2011年7月28日木曜日

6_91 ランタノイド:レアアース2

 レアアースの中で、ランタノイドと呼ばれる元素群は、化学的性質が似ています。ランタノイドは大局的な挙動は似ているのですが、少しの性質の違いが、トレーサーとして利用されています。ランタノイドについて紹介します。

 レアアース(希土類元素)は、地球では稀な元素です。前回は、自然界でそのような状態で産出(産状)するのかを示しました。
 21世紀にはいろいろな分野で利用されているのですが、工業的に利用されるようになってきたのは、20世紀後半からです。その時の主な産地はアメリカ合衆国でした。1980年代になって中国でも産出が始まり、現在では、90%以上を占めるようになってきました。日本を中心として急激な需要があるのですが、中国の埋蔵量も限りあることと、政治的な問題もあるために、新たな供給元の開発が模索されています。
 レアアースの需要がなぜあるのかを考えるために、その化学的性質をまずは、みていきましょう。元素の性質を考えるときは、周期律表を参照することが、まずはスタートとなります。
 レアアースは、周期律表では、左から3列目(第3族と呼ばれている)にある元素で、4行目(第4周期と呼びます)からスタートしています。同じ列にある元素は、似た化学的挙動をします。
 レアアースは、4行目のスカンジウム(Sc、原子番号21、第4周期)から始まり、イットリウム(Y、原子番号39、第5周期)に次いで、6行目(第6周期)にある15個の元素群です。ひとつの元素占めるべき位置に、15個の元素が入っていて、ランタノイドと呼ばれています。スカンジウム、イットリウム、そして15個のランタノイドをあわせて17種の元素を、レアアースと呼んでいます。
 第7周期でもランタノイドと同じように15個の元素群があり、アクチノイドと呼ばれていますが、レアアースとはされていません。
 ランタニドを羅列しておきますと、次のようになります。

元素番号 名称      元素記号
 57   ランタン     La
 58   セリウム     Ce
 59   プラセオジム   Pr
 60   ネオジム     Nd
 61   プロメチウム   Pm
 62   サマリウム    Sm
 63   ユウロピウム   Eu
 64   ガドリニウム   Gd
 65   テルビウム    Tb
 66   ジスプロシウム Dy
 67   ホルミウム   Ho
 68   エルビウム    Er
 69   ツリウム    Tm
 70   イッテルビウム  Yb
 71   ルテチウム    Lu

 ランタニドは、周期律表で同じ枠(第3族、第6周期)の位置あるため、化学的に似た性質をもっています。
 元素の性質を決める上で外側の電子の数や状態が重要になります。電子は、原子核の周りをめぐる軌道があり、軌道毎にめぐる電子の数が決まっています。ただしすべて偶数です。原子番号の小さいものでは、電子は内側の軌道から満たしていきます。原子番号が大きくなると外側にも電子が満たされていきます。
 ランタノイドは、外側の軌道(5d軌道と6s軌道と呼ばれるもの)には、3個の電子が常に入っている状態になっています。そして、より内側の4fと呼ばれる軌道に、順番に電子が入ってきます。4f軌道には14個の電子が入ります。4f軌道に入る電子の数(0個から14個まで)だけ同じ軌道に収まるので、ランタノイドという似た15種の元素群ができるのです。アクチノイドも同じ仕組です。
 そして、いちばん外側に3個の電子があるため、原子価は+3になり、性質が似てきます。ランタノイド全体として似た挙動になり、挙動を伴にすることが多くなります。ただし、元素によっては、化学的状態によっては、+2価(Sm、Eu、Yb)や+4価(Ce、Pr、Tb)価になることもあります。そのような原子価の違いが、元素ごとの挙動を違ったものとするため、化学的状態の読み取るためのトレーサーとして利用されてきました。
 ではレアアースは、現代の工業において、どのような利用をされているのかを、次回見ていきましょう。

・分析・
私はランタノイドの一連の分析はしたことがありません。
しかし、年代測定に利用するために、
ネオジムとサマリウムの2つの元素は
精度良く分析していました。
ただ、2つの元素では、ランタノイドとしての
挙動を吟味することは少々乱暴なので
単純に年代測定として利用していました。
しかし、レアアースである
スカンジウムやイットリウムは分析をして
その化学的性質を利用して、
議論に使っていました。

