2013年7月25日木曜日

5_113 炭素14年代 2:炭素の役割

 生物の体は、炭素が重要な成分となっています。その炭素の由来をたどると、植物にいきつき、更に遡ると大気中の二酸化炭素にたどり着きます。そこで放射性核種である炭素14が、重要な意味をもってきます。

 年代測定には、大きく分けて2つの方法がありました。その一つは、ある放射性核種が常に一定量、形成され、それが時計の役割を果たす場合でした。例として炭素14があることを紹介しました。この方法の利点は、ひとつの試料から年代を決めることができます。年代測定をするために、いくつかの条件を満たさなければなりませんが。
 今回は、炭素14について見ていきます。
 炭素は、原子番号6(陽子の数が6個)の元素で、質量数の違い、つまり中性子の数の違いによって、炭素12、炭素13、炭素14の3つの同位体があります。そのうち大半は炭素12(炭素の全核種の98.9%)が占め、炭素13は(1.1%)を占めます。
 存在量の数値を見るとわかりますが、炭素12と13を合わせると100%になってしまいます。ですから、炭素14は非常に少ないとわかります。その比率(存在度といいます)は、0.00000000012%(0.0000012ppm=1.2×10^-10)と非常に少ないものとなります。
 炭素同位体のうち、炭素12と炭素13は安定している核種で、炭素14だけが放射性を持っています。炭素14の半減期は約5730年ですので、数万年前までの年代測定に利用されています。
 炭素14による年代測定は、つねに一定の炭素14比があり、その比からスタートすることが原理となります。ではそもそも、炭素14の比がなぜ一定になっているのでしょうか。
 炭素は、生物の体を構成する主要な元素です。炭素は、動物なら外部から食料として取り入れ、植物なら大気の二酸化炭素を用いて光合成をして体内成分とします。分解者である微生物も、他の生物の体を利用しています。
 生物の炭素14の比率は、生きている生物では一定であることがわかっています。炭素14が放射性をもっているにもかかわらず、一定になっています。これは、不思議なことです。
 その原因は解明されています。
 まず、放射性の炭素14の半減期が長いことです。生物内の炭素のやり取りは数ヶ月とか1年、長くても100年以下の期間です。その期間と比べると、5730年という半減期は充分長いものだといえます。
 炭素の循環にも原因があります。動物の食料が草食動物だとします。その草食動物は植物を食べることで体を形作ります。一方、微生物の分解物である生物のも、炭素の由来をただせば、植物にたどり着きます。ですから、植物が常に炭素14比を一定にする役割を担っているのです。植物の炭素14は、利用している大気中の二酸化炭素の比率になります。つまり、生物の炭素14比が一定であるのは、大気中の炭素14比が一定だからです。
 炭素14は、大気中で常に形成されています。大気の上空(対流圏上部から成層圏)で宇宙線に由来する中性子が、窒素(14N)にぶつかり、炭素14と水素ができます。その量はほぼ一定して、年間7.5kgほどだとされています。できた炭素14は、すぐに酸素と結合して二酸化炭素になります。ですから、炭素14の比率としてみると、ほぼ一定の値とみなせるようになっています。

・爽快・
本州は熱い日が続いているようですが、
北海道は快適な日々が続いています。
乾燥した快晴の日は、特に最高です。
日が当たるところは暑いですが、
風が吹いたり、日陰に入ると涼しくなり、
ホット一息つけます。
夜は涼しいので、
夕方になると窓を閉めなけれならない日が
ほとんどです。
これでこそ北海道です。
この素晴らしい夏があるから
冬の寒さ、雪に耐え忍べるのです。

・校務・
大学の講義もあと少しです。
来週は定期試験期間になります。
今年は、校務の担当が代わったので、
毎週のように出張、休日の校務、
夕方からの校務などが次々とあるので、
肉体的にもですが精神的にも疲れ、
息を抜く余裕ができません。
夏休みは少し楽になるのですが、
お盆明けには、集中講義、出張校務が
次々と入ってきます。
その隙間をぬって野外調査もする必要があります。
まあ、愚痴をいっても仕事が減るわけでありません。
集中して最短時間で校務をおこない、
自分のすべきことにさける時間を
増やすしかないのでしょう。

