2002年12月26日木曜日

1_20 太陽のかけら(2002年12月26日)

 コンドライトとよばれる石質隕石は、太陽系の初期にできた丸い粒、コンドリュールが集まったものでした。そして、それをうまく読みとると、太陽系誕生の謎が解けます。そんな謎の解明で、いちばんの主役になった隕石を、紹介しましょう。

 石質隕石の中に、面白いく、変わった隕石があります。それは、炭素質コンドライトと呼ばれるものです。もちろん、コンドライト仲間ですから、コンドリュールは持っています。炭素質コンドライトは、すべて隕石のうち、約4パーセントしか含まれていません。鉄隕石程度の頻度ではあるのですが、酸素質コンドライトから、読み解けることは、非常に貴重な情報なのです。
 この炭素質コンドライトは、太陽系の起源を知る上で重要なものです。そのわけは、化学成分にあります。
 炭素質コンドライトにふくまれている全ての元素について、濃度が正確に調べられています。このように、ある物質で、すべての元素について、濃度が調べられているものは、地球のものでも、そうそうありません。すべての元素組成を調べるのは、多数の分析装置をつかっておこなわなければならない、非常に大変なことだからです。
 炭素質コンドライトの化学組成と、太陽のものを比べてみると面白いことがわかりました。もちろん、太陽は気体で、隕石は固体ですから、固体にならない成分を比べることはできません。比べるのは、固体として隕石に入る成分だけになります。でも、気体でしか存在しない成分は、全元素の一部ですので、多くの元素で元素で比べることができます。
 比べた結果、太陽と隕石は、そっくりな成分からできていることがわかったのです。
 前に隕石は、できた年代が一致し、約45億年前だといいました。もちろん、炭素質コンドライトのできた年代も同じです。そして、太陽系の物質の中で、いちばん古い年代であります。45億年前という年代は、太陽ができた時代でもあります。ですから、炭素質コンドライトは、太陽と同時に、それも同じものからできたといえます。いってみれば、太陽と炭素質コンドライトは兄弟、あるいは炭素質コンドライトは、太陽の「カケラ」、太陽をつくった材料の「化石」といえます。さらにいえば、太陽系全体の「カケラ」でもあり、材料でもあるのです。もちろん、地球も炭素質コンドライトのようなものからできたことになります。
 炭素質コンドライトに含まれている成分を、詳しくみていきますと、水(H2O)や二酸化炭素(CO2)、炭素(C)などの気体になりやすい成分も含んでいいます。多いものでは、重量で10パーセント以上も含んでいることもあります。このような成分が、地球の大気や海洋になり、そして、海洋からは生命が生まれます。
 さらに、炭素質コンドライトには、鉄(鉄の硫化物のかたち)も、たくさん含まれています。硫化鉄は、石の成分より、溶ける温度が低く、なおかつ比重が大きいので、原始地球で温度が高くなると、固体成分としては、硫化鉄が最初に溶けて、そして深部に沈んでいきます。地球内部の高温高圧の状態では、硫化鉄は、鉄とイオウに分解し、重い鉄は、さらに内部に、軽いイオウは地球表層に逃げていきます。沈んでいった鉄は、もちろん地球の核になっていきます。
 このようにみていくと、太陽系で最初にできた素材を、そのまま利用して、少々加熱調理すれば、簡単に地球はできてしまいそうです。炭素質コンドライトは、太陽、地球、そして私たち自身の材料だったのです。

・雪の調査行・
実は、このメールマガジンが出るころは、
道南のほうをうろうろしています。
だめでもともといいう気持ちで、海と川の石と砂の採集するための
調査を決行しています。
北海道では、冬は調査調査ができません。
でも、もしかしたら道南のほうの調査ができるのではないかと、
淡い望みを抱いて調査をしています。
12月23日から28日までです。
冬休みですので、家族旅行をかねています。
もちろん、同じ泊るのなら温泉です。
宿泊は温旅館となります。
なにしろ、北海道は広いせいもあるのでしょうけれど、
日本でいちばん温泉の多い都道府県だそうです。
泊まるなら温泉でしょう。

