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2024年12月12日木曜日

3_227 外核のドーナツ 3:トーラスの意味

 外核にトーラス状の構造があることが、地震波のコーダ波の解析からわかってきました。ではこのトーラス状構造は、どのようなものからできていて、なぜできてきたのでしょうか。


 前回は、地震波の実体波の後に来るコーダ波と呼ばれるものがあることを説明しました。そのコーダ波を利用して、馬らは外核の詳細な構造を調べていきました。
 地震波のコーダ波を観測から、外核を地球の極地と赤道付近で比較していきました。その結果、極地に近い場所で検出された地震波よりも、赤道近くの地震波よりも進みが遅くなっていました。
 地震波の遅い領域は、外核の中でもマントルの境界に近い赤道に沿った領域で、トーラス(ドーナツ)状に、地震波の進みが遅い領域(以下新構造)が存在しいました。トーラスは、マントルとの境界から深度数百kmほどのサイズがありそうだとわかってきました。
 外核は液体で、その成分は金属鉄とニッケルを主成分としていますが、それだけでは地震波速度が説明できません。少量の軽元素(例えば、水素、ケイ素、酸素などが候補とされています)も含まれていなければならないと考えれられています。今回の報告のモデルによると、2%ほど遅いことになりますでの、このような軽元素が多くなれば、地震波速度が遅くなっていくので、軽元素の量と分布が明らかにできるのではと考えられています。
 外核の赤道付近の外側に、不均質な領域がトーラス状にあることになります。もしトーラス構造が、軽元素の分布の違いによるものであれば、外核内の対流で説明できる可能性も指摘されています。
 外核は深部ほど温度が高く、マントルに近い部分は低温になっています。温度差ができれば、液体なので対流が生じます。軽元素を多く含んだ密度の小さい部分があれば、密度が小さいので選択的に上昇流に取り込まれやすくなります。さらに、軽い成分の流れは、地球の自転の影響も受けて、赤道にそった上部に浮かんでいくと考えられます。長い時間がたって、軽い物質が集まってトーラス状になったと推定されます。
 外核の金属鉄が流動すれば、電流が発生し、磁場も起こります。この作用が連続して起こっていれば、核全体が地磁気を持って、地磁気となっていくと考えられます。これを地球ダイナモ説と呼ばれているものです。ダイナモに軽元素の多い部分が関与するようなことあれば、地磁気にその影響が出るかもしれません。そうなると、地磁気の変化でもトーラスの存在が観測できるかもしれません。

・冬が深まる・
週末に冬型になり
かなりの雪が降りました。
激しい降りのときは風も強く、
わが町では積雪量はそれほど多くはなリませんでした。
幸い、除雪が入るほどではありませんでした。
日に日に冬が深まり、
これからの降雪、根雪となっていきそうです。

・まさに師走・
12月も忙しくなっています。
私用ででかけることがも多くなり、
校務も連続してあります。
その上、校務で校外にでかけるものもあり、
その分、さらに時間が取られて忙しくなくなります。
まさに師走となっています。
幸い次年度の私用が、かなり減ったので
来年は少し落ち着けるようです。
多分。

2024年11月28日木曜日

3_226 外核のドーナツ 2:コーダ波の解析

 前回、地震波には表面波と実体波があり、大きく揺れる実体波にもいろいろな種類があることを紹介しました。実体波の中のコーダ波を使って、外核にこれまでにない構造を発見しています。コーダ波を紹介していきましょう。


 実体波は、いつも感じている地震の揺れをもたらすものです。P波とS波がその代表となります。
 P波はもっとも速い地震波(5~7km/秒)で、最初に伝わってくる揺れで、初期微動とも呼ばれます。進行方向に平行に振動する波で、固体、液体、気体をすべて伝わリます。地球内部を探るために重要なものとなります。
 一方、S波は、P波に比べて速度は小さい(3~4km/秒)のですが、揺れは大きく、主要動と呼ばれます。ただし、固体しか伝わリません。P波は地球内部をすべて通り抜けましたが、S波は液体の鉄からなる外核は通ることができません。そのため、外核の実態と存在は古くから知られていました。
 実体波には、後続波と呼ばれるタイプがあります。P波やS波は、波が直接到達したものですが、後続波には地球内部にあるさまざまな境界で、反射したり屈折してしてから届く地震波もあります。そんな地震波にも重要な地球内部の情報が隠されています。
 反射や屈折は、不連続面となる地表、海底、地殻、マントル、核や、それらの内部にある物性の異なる面で起こります。反射は屈折する場所によって、地震波それぞれに、別の名称がつけられています。例えば、P波が外核内を伝播したものをPKP波、この波が内核まで伝播したものをPKIKP波などと呼ばれて、区別されています。
 後続波には、さらに地下の物質内に存在する不均質によって「散乱」される地震波があり、それらをコーダ波と呼んでいます。コーダ波は、振幅が減衰していく(指数関数的に)波形になるのが特徴ですが、数十秒から数分間振動が続きます。
 コーダ波の減衰は、通過する物質の特性を反映します。減衰は、物質内の不均質、例えば、断層や化学的組成が異なったり、流体の存在や分布、温度分布の違いなどで起こります。また、不均質で減衰しながら伝播していくのですが、その時にも不均質があれば、散乱も起こります。ですからコーダ波には、複雑な経路を取っていきたものが含まれていることになります。このコーダ波の減衰状況や散乱から、地球内部の不均質な部分を見つけていったの今回紹介している論文です。
 馬らは、ひとつの震源からの地震を、異なった地震計で記録された数時間にわたる続くコーダ波を用いました。微小なコーダ波を検出し、複雑にたどってきた経路を解析していき、各地のコーダ波の類似性から相関を調べてきました。これらの類似性をまとめて「後期コーダ波相関波動(late-coda correlation wavefield)」と呼びました。これが論文のタイトルにあったコーダ波の意味です。
 そして、極地と赤道付近で観測された解析の結果を比較していきました。極地に近い場所で検出された地震波は、赤道近くの地震波よりも速く伝わっていることがわかったということです。その意味するところは次回としましょう。

・懸案が次々と・
今月は、特別な校務が重なっていました。
大きな懸案事項もいくつかありましたが、
先週までに、順番に終わらせていきました。
まだいくつか残っています。
懸案事項も、役職上の校務なので
締め切りや重要度の順番に
淡々とこなしていくしかありません。
長年、職場に勤めていると
そんな術も身についてきました。
それも今年度限りと思って
取り組んでいきましょう。

・久しぶりの休暇を・
このエッセイは、土曜日に予約配信しました。
日曜日から、家内と久しぶりに温泉ホテルに一泊します。
人里から離れて、車がないといけない不便な場所です。
森に囲まれていて、散策路を歩いていくと湖があります。
その先に観光施設があります。
そんな静寂に好き、時々利用するホテルです。
自宅や大学は大雪が降ったので心配なのですが、
いってみないと雪の様子はわかりません。
まあ冬タイヤにしているので、
少々雪は大丈夫なはずです。

2024年11月21日木曜日

3_225 外核のドーナツ 1:トーラスとコーダ

 次の核のシリーズに変わります。新しい論文によると、外核でこれまで見つかっていなかった構造がわかったということです。地震波によって発見されたのですが、少々専門的な説明が必要になります。


