2002年3月28日木曜日

5_16 鉱物とは

 前回、宝石の話しを書きました。そのとき、鉱物という言葉を、なんの説明もなく使用してきました。でも、鉱物とは、どんなものか、いえるでしょうか。今回は、鉱物について考えましょう。

 鉱物とは、岩石を構成する基本的な粒子、物質です。
 鉱物は、結晶の種類のことで、3000から4000種類、発見されています。結晶には人工的なものも含まれますが、鉱物は天然のものだけをいいます。新しい鉱物は、今も発見されています。結晶とは、規則正しい元素の配列をもち、物理的(物性、光学的性質)や化学的性質が一様な物質をいいます。これでは、なかなか分かりにくいかもしれません。
 別のアプローチとして、思考実験をしましょう。
 ある岩石、たとえば御影石(みかげいし、正式には花崗岩といいます)を、2つに割ります。すると、同じ種類の岩石2個になるはずです。これを繰り返すと、ある時から、同じ種類とはいえなくなります。2つの部分の構成物の組み合わせや量が違ってくるはずです。たとえば、それが御影石なら、一方が透明な物質だけからなり、他方が黒っぽい物質だけからなるかもしれません。ここまでくれば、鉱物まであと一息です。
 さらに、何度か、繰り返し半分にします。そのどちらかを、また半分にしたとき、透明なら透明、黒なら黒という性質が続くとき、そのような物質を鉱物といいます。
 もしかすると、この思考実験は、より理解を困難にしたかもしれません。これをやぶ蛇といいます。でも、鉱物とは、そういうものです。
 鉱物というもののなかには、非常に綺麗で、人目を引くようなものもあります。博物館で見るような鉱物の結晶には、非常に綺麗なものがたくさんあるのを、ご存知の方も多いと思います。もし、それが自分のものになって、そんちょこそこらにはなく、身に着ければ、人も欲しがるようなものであったとします。すると、それは、「お宝」、宝石となるわけです。
 天然のものをさらに綺麗にして、よりよくみせるということも、されるようになってきました。「綺麗さ」に対する飽くなき努力でしょうか、それとも、単に「欲」に駆られた、行為でしょうか。

2002年3月21日木曜日

5_15 宝石とは

 宝石は、女性を魅了します。というとセクハラになるのでしょうか。男性でも、宝石を飾る人もいるでしょうし、お金になるので、魅了されているかもしれません。今回は、人びとが魅了されてやまない、宝石についてみていきましょう。

 宝(たから)とは、さまざまなものがあります。多くの人にとっての宝もあります。人類全体にとっても宝は、世界遺産です。国の宝は、国宝です。家の宝は、家宝です。ひとりひとりにとっても、宝があるはずです。
 宝は、その大きさには関係がありません。小さな宝として、宝石があります。宝石は、誰もが宝と考えます。鉱物の知識もない古い時代から、宝石はあります。
 宝石は、大地の贈り物です。宝石とは、多くは鉱物の結晶です。天然の鉱物のうちで、特にきれいなもの、硬くて、変質や変色のないもの、そして少ししかないものを宝石といいます。宝石は高価なものをいうのですが、やや安いものは貴石(きせき)とよび、安いものは飾り石といって区別して呼びます。
 宝石を、きれいなものや硬いものなどという条件をつけました。「きれい」とは、鉱物の結晶として完璧さ、色や透明感、輝きなどから、総合して、人間が感じることです。硬いというのは、きれいさを保つために必要となります。やわらかいと、長年使っていると、傷ついていき、輝きをなくしていきます。しかし、十分に硬いと、傷つくことはあまりなく、きれいなまま保たれます。
 鉱物は、天然の結晶ですから、多少の傷があります。そのような傷を人が補(おぎな)い完璧なものにしたのが、宝石です。あるいは、よりきれいに見えるために、人はカットの方法や磨き方を考えだしました。それでも、きれいなものは、天然の鉱物のほんの一部なのです。
 宝石とは、選びに選び抜かれた鉱物の結晶なのです。したがって、選び抜かれた宝石は、数も少なくなり、希少性が出てきて、値段も高くなります。その代表的なものが、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドなどです。
 このような宝石を、誕生月を象徴するようにしたものを、誕生石といいます。誕生石の起源は、聖書やユダヤの歴史書などに、12種類の宝石の話がでてきます。その種類が現在のものかどうかは、はっきりしていません。しかし、人は、古くから宝石を大切にしてきたのです。そして、宝石には神秘的な力があり、幸運をまねくと考えてきたのです。
 現在の誕生石は、1912年にアメリカ合衆国の宝石屋さんが集まって、決めたものです。ちなみに、誕生石は、1月はガーネット、2月はアメジスト、3月はアクアマリン、コハク、4月はダイヤモンド、5月はエメラルド、ヒスイ、6月はムーンストーン、アマゾナイト、真珠、7月はルビー、8月はペリドット、メノウ、9月はサファイア、10月はトルマリン、オパール、11月はトパーズ、12月はトルコ石、ラピスラズリ、となっています。このなかには、鉱物ではないものや、宝石の条件に合わないものも含まれています。
 宝石は、マグマからできたり、地下深くでの高温や高圧の条件できた結晶です。宝石は、地球の営みによってできたものです。宝石の奥底に見え隠れする地球のダイナミズムを感じてください。