・継続の動機・
本号で121号です。
「地球のささやき」は、週刊メールマガジンですので、
2年以上休むことなく発行し続けてきました。
もちろん、「まぐまぐ」という発行システム、
そして発行予約ができるという機能があったから、
成し遂げられたことです。
でも、なんといっても、
読者がいて、そして時々いただくメールが、
継続のいちばんの要因だと思っています。
もちろん、だれも読む人がいなければ、
このマガジン自体が成立しませんが、
一人でも読者がいて、私が書く気があれば
メールマガジンとして成立するわけです。
そして、一人でも、このマガジンを必要であるということを
私に伝えてくれる人が、私には連載を続ける意義があるわけです。
ホームページについているメールカウンターとは、
そのような読者たちと私との交信の歴史でもあり、
そして、私の継続の動機ともなっています。
反応してくれる読者がいる限り、
私には書く、根拠や励みにになりますし、
いまのところやめるような事情もありません。

それに、書きたいことが、まだまだいっぱいあります。
地球のネタは当分つきそうにありません。
隕石もまだまだ紹介したいことがありますし、
地球に関する新しい報告もあったのですが、
なかなか紹介することもできないままでした。
たとえば、グリーンランド38億年前の化石の間違い。
火星から飛んできた別の隕石からも生命の痕跡を見かったという報告。
マントルに海水が7億年前から逆流していという話。
道南の調査旅行の紀行。
などなど、いっぱいあります。
来年も、地球に関する話題を提供し続けるつもりです。
よろしくお願いします。

・行く年・
本号が、今年最後のメールマガジンとなりました。
隕石シリーズは、来年にも続きます。
そして、来年からは、月一回連載の新シリーズを考えています。
ちょっと変わったものを考えています。
それは、新年の第1号(1月2日号)からはじめますので、
お楽しみにしてください。
この1年間、購読いただいて、ありがとうございました。
メールをいただいた方々、大変励みになりました。
ありがとうございました。
では、よいお年をお迎えください。

2002年12月19日木曜日

1_19 コンドライト(2002年12月19日)