 2024年8月末のScience Advances誌に、オーストラリア国立大学の馬とトカルチッチ(Ma and Tkalcic)が、核の構造に関する論文を発表しました。論文のタイトルは、
Seismic low-velocity equatorial torus in the Earth's outer core: Evidence from the late-coda correlation wavefield
(地球の外核内の地震波低速度の赤道上のトーラス:後期コーダ波相関波動場からの証拠)
というものでした。聞き慣れない難しい言葉があります。まず、トーラスとコーダ波について説明していきましょう。
 トーラスとは、円柱が環になったドーナツ状の構造をいいます。この論文では、外核の赤道上にトーラス構造が、地震波によって新たに見つかったということになります。
 トーラス構造は、コーダ波から見つかっています。コーダ波を説明するには、地震波の分類を説明しておく必要があります。
 地震波には、表面波と実体波があります。
 表面波とは、文字通り地球の表面を伝わる波です。少々変わった地震波で、固体と気体、あるいは固体と液体の境界だけを伝わっていく波です。主には地殻の表層(地表と大気の境界、海底と海の境界など)を伝わりますが、特徴は周期が長く、振幅幅も大きいものになります。伝わり方により、レイリー波やラブ波などに区分されます。レイリー波は、地表が上下方向に楕円を描くように振動します。ラブ波は、地表に対して平行に、進行方向に対して垂直に振動します。
 今回のコーダ波は、実体波に分類されます。実体波は、いつも感じている地震の揺れをもたらすものが代表です。P波とS波があります。P波はもっとも速い地震波(5~7km/秒)で最初に伝わる揺れで、初期微動などとも呼ばれます。進行方向に平行に振動する波で、固体、液体、気体を伝わリます。S波は、P波に比べて速度が小さい(3~4km/秒)のですが、揺れは大きく、主要動と呼ばれます。ただし、固体しか伝わらないという特徴があります。
 多くの地震波の研究は、地震発生後、1時間ほどで世界中に伝わるP波とS波に関するものです。ところが、実体波には、ほかにも後続波と呼ばれるタイプのものがあります。後続波は地球深部の探査に利用されています。その後続波のひとつに、コーダ波があります。少々長くなってきたので、コーダ波の詳細は次回としましょう。

・コーダ・
コーダ(coda)はイタリア語で「尾」を意味しています。
そこから、楽曲の最後に付けられる
終結、締めくくりを指す部分の名称として使われています。
コーダ波は、主な地震波のあとに現れ、
波形の最後にくっついています。
その様子から地震波の区分にも用いられました。
ただし、音楽のコーダは本体より短いのですが
コーダ波の継続時間は、本振動より長くなっています。

・晩秋から冬へ・
11月初旬に降った大雪は
その後、すべて溶けてしまいました。
紅葉の名残りも少なくなり、
多くの木々が葉を落としました。
季節は、晩秋から冬にむかっています。
そんな矢先、週のはじめには寒波到来で
また雪が少しですが降りました。
大学も後期の折り返しを過ぎました。
落ち着いて授業が進んでいます。

2024年11月14日木曜日

3_224 内核の回転 3:後退運動

 内核が回転していること、運動は一定ではなくブレがあることは、以前から知られていました。今回の研究で、内核の回転が、ここ10年ほどで後退していることがわかってきました。


 いよいよ観測の結果を紹介していきましょう。20年以上に渡った地震波の観測値を用いたことから、経年変化が読み取ることができました。
 同じ震源からの複数の地震波を観測することで、昔のものと一致するような地震波を発見しました。このような一致から、内核がマントルに対して、過去と同じ位置に達したと区別できました。その結果、数年から数10年かけて回転の変化が読み取られてきました。
 内核は2003年から2008年にかけて、一回りしました。その後、2008年から2023年にかけては、同じ経路をゆっくりと回転していることがわかりました。回転速度が、2分の1から3分の1くらいになっています。2010年ころから減速がはじまり、後退(backtracking)と呼ばれる状態になっていることがわかりました。ここでいう後退とは、地表からみて、自転より遅れる状態になっていることです。
 このような内核の回転速度は変化は、以前の研究でも知られていました。また、後退していることも知られていました。そのような変動が、自転軸を中心に8.5年の周期で起きているらしいこともわかっていました。後退の現象は、ここ40年間は起こっていませんでしたが、今回、後退が見つかりました。
 巨大な内核の運動が、急激に変化することが示されましたが、その原因は、まだ不明です。液体の鉄の外核の中に、固体の鉄の内核が浮いている状態です。その運動を左右するには、かなり大きな力、エネルギーが必要となるはずです。
 その候補に、外核の対流の変化が考えられます。もし外核の対流のパターンに変化が起これば、地磁気への変化も起こるはずです。あるいは逆に地磁気の変化が、外核に対流に変化を及ぼし、内核の回転にブレーキをかけたのかもしれません。
 今回の研究の後退という結論についても、今後、議論が進むことでしょう。内核の運動は、地球の自転に影響があるはずです。内核の回転が遅くなっているのであれば、自転も遅くなっているはずです。その変化は非常に小さいでしょうが、もしかすると観測できるかもしれませんね。そうなれば、後退現象が事実と認定できるでしょう。

・大雪・
先週はじめに、近くの山並みに
初冠雪を見たと思っていたら、
里にも初雪が降りました。
シーズンのはじめの雪としては、
積雪量が多くて、驚きました。
いつもお世話になっている
自動車の整備工場にいって
冬タイヤに交換してもらいました。
週末になっても、まだ溶けません。
今年の初雪は大雪となりました。

・続けて医院へ・
今週の前半は、医院に続けていきます。
検査とその結果を聞くこと、
常用薬をもらうことになります。
医院はたいてい混んでいるので、
曜日や時間帯を考えていかないと
何時間も待つことになります。
選んでいっえも、半日仕事になります。
医者にかかるにも体力が必要です。

2024年10月31日木曜日

3_223 内核の回転 2:ペアの地震

 地震波には、液体も伝伝わっていくものがあります。そんな地震波から、外核を通り内核の情報もえられます。ひとつの地震でも、いろいろな経路を経ているものがあります。そんな地震を利用して、内核の解析が進められました。


 地球内部には、液体の鉄(外核)の中に、固体の鉄(内核)が重力によってその位置に固定はされています。ただ、液体の中にある固体なので、浮遊状態でもあるので、動きやすい状態になっています。
 ワン(Wang E.)らの共同研究として、ネイチャー誌に2024年6月12日に
  Inner core backtracking by seismic waveform change reversals
  (地震波形の変化の反転によって逆回転する内核)
という論文が報告されました。この論文は、内核の運動を調べたところ、逆転していることがわかったというものです。
 核の内部は、液体も通過する地震波(P波)を用いて観測することができます。以前から核の内部は観測されており、内核にもいくつかの構造があること、地球の表面に対して、回転していることも知られていました。
 この報告では、1991年から2023年の間にサウスサンドウィッチ諸島で発生した地震のデータを集めています。サウスサンドウィッチ諸島は、南米と南極半島の間のドレイク海峡の東にある列島です。この列島は、大西洋の海洋プレートが沈み込んでいるため、地震が多く発生します。そして、内核を通った地震波が観測できる位置に、ちょうど北米大陸があります。内核を貫通する地震波(PKIKP波と呼ばれています)を、北米大陸の北部にある地震計群で観測しました。
 起こった地震がひとつであっても、外核や内核の内部で異なった経路を通った成分が含まれています。それを見分けていくことで、より詳しい核の情報を読み取ろうとしています。
 サウスサンドウィッチ諸島の42地点で起こった121個の地震から、はっきりとした143組のペアとなっている地震を見つけています。その中には、3から7通りの経路をもった地震も16件、見つかっています。
 それらを分析して、内核が逆転しているという現象を発見してます。その詳細は次回としましょう。

・アイディア勝負・
地震波は地球内部を調べるための有効な方法です。
地球内部を、深部まで調べることができます。
そのためには地震が起こる必要があります。
地震は、自然現象なので、いつ起こるかわかりません。
発生する地震任せに見えますが、
規模を問わなければ、沈み込み帯や海嶺、衝突帯など
プレート境界と呼ばれるところでは
しょっちゅう地震は起こっています。
常時観測と情報ネットワークの体制があれば、
データは自動的に入手できます。
そうなると後はデータ解析の手法や
アイディアの勝負となります。
今回紹介している論文のそんな一つです。

・峠越え・
このエッセイは予約配信しています。
今週初めに1泊2日で調査に出ました。
今年最後の野外調査になります。
山間の峠を通るルートを
予定しているので、雪が心配です。
山では積雪のニュースが流れました。
我が家の車は、まだ冬タイヤには交換していません。
もし雪なら峠越えのルートは、
変更することになります。
当日の天候次第ですが。

