2008年3月27日木曜日

3_69 多様性の単純な原理:日本列島の石4

 列島の岩石の多様性は、沈み込みという非常に単純な原因で説明することができます。その説明を今回は完成しましょう。


 沈み込むプレートが、日本列島の多様な岩石を生み出す原因となっていることを、前回紹介しました。沈み込むプレートによって、列島の高まりができることと、海溝と列島の間の地下には、付加体ができること、そして地震が起こることを説明してきました。次は、沈み込むプレートによって、列島の他の特徴を説明することです。
 沈み込むプレートは海洋地殻を構成している岩石からできています。そのような海洋地殻が沈み込むと、付加体の中に紛れ込むことがあります。海洋プレートが沈み込むとき、出っ張っているもの(例えば海山)は、陸のプレートに引っかかります。また、海洋プレートの上に載っている軽い岩石、ときには海洋地殻の重い岩石も、そぎとられて陸側のプレートに挟み込まれることも起こります。付加体全体としては、列島が削剥された堆積物を主とするのですが、その中には海洋地殻の岩石が紛れ込んでいます。このような付加体が列島で陸化したとき、見つかります。これが列島の岩石が陸岩石だけでなく海洋域の岩石を持っている原因です。
 もぐりこんだプレートは、冷たいですが、深さとともに圧力がかかっていきます。温度はすぐには上がりませんが、圧力によって海洋プレートに含まれていた水分が絞りだされ、のぼっていきます。その結果、陸側のマントルの中に水分が付け加わることになります。陸側のマントルは熱いままですから、そこに水分が加わると、マントルの岩石は溶け出します。溶けた岩石が集って、マグマなります。マグマは、周りの岩石より比重が小さいですから、上昇していきます。マグマが、地殻の中で固まれば深成岩、地表に噴出すれば火山岩になります。
 列島の火山が海溝と平行しているのは、海洋プレートから水分が絞りだされる条件を満たす場所が定まっているためです。圧力は地下では深さによって決まります。もぐり込むのは板状のものですから、ある深さに達すのは、ひとつのプレ-トでは、海溝に平行になります。その水の絞り出される上部がマグマ発生ゾーンなり、地表では火山列になると考えられます。
 この考えで高圧の変成岩も同時に説明できます。火山が発生するのは列島の内部で、山ができているとろこです。火山も新たな高まりとして加わります。あるいは列島が高まった地下は、高圧のかかる場所となります。さらにそこがマグマが上昇するような場になれば、高温の場ともなり、高温高圧の変成岩も形成されます。あるいは浅いところでマグマに接すれば、マグマの周りだけに高温の変成岩ができます。
 列島では沈み込むプレートに圧されているため、激しい上昇の場となります。山が常に形成されているような場では、侵食も激しくなります。侵食が進めば、深部で海溝と平行に形成された深成岩や変成岩が、地表に顔を出すことになります。列島の侵食の速さを示す例として、世界で一番若い深成岩が(約140万年前の滝谷花崗閃緑岩)、日本列島で見つかっています。もちろん、他の地域でも新しい時代にできた深成岩や変成岩も出ています。
 また、海洋プレートの沈み込みは、一箇所だけで継続するわけでなく、ジャンプしてより海側に移ることがあります。また、一つの海洋プレートが全部沈み込んでしまうと、違うプレートがまた沈むことがあります。大陸プレートは沈むことは決してありません。日本列島は大陸プレートの縁にありますので、常に沈み込みにさらされている場所となります。古い沈み込みで形成された列島に、次の時代の沈み込みの現象が上書きされる場となります。ですから、いろいろな時代の多様な岩石が、日本列島で見つかるのです。
 列島の岩石の多様性は、実は海溝での海洋プレートの沈み込みという非常に単純な原因で説明することが可能なのです。

・人類の営み・
日本列島は、地質学者も多く、いたるところが調査されつくされています。
ですから、日本列島の地質の生い立ちは、かなり解明されています。
シナリオはほぼできているといえます。
しかし、いくら研究が進んでも、目的が違えば、
同じ対象でもあっても、新たなデータがとられ、新しい発見があります。
その成果が研究論文と公表されます。
成果の数は、増えることはあっても、減ることありません。
つまり、どんなにたくさんのことがわかってきても、
研究、つまり知たいことには終わりなく、
そして新たの発見が行われます。
終わることのない営みです。
これが、人類の営みなのでしょう。

・春・
いよいよ春です。
北海道でも春めいてきました。
道路の雪はほどんとなくなりました。
先日の週末には、子供たちとともに自転車をだして掃除し、
空気を入れて、今シーズンはじめて、自転車に乗りました。
快晴で天気は良かったのですが、
まだ風は冷たく手袋と防寒の帽子が必要でした。
しかし、外で体を動かしていれば、
上着が必要なくなるほどの陽気になってきました。
春の花も、もうじきのようです。