2013年7月18日木曜日

5_112 炭素14年代 1:年代測定

 年代測定の結果は、「○○年前」と表記されます。放射性年代の原理によって、言外に「現在から」という意味が含まれています。「現在」として「2013年」か「1950年」かは、何万年前、何億年前の年代であれば、誤差ですみますが、新しい年代だと、「現在」をいつにするのかによって問題がでてくる可能性があります。そんな年代測定として炭素14の年代があります。

 ある物がいつできたかを知りたい時、年代測定をします。いずれの年代測定も、特別な装置を用いますので、だれでもできるものではありませんが、年代という情報は多くの人が接っするようになってきました。
 年代測定に、いくつかの方法がありますが、放射性核種による年代測定がよく用いられ、放射年代や絶対年代とも呼ばれています。
 放射性核種は、ある一定のスピードで崩壊していきます。崩壊のスピードは、半減期や崩壊定数として表されますが、地球の自然状態(核融合や中性子の照射などが起こらないようなところ)では、定まった値を持っています。いったんできた放射性核種は、一定のスピードで壊変するという原理になっているということです。この原理を年代測定として利用します。
 もともとの放射性核種の量(比や個数など)がわかれば、減った現在の量を測定することで、経過した時間を見積もることができます。ただし、問題はもともとの放射性核種の量です。どう見積もるかが問題となります。
 ひとつは、ある放射性核種が、常に一定量、形成される場合です。その例として、炭素14があります。ひとつの試料から一つの年代を決めることができます。
 もうひとつは、もともとの量がはっきりとわからない場合です。これを解決するために、同時にできた性質の違う物をいくつか測定することで推定していくというものです。例えば一つのマグマ(均質な同位体組成をもっている)から、いく種類かの鉱物や組成の違う火成岩が固まったものを利用します。各鉱物や各岩石には、放射性核種の濃度が違った状態で固まります。そこから壊変が起こると、できた核種の量が一定の比率を持ってきます。グラフに書くと、ある傾きもった直線に現在の値が並んでいきます。マグマの時は、水平の直線であったものが、経過した時間に比例した傾きの直線になります。この傾きから年代を見積もることができます。
 さらに、年代を得るには、いくつかの測定条件を満たす必要があります。基本的なことですが、目的の核種の量、適切な半減期の核種の選択、分析能力です。
 年代測定のために用いる放射性核種が、測定できるほどの量が含まれていなければなりません。ただし、分析装置の精度は上がってきているので、少量でも測定は可能になっています。
 ものの形成年代と核種の崩壊のスピードがあっていることも重要になります。早い半減期の核種は新しい年代にできたものに、遅い半減期の核種は古い年代のものに用います。
 また、求めたい年代と分析の精度も問題になります。量が少ないものの測定は精度も悪くなります。分析能力にあった試料や核種、量などが選定できているかどうかという条件です。
 以上のような条件を満たした時、得たい年代を求めることができます。今回取り上げるのは、炭素の放射性核種で、質量数14の放射性核種です。14C(14は上付きの小文字)と表記されます。次回は、それについて、詳しく見ていきます。

・ホッと一息・
昼間は暑いですが、
夕方からは休に涼しくなりホッと一息できます。
過ごしやすい北海道の夏はありがたいです。
北海道の人は、暑さには弱いのですが、
乾燥していると、日陰が涼しく、
風が吹けばホッと一息できます。
大学もあと少しの講義を残すのみとなりました。
終われば、ホッと一息つけます。

・ジレンマ・
4月から校務が忙しくなり、
論文に時間をかける余裕が減ってきました。
年2本以上の論文を自分自身のノルマとしています。
今週明けが締め切りの論文があったのですが、
1週間遅れることになりました。
担当者と査読者にも了承を得ましたが、
私は性分として締め切りを守らないのは、嫌いなのですが、
自分が実行でないときは非常に歯がゆい思いをします。
研究をし、成果を問うことは
研究者としてのアイデンティティでもあるはずです。
それが滞るのはつらいです。
でも、研究者として存在も組織がありきの上に成立っているので、
ジレンマでもあります。
ただ、両立できるように頑張るしかなのでしょう。

2013年7月11日木曜日

6_113 バイオミメティックス 3:新素材

 バイオミメティックス「生物模倣」で生まれつつある技術は、近年いろいろあります。その例として、人工光合成、リブレット構造、構造色、スパチュラ造色を紹介していきます。