2024年10月24日木曜日

3_222 内核の回転 1:液体と固体の核

 核のシリーズの第三弾となります。シリーズごとに、地球の奥深くに入ってきています。今回は、内核の実態を解明したという論文を紹介していきます。まずは、内核の地球における意味を考えておきましょう。


 このシリーズからは、内核の話題となります。核全体は金属鉄できていますが、内核は固体の鉄で、外核は液体の鉄を主成分としています。外核の外側には、岩石できたマントルや地殻があります。鉄と岩石が別れているのは、地球のでき方によると考えらえています。
 太陽系初期には、多数の小天体が衝突合体が起こり、原始惑星ができます。その時、惑星は高温状態になっていきます。小天体の中に含まれていた鉄の成分は、溶けて金属鉄となりますが、岩石と比べて密度が大きいため、地球の中心に向かって落ちていきます。
 その結果、地球の中心部に、液体の金属鉄の核ができたと考えられます。地球形成時に集まってきた熱が、液体の金属鉄の状態で地球内部に蓄えられたことになりました。
 マントルは岩石ができており、断熱効果が高くなっています。核の熱は、そのまま核内に保存されやすい条件となります。ところが、マントルは、対流やプレートテクトニクスにより、物質の移動が起こっています。物質移動に伴って、内部の熱い物質が地球表層で冷やされることで、熱が外に向かって移動していくことになります。地球全体としてみると、形成時の熱が、少しずつ地球外に放出されていることになります。
 外核が液体で、内核が固体の鉄になっています。この相の違いは、金属鉄の密度の差で説明できます。ほぼすべての物質(H2Oは除く)は、固体の密度が液体より大きくなります。そのため、核内でも液体金属の鉄が結晶化すると、固体の鉄ができ、密度大きいため、中心部に向かって落下していきます。
 マントルへ対流により核から熱が運ばれて、核の冷却が起こります。液体の物質で温度が下がっていくと、結晶化が起こります。冷却が進むと、固体の鉄が中心に集まり、固体の内核が成長していきます。
 液体の金属鉄は、地球の自転に伴って対流することで、電流が起こって地場を発生します。これが地磁気の原因だと考えられています。
 核は、液体の中に固体があることになります。固体の部分は重力により中心に固定されていることになります。では、内核は、地球の自転や外核の対流などの影響は受けていないでしょうか。
 それに関する報告が出されました。それは次回としましょう。

・秋の深まり・
秋も深まり、紅葉も進んでいます。
朝夕の冷え込みも厳しくなってきました。
そろそろ初雪の報告がありそうです。
今月末に今シーズン最後の野外調査に出ます。
それま山に積雪がなければいいのですが。
積雪があると露頭が見づらくなります。
山なのでしかたがありません。
しかし地殻に温泉があるので、
冷えた体を温めることができるでしょう。

・研究計画・
後期の講義も5週目になってきたため
大学も落ち着てきました。
落ち着いた状態での日常が過ごせています。
研究は順調に進んでいます。
今年度で退職なので、論文も著書の執筆も
これが最後と思い進めています。
いずれも順調に進捗しているので、
今後もこのまま進めていければと思っています。
とはいっても、もうかなり進捗しいるため
次年度以降の研究計画を考えていこうと思っています。

2024年10月17日木曜日

3_221 最外核の水素富化層 4:水素に富む層

 合成実験の結果、核物質がマントルの含水鉱物と反応することがわかってきました。反応により核物質は、密度が小さく、地震波速度が遅くできることがわかってきました。これがE"層になると考えました。


 マントルの含水鉱物と核の鉄ケイ素の合金が、どうのような反応したのでしょうか。高温高圧実験の結果を紹介していきましょう。
 マントルの含水鉱物の中にある水の成分(とはいっても、水酸基OHとなっていますが)が反応します。核のケイ素が酸素と結びつき酸化ケイ素になり、鉄は水素と結びついて鉄水素合金(FeHx)となることがわかってきました。それぞれの成分が、反応により、別の結晶になっていくということです。
 マントルと核の境界で、マントルの水(OH)と核の最上部の物質(Fe-Si)と反応が起これば、核の最上部、もしくはマントル-核の境界に、酸化ケイ素と鉄水素合金ができることになります。合成実験は境界部の条件で実施しているので、境界部にそれらの結晶が安定に存在する可能性を示しています。
 その部分を、キムらは論文のタイトルあるように「水素富化層(hydrogen-enriched layer)」と呼びました。この層ができると、密度が小さくなってき、地震波速度も遅くなってきます。
 前回紹介したように、マントルの最下部にはD"層が広く分布していることが明らかにされてきました。D"層は、境界に沈み込んだスラブだと考えられるので、含水鉱物が境界部の存在していると考えられます。プレートテクトニクスが古くからはじまっていれば、沈み込んだスラブとして含水鉱物が定常的に核-マントル境界に送り込まれることになります。物理化学的条件さえ整っていれば、この実験の反応が起こり、核の最上部にE"層が広くできている可能性があります。もしかすると、地球全体に広がっているかも知れません。これが、シリーズの最初に紹介した、E"層の実態ではないかという報告になります。
 もしそうのような状態になっていれば、詳しい地震波の解析ができれば、検知できるかもしれません。今後、E"層の実態のより正確な解明が必要でしょう。また、D"層とE"層との関係、あるいは両層の相互作用の解明が必要になるでしょう。両者がいつできたのかなども、問題になってくるでしょう。
 地球深部には、まだわからないことが多々ありますね。

・秋の風物詩・
10月中旬なって北海道では秋が深まってきています。
紅葉も落葉も進んでいます。
自宅では、何度かストーブも炊きました。
冬への準備としてエアコンの雪囲いもしました。
まだ雪虫の大群は見ていません。
毎日のように自宅も研究室でも
冬ごもりするカメムシの大群の襲撃を受けています。
脅かさないように、穏やかに退散を願っています。

・最後の調査・
9月の野外調査を終えて、
研究費が少し余っています。
今月末に1泊の調査に出ることにしました。
遠出も長期もできないので、近場での調査にしました。
紅葉が進んでいるでしょうが、寒さも同時にあるので、
山地での野外調査もそろそろ最後になります。
紅葉を楽しみながら、今シーズン最後の調査を
味わってこようと思っています。

2024年10月10日木曜日

3_220 最外核の水素富化層 3:工夫された試料

 核とマントルの境界を想定した高温高圧実験が進められました。核もマントルも、想定される組成の試料ではなく、工夫を凝らした成分を用いています。そんな成分を用いたのには、どのような目論見があるのでしょうか。


 キムらは、タイヤモンドアンビルを用いて、E"層を再現する実験をしました。外核のもっとも上部と、マントルの最下部の境界の条件での実験となります。用いた試料は、核を想定した鉄と、マントルを想定したケイ酸塩鉱物を使っています。ただし、いずれの試料にも、純粋な金属鉄やケイ酸塩ではなく、工夫が凝らされています。
 核を想定した試料は鉄だけでなく、鉄とケイ素の合金にしています。これは、核の最上部は、地震学のデータからは、純粋な鉄ではなく、鉄とニッケルの合金(鉄:90%、ニッケル:10%)ですが、それより密度が小さいことがわかっています。つまり、密度の小さい元素が混じっていることがわかっています。その候補として、水素や炭素、酸素、イオウ、ケイ素などが考えられていますが、いずれかはまだ決着を見ていません。しかし、この実験では、ケイ素を用いています。
 マントルはカンラン岩からできています。マントルのカンラン岩も、深くなるほど、より高密度の結晶に変わったケイ酸塩鉱物の組み合わせへとなっていきます。ところが、実験ではケイ酸塩だけでなく、含水鉱物(ケイ酸塩やアルミケイ酸塩などで水酸基を含む鉱物)を用いています。
 含水鉱物にしているのは、スラブを想定しているためです。スラブとは、海洋プレートが海溝で沈み込んだものです。スラブは、海洋地殻とマントル物質が混じったものになります。上部・下部の境界のマントル(遷移帯と呼ばれています)でいったん滞留した後、マントル下部へと落ちていくと考えられています。
 スラブには海洋由来の水の成分が混じっている可能性があります。ただし、水といっても、岩石の隙間などに含まれているもの(間隙水)は、高温高圧でなくなっているので、結晶水として鉱物に組み込まれている必要があります。結晶水、つまり含水鉱物として、地球深部まで持ち込まれることになります。ただし、どのような含水鉱物かは、明らかになっていません。
 核もマントルの物質のいずれも、未知の部分があります。しかし、いずれも仮定の上で実験は進められています。核では、軽元素をケイ酸と考え、鉄とケイ素の合金を用いています。マントルでは、含水鉱物をを含んだケイ酸塩鉱物としています。両物質が、核マントル境界の条件で反応したらどうなるかという実験です。そこから、E"層の実態に迫ろうという目論見です。
 次回で、いよいよ実験の結果を見ていきましょう。

