2001年7月26日木曜日

4_9 バッドランドの恐竜たち

カナダ、アルバータ州東部を流れるレッドディア川は、恐竜の化石がたくさん出ることで有名です。化石の産地の中心として、恐竜州立公園が有名です。この地に、2001年7月8日に訪れました。今回は、その見聞記です。


スタンピードの祭りで浮かれているカルガリーから西へ200km。そこにブルックスという町があります。車で約2時間ほどです。ブルックスからさらに北東に40kmほど走ります。牧草地の平原を走っていると、唐突に谷が見えてきます。緑から急に、侵食を受けた茶色っぽい地層が見えてきます。
カナダのアルバター州は、西部はカナディアン・ロッキー山脈で、中部から東部にかけては、広大なる平原が広がります。見渡す限り、畑か牧草地です。そんな平原の中を、深い渓谷をつくってレッドディア川が、流れています。その流域は、茶色と灰色の縞模様の地層からできています。この地層が柔らかいために、侵食が進んで、荒涼とした景色となっているのです。平原の豊かな緑とは好対照です。この流域は、バッドランドと呼ばれています。緑の大地から、急に荒涼とした地に入ると、バッドランドと呼ばれた意味が身にしみて感じられます。
小さなフィールド・ステイションがあります。その中に入ると、いきなり大きな恐竜と3匹の小さな恐竜の格闘している場面が、化石でつくらています。迫力のある展示です。そんなに広くない面積ですが、立派な展示です。それもそのはずです。ここは、恐竜化石では世界的に有名なロイヤル・チレル博物館の分室なのです。
バットランドは、恐竜の化石の産地として有名です。この恐竜州立公園は、恐竜やその他の脊椎動物の化石がたくさん産すること、カナダでは最大で一番みごたえのあるところであること、川沿いの生態系が自然のまま残されていること、という理由で、1979年に世界遺産に指定されています。
公園内をガイド付きで見て周るツアーは、時間がないのと適当なのが満員だったので、一人で散策路(trail)を歩きました。太陽が出ていると、非常に熱いので、水は必需品です。水を飲みながら、一人で歩きました。家族連れや、老夫婦などが、ぽつぽつとすれ違います。要所要所に説明用の看板があります。もちろん地質の説明です。私は地質学者なのでうれしくなります。そして、日本の市民の地質に対する意識の低さに幻滅します。ここでは、動物、植物より、地質が主役なのです。
公園内のループ状の道路を車で回ると、所々に展示小屋あって、恐竜発掘現場が再現されいます。この地域の地層は、中生代(2億4500万~6500万年前)の白亜紀(1億4560万~6500万年前)の後期の地層が分布します。この地域で一番古い地層は、オールドマン層と呼ばれるもので、7700万から7650万年前の地層で、植物や動物の化石の破片が出ます。恐竜化石は、オールドマン層の上の恐竜公園層と呼ばれる地層から出ます。恐竜公園層は、7650万から7450万年前の地層で、ここでは80メートルの厚さがあります。
恐竜公園層からは、恐竜化石がでるだけでなく、さまざまな情報も読み取られています。この頃、北米大陸を南北に分けていた湾が入り込んでいました。ここは、その湾の西海岸沿いでした。この地層の大部分は、曲がりくねった深い川でたまったものです。付近には、いくつもの河口、沼地、池、じめじめしてちょっちゅう洪水をおこす平原がありました。気候は、高温多湿のモンスーンで、雨期には洪水が起こり、潮は河口を遡っていきました。そんなところに、多数の恐竜が棲んでいたのです。
今は、こんな荒涼とした大地が、かつては水が豊富で、湿潤な地域だったのです。地質学は、今の様子からは想像もつかないような、恐竜の住んでいた時代や地域の様子、気候、そしてその他の生き物についても教えてくれるのです。

2001年7月19日木曜日

5_10 亡骸から

 「5_9 今は亡きもの」続いて、ヨウ素の放射性核種からできたキセノンについてみていきます。ヨウ素を親として、キセノンは娘として生まれました。その親子がそろうと、地球誕生の秘密が見えてきます。前回の「5_9 今は亡きもの」とあわせて読んで下さい。

