2012年2月23日木曜日

5_102 イトカワ 1:国際公募

2010年6月13日の「はやぶさ」の帰還から1年8ヶ月が立ちました。その後も研究者ははやぶさが持って帰って試料を取り出し、初期の分析をして、やっと試料の研究者への公開にこぎつけました。その内容をシリーズで紹介していきましょう。

 2012年1月24日、JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)が、「はやぶさ」サンプル国際研究公募をはじめたというニュースが流れました。これは「はやぶさ」がイトカワから持って帰ってきた試料の初期分析が終わったので、一部の試料を世界の研究者に公開して研究してもらおうというものです。貴重な試料なので、公募によって研究計画を集め、それを審査して、試料を提供するものです。採択された研究者は、無料で提供を受けられます。ただし、成果の公開は不可欠ですが。
 試料の国際公募(国際AOと呼ばれています)に先立って、回収された試料の一部の初期分析がされました。初期分析とは、代表的な試料のカタログづくりのために、試料の各種の分析、その結果による同定と分類などがおこなわれました。それがカタログとして公開されています。
 初期分析は非常に興味深いもので、そのデータを誰も出したいですし、データ自体も欲しいものです。その分析と使用権は、日本の選ばれた研究者が優先的に行使できます。「はやぶさ」を開発し、運用した日本に先優権があるのは当然でしょう。また日本に協力したNASAにも次く権利があるので、一部試料が2011年12月にNASAに送られました。
 初期分析の成果は、2011年8月26日発行のアメリカの科学雑誌「Science」の特集号として6つの論文が報告されました。論文のタイトルや内容を手短にまとめました。全体像を表していないかも知れませんが、次のようなものでした。
・鉱物学的研究からS型小惑星と普通コンドライト隕石が類似している証拠(中村ほか)
・酸素同位体組成から普通コンドライトからなる小惑星から由来した証拠(圦本ほか)
・中性子放射化分析から太陽系最初期の元素分別を保存していた(海老原ほか)
・X線マイクロCTによる3次元構造からイトカワのレゴリスの起源と進化を解明(土`山ほか)
・電子顕微鏡によるでイトカワの表面での初期宇宙風化の解明(野口ほか)
・希ガス成分による太陽風および宇宙線照射の歴史(長尾ほか)
の6つです。これは中間的な報告なので、まだ研究中のものあるはずで、今後も成果は公開されていくでしょう。この特集は、「Science」誌によって2011年の科学ニュースのトップ10に選ばれています。
 公募の締め切りは3月7日なので、今研究者たちは、申込書(proposalと呼ばれています)を必死で書いていることでしょう。興味がある方は、誰でも応募可能です。ただし、英文での申請書を書くこと、クループであることが望ましいとなっていますが。
 試料や初期分析からわかってきたことは、次回としましょう。

・proposal・
私は、応募することはできませんが、
どのような方が応募されるか楽しみです。
それ以上に、どのような発想で研究をされるかに
興味が惹かれます。
このような貴重な試料は、
貴重さゆえに、proposal通りに分析できデータがでれば、
それだけで一流の科学雑誌に掲載される可能性があります。
つまり、proposalが採用された時点で
成果がえられたと同等なのです。
だから、みんな必至でproposalを書いているはずです。
ただし、小さい試料なので、
「腕に覚えのある」研究者でないとデータは出せませんが。

・仕事の締め切り・
大学は今は、ちょうど、はざかい期です。
入試発表と次の入試の申し込みの間になっています。
空白のように校務が空いています。
こんな時期こそ、個人的にやりたい研究が
一番進むはずなのですが、
原稿の締め切りや雑用などがあり、
なかなか進みませんが。
まあ日本のどこのだれをつかまえても
暇であるはずはありません。
給料をもらっている人であれば、
いつも何らかの仕事を持っているはずなので、
暇だということはないのです。
私は、そんな仕事の締め切りに追い詰められています。
だから、今日も忙しいのです。