2008年3月20日木曜日

3_68 沈み込みが原因:日本列島の石3

 日本列島は多様な岩石があります。その多様性が、実は、単純なメカニズムに起因しています。


 日本列島には、他の地域と比べて、多様な岩石があることを見てきしました。この特徴は、日本列島にだけ見られるものではなく、海溝をもつ列島全般に見られるものであることがわかってきました。
 では、次のステップとして、なぜ、列島には多様な岩石があるかということです。その原因を探ります。日本列島を例にしていくとわかりやすので、日本列島で考えていきましょう。
 日本列島には、火山があります。火山は、列島の延びている方に並んでいます。堆積岩は、大陸棚にたまったものや海底にたまったものなどがあります。地層の伸びる方向も、列島に平行しています。深成岩があり、それと並行するように変成岩があります。両岩石の並びも列島に平行です。海に近いものは新しい時代にできたもの、離れているものは古い時代にできたものという一般的な規則性があります。大雑把にみるとこのような傾向が見られます。大雑把な傾向ですから、もちろん例外もありますが、日本列島だけでなく、多くの列島にも同じような傾向があります。
 これらは、すべて重要な特徴ですが、並びに重要な意味があります。並びが伸びている方向は、列島の伸びる方向でもあり、海溝の伸びる方向でもあります。実は、列島のすべての特徴は、この海溝に由来していることがわかっています。
 海溝は、海洋プレートが沈み込んでいるところです。この海溝での沈み込みが、多様性形成のはじまりです。
 考えると不思議な現象ばかりです。海溝では、冷たい海洋プレートが下に向かって沈み込みます。なのに列島では、上に向かって、作用が起こります。海でたまった岩石が陸に上がり、地球深部でできた変成岩や深成岩が地表で見られます。また冷たいものが沈み込むのに、熱いマグマが形成され、深成岩や火山ができます。さまざまな現象が起こります。これらの現象が、海洋プレートの沈み込みで、本当にすべて説明できるのでしょうか。
 列島が高まる理由は、海洋プレートが沈み込む時に、陸側のプレートを押しているためです。陸側のプレートは圧縮されていきます。大地が圧縮されると、場所によってはくぼむところがありますが、全体としては盛り上がります。なぜなら、陸地をつくっている岩石は、地下深部のマントルを作っているものより軽いからです。下にくぼみたくてもいけません。いけるのは上だけです。だから、押されている列島には高まる力が働きます。
 海溝では、陸側の岩石は、沈み込むプレートともに引きずられてもぐりこもうとしますが、軽いのでもぐりこめません。そのため岩石には強い力がかかり、歪として蓄えられます。しかし、沈み込みが起こっている限り、継続的にこの力は加わりますから、やがて岩石が歪を吸収しきれなくなったとき、一気に上に跳ね返ります。このとき岩石は破壊されならが歪が解消されていきます。これが沈み込み地帯にそって起こる地震となります。このような海洋プレートの沈み込みに伴う現象で、陸側の岩石の陸化が起こっています。
 これらの作用の繰り返しで、堆積物が陸に付け加わります。陸側の大陸斜面の下部にできる堆積物を、付加体と呼んでいます。
 列島側の陸に高まりができると、侵食にさらされていきます。侵食を受けた岩石は、砕かれ、海に向かって堆積物として流れ込みます。一部は海溝まで達することもあります。海溝では、常に沈み込みによって堆積物が陸側に付加する作用が働いています。だから、海溝は沈み込みが起こっている限り、深い場所となります。
 まだまだ沈み込みによって岩石に多様性が生まれるメカニズムが働いています。それは、地下深部の出来事ですが、次回としましょう。

・論理学・
今論理学の入門書をいくつか読んでいます。
論理学自体は、まささに論理的で理詰めですべて話が進んでいきます。
数学以上に簡潔に証明がなされていきます。
できればそれも学びたいのですが、
まず、論理の基礎的な概念をつかむために、
いくつかの入門書を読んでいます。
大いに学ぶとこと大です。
そして、応用できるところ大です。
ただ、私が目指している方向性とは、少々違う気がします。
しかし、基礎的な教養、道具としては必要なので、
もう少し、深く学んでいくつもりです。

