2016年3月31日木曜日

5_136 ケプラー衛星 2:成果

 ケプラー衛星は、4年間の探査により、多くの成果を上げました。その成果とは、地球型惑星を発見すること、ハビタブルゾーンの惑星を発見することでした。その成果は達成されました。

 ケプラー衛星は、私たちの太陽系が一般的なものではなく、多様なものがあることを教えてくれました。
 ケプラー衛星が探そうとしていた惑星は、遠い天体で、自らは光を発していません。実際には、母星の恒星の光しか見えません。観測すべき惑星は、直接見ることはできないので、他の方法を使って調べなければなりません。その方法とは、惑星が母星の前を通り過ぎるとき、明るさがほんの少しですが変化します。惑星の影響で恒星の明るさが変化するのであれば、周期的な変化がおこるはずです。その明るさの変動を捉える方法を用いて惑星を発見しようとするものです。トランジット法と呼ばれています。長期にわたってトランジット法で観測することで、仄かな明るさの変化を捉えようとするものです。
 ケプラー衛星は、微弱な明かりの変化を観測しねければなりません。そのため、私たちの太陽の光や、地球からの反射の影響の一番少ない方向で観測しています。また、太陽系内の小天体、火星と木星の間や外縁部にある小惑星帯(エッジワース・カイパーベルトと呼ばれています)の影響がない方向であるべきです。北の空のはくちょう座の方向でした。
 その領域は、狭いもの(105平方度)で、腕を伸ばして握りこぶしをふたつ並べたほどのところを、1.4mの反射鏡を用いて、9460万画素のCCDカメラで観察しています。CCDカメラとはいっても、撮影するためのものではなく、光を集めるために使われています。
 このような装置で、ケプラー衛星は、4年間に約15万個の恒星を観測しました。そこから、4000個以上の惑星候補を発見し、そのうち2015年4月28日の時点で、1019個が惑星であることが確認されています。
 観測当初は、大きな惑星の発見でしたが、後には小さな惑星も見つかってきました。その中には、地球と同程度や地球より小さな惑星もありました。
 ケプラー衛星の成果として、恒星ケプラー37には3つの惑星が見つかり、その内、最も内側で地球の約3分の1のサイズの岩石惑星と考えられるものを発見しました。ケプラー62eとケプラー62f、ケプラー186fでは、それぞれ地球の1.6倍と1.4倍、1.11倍の大きさで、「ハビタブルゾーン」に存在する惑星が見つかりました。地球に似た惑星がいくつか見つかり、生命誕生の条件を持っている惑星があることがわかってきました。
 また、ケプラー444には、地球型惑星が5つり、これは宇宙誕生から30億年ほどしか経ていないのに、岩石惑星が形成されていることを示しました。ただし、これらの惑星は太陽に近いためにハビタブルゾーンにはありませんでした。
 他の恒星にも惑星系が多数あり、それは多様で、異形のものがあることがわかってきました。そして多様性に中には、地球に似た惑星があることもわかってきました。ただし、現在のところその数は少ないのですが。

・注意が必要・
ケプラー衛星の成果の取り扱いは注意が必要です。
15万個の恒星で惑星が確認されているのは1000個とすると
惑星の存在は、非常にまれなものにみえます。
これは、間違った印象です。
なぜなら、地球から観測しているので、
地球からたまたま「見えた」ものしか
判別していないからです。
「見えない」、「見えにくい」ものは
観測結果には反映されていないのです。
例えば、15万個の恒星の内、
惑星をもっているは、1000個ではないのです。
惑星を観測できたのが、1000個であって、
もっと多数の恒星に惑星はあるかもしれないのです。
注意が必要です。

・新年度・
今日で、3月が終わります。
学校はいよいよ新学期を迎えます。
我が大学は、4月1日が入学式です。
私は、新年度そうそう、土、日曜日も使って
担当している集中講義があります。
今年度からはじめて参加する講義なで少々不安ですが、
与えられた担当科目なので、
がんばってできる範囲ですすめるしかありませんね。