・梱包作業中止・
本の入稿が終わり、初校の戻ってきました。
今週中に修正をして、
来週早々にもどす必要があります。
これが最優先の作業となります。
また、これまで集めた砂の試料が
博物館で引き取ってもらえることになりました。
試料の発送のための荷造りも必要になりました。
大量の重い荷物になるので
家内にも手伝ってもらうことにしていす。
先週をこの荷造り作業を実施する予定でしたが
体調不良で中止しました。
できれば今週にしたいのですが、
どうなるでしょうか。

・体調を考えて・
最近、体調不良や健康診断での再検査など
医者に通うことが多くなっています。
常用薬も3種となってきました。
年相応ということなのでしょうが、
無理ができなくなります。
ところが研究へと意欲と
成果の生産量は衰えていません。
いや年齢とともに増えてきているように思います。
ただし、これも定年をすると一段落になるので、
抜け殻状態になりそうです。
退職後の準備も怠りなく
ソフトランディングをするように
考えていかなければなりませんね。

2024年9月26日木曜日

3_219 最外核の水素富化層 2:ダイヤモンドアンビル

 E"層は、地球のかなり深部になるので、非常に高温高圧の条件になります。そのような条件で実験を進めていくことになります。どんな装置で実験をしていくのでしょうか。


 最下部マントルと外核の境界は、超高温高圧となっているため、通常の実験装置では、再現がしがたい条件となります。特殊な装置を利用することで、その条件を達成していきます。
 その装置とはダイヤモンドアンビル(Diamond anvi)と呼ばれているもので、聞き慣れないものです。ダイヤモンドとは、皆が知っている宝石のことです。アンビルとは、もともとは金床(かなとこ)という意味で、ダイヤモンドを支える台座を意味します。つまり、ダイヤモンドを台座として高温高圧を発生する装置となります。
 タイヤモンドアンビルだけは、手のひらほどの小さな装置で高圧を発生できます。それはダイヤモンドが小さいためと、圧力発生する仕組みが小型であるためです。
 圧力の発生は、通常は巨大なピストンで押し付けていくため、高圧を発生するのに、大きな装置が必要になります。しかし、単純な原理で小型にする方法があります。
 圧力をかけたとき、かかる場所の面積によって圧力のかかり方は変わってきます。同じ圧力でも、かかる場所が広ければ単位面積当たりの圧力は小さくなり、狭ければ狭いほど大きくなります。したがって、ハイヒールで踏まれたり、針で刺されると、非常に痛いものです。それは狭いところには、非常の大きな圧力がかかるためです。
 2個のダイヤモンドの細い先端を少しだけ平らに削り、その狭い面同士を合わせたところに試料を入れます。その2つのダイヤモンド全体を、ネジで締めていけるようなジグを用います。ネジを締めていくと、合わせ面にすごい圧力が発生します。
 この装置の有利な点は、圧力をかけた状態で、レーザ光線で加熱していきます。ダイヤモンドは透明なのでレーザやX線を当てて、高圧状態で物質の性質を調べることができます。ただし、面積が小さいので、実験に使える試料も少なくなります。また、実験に用いるダイヤモンドは高価なものなので、それなりの経費が必要になってきます。
 キムらの研究では、タイヤモンドアンビルを用いて、外核のもっとも上部の条件を再現しました。その結果は次回としましょう。

・7回目の調査・
9月には2度の野外調査をしました。
幸いにも、天候にも恵まれて
予定してた通りに進めることができました。
申請時の計画では
すべてで7回を予定していたのですが、
予算的にはもう一回は厳しくなっています。
そのため、最後だと思っています。
少しだけ予算が残っているので
近場に重要な地点を見つけて、
1泊の予定で調査をしようかと考えています。
しかし、だいぶ先のことになりそうですが。

・パソコン更新・
メインのパソコンを9月に更新しました。
多様なソフトや大量のデータを使っているため、
メインとなるパソコンを入れ替えるためには
長い時間が必要になってきます。
問題は、新しいシステムになると
古いアプリケーションが動かくなることがよくあります。
アプリケーションの設定のやり直しも
アプリケーションの数だけあるので
手間もいっぱいかかります。
8月に購入していたのですが、
切り替えに時間がかかるので、
時間的余裕のできる9月に
更新することにしました。
いろいろなことが重なっているため
9月は忙しい日々となります。

2024年9月19日木曜日

3_218 最外核の水素富化層 1:E"層

 前回のシリーズはD"層についてでした。今回のシリーズは外核のE"層についてのシリーズです。E"層とは、現在あまり使われていない名称ですが、外核のもっとも外側の部分のことです。E"層の様子を探る研究が報告されました。


 前回のシリーズでD"層についての実態解明が、なされつつあることを紹介してきまた。核とマントルの境界付近には、まだよくわかっていないE"層と呼ばれる層があります。ところが、E"層は、あまり使わわれていない名称です。
 E"層の名称の由来を紹介しておきましょう。かつて、地震波による地球の内部を、地表からA層(地殻)、B層(上部マントル)、C層(マントル遷移層)、D層(下部マントル)、E層(外核)、F層(外核と内核の境界)、G層(内核)の7層に区分されてきました。外核がE層となり、E層のもっとも外側をE"層として区分され呼ばれています。
 今回紹介するのは、E"層の実態を明らかにしようとして研究がされました。アリゾナ州立大学のキム(T. Kim)さんたちの研究グループが、2023年11月13日発行のNature Geoscience誌に、
A hydrogen-enriched layer in the topmost outer core sourced from deeply subducted water
(深くに沈み込んだ水から供給された最外核の水素に富んだ層)
という論文を報告しました。
 この論文内で、E"層という名称が使われています。D"層同様に、最外核でも地震波が遅くなる領域があります。数十~数百kmの幅を持っているため、E"層と名付けられています。
 外核は、地球の深部で溶けている金属鉄を主成分とし、マントルはケイ酸塩からなるため、化学的特徴が非常に異なっています。そのため、この境界部は非常に特別なものです。マントル側はD"層として研究されてきているのですが、E"層はあまり研究がされていませんでした。高温高圧の条件であることもさることながら、化学的特徴が異なるため、実験も難しくなっています。
 今回の論文では、その境界の実験を進めています。どのようは工夫をしているのでしょうか。詳細は次回としましょう。

・シリーズが3つ連続・
いくつかの重要だと思える核に関する
論文がたまってきています。
それを順番に紹介していくことにしました。
前回も今回も含めて、
核やマントルの境界に関する論文3つを
連続のシリーズとして紹介していくつもりです。
核はその存在は古くから知られていたのですが
研究方法がなかなか開発できず、
最近になって研究が進むようになってきました。

・野外調査中・
現在、野外調査中なので、
このメールマガジンは予約配信しています。
来週からは、後期がはじまるので、
野外調査が集中して進められるのは9月だけです。
そのため、9月が忙しくなります。
さらに今年度で退職なので
校務としての野外調査も最後になります。
噛み締めながら、野外調査を進めています。