・2学期制・
いよいよ7月も終わろうとしています。
多くの学校は夏休みになったことでしょう。
我が家の子供達も夏休みにはいりました。
長男の中学校は2学期制、
次男の小学校も来年度から2学期制を導入するそうです。
多くの2学期制では、9月に学期の境目がきます。
私のいる大学も実は
2学期制(セメスターと呼んでいます)になっています。
しかし、大学の前期では、
8月までに講義や試験をして終わらせてしまいます。
その分、前期の終わりがきつくなってしまいます。
そこまでして、夏休みに終わらせることに
こだわる必要はあるのでしょうか。
いろいろ理由はあるのでしょうが、
制度を変えるのはなかなか大変なので
とりあえず私は静観でしょうか。

2011年7月21日木曜日

6_90 存在度:レアアース1

 先日、ニュースでも大々的に取り上げられたので、ご存じの方も多いと思いますが、海底から発見されたレアアースの大鉱床が今回の話題です。そもそもレアアースとはどのようなものなのか、そしてなぜニュースになるような話題なのかを説明していきたいと思います。

 レアアースと呼ばれる資源が、最近何度か話題になりました。ひとつは重要な産出国である中国が輸出規制をしはじめたこと、尖閣諸島の漁船拿捕への報復として事実上の輸出ストップしこと、そして最新のニュースとして大きな鉱床を海底で発見したというものです。今回は、海底のレアアースについて考えていこうと思います。
 レアアースとは、正確には「希土類(きどるい)元素」と呼ばれている一連の元素類です。英語では"Rare Earth Elementes"になります。研究者間ではレアアース略して呼んでいたのが、いつの間にか世間に流布して、多くの人が使う用語となりました。英語も日本語も、「地球では稀な元素」という意味で、もともと少ない元素であることを意味しています。
 何にくらべて稀かというと、宇宙や地球、地殻などの代表的な物質の構成元素全体に占めるそれぞれの元素の割合でみたとき少ないということです。そのとき、代表的な物質として、宇宙はある種の隕石(オルゲイユとよばれる隕石)や太陽の平均化学組成を、地球はいろいろな岩石から推定された化学組成を、地殻は大陸の堆積物や堆積岩の平均値を用いています。ある基準となる元素、水素(H)やケイ素(Si)と比べてどれくらいあるかを比率で示されたもので、存在度と呼ばれています。いずれの存在度でみてもレアアースは稀となります。
 ただし、宇宙や地球の存在度と地殻の存在度を比べると、10倍から100倍程度の多くなっています。これは、レアアースが地殻に農集しているということです。それでも、地殻の主要成分であるケイ素とくらべて10万分の1程度、濃度でいうと数10ppmから数ppm(100万分率)程度しかありません。
 いずれにしても少ない元素です。工業的に利用しようとすると、ある程度農集したものが必要になります。それは、レアアースを多く含む鉱物を見つけることです。
 フッ化セリウム石、フェルグソナイト、フェルグソナイト、バネスト石、シンキス石、パリサイト、モナズ石、ゼノタイム、ガドリン石、褐れん石などにレアアースがたくさん含まれています。ですからこれらの鉱物がたくさん産出するところが産地となります。ただし、岩石中では稀な鉱物ばかりで、大量の岩石からも少ししか見つかりません。抽出することは経済的にも不可能となります。
 ただ、これらの鉱物は比重が大きく、川底に農集しやすい性質があります。川底の鉱物濃集部が鉱床となります。砂金と同じ起源ですので、昔の大河の跡などが鉱床となります。レアアースを比較的たくさん含む花崗岩が風化して、それが土壌となります。土壌の中の粘土鉱物がレアアースを吸着することがあります。そのような鉱床をイオン吸着型鉱床といいますが、中国南部の鉱床はこのタイプになります。いずれの鉱床も、大陸地域に多く見つかっています。残念ながら日本ではほとんどれません。
 では、レアアースは元素類だといいましたが、どのような種類の元素があるのでしょうか。なぜまとめて扱われているのでしょうか。それは、次回としましょう。