2002年3月14日木曜日

3_27 ミグマタイト

 変成岩の中でミグマタイトと呼ばれる岩石は、限りなく火成岩に近いものです。というのはマグマと呼んでいいものを変成岩の中に持っているからです。火成岩と変成岩の境界の岩石を見ていきましょう。


 前回のべた片岩は、ぺらぺらとはがれやすそうに見える性質をもっていました。それより変成作用の程度が強くなると、もっと乱れた模様で、麻紐が絡まったような状態の、片麻状という変成岩のつくりになります。
 ある片麻岩を詳しくみますと、白っぽく、ゴマ塩の脈がみることができます。場所によっては、ゴマ塩状の部分が多かったり、集まっているところでは、片麻岩というより「ゴマ塩岩」といったほうがいいくらいのところもあります。「ゴマ塩岩」は、火成岩の花崗岩と呼んでいいものです。このような片麻岩中に花崗岩的な部分を持った岩石があります。それを、ミグマタイト(migmatite)と呼んでいます。日本語としては、混成岩ということもありますが、あまり使われていません。
 変成作用の程度が高くなると、変成岩の中に形成される鉱物も、より高温高圧で安定なものへと変わっていきます。温度や圧力などの変成作用の条件でいえば、ミグマタイトより、もっと高温高圧で形成された変成岩があります。近年には、超高温変成岩や超高圧変成岩なとが、世界各地から発見されています。
 ミグマタイトは、そのような超○○変成岩と比べれば、変成条件が低いのですが、火成岩と変成岩の境界に位置するという意味において、その重要性は変わりません。それは、変成岩と火成岩のカテゴリーは、温度や圧力で決められているのではなく、岩石の成因によって決められているからです。
 ミグマタイトが形成される条件は、ある程度限定されています。300MPa(Paはパスカルで圧力単位)以上(地下10km以深)では、圧力あまりかかわらず、溶けるか溶けないかは、温度だけで決定されます。
 花崗岩のマグマは、水が無ければ、1000℃以上でないと溶けないのですが、水を含むと700~800℃で溶けはじめ、泥岩の化学組成をもった岩石では、600~650℃で溶けはじめます。玄武岩質の化学組成をもつ岩石でも、水を含まないと1200℃以上でないと溶けないのですが、水を含むと800~1000℃で溶けはじめます。つまり、水を含む岩石の方が低温で溶けます。超高圧変成岩や超高温変成岩は、水をほとんど含まない岩石なのです。
 泥岩や砂岩の変成岩で、溶けた物質(マグマ)が集まって大きな塊となれば、花崗岩となります。溶けても集まらず、変成岩の中にそのままとどまっているのが、ミグマタイトになるのです。つまり、溶けた物質が移動するメカニズムが働くと火成岩の花崗岩になり、働かないと変成岩のミグマタイトになるという、違いを生じます。
 以上のことから、水が存在すると、泥岩や砂岩を原岩とした花崗岩質のミグマタイトは、比較的低温でできること判明しました。花崗岩質のマグマは、他の組成のマグマに比べて、比較的低温でマグマが形成されるということです。
 もう一つ重要なことは、泥岩や砂岩を構成する主要鉱物である石英、斜長石、正長石が一緒に溶けるときは、できるマグマも、ある一定の化学組成をもつものであるということです。そして、そのマグマの供給は、石英、斜長石、正長石のどれかがなくなるまで、同じマグマが形成されます。このような液形成のメカニズムが働くから、世界各地に、いろいろな時代、いろいろな原岩、いろいろな条件がありながら、いつも似たような花崗岩ができるのです。
 花崗岩は、いつでも(時代)、どこでも(地域)、同じようなもの(化学組成)が、たくさん(量)できるというの特徴があります。ミグマタイトという変成岩を調べることによって、その秘密が明らかになってきました。変成岩と火成岩は、こんなところで結びついていたのです。

