2017年8月31日木曜日

5_148 光子顕微鏡 1:光学顕微鏡

 顕微鏡は、小さな世界を大きくして見せてくれます。鏡下には、今まで見たことのない、不思議な世界が広がっています。倍率が上がれば上がるほど、見慣れない景色が見えてきます。そこに魅力を感じます。

 小さいものを見る技術として、顕微鏡があります。だれもが一度は覗いたことがあるはずです。レンズを使ってものを拡大していくのですが、レンズの倍率を上げていけば、いったいどこまで拡大できるのでしょうか。まずは、そこから考えていきましょう。
 「ものを見る」ということは、ものに光が当たって反射し、その反射光が人の目に入ることで見えます。小さいものを見るために、小さい部分に当たった光だけを、レンズを用いて集めることで拡大していきます。これが顕微鏡の原理です。
 原理は簡単です。ですから、レンズの倍率を大きくしていけば、小さい部分を大きくしていくことができます。この原理を用いて、永遠に拡大を続けていくと、どこまでも拡大していけるはずです。しかし現実は限界があるはずです。
 皆さんが学校で使っていたものは、光で見る部分を拡大していく顕微鏡です。このような顕微鏡を、「光学顕微鏡」といいます。
 光学顕微鏡での拡大を考えていく時、拡大の能力を倍率ではなく、分解能として示していきます。倍率は相対的なもので、その絶対的な拡大率を示しているものではありません。例えば、1mmのものを顕微鏡で視野一杯にして見たとしましょう。その視野の画像をディスプレイで示したとしましょう。横幅10cmの画面と、20cm、30cmとすると、もともと1mmのサイズのものが、画面サイズによって、拡大率100倍、200倍、300倍が変わってきます。ですから倍率ではなく、絶対的な値を示すために分解能という表記を用います。分解能とは、近接している2点で、その違いがどの距離まで識別できるかを示すものです。識別できる距離を、分解能と呼んでいます。
 光学顕微鏡の分解能は、可視光を用いますので、その波長に依存します。可視光の波長は、紫から赤までで380~750nmとなっています。色を識別するには700nmが限界となるでしょう。形態だけなら、最小のものでは、300から400nmものまで見分けられるでしょう。
 光学顕微鏡で小さいものをみるとき、分解能を技術的にどこまであげられるか、あるいは鮮明に見分けられるかが競われることになります。でも理論的には、100nm以下のウイルスや分子などは見ることはできません。光学顕微鏡の限界は、技術的限界ではなく、原理的な限界となります。
 その限界を越える画期的な技術が、今年の4月に日本の研究者たち報告されました。詳しく次回以降にしましょう。

・薄片・
学生時代、顕微鏡の実習時間に
長期にわたって岩石の薄片を顕微鏡で
長時間観察を行っていました。
小さな数cmに満たない小さな面積ですが、
毎日何時間も、スケッチしながら眺めていると、
その世界に入り込んでしまいます。
薄片の世界は、やがて住み慣れた町のように、
景色を覚えてしまいます。
ある特徴のある鉱物の隣には、あの鉱物があるなあ、
と通い馴れた町並みのように覚えてしまいます。
鉱物の種類や、そこから読み取れることが
見えてくると、顕微鏡の世界が、面白くなってきます。
でも、一気に目を悪くなってしまいましたが。

・夏の終わりに・
今日で8月も終わりです。
いつもなら31日が夏休みが終わりですが、
最近の学校では、夏休みを短くする地域もあると聞きます。
北海道では、以前から、短い夏休みとして
スケジュールが採られています。
そのかわり、冬休みが長くなっています。
寒い北海道では理にかなっているように見えます。
でも、実際の冬は、1月下旬から2月に一番寒くなりますので、
少々実体とはズレています。

2017年8月10日木曜日

2_150 オルドビス紀末の大絶滅 4:水銀の濃集

 水銀が地層に濃集しているという現象が、なかなか厄介な問題です。それは、異常な現象だと思われます。なぜ地層に濃集するのかを考えるために、通常の作用ではないことを示しておく必要があります。

