2014年3月27日木曜日

5_118 だいち 2:5m数値標高

 陸域観測技術衛星「だいち」は、2011年5月で運用が停止しました。しかし、「だいち」が得た膨大なデータが残されています。その解析は、現在も進行中です。その概要を紹介しましょう。

 陸域観測技術衛星「だいち」には、いろいろなセンサーが搭載されているのですが、PRISM(パンクロマチック立体視センサー)とよばれるセンサーがあります。このセンサーは、一度に幅70kmの範囲を、2.5mの高分解能で観測できます。最小の画素が2.5mの範囲になるということです。630km上空から、2.5mのものを識別できる精度となります。地上でこの距離と精度を例えると、東京から高知市内を走る車の色を見分けるほどの能力を持っている、ということになります。
 さらに凄いのは、平面だけでなく、縦方向のデータもとることができます。このセンサーを衛星の前方、直下、後方の3つ方向で独立した撮影できます。3つの画像から、立体視ととともに、地形の標高データも読み取ることができます。その精度は、標高が5mというすごいものです。5m四方の範囲(5mメッシュと呼びます)の平均的標高を5mの精度で表現することになります。全地球の3方向の画像がありますので、陸域の地形データを5mの精度で得ることができるわけです。
 このデータがあると、全地表の精細な3次元的表示が可能になります。実は、日本に関しては、国土地理院がレーザー測量している5mメッシュ標高が、無料で公開されています。ただし、日本の都市部などの限られた地域のみなので、国土を網羅しているわけではありません。ですから今回のデータに、私は非常に期待しています。
 このデータ処理には、ものすごく時間がかかるようです。膨大なデータを処理するのに、高性能のコンピュータ技術と手間がかかります。そこには大きな投資が必要になります。
 JAXAでは、月100枚程度の処理をして、精度の検証や研究などに利用されてきました。(株)NTTデータは、全自動で大量処理をできるシステムの開発をして、月間15万枚を処理できるようにしました。その技術で「デジタル3D地図」を2014年3月から公開をはじめて、2016年3月には全地球のデータが完成するそうです。「デジタル3D地図」のデータは、有償で提供されるようです。1km2あたり200円からだそうです。有料ですから、私には利用できません。
 これまで全世界的に整備された数値標は、2003年にアメリカ合衆国が公開したスペースシャトルの90mメッシュのデータ、アメリカと日本(ERSDAC)が共同で運用した衛星「ASTER」が30mメッシュのデータが2009年に公開されています。いずれも無償で公開されています。私も、利用しています。
 「だいち」のデータも、精度を落とした30mメッシュの標高データが、無償で公開していくそうです。「だいち」のデータのほうが、精度が上がっているはずですので、期待しています。
 30mメッシュであっても、全地球のデータは膨大になるので、入手するのに時間と手間がかかるはずです。でも、日本だけであれば、通常のパソコンでも扱うことができます。公開に期待したいものです。多分あと2年は待つのでしょうが。

・ギャラリー・
「だいち」のギャラリーとして
多数の画像が公開されています。
いろいろな地域の衛星画像があります。
非常に精細なので驚きます。
興味のある方は、
http://www.sapc.jaxa.jp/gallery/
を御覧になられればと思います。

・調査中・
現在、私は、高知に調査にきています。
とはいっても、それ以前にこのエッセイを書いて、
予約送信で配信しています。
本来なら秋に行きたかったのですが、
校務の関係でこの時期にしか時間がとれませんでした。
少なくとも毎年一回は調査に出たいと思っています。
今年は、研究費があたったので、
2度の調査費用が調達できました。
私は、調査ができないと、研究用のデータ収集ができません。
私にとっては、それは非常に痛いものです。
なんといっても、精神的なリフレッシュもできなくなります。
こちらもなかなか深刻な問題です。
来年度も調査に出れることを期待して、
調査を続けることにします。

2014年3月20日木曜日

5_117 だいち 1:陸域を観測

 陸域観測衛星「だいち」は役割を終えて、3年近くがたちました。観測された膨大なデータは、今も分析、解析されています。先日、そのデータが公開されるというアナウンスがありました。「だいち」の役割やデータ、近況を紹介していきます。

