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2024年7月18日木曜日

6_214 人新世 5:議論が残したもの

 新しい地質時代としての「人新世」の設立は、長い議論の結果、否定されたました。長い時間をかけての議論は、無駄だったのでしょうか。人新世の議論は、何をもたらしたのでしょうか。


 今回の人新世のシリーズを書いていて、相反する感想を持ちました。それを紹介していくこと、このシリーズのまとめとしましょう。
 まずは、「人新世」の設立が、長い議論の末、会議で否決されました。とはいっても、人類が地球に与えている影響が、今後減っていくわけではない点です。
 人類の影響が、現状でも、地質学的に検証されうる状態になっています。今後も増えはしても、減ることはないでしょう。影響が年々多く、大きくなっていくということを、今回の人新世「騒動」によって、多くの人が注目する機会を与えました。
 建材などの素材は、自然物の石を物理的に加工(げずったり、磨いたり)したものから、土や粘土を乾かしたり、焼いたりしたものになり、やがては化学的に加工したものになってきました。青銅や鉄などの金属、また石灰岩を加工したセメント、石油を加工したプラスチック、あるいは完全に化学合成にした化合物なども利用されてきました。それらが、放置されたままになると遺跡となり、廃材として自然界に捨てられると地層中の記録となっていくはずです。
 今後も人類の文明は発展していくはずです。文明の痕跡は、世界中に残されていくことになります。地質学的な時間軸で見ていけば、記録として、地層中に人類の痕跡は、ますます多く濃くなっていくことでしょう。こんなことについて、多くの人は思いを馳せていったことでしょう。
 ただ、学問的にみた時、時代区分は地質学の分野で決定されますが、人新世を定義するために、人類の行為の痕跡を定義に利用していいのか、そもそも時代境界の地質学的根拠を人類にまで拡大していいのか、また人新世がどの程度時間的に継続可能かなど、いろいろ考慮しておくべきこともあるでしょう。そのため多くの議論を進められてきました。しかし、その決定は、人類の歴史の時代区分に関与することになります。本来なら、その決定も、世に問う必要もあったかもしれません。しかし、今回は否定されてしまいことなきをえました。
 この「騒動」において、人類は自然と対峙する存在として扱われ、人類のなしてきたことの痕跡や影響が議論されてきました。その点が2つ目です。
 人類も地球の生物種のひとつです。ひとつの種が地球に大きな影響を与え、それが地質学的記録に残ったとしたら、地質学的境界に利用することが可能でしょう。例えば、全地球的に広がっていた古生物の大きな分類群の出現、絶滅を、時代境界にすることもなされています。しかし、ひとつの種の痕跡に依存してしまうと、その種がどれほど継続していくかが問題になります。
 もし、近い将来、人類が絶滅したら、今後新たな痕跡を残していくことはありません。人新世は、そこで終わることになり、それ以上長くはなりません。
 また、はじまりを考えても、それほど古くはなりません。人新世のはじまりの候補は、金属製錬の痕跡(紀元前1000年)、農業の開始によるメタンの増加(紀元前3000年ごろ)など古いものがありますが、せいぜい数1000年程度の期間しかありません。それより古くなると、既存の完新世のはじまり(1万1700年前)になります。継続性が保証されないと、意味のない時代区分となります。
 まあそもそも人類が絶滅したら、このような議論は無意味になりますが。
 人新世「騒動」の背景になにがあり、どのような議論が進められていたのか、詳しくはわかりません。私も含めて地質関係者は、人類と自然の関わりについて考えました。しかし、地質関係者だけでなく、興味をもっていた人だけでなく、時代を区切るという意味について、考える契機になりました。

・前期も終わる・
前期の講義は、今週から来週で終わります。
8月上旬の定期試験で、前期が終わります。
暑い日もありますが、
エアコンが使える教室が多くなっているので、
なんとか講義や試験も
進めることができるはずです。
一部小さなゼミ室には、
エアコンがないところがあり
そこで、面接練習が7月中は続きます。
暑い思いをしながらの講義が
今月中はしばらく続きます。

・新しいなにか・
今年度で退職なので、それに向けて
研究の方は順調に進められています。
論文も著書の執筆も順調です。
来年度以降の研究の方針が
なかなかまとまりません。
地質学は退職で一段落します。
地質学の方向性は
今度は縮小ながらも、
進めていくことは決めています。
その後、地質哲学の深化を
どのように進めていくかが
いまだに定まっていません。
それをはじめるには、
人文学的な研究手法を
身につけていく必要もあります。
既存のもので進めていくのも
つまらない気もします。
「新しいなにか」を見つけようと
模索していきたいとも考えています。

2024年7月11日木曜日

6_213 人新世 4:時代と場所

 人新世を議論していく過程で、どこかに境界を示す時代と場を決めなければなりません。そこには、人の営みの痕跡が残されている必要があります。そのような実証できるかどうかが、重要な視点になります。


 人為的な環境の改変が起こった人新世として、時代と場所を決めていく必要があります。時代を決めないと、その時代がでている地層の場所が決められません。逆に場所を決めることで、時代を決定することも可能です。最終的には両方を決める必要があります。
 現在の地質年代区分の「更新世」の最後は「メガラヤン期 Meghalayan」(4250年前から現在)になっています。人新世を設定するためには、メガラヤン期を、2つに分けることになります。つまり、メガラヤン期のどこかに時代境界を設けることになります。
 いろいろな時代が人新世の始まりとする主張もありました。例えば、現在も大気中の二酸化炭素濃度の増加は続いていますが、18世紀後半の産業革命のころから増えはじめています。人新世の提唱者のクルッツェンは、この時期を境界と提唱しています。
 あるいは、核爆弾による放射性炭素の濃度の1964年のピーク、二酸化炭素濃度が低い濃度を記録した1610年のピーク(オービス・スパイクと呼ばれています)、金属製錬に由来する鉛が地層に残されている紀元前1000年~0年ころ、農業で大気中のメタン濃度が上昇した紀元前3000年ころ、なども候補となっていました。
 一方、境界をどの地層を代表的なものとするのかも問題となっていました。上下の時代の地層との境界がはっきりと見られ、そして境界として、客観的なデータを示せるところが必要になります。時代境界をまたいだ地層が出ているところは、模式地(GSSP 国際境界模式層断面とポイント)として指定されることになります。その地には、「ゴールデン・スパイク」が打ち込まれます。
 人新世の議論の過程で、GSSPとして、12の候補地が名乗り出てきました。その中には、日本の別府湾もありましたが、2023年7月には、カナダのオンタリオ州のクロフォード湖の湖底堆積物が選ばれました。
 クロフォード湖は、狭い(2.4ヘクタール)で24メートルの堆積物をもっています。ここの堆積物は、特徴的で、堆積物を撹拌する生物も少なく、毎年夏に一層の堆積物がたまるという特異な「年縞」となっています。毎年の記録を正確に残している地層となります。
 クロフォードの湖底堆積物には、いくつか人類の痕跡が残っています。フライアッシュと呼ばれる球状炭化粒子(spherical carbonaceous particles: SCPs)があります。フラッシュアッシュは、ボイラを燃やしたとき、シリカとアルミの融けたガラスの微粒子です。近年では集塵機で集められているので、あまりでなくなっていますが、昔はたくさん排出していました。また、1940年代後半以降、核爆弾によるプルトニウムが増ていき、1950年代から急激な増加も記録しています。1950年代には気候変動も起こっていることも記録されています。そのような変動は、「グレートアクセラレーション」と呼ばれています。
 模式地としては、クロフォード湖の湖底堆積物が設定までされました。しかし、すでに述べたように、紆余曲折を経ましたが、否決されてきました。これまでの議論の意義は、次回としましょう。

・風邪・
先週末から、風邪を引いています。
6月初旬にひいたの同じような症状です。
会話をしだすと、咳がでやすくなります。
前回の風邪が治ったあとから
咳がなかなか止まらなったのですが、
またぶり返したようです。
同じ症状で進んでいるのですが
不思議な気がします。
前回の風邪が治って、
免疫ができているはずなので、
対処できてないのでしょうか。

・個人経営の講義・
2日ほど休んで復帰することになりました。
無理はできませんが、
講義の代替は補講となります。
前回も休講したため、その補講が学期末にあります。
今回も補講にできません。
少々無理をしてでも、
講義は実施するしかありません。
大学教員の講義の実施形態は
まるで個人経営の業態ようで
代替がしにくいものです。

2024年6月27日木曜日

6_212 人新世 3:否決

 人新世という時代を、新たに設定するかどうかについて長い間議論されました。紆余曲折があったのですが、審議の結果、否決されました。どのような経緯で審議されたのでしょうか。


