは3Gで300kbpsなので、
日頃高速の数MBのスピードで使っていると
すごく遅く感じます。
まあ、快適さは逆戻りはできないので、
旅先だと思って気にしないでおきましょう。

2012年3月22日木曜日

6_97 生命の起源1:信頼度

生命の起源について、何度かこのエッセイでも取り上げています。新しい事実や考えが提示されたことをきっかけに、話題として取り上げきました。時間と共にそのようなデータは集まってきます。しばらくし間が開くと、話題がたまってきました。ここ1年ほどの間に、集めた話題をまとめて紹介しましょう。

 生命はどこから来たのか。これは、すべての人にとって、そして古くから現代でも非常に興味のある話題であります。最近、いくつかの発見があり、ニュースにもなったことがあります。その中からいくつか紹介していきましょう。
 生命起源の説については、地球内か、地球外か、という大きな考え方に分けられます。
 地球外起源説は、パンスペルミア説(胚種広布説)とも呼ばれ、古くからある説です。地球外のどこかで誕生(地球外でどの程度進化したのかどうは問わない)した生命が、何らかの方法(手段は問わない)によって地球に飛来し、現在の地球生物の共通の祖先となったというものです。地球外といっても、太陽系内か、太陽系外かも重要な問題です。なぜなら、太陽系内なら、現在の技術の延長線で、近い将来に検証可能となります。太陽系外なら傍証は集められたとしても、科学的な検証は困難となります。
 地球内起源説は、地球にあるの何らかの営力によって、化学合成から生命ができたというものです。どこが誕生の場であったのか、どのようなプロセスを経てきたのかということも、議論になります。地球外起源説とも関係しますが、生物の材料が、地球内で合成されたものなのか、それとも地球外で合成され由来したものなのかという議論もあります。
 これらの可能性がいろいろと組み合わさることによって、多様な仮説が登場することになります。科学者がまじめに取り組んで、新発見や成果があると、ニュースになります。ニュースの中には、少々いかがわしいものも混じってくることがあるので、やっかいです。もちろん、科学であれば、好き勝手に仮説を出すことはできません。信頼性が必要になります。
 科学的に重要な発見は、厳重な検査や検証を受けた(査読制度といいます)のち、科学雑誌に掲載されます。その厳重さが、雑誌の信頼度となります。信頼度と権威とは違います。権威を傘にきて、発言することは、科学的ではありません。査読とは、似た分野の利害のない数名の研究者が、論文を事前に読んで、その科学的プロセスや結果や結論に問題ないか、そしてその成果が雑誌に掲載の価値があるかどうかも判断するものです。その審査の度合が雑誌の信頼度となります。
 研究者は成果に応じた信頼度の雑誌に、査読者は雑誌の信頼度に応じて査読判断をします。研究者も査読者も人ですので、雑誌自体が権威の象徴化するので、注意が必要です。実はどんな雑誌にどれくらい論文を書いたのかが、科学者の能力を権威づけています。
 では専門が違う分野の科学者、まして市民は、信頼度をどのように把握すればいいのでしょうか。以前であれば、信頼できるメディアがあったのですが、最近はどうも信頼がなくなってきたので、ニュースソースを直接あたり、そのソースがどのようなところかで判断するしかなさそうです。それは、権威に依存するという自己矛盾が生じることになるのですが、どこかで妥協するしかなさそうです。
 閑話休題。生命起源の話題にもどりましょう。
 1996年8月、NASAの科学者たちが、南極で発見(1984年)された火星由来の隕石(ALH84001)から「生命の化石」を発見したという報告をしました。信頼性の大きい科学雑誌「Science」に発表されたので、大きなニュースになりました。このニュースを私も聞き、すぐに論文を読みました。科学的手続きを踏まえた検証を経ているので、それなりの説得力がありました。そしてなにより雑誌の表紙を飾った写真が印象的でした。芋虫のような化石の写真がありました。もちんサイズはすごく小さですが。今では、どうも化石というには、証拠不十分のようだと考えられています。彼らは火星生命に関しては諦めていないようですが。
 さて、新しいニュースです。2011年3月には、NASAの研究者が、隕石から化石を発見したという論文を発表し、各紙がニュースにしました。NASAの研究者という肩書きだったせいでしょうか、ニュースになり、私もその原著論文をあたりました。報告自体は論文の体をなしていますが、掲載雑誌が怪しげにみえます。本当に多くの人に訴えたいのであれば、信頼性が保証される査読制度のある雑誌に論文を投稿すればいいのと思いました。論文を読む前にもう少し調べたら、この報告に対して、NASAの宇宙生物学研究所長や研究者が、いくつかの難点を上げて、否定的見解を公式に出したようです。まあ、この件は、置いておきましょう。
 2011年8月に、NASAの別の研究者たちが、隕石からDNAに関連する分子を発見したと報告され話題になりました。この雑誌は信頼の高い(権威のある?)雑誌、アメリカ科学アカデミー紀要(PNASと略されています)に掲載されました。その内容は、次回としましょう。