2002年3月7日木曜日

3_26 緑色片岩

 変成岩の中で、典型的なもののひとつに、片岩(へんがん)というものがあります。片岩とは、薄い縞状のつくりをもった岩石です。特徴的な色の名前をつけて、岩石名とすることがあります。色のついた片岩は、野外で便宜的に使う名前ですが、専門語としても定着しているものもあります。緑色片岩もその一つです。緑色以外に、青、白、黒、赤などの色名がついた片岩があります。緑色と片岩という名前には、隠された地球の仕組みあります。それをみていきましょう。


 岩石は鉱物からできてます。ですから、岩石の色は、鉱物の色を反映したものです。岩石は何種類かの鉱物からできています。その平均的あるいは積分的な総和が、岩石の色としてみえます。いろんな色の鉱物にあったとしても、ある色の鉱物が大量にあり、他の色が少量であれば、その大量の鉱物の色が、岩石の色となります。多数決の原理です。
 片岩には、緑色以外にも青色、白色、黒色、赤色を持つものがあります。その色は、ある鉱物の特徴的な色なのです。緑色片岩には、緑泥石や緑閃石と呼ばれる鉱物が多く含まれます。鉱物の名前からもわかるように、どちらも緑色の鉱物です。
 片岩は、緑色の部分や黒色の部分が単独であるわけでなく、縞模様になっています。緑色片岩の部分でも、緑色の濃淡があり、縞模様がみえます。隣同士の片岩が、違う色をしているというのは、何を意味しているのでしょうか。変成岩の形成条件としては、数センチメートルほどしか離れていないので、温度や圧力などの物理的条件は、ほとんど変わらなかったはずです。違っていたのは、化学的条件だと考えられます。
 化学的条件の違いとは、化学成分の違いを意味します。変成岩になる前の岩石の種類が違っていたということです。でも、そんなことがあるのでしょうか。実は、よくあることなのです。例えば、地層では、薄い層が重なっていることがよくあります。砂岩から泥岩まで堆積岩が変化したり、堆積岩に火山灰が繰り返し挟まっていることもあります。このような地層のことを互層(ごそう)といいます。互層では、構成物の変化が、繰り返しが起こっているのです。それは、化学成分の変化の繰り返し、ともいえるのです。片岩の色の違いは、原岩の互層を反映していたのです。
 緑色片岩の原岩は、玄武岩質の火山砕屑岩です。青色片岩の原岩は、緑色片岩と同じ玄武岩質の火山砕屑岩ですが、変成条件の違うものです。黒色片岩の原岩は有機物などのたくさん含んでいる泥岩、白色片岩は石英や長石の多い砂岩やチャート、赤色片岩はマンガンの多い特殊な堆積岩からできています。
 変成岩として、もとの岩石とはまったく違った見かけとなったとしても、氏素性は隠せないのです。原岩の化学組成は、変成岩に忠実に反映されています。さらに縞模様(互層)のようは原岩のつくりも残っているのです。
 変成作用の影響も、変成岩には色濃く刻まれます。変成岩は、地下深くで圧しつぶされ、熱せられて変化したものです。片岩には、チリメンの模様のように、くしゃくしゃに曲がることもあります。あるいは地図でみなければわからないほど大規模に曲がったり(褶曲)、切れている(断層)こともあります。
 チリメン模様や、褶曲、断層の方向は、その変成岩が受けた力(応力(おうりょく)といいます)と、岩石の物理的性質(物性(ぶっせい)といいます)によって決まります。ですから、変成岩に残された褶曲や断層の痕跡を丹念に調べると、変成岩が形成されたときの応力のかかりぐあい(応力場といいます)や、応力の時間変化などが読み解けます。
 緑色片岩の緑という色と、片岩というつくりには、原岩の履歴と、変成作用の履歴が深く刻まれているのです。変成岩とは、過去の多くの事柄を背負った岩石なのです。