 そもそも地質時代の区分は、どこで、どのような手続きを経て、決められているのでしょうか。地質学の時代区分なので、国際地質科学連合(IUGS、Commission for the Management and Application of Geoscience Information)という国際的な学会組織があり、そこで決めます。ただし、専門的な議論は、いくつかの下部組織を経て検討されていきます。
 まず、新たな時代に関しては、2009年に「人新世作業部会」を設置して、議論を進められていきました。「人新世作業部会」で議論した後、作業部会が属する「第四紀層序小委員会」で投票して、新しい時代にするかどうかを判断します。「第四紀層序小委員会」で60%以上の賛成があれば、次のステップに進みます。地質時代の全体を統括する「国際層序委員会」で投票していきます。そこで60%以上の賛成があれば、最終のステップに進みます。「国際地質科学連合」で審議して承認となります。
 人新世については、いろいろ複雑な経緯がありました。当初、2019年に、第四紀層序小委員会で人新世を正式な地質年代とし、20世紀後半に時代境界がおくことが、賛成多数で可決されました。
 この決定には、いろいろと問題があったようで、投票前に委員の少なくとも1人が辞任していました。また、投票も内部規定に違反していたようでした。また、正式発表される前に、メディアで報道されたこともあり、組織内の揉め事を反映していたようです。
 投票が無効であるという申し立てがあり、再度、議論されることになりました。そして、2024年2月1日から6週間かけて、「第四紀層序小委員会」での議論が進められて、投票がおこなわれました。18人の委員のうち4人が賛成、12人が反対、2人は棄権となり、否決されました。最初の小委員会の段階で否定されました。
 その後、否決に対する異議申し立てはありませんでしたので、次のステップには進むことも、再審議もありませんでした。
 これで、「人新世」という時代を新たにつくることはできなくなりました。でも、ここまで議論されたことは、無駄だったのでしょうか。次回としましょう。

・野外調査へ・
今週末から、前期最後の野外調査にでます。
大雪山の山岳地帯を通り日高山脈沿いに進みます。
移動距離も長くなります。
5日間の予定しています。
気候もいい時期ですから、
野外調査でも快適な時期です。
なんといって北海道は花の盛の時期です。
目にも楽しい時期です。

・2編の論文・
現在、論文を書いています。
7月締め切りの論文は書き終わり、
11月締め切りの論文の下書きをしています。
6月中に2編目の粗稿まで完成できればと考えています。
これは、9月に出版する予定の本の
一部にもなっています。
本でその内容を使用するつもりなので、
先行して書いています。
本の粗稿もほぼできているのですが
論文の内容を反映していくつもりです。

2024年6月20日木曜日

6_211 人新世 2:人類の特異な記録

 「人新世」という時代区分が提唱されてきました。その理由は、人類の行為が過去の特異な記録として残されてきたこと、後の時代にその記録が検出できることがわかってきたからです。


 人骨も、他の生物と同様に化石として残されています。人類学として研究対象なりますが、他の生物の化石と同じような役割になります。しかし、人類の生活や活動が、地層中の記録として、ある時期から残されていきます。考古学的遺跡などは、その典型となります。道具として使った石器、食べたあとの貝塚、食料保存や調理用の土器、農業や都市の遺構、あるいは資源として利用した鉱山やその残土、加工品など、考古学的記録として残されています。
 天然には存在しない精錬された鉄や加工品、近年ではプラスティックやビニールの合成物など、これらは少量であっても、人類の特徴的な記録として残っています。しかし、地球に対する記録量や影響は微々たるもので、他の生物の生活痕(足跡、巣穴など)などと似たものではないでしょうか。石炭や石油、天然ガス、サンゴの化石の集合の石灰岩などのほうが、地質学的記録としては物量が大きいのではないでしょう。
 文明や産業が進んでくると、農業・酪農や鉱業、都市開発なども大規模になり、地形の改変も著しくなっていきます。科学技術の進歩によって、他の生物にはなし得ない規模の地球への影響を与えるようになってきました。地形の改変では、巨大な火山噴火やプレートテクトニクスのほうが規模は大きくなりますが、人類の科学技術のほうが短時間での改変が激しくなるという特徴があります。
 また、自然界では生態系として多様な生物種が混在して生きているのですが、農業・酪農となると単一種(数種)が大量に広域に繁茂、繁殖していきます。このような選択的種の増加と多様性の欠如も、人類の特徴でしょう。
 人類の特徴的な営みによる記録としては、人類が出現した第四紀(258万年前から現在)や、第四紀を細分した完新世(1万1700年前から現在)として、すでに地質学区分が存在します。それ以外に新たな「人新世」の導入を考えられたのは、そのような人類の特徴的な営みだけでなく、異質で特異な影響として地球に与えているためです。
 分析技術が進んでいるので、いろいろな現象の記録が読み取られます。近年では二酸化炭素の増加が記録されてきていますが、地質時代にはもっと高かった時代もあります。ですから量については特異性は大きくありません。しかし、その増加が急激であることが問題となっています。
 特異性の記録として、米ソの冷戦において核爆弾の実験が多数なされたことに由来するものがあります。炭素同位体組成による年代測定は、大気中に一定の値を持っていた炭素同位体組成を基準にして進められてきました。ところが、大気中で多数の爆発実験がなされたことで、核爆弾由来の放射性核種が加わったことで、測定値に影響ができてきました。その変化のピークは1964年になります。実験が少なくなってきたので、影響は少なくなってきました。炭素同位体の年代で「〇〇年前」とは、1950年を基準にするようになりました。
 二酸化炭素の増加や同位体組成の変化は、他の生物や人類などの生物種には大きな影響はないでしょう。変化が、人類のためだけの科学技術の使用や、人を殺傷し社会や生活を破壊するための核爆弾という武器に由来することが問題ではないでしょうか。さらに、変化が、他の種が適応できないほどの短期間に起こることも問題です。
 オゾンホールの研究でノーベル賞を受賞したクルッツェン(Paul Jozef Crutzen)が、2000年に「人新世」という新しい時代区分を提案しました。人類の特異な行為への自覚を促すためもあったのでしょうが、それ以降、議論が進められてきました。その結果については、次回以降に。

・一気に夏・
北海道では、5月末には涼しい日があり
ストーブを焚くことがありました。
6月はじめまで涼しいが日が続きました。
ところが、先週から一転、
一気に暑くなってきました。
着るもの夏物、窓も全開する日が
突然、訪れました。
YOSAKOIも北海道神宮祭も終わり、
一気に夏めてきました。
前期の講義も3分の2が終わり終盤に入っていきます。
今年で退職なので、すべての講義が、
これで最後だと思いながら進めています。

・風邪で野外調査・
先々週末から先週頭までは
野外調査にでていたのですが
体調を崩していました。
風邪をひいた状態でしたが、
コロナやインフルエンザではなく
今はやっている風邪だそうで
医者で薬をいただき、呑んで調査していました。
咳が時々激しくでるのですが、
体調自体は大丈夫だったので
調査を継続しました。
現在も少し咳が残っていますが
体調は戻りました。

2024年6月13日木曜日

6_210 人新世 1:地質時代の区分

 以前、人新世という新しい地質年代が提案がなされました。長い時間かけて、それを地質時代として認定するかどうかが、議論されてきました。今年の3月に結論がでました。その意味について考えていきましょう。


 地質時代の新しい年代区分として、「人新世」が提唱されたのですが、それを認めるかどうか、15年もかけて議論されきました。
 人新世とは、英語のAnthropoceneの日本語名称となります。anthropoとは、ギリシア語で「人」を意味し、ceneとは、新生代の時代区分の名称に付けられる接尾語になります。それらを合わせて、Anthropocene 人新世という名称がつくられました。
 そもそも地質時代とは、どのようななものかを、概観しておきましょう。
 過去を、地層に記録された地質現象から区分していくことです。地層に残る地質現象としては、年代を記録するものとして、いろいろなものがありますが、化石がもっとも有力です。化石は生物の遺骸なので、生物種の絶滅や出現で、時代を区分することになります。
 ただし、化石が多数産する時代の顕生代(5億3880万年前から)では有効ですが、あまりで見つからない先カンブリア紀には使えません。そのため、先カンブリア紀は、冥王代、太古代、原生代に大きく区分されていますが、あまり細かい区分はできていません。
 顕生代は、古い方から、古生代(5億3880万年前から)、中生代(2億5190万2000年前から)、新生代(6600万年前から)の3つに区分されています。新生代は、古第三紀(6600万年前から)、新第三紀(2303万年前から)、第四紀(258万年前から)に区分され、第四紀はさらに更新世(1万1700年前まで)と完新世に区分されています。完新世は1万1700年前から現在までになります。
 今回の話題は、完新世をさらに2つに区分して、人新世という時代をもっとも新しい時代として加えようという提案です。このような提案は、人類が地質学的に記録に残るような影響を与える時代になってきたということを背景に提唱されてきました。
 長い時間をかけて議論されてきた人新世が、今年の3月に否決され、採用されないことになりました。では、人新世とはどのような意味や意図があり、なぜ否決されたのかを見てきましょう。