・データ収集・
このエッセイを書くためでもあるのですが、
科学、特に自分が興味を持っている分野に関して、
広く情報を収集しています。
それをファイルにしてとっています。
そのファイルをもとにエッセイを書くことにしています。
最新情報に関しては、関連のデータを
収集するという手間をかける必要があります。
それなりの時間も手間をかけなければなりません。
最新情報の収集も研究の一環、勉強だと思って、
手間や時間を惜しむことなくおこないます。
今回のエッセイも今までニュースが報道され、
情報を集めていたのですが、
エッセイする機会がなかったものです。
バラバラになっていたニュースをまとめて
今回、紹介することにしました。

・リテラシーと知性・
生命の起源は、このシリーズでも紹介しますが
エッセイでは何度も話題になっています。
新しい知見があると、ある仮説に天秤が動き
大きく取りざたされます。
特に地球外生命に関わる話題は
ニュースバリューがあり、大きく伝えられます。
人がその方面に興味を持っているためでしょう。
でも、だからこそ科学的検証は
慎重に厳重におこなうべきでしょう。
情報を隠すことなく、
冷静で公平な報道が望まれます。
メディア側の高いリテラシー、高い知性が望まれます。
今の日本は、大丈夫でしょうか。

2012年3月15日木曜日

5_105 イトカワ 4:検証

イトカワの初期成果は、だいぶ出てきました。その初期的報告の概要をまとめておきましょう。その成果のなかで一番重要なことは、推定が検証されたことではないでしょうか。これからの研究では、新知見が期待されます。

 前回は、最新の論文を紹介しました。イトカワの研究成果は、このシリーズの最初にも書きましたが、2011年8月26日号のアメリカの科学雑誌Scienceに、まとめて6つの論文が報告されています。詳しく紹介すると長くなるので、それらの概略を紹介していきましょう。
 東北大学の中村智樹さんらは、鉱物学の研究から、イトカワ(S型小惑星に区分されている)が普通コンドライト隕石(LL4~6に分類されている)に似ていることを示しました。これによって小惑星のS型とLL4~6隕石の対応が検証されたことになります。さらに、イトカワは、もとは10倍以上も大きな天体(母天体)であり、内部の温度はいったん800℃以上になってから、ゆっくりと冷えてきたという履歴を明らかにしました。そして衝突によってばらばらになり、再び集積してイトカワになりました。
 北海道大学の圦本さんたちは、微小部分の酸素の同位体測定をして、地球のものとは明らかに違う成分を持っていることを確認しました。つまり地球の物質が混入したものではなく、イトカワの由来の物質であるという証拠を示しました。また、隕石の普通コンドライト(LLまたはLグループ)に属し、それらの供給源の天体の1つであることがわかりました。
 首都大学東京の海老原さんたちは、中性子放射化分析という手法で各種の元素をおこないました。その結果、太陽系誕生の最初期に起きた元素の分別過程を残していることを明らかしました。
 大阪大学の土`山さんたちは、X線マイクロトモグラフィという装置を用いて、粒子の形を3次元で調べて、小さな重力しか持たない天体の堆積物(レゴリス、regolithと呼ばれる)であることを明らかにしました。これは小惑星由来であることを別個に検証したことになります。そして、粒子のつくりや鉱物の比率から、普通コンドライト(LL5あるいはLL6コンドライト)であると推定しました。
 茨木大学の野口さんたちは、電子顕微鏡で粒子の表面を調べ、宇宙空間での風化によってできた超微粒子を見つけました。また、LLコンドライトが宇宙風化を受けると、S型の小惑星になることも示しました。
 東京大学の長尾たちは、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン)を分析して、粒子がイトカワの表層にあった証拠を示しました。粒子が、イトカワの表面で、太陽風に、数100年から数1000年間、さらされていたこともわかりました。また、イトカワ表層にある物質は、百万年に数10cmの割合で削られていることも明らかにしました。
 これらの成果には、新知見もありましたが、予想通りに内容も含まれています。予想通りの内容は、イトカワからの粒子であること、小惑星はある種の隕石と類似のものからできていることなどです。しかし、今まで推定にすぎず、今回、小惑星イトカワから物質を入手し分析して、はじめて検証されたことになります。推定に確実な根拠を与え、検証したことになります。これは、新知見と比べると、地味にみえますが、科学にとっては重要なステップとなります。この検証によって、他の隕石と小惑星の類似関係の推定も確からしくなりました。科学にとっては、大きな前進となります。
 さて、基礎的な予備調査は終わりました。今後、試料が配布されるはずですから、新知見が次々と報告されることになるでしょう。ますます期待が高まります。