・卒業式・
先日大学の卒業式に参列してきました。
学長の送辞として、何人かの学生の大学生活が紹介されていました。
もちろん彼らは大学でがんばって、それなりの成果を挙げた学生です。
このような話を聞くと、教員をやっていてよかった思える瞬間です。
しかし、学生はどう思うでしょうか。
がんばったと思っている学生はどれほどいるでしょうか。
夢を見つけ、そしてその夢に向かって
新たなステップを大学という場で踏めたのでしょうか。
そうであればすばらしいことです。
もし、大学生活に不満や思い残すことがあった学生いたとしたら、
彼らは成功した学生の話をどう聞いていたでしょう。
かろうじて卒業した学生、
就職が決まっていない学生、
何をしたいかまだ決められない学生、
彼らにとって、卒業は喜ぶべきことなのでしょうか。
式の最中に不謹慎にもそんなことを考えてしまいました。

2008年3月13日木曜日

3_67 小さいのに多様:日本列島の石2

 地球の表面は、大気(気体)か海洋(液体)が覆っています。しかし、固体としての地球は、岩石が主役になります。日本列島は本当に多様かどうか、他の地域との比較によって比べていきましょう。


 日本列島は、地球の全表面積からすると、非常にささやかな存在にすぎません。そのようなささやか列島が、なぜ、多様な岩石からできているのでしょうか。まず、多様さを確認しておきましょう。
 地球の3分の2を占める海からみていきましょう。海は液体ですから、海底から下が固体部分となります。海底の主体は、海嶺で形成された火成岩からできています。その火成岩は、海底では噴出して火山岩になり、深部では深成岩になります。海嶺では常にマグマが活動してて火成岩が形成されますので、古い海底の岩石は、海嶺の両側に押しやられます。
 海面近くに棲息しているプランクトンは死に、その遺骸が海底に降り積もります。遺骸がでる量は少ないのですが、時間と共に着実にたまってきます。ですから、古い海底にはウーズとよばれる生物の遺骸からできた堆積物、深部ではそれが固まったチャートと呼ばれる岩石が覆っています。地球の大半を占める海底が、このようなかなり単調な成因の岩石からできていることになります。
 目を大陸に移すと、列島とは比べ物にならないくらい雄大な景色が見られます。アメリカ大陸は、中部から西部にかけては、雄大さの典型ではないでしょうか。中部は広大な大平原が広がります。その地下は、長い年月をかけてたまった堆積岩からできています。西部のロッキー山脈になると標高が上がり、堆積岩が河川の侵食を受けています。ロッキー山脈の中にあるグランドキャニオンは、日本人には想像もつかないほどの大きな川と侵食地形が見られます。削られた谷の断面では堆積岩がきれいな地層を見ることができます。グランドキャニオンの北にはイエローストーン国立公園があります、イエローストーンは火山活動の活発なところで、今でも温泉や噴気がでています。グランドキャニオンから西に向かうとシラネバダ山脈があります。そこには有名なヨセミテ国立公園の渓谷があり、その巨大な渓谷を構成するのは花崗岩です。その花崗岩が、氷河によって削られたもの雄大な渓谷となっています。すべてが巨大です。
 大陸の雄大な景観も、同じ成因の岩石類からできています。広大な範囲が同じ成因の岩石からできているのです。大陸や海底では、似た成因の岩石からできることのほうが、地球では一般的なのです。
 それと比べると、小さな日本列島に実に多様な成因の岩石があります。これは、やはり特別なことだと考えられます。他の地域でも同じような多様性が見られるのでしょうか。実は、いくつもあります。もちろん多様であるために、日本列島と同じものはありませんが、似たような多様性をもつ地域があります。
 そのようなものは、アラスカのアリューシャン列島、カムチャッカ半島、インドネシアの大スンダ列島、中央アメリカの西インド諸島や大アンチル諸島などがあります。すべてに共通しているのは、海溝が近くにあることです。もちろん日本列島も海溝に面しています。千島・カムチャッカ海溝、日本海溝、伊豆小笠原海溝、東海トラフ、南海トラフ、南西諸島海溝などが平行しています。
 どうも日本列島の多様性は、海溝が重要な役割を果たしているようです。

・日本の役割・
地質学は、欧米、特にヨーロッパで発展してきたものです。
欧米は、大陸に属しますので、単調な成因の岩石が分布する地域です。
ですから、列島の多様さは、あまり考慮されずに地質学が進んできました。
明治以降、日本では多くの地質学者が調査研究をしてきました。
その結果、列島は、大陸とは違う特殊なところだということがわかってました。
現在では、大陸の形成において、
列島が重要な役割を果たしていることもわかってきました。
小さな列島ですが、地質学では、重要な役割を担っています。
また、日本の研究者もその役目を果たしているのです。

・季節は巡る・
大学は入試の後半と卒業を迎えています。
北海道も暖かい日が続いて、雪解けが進んできました。
先日は雨が降りました。
冬は北海道では傘を持ちあるかないので、皆少々戸惑っています。
しかし、長く待ち望んだ春が、もうそこまで来ました。
今年の冬は前半は暖冬でしたが、後半に大雪が何度もあり、
積雪は例年を上回ったようです。
それも、もう過ぎたことです。
まだ何度も雪は降るでしょうが、季節は確実に巡っています。