・予約配信・
このエッセイは、予約配信しています。
以下の内容もすべて一週間前のものです。
先週末に今シーズン3回目の野外調査にでました。
今回は、広域ですが、オホーツクの周辺を中心に
調査を進めていく予定です。
今回も以前から訪れているところを巡りますが
一部ははじめて訪れるところもあります。
北海道内を、あちこち見て回っているのですが、
まだ見ていない露頭もあります。
もちろん同じ露頭でも、見方を変えれば
新しいこともみえてくるはずです。
そんな繰り返しを今も続けています。

・YOSAKOI・
北海道は、いよいよYOSAKOIの季節になりました。
5日からはじまりまり、9日がファイナルになります。
YOSOKOIがたけなわの時期に出かけています。
北海道は今年は寒い日が多く
前回までの野外調査は、体調をくずしています。
やっと暖かくなってきて、動きやすくなりました。
出かける前なのに、少々風邪気味なので、
体調が心配ですが、予定通り調査にでます。
その不調がまだ残っていますが
なんとか目的のところを巡れればと思っています。

2024年3月14日木曜日

6_209 AIで最初の星 4:銀河考古学

 最初の星に由来する元素を、AIで解析した報告がありました。太陽系近傍の若い星には、複数の星に由来する元素が用いられていました。これは、銀河、宇宙の形成の時空間へ、情報を与えることになりそうです。


 観測で調べた若い星の元素組成を、AIで解析した報告がなされました。すると、ひとつの最初の星に由来する元素からだけではなく、複数の星に由来することがわかってきました。この結果は、どのような意味があるのでしょうか。
 星は、形成場の周辺に存在している元素が素材になります。今回の報告では、若い星の形成場には、いくつもの最初の星に由来する元素がありました。形成場は、複数の星の超新星爆発が起こり、元素が混在していたことを示していました。これは、最初の星は、同時期に形成され、同時期に超新星爆発を起こしたことを意味しています。
 複数の最初の星の元素が集まっているということは、近くに最初の星がいくつも形成されていた状態、つまり星団となっていたと考えられます。これは、宇宙創成期に、星の形成場では、星の分布が不均質だった可能性を示していそうです。
 最初の星の様子を、形成時期だけでなく位置関係も推定させることになってきました。これらの内容は、最初の星の誕生のシナリオでも考えられていましたが、今回の報告で、その証拠が示され、定量化もできたことになります。
 さらに、超新星の元素合成であらゆる可能性での元素組成をシミュレーションして、AIに学習させました。その学習結果を、現実の観測値このような過去の星「最初の星」の様子を推定に利用するというアイディアは素晴らしいものでした。そして、太陽系近傍の星に適用してえられた結果は、今後、全宇宙の適用していく時の重要な作業仮説にできます。
 このような研究手法は、過去の銀河や恒星の探査は「銀河考古学」と呼ばれています。銀河考古科学には、星の元素の特徴を用いて調べるほかにも、星の分布、星の運動などを用いても研究が進められています。近年、観測衛星の高精度のデータから、星の固有運動を正確に決定できるようになってきました。星の運動を用いる研究も、進められています。
 太陽系の近くの恒星から、古い銀河、宇宙開闢の様子を探ろうとするアイディアは面白いですね。

・マスク・
集中講義が終わり、3月のバタバタも
これで一段落となります。
今週末には、学位記授与式がおこなわれます。
コロナ禍以来、やっと通常の学位記授与式となります。
まだ教職員にも学生にも
マスクをしている人が、まだ何割かいます。
そのため、素顔を覚えることなく
卒業していく学生もいます。
街で素顔の卒業生とすれ違っても
見分けがつかないかもしれません。

・定活・
今年から、かつての状態に戻り
全学の卒業を祝う会がおこなわれます。
今年からゼミを持たなくなったので、
身近な学生との懇親会がなくなりました。
コロナ禍が終わって、やっと学生との
宴会ができる状態になったのですが
学生との飲み会ができないのが残念です。
まあ、定活(定年退職に向けての準備)と思って
少しずつ、変化に慣れていきましょう。

2024年3月7日木曜日

6_208 AIで最初の星 3:スペクトル分析

 恒星の元素組成は、光のスペクトル分析で調べることができます。最初の星の超新星爆発で形成される元素組成は、理論から推定することができます。両者を、AIを用いて解析することで、新しいことがわかってきました。


 恒星の元素組成は、どうして知ることができるのでしょうか。恒星の光の観測から推定できます。私たちの太陽も同じ方法で調べることができます。
 太陽を例にしましょう。太陽からでている光を、プリズムを通すと波長ごとに分けることができます。その様子を詳しくみていくと、明るい線や暗い線がたくさん見つかりました。
 明るい線(輝線)は、太陽の内側で輝いているところに多くある元素が出している光で、その波長の特徴を示しています。一方、暗い線(暗線)は、太陽が出している光が、外側の大気中にある元素に、吸収された光の波長の特徴を示しています。光の波長ごとの特徴から、恒星(太陽)の元素組成を知ることができます。
 このような方法をスペクトル分析といいます。遠くの星のスペクトル分析ができれば、その元素組成も調べることができます。これは恒星の観測データから、その星の元素組成が決めることを意味しています。
 一方、最初の星の内部の核融合のプロセスが理論的に計算できます。同様に、超新星爆発で合成される元素組成の計算もできます。こちらは理論的に最初の星の元素組成を想定することができます。ただし、最初の星のサイズが異なれば、元素組成も異なってきます。
 二代目の星は、最初の星とその超新星爆発で形成された元素組成と、周辺のビックバンでできた元素からできるはずです。何代目がわからないとして、重い元素の少なければ、若い星とみなせます。若い星の元素組成を観測して調べていきます。
 この論文の工夫された点は、最初の星の超新星爆発で形成される元素組成を、いくつものパターンを理論的に計算して、AIを用いて観測した星が、どのような組成の超新星爆発からできかを区分していったことです。
 AIの解析により、ひとつの超新星爆発の元素でできた星と、複数の超新星爆発でできた星が、区別できようにました。太陽系の近くにある462個の重い元素を含まない星を調べた結果、31.8%がひとつの星から来た元素であることがわかりました。このような星をモノエンリッチ(mono-enriched ひとつに富む)と呼んでいます。それ以外の68%ほどが、複数の超新星爆発による元素からできていることがわかってきました。このような星をマルチプリシティ(multiplicity 多元素性)と呼んでいます。
 これは、どのような意味をもっているのでしょうか。次回としましょう。

・事前指導・
現在、集中講義の最中です。
教育実習のための事前指導のための
授業となります。
ゴールデンウィーク開けから
教育実習がはじまります。
その前の準備となります。
先生として実際の授業を進めてきます。
はじめてのことなので、
なかなかうまくいかないでしょうが
実際の体験すること、
失敗することも重要です。
学ぶことが多いと思います。

・著書の執筆中・
著書の執筆を進めてみます。
当初予定より、1月ほど遅れてスタートしました。
それは、この著書に関係する
論文の草稿を執筆していたためです。
その論文や著書を書きながら
構想を深めてきました。
おかげで、これまで大学で研究してきた
いくつかのテーマがすべてつかって
総括できるような内容に発展してきました。
あとは、その内容をどこまで深めていけるかですが、
これが、なかなか難しく、頭を使う必要があります。
3月中になんとかまとめたいと考えています。

2024年2月29日木曜日

6_207 AIで最初の星 2:超金属欠乏星

 最初の星を見つけるのは難しいのですが、最初の星に近い初期の星なら、見つけられます。初期の星のデータを集めてAIに解析させることで、最初の星の様子を探ろうとしました。


