2017年10月26日木曜日

2_153 最古の生命化石 1:痕跡探し

 今回からは、このエッセイで何度も取り上げてきた「最古の生命化石」の話題です。新しい報告が出され、ニュースにも取り上げられました。最古の生命化石の発見は、難しい素材での取り組みとなりました。

 地球の歴史は45億年前からスタートします。しかし、できたばかりの45億年前の岩石が、地球に残されているわけではないのですが、隕石の年代や他の傍証から、その頃だと考えられています。ですから、「地球最古」に関する研究は、どの時代まで遡れるのかという探求は継続されています。その一環として最古の生命の探査も続いています。
 「最古の生命化石」は、興味がそそられます。もし発見されれば、大きなニュースとしても取り上げられることになります。研究者は、いろいろな意味での「最古」の化石を発見しては、報告してきました。このエッセイでも、「最古の化石」や「41億年前の生命」、「最古の生命」、「最古の有性生殖」、「古い化石」などとして、何度も取り上げてきました。今回も「最古の生命化石」について、新しい報告が出たので、紹介しましょう。
 紹介する前に、まずは最古の化石について、基礎知識を確認しておきましょう。
 化石は一般に地層から見つかります。マグマが固まった火成岩からは見つかりません。なぜなら、マグマに住む生物は知られていません。ですから化石探しは堆積岩がターゲットとなります。地層は、陸地の池や川など、水のないところでも堆積することがありしますが、多くは海底にたまったものです。
 チャートや石灰岩などから海洋の特別な環境でできた化石をのぞくと、大型生物の化石の多くは、海底でも陸からの砕屑物とともに流れてくるので、陸の近くの海底でできた地層から見つかります。でも最古の化石はそんなところからは見つかりそうにありません。
 古生代に生物は海から陸に上がってきたことは、化石の証拠からわかっています。それ以前(先カンブリア紀)の時代の生物は、海に棲んでいたことになります。ですから、古い化石も、海で堆積した堆積岩から産出することになります。
 生物は、時代が遡れば単純で小さな生物、単細胞になるはずです。化石も、殻や骨などは持っていなかったので、化石には残りにくくなります。原始的な化石ほど、見つけにくくなるはずです。ですから、かすかな痕跡を探すことになるはずです。ただし、特殊な環境で生物が群れて暮らしているような状態であったすれば、そのような環境でできた地層を探せば見つかる可能性がでてきます。また、「最古」の生物は、「最初」の生物可能性があります。ですから、生命誕生の場とされるところを探すのがいいはずです。ただし、そのような地層が残されていたらの話ですが。
 「最古」の化石の探索は、古い地層、できれば「最も古い地層」の出ているところが対象になります。化石のかすかな痕跡を調べるのには、熱や圧力などの影響(変成作用)を受けていない地層が望ましいものです。変成作用を受けると、化石や生物の痕跡がほとんど消えてしまうからです。古くて変成作用を受けていない地層がでているのは、グリーンランドのイスア周辺です。ですから、最古の化石の探査や報告は、グリーンランドが舞台になることが多くなります。
 さて、今回、報告された最古の化石は、グリーンランドではなく、カナダで39億5000万年前の地層で、それも変成作用を受けた岩石から見つかっています。その詳細は次回以降にしましょう。

・選択と労力・
古い化石は、石を割ったとき
見えるものではありません。
なぜなら、化石の痕跡は非常にささやかで、
電子顕微鏡や化学分析装置をもちいなければ
認識することできないからです。
でも、地質学者は広い大地から、
化石がでてきそうな岩石を見つけ、
それらを顕微鏡で見られるように薄片にして観察し、
その中から生物の痕跡が見つかりそうな試料を選んで
分析していきます。
どこかで少しでも選択を誤ったり
可能性を見逃したりしたら
生物の痕跡を見逃すことになります。
慎重な選定を繰り返さるこによって、
化石の痕跡へと至ります。
膨大な労力を払いながら研究が進められていくのです。