・ICP-MS・
研究者は、レアアースとも呼びますが、
希土類とか英語の頭文字でREEと略記することもあります。
レアアースは、かつては分析が難しく
手間のかかる成分でした。
最近ではICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いると
比較的簡単に精度良く測定できるようになりました。
大量に分析ができるようになってくると、
今まで探すことのなかったところへも
探求の目がはいることになります。
探索によって、思わぬところに
レアアースが大量にあったことがわかりました。
今回は、それを紹介するシリーズです。

・梅雨開け・
梅雨も開けて暑い日々が続いていると思います。
本州の梅雨前線が北海道に上がり、
北海道が少々蒸し暑くなりました。
しかし北海道の梅雨前線も台風の影響でしょうか
太平洋に追いやれて、夏めいた天気になりました。
台風が来るので、災害が心配ですが、
これで少しは大地も冷やされるでしょうか。
台風で少しでも冷えれば省エネになるでしょう。

2011年7月14日木曜日

2_92 3か4か:恐竜の子孫 3

 今まで指番号を決めていた発生学的方法ですが、より厳密に突き詰めて研究すると、今までの見落としていたズレが見つかりました。そのズレが、指番号の違いを生み出していました。ズレの発見によって、指番号の問題が解決し、鳥は恐竜の子孫であるという説がより磐石になりました。

 鳥類は、恐竜の仲間から進化してきたと考えられています。ただ、ひとつ問題がありました。恐竜の指は、もともと5本でしたが2本が退化して、3本になっています。親指側から、第1指、第2指、第3指という指番号になります。一方、鳥も3本指なのですが、第2指、第3指、第4指が残っています。
 この鳥の指番号ですが、発生時にできた指のもと(原基と呼ばれる軟骨の塊)のうちどれが成長しているかで決めていました。ニワトリの発生をみていくと、後肢の第4指がつくられる時期に、前肢では同じような位置関係で指が認められています。それは第4指に当たるはずです。そこから若い方へ指番号をたどってくいくと、第2指でおわっています。そのため、鳥の前肢は、第2指、第3指、第4指という指番号になります。これは、動かし難い事実のようにみえます。
 指の発生の過程を、東北大学の田村宏治さんと野村直生さんが、詳しく検討されました。その結果、ニワトリの前肢の指番号が、第1指、第2指、第3指であることがわかりました。
 実は、ニワトリの前肢と後肢では、発生の段階でできかたが違っていることが分かってきました。指番号が決まる段階で重要なZPAと呼ばれる領域があります。ZPAは、ほかの細胞に指の形成という指令を出す「形態形成因子」の細胞群です。今までZPAを基準に指番号が決められていました。
 田村さんらは、ZPAを基準に指番号をみていこうと実験をされました。発生の段階をおってみていくと、前肢と後肢の指のできかたが異なっていることが分かってきました。
 後肢では、指の番号が決まる時期に第4指はZPAの中にあります。ところが同じ時期の前肢では、第3指までがZPAの外にあり、第4指は見えませんでした。前肢のもっとも後ろの指は、第3指として形成されたことになります。発生段階が進むにつれて、後肢の第4指はZPAの外に移動します。この時期に前肢との対応関係をつけると、前肢の第3指が、後肢の第4指に対応して、発生段階の違いによってズレが生じます。
 この移動が生じる現象を今まで気付かれずにいたため、前肢も、後肢に対応させて第2指、第3指、第4指とみなされていたのです。後肢の第4指の移動が発見されたことによって、前肢で第4指とされてきたものが、第3指であることが判明したのです。
 田村さんらの研究によって、恐竜と鳥の指番号の違いは修正され、同じであることになりました。その結果、恐竜と鳥の系統関係における問題が解消されました。鳥は、恐竜の子孫であることが、はっきりしたのです。

・怪我の功名・
田村さんたちのインタビュー記事を読むと、
最初村田村さんが発生の実験をしたとき
ニワトリの前肢が第1-2-3指であるという結果がでました。
ところが大学院生の野村さんが
別のテーマで似た実験をしていたのですが
第2-3-4指という結果を出しました。
検討の結果、観察した時期の違いによって、
ZPAからの見かけ上の位置に
ズレが生じることがわかったのです。
このような2つの実験の違いによって、
ズレを生じた原因も同時に解明できたのです。