 2006年1月24日、H-IIA 8号で打ち上げられた衛星「だいち」(Advanced Land Observing Satellite、ALOSと略されています)は、予定通りの軌道に達しました。
 「だいち」は、陸域を観測するための衛星でした。国内の2万5000分の1の地形図を作成することが、重要な目的でした。高精度の地形図をつくための情報を集めていました。地形変更があれば、すぐに対応できました。ただし、「だいち」は地球を縦にめぐる軌道なので、日本だけに調査を限定することはなく、世界各地で同様に地形データを集めることも可能で、実際に集めていました。そのデータは、アフリカ諸国の地図作成にも利用されていました。
 ほかにも、「だいち」のデータは、災害状況把握、地域観測や資源探査にも利用されていました。環境と調和した開発や地球環境のモニターをしたり、災害状況の把握各国からの要請を受けて、年間100件ほどの大規模災害を観測してきました。新潟県中越沖地震や四川大地震などの災害によるを被害状況も観測してきました。活火山のモニターやハザードマップの作成、不法投棄監視、気候変動の影響監視などさまざまな目的で利用されてきました。ブラジルの熱帯雨林における違法な伐採状況の把握してきました。
 2011年3月11日の東日本大震災には、緊急観測として400シーンの撮影をおこないました。しかし、2011年4月22日午前7時30分頃に、電力が急に低下して、セーフホールドモードに移行し、実質的な観測はできなくなりました。「だいち」は国際貢献として、多くの情報を各国に提供してきました。その貢献のお返しとして、各国から東日本大震災に関する5000シーンの情報が提供されました。
 「だいち」の設計上の寿命は3年以上で、5年を目標としていました。約5年3ヶ月の運用となり、目標は達成できました。東日本大震災の観測を最後として、活動を停止しました。いろいろ修復が試みられたのですが、その甲斐なく全機能が停止しました。2011年5月12日午前10時50分、バッテリーの停止命令を送信して、運用が終了となりました。やがては、大気圏突入して燃え尽きるものと推定されています。
 「だいち」は膨大な陸域の観測をしてきました。650万シーンの撮影をしています。その情報は、今も解析されて、利用できるように加工中です。大量のデータが使用できるアナウンスが先日なされました。それは、次回としましょう。

・数値地図・
私は、数値地図や数値標高などのGISを利用して
データの整理や作図などをおこなっています。
その一環で数値地図などの利用方法に関することも興味をもっています。
以前は高いデータを購入していましたが、
今では、国土地理院やERSDACなどが無料で公開しています。
もともとは国民の税金で収集したデータですから、
無料で公開することは理解できます。
かつては国土情報は非常に重要な軍事秘密でもありました。
しかし、Google Erathのように実際には人工衛星で
地表の様子は軌道上から見ることができます。
秘密は地下に隠すしかありませんが
平和のためには隠しごとはない方がいいでしょうね。

・制度変更・
いよいよ我が大学の卒業式です。
今回は初の試みで、大学のホールを使っての開催となります。
同様に4月1日の入学式もホールに変更になります。
今までの制度を変えると、
賛否両論がわき起こります。
その賛否の議論も重要でしょうが、
もっと重要なことがいろいろ山積しています。
優先順位と重点的に検討するところを
うまく処理しなければなりません。
我が身のこととなると、
ついつい視野が狭くなるのは
戒めるべきことでしょう。
でも、人間ですから、
身近なことに敏感になるのは
しかたがないでしょうね。

2014年3月13日木曜日

1_123 年代区分 2:GSSP

 地層の層序は、常に最新の研究成果を蓄積されて更新されています。研究の結果、時代境界が次々と確定されてきています。時には混乱は起こりますが、確定された時代境界は、合意されたもので特別な手続きを経なければ変えることができないようにされています。

 年代について、いくつか新しいこと決まったので、まとめて紹介しましょう。
 まず、時代境界(時代の始まり、下限)を決めていくことなのですが、現在ICSでは時代境界の定義をしていく作業が進行中です。
 確定された時代は、GSSP(Global Boundary Stratotype Section and Point、国際標準模式層断面および地点)として定義されています。いくつかの条件を満たした野外の地層で、その地点が決められていて、「ゴールデン・スパイク」と呼ばれる青銅製の円盤が打ち込まれています。年代層序表には、確定済のマークが付けらています。
 GSSPは、研究者が勝手に定義をしなおしてはいけないことになっています。再定義しなおすときは、実際の地層に基づいて、GSSPによってのみ変更することになっています。
 さて新生代についてです。新生代は、Paleogene、Neogene、Quaternary(第四紀)の3つ区分されます。
 Paleogeneは、「古第三紀」と名付けられ、はじまりは6600万年前で確定しました。2004年までは6550万年前でしたが、変更になりGSSPとなりました。古第三紀は、暁新世(Paleocne、下限はGSSPで6600万年前)、始新世(Eocene、下限はGSSPで5600万年前)、漸新世(Oligocene、下限はGSSPで3390万年前)に区分されています。
 Neogeneは、「新第三紀」という日本語名が決定され、中新世(Miocene、下限はGSSPで2303万年前)、鮮新世(Pliocene、下限はGSSPで533万3000年前)に区分されています。
 第四紀は、正式な時代名として使うことができます。はじまりは258万8000年前のジェラシアン(Gelasian)からで、GSSPで確定しました。第四紀は、従来通り更新世(Pleistocene、下限はGSSPで258万8000年前)と完新世(Holocene、下限はGSSPで1万1700年前)に分けられます。
 先ほど述べたように、時代境界の定義がされ続けています。それに応じて、層序が変更されていきます。ICSが2013年1月版国際年代層序表が発表したことにともなって、日本語版も2014年1月に修正されました。それが2月の日本地質学会のニュースとして報告さました。
 こまかい年代値が修正されたり、ある時代境界もGSSPになりました。なかでも大きな変更は、ジュラ紀と白亜紀の境界の年代値が、1億4550万年前から1億4500万年前に修正されました。ただし、これは修正であり、GSSPではありません。
 地球の歴史は、研究が進むにつれて、つぎつぎと所定の手続きを踏んで、変更がなされていきます。いつの日にかすべて時代境界でGSSPになるときがくるでしょう。その時、もっとも合理的な地球の歴史の区切りができることになります。それは、遠い日ではないでしょう。
 だたし、カンブリア紀以前は、まだまだ調べていかなくてはなりません。まだGSSPがひつとしかないのですから。