・別刷り・
先週のエッセイでイトカワの研究成果について書いたら、
中村さんから別刷りが送られてきました。
たまたでしょうか、それとも
エッセイをご覧になっていたのでしょうか。
研究所のある地元で科学者110名を集めて
シンポジウムが開催されたようです。
その一環で市民向けの催しもなされ、
多数の子供を含む15000人もの人が訪れたようです。
宇宙探査や地球外生命に関する科学の最前線の話題を
興味をもって聞いていたようです。
その市民向けの催しのニュースは読んでいたのですが、
エッセイに書くのを忘れていました。
別刷りに同封されていた手紙にも
その様子が書かれていました。
盛況だったようです。
なかなか遠くて、研究テーマも違ってきたので
センターには行けないところとなりましたが、
活躍されている様子を遠くから拝見しています。
今後も活躍されることを期待しています。

・卒業・
国立大学は今は2次試験が終わり、
その集計中でしょうか。
私立大学は、いよいよ卒業式のシーズンです。
我が大学は、今週金曜日に卒業式がおこなわれます。
人数が多いので、大きな施設を借りての卒業式となります。
その後は、ホテルでの祝賀会、
さらに学科の謝恩会が続きます。
めでたい行事が一晩でおこなわれます。
その後、若者たちは旅立ちの日を迎えます。

2012年3月8日木曜日

5_104 イトカワ 3:クレーター

先日、イトカワの試料から小さなクレーターが発見されたというニュースが流れました。イトカワの試料を初期分析している過程で発見されたものです。その内容を、速報として紹介しましょう。

 2月27日付けのアメリカの科学雑誌(科学アカデミー紀要の電子版)に岡山大学地球物質科学研究センターの中村栄三さんたちが、イトカワの試料から小さなクレーターを発見したという報告がなされました。5つの試料を初期分析している過程で発見されたものです。
 論文では、50μmから110μmの5つの試料を用いています。その粒子の表面の観察と分析をもとに新たに発見されたものです。これらの粒子は、いく種類かの鉱物(カンラン石、輝石、長石)とガラスからできていました。鉱物の成分から、普通隕石に分類されるものであることがわかりまして。他の粒子からも同じ結論がえられています。
 鉱物の検討から、いったん900℃ほどの高温になったことがわかりました。現在のイトカワでは、けっしてならない高い温度です。したがって、イトカワは、今の大きさになる前に直径数10kmの小惑星(母天体)があり、それが衝突、破壊され、再度の集積したものだと考えられます。
 粒子の表面には、いろいろな小さいの粒がついているのですが、その粒の中には、平たいディスク状のものがありました。衝突で溶けた物質が飛び散り、固まったものです。ディスクの表面には、含まれていたガスが抜けた穴が見られます。彼らの推定では、1/1000秒ほどで溶け、1mほど飛んだとされています。非常に小さなサイズの衝突、溶融事件があったことになります。
 今回の粒子の表面に0.数μmのクレーターがいくつも見つかりました。このような小さなクレーターは、数十nm(ナノメーター)の小さな隕石が、かなりの高速で(秒速数10km)衝突したためです。いくつものクレーターがあるということは、そのような衝突事件が頻繁に起こったことになります。ただし、事件の時期は不明です。クレーターの形成がある時期に集中して起こったのか、定常的に起こっているのかは不明です。
 さらに、太陽からの飛んできた粒子による侵食の様子も発見されています。太陽からは、水素イオンがプラズマとして、常に大量に飛び出しています。これを太陽風と呼びます。太陽風がイトカワの粒子にあたり、表面を削っています。その結果、表面がサメ肌状になっていることもわかりました。
 イトカワは、穏やかに宇宙空間を漂っているように見えますが、その形成にいたる履歴には、想像もできないいろいろな事件があったことが、小さな粒からも読み取られています。

