2012年8月2日木曜日

2_108 ヒ素では生きていけない 2:反論

ヒ素を利用して生きているらしいGFAJ-1をめぐる議論がありました。実験条件の厳密化とDNAの成分分析からの反論です。そこには、重要な内容が含まれていました。反論も含めて議論が深まることで、生命の本質にかかわる重要な鍵が見つかるかも知れません。

 ヒ素を体内に取り込み生きているバクテリア、GFAJ-1は、以前紹介したウルフ-サイモン(論文の第一著者)らの培養実験で、ヒ素のある環境を好んでいることがわかりました。彼女らの実験では、GFAJ-1は、リンだけ、あるいはヒ素だけの環境では成長できず、リンが極端に少なくヒ素がたくさんある条件でより増殖したというものでした。その結果、GFAJ-1には、リンはある程度は必要ですが、ヒ素が多い環境を好み、不可欠としている生物であることがわかりました。
 以前のエッセイでも書いたのですが、論文の公開前に、NASAが大々的に記者会見までしていたので、そのやり方に少々顰蹙(ひんしゅく)をかっていました。この論文が報告されたあと、同じ条件で実験をしても、同じ結果が得られないという批判がありましたが、公式な反論はこれまでありませんでした。まあ科学ですから、公表の仕方は、論の是非や本質とは関係なく、冷静に論理的に評価、批判しなければなりません。
 正式な反論が、7月8日発行のサイエンス誌(電子版)に公表されました。スイスの工科大学チューリヒ校とアメリカのプリンストン大学の2つの研究グループが、別個に出しました。その2つの論文では、別々に(独立といいます)実験がおこなわれたものなで、その再現性はいいものと考えられます。つまり、信頼できる科学的な反論だということです。
 彼らの実験では、ウルフ-サイモンらの論文と同じ条件でおこなうと、同じ結果を得ました。ここまではいいのですが、リンをもっと減らしていく(ゼロではない)と、GFAJ-1は増殖できなくなりました。さらに問題は、GFAJ-1のDNAを調べたところ、ヒ素が検出されませんでした。あったとしてもごく少量だそうです。ヒ素がDNAのリンの多くを代替しているわけではなかったのです。
 この実験結果は、ウルフ-サイモンらの以前の内容を、否定するものではありません。より厳密に限定していったということです。リンが少量とはいえ、GFAJ-1には必要不可欠であることは、実は、ウルフ-サイモンらも、リンのない条件で培養実験をしているので、知っていたことです。
 問題は、DNAにヒ素がなかったことです。つまり、DNA内でリンの代わりとしてヒ素を使っていたのではないということです。ウルフ-サイモンらDNAにリン酸があることは知っていました。もし、DNAにヒ素はなく、すべてリンであれば、その他多数の普通の生物のDNAと変わらなくなります。
 この反論によって、論点が整理されてきました。
 GFAJ-1が繁殖するためには、ヒ素が必要なことは確かです。ヒ素がGFAJ-1のDNAの主要成分でないことが判明したので、問題は、ヒ素がどこにあり、どのような機能を担っているのかです。
 例えば、DNAをつくるために、あるいはなんらかの代謝をするために、ヒ素が使われているのかも知れません。本質は、GFAJ-1におけるヒ素の役割です。その役割がわかり、他の生物にも普遍化できるかどうかが重要となります。もし生命機能として普遍化できるなら、「第2創世記」があったかもしれません。

・調査行・
もう8月です。
北海道は暑い日が続いています。
今年の講義の後半は、苦しい日々が続きました。
そんな苦しさを解消するためにも
研究調査に出たいのですが、
少々精神的にも疲れて、
動く気力が湧きません。
でも、それではますますストレスがたまるので、
厳しいスケジュールの合間をぬって、
9月上中旬に1週間ほど調査に出ることにしました。
その決意を固めるためにも、
チケットを先日予約しました。
やるということをもう決めてしまいました。
まだ宿はとっていなのですが、
だいたい周るコースを定めつつあります。
久しぶりに四国から離れた調査になります。
ただ、スケジュールが混んでいるので、
体調を崩さないようにしなければ。

・構造浸食・
次の論文のために、新しい論文を
集中して読んでいます。
構造浸食に関する一連の論文です。
重要な意味がありそうです。
いくつか重要な根拠(データ)に基づいていること、
今までの疑問点を解決できそうなことが
素晴らしい点です。
これは、新しい視点を地球科学に導入する可能性があります。
なんといっても重要なのは、
新しい現象を予言している点です。
反証可能性を提示しているのです。
まるで新しいパダライムの提示にみえますが、
パラダイムなるかどうかは、
今後の検証、展開しだいです。
機会があれば、紹介してきたいと思っています。