・冬到来・
週のはじめは、台風の影響で大荒れの天気となりました。
北海道も風とともに、寒波も来て初雪が降りました。
わが町では激しい吹雪となりました。
ミゾレやアラレのような湿った雪でしたが、
場所によっては、白く積もっていました。
激しい冬の始まりとなりました。
でも、翌日にはほとんど溶けました。
いよいよ冬が到来しました。

2017年10月19日木曜日

4_145 残念 4:花窟神社

 残念シリーズの4回目です。今回は、雨宿りした神社がなかなか由緒正しいところで、興味深い体験をしました。2度も訪れたのですが、天候がよくなく少々残念でした。

 三重県熊野市の海岸沿いに花窟(はなのいわや)神社と呼ばれるところがあります。近くには、獅子岩(ししいわ)というところもあります。獅子岩の以前一度通った時に見たことがあったのですが、まあ、獅子の形に見えるだけだなあと思って通り過ぎました。
 今回は、獅子岩の周辺の岩石を見るために訪れたのですが、あいにく雨が降ったり止んだりの天気だったので、雨宿りをかねてこの神社を訪れました。朝一番にきたのですが、雲が多く、薄暗い参道でしたが、神社を見学しました。この神社のことはよく知らなかったのですが、花窟神社は、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」のひとつとして、世界遺産の一部に登録されています。駐車場も、トイレ、売店など施設も整備されていて、なかなかアプローチのいいところになっていました。
 この神社の御神体が、熊野酸性岩類の一部で、火山砕屑岩(火砕流堆積物)からできているので、その岩を見ることにもなります。大きな崖をもった岩山が御神体となっているそうです。年2回の御縄掛けという祭で、崖の上から170mの大綱を伸ばして、境内にある松のご神木にかけるという神事がおこなわれます。私が行ったときにも、縄が上空に掛かっていました。2月に掛けられた綱が今も残っていたのですが、綱は自然に切れるまで残されているそうです。次の神事は10月2日に行われたようですが、現在は2本の綱がまだかっているのでしょうか。
 花窟神社は日本書紀にも記されており、日本最古の神社といわれています。「イザナミノミコト」が「カグツチノミコト」を生む時に陰部を焼かれて死んだという故事があり、「イザナミノミコト」と「カグツチノミコト」が、主祭神となっているそうです。「イザナミノミコト」がここに埋葬されているとされてとされ、崖にある穴が「ほと穴」と呼ばているものだそうです。白い玉石をひいて拝所が設けられています。
 じつはこの花窟神社には、今回の調査で2回訪れました。最初は、よく知らずに雨宿りに寄ったついでと、崖が火砕岩だったので、それを見ることができました。しかし、天気が悪くて撮影もうまくできませんでした。また、朝一番に来たので、社務所も売店も閉まっていたので、詳しいことがあまりわかりませんでした。
 神社の由来やその景観に興味を覚えたことと、御神体の岩石がなかなか見事だったので、別の日にもう一度訪れることにしました。その日もあまりいい天気ではなかったのですが、雨は降っていなかったので、撮影もでき、社務所の方ともお話もできました。売店では神社の神事がビデオで放映されたので、ビデオで神事の様子も知ることができました。
 でも、獅子岩は遠目で見て、撮影するだけの時間しかありませんでした。少々残念でしたが。チャンスがあれば、また来たいものですが、どうなることやら。

・落ち着いた旅・
今年、予定していた野外調査は、秋の南紀で終わりました。
本当ならもっといろいろなところへ出かけたいのですが、
なかなか時間がままなりません。
校務で出張にでることがあると、
そのとき少し旅気分を味わっていこうと思うのですが、
気が急いたりしているので、
別の目的のある旅では、落ち着かないものです。
じっくりと調査や旅を楽しみたいものですね。