・補足情報・
膨大な情報が背景にあります。
その粒子は貴重なので、
分析データの持つ意味も違ってきます。
中村さんたちの論文自体は、6ページなのですが、
補足情報(supporting information)として、
5つの粒子に関する詳細な分析方法の記述や
分析結果が膨大な量、つけられています。
補足情報は34ページに及びます。
1mmにも満たない小さな粒が5つに関するものです。
初期分析ではあまり破壊的な分析はしないはずなので
これらくらいの情報ですが、
今後公開された試料で、小さいものは
破壊分析もおこなわれる可能性があります。
すると今以上の情報が得られるはずです。
期待が高まります。

・古巣にて・
今回の報告者の中村さんとは
古くからの付き合いです。
私も岡山大学地球物質科学研究センターに
所属していたことがありました。
思い越せばだいぶ前になります。
最初、中村さんはセンターの助手でこられたとき、
私は分析にいっていました。
意気投合して私は研究生として
センターに移籍することにしました。
二人でいろいろ分析室の改良からはじめました。
私が外部にで職を見つけて出たあとも
センターは進化していきました。
今では、センターは世界に冠たる研究施設になりました。
私は、地球科学の研究をもうやめたので
このような最先端の現場には立ち会えないのですが、
彼らの発見時の高揚した気分は、
遠くの空からも感じてしまいます。
さらなる成果をあげられることを期待しています。

2012年3月1日木曜日

5_103 イトカワ 2:公開試料

イトカワの試料が公開されました。試料の数は多いのですが、非常に小さいため、研究目的もさることながら、分析技術もそれなりの実力が必要となります。公開された試料の概要を紹介しましょう。

 イトカワの試料が研究者に対し公開され、公募が始まったことを前回紹介ました。公開されたイトカワの試料とは、どのようなものだったのでしょうか。まだ、全貌が明らかになっていなのですが、公開されている情報から紹介していきましょう。
 「はやぶさ」が長い航海の末、持って帰ってきたイトカワの試料を、慎重に処理するために、特別な実験室や装置が用意されました。ヘラで慎重に採取するという方法だったのですが、最後にひっくり返したら多数の試料がでてきことはニュースにもなり、ご存知の方もおられるでしょう。以前にもこのエッセイ(6_82から6_85)でも紹介しています。
 回収された試料は、1500個以上になるともいわれ、カプセルにはまだ回収できてない試料が残っていると考えられています。これからも回収作業は継続されていきます。また、回収された試料も、1000個以上はまだ未分析で残されています。今後もカタログ作りは進めれていくはずです。
 まずは、その一部が公開され、国際研究の公募がされたのです。事前に日本で公募された8つの初期分析チームに、2011年4月に約60個のサンプルが配分されました。各チームは試料のカタログ作りもおこなっています。
 今回、190個ほどの試料が公開されました。一部の試料はNASAに送られましたが、それ以外の試料は公開されています。試料の詳しいカタログデータはホームページで公開されています。カタログでは、試料ごとに、番号がつけられ、試料の状態、サイズ、鉱物相など初期分析の結果が示されています。カタログには、配分されたチームが用いた装置による初期分析のデータも示されています。
 ほとんどが100μm(0.1mm)以下の非常に小さい試料で、地球での汚染を受けないように最新の注意を払っての配布となります。今の技術では、100μm以下のサイズの粒子でも、充分に精度のよい分析が可能で、研究成果があげられると期待されます。もちろん、大きければ情報量も増えるので大きいな試料は貴重になってきます。多分も応募も多くなると思います。ただし、100μmを越える試料(貴重なので保存)と10μm以下の試料(現状では充分な成果は期待できない)はデータの公開はされていますが、国際公募には適用されず保存されています。
 これから世界中の「腕の覚えのある」研究機関に試料配分がされていくでしょう。いろいろな成果が出だします。楽しみです。
 次回から、初期分析チームが出した成果を紹介していきましょう。