2016年3月24日木曜日

5_135 ケプラー衛星 1:地球型惑星

 太陽系外惑星を探査するケプラー衛星は、実は私たちの太陽系や地球のことをよりよく知るために、打ち上げられたものです。その成果によって、私たちの太陽系や地球の見方をどのように変えてきたのでしょうか。

 ケプラー(Kepler)と名付けられた探査機があります。2009年3月6日に打ち上げられた探査機で、地球を追いかけるような軌道で、太陽の周りを回っています。ケプラー衛星は、実は今回がはじめてではなく、3年前(2013.05.16)の「5_109 地球型惑星 2:ケプラー」でも紹介しています。少し重複する部分があるかもしれませんが、紹介していきましょう。
 ケプラー衛星は、宇宙望遠鏡で、太陽系外の惑星を探すために打ち上げられたものです。太陽系外惑星を発見するだけにとどまらず、より正確に惑星を探査し、地球型惑星、あるいはハビタブルゾーンにある惑星が、どの程度、どのようなものがあるかも、調べようという目的もありました。
 ここで、地球型惑星とハビタブルゾーンという聞き慣れない用語が、でてきました。まずはその用語の説明をしておきましょう。
 私たちの太陽系には、いくかの惑星があります。太陽に近い、内側の軌道には、水星、金星、地球、火星まで、硬い地表と、薄い大気をもつ(水星にはない)小さい惑星があります。惑星の本体は、岩石と金属鉄からできています。金属鉄は、コアとよばれ、惑星の中心部にあります。岩石からなる多数の小天体からなる小惑星帯を越えると、木星と土星の巨大なガス惑星(木星型惑星)、天王星と海王星の巨大な氷惑星(天王星型惑星)があります。太陽系の内側の、地球似た惑星を地球型惑星といいます。
 ハビタブルゾーン(habitable zone)とは、惑星空間で、生命が誕生しうる環境をもっている領域のことです。「生命居住可能領域」などと訳されることもありますが、生命が生存、居住可能な惑星空間のことです。主には、母天体(太陽)の明るさと、その距離によって限定されます。わかりやすくいうと、ハビタブルゾーンに惑星があると、惑星表面にH2Oが水として存在しうる条件となります。
 生命が誕生するための前提条件のひとつとなるものです。他にも、そこに惑星が存在すること、惑星が存在したとしても大きさ、環境、経過時間などの条件を満たさなければ、生命誕生はないはずです。
 ただし、ハビタブルゾーンをはずれた生命は存在しえないかというと、そうとは限らないかもしれません。木星や土星の衛星でも、生命の誕生の条件があるのではないか、と考えている研究者もいます。
 さて、これらの惑星の種類とその並び方は、私たちの太陽系の特徴でもあるのですが、かつてはこれらが惑星系の一般的な姿だと考えられていました。ところが、必ずしも一般的なものでないことが、ケプラーの多数の惑星の発見によって確かめられました。
 ケプラーは、宇宙には、非常に多様な惑星があることを教えれくれました。それは次回としましょう。

・行事・
先週の水曜日に、学部の教員の送別会がありました。
金曜日には大学の卒業式がありました。
その後、大学の祝賀会と学科の祝う会が連続してありました。
学生有志との二次会も続きでありました。
その月曜日には、大学で高校生を招いての
オープンキャンパスがありました。
私は、それらのすべての行事で
校務として、司会や挨拶をしました。
少々くたびれましたが、
それぞれ目的や対象者が違っているので、
頭の切り替えがなかなか難しいものでした。
そのため、精神的に疲れました。
家庭内でひどい風邪がはやっているので
無理をしないようにしなければなりません。

・区切りの年・
次男の卒業式も大学と同日に行われ家内が出席しました。
長男はもっと前でしたが、今月に卒業式がありました。
我が家でも、今年は、区切りの年となりました。
それぞれが、新たな目標に向かって
進んでいってくれればと思いますが、
親としては、心配は尽きませんが。