 AI学習による最初の星の探査は、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の客員研究員のハートウィグ(Tilman Hartwig)さんたちの共同研究で、Astrophysical Journalという雑誌に、
論文タイトル:Machine learning detects multiplicity of the first stars in stellar archaeology data
(機械学習が恒星考古学データから最初の星の重複性を検出)
というタイトルで報告されました。
 「最初の星」とタイトルにありますが、直接観測できないので、初期の星から探ろうとするものです。重い元素は、最初の星の中と超新星爆発で合成されていきます。ですから、古い星を探して、その成分に重い元素が少ないほど、初期の星となっていきます。
 重い元素を多く含む星を種族I(population I)と呼んでいます。少ないものが種族II(population II)となります。最初の星は金属をまったく含まないので種族III(population III)と呼ばれています。前回紹介したように、種族IIIの星は見つかっていません。種族IIIに限りなく近い種族にIIの星が研究対象になります。
 そのような星は、「超金属欠乏星」と呼ばれています。これも前回のエッセイの【註】に示したように、リチウムより重い元素は、天文学では「金属」と呼ばれます。そのため重い元素(金属)が極端に(超)少ない(欠乏)星となります。
 重い元素の少ない星の特徴が調べられました。初期の星が、最初の星に由来する元素をもとにできていたら、最初の星の個性をもっているはずです。なぜなら、最初の星のサイズや超新星爆発の特徴により、元素組成にも特徴が現れるからです。元素組成の個性に乱れがあれば、複数、あるいは多数の最初の星の影響を受けていたことになります。
 元素組成のパターンを機械学習したAIを使って、調べていったというのが、この論文となります。その結果は、次回としましょう。

・閏年で29日・
今年は閏年で29日もあった
2月も最後となります。
2月は短く感じました。
それは、授業はなくなっていたのですが、
研究での作業が詰まっていたため、
バタバタとしていたためでしょう。
そのバタバタはまだ終わっていないのですが
充実はしています。

・集中講義・
3月上旬には、集中講義があります。
そのため、1週間、そこに忙殺されます。
学生もその間だけでなく、
準備にも時間を使います。
その相談のために研究室にもきます。
それも教育、指導になります。
熱心な学生ほど集中して準備に取り組んでいます。
ですから、手を抜くことも、
時間を惜しむことはできません。

2024年2月22日木曜日

6_206 AIによる初代星の探査 1:初代星

 いろいろな分野でAIの導入が進められています。天文学でも導入されていますが、2023年にでた論文では「最初の星」をAIで探したました。その論文を紹介していきましょう。


 「最初の星」をAIで探すという研究が報告されました。まず、「最初の星」とはどんなものがを考えておきましょう。それがわかっていないと、見つけることができません。
 「最初の星」は、「初代星」(first star)とも呼ばれていますが、宇宙ができた直後の星になります。「最初の星」は、宇宙の創成のときに存在した材料だけから作られていきます。ここでいう宇宙の創成とは、「ビックバン」のことです。
 ビックバンで形成された元素は、理論と観測でわかっています。ビッグバンで合成された元素は、水素(H)とヘリウム(He)がほとんどで、あとは少量のリチウム(Li)だけです。つまり、「最初の星」は水素とヘリウムからでできたことになります。
 天文に詳しい人であれば、太陽系の恒星(太陽)も、水素とヘリウムからできていることをご存知だと思います。しかし、太陽の構成元素を詳しくみていくと、水素とヘリウムが多いのですが、リチウムより重い元素がいろいろと見つかっています。重くなるほど量は少ないですが、明らかに太陽には存在してます。この重い元素は、ビックバンのときには存在しなかった元素です。ですから、私たちの太陽は「最初の星」ではありません。
 では、重い元素は、どうしてできるのでしょうか。恒星の中で、水素とヘリウムなどが連鎖的に核融合を起こして、鉄(Fe)までの元素ができていきます。恒星内では鉄までしかできませんが、星が一生を終えるときに起こる超新星爆発で、鉄より重い元素が形成されます。ですから、重い元素は、少なくとひとつの恒星ができて、終焉を迎えていないと形成されません。
 「最初の星」は、重い元素を含まない水素とヘリウムからだけの星だといえます。そのような星を探せばいいのです。しかし、「最初の星」は、現在のところ、どのような観測装置を使っても、まだ見つけることはできていません。小さなものは遠くにある(古い)ので暗くて見えないでしょうし、大きくて明るい星はすでに寿命が尽きているでしょう。
 最初の星がだめなら、第2世代の星を見つけることで、そこから最初の星の特徴を探ろうとしています。その手段にAIを導入したという研究が報告されました。その詳細は、次回以降としましょう。

【註】リチウムより重い元素は、天文学では「金属」と呼ばれるのですが、ここでは重い元素と呼ぶことにします。

・外国人観光客・
今年は2月11日まで、
札幌の雪まつりがありました。
中国の日本への旅行も解禁されていて
春節(2/10から2/17)もあったので
海外からの観光客が多くなりました。
寒い中を長時間歩いて見て回ったら
風邪を引いたことがあり懲りました。
今では、雪まつりはテレビで見るだけです。

・祝日の連休・
2月の祝日は、2回あります。
建国記念日と天皇誕生日です。
11日と23日で日程が近くなっています。
それに今年は、曜日の関係で
両方とも連休となります。
実は札幌で訪れたいところがあります。
出かける日程を連休をずらして、
平日にしました。
このエッセイの発行は
木曜日にしているので、
今日、出かけている予定です。

2023年7月20日木曜日

6_204 知的生命体の起源 2:コペルニクスの原理

 地球外の知的生命は、科学技術をもっているはずです。科学技術誕生には、どのような惑星の条件が必要でしょうか。その条件とは、生命誕生の条件と一致するのでしょうか。コペルニクスの原理から考えていきます。


 ハビタブルゾーンが設定されるのは、背景に地球生物が誕生の必要条件として水の存在があるからです。地球や地球生物が、宇宙で特別な存在ではなく、平均的、一般的、平凡(凡庸)な存在と考えています。ハビタブルゾーンの概念には、地球や生物で考えられる条件が一般論として適用できる、と考えて構築されています。このような考え方は、「コペルニクスの原理」あるいは「メディオクリティの原理」と呼ばれています。
 ハビタブルゾーンには生命誕生には水の存在が不可欠であるという考えは、「コペルニクスの原理」に基づいて設定されています。水の状態は、惑星表層が水で覆われた水惑星だけでなく、天体内であっても、必要な条件がそろっていれば、生命が誕生できる可能性があると考えられています。
 例えば、氷の地殻の下に存在する地下の海(内部海)でも、素材とエネルギーなどがそろっていれば、生命が誕生できるかもしれません。このような天体は、太陽系にも候補(木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドゥスなど)があり、生命の発見が期待されています。
 一方、技術痕跡(technosignature)の担い手である技術的知性(Technological Intelligence、TI)は、陸上で進化したと考えられます。なぜなら、科学技術は、電気や電波を用いたものなので、陸上でないと使えません。科学技術に至るためには、水蒸気やガソリンのエンジンなどの動力を使用した工業が発展していたはずです。工業に至るためには、農業や酪農などをする産業が必要で、火の使用する文明がなくてはなりません。知性をもつに至る生物へは、陸上で進化していったことを前提としています。これも技術的知性に至るための「コペルニクスの原理」の適用です。
 生命誕生には海の存在が、技術的知性には陸の存在が不可欠となります。海で誕生した生命が、段階的に進化をして、やがて陸上に進出していく必要があります。その間、惑星の環境が維持されなければなりません。つまり、技術的知性には、海と陸の恒常的存在が不可欠となります。
 生命誕生においてハビタブルゾーンは必要でしょうが、「コペルニクスの原理」によれば、技術的知性の探査には海と陸の存在が不可欠になります。惑星表層で占める海と陸の比率が問題となります。海と陸の存在を探査で知ることはできません。その可能性を、統計を用いて探求するアイディアがあります。次回としましょう。

・暑い夜・
現在は、論文作成に専念しています。
連日、蒸し暑い日が続いていますが、
借りている部屋では
入ったときから、
襖や障子をはずしていました。
風通しはいいのですが、
それもでエアコンを必要な時にはつけています。
しかし、寝るときは、扇風機で過ごしています。
寝苦しい日もありますが、
あと少しこの状態を続けてみようと思っています。

・近隣の散策・
北海道では、夏は野外調査の最盛期なのですが、
四国では、夏は野外調査には向かない時期です。
四国での7月上旬の調査は、
蒸し暑くでヘトヘトに疲れました。
幸い、もともと8月下旬まで、
調査は休止の予定にしていました。
その間は山里で、じっと過ごす予定です。
ただし、週日のうち、2日間、昼食を外食しながら
半日ほど出かけるようにしていきます。
これは来たときから続けています。
家内があまり地元を知らないので
我が家の休日として
近隣をあちこち回るようにしています。
次はどこにいこうか、と考えるのを
楽しみにしています。

