2015年3月26日木曜日

3_141 マントル対流 4:対流の形成

 シミュレーションによっていろいろなことが見てきました。インド大陸の移動速度が非常に早いこと、そして衝突後もまた移動する力が残っていることもわかってきました。それが、マントル対流による海洋プレートの移動という仮説の支持へとつながっています。

 吉田さんと浜野さんのスーパーコンピュータを用いたシミュレーションによると、ゴンドワナ大陸から分離したインド亜大陸は、少々変わった振る舞いをします。その移動速度が地質学的には例外的に速いものでした。通常のプレートの移動速度は年間数cm程度です。ところがインド亜大陸は、年間最大18cmというスピードで移動したと推定されています。通常のプレートの移動速度の2倍ほどになっています。
 これほどの高速のプレートの移動は、海洋プレートの沈み込みによる駆動では説明しづらいものとなります。また、インド亜大陸は、現在ではユーラシア大陸と完全に合体しており、テチス海の海洋プレートの沈み込みの駆動力は止まっています。ところがインド亜大陸は、今もなお北上を続けています。その影響でヒマラヤ山脈は上昇を続けています。このような異常なインド亜大陸の移動と衝突は、なぜ起こるのでしょうか。
 シミュレーションによると、超大陸パンゲアの分裂直後に、テチス海の北方、ローラシア大陸の縁にもともとあったコールドプルームが、急速に成長してコアに向かって落下していきます。
 コールドプレームとは、沈み込んだ海洋プレートが集まったマントル内の冷えて重たい物質が集まったものです。海洋プレートの沈み込み帯のマントルへの延長方向に形成されるものです。ですから、大きな海洋プレートが沈み込むと、巨大なコールドプレートがマントルの中(上部マントルと下部マントルの境界部)に形成され、それがなんらかの刺激によって落下していきます。
 超大陸パンゲアがホットプルームの上昇により分裂しはじめたことが、刺激となったと考えられます。ホットプルームとは、暖かいマントルの巨大な上昇流、つまりマントル対流の上昇流のことで、コールドプルームはマントル対流の下降流に対応するものとなります。超大陸が永きにわたって存在すると、熱の放出口が蓋をされた状態になり(超大陸の熱遮蔽効果と呼んでいます)、やがて核(コア)直上で熱を溜め込んだ最下部マントルの熱い物質が上昇してきます。そのホットプルームに呼応して、コールドプレームの落下が起こります。コールドプルームとホットプルームがタイムラグはあっても呼応して動くということは、マントルが動くこと、つまりマントル対流が起きているということになります。従来の定常的なマントルの対流とは違っているモデルです。ただしこれは、以前から提唱されている仮説です。
 このコールドプルームの動きが、インド亜大陸の移動を高速化させたと考えられています。コールドプルームによるマントルの対流によってインド亜大陸が引っ張られます。
 定説では、沈み込む海洋プレートの引っ張りの力によって、大陸プレートも動くことになり、大陸プレートはブレーキ役になり、海嶺の海洋プレートの広がりを押える働きをします。一方、マントル対流による大陸プレートの移動は、マントル対流のブレーキにはなるのですが、海洋プレートの動きを促すことになります。この大陸プレートの海洋プレートへの作用が、両モデルでの違いとなります。
 同じような現象を見ているはずなのに、解釈によって見解、仮説が大きく変わります。ここまで定説への反論が2つ紹介しました。このまま定説が覆されるのでしょうか。それとも再度定説が修正されて復活するのでしょうか。目が離せませんね。実は定説側から反論が出てきていますが、それは、次回としましょう。

・卒業式・
いよいよ2014年度が終わりました。
卒業式も終わりました。
今年は、ゼミ生も多かったので、
卒業式のあとの最後まで付き合いました。
さすがに3次会ともなるとゼミ生の数も少なくなりました。
それでも20名近くの卒業生がいました。
最後の別れを惜しみました。

・飲み会の教訓・
先週の卒業式に続いて今週は、
教職員の送迎会と歓迎会があります。
別にも学生グループとの打ち上げもあります。
飲み会ですから楽しいものではあるのですが、
やはり続くと体が疲れていきます。
読んだ翌朝、起きて疲れていると、
もう若くはないのだということと
これからは飲み過ぎないようにという
毎度の思いと反省が起こります。
私は、成長しているのでしょうか。

