2019年3月28日木曜日

2_168 単細胞から多細胞へ 2:多細胞化

 生物進化の大きな飛躍には、ある日突然起こるものと、長い時間をかけて試行錯誤の末に起こるもの、とがあるようです。多細胞化は、どうでしょうか。過去に起こった生物種から、その過程を考えていきましょう。

 生物進化の大きな飛躍としては、葉緑体やミトコンドリアの共生によってある日突然起こるものと、脊椎の獲得や陸への進化など長い時間をかけて試行錯誤の後に起こるものもありました。その中で生物の多細胞化は、突然か、それとも長い時間が必要か、どちらでしょうか。これが今回のテーマでした。
 多細胞化へのステップを考えると、なかなか難しく思えます。単細胞で暮らしているときは、ひとつの細胞ですべての生命活動を賄っていました。多細胞化が起こる時には、新たな仕組みを作る必要があります。例えば、多細胞全体で分業化するために、情報伝達が必要になり、そして生きていくための物質循環(栄養供給と不要物排出)などが、新たな仕組みとして作り出す必要があります。これができていないと、多細胞化とはいえません。細胞同士が単純にくっついても、それぞれが単独に生活しているのであれば、群生ということになります。
 多細胞化において必要な情報伝達は、植物ではタンパク質などの分子を通しておこないます。そのため、反応は遅くなってしまいます。動物では長く伸びた神経細胞が専門に担っています。そのため反応は速くなっています。物質循環は、植物では導管と支管という仕組みがあります。動物では、消化系をつくって栄養をとり、その栄養を血液やリンパ液などで全身に送り不要物を回収するという、別の循環系を用意することで、分業化しています。植物も動物も多細胞化のために、特別な仕組みを用意しています。
 単細胞から多細胞への進化は、いくつもの生物で何度も繰り返し起こっていたことがわかっています。ただし、繰り返し起こったのは、植物の仲間だけだったようです。少なくとも、褐藻類や黄緑色藻類、フェオタムニオン藻類、クリソメリス藻類などで多細胞化が起こっていることが知られています。つまり、植物へは、いくつもの系統(多系統)で進化をしてきたことになります。
 ところが動物では、ひとつの系統(単系統)だけで起こった進化のようです。襟鞭毛虫類(えりべんもうちゅうるい)という単細胞類が、動物の直接の祖先だとされています。現在では、襟鞭毛虫類から、多細胞の海綿動物を経て、多くの多細胞動物へと進化してきたと考えられています。つまり動物は、襟鞭毛虫類を祖先とする単系統のみで進化してきたことになります。
 細胞のつくりをみると、植物は細胞壁があり頑丈ですが、動物は細胞膜という柔らかなものからできています。植物の細胞壁と動物の細胞膜と比べると、動物のほうが柔軟性があり、多細胞化が容易にみえます。しかし、植物ではいくつもの系統で多細胞化が起こっています。植物にとっては多細胞化はそれほど困難なことではなかったようです。一方、動物では単系統でしかないので、長い生物の歴史の中で一度しか起こっていない稀な現象だったようです。動物の系統では、多細胞化は難しいものだったようです。
 多細胞化によって、大型化や分業などの効率も手に入れるのですが、他の機能も付加していくという大変さありました。大変そうに見えるのですが、多細胞化した生物が繁栄しているのは、生存戦略上は成功しているのでしょうね。

・また雪景色に・
北海道は、先週末にまた雪景色に戻りました。
再び冬並みにストーブを使っていました。
気の早い人たちは、車を夏タイヤに変えていたようです。
慎重派の我が家は、冬タイヤのままでした。
そのため雪の中でも出かけるのに困りませんでした。
気の早い人は、
道路が溶けてしまえば、すぐに夏タイヤに変えてしまい
初雪のニュースがあると、早々に冬タイヤに変えてしまいます。
夏タイヤから冬タイヤへは問題はないのですが、逆は危険です。
我が家は通勤には使っていないので、
いずれにしても被害はありませんが。