・紅葉に季節・
わが町から見える手稲の山には、
もうすでに初冠雪がありました。
その後、積雪はまだみていません。
里でも、朝夕は冷える日があり、
我が家でも、ストーブを何度もたきました。
紅葉のきれいな季節になりました。
青空には紅葉が映えます。
紅葉は、見事な色合いで目を楽しませてくれますが、
少々うら寂しい気持ちにもなります。
北国では、秋は短いものになるのですが、
じっくりと味わっていきたいと思っています。

2017年10月12日木曜日

4_144 残念 3:古座川の火成作用

 古座川は、南紀の観光コースから外れています。でも古座川には、地質学的な見どころがいくつかあります。穏やかな川面にそそり立っている崖ですが、かつては激しいマグマの活動があったことを示すものです。

 9月の野外調査の時、和歌山県東牟婁(ひがしむろぐん)郡古座(こざ)川町を流れる古座川にいきました。海岸沿いの国道42号線から、古座川の河口(串本町古座)から、古座の町並みの中の狭い道を通り抜けて、川沿いの道を進みました。今回は古座川の名勝を再訪して、県道39号線を通って海岸沿いの和深(わぶか)に通り抜けていく予定でした。
 古座川には、以前も一度訪れたことがありました。その時は、古座川町相瀬にある一枚岩や天柱岩(てんちゅうがん)、池野山の虫喰岩などを見て回りました。今回も天柱岩を再度見たいと思って訪れました。
 古座川の一枚岩は、巨大な岩石の平坦な面をもつ崖なので、このような名前で呼ばれています。その崖は、高さ150mで800mもあります。きれいな川の水の向こうにそびえ立つ姿は、なかなか見応えがあります。1941(昭和16)年12月13日に国の天然記念物に指定されました。
 この一枚岩の岩石は、「古座川弧状岩脈」と呼ばれている火成作用でできたものです。その岩脈が地表に出たものが、一枚岩となりました。流紋岩質凝灰岩で、均質で硬い岩石でできているため、川の侵食に耐えて残ったようです。
 古座川流域には、一枚岩の他に、天柱岩や虫喰岩などもあります。これらは大昔にあった巨大なカルデラ火山のなごりの古座川弧状岩脈の一部です。この岩脈は、延長22km以上にわたるものです。約1500万年前~1400万年前に活動したものです。
 古座川弧状岩脈は、火山の巨大なカルデラ(南北径40km、東西径20km)の一部でした。カルデラの火山活動をもたらしたマグマの通り道になったのが、この古座川弧状岩脈です。巨大に見える一枚岩が古座川弧状岩脈の一部で、その岩脈が、カルデラの一部だったのです。そのような巨大なマグマの活動という地質学的背景をもった岩脈沿いに、古座川を遡っていきました。
 壮大な地質学的な歴史をもった一枚岩を見たあと、次なる目的地に向かうために、県道39号線に入ろうとしましたが、進めませんでした。道路が昼間は工事中で、時間による通行止めになっていました。しかたなく、引き返えさなければなりませんでした。一雨までもどり、国道371号線から海岸沿いを進みました。同じ道をなかり戻ってきたため、時間がかなり経過して、次の予定が変わってしまいました。

・巨大カルデラ・
このカルデラは、非常の大きなものです。
現在大きなカルデラとして、
阿蘇のカルデラがあります。
しかし、熊野のカルデラは、阿蘇のものを
遙かにしのぐ大きさと考えられます。
それを考えると表層で起こっていた
火山活動は想像を絶するものだったのでしょうね。
かなり古い火山活動ですが、
地球の歴史の激しさの一面を感じさせるものです。

・残念なのは・
石を見ることにおいては、
別に残念でもないようなのですが、
朝日に当たった一枚岩の写真を撮りたいと思っていました。
ところが、天気がよくなく、曇っていたので
あまりいい写真がとれませんでした。
実は前回紹介した天鳥の褶曲に
できるだけ早目に向かうため
宿を早く発って、古座川を経由して撮影をして
向かうつもりでした。
でも、この遠回りで少々予定がずれましたが、
天鳥も海の荒波で予定が変わったのですが。