2015年3月19日木曜日

3_140 マントル対流 3:シミュレーション

 プレート運動の駆動力のこれまでの経緯と定説を紹介し、その定説を覆す新説を前のシリーズ「プレートはなぜ動くのか」で紹介してきました。さて次に、最近の報告で、新説を支持するものが出てきたので、その論文を紹介していきます。

 これまで定説として、海洋プレートの駆動力は、海底で冷えて重くなり、下のマントルとのバランスが崩れて、海溝で沈み込むことによっている、というものでした。しかし、最近、それに反する報告があり、さらにその反論を支持する論文がでてきました。
 吉田晶樹さんと浜野洋三さんの論文で、
Pangea breakup and northward drift of the Indian subcontinent reproduced by a numerical model of mantle convection.
(マントル対流の数値モデルによるパンゲアの分裂とインド亜大陸の北上の再現)
というものです。この論文は大陸移動をコンピュータ・シミュレーションで再現したものです。この研究が、なぜ海洋プレートの駆動力の話とつながるのかという疑問が生じますが、紹介していきましょう。
 まずこのシミュレーションをおこなった装置を紹介しましょう。日本のスーパーコンピューターといえば「地球シミュレータ」や「京」が有名です。しかし、最新式のスーパーコンピュータもいろいろと導入されています。今回の報告は、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が所有するスーパーコンピューター(SGI ICE XとNEC SX-9Fを中心としたシステム)によるものです。JAMSTECは、「地球シミュレータ」を持っているところです。今回のシステムは、地球科学における計算やデータ解析に主として利用されているものです。その成果の一つが今回の報告でした。今後は、「地球シミュレータ」との連携も考えられているようです。
 さて今回の研究は、地球内のマントル全体を三次元的に、2億年間にわたって計算機シミュレーションしたものです。重要な点は、全球内のマントル対流の再現をしたもので、非常の計算能力が必要なものです。今までも似たシミュレーションはおこなわれていたのですが、この研究では、大陸地殻が力を受けたら自由に変形して移動していくというより複雑な設定にしてあります。この設定により、大陸の挙動を厳密に再現できることになりました。
 計算機シミュレーションの結果と地質学でかなり精密に復元されている大陸移動との照合が可能になりました。つまり、このシミュレーションは、2億年前に計算をスタートしていますが、現在の地球の様子と照らしあわせて、正しさを検証できます。
 2億年前からシミュレーションはスタートしています。2億年前は、超大陸パンゲアがあった時代でした。超大陸とは大陸の大部分が一箇所に集まっている状態になっているものです。パンゲア超大陸が分離して、北にローラシア大陸、南にゴンドワナ大陸ができました。ゴンドワナ大陸から、インド亜大陸が分離して北上していきます。5000万から4000万年前にかけてユーラシア大陸に衝突し、現在に至ります。その様子が、シミュレーションによって再現されています。
 シミュレーションによる結果は、地質学から得られている途中経過の様子とも一致していて、現在の大陸配置と一致しています。したがって、このシミュレーションが正しいとすればと、地球内部のマントルの動きも正しく復元されていると推定できるという論法です。
 少々複雑ですが、このような理屈でこのシミュレーションを読み解いていきます。次回は、結果からわかることを紹介してきます。

・今と昔の変わったもの・
かつて地球が大きく、経過時間が長いため、
シミュレーションは、いかにに計算単位を間引くか、
いかに小さい範囲で現実に近づけたものにできるかが
研究者の腕の見せどころでした。
ところが、現在は、コンピュータの能力が向上してきたので、
全地球や全マントル、全大気圏などを対象にして
シミュレーションできるようになりました。
こうなると、研究者の腕もさることながら、
どのような計算機を、どれくらい使えるかが
成果を大きく左右することなります。
かつてスーパーコンピュータは、
一部の恵まれた、選ばれた研究者の
独占物になることありました。
今では使用のチャンスは公開され、
研究目的さえよければ、
だれでも利用できる環境になっているはずです。
能力があり、やる気があれば、
すべての研究者にチャンスが与えれているわけです。