・公募・
2月下旬は忙しく、苦しい思いをしました。
書きたいことがあれば、
比較的さっさと書けるのですが、
今の2月末締め切りの原稿には手こずりました。
やっとの思い出、原稿も終わり、ほっとしています。
次は研究費の申請書類の作成となります。
このような書類を書くときは、
大変ではあるのですが、
次はどんな研究をしようかと夢が膨らむので
楽しくもあります。
多分イトカワの試料の応募書類を書いている人も
同じ思いなのでしょうね。

・あっという間の2月・
今年の2月は閏月なので
一日多くなっています。
締め切りに一日でも余裕ができたので助かりました。
2月はもともと日にちが少ないのと
しなければならないことや校務が目白押しだったので
あっという間に過ぎてしまいました。
実は3月もあっという間なのですけどね。

2012年2月23日木曜日

5_102 イトカワ 1:国際公募

2010年6月13日の「はやぶさ」の帰還から1年8ヶ月が立ちました。その後も研究者ははやぶさが持って帰って試料を取り出し、初期の分析をして、やっと試料の研究者への公開にこぎつけました。その内容をシリーズで紹介していきましょう。

 2012年1月24日、JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)が、「はやぶさ」サンプル国際研究公募をはじめたというニュースが流れました。これは「はやぶさ」がイトカワから持って帰ってきた試料の初期分析が終わったので、一部の試料を世界の研究者に公開して研究してもらおうというものです。貴重な試料なので、公募によって研究計画を集め、それを審査して、試料を提供するものです。採択された研究者は、無料で提供を受けられます。ただし、成果の公開は不可欠ですが。
 試料の国際公募(国際AOと呼ばれています)に先立って、回収された試料の一部の初期分析がされました。初期分析とは、代表的な試料のカタログづくりのために、試料の各種の分析、その結果による同定と分類などがおこなわれました。それがカタログとして公開されています。
 初期分析は非常に興味深いもので、そのデータを誰も出したいですし、データ自体も欲しいものです。その分析と使用権は、日本の選ばれた研究者が優先的に行使できます。「はやぶさ」を開発し、運用した日本に先優権があるのは当然でしょう。また日本に協力したNASAにも次く権利があるので、一部試料が2011年12月にNASAに送られました。
 初期分析の成果は、2011年8月26日発行のアメリカの科学雑誌「Science」の特集号として6つの論文が報告されました。論文のタイトルや内容を手短にまとめました。全体像を表していないかも知れませんが、次のようなものでした。
・鉱物学的研究からS型小惑星と普通コンドライト隕石が類似している証拠(中村ほか)
・酸素同位体組成から普通コンドライトからなる小惑星から由来した証拠(圦本ほか)
・中性子放射化分析から太陽系最初期の元素分別を保存していた(海老原ほか)
・X線マイクロCTによる3次元構造からイトカワのレゴリスの起源と進化を解明(土`山ほか)
・電子顕微鏡によるでイトカワの表面での初期宇宙風化の解明(野口ほか)
・希ガス成分による太陽風および宇宙線照射の歴史(長尾ほか)
の6つです。これは中間的な報告なので、まだ研究中のものあるはずで、今後も成果は公開されていくでしょう。この特集は、「Science」誌によって2011年の科学ニュースのトップ10に選ばれています。
 公募の締め切りは3月7日なので、今研究者たちは、申込書(proposalと呼ばれています)を必死で書いていることでしょう。興味がある方は、誰でも応募可能です。ただし、英文での申請書を書くこと、クループであることが望ましいとなっていますが。
 試料や初期分析からわかってきたことは、次回としましょう。