2023年7月13日木曜日

6_203 知的生命体の起源 1:条件と仮定

 系外惑星の探査は、現在も盛んに進められています。多くの系外惑星が発見され、多様な惑星の存在がわかってきました。探査では、水、生命、知性などがキーワードですが、それらには仮定と条件が絡み合っています。


 高性能の宇宙望遠鏡による探査によって、大量の太陽系外の惑星が発見され、その多様な姿が明らかになってきました。それまで、太陽系内の天体が、惑星の多様性の範囲で、それらがいかに形成されたかを考えることが、惑星形成の重要な目的でした。ところが、多様な系外惑星の発見により、これまでの前提が大きく変更されました。
 数ある系外惑星の中で、地球型惑星の探査、そしてハビタブルゾーンにある惑星が注目されてきました。ハビタブルゾーンとは、惑星表層に液体の水が存在する領域で、恒星のタイプと惑星の公転軌道から推定できます。そこに地球型惑星があれば、海が存在する可能性が高くなります。その軌道上に、惑星が安定して長期間あれば、生命誕生と進化の必要条件がそろうことになります。ただし、その惑星に液体の水があること、生命が誕生していること、生命が進化していることを検証すのは困難です。
 ハビタブルゾーンから生命の進化までの推論は、連続した仮説を積み重ねていく論理構造になっています。
 系外惑星の公転軌道と惑星タイプは、観測で検証されていますが、ハビタブルゾーンの存在は推定になります。ハビタブルゾーンが仮定できる条件があっても、地球型惑星に水が存在するかどうかは検証できません。水が存在する惑星があると仮定でできても、そこに生命が誕生するかどうか、さらに誕生した生命が進化を続けていくかどうかは、仮説の上の仮説の連続となります。
 このように、仮定の上に仮定を積み重ねていくことになります。探査機がその惑星に近づかないと、生命の存在は、なかなか検証できそうもありません。
 ところが、地球外文明を探すことは、比較的容易で検証可能です。ここでいう地球外文明とは、科学技術が発達しており、電波を用いているものです。電波であれば、文明から遠く離れた遠隔地からも受信できます。もし受信できれば、その信号の意味や中身が分からなくても、文明の存在を知ることになります。文明の背景の知的生命は、生命や水の探査を一気に飛び越していますが、生命の存在の十分条件を満たしています。
 このような技術の痕跡は、技術痕跡(technosignature)と呼ばれ、その担い手を技術的知性(Technological Intelligence、TI)、あるいは地球外知性(Extra Terrestrial Intelligence、ETI)と呼びます。
 TIの検出に関してベイズ統計を用いた、不思議な論文が報告されました。次回から紹介していきましょう。

・野外調査・
7月上旬でサバティカルにて予定していた
前半の野外調査を終えました。
前半には、野外調査を6回予定していたのですが
そのうち1回は家内に体調不良が起こり
その看護で中止になりました。
中止した地域は、
後半の調査地の予定を変更することで
対処することにしました。
プライベートでの京都への帰省も
前半に2回、後半に1回予定していたのですが、
前半の1回をキャンセルしました。
何事も予定通りには進みませんが、
可能な限り予定消化を目指して
進めていきたいと考えています。
野外調査に専念できるのは
最後のチャンスと考えています。

・集中すること・
サバティカルも折り返しが過ぎました。
あれもこれもと、欲張りながら
日々を過ごしています。
高齢のため、体力や身体は
無理がきかなくなっていますので
労りながら進めていくしかありません。
心身ともに余裕はもちながら
無駄を省いていくしかありません。
短時間で集中して進めていくことです。

2023年5月4日木曜日

6_202 ターミネーター・ゾーン 4:少ない可能性と多数

 ターミネータ・ゾーンで、ハビタブルゾーンの存在の可能性は、少ないながらもでてきました。M型恒星の数が多いので、少ない可能性であっても、生命誕生が起こったかもしれません。



 M型恒星の周囲を潮汐ロックされて巡る惑星には、夜明けや日没のところには、ターミネーター・ゾーンができます。潮汐ロックされていますので、安定した領域となります。その環境のシミュレーションは、長期的には水が安定に存在できないことわかってきました。しかし、ロボさんらの研究では、水が存在できる可能性が示されました。
 シミュレーションで重要になる初期条件は、恒星からの距離(放射量)と水と氷の割合、大気圧であることが判明しました。
 水が少ない状態でスタートすれば、水蒸気の発生が抑えられ、放射量が多くても暴走温暖化は起こらないことがわかってきました。そして、ターミネーター・ゾーンで、温度が0~50℃の範囲になり水が存在できることがわかってきました。
 水が多い状態で惑星がスタートすると、海から大量の水蒸気が発生して暴走温室効果が起こることになります。そんな状態であっても、もしかすると水が再度形成される可能性も指摘しています。例えば、いったん夜の側に移動して凍った水も、その量が多ければ氷床が厚くなり流動しはじめ、もしターミネーター・ゾーンまで流れる氷河があれば、そこで融けて水になり川や湖ができることになります。ただし、このシミュレーションはなされていません。
 M型恒星で、地球のように7割が海のような水の多い惑星では、特別な条件を満たさないと、ターミネーター・ゾーンに水が存在できません。水が少ない陸が多い惑星では、ターミネーター・ゾーンに海が位置していれば、ハビタブル・ゾーンが安定して存在できるかもしれません。
 まだまだM型恒星の惑星におけるハビタブル・ゾーンの存在については、不明な点が多いのですが、可能性は残されたことになります。M型恒星は数が多く、寿命も長いため、近くを巡る惑星があれば、安定期的なハビタブル・ゾーンが存在するかもしれません。そこには、生命誕生の可能性もあるはずです。そんな期待を残す報告でした。

・明浜の段々畑・
ゴールデンウィークは出歩くことは控えています。
動くときは、休日や祝日ではなく平日にしています。
先日も昼前から、明浜にでかけました。
快晴の空の暑い日でしたが、
みかんの段々畑と石灰岩のコントラストが綺麗でした。
地域のイベントがあれば参加するようにしています。
大きなイベントがあった先日の土曜日は
あいにくの雨なので出かけるのを諦めました。
残念なので町内で
土曜のみ開かれるレストランにいきました。
昔よく泊まった施設を利用しています。
今はレストランだけが使われています。
地質館も使われなくなりましたが、
鍵を借りて中をみてきました。
それほど傷んではいなかったのですが、
いい施設なのでもったいないでした。

・土佐清水ジオパークへ・
来週から2度目の野外調査にでることにしています。
今度は高知県西部を中心に回る予定です。
高知ではジオパークが2つあります。
室戸は世界ジオパークとして有名ですが、
新しく2021年9月に土佐清水ジオパークが
日本ジオパークとして認定されました。
そこを中心に見て回ろうと考えています。
もともと地質学では、土佐清水の竜串の三崎層群や
白山龍門のラパキビ花崗岩で有名な地域でした。
何度が訪れていますが、
再度、見て回ろうと考えています。

2023年4月27日木曜日

6_201 ターミネーター・ゾーン 3:否定的意見

 ターミネーター・ゾーンのハビタブルゾーンには、否定的意見もあります。M型星も長期的には変化していくので、惑星の環境も変化していきます。やがて、ハビタブルゾーンが消えるというものです。


 多数存在するM型星で、潮汐ロックされた惑星には、ターミネーター・ゾーンがハビタブルゾーンになるのではないかという考えを、前回紹介しました。特殊なM型星ですが、そこにも利点もありました。しかし、否定的な意見もあります。それを紹介していきましょう。
 長寿命のM型星ですが、変化していきます。恒星は水素がヘリウムになるという核融合で輝いています。時間経過とともに、恒星内での核融合の効率が上がっていきます。その結果、明るさが増大していきます。
 周辺の惑星、特に近い軌道を巡る惑星は、大きな影響を受けます。明るくなるにしたがって、ターミネーター・ゾーンの暖かくなり、海からの蒸発も多くなっていきます。大気中の水蒸気が多くなると、温室効果が激しくなり、やがて暴走して(暴走温暖化と呼びます)、灼熱の惑星へとなっていくだろう。こんな可能性が指摘されています。
 ところが、別のシミュレーションでは、逆の結果もえられています。恒星が明るくなると、惑星の海が蒸発していき、水蒸気が大気圏外に逃げ出したり、夜の領域に入ってものは、雪となり凍結してしまったりす可能性がでてきました。ターミネーター・ゾーンに存在していた水が、だんだんとなくなっていきます。やがて、ターミネーター・ゾーンも乾燥し、生命が誕生できず、存続もできないという指摘です。
 いずれのシミュレーションに向かうとしても、これまで考えられていた、ターミネーター・ゾーンという安定した領域は、継続できないのではということになってきました。
 このような相反する推定がでてきたということは、詳細なシミュレーションをしてみる必要があります。そこで、カリフォルニア大学アーバイン校のロボさんらは、潮汐ロックされたさまざまな条件でシミュレーションをしました。その結果を、2023年3月に天文学雑誌(The Astrophysical Journal)に報告しました。そのタイトルは、
 Terminator Habitability: The Case for Limited Water Availability on M-dwarf Planets
(ターミネーターゾーンでのハビタブルゾーンの可能性:M型赤色矮星の惑星において水が限られた条件での存在する可能なケース)
というものです。タイトの日本語訳はかなり意訳になっています。
 つまり、限定された条件になりそうですが、水が存在できるハビタブルゾーンができそうだという報告になります。その詳細は次回としましょう。