 隕石のなかで、いちばん「普通」のものを、今回は紹介しましょう。そんな「普通」の隕石から、なにが読み取れるのでしょう。探っていきましょう。

 隕石の中でいちばん多いのは、石質隕石、鉄隕石、石鉄隕石のうち、どれだと思いますか。鉄隕石を思い浮かべた方も、たくさんおられるのではないでしょうか。実際には、石質隕石がいちばん多く、鉄隕石、石鉄隕石の順に少なくなっていきます。
 石質隕石は、隕石の個数で見ていくと、大半(94%)を占めます。ちなみに、鉄隕石は4.8%で、石鉄隕石は1.2%しかありません。ですから、隕石といえば、石質隕石なのです。鉄隕石が多いという誤解は、どこから生まれたのでしょか。
 多分、隕石と地球の石とで、いちばん違っているは、石鉄隕石か、鉄隕石です。石鉄隕石は、珍しさもあり、大きいものも少ないため、鉄隕石が、珍しい隕石の代表として見せられることが多くなったのだと思われます。
 博物館でも、隕石のコーナーの目玉として、大きな鉄隕石がよく展示されています。博物館によっては、鉄隕石を切って金属の断面を出して見せたり、磨いて金属の鉄の塊として見せているところもあるくらいです。ですから、つい隕石といえば、鉄隕石という先入観を持ってしまっているのかもしれません。
 さて、石質隕石には、どのようなものがあるのでしょうか。石質隕石には、多く分けて、2つの種類があります。それは、コンドライトとエイコンドライトと呼ばれるものです。両者とも、英語の単語を、そのままカタカナにして日本語としても使っています。
 コンドライトは、直径数ミリメートルの丸い粒を含んでいるのが特徴です。この丸い粒を、コンドリュールとよびます。コンドライトとは、コンドリュールを含む隕石ということができます。
 一方、エイコンドライトは、英語ではAchondorite と書きます。コンドライトは、Chondoriteと書きますから、コンドライトに「A」という文字がついた語が、エイコンドライトです。英語では、「A」が接頭語としてつくと、否定の意味を表すことがあります。エイコンドライトの「A」の場合もそうです。エイコンドライトとは、コンドライトではない、つまりコンドリュールを含まない石質隕石のことです。
 石質隕石をよくみて、丸い粒があればコンドライト、なければエイコンドライトという区分ができます。
 では、コンドライトとエイコンドライトは、どちらが多いでしょうか。コンドライトが、ほとんど(91.3%)で、エイコンドライトは少し(8.7%)しかありません。
 つまりは、隕石といえば、コンドライトなのです、全隕石のなかの86%がコンドライトになります。もちろん、コンドライトも細分されていますが、コンドライトに共通する特徴は、とりもなおさず、コンドリュールがあることです。
 このコンドリュールが、太陽系でいちばん最初にできた固体物質だと考えられています。その理由は、いくつもあるのですが、そのいちばんのものは、コンドリュールの丸い形と年代にあります。
 コンドリュールは、丸い形といいましたが、3次元的には球で。宇宙の無重力の状態では、液体は球になります。そして、液体の温度が下がると、球の形をしたまま、固体になります。
 もし、その液体が、マグマのような岩石の溶けたものであれば、マグマから岩石ができるようなプロセスで固まっていくはずです。つまり、高温で結晶になるものから順番に固まり、最後にいちばん低い温度で結晶になるものができます。また、急に冷え固まると、結晶が充分できないうちに固まってしまい巣、それは、火山岩のように急に固まったつくり(組織)をしているはずです。
 コンドリュールには、液の成分の違い、冷えるスピードの違いなど、ひとつひとつ違った履歴があるはずです。このようなさまざまな履歴をもったコンドリュールが集まったものが、コンドライトになります。
 なかには、一緒には、けっしてできないようなコンドリュールも、ひとつのコンドライトから見つかることがあります。まるで、地球の堆積岩の礫岩のようです。礫岩の礫には、さまざまなでき方のものが混在しています。礫岩と同じように、さまざまな履歴のコンドリュールが、ひとつのコンドライト中にみつかるのです。
 年代については、別の機会に紹介しますが、どのコンドリュールも、できた年代が一致し、45.6億年前です。これは、太陽系の物質の中で、いちばん古い年代であります。コンドリュールの形成が、いちばん最初に、それも一気に、太陽系全体で起こったことを意味します。
 太陽系の初期にできたカケラがコンドライトには詰まっているのです。コンドライトにつまっている太陽系のはじまりの情報を、ジグソーパズルを仕上げるように読み解ければ、私たちの太陽系誕生の謎が解けるわけです。
 読み解いた太陽系の誕生の様子も、そのうち、紹介しましょう。

・隕石シリーズ・
隕石シリーズが続いてきます。
まだまだ、続きそうです。
書いている本人も、どれくらい書くつもりなのわかりません。
隕石に関するネタは一杯あります。
でも、とりあえずは、机の中の3種類の隕石については、
紹介したいのです。
まだ、1種類しか紹介していません。
でも、あまり長くなるようだと飽きてしまいますので、
ほどほどにしておきますが、
あと数回は続けるつもりです。
ご期待、あるいはお付き合いください。

・またまた間違い・
わたしにとって、石鉄隕石という語は、どうも鬼門のようです。
実は、前回のメールマガジンで、
「1_17 宇宙からの贈り物」(2002年11月28日)
で、石鉄隕石を石質隕石と、何度も書き間違いをしました。
そのお詫びを長々と書きました。
実は、そのエッセイの中で、
なんと4箇所も同じ間違いをしでかしました。
Kogさんから
「またまた“鉄”と“質”との混乱状態が発生したようですね。(^o^)」
という指摘がありました。