2024年9月12日木曜日

3_217 外核とマントル最下部 3:D"の広がり

 この研究で、南半球のD"の様子を観測がされました。これまでの知見を塗り替えるようなものが、見つかってきました。問題は、なぜそうなっているのかです。ここから科学がはじまりそうです。


 ハンセンたちの研究チームは、手薄な南半球の地震波を計測するとにしました。しかし南半球は海が多いため、南極大陸に15箇所の観測点を設置しました。そして、3年にわたってデータを収集していきました。
 その結果、南半球のマントルの底には、広範囲にD"(超低速度帯ULVZと論文では呼ばれています)が発見されました。D"は、これまで考えられていたよりも、ずっと広範囲に広がっていることがわかっていました。
 さらに、D"の厚さは濃度はさまざまですが、マントル下部全体に広がっている可能性もでてきました。これまでD"はないとされていたところも、薄いものがあるかもしれません。
 D"の由来は、沈み込んだメガリスがあります。これは低温のD"となります。ところが、南半球には、海が多いのですが、海洋プレートがマントルに大量にもたらすような沈み込み帯が、多くはありません。では、この南半球の広範囲のD"、あるいは全地球のマントルの底に広がるD"は、いったいどこから由来したのでしょうか。
 沈み込んだメガリスが、マントルに底を流動しているかもしれません。そのようなことが起こりうるでしょうか。シミュレーションや岩石の高温高圧での物性に関する研究が、さらに必要でしょう。
 一方、D"には温かいものもあります。これは、古いメガリスが温まったものという考えがありますが、別の可能性も指摘されてきました。外核は液体の鉄で活発な対流をしています。その対流とともに、液体の鉄に含まれている成分で、岩石に取り込まれやすい成分(親石元素)や揮発成分(水素、酸素など)が、マントルの岩石に反応して取り込まれたという考えもあります。そのような成分を含んだマントル物質も温まり地震波が低速度になっていくと考えられています。
 またマントルの岩石が、外核に対流の熱によって、少し溶融しているとも考えられます。少し溶融してていても、地震波速度は小さくなります。
 D"の実体が少し鮮明なってきました。しかし、まだまだわからないことがいろいろあります。ここから、新しい科学がはじまっていくことになりそうな予感がします。

・野外調査・
9月の新学期がはじまります。
野外調査を連続的に進めています。
その傍ら、本の執筆の最終段階を進めています。
9月は研究を進めることがいろいろあるります。
その他に後期の校務も9月から
本格的にスタートしました。
忙しくて、あっという間に
9月は過ぎていきそうです。

・9月は忙しい・
8月上旬に購入していた、
新しいPCのセットアップを
9月に入って進めています。
このPCは、退職後に使うためのもので用意しました。
小型のコンパクトなものです。
小さいですが、新しいシステムになります。
するとそこでは動かない
アプリケーションがいくつもあります。
工夫でなんとなるのか、
それとも、諦めて代替のものを探すのか。
その判断もしていかなければなりません。
9月は忙しいです。

2024年8月29日木曜日

3_216 外核とマントル最下部 2:D"の由来

 プレートテクトニクスでは、海洋プレートが沈み込んで、マントル対流が起こると考えられています。その実体は複雑なものです。沈み込んだ海洋プレートの行方はマントルにとどまり、やがてマントルの底にたどり着きます。


 前回、核とマントルの境界(CMB)にある不思議な層について紹介しました。その層は、D"(Dダブルプライム)と呼ばれています。D"は、薄い領域(厚さ5~50kmほど)で、境界に連続した層となっているわけではありません。領域として、境界部の部分的に、その存在が分散していると考えられていました。
 D"は、地震波速度が異常に小さくなっている領域なので、超低速度帯(Ultra Low velocity zones ULVZと略されています)と呼ばれることがあります。実体としては、沈み込んだ海洋プレートだと考えられています。ただし、その履歴は複雑なものになっています。その履歴をみていきましょう。
 海溝で沈み込んだ海洋プレートは、マントルに入っていきますが、密度の釣り合うマントル遷移層に滞留します。海洋プレートがマントル内で滞留したものを、メガリスと呼んでいます。メガリスが、マントルにしばらく滞在していると、周辺のマントルの温度が高いため、温まってきます。温度変化のため、メガリス内の結晶が、より高密の構造に変わっていきます。その結果、メガリス全体の密度が、遷移層や下部マント物質より大きくなり、ある時バランスがくずれ、下部マントルの中を落下していきます。メガリスはやがてCMBに達します。
 このメガリス、つまり沈み込んだ海洋プレートが、D"だと考えられています。海洋プレートに由来しているため、上部マントル物質に海洋底堆積物や海洋地殻が混在した岩石となっています。高密度になっていたとしても、下部マントルとは、明らかに異なった物質となります。そして、地震波速度は、非常に小さい値をもつことで、超低速度帯として見分けられています。
 このD"が、CMBに長期間滞在することで、温まってくると、やがて周りより密度が小さくなってきます。そのため上昇しやすくなります。上昇するD"が、大きなマントルプルームとなります。
 現在、アフリカの大地溝帯をつくっているマントルプームと南太平洋のマントルプルームの2つができています。これが、プルームテクトニクスの重要な要素なっています。
 ただし、この上下するプルームは地震波で調べていくのですが、南半球のマントル最下部が、実は、まだ詳しく調べられていませんでした。なぜなら、南半球は陸地が少なく、地震波の測定が詳しくできていないためでした。
 アラバマ大学のハンセン(Samantha Hansen)とその共同研究者は、その地域を調べて、2023年4月「Science Advances」誌に報告しました。タイトルは、
Globally distributed subducted materials along the Earth's core-mantle boundary: Implications for ultralow velocity zones
(地球のコア-マントルの境界に沿った全地球的に分布する沈み込み物質:超低速帯との関連)
というものです。
 その詳細は次回としましょう。

・月末はバタバタと・
今週は、集中講義があったのですが
無事終わりました。
いくつかの校務があり、
査読論文の返却がありその締切があります。
本の最終修正も終えたいと考えています。
完成後、印刷屋さんと調整に入ります。
医者の検診も入っています。
9月上旬に野外調査を再開します。
1週間の長期になりますので、
その間の校務をすべて調整していき、
今週にすますべきことが多くあります。
少々バタバタしています。

・休みの日に・
週末には停電とネットワークの停止、
医者の診療などで、
土曜の午後から月曜日まで
2日半の間、不在となりました。
その間、自宅で日曜大工をする予定をしています。
壊れたブラインドをカーテンに交換して、
エアコンの室外機に木枠をつくり
その上にビニールシートをまいて
冬越としようと考えています。
さてうまくできるでしょうか。

2024年8月22日木曜日

3_215 外核とマントルの境界 1:異質な領域

 最近、核に関する報告がいくつかあったのですが、しばらく眠らせていました。そこで、今回3つの論文をまとめて、紹介していこうと考えています。まずは、外核とマントルに存在する不思議な層の話題です。