・3月も終わり・
いよいよ3月も終わりです。
大学では今週から在学生へガイダンスがはじまります。
4月は新入生の行事で目白押しですので
3月末に終わらせておきます。。
教員も今週だけ、時間がゆっくりと使えます。
限られた猶予ある時間を大切に使いたいものです。
でも目の前に4月のドタバタがあると
少々落ち着かない気持ちなのですが。

2019年3月21日木曜日

2_167 単細胞から多細胞へ 1:共生

 生物の進化には、いくつか大きな飛躍があります。その飛躍は簡単に起こることなのでしょう。飛躍の中には、短時間で起こったと考えられるものがあります。共生と呼ばれているものです。

 生物の進化には、いくつかの大きな飛躍があるように見えます。飛躍とは、その生物にとって後の進化に重要な役割を果たす機能を獲得することです。しかし、そのような飛躍は、生物が後を進化をしようと意図して得るものではなく、たまたま起こった試行錯誤の結果が成功して、生存競争に勝つことができ子孫を残すことができたのでしょう。
 よく知られている飛躍としては、光合成の獲得、好気性、多細胞化、脊椎の獲得、海から陸への進化、恒温性などがあるでしょうか。いずれの飛躍も、進化に大きな節目となっているものでしょう。しかし、その獲得は、ある日突然身につけることができるのでしょうか。
 例えば光合成ですが、真核生物では藻類と植物だけが持っている仕組みです。光合成は、細胞内にある葉緑体でおこなわれています。光合成の能力は、ある時、突然、獲得できた能力だと考えられています。大型の真核生物が、シアノバクテリアを取り込んだことではじまったことがわかりました。このようなものを「共生」と呼んでいます。本来なら小さな細胞を取り込むということは、「食べる」ことになります。しかし、食べることなく、共生をしたのです。葉緑体には二重の細胞膜があり、外は真核生物のものですが、内側が別の生物ものでした。そのことから、食べることなく、取り込まれたことがわかってきました。たまたま起こったことのようです。
 葉緑素は植物や藻類だけがもっているのですが、ミトコンドリアも二重の細胞膜をもっていることがわかってきました。ミトコンドリアは、すべての真核生物が持っている細胞内の小器官です。ミトコンドリアの役割は、酸素を利用してATP(アデノシン三リン酸)をつくりだし、真核生物に供給することです。ATPは、リン酸の分子が分離したり結合したりして、エネルギーの放出・貯蔵ができる物質で、非常に重要な物質です。ATPをミトコンドリアは、真核生物に供給していることになります。
 細胞にとって酸素は、非常に危険な存在です。酸素は、細胞の内のさまざまな物質を酸化してしまうので、酸素への対処ができないと、その生物は死んでしまいます。だからミトコンドリアのない生物は、酸素のない環境(嫌気性)でしか生きていません。しかし、ミトコンドリアがあれば、酸素の多い環境(好気性)であっても、細胞内の酸素をうまく処理してくれます。処理だけではなく、酸素を用いてエネルギーを供給するATPをもたらしてくれます。こんないいことはありません。ミトコンドリアは、好気性細菌の一種で、葉緑体と同様に共生したことがわかってきました。
 共生があったことは、種類によって、葉緑体やミトコンドリアを取り出しても、生きていけるものがいることからも、確からしいと考えられています。他の生物を取り込む共生という仕組みは、ある時から急にできることになります。
 一方、脊椎の獲得や陸への進化などは、長い時間をかけて試行錯誤が必要だと思われます。では、多細胞化はどうでしょうか。最近、それに関する重要な報告が出ました。詳しくは次回以降にしましょう。