2016年3月17日木曜日

6_136 重力波の観測 5:重力波天文学

 シリーズの最後として、今回の観測の意義を考えていきましょう。最初の観測の成功は、仮説の確かさを示しており、研究は次なるステップに発展していきます。研究実績が積み上げられれば、新しい学問分野が発展していくことになるでしょう。

 重力波を発生し、観測されそうな天文現象には、いくつかの候補がありまひた。それらの現象については、事前にシミュレーションがなされていました。重力波を見れば、それはどの天文現象だということがわかるまで、事前に推定されていました。
 今回の重力波は、2つのブラックホールの合体した現象で発生したものでした。2つのブラックホールが、ぶつかる時の相対速度は、光速度の半分以上にまで達していました。そのブラックホールは、太陽質量の29個分と36個分のものでした。そして最終的に合体してきたブラックホールは、太陽質量の62個分でした。
 ここまで読んで、気づかれたでしょうか。足し算が合わないのです。2つのブラックホールの質量は、29+36=65なのですが、できたブラックホールは62になっています。太陽質量の3個分が消えています。この消えた質量分が、重力波として放出されたのだと考えられています。想像を絶する天体現象です。それが、わずか0.2秒足らずのほんの短い時間に起こったのです。
 今回の観測された現象は、数百年に一度くらいの頻度で起こるものだと考えられています。それほど稀な現象が、よくも観測早々発見できたものだと思います。幸運に恵まれていると思いますが、幸運だけでなく研究者たちの努力があっても賜物です。
 さて、今回の発見には、どんな意義があるのでしょうか。
 重要な意義があります。それは新しい学問分野ができる可能性が生じたことです。最初の発見ができれば、観測できることが証明できたわけです。仮説としては可能であっても、本当に実証されるまでは確かではありません。いったん実証された後は、技術的な向上があれば、感度を上げることができます。理論的に技術開発を進めていって、確実な成果を得られることが証明できたことになります。改良が進めば、計算通りに、より小さい重力波の現象を捉えることが可能となります。たとえば、感度を10倍にすると、1年に数回の重力波の現象が捉えられると考えられています。
 重力波観測装置は、重力波望遠鏡となります。観測が進めば、多数の現象がとらえられ、多様性の把握できるでしょう。重力波現象に基づく天文学が発展することでしょう。
 日本の小柴さんたちがカミオカンデで最初に行ったニュートリノの観測により、望遠鏡として利用できることを示しました。そこから、新しいニュートリノ天文学が生まれました。それと同じような大きな進歩が起こり、重力波天文学が拓かれていくことが期待できそうです。

・別れ・
別れのシーズンです。
大学では、教職員の送別会、卒業式が
今週、立て続けに行われます。
教員で親しい人の退職は、寂しいものです。
学生との別れは、寂しさだけでなく
彼らは期待に満ちた希望があります。
彼らには新しい世界へ旅立つが不安もあるでしょうが
希望に満ちた未来があります。
そんな卒業生たちにエールを送りたいものです。

・時の流れ・
今年度もあと少しです。
学校では、次年度の準備が着々と進んでいます。
一日、一週間、一ヶ月、一年があっという間です。
光陰矢の如しで、時間がまたたく間に過ぎていきます。
校務が忙しくて、研究の時間がとれずにストレスがたまっています。
精神状態にも波があるので、
時間があるから研究できるとは限らないのですが、
時間がないと研究できないのは確かです。
人が感じる時の流れは、
忙しさに比例するのでしょうか、
それとも年齢に比例するのでしょうか。
私の場合は、両者だなのでしょうね。

2016年3月10日木曜日

6_135 重力波の観測 4:そして発表

 信号を観測してからの検証作業は、地道で表には出ないものです。しかし、結果が重大であるため、その時の研究者のストレスは想像以上でしょう。大きなストレスの乗り越えて、今回の発表となりました。