 キセノン(Xe)は希ガスですので、固体にはほとんど入りません。ヨウ素(I)は、宇宙空間では固体として振舞います。つまり、ヨウ素は消滅する前であれば、固体になるはずです。つまり、その頃にできた固体物質(隕石)に取り込まれている可能があります。固体中でヨウ素からキセノンに変わっても、固体であるがためにキセノンを保持しくれます。もし、そのようなヨウ素が見つかれば、超新星爆発から固体物質形成までの期間が推定できます。
 さて、実際の測定です。問題は、過剰の129キセノンをどうして見つけるかです。地球大気における128Xe/132Xeの実測値から予想される129Xe/132Xeと、試料の129Xe/132Xeを比べればいいわけです。そして、試料の129Xe/132Xeが予想より多ければ、過剰の129キセノン、つまり消滅核種の129ヨウ素が固体中にあったということになります。過剰の129キセノンが、隕石から、1960年に見つかったことは前回紹介しました。
 その隕石中の過剰129キセノンの量と消滅核種の129ヨウ素の量から、隕石ごとの形成年代差を推定することができます。
 その方法は、実験と数学的トリックを使います。実際の分析では、誤差を減らすために、132キセノンと129キセノンの比、132キセノンと128キセノンの比として測定します。
 また、核種の比は、132キセノンと127Iを分母にするために、数式上、128Xe/127I比が必要となります。それは、127ヨウ素を原子炉で放射線(熱中性子)を照射して求めます。現在の129Xe/132Xeと128Xe/132Xeを試料の温度を段階的に上げながら、実測できます。以上のようにして、計算に必要な値ががすべて得られます。その結果、多くの隕石は、約2000万年の間に形成されたことがわかってきました。
 消滅核種の26Alの半減期71.6万年という非常に短いものが、ある隕石(アエンデとよばれる炭素質コンドライト)のある物質(一番初期に形成された固体で白色包有物と呼ばれるもの)から見つかりました。ですから、超新星爆発から固体物質の形成までは、約2000万年より、もっと短い期間であったと予想されます。
 隕石にはこの他にも、面白いことが一杯わかっています。そして、今後も、隕石からは面白いことが一杯発見されると思います。それは、別の機会に、お楽しみに。

2001年7月12日木曜日

5_9 今は亡きもの

 地球上には、今や存在しないものがあります。それは、原子のレベルにおいても起こっています。例えば、129ヨウ素と呼ばれるものです。今は亡きもの、129ヨウ素が見つかっています。その科学者の苦労を見ていきましょう。

 まず、129ヨウ素(I)の探すために、基礎としていくつかのことを知っている必要があります。核種、放射性、半減期ということばがキーワードとなります。
 まず、核種についてです。原子は、原子番号が付けられています。それは、原子核の陽子の数と同じです。さらに、原子核には中性子があります。中性子と陽子の数を足したものを、質量数といいます。中性子の数は、一つの元素のなかでも、何種類かあります。そのような質量数の違うものを、同位体といい、原子の中で質量数の違うものを、核種といって区別します。
 核種には、できてから安定で存在する安定核種と、壊れると(崩壊(ほうかい)といいます)と別の核種になる放射性核種があります。その変わり方、つまり崩壊のスピード(半減期(はんげんき)もしくは崩壊定数で表します)と、どの核種に変わるかは、でたらめでなく、放射性核種ごとに決まっています。放射懐変する核種を親核種、できた核種を娘核種と呼びます。
 懐変後に、娘核種が、安定核種にならず放射性核種であれば、さらに他の核種に変わっています。そして、最終的には安定核種となります。例えば、129ヨウ素(I)が壊れれば、132キセノン(Xe)という安定核種になります。
 原子番号53のヨウ素には、安定核種として質量数127のヨウ素があります。質量数127のヨウ素をのぞけば、質量数117から133ヨウ素までのすべての質量数で放射性核種があります。崩壊のスピード半減期は、長いもので129ヨウ素の1570万年で、あとの放射性核種は、長くても数十日です。
 放射性核種のヨウ素は、超新星爆発のときにできます。放射性核種のヨウ素は、半減期が非常に短いので、ヨウ素の放射性核種は、現在、残っていません。その痕跡は、ヨウ素の娘核種であるテルビウム(Te)か、キセノンに残っているかもしれません。このような超新星爆発時の痕跡の核種を、消滅核種と呼んでいます。
 もし、消滅核種が発見できれば、超新星爆発から太陽や惑星形成の様子が探ることができます。
 質量数129ヨウ素の半減期は、1570万年です。それ以外の核種は、非常に半減期が短く、すべて別の核種に(太陽系や地球の時間軸で見れば)あっという間に変わってしまいます。ですから、消滅核種として見つけやすい、あるいは一番可能性があるのは、質量数129ヨウ素です。質量数129ヨウ素が壊れて形成される核種が、132キセノンという安定核種です。129ヨウ素が壊れて形成されてできた132キセノンが見つかるかどうかです。
 キセノンは、133キセノンだけが放射性核種で、あとはすべて安定核種です。問題の129ヨウ素から懐変してできた(過剰といいます)129キセノンが見つかれば、消滅核種を発見となります。
 過剰の129キセノンが、隕石(一番最初に見つかったのはリチャードソン隕石)から見つかったのです。消滅核種129ヨウ素の発見は1960年のことでした。消滅核種129Iが、1960年に発見された後、244Pu起源の過剰のXeも見つかりました。その後、測定が難しくて、次の消滅核種はしばらく見つからなかったのですが、1970年代後半になって、半減期71.6万年の26Alに由来する過剰の26Mgが、半減期650万年の107Pdに由来する過剰の107Agが、半減期370万年の53Mnに由来する過剰の53Crが、半減期150万年の60Feに由来する過剰の60Niが相次いで見つかりました。
 科学者は今は亡き原子を見つけ出したのです。その他にも消滅核種の候補はあるのですが、測定や試料からの元素の抽出が大変微妙なのでまだ、発見されていません。