 前回のエッセイで、オルドビス紀末の大絶滅に、新たな原因を示した論文があり、そのキーワードとして、米中、3層準、水銀があったことまでを紹介ました。
 米中、3層準、水銀とは、オルドビス紀に大きく離れた地点(米中)で、それぞれで共通に3つの違った時代(3層準)に、水銀が地層中に濃集するという現象(水銀)が見つかったという事実を、キーワードにしたものでした。これらのキーワードに示された事実を、どう説明するかが課題となります。
 水銀濃集が3つの層準で起こっていました。地殻で水銀は(0.08~0.05ppm)と非常の少ない成分ですが、濃集部は地層の値と比べて、数倍多くなっています。周囲の地層と比べると水銀の濃集は、目立ったピークになる値を持っています。ただし、そこにはいくつかの特徴があります。データを見ると、この増加は少々複雑なものになっています。
 最初(もっとも古い)の濃集は、南中国のデータは試料がなくてわかりませんが、アメリカでは起こっており、時代名称よりオルナタス異常(Ornatus Anomaly)と呼ばれています。この異常は、何度も繰り返して水銀の濃集がおこっています。少なくとも目立ったピークは2つ、小さなピークがいくつかあります。
 次は、オルドビス紀末期(ヒルナンティアン期、Hirnantian)にヒマンティアン(Hirnantian)氷河期があるのですが、はじまる直前(後期カティアン期、late Katian Age)に短期間で急激な増加が、アメリカでも南中国でも起こっていています。一度だけの現象ですが、明瞭で急激な濃集で、時代名称より「上部パシフィカス異常(Upper Pacificus Anomaly)」と呼ばれています。
 最後が、氷河期の間に、南中国では水銀の濃集が度々おこっています。ところが、アメリカでは小さな濃集はあるのでは、明瞭ではありません。
 3つの濃集といっていますが、単純な濃集ではなく、分析のグラフをみると何度かの繰り返しのピークや、短期間で強烈なピークなど複雑な濃集のパターンが含まれています。その濃集メカニズムでは、このような不規則のパターンを説明できなければなりません。
 では、水銀が、なぜ濃集したのか、そのメカニズムを考えていきましょう。
 通常の堆積作用では、水銀の濃集は起こっていません。水銀を堆積物に濃集するメカニズムとして、論文では、一つの可能性を示しています。海洋では有機物の水銀が結合することで濃集するという報告があることを紹介しています。堆積物中に有機物が増えることで、水銀が増加することがあります。有機物が多く堆積していれば、水銀の濃集の原因が解明されたことになります。
 その効果を見るために、論文では、有機物の堆積量の指標として全有機炭素(total organic carbon、TOC)という値を用いられています。調査された時代では、TOCの量の変化はバラバラで、水銀の濃集とあまり相関はないように見えます。その相関を明瞭にするために、水銀とTOCの比(Hg/TOC)もグラフにされています。水銀の濃集時にHg/TOCが変化せずTOCだけが増加すれば、有機物の増加が原因となるはずですが、そうはなっていませんでした。3つの水銀濃集層では、Hg/TOCも大きな値をもっています。このことから、水銀が海洋中に多く供給されたためと結論付けられたことになります。
 では、水銀はとこから来たのかという疑問となります。次回としましょう。

・水銀・
水銀は、常温で液体の金属で、
熱による膨張率が大きく、
かつては体温計などに使われていました。
ただし、毒性の強い金属なので、
漏れると危険な物質となります。
現在では、デジタル体温計が普及したので、
家庭ではほとんど見られなくなりました。
身近なところでは、医療用の機器やランプに使われています。

・帰省中・
現在、私は、帰省中です。
このエッセイは予約送信をしました。
家族で家内の実家の横浜と、
私の実家の京都に連続して帰省してます。
家内と長男は横浜で1泊のみで帰宅。
次男と私は、私の横浜から京都へ移動しての3泊となります。
飛行機のチケットは入手しているのですが、
横浜の京都のJRがのチケットは
まだ購入していませんでした。
お盆直前の帰省ラッシュで乗り物が混みそうなのですが
失念していました。
急いで購入したいと思っていますが、
どうなるでしょうか。
無事に京都までたどり着けているでしょうか。