・最初の野外調査・
このエッセイは、予約配信となります。
ちょうどこの時期、野外調査にでかけています。
最初なので、近場として、しまなみ海道を利用して、
広島に渡り、主には島々を調査する予定です。
しまなに海道ははじめてなのと、
借りた車で自動車を走るのもはじめてなので
少々緊張するかもしれませんが、
なんとか無事に調査が
終わればと思っています。

・ゴールデンウィーク・
週末からゴールデンウィークになります。
土日のあと中に二日間、平日を挟んでいますが、
そのあと、4連休となります。
2日間、休みをとれば、9連休になります。
各地で混雑が予想されるので、
あまり動き回らないでいようと考えています。
日常の通りに、執務室で
研究に専念したいと考えています。

2023年4月20日木曜日

6_200 ターミネーター・ゾーン 2:M型の赤色矮星

 多数存在する赤色矮星は、あまり系外惑星の探査の対象にはされていませんでした。この恒星の惑星にあるターミネーター・ゾーンは、安定して存在します。そこには、ハビタブルゾーンができていそうです。


 太陽は、G2V型(スペクトル型という分類)というもので、多くの恒星のありふれたものです。そこには、ハビタブルゾーンに惑星(地球)があり、生命がいる天体となっています。しかし、私たちの太陽以外の恒星で、G2V型に限定すると、恒星の数は多くても系外惑星はそれほどは見つかっていません。
 生命誕生の条件はまだ不明ですが、生命が誕生するには、多数の天体で試行錯誤が必要かもしれません。もし多数の天体に生命が存在するのであれば、生命の痕跡(例えば、酸素の多い大気が見つかるなど)が観測できるかもしれません。そこには至っていませんが。もし、少数の天体にしか、生命が誕生していかなければ、見つけることができないかもしれません。
 現在、太陽系近隣の恒星で、通常の恒星(主系列星と呼ばれています)をターゲットにして、探査が進められています。発見されているハビタブルゾーンをもった系外惑星が少ないため、生命誕生の可能性は多くなさそうです。
 生命誕生の条件として、惑星内のどこかに、局所的にでも海が恒常的に存在すればいいと考えていけば、可能性が上がってきます。そのような場として、今までターゲットとしてきたものより、もっとたくさんある恒星であれば、惑星の存在確率も多くなるはずです。問題は、多数存在する恒星の惑星に、ハビタブルゾーンに存在するかどうかです。
 まず、恒星として、主系列星ではないのですが、多数存在する赤色矮星と呼ばれるもの(M型星)があります。太陽よりずっと小さいのですが、数は多くあります。軽くて暗い恒星なのですが、恒星の3/4がこのタイプだと考えられています。
 M型星は暗い恒星なので、惑星でのハビタブルゾーンも恒星に近くなってきます。恒星が暗いため放射も少なく、惑星の表層を擾乱させることもなく、海が安定に存在しやくすくなります。近くを巡る惑星は、潮汐ロックが起こり、自転と公転が一致します。これは地球と月の関係で起こっているもので、月は常に同じ表面を地球の方に向けることになります。そこに「ターミネーター・ゾーン」ができます。
 潮汐ロックされた惑星のターミネーター・ゾーンは、明暗境界線とも呼ばれているのですが、朝と夕方の領域です。潮汐ロックされた惑星では、昼の地表が暑く、夜が寒くても、ターミネーター・ゾーンでは中間的な条件のところができます。ターミネーター・ゾーンは、常に同じ位置に存在し、そこに海ができるハビタブルゾーンとなります。
 M型星の惑星は質量が小さく、暗いので、主系列星よりずっと長寿となります。そのため、長く安定した条件が継続することになり、生命誕生の試行錯誤も長期にわたってできます。恒星の数も多いので、このターミネーター・ゾーンが、生命誕生の可能性として注目されています。
 しかし、M型星のハビタブルゾーンに関しても、問題点はあります。その内容は、次回としましょう。

・近隣の散策を・
サバティカルの生活も
だんだんと落ち着いてきました。
火曜日と金曜日に、半日、
近隣を散策するようにしています。
近隣地域は、以前に一通り巡っていますが、
家内ははじめてです。
観光や買い物などを兼ねて
あちこちを周っています。
再訪すれば、それなりに知らないこと、
新しいことも見つかります。

・温水プール・
これまで通勤で、往復7kmを歩くだけが
運動だったので筋肉が衰えてきました。
野外調査をしていると
体幹や足腰の衰えを度々感じています。
サバティカルを機会にして、
町内にある温水プールに、
夕方、家内と一緒に通うことにしました。
最初は、少ししか泳げなかったのですが
少しずつ泳ぐ距離も伸ばしています。
そのせいか、夜もすぐに眠りにつけます。
この生活サイクルと続けていければと考えています。

2023年4月13日木曜日

6_199 ターミネーター・ゾーン 1:ハビタブルゾーン

 地球外生命が存在する可能性を考えるとき、稀な天体から探すより、多数の候補から探したほうが、見つかる可能性があるはずです。そんな可能性として、ターミネーター・ゾーンと呼ばれるものがあります。


 地球外生命については、このエッセイでも、何度か取り上げてきた話題となります。今のところ、地球以外の天体で、生命の存在は確認されていません。ここでいう生命とは、炭素を主体とした有機物からなる地球型です。また、生物と認定でき、さらに検出できるものでなければなりません。もしかすると、地球型生命でないものや、有機物を用いない生命、炭素型でない生命がいても、観測していたとしても、生命とは認識できていないかもしれません。認識でない生命に関して議論してもしかたがないので、私たちがよく知っている生命を考えていきましょう。
 地球外生命を探すときは、遠くの天体が対象になるので、ハビタブルゾーン(Habitable zone)という条件を考えていきます。ハビタブルゾーンとは、地球型生命が生存できる領域に、天体があるかどうかを調べるためのものです。生命居住可能領域とも呼ばれています。
 その条件とは、惑星の表層に液体の水が安定して存在できるかどうかです。表層温度が0℃以上から100℃以下になっている条件のことです。恒星の明るさ(放射量)と惑星の軌道半径(恒星からの距離)によって、一義的に決まってきます。まずは、そこに惑星が存在するかどうかです。
 ハビタブルゾーンにあったとしても、液体の水(海)が存在するためには、惑星に大気が必要です。ただし、巨大ガス惑星になると、表層は水素やヘリウムの大気になり、液体の水が存在できそうにありません。そのため、固体表面をもった小型の岩石惑星(地球型惑星)で薄い大気をもったものでなければなりません。
 太陽系では、地球だけが、その条件を満たしています。過去には、火星も条件を満たしていて海が存在していたのですが、大気が少なくなり、現在では液体の海は消えています。
 太陽系以外で、多数の惑星の発見されきました。系外惑星と呼ばれています。当初は、大きなガス惑星だけが発見されてきましたが、最近では地球型惑星も発見されてきました。その中には、ハビタブルゾーンになりそうな地球型惑星を見つかってきました。しかし、数は多くありません。これでは、生命がいたとしても、見つけることが困難になります。
 生命存在領域が、もっと多くならないでしょうか。そんな可能性として、ターミネーター・ゾーン(Terminator zone 明暗境界線と訳されています)が考えられるようになってきました。次回としましょう。

・研究のルーティン・
サバティカルに来て10日ほど過ぎました。
住む環境が変わったので、
一日の過ごし方としてのルーティンがまだできません。
しかし、心身ともに健全な生活ができつつあります。
また仕事のための環境も、
施設や執務室は整えてもらったのですが
インターネットやパソコンやその周辺設備も
整えるに時間がかかりました。
ハードディスクの電源を間違って持ってきたり、
SDカードリーダが足りなかったり、
パソコンが変わったので、
アプリケーションを入れ直したりと
いろいろセットアップに時間がかかりました。
しかし、少しずつルーティンも整ってきました。