それに対して、私は、

「またまた、それも、4箇所もやってしまいました。
読み返したら、誤字も一箇所ありました。
どうしようもないですね。
単に、誤字ならば、意味は通じるのですが、
今回の場合のように、意味が通じなくなる、
あるいは、誤解を招く、そして、理解できなくなるような場合は、最悪ですね。
何度か見直したつもりなのですが、だめですね。
私の文章はもともと誤字が多いのですが、前々回と今回は特にひどいようです。
前々回は、時間がなかったので、いいわけめいたことができますが、
今回は、見直したつもりなのですが、だめですね。
発行直前に書いて、そして何度か推敲しても、十分推敲できないようです。
何日か前に書いて、発行前にもう一度見直せればよいのですが、
なかなかそうする余裕がありません。
気をつけて推敲するしかないようです。」
というお詫びをしました。

やさしいKogさんは、

「類似した用語や同音異義語が交互に出てくるような文章を
作成しますと、非常にミスが出やすくなります。
手書きの場合は文字を手が覚えているので良いのですが、
キーボードで変換するとついつい間違いを見逃すことになり勝ちですね。」
と慰めてもらいました。

今回も、変換ミス、校正もれがあるかもしれませんが、
もう、言い訳はしません。
指摘をお願いします。
そして私の注意をうながしてください。
よろしくお願いします。

2002年12月12日木曜日

1_18 石鉄隕石の起源(2002年12月12日)

 隕石には、石質隕石と、鉄隕石、石鉄隕石の3種類があるといいました。そのうち、前回は、不思議な隕石、石鉄隕石について紹介しました。今回、その石鉄隕石の起源を、もう少し、詳しく探っていきましょう。

 前回、隕石は、地球外から飛んできといいました。となると、隕石は、地球外のどこで、どのようにしてできたのかが知りたくなります。前回は石鉄隕石について紹介しましたが、この石鉄隕石を材料にして、もう少し詳しく、その起源をみていきましょう。
 石鉄隕石は、太陽系で一番最初にできた隕石(石質隕石のある種のタイプ)とは、違っています。もし、一番最初にできたとしたら、宇宙空間で形成されていますから、そのような証拠が必要です。しかし、いまのところ見つかっていませんし、次に述べるように、特殊な環境を考えなければ、この石のような鉱物の組み合わせや、つくり(組織といいます)は、つくることができないのです。
 石鉄隕石は、材料となる物質から一度溶けたものからできました。それは、原始的と考えられる隕石(別のエッセイで紹介する予定です)が、一番古く、石鉄隕石は、やや若い年代のものを含んでいます。また、原始的隕石は、溶けた経験がないのですが、石鉄隕石は、溶けた経験を持ちます。このようなことから、石鉄隕石のできたところは、特殊な場を考えなければならないようです。
 金属鉄と鉱物が、一度溶けた(分化したといいます)経験をもったものからできたとすると、その溶けて分化した場所としては、比重の違う鉄とかんらん石が混じり得るようなところでなければなりません。そのような場所として、無重力空間、つまり、宇宙空間が考えられます。
 もし、無重力空間でできたなら、鉄もかんらん石も丸い粒(コンドリュールとよばれます)のような球状をしてるはずです。重力のないところでは、液体はすべて球になります。ところが、この石鉄隕石は、かんらん石は、鉱物自身が持っている形(自形といいます)をしていて、その隙間を金属の鉄が埋めています(他形といいます)。
 このような組織は、普通の岩石では、最初にかんらん石が結晶化し、後で鉄が固まったと考えるべきです。しかし、金属鉄とかんらん石は、共存できませんし、結晶化する温度(晶出温度とか凝固点といいます)も、鉄のほうが高温、つまり、先に結晶化します。ですから、全く違う組織となるべきです。
 ですから、石鉄隕石が、無重力空間での結晶化は考えにくいのです。
 石鉄隕石の結晶の組み合わせや組織は、もともとありえないものなのです。しかし、私の机の中には、石鉄隕石は存在します。このようなありえないものをつくるには、めったにありえないけれど、現実としてきっと存在する場が必要になります。それが、起こりうる場として、マントルと核の境界部が想定されています。
 たとえば、地球には金属鉄でできた核と、かんらん石を主とする岩石からなるマントルがあります。両者の関係は、石鉄隕石でみた関係です。地球では、層として、分離されています。そのような層境界では、地球規模で見れば、明瞭に別れているのですが、人間のサイズで、細かく見れば、石鉄隕石のようなものが、どうしても境界部にはできてしまうのです。
 このようなことから、石鉄隕石が、惑星のマントルと核の境界からできたものと考えられているのです。それも、今はなき、惑星です。その原始の惑星は、壊れてしまったのです。だって、私の机の中にそのかけらがあるのですから。