 地球深部は、直接岩石を入手して調べることができません。地震波を利用するころで、ある程度調べることができます。ただし、詳細に調べることは、なかなか難しいです。しかし地球の内部の概要は古くからわかってきており、地震波の詳細な解析で少しずつ、わかってきました。
 まず、地球の表層から、地殻、マントル、核という層構造を持っています。それぞれの構成物の密度や組成がかなり異なっているため、地震波速度の違いとして見分けることができます。
 それぞれの層は、さらに詳しく調べられて、区分されてきました。地殻は大陸地殻と海洋地殻に、マントルは遷移層を境界に上部と下部に、核は外核と内核に分けられています。
 大陸地殻は花崗岩(とその変成岩)、海洋地殻は玄武岩(斑レイ岩)からできています。マントルは、カンラン岩の仲間ですが、深くなると密度や温度が上がるために、より高密度の結晶に変わっていき、別の岩石になっていきます。そのような結晶の変化が起こるところが、遷移層となっています。下部マントルは高密度のカンラン岩(ペロブスカイトという鉱物が多い岩石)からでています。核は金属の鉄からできていますが、外核は液体の鉄、内核は固体の鉄となっています。
 観測技術が進んでくると、各層のそれぞれ違いも、地震波の詳細な解析から見分けられてきています。そのひとつに外核とマントル最下部の境界があります。かつてはグーテンベルク不連続面と呼ばれていましたが、現在ではCMB(core–mantle boundary)と略されることが多いようです。
 外核は液体の鉄でできており、マントルは固体の岩石からできています。この境界は、非常の大きな変化、違いがあるところになります。核が液体の金属の鉄からできているの対し、マントルは固体の酸化物の珪酸鉱物を中心としています。非常に異なった境界となっています。
 ところが、詳しくみていくと、両者の間に、異なった物質からできている領域があることがわかってきました。ただし、その領域は、明瞭は層となっていませんでした。
 その領域について、新しい報告が出されました。それは、次回としましょう。

・集中講義・
今週は集中講義を担当しています。
この講義も、今年が最後となります。
夏の暑い時期の講義になるので、
午前中は西向きの教室で
午後は東向きの教室で実施することにしています。
最近は教室にエアコンが入るようになったので
涼しい部屋で講義ができます。
それでも太陽が入らない教室がいいので
午前と午後で移動して実施します。

・復調・
だいぶ体調が戻ってきたので、
集中講義もなんとかこなせるかと思っています。
ただし、もともと集中講義は
4日間連続して実施するので、
体力的、精神的に疲れます。
声も枯れそうです。
連続した講義ならではの有利な点もあるので、
その良さを利用しています。

2023年6月29日木曜日

3_214 内核の話 5:内核形成のはじまり

 前回は、カンブリア紀の強磁場から内核の成長の話でした。今回は、それより前、エディアカラ紀にあった超低磁場から、内核の形成時期についての話です。内核はいつできたのでしょうか。


 地球ダイナモの原理によって、地磁気は外核の流動で起こっています。外核の活動は、地磁気の変動となります。過去の地磁気の変動は、古地磁気として記録されているので、試料と技術があれば、読み取ることが可能になります。内核の成長に関する変動を、古地磁気から探る方法は、外核の変動から間接的ですが、捉えることにできました。
 しかし、内核がいつできたかは、よくわかっていません。内核の形成がはじまったころは、地磁気への影響も少なかったでしょうし、少しずつ一様に成長したとすると、その変動はかすかなものになるはずです。
 内核の形成を調べるのには、主に2つのアプローチがあります。ひとつは、熱力学的モデルからのアプローチです。熱力学的モデルによると、内核の成長開始は、25億年前から約5億年前までの20億年間にわたる推定がありました。あまりに長い期間にわたるため、形成過程はまだ十分には解明されていることにはなりませんでした。
 2016年、Geophysical Research Letters誌に、Driscollさんの論文
Simulating 2 Ga of geodynamo history
(地磁気のシミュレーションによる20億年の歴史)
で、詳しくシミュレーションされました。
 論文によると、17億年前より以前は強磁気ダイナモが多極子になり、17億~10億年前は強磁場ダイナモは主に双極子になり、10億~6億年前は弱磁場ダイナモで非軸性双極子に、そして6億年前から現在は内核の形成後の双極性の強磁場ダイナモになると推定しています。いずれも正確に古地磁気が読み取られれば検証可能です。
 アメリカのロチェスター大学のBonoさんらの共同研究で、Nature Geoscience誌に2019年に掲載された
Young inner core inferred from Ediacaran ultra-low geomagnetic field intensity
(エディアカラの超低磁場強度から推定された若い内核)
という論文です。
 エディアカラ紀(約5億6500万年前)のSept-Ile貫入岩類の斜長石と単斜輝石で、古地磁気の強度を調べました。その値は、これまで調べられたもっとも低いものになりました。現在の磁場強度の10分の1以下しかないことになります。地球ダイナモのシミュレーション、高い熱伝導率などから、エディアカラ紀ころに内核が形成されはじめたと考えました。
 また、2つの異なる方向の極性があることから、Driscollさんの熱力学的モデルによる「6億年前から双極性」という推定と一致していました。
 内核は6億年前ころから形成されはじめて、成長してきたようです。

・帰省・
6月末から4日間、京都に帰省します。
帰省初日の夜に、息子たちと会食します。
その後は、実家で親族と会います。
今年の正月に母が亡くなったので
墓参りをして、その後親族と
いろいろ相談しておきます。
初盆に帰省しようとしたのですが、
暑さと混雑が予想されたので
この時期にしました。
初盆などは親族におまかせすることにしました。

・日々精進・
先週、徳島から高知にかけての
太平洋岸沿いを調査しました。
メインは、四万十層群を調べることです。
気づいたら、もう6月も終わります。
サバティカルの期間のうち半分が経過しました。
目標の半分が達成できたかが問題です。
なかなか、予定通りには進みません。
しかし、日々、精進をしています。

2023年6月22日木曜日

3_213 内核の話 4:地球ダイナモの更新

 内核の変化を、外核の変化から推定していきます。外核の変動は、ある時代の形成された岩石の、古地磁気の測定から調べることができます。ただし、その考え方は、いくつかの段階を経たものになります。


 前々回、内核の歪な成長の観測から、内核の形成が新しかったのではないかという報告を紹介しました。今回は、2段階のステップで内核の起源を考える論理になります。
 2段階とは、まず古地磁気を探ることで、地磁気の発生源の地球ダイナモの変化を知ることができます。地球ダイナモは、外核の流動によるものです。外核の流動は、マントルを通じての熱の放出によって駆動されていると考えられています。熱の放出は、外核の結晶化と内核の成長率に影響を与えます。つまり、古地磁気の変動は、内核の成長の変動と対応しているとみなしていきます。
 内核が成長する時は、地磁気が強くなると推定されています。逆に成長していない時は、地磁気が弱くなっていくことになります。この考えを用いた報告がありました。2022年のNature Communications誌に、アメリカのロチェスター大学のZhouさんたちの共同研究で、
 Early Cambrian renewal of the geodynamo and the origin of inner core structure
 (カンブリア紀初期の地球ダイナモの更新と内核構造の起源)
という報告がなされました。
 古地磁気の変動として、エディアカラ紀(約5億65000万年前)に非常に低い地磁気になっていたことがすでに知られています。そこから強い地磁気に戻っていきます。しかし、この変動の期間のデータが不足していました。
 この報告では、カンブリア紀初期(約 5億3200万年前)に形成された斜長岩を用いて、空白の期間を埋めるために、地磁気を測定しています。この観測データから、エディアカラ紀の低い時と比べて、5倍も大きい強度になっていることがわかりました。短期間に急激に変動したことになります。
 超低強度の地磁気の定義データから、変動の開始は5億5000万年前ころからと推定されました。その時期を変動の開始年代と仮定して、熱モデルを作成したら、3300万年以内で回復していきました。また、内核が現在のサイズの50%(半径620km)まで、約4億5000万年前には成長していたと考えられます。この50%という値は、前々回示した地震波異方性が見つかった位置に相当します。
 エディアカラ紀からカンブリア紀にかけて、内核の成長に大きな変化が起こっていたようです。
 今回の報告と、前々回紹介した報告は独立した研究でした。いずれもいくつかの仮定やモデルを用いたもので、観測データを説明しています。そこには検証性が少々問題がありそうでした。それが、今回、関連がでてきました。このような独立した方法での関連は、検証性を高めていくように見えます。

・四万十層群・
このエッセイは、予約送信しています。
今回は、徳島から高知まで、
太平洋沿岸を調査して回ります。
海岸沿いのルートは、決まっているので、
以前にも訪れた露頭も多く巡ることになります。
しかし、典型的な露頭は、
何度みてもよく、いろいろと考えることもでてきます。
四万十層群で、さまざまな産状を見て回っています。

