2012年6月14日木曜日

3_110 下部マントル 2:SPring-8

マントルと核(コア)は、岩石と鉄、固体と液体という大きな性質の違いがあります。地球深部の大雑把な特徴はわかっていますが、下部マントルの実態はよくわかっていません。今回、下部マントルは上部マントルとは違うことが分かってきました。その結果は、日本が誇るSPring-8という巨大な世界最高峰の装置を使っておこなわれた実験によるものでした。

 上部マントルと下部マントルの境界は、遷移層とよばれています。遷移層が形成されるのは、上部マントルの鉱物が、より高温高圧の条件になるため、より高密度の鉱物に変化(相転移といいます)するためだと考えられています。上部マントルの岩石を構成する鉱物は、数種類あるため、一度に相転移がおこるのではなく、条件に差があります。その差が、遷移層の幅を生んでいると考えられます。
 上部と下部のマントルは、相転移によって物性が違っていますが、マントル全体の化学組成は、一様なのではないかと考えらていました。それは、マントル対流で物質が循環されているからです。しかし、検証されているわけではありませんでした。
 以前紹介したエッセイで、愛媛大学の入舩さんたちが、高温高圧発生装置とSPring-8を使って、遷移層の下部には、ハルツバージャイトと呼ばれるカンラン岩があることを明らかにしました。それは、沈み込んだ海洋プレートに相当するもので、周囲のマントルのカンラン岩とは異質な成分があることを示していました。
 SPring-8とは、兵庫県の播磨科学公園都市にある大型放射光施設です。ここでは、世界最高の放射光を発生することができます。電子を光速近くまで加速し、磁力によって曲げる時に発生する強力な電磁波を利用します。この電磁波は、いろいろな物質を通り抜けぬけることができる強力なものです。電磁波を、非常に細く絞ることができ、微小な物質の性質を調べることができます。
 しかし、遷移層より深部の下部マントルの様子は、入舩さんたちの装置では達成できな高温高圧条件でした。
 その限界を突破したのが、東北大学の村上元彦さんたちのグループでした。報告は、先ごろ、科学雑誌(Natureの2012年5月3日号)に報告されました。彼らの装置は、温度2700℃、圧力124万気圧(124 GPa)を発生できるものです。マントルと核の境界(グーテンベルク不連続面と呼ばれています)は、深度2890mにあり、3200~4200℃、134万気圧(136 GPa)という条件になると考えられています。ですから、村上さんたちの高温高圧発生装置で、マントルの底付近の条件を再現できることになります。この装置でマントル物質を高温高圧状態にしたまま、SPring-8を使って鉱物の性質を調べることがなされました。
 超高温高圧装置とSPring-8を用いておこなった実験の結果、上部マントルと下部マントルは、組成が違っていることがわかりました。
 その詳細は次回としましょう。

・SPring-8の紹介・
研究者にとっては、最先端の装置が
利用できるのは素晴らしいことです。
装置は価格、必要設備、維持管理によって、
大学や学部、学科、研究室の単位で導入されます。
もっと巨大になると国家予算、
あるいは国際協力によって導入されます。
日本が世界に誇れる装置はいくつかありますが、
SPring-8の世界に冠たる装置でもあります。
今まで多くの実績を上げてきましました。
その紹介ビデオが以下にあります。
豊かな未来を照らす光 SPring-8(平成21年制作)
http://youtu.be/pvFnXbkCfvs
見えなかった世界が見える(平成17年制作)
http://youtu.be/ONW_7eHxpNU
また、年間の運用費用は約80億円強です。
安いと思うか、高いと思うかは人それぞれでしょうが、
私は安いものだと思います。

・ダイヤモンド・
高圧高温発生装置は、小さなものです。
ただし、ダイヤモンドを2つ用いておこなわれます。
尖った先を向きあわせて、締め付けて高圧を発生します。
平底よりピンヒールの靴に踏まれるほうが痛いのと同じで、
面積を小さくすると、
かけた圧力が何倍にもできます。
そこに、レーザーをあてて高温にします。
このような装置をダイヤモンドアンビルといいます。
宝石の単結晶ダイヤモンドを用いますので、
効果な装置です。

・青森行・
今日(6月14)の昼に青森に向けて大学を発ちます。
教育実習の現地指導のためです。
ゼミの担当の先生が行く予定ですが、
担当の先生が別件で不在なので
空いている私がいくことになりました。
まあ、ゼミは違えど同じ学科の学生です。
頑張っている姿を見学してきましょう。