2012年2月16日木曜日

5_101 隕石年代 4:水の形成

隕石の中の炭酸塩鉱物の年代が、今まで正確に決めることができませんでした。それが、今回、精密に決められるようになりました。正確な年代値によって、太陽系の母天体の形成時期、その天体での水の形成時期などが推定できるようになりました。

 隕石の中の炭酸塩鉱物の年代を求める難しさと、その解決法が見出されたと紹介ました。今回は実際の測定とその結果、意義を紹介していきましょう。
 分析は、二次イオン質量分析計を用いてなされました。二次イオン質量分析では、炭酸塩の鉱物の表面にイオンビーム(一次イオンと呼ばれています)を当てます。もちろん炭酸塩鉱物の分析した面をきれいに出しておく必要があります。イオンビームがあたった鉱物表面からは、原子がイオン(二次イオン)として飛び出してきます。電荷をもったイオンを、磁界の中を高電圧をかけて飛していきます。イオンは質量数の違いに応じて、曲がり方がかわってきます。その違いを利用して、質量数ごとの違い(同位体)を計測するものです。数個の質量数を同時に補足できるので、同位体比として精度よく測定できます。
 今回の報告は、二次イオン質量分析計の中でも、ナノシステムという最先端ものを用いてなされました。
 未知の試料の測定値を組成がはっきりわかっている試料の測定値で補正することで、より正確な測定値を求めます。組成がはっきりわかっている試料とは、前回紹介したように、藤谷さんたちが人工的に合成したものを使用されています。
 新たに開発された最先端の手法を用いて、4種類の炭素質コンドライトの分析がなされました。それまで炭酸塩鉱物は不確かな年代しかなったのですが、45億6340万年前に集中することが明らかになりました。
 この年代は、45億6820万年前といわれている太陽系の誕生後、480万年ほどあとです。それまであった年代の矛盾(太陽系誕生より炭酸塩鉱物の年代が古い)は解消され、一定の年代に収まったことになります。年代が定まったことで、炭酸塩鉱物の形成の意義が明瞭になるはずです。
 炭酸塩鉱物が、水の存在のもとで形成されると考えられていることは、前に紹介しました。炭酸塩鉱物が、小惑星のような母天体でできたとすると、天体の温度変化から、母天体の形成は太陽系誕生後350万年後であったと推定されています。
 水は生命誕生の条件として非常に重要な成分です。それが太陽系の天体において、いつできたのかを限定することは、重要な情報になります。それを限定することに、今回の成果は大きく役立つことになります。

・データ整理・
空き時間を用いて身辺整理をしています。
紙データをなんとか整理して
一杯になった書棚のスペースを空けたいと考えています。
まずは、自分自身の論文の別刷りの整理をしました。
最近の論文はPDFファイルがあります。
古い論文のPDF化をしました。
それによって別刷りの古いのを
保存分を除いて大量に処分しました。
また、大量の古い論文もあります。
最近はPDFで論文が配布されているので、
紙は最小限で済ませているのですが、
以前収集した大量の紙の状態の論文があります。
それはまだ手が出ませんが、
必要なデータだけを取り出してファイルしたものが
本棚1段半ほどあります。
それをデジタル化したいのですが、
なにせ古いので、スキャンしてもトラブルを起こし
なかなかはかどりません。
でも、思い切ってしなければと思っています。
砂の試料も保存場所がいっぱいなので
整理が必要になります。
でも、最優先は2月末の締め切り論文の執筆です。
現実逃避にならないように、
優先順位を忘れないようにしなくては。

・冬と春・
暖かい日が来るようになったのですが、
激しい吹雪、寒さも繰り返しています。
1月は寒さが増し、冬も深まっていると感じましたが、
2月も中旬になると、
着実に春に向かっていることを感じます。
大学は、現在、追試がおこなわれています。
そして企業説明会もおこなわれています。
これも冬と春の混在でしょうか。