 重力波を観測したLIGOは、2005年から観測をスタートし2010年まで観測しました。しかし、この間の観測では、検出能力が足りなく、信号をキャッチすることはできませんでした。その後、装置に検出感度を高める改良がおこなわれ、2015年から観測が再開されました。
 改良されたLIGOが、2015年9月12日に重力波の観測を開始したところ、わずか2日目の2015年9月14日9時51分(アメリカ東部時間)に、重力波をキャッチしました。LIGOの感度でとらえられる現象は、数百年に一度のものにすぎません。それをとらえることができたのです。これはLIGOの観測のスタート時期が、非常に幸運だったのでしょう。
 今回観測した重力波は、波長が3ヘルツから250ヘルツの間で、波の変動幅は10^-21のレベルでした。信号は、0.2秒足らずほどで終わりました。非常の微小で短時間の信号でした。その信号のS/N比(信号とノイズの比)は、24もあり、他の現象の可能性さえ排除できれば、確実な信号になります。
 データを得たあと発表まで、さまざまな検証がなされました。ありとあらゆる他の信号やノイズの可能性を排除されていきました。なにより異なる場所で観測された重力波の波形がぴたりと一致したことが、一番有力な検証となりました。別の2箇所で波形が一致するような他の現象が起こる可能性は、20万年に1度という確率にすぎないことも確かめられています。ありとあらゆるノイズの可能性を消していき、重力波でしか説明できないという論考がなされました。
 今回は、あまりにも重要な結果なので、極秘裏に検証作業がなされていたそうです。その検証のために、観測後、4ヶ月の時間がかけられました。研究者にとっては、そのストレスは非常に大きかったようです。
 論文は、今年の2月11日に公開されています。論文は物理学では権威のあるPhysical Review Lettersという雑誌の116号で公開されました。
http://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.116.061102
というサイトで、重要な論文なのでオープンにされています。難しい内容ですが、論文のタイトルは、
Observation of Gravitational Waves from a Binary Black Hole Merger.
(2つのブラックホールの合体からの重力波の観測)
です。興味ある方は、直接ご覧になられればと思います。
 論文の著者は、B. P. Abbott et al.(et al.とは「その他」という意味)となっています。通常論文の著者が多人数になっても、全員の名前や所属を明記します。しかし、この論文はあまりに多くの研究者が関わっているので、論文の末尾に著者名が列記されています。同姓の人も多数います。著者名だけで、3ページ弱もあります。何名の共著者がいるかを、数える気にならないのほどの人数です。著者名の後には、著者が所属している施設が示されているのですが、133ヶ所あり、2ページ半になっています。16ページの論文のうち、本文は8ページ余りで、報告の半分にすぎません。他は文献と著者に関するものです。巨大科学による成果はこのような報告になってしまいます。
 さて次回は、重力波の意味するところをみていきましょう。

・情報漏れ・
この論文を見たのですが、分野が違うので、
検証に関する評価はできませんでした。
しかし、その慎重さは、うかがい知ることができました。
そして、この論文でなにより驚いたのは、
本文でも書いたのですが、著者の多さです。
近年の巨大科学のせいでしょうが、
中枢にいた研究者たちは、組織運営、維持だけでも
非常に大きな苦労があったと推測されます。
秘密保持は、非常の難しいものでしょう。
仲間内では漏れていたのかしれませんが、
私は門外漢なので情報は届いていませんでした。
以前、別の重要論文では、論文が投稿された段階で
情報漏れがあり、私にも届いたことが有りました。
その時は、内容は不明でしたが、
その分野に関する重要な発見があった
という情報だけが漏れていました。
今は、ネット時代ですから、
情報漏れが起これば、一気に広がってしまいます。
注意が必要ですね。

・三寒四温・
北海道は、三寒四温でしょうか、
変動の激しい天気が続いています。
ある時は道路がガリガリに凍りついたり、大量の積雪があり、
またある時は、グチョグチョに溶けたり、
乾いた道路が出ていたりしています。
寒暖の変化の著しさは、例年以上ではないでしょうか。
来週はいよいよ卒業式です。
グチョグチョでなければいいのですが。