 人は、生物や生物がつくったものを使っていました。生物を食べ、生物を着て、生物を利用して住んでいました。自然にやさしいのですが、量産化をしようとすれば、自然への負荷をかけることにもなります。ただし、長期間量産化している状態が維持されると、酪農地域や田園風景、里山などと、新たな自然との調和を生むことになります。
 もっと効率的に利用したと考えるる、自然への負荷がさらに大きくなります。製造工程や製造効率を考えると、生物が行なっている仕組みを必要なものだけ人工的につくっていくというバイオミメティックスが有効になります。
 1970年代には、日本でも人工光合成に力が入れられていました。人工葉緑体とも呼ばれています。現在でも二酸化炭素の消費やエネルギー源として、注目されています。二酸化炭素を利用して、エネルギー源として利用できる酸素と水素が生まれます。水素を目的とするだけでなく、光合成生成物として有用な有機物や燃料になるメタノールを生産も可能になるのではないかと期待されています。
 2008 年の北京オリンピックでは水泳の競技用水着で、SPEEDO社の製品を着れる、着れないで、日本でも大きな話題になりました。そのときの水着は、サメの肌の構造を利用したものでした。サメの肌の拡大していくと、数10μmから数100μmのリブレットと呼ばれる溝状の構造があります。そのリブレット構造は、流体力学的に抵抗摩擦が非常に少ないことがわかりました。それを水着に応用すると、水の抵抗が減り、スピードが上がることになったのです。このバイオミメティックスの技術は、汚れ防止のコーティングや船底の塗装などにも利用されています。
 チョウやタマムシは、鮮やかの色を持っています。その色には、通常の色とは違った仕組みがありました。チョウの鱗粉を拡大してみると、2~3μmほどの構造が繰り返されていることがわかりました。この繰り返し構造は、ある光の波長と同じ間隔であり、その波長の光だけを反射して輝くことになります。つまり色を使うことなく、色を出すことができます。このような色を構造色と呼んでいます。オパールやコロイド結晶などでも同じような発色が起こっています。発色繊維として日本の企業が商品化しています。
 ヤモリは、つるつるしたガラス窓でもすべることなく登っていきます。さらに、吸着力があるのに、移動の時はすぐ剥がれることもできます。非常に不思議な特性をもっています。ヤモリの足の裏には、吸着力があるのですが、粘着質になっているわけでなく、小さな繊維があるだけです。直径5μm、長さ100μmの毛があり、その先端には枝毛が多数あります。その枝毛が、皿状(スパチュラ、spatula)の変わった構造をもっています。その皿は、直径200nmほど小さいものです。この皿状構造が、「ファンデルワールス力」という力を生み出して、くっついていることがわかりました。
 この構造をカーボンナノチューブを集めて再現されました。するとこれは強い接着力をもったものとなり、斜めにから力を加えると簡単に剥がすことができます。5cm四方のテープなら115kgの重さをくっつけること非常に強力は吸着力があります。現在、アメリカの研究者たちや日本の企業が素材を開発し、商品化を目指しています。この素材は、粘着部があるのではなく、微細構造による接着なので、剥がしても構造が壊れない限り、何度も利用できます。
 他にも、細くて丈夫なクモの糸、超撥水性をもっている蓮の葉、光を反射しないアリの眼、砂を移動するトカゲ(サンドフィッシュ)の摩擦が少ないウロコなど、いろいろな素材が開発や商品化を目指されています。いずれも、詳しくみていくと面白いところがあるのですが、今回はここまでにしておきます。
 身近なところに、人類のまだ知らないお手本が一杯ありました。そのお手本は、見て知るための観察装置、そして知ったことを再現するための技術力もなければなりません。21世紀は、そんなお膳立てが整った時代なのかもしれません。私たちは、やっと自然から学び、そして活かすことができるようになったのです。

・放送にて・
先日、NHKでバイオミメティックスについての
番組がありました。
番組では、今回、紹介しようと思っていた
素材があったので、少々戸惑いました。
番組では詳しくでていなものを
今回は紹介することにしました。
今、注目されているものは、
いろいろなメディアで取り上げられるのですね。

・北海道も夏・
北海道は数日暑い日が続きました。
暑さには弱いのが北海道人です。
ぐったりとして、仕事に集中出来ません。
論文が、はかどらなくて困りました。
ただ、夜になると涼しくなり、睡眠は取れます。
やっと雨が降って涼しくなり、一息つけました。
いよいよ北海道も夏です。