・今も昔も変わらない・
シミュレーションは、初期条件を設定して、
あとは、あらかじめ用意された計算手順や、方程式にそって
自動的に進められていきます。
ですから、原則的には、だれがやっても、
何度やっても同じ結果が得られるはずです。
ところが、初期条件の微妙な数値の違い、
手順の違い、方程式の選択、
プログラム上の違いなどによって、
結果が変化する場合があります。
変動が激しい時は、研究者の意図が反映した結果が
生じることも起こりえます。
そこで重要なのは、研究者の良心です。
これは、今も昔も変わらないものです。

2015年3月12日木曜日

3_139 マントル対流 2:駆動力

 このシリースでは、プレート運動にかかわるマントル対流に関する最新の研究動向を紹介しています。新しい研究が報告されましたが、いずれも日本の研究者によるものです。そんな研究が現在、ホットな話題になりつつあります。

 1960年代にプレートテクトニクスの考え方が登場してきたとき、従来の考え(地向斜造山運動)を持っていた人たちとの激しい論争が起こりました。地向斜造山運動は、それまで陸域の調査データから構築された大地の営みに関する考え方でした。
 第二次大戦後、海洋域の調査ができるようになりました。国際協力による海洋底の岩石の掘削などもおこなれるようになりました。今までほとんどなかった海域に関するデータが、膨大に付け加わるようになりました。それらがプレートテクトニクスを支持する証拠となり、その結果、地向斜造山運動を支持する人がほとんどいなくなりました。現在では、プレート運動が実測されるようになり、プレートが移動していることは、疑うことのない事実になりました。
 プレートが動いているのは事実だとしても、なぜ動くのかということについては、まだ決着は見ていませんでした。地球内部の熱が外に運ばれる熱運搬のために対流の一環である、という総論は一致していました。
 かつては、海洋プレートの運動は、マントル対流の上昇流の出口である海嶺で海洋プレートが形成され、両側に広がることが、表層のプレート運動における駆動力だと考えられました。
 ところが、実際のマントル物質による対流を考えていくと、対流の上昇部である海嶺、降下部である海嶺の配置が、熱対流を反映した配置になっていないという点が問題となっていました。現在ではこの問題は、プレート表層が冷えることによって対流が生じる、という考えで解決されています。
 地球表層にある海洋プレートは、大気や海洋によって冷やされることにより、密度が大きくなります。冷めた海洋プレートの密度は、プレートの下に位置する流動性をもったアセノスフェアより、わずかですが、大きくなります。その結果、表層の海洋プレートとアセノスフェアに重力的な不安定が生じ、解消するために沈み込みが起こるという考えです。
 この考えは、冷却が対流の原動力だという考え方です。これも地球の熱対流という現象ですが、従来の見方とは違うことになります。熱対流の一番の原因を、従来の地球内部の熱が能動的に外に出ようとする現象ではないというのです。外から冷されるため、内部の熱が受動的に外に運ばれることで対流が起こるという考え方です。熱い地球が冷めていくという見方ではなく、地球が外から冷まされているという見方への転換ともいえます。
 このような見方においては、海洋プレートがマントル対流の重要な役割を果たすことになります。では、そのようなプレート運動において、大陸プレートはどのよう振る舞いをするのでしょうか。大陸プレートはどんなに冷えても、厚くなっても、マントル物質より密度が小さいので、地球表層を移動するだけです。大陸プレートの移動の駆動力も、基本的には海洋プレートの沈み込みによる引っ張りの力によってマントルの上を強制的に移動していくことになります。つまり、大陸プレートは、大陸下のマントルを引きずろうとする力が働き、海洋プレートの運動に抵抗していくことになります。
 これが、これまでの常識的なプレート運動の考え方でした。

・心構え・
校務の出張に出ていました。
この2年間、出張が多かったです。
慣れてしまえば、そんなものかと思えるのですが、
初年度は、忙しさに戸惑いました。
しかし、これは初めてのことばかりなので
心構えが十分できていなかったためでしょう。
また、出張の前後も落ち着かず、
なかなか大変な思いをしました。
2年目はどんな校務があるかの
全体像がわかっているので
心構えができているようで、
肉体的には大変なのですが
気持ちの上では楽でした。
そんな2年の校務でした、
それも3月で終わります。
しかし、またまた大変な校務が続きます。