・proposal・
私は、応募することはできませんが、
どのような方が応募されるか楽しみです。
それ以上に、どのような発想で研究をされるかに
興味が惹かれます。
このような貴重な試料は、
貴重さゆえに、proposal通りに分析できデータがでれば、
それだけで一流の科学雑誌に掲載される可能性があります。
つまり、proposalが採用された時点で
成果がえられたと同等なのです。
だから、みんな必至でproposalを書いているはずです。
ただし、小さい試料なので、
「腕に覚えのある」研究者でないとデータは出せませんが。

・仕事の締め切り・
大学は今は、ちょうど、はざかい期です。
入試発表と次の入試の申し込みの間になっています。
空白のように校務が空いています。
こんな時期こそ、個人的にやりたい研究が
一番進むはずなのですが、
原稿の締め切りや雑用などがあり、
なかなか進みませんが。
まあ日本のどこのだれをつかまえても
暇であるはずはありません。
給料をもらっている人であれば、
いつも何らかの仕事を持っているはずなので、
暇だということはないのです。
私は、そんな仕事の締め切りに追い詰められています。
だから、今日も忙しいのです。

2012年2月16日木曜日

5_101 隕石年代 4:水の形成

隕石の中の炭酸塩鉱物の年代が、今まで正確に決めることができませんでした。それが、今回、精密に決められるようになりました。正確な年代値によって、太陽系の母天体の形成時期、その天体での水の形成時期などが推定できるようになりました。

 隕石の中の炭酸塩鉱物の年代を求める難しさと、その解決法が見出されたと紹介ました。今回は実際の測定とその結果、意義を紹介していきましょう。
 分析は、二次イオン質量分析計を用いてなされました。二次イオン質量分析では、炭酸塩の鉱物の表面にイオンビーム(一次イオンと呼ばれています)を当てます。もちろん炭酸塩鉱物の分析した面をきれいに出しておく必要があります。イオンビームがあたった鉱物表面からは、原子がイオン(二次イオン)として飛び出してきます。電荷をもったイオンを、磁界の中を高電圧をかけて飛していきます。イオンは質量数の違いに応じて、曲がり方がかわってきます。その違いを利用して、質量数ごとの違い(同位体)を計測するものです。数個の質量数を同時に補足できるので、同位体比として精度よく測定できます。
 今回の報告は、二次イオン質量分析計の中でも、ナノシステムという最先端ものを用いてなされました。
 未知の試料の測定値を組成がはっきりわかっている試料の測定値で補正することで、より正確な測定値を求めます。組成がはっきりわかっている試料とは、前回紹介したように、藤谷さんたちが人工的に合成したものを使用されています。
 新たに開発された最先端の手法を用いて、4種類の炭素質コンドライトの分析がなされました。それまで炭酸塩鉱物は不確かな年代しかなったのですが、45億6340万年前に集中することが明らかになりました。
 この年代は、45億6820万年前といわれている太陽系の誕生後、480万年ほどあとです。それまであった年代の矛盾(太陽系誕生より炭酸塩鉱物の年代が古い)は解消され、一定の年代に収まったことになります。年代が定まったことで、炭酸塩鉱物の形成の意義が明瞭になるはずです。
 炭酸塩鉱物が、水の存在のもとで形成されると考えられていることは、前に紹介しました。炭酸塩鉱物が、小惑星のような母天体でできたとすると、天体の温度変化から、母天体の形成は太陽系誕生後350万年後であったと推定されています。
 水は生命誕生の条件として非常に重要な成分です。それが太陽系の天体において、いつできたのかを限定することは、重要な情報になります。それを限定することに、今回の成果は大きく役立つことになります。

・データ整理・
空き時間を用いて身辺整理をしています。
紙データをなんとか整理して
一杯になった書棚のスペースを空けたいと考えています。
まずは、自分自身の論文の別刷りの整理をしました。
最近の論文はPDFファイルがあります。
古い論文のPDF化をしました。
それによって別刷りの古いのを
保存分を除いて大量に処分しました。
また、大量の古い論文もあります。
最近はPDFで論文が配布されているので、
紙は最小限で済ませているのですが、
以前収集した大量の紙の状態の論文があります。
それはまだ手が出ませんが、
必要なデータだけを取り出してファイルしたものが
本棚1段半ほどあります。
それをデジタル化したいのですが、
なにせ古いので、スキャンしてもトラブルを起こし
なかなかはかどりません。
でも、思い切ってしなければと思っています。
砂の試料も保存場所がいっぱいなので
整理が必要になります。
でも、最優先は2月末の締め切り論文の執筆です。
現実逃避にならないように、
優先順位を忘れないようにしなくては。