・梅雨・
梅雨になりました。
気象庁によれば、四国は5月29日に
梅雨入りしているとのことです。
6月上旬には台風の影響の大雨もあり
涼しい日も続いています。
梅雨のない北海道からきたので、
久しぶりの梅雨を体験していますが、
まだ蒸し暑い日があまりないので助かっています。

2023年6月15日木曜日

3_212 内核の話 3:逆回転か

  このシリーズでは、内核に関する最近の論文をいくつかまとめています。内核の存在はよく知られていますが、その実態は必ずしもよくわかっていません。今回は、内核が逆転しているという報告を紹介します。


 液体の鉄の中心部に固体の内核があります。液体の内部に固体が釣り合った状態であることになるので、自由に動くことができます。地球は自転しているため、その影響も受けるはずです。
 しかし、内核がどのように運動(回転)しているのかについては、いろいろな説があります。今回は、固体の内核の運動についてのものです。
 2023年1月23日にイギリスのNature誌の姉妹誌「Nature Geoscience」に、Yi YangとXiaodong Songの共著の論文、
 Multidecadal variation of the Earth's inner-core rotation
 (地球の内核の回転の数十年の変動)
が発表されたました。この論文は、タイトル通りに、内核を通る地震波の観測データを、過去数十年間分集めて、検討していき、変動を調べています。
 内核は地表に対して振動しているとしました。その振動の周期は、一往復に約70年かかり、約35年毎に回転方向が変わるとしています。報告によると、2009年ころに回転が一度停止し、その後逆回転をはじめことになり、次の変化は2045年ころにかわると想定しています。
 内核を通過する地震波の変動はすでの多くの研究者が検出していますが、そのデータの説明には定説がありません。内核の運動に関するどのようなモデルを用いるかによって、いろいろな説があるようです。また、どのモデルでも観測データを完全には説明できないようです。
 回転方向の変化の周期には、約6年ごと、あるいは20から30年ごととする説、また2001年から2013年に大きく変動し、その後静止しているという説など、さまざまなものがあります。
 外核の運動は、地球ダイナモを駆動していると考えられているので、外核の変動は地磁気への影響がありそうに思えます。内核の動きが、地球全体や、表層環境にどのような影響があるのでしょうか。それはまだ不明です。

・雨の日もある・
台風の通過の後、四国山地の中心部を
東から西に横切るルートで野外調査をしました。
主には三波川変成岩と四万十変成岩を
見ていくことが目的でした。
メインの場所は、大歩危周辺でしたが、
2日目は雨で見ることができませんでした。
3日目は晴れていました。
しかし、増水で河原へはいけませんでした。
川船に乗って遠目で眺めることにしました。
今回は、4日間のうち、2日間は雨でした。
晴れは移動の初日と3日目でしたが、
まあ野外調査にはこんな時もあるでしょう。

・競争的研究費の採択・
先日、競争的研究費の採択通知が届きました。
研究成果を公開するためのもので
専門書2冊の印刷出版を申請しました。
以前から継続してるシリーズの出版です。
サバティカルの初期の作業として
2冊の本の推敲、編集、校正作業がありました。
初校の推敲を2つとも終わりました。
あとは、時間をおいて再度校正を繰り返します。

2023年6月8日木曜日

3_211 核の成長 2:歪な内核の成長

 内核の成長が、歪になっていることがわかってきました。インドネシアとブラジルの下では、内核の成長に違いが見つかりました。この観測から、地球の歴史や熱の歴史へと、話が波及していくことになりそうです。


 内核は鉄の結晶でできていますが、調べる方法は地震波となります。地震波の伝わり方を詳しく調べることで、一様でないことがわかっています。内核の深さとともに地震波速度が変化していること、内核の境界部が歪な形をしていることが見つかっています。
 赤道(東西)方向に伝わる地震波よりも、南北方向に伝わる地震波の方が速くなっています。ブラジル(東半球と呼んでいます)と比べると、インドネシア(西半球)が大きくなっていることがわかりました。成長の程度でいうと、東側のほうが60%ほど多く結晶ができていると見積もられました。西側では、半径が年間 1 mmの成長することになります。インドネシアの方が結晶化が進むということは、冷めやすいことも意味しています。
 このような地震波速度の変化は、核の力学的成長と鉄の結晶の物理的計算からシミュレーションしていくと、結晶が一定の方向を向いて成長(異方性といいます)していることで説明できました。インドネシア側だけが速く成長していることになり、観察のデータと一致しました。
 さらに、結晶の成長速度から、内核がかなり短時間で形成されてることが推定されました。これは内核の形成が若い(15億年前から5億年前)という説にも合っていました。
 内核の形成が、最近、内核が若いといわれてきています。しかし、30億年前にはすでに、地球には現在と同じ程の地磁気があったことはわかっています。現状の地球ダイナモに匹敵する磁場が、かつては液体の鉄だけで発生していたことになります。それは、現在の地球ダイナモとは異なったメカニズムになりそうです。そこについて、再考が必要になるかもしれません。
 また、もし15億年や5億年で今のサイズに成長してきたのなら、今後、液体の鉄がどの程度の期間、残るのことになるかも、気になります。
 このような内核の成長過程は、地球の磁場の歴史、あるいは熱の歴史にも大きな影響がありそうです。

・四国山地・
今回も、予約送信しています。
四国山地に沿って東から西に向かって
野外調査をしていきます。
中央構造線の南側に沿って
険しい山並みが四国山地になっています。
構造線や山並みは東西に走っているので
東西の谷沿いに道があります。
ただし、険しい山中なので
移動に時間がかかりますが。

・台風2号・
台風2号による線状降水帯が
四国を通り抜けました。
2日には、町で緊急警報がでました。
高齢者等避難の状態でした。
激しい雨が降っていました。
洪水と土砂災害が心配でしたが、
3日には晴れ間が戻ってきました。
野外調査に出れるのでホッとしています。

2023年5月25日木曜日

3_210 核の成長 1:金属の鉄

 地球の中心にある核に関する論文が、いくつか集まってきましたので、今回から、まとめて紹介していこうと考えています。まずは、核の基礎的な知識からはじめていきましょう。


 地球内部は、地震波から探ることができます。地震波から、構成している岩石の密度や状態(液体か固体か)、温度などを推定することができます。その結果、地球の内部は、外側から、地殻、マントル、核(コア)に区分されました。地殻とマントルは岩石ですが、両者の密度が違っていました。それは、岩石の種類が異なっていることになります。
 核は、金属の鉄からできています。核の内部の状態から、同じ金属鉄でも融けている液体の部分と固体の部分があることがわかってきました。核では、マントルの温度が低いため、核の上部を冷やすことになります。そこでは、結晶化が起こり、液体より固体のほうが密度が大きいので結晶は沈んでいきます。固体が沈み、中心部にたまり、内核となっていきます。
 結晶の沈降や低温の液体鉄の密度差によって下降流が生じ、外核では年間1mほどの速度で対流しています。さらに、地球の自転によって対流が変化して、南北に細く伸びた円筒形がいくつも並んで回転している様子もわかってきました。
 このような回転する対流では、磁場が発生します。対流が継続するので、磁場の中を伝導体の金属鉄が流動することで、大きな電流の流れができ、地球全体がひとつの磁石のような磁場(双極磁場といいます)をもつことなると考えられています。このようは仕組みは、地球ダイナモと呼ばれています。地球の最深部の運動が、地球の外側の磁場を生み出していることになります。
 液体の核で固化が続けば、外核はだんだん減少していき、固体の内核は成長を続けていることになります。では、成長している内核は、きれいな球状になっているのでしょうか。それに関して、2021年6月のNature Geoscienceに次のようなタイトルの論文が掲載されました。
Dynamic history of the inner core constrained by seismic anisotropy
(地震学的異方性によって制約された内核の動的歴史)
カリフォルニア大学バークレー校のフロストさんたちの共同研究となっています。この論文によると、どうも核の成長に偏りがあるようです。その内容は、次回としましょう。