・隕石シリーズ・
前回は、お宝シリーズでしたので、
隕石シリーズは1回休みとなりました。
ですから、今回は、前々回の続きです。
次回は、石質隕石について、何回かお話しましょう。
コンドライト
炭素質隕石
エイコンドライト
火星起源隕石
鉄隕石
隕石のふるさと
隕石の発見
などなど、いろいろ話題が豊富で、きりがないので、ほどほどします。

隕石にも、
集める人、
見つける人、
儲けようとする人、
研究する人、
愛でる人、
などなど、いろいろ人間の物語があります。
話が脱線しないように、気をつけなければなりません。

・訂正・
前々回のマガジンの最後のLetterのところの記述で、
「石質隕石」と書いたところがあります。
それは、「石鉄隕石」の間違いです。
また、「重量の影響を受けない」も「重力の影響を受けない」の間違いです。
Kogさんから指摘いただきました。
どうもありがとうございました。

前回は、実は時間がなくて、推敲が十分でありませんでした。
まったく情けない限りです。

私は、ホームポジションからのブラインドタッチによる入力はできず、
でたらめに指を使っています。
ですから、ミスタイプも多く、
変換で変な文字になれば、すぐに過ぎ気付くのですが、
似たような文字になってしまうと、ついつい見逃してしまいます。
ですから、前回もそのようなミスでした。
十分推敲をすれば、このようなミスは減るのですが、
今回は、時間がなくて、充分推敲できませんでした。

まあ、私の原稿には、もともとミスが多いので
それを言い訳しているわけです。
大目に見てください。

このエッセイは、
地球に関するさまざまな話題を紹介して、
読者の皆様に、地球に興味を持っていただきたいというのが、
本来の目的です。
ですから、少々のミスは、ご容赦ください。
これは、開き直りですね。