・冬と春・
暖かい日が来るようになったのですが、
激しい吹雪、寒さも繰り返しています。
1月は寒さが増し、冬も深まっていると感じましたが、
2月も中旬になると、
着実に春に向かっていることを感じます。
大学は、現在、追試がおこなわれています。
そして企業説明会もおこなわれています。
これも冬と春の混在でしょうか。

2012年2月9日木曜日

5_100 隕石年代 3:合成鉱物

科学は、いろいろな発想でおこなわれます。その発想のなかに、既存でないものはつくれというものがあります。「つくる」という言葉は、いろいろな字があてられますが、そのすべてが科学の発想の現場では使われます。今回の発想は、「創る」でしょうか。

 炭酸塩鉱物として、方解石(炭酸カルシウム、カルサイトとも呼ばれています)がよくみられるものです。カルシウムとイオンとしてのサイズが似ているものとして、マグネシウムやマンガンがあります。カルシウムとマグネシウムが混じっている苦灰石、ほとんどマグネシウムになっているものは菱苦土石(炭酸マグネシウム)、ほとんどマンガンの菱マンガン鉱などがあります。いずれもよくある鉱物です。
 一方、マンガンには、半減期370万年の放射性核種(質量数53の53Mn)があり、クロム(53Cr)にかわります。このような放射性核種は、今の太陽系に材料をもたらした超新星爆発によって形成されたものです。短い半減期のものが、なくなるまでに鉱物とりこまれ、崩壊でできた核種も鉱物にのこされているようなものであれば、それは年代を決めるために利用できます。53Mnが炭酸塩鉱物として取り込まれた後、崩壊して53Crになっているものがあるとすると、超新星爆発後、非常に短い時間で鉱物ができており、その年代を決めることができます。
 Crには、もともとからあった53Crも含まれています。それに53Mnが崩壊して加わった分があります。この崩壊による53Crが量、過剰分を、正確に測定できれば、年代測定に利用できます。原理と実際の測定とは違います。
 まず、分析の精度を上げるために、放射性核種の比を用いることがあります。分母には8割をしめる52Crを用いて、53Crを分子で測定します。分析は二次イオン質量分析計を用いるのですが、Crの同位体比はある程度精度よく測定できます。
 Mnの量が多いと、53Crの量も多くなります。その見積もりは、Mn/Crの比によって決められるのですが、実は、この比を精度よく測定することが難しかったのです。
 違う元素同士の比であるMn/Crは、正確に比のわかっている試料(標準試料)と未知の試料の測定をして、補正して決めていかなければなりません。未知の試料が炭酸塩鉱物であれば、標準試料も炭酸塩であるべきです。ところが、Crを測定に充分な量を含んだ鉱物はありませんでした。それが、精度を上げることができない理由でした。
 今までの研究でも測定はされてきたのですが、精度が悪く、太陽系の年齢より炭酸塩鉱物の方が古いという、矛盾した結果もありました。
 藤谷さんたちの今回の研究では、クロムとマンガンを含んだ炭酸塩鉱物を、人工的に合成しています。もちろんMn/Crが正確にわかったものをつくっています。それを標準試料として分析に用いたのです。なかなか面白い発想ですが、多分、合成にはいろいろな苦労があったのでしょう。
 その結果は次回としましょう。

・雪まつり・
先日、久しぶりに2、3日、暖かい日が続き、
道路との雪が溶けて、べちょべちょになる
春のような陽気となりました。
でも、すぐに寒さと積雪で冬に戻りましたが。
札幌では今週から雪まつりです。
いつも一番寒い時期なのですが、
今回の温かさの影響はなかったのでしょうか。
我が家では、雪まつりはテレビでみることにしています。
以前、出かけたこともあるのですが、
人が多くて、寒い日だったりすると、
誰かが風邪をひいてしまいます。
だから、テレビだけで見ることにしています。