2017年8月3日木曜日

2_149 オルドビス紀末の大絶滅 3:米中、3層準、水銀

 オルドビス紀末の大絶滅の原因として、水銀が関係していたのではないかという報告がありました。なぜ、あまり多くない水銀という元素に着目されているのでしょうか。報告の概要を見ていきましょう。

 オルドビス紀という日本ではあまり馴染みのない時代におこった大絶滅について、これまで紹介してきました。その大絶滅の原因として、新たな説が提唱されました。
 2017年5月に、Geology(地質学)という雑誌に、
A volcanic trigger for the Late Ordovician mass extinction?
Mercury data from south China and Laurentia
(後期オルドビス紀の大絶滅は火山がきっかけか?
南中国とローレンシアからの水銀のデータ)
というタイトルの論文が掲載されました。発表者は、アメリカのアマースト大学やワシントン大学、そして東北大学の研究チームが発表したものです。
 この論文では、試料をアメリカと中国のオルドビス紀の堆積岩から採取し、水銀(Hg)に注目して分析しました。その結果、地層の中で3つの層準で水銀が濃集していることがわかりました。
 この論文において重要な点は、「アメリカと中国(米中)」「3つの層準」と「水銀の濃集」ということです。
 「米中」とは、現在、太平洋を挟んで2つの離れた位置ということです。アメリカの位置はMonitor Rangeというところで、中国はWangjiawanというところです。現在は遠く離れているのですが、オルドビス紀き形成された地層ですので、その時代にどのような位置関係にあったが重要になります。
 大陸の移動は、それぞれの時代で復元されています。オルドビス紀には、アメリカのMonitor Rangeは、ローレンシア大陸の東海岸で赤道付近に位置していました。中国のWangjiawanは、南極やその周辺に広がっていたゴンドワナ大陸から離れた赤道の少し北に南中国大陸(大きな島)にありました。両大陸の間には、パンサラッサという大きな海洋が入り込んでいました。つまり、両地点は、赤道付近ではあるのすが、地球の反対になるような位置関係でした。遠く離れた地点でした。
 「3つの層準」の層準とは、時間の違いを意味します。地層が形成される時、新しいものが上に堆積しているので、地層の一枚一枚の上下関係は、時間の違いを意味します。層準が違うとは、上下の違う位置の地層のことで、地層の形成時代が違っているという意味で使われます。この論文では、3つの層準とされているので、3つの時代で水銀が濃集が見つかったことになります。
 「水銀の濃集」の水銀は、もともと地表に少ない元素です。通常の堆積岩からできている地層は、水銀が少なくなります。ではなぜ、もともと地層に含まれていないような水銀が、濃集するようになったのでしょうか。その原因の推定が、この鍵となるところです。
 離れた2地点で、3度にわたって、地表でできた地層に、なぜ水銀が濃集したという謎を探る必要があります。そして、なぜ、それらが大絶滅と関連するのでしょうか。その謎解きは次回としましょう。

・努力・
現在、私の学科の学生が
教員採用の2次試験にむけての対策を
自主的に取り組んでいます。
いろいろなタイプの試験があるのですが、
いくつか訓練しておいたほうがいいものがあります。
教員もあいている時間で、協力しています。
学生たちも練習を繰り返すことで上達していきます。
またそこでした努力は、きっと将来報われすはずです。
でも、学生は将来より明日の結果に
向かって努力しているのでしょうが。

・帰省・
8月になりました。
北海道は、夏らしい日が続きます。
日中の研究室は暑いですが、
日陰は涼しいですし、
朝夕は窓を閉めなければ肌寒いくらいです。
そして、なんといっても大学の講義が
すべて終わり、あとは定期試験と採点です。
そのドタバタも今週で終わらせます。
来週は家内と私の実家に家族で
帰省することになります。
暑い時に横浜と京都です。
バテなければいいのですが。