・生活のルーティン・
北海道にいるときよりは通勤距離が短く
30分ほどで付きます。
遅めに出ても、6時過ぎには研究をはじめています。
基本的に土・日曜日も、毎日執務室で仕事をしています。
近隣への観光やイベント、大きな街に買い物など
家内と週に2、3度、出かけるようにしています。
それは平日の昼前後からになります。
曜日ごとに、ルーティンを組んでいきたいのですが、
まだできていません。
家内も新しい環境での生活なので、
いろいろと戸惑っていますが
少しずつ慣れていくしかありません。
半年間、英気を養いながら
研究を深めていこうと考えています。

2023年1月26日木曜日

6_198 ボイジャーは生きている 3:得がたい情報

 遠くにいるボイジャーは、現在も観測装置は稼働中で、データを送り続けています。昨年、ボイジャー1号から、変なデータが送信されてきました。改修するエンジニアたちがいました。


 ボイジャーは45年も前の探査機なので、装置はすべてその当時のものです。電源も観測装置も老朽化しているのですが、観測は継続されています。コンピュータはすでに作動しなくなっているのですが、データは送られてきていました。ところが、2022年5月に変なデータが送信されてきました。
 この不具合にNASAのエンジニアが対処をしていました。不具合は、姿勢制御システムが不正確な情報を送っていることがわかってきました。
 45年も前の古い探査機なので、対処は困難を極めました。運用のためのドキュメント類は受け継がれていました。しかし、長い年月とともに、エンジニアも入れ替わり、重要なドキュメント類も失われ、保存場所もわからなくなっていたそうです。
 当時は、ドキュメント類をライブラリにして保存することもされてませんでした。もちろん現在では、きっちりと保存する体制は捉えてられています。エンジニアの自宅のガレージに保存さているものもあったそうです。当時の担当者の名前からたどり着かなければならず、見つけるのが大変だったとのことです。しかし、なんとかドキュメントは発見されました。なんとか関係するドキュメントを掘り出して、対処法を見つけ出しました。その結果、8月30日には解決したと発表されました。
 故障していたコンピュータを経由してデータを送ってきたことが、異常なデータ送信の原因だと判明しました。しかし、その異常が発生した理由は解明されていません。探査機の老朽化と宇宙空間の状況によって引き起こされたのではないかとエンジニアたちは考えていますが、確かなところは不明です。
 1970年代の古い装置ですが、探査データは、デジタルで処理され送信さてきています。観測装置の補修もデジタル信号を送ることで対処されることになります。しかし、まずは担当者を探すること、関連するドキュメントを見つけること、分厚いドキュメントから対処法を探すという、限りなくアナログ的な対処でした。
 これまで人類は、太陽系内からしか調べることができませんでした。今でもほとんどの探査はそうです。しかし、ボイジャーは、太陽系の中から外への移り変わりを、継続的な情報として送信してくれました。今でも太陽系外からの情報を送り続けています。これは長い年月をかけて、長い旅をしなければえられない情報です。
 今後も探査活動を続けることを願っています。

・真冬日・
北海道はここしばらく、真冬日が続いています。
晴れば、室内は暖かくはなるのですが、
陰ったり、朝夕になると、急激に冷え込んできます。
自宅のストーブも通常の燃焼では寒いので
朝夕は、火力を高くしています。
真冬日は、体がこわばるのか
肩もこりそうになります。

・記憶、記録すること・
故障した実物を見ることができれば、
対処や修理ができるかもしれません。
遠くで見えないところにある探査機です。
しかも、情報のやり取りも
45年前の方法でしなければなりません。
対処もドキュメントがあったからできました。
ドキュメントの存在を記憶していた
人の存在も重要でした。
記憶、記録に残すことは大切ですね。

2023年1月19日木曜日

6_197 ボイジャーは生きている 2:太陽系外

 ボイジャーは慣性飛行を続けています。観測装置も、現在も運用中です。ボイジャーは、太陽系の外にいるのですが、太陽系とはどこまででしょうか。ボイジャーの位置を知ることで、太陽系の構造を知ることもできます。


 ボイジャー1号も2号も、現在、太陽から遠く離れて飛行しています。2022年8月現在、2号は地球から195.2億kmのところに、1号の方が遠くに達していて238億kmのところにいます。1号の位置は、人類が送り出した探査機(人工物)でもっとも遠くにいることになります。
 1号も2号も、太陽系を脱出しています。太陽系を脱出しているといったのですが、そもそも太陽系の範囲とは、どこまでをいうのでしょうか。
 私たちがよく知っている、もっとも遠くの天体は冥王星でしょう。冥王星は準惑星に区分されています。その外にはも天体が見つかっています。その領域は、冥王星も含めて、「カイパーベルト」と呼ばれる領域になり、天体が多数あると考えられています。この領域を飛行しています。
 太陽から放出されるプラズマやイオンなどの粒子を「太陽風」と呼びます。太陽風が届く範囲を「ヘリオスフェア」といいますが、それが太陽系の範囲となります。銀河から飛んでくる粒子を「銀河風」といいます。太陽風と銀河風がぶつかるところが遷移帯となって境界になります。
 ボイジャー1号は、2004年12月に、太陽から140億kmのところでヘリオスフェアを抜け出しました。ボイジャー2号は、2018年11月5日に、約178億kmで飛び出しました。ボイジャーはいずれも、カイパーベルトの遷移帯を飛行しています。
 カイパーベルトの外にも天体があると考えられています。その領域は、「オールトの雲」と呼ばれ、小天体が多数ある領域だと考えられています。オールトの雲の小天体は、水、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンなどの氷からなる彗星のようなものです。太陽系に彗星となって飛んでくる「彗星の巣」となっているのではないかとも考えらえています。
 ボイジャーからは、磁場センサーやエネルギー粒子観測装置、プラズマ観測装置などで、現在も観測を続けています。そのデータが送られてきています。そんなボイジャー2号から2022年5月、不可解なデータを送っていました。その内容は次回としましょう。

・緊急帰省・
先週の9日月曜日に親族に関する連絡があり、
急遽、帰省することになりました。
京都に1週間滞在しました。
今週の月曜日から大学に復帰しました。
校務がいろいろたまっていたので、
ドタバタしています。
今週で講義が終わるので、
その対処も必要になっています。

・寒波来襲・
先週は関西は3月や4月の暖かさでした。
北海道も暖かく、雪が一気に融けていました。
その直後に寒波がきて、融けたあとが、
ツルツルのアイスバーンになっていました。
さらに大雪でアイスバーンの上に
ふかふかの雪が積もり滑りやすくなっています。
北海道は今週は寒波になっています。

2023年1月12日木曜日

 6_196 ボイジャーは生きている 1:遠く離れても

 45年以上に渡って稼働している探査機があります。その探査機は1977年に打ち上げられた、ボイジャー1号と2号です。現在も、太陽系から遠く離れたところから信号を送ってきています。


 ボイジャーという探査機を知っているでしょうか。科学や宇宙に惹かれるきっかけのひとつにもなった人もいることでしょう。昔の科学少年には、馴染み深い探査機でしょう。かなり昔に打ち上げられた探査機なので、若い人は知らないかと思います。
 ボイジャーには1号と2号があります。1号は1977年9月5日に、2号は同年8月20日に打ち上げられました。いずれも外惑星の探査をしました。続けて打ち上げられたのは、木星、土星、天王星、海王星が絶妙の位置関係になっていたためです。スイングバイという省エネの飛行方法を用いることで、外惑星まで到達できる条件を満たしていました。うまくコースをとることで、スイングバイですべての惑星の探査ができる位置になっていました。このような条件は、今後、175年後までこないという、絶好のチャンスでした。
 1号では、木星と土星を、2号では木星、土星、天王星、海王星を観測しました。いずれも成功して、惑星やその衛星から、次々と新発見をしていきました。なにより、人類にはじめて鮮明な外惑星の姿を見せてくれました。それが科学に興味をもった子どもたちには、大きな夢を与えました。
 ボイジャーは、いいことだけでなく、いろいろな考えさせられることがありました。
 そのひとつは、エネルルギー源として原子力電池を用いていたことでした。当時は、外惑星の探査では、太陽から遠くなり、ソーラ発電機の効率もよくなかったので、ソーラ発電は利用できませんでした。そのため、原子力電池が使用されていました。
 原子力電池とは、半減期の長い放射性核種(プルトニウム238やポロニウム210、ストロンチウム90など)が崩壊するときの熱エネルギーを、熱電変換素子で発電するものです。もし探査機が事故で地球に落下すると、放射性物質での汚染が起こる危険性があります。実際にそのような事故が起こり、大気中にプルトニウムが放出、拡散し、検出されたこともありました。現在では、ソーラ発電の効率が良くなったので、地球近傍では原子力発電の探査機は使われなくなりました。
 もうひとつは、異星人に向けて人類からのメッセージを記録したレコードが付けられたことです。このレコードは、金メッキされていたためゴールドレコードと呼ばれています。レコードには、115枚の地球の画像と、自然の音として「地球の音」と、90分間の音楽、55の言語でのあいさつが記録されていました。レコード面には、再生方法とともに、地球の位置が特徴的な14個のパルサーから示されていました。人類の情報が、もし悪意をもった異星人に知られたら、将来に不安や不利益を生じないかという問題です。
 いろいろな課題がありますが、現在もボイジャー1号も2号も飛行を続けています。それぞれからの信号は地球に届いています。遠くにいるボイジャーの最近の話題を、次回から紹介していきます。