・梅雨前線・
北海道も梅雨前線の影響で
蒸し暑い日が続いています。
本来なら、からりとした爽快な初夏を
楽しんでいるはずなのですが、
今年は、少々蒸し暑いです。
ここ数日の蒸し暑さで少々へばっています。
昼前後の授業は暑いです。
窓を全開しても、
板書をしながら授業すると汗だくになります。
ましてパソコンを使った授業は大変です。
それがまだ続きます。
梅雨明けが待ち遠しいです。

2011年7月7日木曜日

2_91 1か2か:恐竜の子孫 2

 指は、親指を第1指、小指を第5指という番号がふられています。指の番号は、今見えている指の順につけられているわけでなく、発生学的に退化した指にも番号がふられています。恐竜と鳥の指番号が違っていました。これが、恐竜の子孫が鳥類であるという説において大きな問題でした。

 恐竜の子孫が鳥であるというのは、今では多くの人に知られるようになった説でした。もちろんその情報の発信元は、科学者たちの成果に基づくものです。ところが、科学の世界では、完全にそれが証明され、納得されている訳でありません。その理由は、恐竜類が進化して鳥類になったとすると、いくつか説明できないデータがあるためです。
 その中でも一番の問題は、指番号でした。前肢の指です。鳥の前肢とは、羽に当たります。羽にも骨があり、指が進化したものです。ですから、指の番号をつけることができます。
 指番号とは、親指から第1指、第2指と番号がつけられ、小指が第5指となります。両生類から爬虫類、鳥類、哺乳類と、動物の指をみていくと、いろいろな指の数があることが分かっています。しかし、もともとは、いずれも5本の指があったのが、進化によっていろいろな本数になっていったと考えられています。
 さて、恐竜です。恐竜の指も、もともと5本でした。鳥類の直系の祖先は、獣脚類だと前回のエッセイで紹介しました。獣脚類は、3本指ものが多くなったいます。しかしもともと獣脚類は、5本指で進化の過程で3本指になっていっきました。第4指と第5指がなくなり、第1指、第2指、第3指が残ったことが化石からわかっています。ちなみに始祖鳥は、恐竜と同じように、第1、2、3指であると考えられています。
 ところが、鳥類の指は、第1指と第5指が退化し、第2指、第3指、第4指が残っているとが、信じられてきました。その根拠は、鳥類の卵の状態から、指のできかたを調べる発生学から得られた知見でした。ニワトリやダチョウを発生学的に調べると、もともと5つの指のもと(原基と呼ばれる軟骨の塊)が形成され、そのうち真ん中の3つが残り、両側の原基は退化して消えていきます。そのことから、鳥の指の番号が、第2指、第3指、第4指となると考えられています。
 その発生学的証拠が、今回、東北大学の田村宏治さんと野村直生さんが書き換えられました。大きな問題が解消されたことになるわけです。その内容は次回としましょう。

・パンダの指・
今回の論文を見たとき、みえているものが、
必ずしも真実を示しているとは
限らないということを感じました。
パンダの第6番目の指というものがありますが、
あれは位置的には、第1指より内側にあります。
ですから、第0指というのでしょうか。
ただし、これも本当に指が骨があるわけでなく、
発生学的には指と認定されないはずです。
第1指の骨が変化したものだそうなので、
第1.5指とでもいうべきなのでしょうかね。
まあ、科学的にはどうなるのかわかりませんが。

・月日の経過・
7月になりました。
いつも7月になると、
もう1年の半分が終わったのだと思っていまいます。
学校や会社の移動などが、4月スタートなので、
ついつい今年もまだまだ月日がありそうな気がしてしまいます。
でも、暦の上では、2011年が半分過ぎてしまいました。
1年の休暇の後、新しくスタートした大学の講義が
新鮮でもあり、重くもあり、
なかなか月日の過ぎるのが遅く感じます。
日々大変な思いをしているせいなのでしょうかね。