・想定外・
このエッセイは、この上の文章まで事前に用意していいました。
出張が終わったあと、発行するだけでした。
ところが、全国的な大荒れの天気で、
予定の飛行機が飛ばなくなりなりました。
そのため、陸路で札幌へ向かうことになったのですが、
私だけは青森から函館まで進み、
翌日、函館から札幌に向かうことにしました。
長時間の列車は腰を痛めそうな気がしました。
幸い翌日は校務が入っていなかったので
担当部署の許しを得て、函館に一泊しました。
他の人は6時間以上かかって、
夜遅くに着く列車に乗りました。
しかし、大荒れの天気は今日も続くようなので
無事に帰りつけるかが、心配ですが。

2015年3月5日木曜日

3_138 マントル対流 1:最新情報

 ここ最近、プレート移動の駆動力というマントル対流の本質にかかわることで、大きな議論が起こっています。それをいくつか紹介します。前回に続いて、今回も「地球の仕組み」でのシリーズとなりますが、最新の話題なのでご了承ください。

 前回まで、5回のシリーズで「プレートはなぜ動くのか」を紹介してきました。小平さんたちの北西太平洋での広域の調査にもどついた結果によれば、いくつかの重要な観察事実に基づき、マントルが海洋地殻を引っ張っているという結論を導き出しました。
 その結論は、今までの「定説」に反するものでした。この説は、一つの報告から出された仮説で、まだ少数派の意見でした。
 ところが、先日(2015年2月12日)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の吉田晶樹さんと浜野洋三さんが、イギリスの科学誌「Scientific Reports」(電子版)に論文を発表されました。マントル対流を計算機シミュレーションによって解いた研究が報告されました。この論文は、小平さんたちの仮説、つまり少数派意見を支持する結果となりました。
 それで話が終われば、一種のパラダイム転換が起こりつつあるように見えるのですが、実はそう簡単にはいかないようです。
 東京大学の小河正基さんが、2015年2月25日発行の「地学雑誌」の総説で反論をだされました。総説(レヴュー、reviewとも呼ばれる)とは、これまで研究を総括的にまとめた論文です。網羅的にこれまでの研究をまとめたものですから、現状の定説にいたる考えが整理されており、多くの研究者に非常に役立つ論文となります。余談ですが、かつて総説はその分野の大御所が書くことが多かったのですが、最近では問題意識をもった若手や中堅クラスの研究者が書くことも多くなりました。基本的に総説は、新しいデータを出して議論するものではく、今までの研究動向を整理するものです。
 小河さんは、地球型惑星の内部構造に関する研究動向をまとめました、そして、論文の一番最後に、わざわざ付録をつけて「マントル対流の性質」として、プレート運動を含むマントル対流についての混乱があるとして、議論されています。その中で小平さんたちの考えに対して反論をされています。もちろん、総説ですから、一般論化されての反論ですが。
 これから、数回のシリーズとして、まずはプレートの運動、特に海洋プレートの沈み込み機構について再度整理し、次に吉田・浜田の論文を紹介し、小河さんの反論も紹介していきたいと思っています。詳細は、次回からとなります。

・決着は・
学問は議論が重要です。
ただし、議論は決着を見る場合と、見ない場合があります。
決着を見る場合は、
正解が見つかる問題が一番わかりやすのですが、
自然科学ではそのような場合は多いわけではありません。
特に地球や自然現象を相手にしている場合は、
結論は出にくい場合が多いです。
それは、背景に、長い時間、大きな対象、
近似値による理論化などがあるためでしょう。
ほかに決着を見る場合もあります。
たとえば、一方が負けを認めた場合、
折衷案があった場合、
両方ともありえると結論できた場合、
すべてを包括できるより広い仮説が出てきた場合
などです。
決着を見ない場合は、時間がたてば、
趨勢がどちらからにいくことになります。
今回は、まだ議論が始まったばかりなので
今後の動向が気になるところです。

・三寒四温・
3月になりました。
北海道は、寒い日、暖かい日が繰り返しています。
三寒四温に入ったのでしょうか。
大学は、今も入試の最中です。
今週末から来週にかけて校務出張が入ります。
今度は青森です。
天気が心配ですが、
こればかりは、今から心配しても仕方がないですね。