2012年2月9日木曜日

5_100 隕石年代 3:合成鉱物

科学は、いろいろな発想でおこなわれます。その発想のなかに、既存でないものはつくれというものがあります。「つくる」という言葉は、いろいろな字があてられますが、そのすべてが科学の発想の現場では使われます。今回の発想は、「創る」でしょうか。

 炭酸塩鉱物として、方解石(炭酸カルシウム、カルサイトとも呼ばれています)がよくみられるものです。カルシウムとイオンとしてのサイズが似ているものとして、マグネシウムやマンガンがあります。カルシウムとマグネシウムが混じっている苦灰石、ほとんどマグネシウムになっているものは菱苦土石(炭酸マグネシウム)、ほとんどマンガンの菱マンガン鉱などがあります。いずれもよくある鉱物です。
 一方、マンガンには、半減期370万年の放射性核種(質量数53の53Mn)があり、クロム(53Cr)にかわります。このような放射性核種は、今の太陽系に材料をもたらした超新星爆発によって形成されたものです。短い半減期のものが、なくなるまでに鉱物とりこまれ、崩壊でできた核種も鉱物にのこされているようなものであれば、それは年代を決めるために利用できます。53Mnが炭酸塩鉱物として取り込まれた後、崩壊して53Crになっているものがあるとすると、超新星爆発後、非常に短い時間で鉱物ができており、その年代を決めることができます。
 Crには、もともとからあった53Crも含まれています。それに53Mnが崩壊して加わった分があります。この崩壊による53Crが量、過剰分を、正確に測定できれば、年代測定に利用できます。原理と実際の測定とは違います。
 まず、分析の精度を上げるために、放射性核種の比を用いることがあります。分母には8割をしめる52Crを用いて、53Crを分子で測定します。分析は二次イオン質量分析計を用いるのですが、Crの同位体比はある程度精度よく測定できます。
 Mnの量が多いと、53Crの量も多くなります。その見積もりは、Mn/Crの比によって決められるのですが、実は、この比を精度よく測定することが難しかったのです。
 違う元素同士の比であるMn/Crは、正確に比のわかっている試料(標準試料)と未知の試料の測定をして、補正して決めていかなければなりません。未知の試料が炭酸塩鉱物であれば、標準試料も炭酸塩であるべきです。ところが、Crを測定に充分な量を含んだ鉱物はありませんでした。それが、精度を上げることができない理由でした。
 今までの研究でも測定はされてきたのですが、精度が悪く、太陽系の年齢より炭酸塩鉱物の方が古いという、矛盾した結果もありました。
 藤谷さんたちの今回の研究では、クロムとマンガンを含んだ炭酸塩鉱物を、人工的に合成しています。もちろんMn/Crが正確にわかったものをつくっています。それを標準試料として分析に用いたのです。なかなか面白い発想ですが、多分、合成にはいろいろな苦労があったのでしょう。
 その結果は次回としましょう。

・雪まつり・
先日、久しぶりに2、3日、暖かい日が続き、
道路との雪が溶けて、べちょべちょになる
春のような陽気となりました。
でも、すぐに寒さと積雪で冬に戻りましたが。
札幌では今週から雪まつりです。
いつも一番寒い時期なのですが、
今回の温かさの影響はなかったのでしょうか。
我が家では、雪まつりはテレビでみることにしています。
以前、出かけたこともあるのですが、
人が多くて、寒い日だったりすると、
誰かが風邪をひいてしまいます。
だから、テレビだけで見ることにしています。

・与えられた時間・
大学では後期の定期試験も終わり、
現在は、大学の入試の時期となっています。
もちろん、大学教員はそれだけではなく、
レポートやテストの採点、評価。
来年度のシラバスの作成などが必要となります。
講義がない分、時間はあるのですが、
締め切りや大きな校務がつぎつぎとくるので、
落ち着かない時期もであります。
では、いつ落ち着いて研究ができるのかというと、
?????となりますね。
与えられた時間は公平ですから、
どう使うかだけが問題となるのでしょうね。