2008年3月6日木曜日

3_66 多様な岩石:日本列島の石1

 日本列島は、多様が岩石からできています。当たり前のようにみえますが、よくよく考えると、それは非常に不思議なことです。日本列島の多様性の不思議をみていきましょう。


 日本列島は、非常に多様な岩石が見つかります。先カンブリア紀の岩石こそ少ないですが、種類として、非常に多種多様な岩石があります。
 地球の地下や地表の環境は多様で、環境は時間と共に変化してきます。ですから、場所や時代が違えば、形成される岩石は違ったものとなっていきます。ですから、岩石が多様であるのは、当たり前のような気がします。多様でも、分類できるということは、岩石には、それなりの共通点や、系統的な差異があることになります。
 一番大きな岩石の分類は、成因による区分です。それは、堆積岩と火成岩、変成岩の3つに分類されています。堆積岩は、土砂が地表でたまり、固まったものです。火成岩は、地下深部でできたマグマが、地表もしくは地表付近で固まったものです。変成岩は、地下で温度や圧力によって、もとの岩石が溶けることなく別の岩石に変わったものです。
 日本列島では、成因の違った3種の岩石が、複雑に分布しています。そして、そのできた年代や条件が、それぞれに異なっていて、多様になっています。
 堆積岩では、ごく普通の礫や砂利などからできている岩石、生物の遺骸が集まった岩石、温泉や海底などで沈殿したものなどがあります。できた時代も、古生代から、つい最近できた地層まであります。できた場所も、海でたまったもの、湖でたまったもの、陸地でたまったものもあります。
 火成岩では、火山岩や深成岩もあり、その種類や出かた(産状といいます)も多様です。火山岩では、白っぽいデイサイトや流紋岩から、灰色の安山岩、黒っぽい玄武岩やピクライトまであります。深成岩でも、花崗岩、閃緑岩、斑れい岩、カンラン岩などがあります。産状も、火山灰などの火山から吹き飛ばされた火山砕屑岩、水中で噴出した枕状溶岩やその破砕岩(ハイアロクラスタイトと呼ばれます)、マグマが地表で流れ出た溶岩、地中で岩石を貫いた貫入岩、地下深部でゆっくりと冷え固まった深成岩まであります。
 変成岩は、温度条件の変化として、マグマによる加熱、地下深部の温度上昇(地温勾配といいます)によって変成を受けたものがあります。また、圧力条件の変化として、地球深部の圧力で変わったもの、プレートの沈み込みによって地下深部に持ち込まれたものもあります。また、温度と圧力の両方が上がってできたものもあります。また、機械的物理的に砕かれて変成を受けたものもあります。このような温度と圧力などの条件に違いによって多様になります。さらに、もとの岩石の種類によっても多様性が増します。
 ある地域の岩石が、たとえ一つの成因だけでできていたとしても、よく見れば、どの地域をとっても、その大地を構成する岩石は、多様であることがわかります。そのような大地の岩石には多様性があることがわかっていても、やはり日本列島を形づくっている岩石は、多様だといえます。
 その多様性は、たまたまなのでしょうか。それとも何か訳があるのでしょうか。それは次回としましょう。

・二度と採れない・
日本列島は、岩石だけでなく、鉱物も多様に産出します。
岩石が多様だから、鉱物も多様になります。
多様性を知ることができたのは、
実は、日本は狭い国土に多くの地質学者が
研究を続けてきたためです。
明治以降、鉱山が各地で開発され、採掘されたため、
多様な鉱物が発見されてきました。
大型の貴重な鉱物標本は大学や博物館などに保管されていますが、
その鉱山で、当たり前の鉱物標本が、案外なかったりします。
今では閉じられた鉱山の標本は、もはや手に入れることができません。
ですから当たり前のものが非常に貴重になります。
幸い、鉱物を収集しているマニアが日本にいたので、
その人の標本が残っていることがあります。
もう二度と採れない標本は、
今あるものを大切にしなければなりません。
これは、鉱物標本だけでなく、
すべての自然物についていえることですね。

・術後・
眼の手術をしました。
1週間は安静にして、毎日通院して検査を受けていました。
その後、1週間は雑菌を入れないようにしながら、
無理をせず、日々を過ごしていました。
しかし、仕事があるため、自宅で少し仕事をしたり、
大学にも午前中だけですが、でていました。
そして今日、最終的に検査を受ける予定です。
一応経過は良好なので安心していますが、
眼の中を縫っていて、糸が解けるまで1月ほどかかるので、
ホコリがはいると、いつまでも眼が開けらない状態になります。
まあ、無理をせずに復帰していくつもりです。