・3度目の調査・
3度目の野外調査にでています。
淡路島と香川を中心に調査していきます。
淡路島ははじめて訪れるところです。
四国の西側に住んでいるので
四国を東西に縦断することになります。
高速道路がつながっているので
一気に進めるのですが、
距離があるので、疲れないように、
休み休みいくしかありません。
このエッセイは、現在調査中なので、
予約送信をしています。

・時間と忍耐と・
あれよあれよという間に
サバティカルに来て、2ヶ月近くも経過しました。
目的を達成するには、調査もさることながら、
研究も進めていかなければなりません。
予定していたことを、
少しずつ進めていますが、
地道な努力が必要な作業なので
時間だけでなく、忍耐も必要です。
今は、淡々と文献を読むこと、
原稿の推敲を進めていくことになります。

2022年12月29日木曜日

3_209 下部マントルの鉱物 6:課題

 隕石から見つかったアルミニウムを含んだブリッジマナイトは、下部マグマオーシャンでできた可能性が指摘されました。しかし、いくつかの課題を解決する必要もありそうです。


 下部マグマオーシャンの鉱物を推定して、それに相当するものが、特別な条件をもった隕石の中から見つかりました。しかし、下部マグマオーシャンの鉱物と隕石の鉱物が同じとみなすには、いくつかの課題を解決しなければなりません。
 課題として、現在の下部マントルの化学組成、下部マグマオーシャンの条件、下部マントルと下部マグマオーシャンの関係、隕石の衝突溶融の場とマグマオーシャンの関係などを解決していく必要があります。
 下部マントルのブリッジマナイトにアルミニウムが多く含まれているという推定では、下部マントルを原始的なマントル(primitive mantle)を想定して合成実験をしているものが多くあります。原始的マントルでは化学的分化をしていない、アルミニウムが多いという前提条件をおいているため、アルミニウムが多いブリッジマナイトが合成されてきます。その前提を隕石の衝突場は満たしていました。しかし、もし下部マントルも化学的分化をしていたら、アルミニウムが多い下部マントルにはなっていないかもしれません。
 2つ目の下部マグマオーシャンの条件は、現在の下部マントルの条件まで溶けていたかどうかです。溶けていた範囲の見積もりには、数10kmから2000kmまであります。小さな見積もりであれば、現在の下部マントル(深度は660から2700km)に達していません。大きな見積もりならば、2000kmまでマグマになっていたと考えられますので、下部マントルまで達しています。下部マントルのブリッジマナイトが下部マグマオーシャン由来と考えるならば、下部マントルの大部分まで溶けていたということになります。どこまで融けていたのかが今後の課題です。
 もし下部マントルまでマグマオーシャンになっていたとしたら、液体状態なので、速い対流が起こっていたはずです。化学的分化が活発で表層では、アルミニウムがもっと濃集するような状態で、月の高地を形成している斜長岩の陸地が形成されていたかもしれません。そうなると、下部マグマオーシャンのアルミニウムが枯渇していくことになります。
 隕石の衝突による溶融場は、瞬間ですが高温高圧状態になります。報告された隕石は、普通コンドライトという未分化の母天体が変成作用を受けてできたものです。衝突で溶融したところを、下部マントルあるいは固化した下部マグマオーシャンと見立てています。核の成分が分化していたのでしょうか。普通コンドライトでは分化していません。もし鉄が分化していなければ、化学的条件が異なってきます。化学的条件をどう考えるのでしょうか。
 現在の地球と隕石と比べるためには、多くの前提条件を設けなければなりません。課題がまだまだありそうです。しかし、今回の発見は、研究の進展に大きな契機になります。課題をひとつひとつ解決していくことで、新たな展開が可能になるはずです。現在と過去の地球内部が、隕石と関連させて捉えられていくようなことも進んでいくはずです。

・COVID-19との1年・
コロナ禍での生活も3年近くなりました。
初期と比べると驚くほどの感染者数ですが、
聞き慣れて驚きもしない情報になりつつあります。
感染対策も当たり前で、自粛も慣れっこになってきました。
感染者も身近に多数でています。
COVID-19とともに暮らした1年となりました。
来年以降は、COVID-19もインフルエンザのように
当たり前の感染症になっていくのでしょうか。

・ご愛読に感謝・
今年最後のエッセイとなりました。
この1年間、愛読ありがとうございました。
2000年9月にこのエッセイを発行をはじめて
22年以上も毎週発行を継続できました。
発行当時はメールマガジンも新しい手段でしたが、
今で文字だけのシンプルな形式は
多数のインターネットの情報の中に
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2022年12月15日木曜日

3_207 下部マントルの鉱物 4:ブリッジマナイト

 隕石内の衝突の痕跡で、高温高圧状態の鉱物がみつかりました。以前に見つかっていた同じ鉱物とは、化学的特徴がかなり異なっていました。その違いは何を意味するのでしょうか。


 隕石から、再びブリッジマナイトが見つかったという報告がありました。2021年10月に、PNAS(米国科学アカデミー紀要)に
Natural Fe-bearing Aluminous Bridgmanite in the Katol L6 chondrite
(カトールL6コンドライトから天然の鉄を含むアルミニウム・ブリッジマナイト)
という論文が掲載されました。カトール(Katol)という変成をうけた普通コンドライト(L6に分類されるよく見つかる隕石)から、高温高圧条件でできる鉱物であるブリッジマナイトを発見したという報告です。発見自体は、前回紹介したように、別の2種の隕石から見つかっており、鉱物となり、命名もされました。別の隕石ですが、再度、同じ鉱物を報告するということは、新知見があったからです。鉄を含み、アルミニウムに富むブリッジマナイトというべき特徴を持っていたことが、新しい発見となります。
 カトール隕石でブリッジマナイトが見つかったのは、衝突で岩石がいったん溶けて固まった部分でした。衝撃によって発生した高温高圧条件(約23〜25GPa)で、瞬間的ですが岩石(母天体と隕石)が融けてマグマができ、再度岩石として固まったという場が想定されます。
 最初に見つかったブリッジマナイトは、頑火輝石(エンスタタイト)の組成((Mg、Fe)SiO3という構造式)の鉱物が、高温高圧条件でペロブスカイト構造になったものです。
 今回見つかったのは、論文のタイトルのように鉄とアルミニウムを含んだブリッジマナイトでした。以前に見つかったものもマグネシウムも含んでいるのですが、カトール隕石のものは、鉄とマグネシウムの比率も違っています。
 ブリッジマナイトの他にも、メージャライト(majorite)と硫化鉄も一緒に形成されています。鉄(Fe3+)の比率(Fe3+/ΣFe = 0.69 ± 0.08)が共存するメージャライト(0.37 ± 0.10)とは違っているのですが、これは合成実験の結果と一致しています。
 なによりも、アルミニウムを含んでいることが、大きな違いとなっており、新知見となります。アルミニウムを含むことが、どのような意味をもつのでしょうか。次回としましょう。

・大雪・
北海道は先週はじめから、寒波の来襲しました。
各地でも大雪になってのですが、
わが町でも今シーズン、はじめての大雪となりました。
前日に激しい降雪でしたが、翌日は晴れました。
わが町で、はじめて除雪車が入りました。
いよいよ冬本番となりました。
私は完全に厳冬期仕様の装いとなっています。

・前泊・
このエッセイは前週末に予約配信しています。
月曜日に校務があり、
車で出張することになっていました。
先週同じ地域に出張された先生の話しによると
高速道路がアイスバーンになっており
50km/h制限となっていて、夏より1時間以上も、
時間がかかるとのことです。
朝から校務があるので、
急遽、前泊することにしました。
そのため、日曜日の午後からでかけます。
幸い宿も取れたので、時間を使ってしまいますが、
重要な校務を優先することにしました。
卒業研究も一段落したので、のんびりしてきます。