2012年2月2日木曜日

5_99 隕石年代 2:母天体

隕石の年代は、さまざまな手法で調べられています。技術が進めば、今まで不可能であった物質の年代も測定できます。今回紹介している報告は、技術とアイディアが加わっておこなわれたものです。

 隕石とは、太陽系のどこかの軌道をめぐっていた物体が、地球に落ちてきたものです。隕石は、地球に落ちてきた大きさ、形のまま、宇宙空間にあったわけではありません。地球に落ちてくるときに、壊れたりしていますが、隕石が由来した大きな天体がありした。その天体を、母天体と呼んでいます。
 母天体とは、太陽系初期に、多数形成されたものです。その多くは、軌道上では一番大きな天体(惑星や衛星)に合体されて、軌道上はきれいになり、なくなりました。実際に、地球をめぐる軌道には、母天体は見つかっていません。
 では、隕石はどこから来たのでしょうか。火星と木星の間にある小惑星帯には、多数の小天体があります。母天体の名残の天体が、今もあると考えられています。小惑星帯は、材料は多数あるのですが、大きな天体ができなかった軌道でした。そこには太陽系初期にあった母天体が残っているのです。小惑星帯が、隕石をもたらす場、供給源だと考えられています。
 小惑星帯の軌道をめぐっているのであれば、そこに留まるはずです。ところが、小惑星帯には多数の天体があるので、天体同士が衝突、分裂したり、ニアミスで、軌道が変わることがたびたびあるはずです。その一部は、太陽の引力に引っ張られて、小惑星より内側をめぐる軌道をとるようになります。そのような天体のうち、地球の軌道と交差し、落下したのが隕石となります。ですから、多数の隕石を調べれば、小惑星帯を構成する天体の種類の概要を知ることができます。
 一方、小惑星の表層物質を地球から望遠鏡によるスペクトル分析によって探る方法もあります。小惑星のスペクトルには、いくつかのタイプがあることがわかっています。そのタイプは、隕石の種類と対応させられていますが、実際に試料が入手できない限り、その対応関係が実証されたことになりません。
 はやぶさいってきた小惑星イトカワは、今は地球軌道の近くをまわっていますが、もともとは小惑星帯から由来した天体だと考えられています。ですから、イトカワの試料が手に入ったのは、非常に重要な情報源を得たことになりました。現在、着々と研究は進んでいます。
 隕石の中でも、もっとも原始的なものとして、炭素質コンドライトという種類があります。隕石において「原始的」とは、母天体があまり大きくなく、集まった材料が、ほとんと変化していないままの状態をいいます。炭素質コンドライトを調べれば、太陽系の起源を探ることになります。
 さて今回の報告は、炭素質コンドライトの年代測定をしたものでした。隕石の構成鉱物の年代です。炭素質コンドライトには、有機物や水も含まれていることがわかっています。中でも、炭酸塩鉱物は、母天体に水がある状態で形成されたものだと考えられています。しかし、今まで炭酸塩鉱物の年代測定で、正確な年代を求めることは、なかなか難しかったのです。その年代を、ある工夫によって正確に求めることができました。それは次としましょう。

・イトカワの試料公開・
はやぶさが持って帰ったイトカワの試料の
初期記載が終わりました。
これによって試料が研究者に公開されます。
カプセルからは、284個の微粒が見つかっています。
そのうちイトカワのものでないものや
小さいすぎるものは除かれました。
また、NASAに渡されるものと、
100μmより大きいものは保存されます。
それ以外の試料は、研究者に公開され、
リクエストして審査に通ると
試料が提供され研究できます。
初期的な研究の成果は
科学雑誌に公表されましたが、
それは、別の機会に紹介しましょう。

・イトカワの素性・
イトカワの表層物質は、
炭素質コンドライトではなく、
普通コンドライト(LLというタイプ)とわかりました。
ですから、イトカワは、どこかの大きな母天体で、
いったん変化(分化と呼ばれます)して、
その物質が再度集まってできたことになります。