でも、皆様、こりずに、ミスを教えてください、
私の原本は修正しています。
ですから、皆様の善意は蓄積されています。
よろしお願いします
これは哀願です。

もう、言い訳では、これくらいしましょう。
十分でしょう。

2002年12月5日木曜日

6_18 12月の誕生石

 12月の誕生石は、トルコ石とラピスラズリです。どちらも、色はあざやかなのですが、透明感のない宝石です。今年の最後の宝石についてのエッセイです。

 トルコ石は、古くから装飾用に使われてきました。古代エジプトの出土品として見つかります。ですから、人類が非常に早くから用いていた宝石といえます。
 なぜ、当時の人が用いてきたのかは、今ではわかりませんが、多分、色の美しさからではないでしょうか。トルコ石は、青緑色や、空色、濃青色をもちます。このような色の岩石は珍しので、珍重されたのだと思います。商品としては、色の濃いものほど、価値があります。
 トルコ石は、CuAl6(PO4)4(OH)8・4H2Oという複雑な化学組成を持つ鉱物で、アルミのリン酸塩と、銅の水酸化物によってできています。トルコ石の青色は、銅の含有量が多いときに出る色で、銅が少なくなると青色が淡くなり、鉄や亜鉛が加わると緑色をおびてきます。
 トルコ石は、乾燥地帯の褐鉄鉱や砂岩の中に、脈石状や塊状に形成されます。その時、褐鉄鉱や小さな砂をトルコ石の中に取り込み、褐色や黒色の網目模様をもつことがあります。これを「ネット」と呼んで、珍重されます。
 トルコ石の青色は、乾燥状態で長く放置したり、日光に長くさらしたり、熱を加えたり、酸およびアンモニアなどに触れると、変色したり、つやがなくなったりします。また、硬度5~6と、それほど硬くもありません。ですから、取り扱いには注意が必要です。
 トルコ石は、英語でも、Turquoiseといいます。ですから、トルコでたくさん取れるのだろう思ってしまうのですが、トルコでは、まったく採れないのです。トルコ石の産地は、昔からペルシア(現在のイラク)とシナイ半島でした。しかし、トルコ石は、トルコを経由して、トルコ人の商隊によって、ヨーロッパに持ち込まれたため、このような名前がついたと考えられます。
 イラクやシナイ半島は、現在では紛争地域で、供給は不安定です。トルコ石は、アメリカ合衆国のニューメキシコ州でも採れ、アメリカ・インディアンも、装身具として利用していました。ほかに、中国の湖北省でも多く産出します。日本では、ほとんど出ることはなく、栃木県で少量でたことがあるだけです。
 つぎは、ラピスラズリについてです。
 ラピスラズリも、トルコ石と同様、古くから利用されてきました。やはり、青色が特徴です。日本名は、瑠璃(るり)とよばれ、仏教でも、七宝(しっぽう)の一つして、珍重されました。
 ラピスラズリ(lapis‐lazuli)というのは、ペルシア語の紺碧色を意味するラズリに、ラテン語で石を意味するラピスがついてできた言葉です。
 ラピスラズリは、ソーダライト族とよばれる鉱物ではありますが、アウイン(藍方石)、ノゼアン(黝(ゆう)方石)、ラズライト、ソーダライト(方ソーダ石)を成分として、その4つの成分が混合した(固溶体といいます)結晶です。複雑な化学組成をもつ鉱物です。
 ラピスラズリの濃い群青(ぐんじょう)色は、ラズライトの成分が示す色です。ラピスラズリを粉末にして、この特徴的な群青色を利用したものが、ウルトラマリン(群青)とよばれる顔料や岩絵の具です。
 ラピスラズリは、単一の大きな結晶はまれで、粒状のものがあつまって塊となっています。ですから他の鉱物が混じることもあります。黄鉄鉱(金色を示す)と方解石(白色を示す)の細かい結晶が、ほどよく混じっているものが、貴重とされています。
 アフガニスタンのバダクーシャは、古くからの産地で、ロシアのバイカル湖周辺、チリのオバールなども有名です。アフガニスタンでは、古くから品質のいいのラピスラズリを産出し、ツタンカーメンの仮面を飾っていました。
 12月の誕生石は、両方とも、青色の宝石です。12月には、青色が似合うのでしょうか。

・カラーコーディネイト・
トルコ石やラピスラズリは、紀元前3000年には、
古代エジプトの出土品として知られています。
また、中米のアステカ文明でも、
儀式用仮面やナイフのモザイクに、トルコ石を用いています。
なぜ、古代エジプト人やアステカ人は、
このような宝石を愛したのでしょうか。
エジプトも、アステカ文明も、
黄金を利用しました。
その黄金の装飾には、トルコ石やラピスラズリの青色が
非常にあったからでしょう。
黄金色をよく引き立たせるために、青色を利用されてきたのです。
古代の人には、素晴らしい色彩感覚があったのです。
まさにカラーコーディネイトというべきものでしょう。
そして、ラピスラズリでも、濃い青の中に、金や白の混じったもの、
つまり、うまくコーディネイトされたものが、いいものとなるのです。
もちろん、その分、値段も、高くなりますが。

・変色・
トルコ石もラピスラズリも身を守る宝石として使われていました。
特に、トルコ石は、色が変わっていくことから珍重されました。
色の変化が、さまざまな信仰やいい伝えを生んでいます。
最愛の人の危険や不貞を色の変化で知らせるとか、
色を変化させて、病気を遠ざける
と信じられていました。
また成功の保証を象徴するとしています。
色が変わるという鉱物の特徴が、
一見弱点なのですが、
宝石としての長所として利用されているのです。

・イミテーション・
宝石には、イミテーション(模造品、人工物)がつきものです。
トルコ石には、淡色のものを色を濃くしたもの、
人工的な合成トルコ石、
粉末を圧縮成形した再生トルコ石、
プラスチック製、ガラス製、陶器製
などがあります。
ラピスラズリでは、
ジャスパーに着色し、銅を混ぜてつくっています。
フランスのピエール・ギルソン社のつくるラピスラズリは、
天然のラピスラズリと、成分が変わらないそうです。