2017年10月5日木曜日

4_143 残念 2:天鳥の褶曲

 今回の調査では、天気が良かったのに、断念した露頭がありました。台風による激しい波浪のために行けなかったところでした。そんな心残りの露頭を紹介しましょう。

 私には、何度も訪れたくなる露頭があります。その理由は、いろいろなのものが考えられるのですが、ひとつは見事な地層が露出しているところです。事前に写真などで見ていることもあるのですが、やはり実物を見る時に感動できるようなものです。もうひとつは、どうも私は人があまり来ないところを好むようです。そしてたどり着くのに少々大変なところに、より心を動かされるようです。
 そんな露頭として、和歌山県西牟婁(にしむろ)郡すさみ町の口和深(くちわぶか)の天鳥(あまどり)の褶曲があります。以前にも紹介したことがありますが、周辺には天鳥の褶曲以外にもいくつか褶曲があります。でも、私は天鳥の褶曲が気に入っているので、この近くに来た時は、見に行くようにしています。
 国道からヤブに入ってくのですが、目印もありません。そして踏み跡を下りていき、海岸に降りるのには少々険しいところも通ります。海岸にでても、海岸沿いを少し進むのですが、波があると渡れないところを越えなければなりません。このような苦労してたどり着いた先に、天鳥の褶曲があります。その大変を乗り越えた先に見ることできるので、より一層その貴重さ、不思議さを感じてしまうのかもしれません。
 今回も干潮図を見ていきました。しかし干潮が早朝なので、昼過ぎが満潮だったので、できるだけ早目に着くようにしたかったのですが、別の地域を巡っていったため、少々時間がかかりました。たどり着いたのは、昼前になっていました。でも、目的地を目指しました。
 なんとか海岸に下りましたが、11時を過ぎていました。天気はよかったのですが、台風の影響で波が荒くなっています。露頭を目指そうと海岸沿いを進んだのですが、波が荒くて近づけそうもありません。でも諦めきれないので、別のルートを探ることにしました。踏み跡を途中までもどって、今まで進んだことのない道を行くことにしました。
 天鳥の褶曲より東に降りるところは、以前に来たことがありました。そこは急な崖を降りて進んでいくと、海岸の反対側から天鳥の褶曲にたどり着けます。しかし、今日は波が高いので諦めました。
 踏み跡を東に向かってさら進むことにしました。海岸に出ました。今まで来たことのない海岸でした。波は高いのですが、奥まった入江になっているので波は来ません。そして、露頭もあり地層を見ることができました。そこにもサイズは小さいのですが、いくつか褶曲がありました。目的のものとは違っていたのですが、褶曲をみることができ、収穫となりました。
 しかし、そこの褶曲は、天鳥のものと比べると、やはりスケールも形も見劣りしました。天鳥の褶曲は3回目指して、2回たどり着きましたが、今回は断念しました。ですから次のチャンスがあれば、再訪したいですね。

・秋の足音・
北海道は、紅葉が進んでいます。
9月末には、旭岳や利尻で初雪の知らせがありました。
わが町から見える手稲などの山並みには、
まだ積雪も冠雪もありません。
そういえば、雪虫も飛んでいませんし、
まだ霜も下りていません。
でも、先週末はストーブを焚きましたが。
着々と秋は深まっています。

・付加体・
海岸沿いの調査では、干潮の影響もあるので、
毎回、事前に干潮図を調べていきます。
しかし、今回は台風による激しい波浪のために断念しました。
今回の天鳥の褶曲は、
四万十帯の牟婁(むろ)層群に属しています。
四万十帯は、付加体として、
沈み込む海洋プレートの陸側にできた地質体です。
詳しくは、エッセイ「109 天鳥の褶曲:嫋やかな褶曲」
http://terra.sgu.ac.jp/geo_essay/2014/109.html
をご覧にいただければと思います。