2001年7月5日木曜日

3_10 石をつくるもの:鉱物

 地球は何からできているのでしょうか。その答は、地球の定義をどこまでにするかによって少し違います。でも、一番多いのは、体積でも質量でも、地球の固い部分です。そして地球の固い部分は、石と鉄からできてます。そして、石も鉄も、固体部分は、結晶というものが集まってできています。今回は、石をつくるもの、結晶についてお話します。


 石の構成物とはなんでしょうか。つまり、石は何からできているかということです。石はすべて結晶からできいます。結晶にはさまざまなものがあります。天然の結晶は、鉱物と呼ばれます。石の種類によって、鉱物の種類や量が変化します。鉱物の種類や組み合わせの多様性が、石の多様性をもたらします。
 鉱物は、現在、4,000種類ぐらい発見されいます。鉱物は、天然に産するものでなければなりません。ですから、人工的に作られた結晶は、鉱物とはいえません。新しい鉱物は、国際的な鉱物の学会へ、決められたデータをそろえて提出して、初めて認定されます。
 現在も新しい鉱物は、発見されつづけています。しかし、最近ではもう大きな結晶はなかなか見つからなくなりました。それは地球のほとんどの地域の鉱物が調べられたからです。
 ところが、新しい分析装置が開発され、鉱物に使用されますと、新しい鉱物が一時期、たくさん報告されることがあります。それは、非常に小さくて、今まで調べることができなかった岩石から、その装置によって、新鉱物は見つけられるようになるからです。大きな結晶もまれにですが、見つかることもあります。それは、今まであまり調査されなかった、科学的に未開な地域に、探検的な調査がなされたときです。
 その他に大量に新鉱物が見つかるのは、宇宙に化学分析の手が伸びたときです。新しい種類の隕石が入手されたり、アポロ計画によって月から石が持ち帰られた時などに、多くの新鉱物が見つかりました。
 4,000種類の鉱物について、すべてを知ることは大変です。しかし、幸いなことに大部分の岩石は、9割以上は極ありふれた鉱物からできています。このようなありふれた鉱物を造岩(ぞうがん)鉱物とよびます。
 造岩鉱物の代表的なものは、カンラン石、輝石、角閃石、雲母、長石、石英などです。あとは少しの付随する鉱物となります。ですから、岩石学者も、鉱物の専門家でなければ、それほど大量の鉱物を見分けなくても、岩石の成因や起源について調べることができます。そう、私も鉱物をたくさん知らない岩石学者の一人です。