・調査へ・
大学は、最後の入試が進んでいます。
そして、その後は、卒業式となります。
3月下旬はいろいろ大学の行事が多数あり
慌ただしい時期になります。
なのに私は、1週間ほど隙間を縫って調査にでます。
後期のどこかで出かけるつもりが、
忙しくて休みが取れそうにありませんでした。
予算立てしていたので執行しなければなりません。
ですから、ついに切羽詰まって3月下旬に調査をすることになりました。
落ち着いて調査ができるでしょうか。
まあ、出てしまえばなんとかなるはずなのですが。

・春なのに・
北海道は、先週の後半に寒波が過ぎたと思ったら
今度は積雪になりました。
久しぶりに除雪が入りました。
しかし、気温はそれほど低くはありません。
まだ寒さは時々くるでしょうが、
雪は降るかも知れませんが、
春は近くに来ています。

2014年3月6日木曜日

1_122 年代区分 1:境界の決定

 このエッセイでは、何度も新生代の年代区分について取り上げました。第四紀や第三紀の年代区分は、廃止や復活などで混乱し議論がされている状態でした。現在では、それらの問題が決着しましたので、紹介していきます。

 新生代の時代境界にいろいろな問題があったことは、このエッセイでは何度も紹介しました。一番最近の「1_88 第四紀問題3:境界変化」(2009.12.17)では、第四紀の決着がしたことと、第三紀の日本語の正式名称が未定であることを紹介しました。2010年から2012年にかけて、それらの問題も解決してきました。
 まずは、今までの経緯からはじめましょう。
 ことの発端は、国際層序委員会(ICSの)意向を受けてまとめられた"A geological time scale 1989"という本で、第四紀(Quaternary)なくすという方針が示されました。そのときは、あまり問題として顕在化してなかったのですが、2005年春に発行された"A Geological Time Scale 2004"では、第四紀(Quaternary)をなくし新第三紀(Neogene、ネオジン)に併合し、第三紀という区分もなくして、古第三紀(Paleogene、パレオジン)と新第三紀にすると決定をしました。それに伴って、第四紀は学術論文では使えないという方針が、強く打ち出されました。
 確かに第四紀と第三紀の時代境界は不確かなところがありました。そして、もし第四紀をなくすのではあれば、新生代の下の階層は第三紀だけになり、その下位に古第三紀と新第三紀が位置づくという不自然なものとなります。第四紀がなくると第三紀存在の意味も薄れていきます。そんな理由から第四紀と第三紀を廃止するという方向に進んでいました。
 ところが、第四紀の廃止については、国際的、学際的にも大いに議論がわき起こりました。第四紀は、地質学だけでなく、多くの学問分野で定着している術語であり、地質学の分野で廃止をするということは、他の学問分野との整合性がつかなくなります。地質学の関連学会内部でも、いろいろな反対意見がでてきました。
 もし、正式に廃止が決定されると、今後、学術論文では使用できないない術語となります。非常に影響の大きな決定でもありました。
 議論中は、第四紀の廃止については、ペンディングとなり、使用禁止は一時解除され、公式ではないが使用できるという状態になりました。
 最終的に、2009年6月29日のIUGSの理事会は、ICSが提案した第四紀の下限を258万8000年前とすることを承認しました。これによって、第四紀が再定義され、いったん廃止されましたが復活しました。今後の学術論文でも正式名称として使用することができるようになりました。
 第三紀は廃止されたままで、新生代は、パレオジンとネオジン、第四紀という3つの区分になったのです。問題は、日本の正式名称をどうするかということは、まだ未定でした。いくつかの考え、意見はでてきたのですが、2010年1月には日本地質学会が正式な日本名称とともに、第四紀が新しくなり、第三紀は廃止されことが報道されました。
 時代名称について、次回紹介します。

・最新年代層序表・
第四紀と第三紀に関する日本地質学会のニュース記事は
http://www.geosociety.jp/name/content0057.html
に紹介されています。
そして、すべての時代を含めた新しい時代名称は、
2014年1月改訂版は
http://www.geosociety.jp/name/content0062.html
に公開されています。
今後、日本の正式な学術書や教科書類は
この定義に従って表記されることになります。
ただし、2014年版はICSの2013年1月版国際年代層序表
の日本語版となります。

・電子書籍・
私は、知らなかったのですが、
Elsevierから
”The Geologic Time Scale 2012 2-Volume Set, 1st Edition"
という本がでています。
2分冊になっている本です。
先日、早速注文したのですが、
印刷版も電子版も115.00$となっています。
しかし、よくみるとセットで購入すると、割引があり、
138$となっています。
先日注文して、電子版を早速ダンロードしました。
重くもなく場所も取らないので助かります。