・航海者・
ボイジャー voyager とは、航海者という意味です。
ボイジャーは名前の通り宇宙空間を航海しています。
1号と2号は、今ではかなり遠くにいますが、
お互いは、離れた位置にいます。
それは外惑星の探査のために
たどったコースが少し違うためです。
少しの違いが、時間が経過することで
大きな違いとなっています。
地球から遠く離れたところを
今も生きて(通信可能)航海しています。

・大学入学共通テスト・
今週末は大学入学共通テストが
2日間にわたって実施されます。
毎年、大学の全教職員が試験業務を
分担して担当することになります。
ミスがあると、受験生に大きな不利益となるので
毎年講習を受けて臨むことになります。
北海道は、雪で公共の交通機関で遅延があると
それに応じて試験時間を変更することになります。
そのような事態が起こらないことを願っています。

2023年1月5日木曜日

6_195 熊楠の不思議

 今回のエッセイは、今年考えるべきことの整理ともなります。今後の思索のための方向性を示そうと考えました。少々、複雑な内容になりますが、お付き合いいただければと思います。


 今年の4月から半年間、校務から離れてサバティカル(研究休暇)で、愛媛県西予市城川町に滞在します。その時の研究テーマは2年前の申請時に決めています。地質学を中心にして、哲学的思索、科学教育も含むものになっています。なによりライフワークの締めくくりをするために、頭の整理をしたいと考えています。そのために、静かでじっくりと思索に取り組める環境が重要になると考えています。その場として、今回滞在する城川がベストだと考えています。
 どのようなことを考えるかというと、可知と不可知の境界についてです。自然科学は、研究者の好奇心に駆動されて、未知の世界を探ることです。では、科学はどこまで未知の世界を解明できるのでしょうか。そもそも未知の世界とはどのようなものでしょうか。科学はそれを示すことはできるのでしょうか。
 未知のすべてを解明するのは困難でしょう。なぜなら、解明されたことがひとつあったとしても、それに関連して次々とわからないことが出てきます。可知の外には、広い不可知の世界が広がっていると考えられます。可知の不可知の境界を、どのように捉えるかということを、考えていきたいと思います。
 そのような探究には、南方熊楠の思索が参考になるのではないかと、以前から考えています。熊楠の思索は、密教の体系を西洋的な論理性で説明しています。宗教的な部分はあるので、その考え方は、非常に参考になり、重要だと思っています。現在の理解の範囲で述べていきましょう。
 この世は、過去から現生に現れる因果によって成り立っている世界(胎蔵界)があります。因(原因)と果(結果)の関わりには縁と起があり、それは非常の広大です。一方、不思議を司る真理の世界(金剛界)があり、こちらは可知の部分があります。人が解明可能なのは金剛界となります。胎蔵界と金剛界がこの世を構成しています。
 金剛界の真理を探究して悟った賢者(仏)は、その真理を言語化していきます(真言と呼ぶ)。しかし、悟りも人によって異なった言語化がなされていきます(金剛の相承)、そのため、違いは人や時代によって変化していきます。金剛の世界を理解するにしても、一筋縄ではいかないようです。しかし、すべての科学(自然も人文、社会科学も)は、金剛界の解明を目指すことになります。
 解明すべき不思議には、心(不思議)、物(不思議)、事(不思議)、理(不思議)、そして大不思議があります。心(精神界)と物(自然界)の関わりを、熊楠は事(理事とも呼んでいます)といいました。心不思議は心理学が、物不思議は自然科学で解明可能ですが、その領域は狭いものです。
 金剛界の理(不思議)は、絡み合った糸のように複雑で、いくつかの理が交わった萃点(すいてん)に、解明の緒(いとくち)があります。しかし、不思議には、理と萃点をもった可知の理の外にもあり、それが不可知の大不思議となります。可知の理と不可知の理の構造(不思議で分類)を、物心事(すべては理不思議となる)で見ることには限界があると、熊楠はいいます。
 その不可知やこの世の構造をどう捉えるかを、熊楠は独自の図を使って説明しています。事が力によって名として伝わり、それを心に映して生じるものが印となると、熊楠は金剛を深く解析していきます。
 少々長くなりましたが、このような熊楠の思索について、サバティカルの時に読み込んでいこうと考えています。文献はあるので、あとは読んで、自分なりに解釈していく作業となります。

・大雪・
先日、北海道のわが町周辺は
大雪にみまわれました。
明け方までは、通常の積雪ですが、
朝から日中で吹雪いてきて、
30cm以上も積もったようです。
でも、今まで比較的少ない積雪だったので
一気に取り返すように降りました。
白い正月となりました。

・腰痛・
正月の2日、風呂に入っている時
突然、腰痛がでました。
最初の部分的な痛みでしたが、
3日には、一日中、痛みました。
4日には大学でてきて、動き出しました。
少しでも動いていると
痛みは残っていますが、和らぎます。
これが私の腰痛への対処です。

2022年11月17日木曜日

6_194 多様な系外惑星 5:特異な条件での海

 近くの系外惑星でハビタブルゾーンがありそうなことが、シミュレーションでわかりました。特異な条件での特別な環境で出現しそうです。しかし、近いところにあることが重要です。


 2021年12月5日、日本の点もが学会の雑誌に
TOI-2285b: A 1.7 Earth-radius planet near the habitable zone around a nearby M dwarf
(TOI-2285b:近隣のM矮星の周りのハビタブルゾーン付近で1.7地球半径の惑星)
という論文が報告されました。東京大学の福井さんらの共同研究となっています。
 このTOI-2285bと呼ばれる系外惑星は、太陽系から約138光年とかなり近いところにあります。半径は地球の1.74±0.08倍で、地球型惑星としてはぎりぎりの許容範囲内にあります。質量は19.5倍ほどで、海王星に近いサイズになります。公転周期も27日ほどになり、とても生命が誕生し住めそうもない惑星です。恒星からの距離は、太陽と地球の距離の1/7ほどしかなく、その位置はハビタブルゾーンの外になります。
 ところが、恒星の温度が3200℃と低いことから、恒星からの日射量が少なく、地球の1.54±0.14倍程度におさまります。恒星からのエネルギー照射は多くはありませんが、もし岩石惑星で薄い大気しかなければ、表層の海はすぐに蒸発してしまいします。
 なかなか厳しい条件の惑星です。ところが、福井さんらはシミュレーションによって、海王星のように氷とガスの惑星であれば、海が存在できる可能性を示しました。もし、核の外側に氷の層が存在し水素の大気があれば、氷の一部が溶けて、大気下の氷層の表面には、液体の海が存在できる可能性があることを示しました。
 かなり特異な条件での海の可能性なので、生命探査としては有望とはいえません。もっと近いハビタブルゾーンにも有望な天体も見つかっています。近ければ、性能のいい望遠鏡があれば、大気組成を調べることができます。しかし、生命探査には、ある程度の数の天体を調べなければなりません。多数の候補の系外惑星が必要です。
 液体も水が存在する条件や可能性を知っておくことが重要になるでしょう。比較的近いところで系外惑星の候補を、多数、ストックすれば、そんな中から、確実な海の存在が検証されるかもしれませんね。

・諦めない人たち・
否定的条件が出てくると
それ以上の探究をしなくなります。
否定的条件とは、
先入観に捕らわれているから
そう見えるのでしょう。
それでも諦めずに可能性を追求していくと
少しの僥倖に恵まれることもあります。
そんな僥倖は、先入観を排除した人にしか訪れません。
僥倖を逃さないのは、諦めなかった人たちでしょう。

・嵐のあと・
週末は北海道は激しい嵐になりました。
道内各地で、被害を受けたところがありました。
幸いにもわが町は、
風だけで雨はひどくありませんでした。
週末の夜の風だけですみました。
寒気が入ってきたので寒さは増しました。