・与えられた時間・
大学では後期の定期試験も終わり、
現在は、大学の入試の時期となっています。
もちろん、大学教員はそれだけではなく、
レポートやテストの採点、評価。
来年度のシラバスの作成などが必要となります。
講義がない分、時間はあるのですが、
締め切りや大きな校務がつぎつぎとくるので、
落ち着かない時期もであります。
では、いつ落ち着いて研究ができるのかというと、
?????となりますね。
与えられた時間は公平ですから、
どう使うかだけが問題となるのでしょうね。

2012年2月2日木曜日

5_99 隕石年代 2:母天体

隕石の年代は、さまざまな手法で調べられています。技術が進めば、今まで不可能であった物質の年代も測定できます。今回紹介している報告は、技術とアイディアが加わっておこなわれたものです。

 隕石とは、太陽系のどこかの軌道をめぐっていた物体が、地球に落ちてきたものです。隕石は、地球に落ちてきた大きさ、形のまま、宇宙空間にあったわけではありません。地球に落ちてくるときに、壊れたりしていますが、隕石が由来した大きな天体がありした。その天体を、母天体と呼んでいます。
 母天体とは、太陽系初期に、多数形成されたものです。その多くは、軌道上では一番大きな天体(惑星や衛星)に合体されて、軌道上はきれいになり、なくなりました。実際に、地球をめぐる軌道には、母天体は見つかっていません。
 では、隕石はどこから来たのでしょうか。火星と木星の間にある小惑星帯には、多数の小天体があります。母天体の名残の天体が、今もあると考えられています。小惑星帯は、材料は多数あるのですが、大きな天体ができなかった軌道でした。そこには太陽系初期にあった母天体が残っているのです。小惑星帯が、隕石をもたらす場、供給源だと考えられています。
 小惑星帯の軌道をめぐっているのであれば、そこに留まるはずです。ところが、小惑星帯には多数の天体があるので、天体同士が衝突、分裂したり、ニアミスで、軌道が変わることがたびたびあるはずです。その一部は、太陽の引力に引っ張られて、小惑星より内側をめぐる軌道をとるようになります。そのような天体のうち、地球の軌道と交差し、落下したのが隕石となります。ですから、多数の隕石を調べれば、小惑星帯を構成する天体の種類の概要を知ることができます。
 一方、小惑星の表層物質を地球から望遠鏡によるスペクトル分析によって探る方法もあります。小惑星のスペクトルには、いくつかのタイプがあることがわかっています。そのタイプは、隕石の種類と対応させられていますが、実際に試料が入手できない限り、その対応関係が実証されたことになりません。
 はやぶさいってきた小惑星イトカワは、今は地球軌道の近くをまわっていますが、もともとは小惑星帯から由来した天体だと考えられています。ですから、イトカワの試料が手に入ったのは、非常に重要な情報源を得たことになりました。現在、着々と研究は進んでいます。
 隕石の中でも、もっとも原始的なものとして、炭素質コンドライトという種類があります。隕石において「原始的」とは、母天体があまり大きくなく、集まった材料が、ほとんと変化していないままの状態をいいます。炭素質コンドライトを調べれば、太陽系の起源を探ることになります。
 さて今回の報告は、炭素質コンドライトの年代測定をしたものでした。隕石の構成鉱物の年代です。炭素質コンドライトには、有機物や水も含まれていることがわかっています。中でも、炭酸塩鉱物は、母天体に水がある状態で形成されたものだと考えられています。しかし、今まで炭酸塩鉱物の年代測定で、正確な年代を求めることは、なかなか難しかったのです。その年代を、ある工夫によって正確に求めることができました。それは次としましょう。

・イトカワの試料公開・
はやぶさが持って帰ったイトカワの試料の
初期記載が終わりました。
これによって試料が研究者に公開されます。
カプセルからは、284個の微粒が見つかっています。
そのうちイトカワのものでないものや
小さいすぎるものは除かれました。
また、NASAに渡されるものと、
100μmより大きいものは保存されます。
それ以外の試料は、研究者に公開され、
リクエストして審査に通ると
試料が提供され研究できます。
初期的な研究の成果は
科学雑誌に公表されましたが、
それは、別の機会に紹介しましょう。

・イトカワの素性・
イトカワの表層物質は、
炭素質コンドライトではなく、
普通コンドライト(LLというタイプ)とわかりました。
ですから、イトカワは、どこかの大きな母天体で、
いったん変化(分化と呼ばれます)して、
その物質が再度集まってできたことになります。