2013年7月4日木曜日

6_112 バイオミメティックス 2:先駆者

 バイオミメティックス「生物模倣」は、新しい考え方ですが、先駆者がいました。その成果は、今も身の回りに使われているマジックテープです。その後、いろいろな分野で研究が進められていますが、課題もあるようです。

 バイオミメティックスは「生物模倣」と訳されて、生物がもっている仕組みを模倣して、新しい技術や素材を開発していこうとするものです。新しい分野で、現在、盛んに研究されているものです。
 このような新しい研究分野ですが、50年以上前にバイオミメティックスを活用した先駆者がいました。
 先駆者は、機械工場で働いていたスイス人のジョルジュ・デ・メストラル(George de Mestral)でした。彼は、1941年にアルプスに狩猟旅行をしていました。山から降りてくると、自分のズボンや犬には、たくさんの野生のゴボウの種子(ひっつき虫とも呼ばれる)がついていました。種がくっつくことに興味をもったメストラルは、顕微鏡で詳しく調べていきました。種には、多数のフックがあることがわかりました。種のフックは、衣類のようなループをもったものや犬の毛には、非常にうまく付くことがわかりました。
 この仕組を利用した製品を、苦労の末に製造できるようにしました。特殊なナイロン製の糸を使って、一方にフックがついたもの、他方にループがついた布をつくりました。両者の布は、接着剤なしでくっつたいり、剥がしたりできる画期的なものでした。1951年に特許出願をし、1955年に認定されました。
 日本ではマジックテープという商品名として知られています。英語ではベルクロ(Velcro)と呼ばれていますが、これも商品名です。
 今ではマジックテープも、いろいろ進化しているようですが、孤立した技術でもあります。マジックテープが、残念ながら技術のイノベーションになることにはありませんでした。メストラルの仕事は、先駆的でしたが、このような発想をまねる研究は、残念ながらその後、続きませんでした。
 近年になって、やっとバイオミメティックスが注目されてきました。
 研究がなされるようになってきたのは、1970年代からで、まずは化学の分野でした。生物の仕組みを分子レベルと模倣しようとする、Biomimetic Chemistryと呼ばれるものでした。X線を用いる装置が発展して、生物の酵素や生体膜、分子の認識などの基礎研究が進みました。
 1990年代から2000年代にかけては、電子顕微鏡の進歩によって、μmからnm(ナノメートル)にかけての構造を観察できるようになりました。生物の構造は、実は階層的な仕組みがあり、それを解明し、ナノテクノロジーとして発展させようと考えられています。素材や材料の分野で、バイオミメティックスの研究が生まれて来ました。
 1970年代には、工学的な研究も並行して進んでいました。昆虫の飛行の仕組み、魚の泳ぎ、コウモリの位置探査のメカニズムなどの解明をしていくことで、流体力学、音響工学、センサー技術などに新しい知識を加えました。これらの成果は、多くの産業にすでに適用されてきました。
 現在、ナノテクノロジーのバイオミメティックスと、工学的バイオミメティックスが、どう融合させるかが課題となっています。バイオミメティックスは、まだまだ基礎研究ですので、着実に成果を積み重ねていくことが重要ではないでしょう。
 次回は、バイオミメティックスのいくつかの事例を紹介しましょう。

・マジックテープ・
マジックテープは商標名です。
製品名としては、
「面ファスナー」や「タッチファスナー」というそうです。
あちこちでみかける製品となっています。
マジックテープとしていろいろな改造や工夫はなされています。
しかし、マジックテープから、大きな技術の
発展や展開がなされることはありませんでした。
これをエッセイでは「孤立した技術」と呼びました。
本来、技術は、仕組みであれば、
いろいろ転用されていくはずです。
マジックテープは、くっつくことが目的となっています。
異質のものをくっつけるのには、接着剤があります。
それとマジックテープは方向性が違います。
バイオミメティックスでも
イノベーションとなるような発想が
みつかれば素晴らしいのですが。

・締め切り・
北海道の夏めいてきたので、
学生たちも夏休みを意識する頃でしょうか。
大学も前期の講義が終盤となりました。
やっと先が見えてきた感があります。
私は、ただただ多忙な日々を過ごしています。
今日はこれ、明日はあれを、
と日々の仕事をこなすことに
四苦八苦しています。
本来であれば、じっくり頭を使って
したいことがあるのですが、
なかなかその時間と余裕がありません。
でも、締め切りだけは着実に迫ってくるのですが。