・集中講義・
先週は、集中講義があり終了直後に
学位記授与式(卒業式)もありました。
大きな行事が2つ連続してあったので
先週は非常に忙しい思いをしました。
本エッセイも前の週に予め予約しておきました。
おかげで今週から来週にかけては
落ち着いて仕事ができます。
今週も来週も送別会があるので飲み会があります。
3月いっぱいで、親しい人が去っていきます。
なかなか寂しいものです。
近くに住んでいるのであれば、
近い内に会うこともできます。
親しい人は、こちらを引き払うので
会う機会はなかなかなさそうです。

・祝う会・
先週末、学位記授与式がありました。
そのあと大学祝う会があり
さらにその後に学科の祝う会がありました。
今年は担当している4年生がいなかったので
少々寂しくもありました。
しかし結果的に、多くの4年生と
いろいろな思い出を語ることができよかってす。

2019年3月14日木曜日

5_165 ケプラーからTESSへ 4:ファーストライト

 TESSは夏には、正式な運用がはじまりました。その時の最初の画像も公開されました。なかなか素晴らしいものでした。ケプラーよりずっと広域を観測できます。TESSは今後2年間の運用が予定されています。

 TESSは、2018年4月18日に打ち上げられ、5月17日には最初のテスト画像が送られてきました。テスト画像は、4つあるCCDのうち1台を使って、たった2秒の露出での撮影されたものでした。軌道もまだ定まっていない状態での、CCDのテストでした。そこには12の星座が含まれており、非常に広い範囲の星が写っていました。
 8月7日には、4台のCCDをすべて使って、30分かけて撮影した画像「ファーストライト(first light)」が公開されました。これは、本格的な観測をはじめた、最初の正式な画像になります。非常に広い範囲が撮影されています。その後、観測は順調に進んでいるようです。
 さて、TESSはトランジット法を用いています。恒星の前を横切った惑星による明るさの変化を調べる方法ですから、継続的に観測していくのが、最もはっきりと惑星の存在を検証できます。そのため、同じ恒星を長期間、継続的に観測することが有効な方法となりますが、CCDの範囲の領域しか観測できません。
 一方、広い範囲、できれば星域全体を観測するためには、同じ領域ばかりを観測はできないので、断続的になりますが、定期的に繰り返し観測することになります。
 惑星の探査では、継続観測で検証の精度、「質」をとるか、広域観測で「量」をとるか、の選択となります。系外惑星の観測は、ケプラー宇宙望遠鏡でもまだ星域の一部しかなされていません。そのため、NASAは、「量」を選択しまし、まずは基礎的な記載を進めることにしました。
 研究にはいろいろな段階があります。予察、記載、一般化、より深い探求など、さまざまなレベルがあります。ケプラー宇宙望遠鏡は、予察にあたります。ある星域を定めて、そこだけを精密な観測をおこなったら、どの程度の確実な系外惑星が発見できるかというものでした。その結果、2600個以上の惑星の存在を検証しました。
 TESSでは、2年間でファーストライトの26倍の領域の観測をおこないます。ほぼ全星域で、系外惑星の有無の記載がなされることになります。このプロジェクトが完成すれば、個々の系外惑星で、精密な探査が進めらていきます。その精密探査も、ケプラーの成果からすでに進められていると思います。今後の成果に期待したいものです。

・より深い探求・
ケプラーもTESSも、最も期待される成果は、
地球型惑星の存在を検証することです。
地球型惑星の確実な証拠は、
水が存在するかどうかが重要になります。
遠くの天体、それも恒星の横切るだけで
その存在が確認された惑星で、
水の有無を検証するのは、難しいものでしょう。
まして生命の存在の可能性については
もっと難しい観測になるはずです。
技術や科学は、大きな飛躍がありえますので、
その飛躍に期待したいものですね。

・安全基準・
TESSが2年間の運用予定なので、
装置自体はその間大丈夫なように設計されています。
安全基準は、1.5から2倍程度の余裕をもって
設計されていることになります。
2年の運用を目指していますが、装置が持てば、
もっと長く運用されるはずです。
そして、さらなる成果が挙げられます。
しかし、まあこれはとらぬ狸の皮算用ですね。