2003年10月30日木曜日

5_27 宇宙の昔鏡

 私たちには、「現在」しか感じられません。「過去」は、現在に残された記録や記憶でしか、見ることができないのです。でも、これは本当でしょうか。

 宇宙は広大です。どれほど広大かというと、この世で一番速いとされる光でも、届くのに長い時間がかかります。光は1秒間に30万キロメートルも進みます。秒速30万キロメートルとは、1秒間で地球を7.5周してしまうほどのスピードです。とてつもないスピードのように見えます。
 ところが、宇宙は広大です。たとえば月までの距離を考えると、月の光は、月の表面を発った光は、1.28秒前のものになります。このように考えていくと、太陽系から遠く離れた星の光は、はるか昔にその星をでたことになります。宇宙が広大であることは、「宇宙では、過去がみている」という意味でもあります。逆に言うと、「今」「現在」などというものが存在するのは、宇宙では、局所でしか起こらない現象なのかもしれません。
 さて、この広大な宇宙を利用して、思考実験をして見ましょう。思考実験とは、現実にはできないけれど、頭の中で考えて実験してみるという方法のことです。
 地球を映す鏡が、宇宙空間あるとしましょう。これを「宇宙の昔鏡」とよびましょう。さらに、どんなに遠くにその「宇宙の昔鏡」があっても、その鏡に映った像を、地球から観測できる高性能の望遠鏡があるとします。
 さて、この「宇宙の昔鏡」が月の表面にあるとしましょう。そこに映った地球の像は、月までの距離を光が往復するに要する時間、つまり、1.28秒かける2で、2.56秒前の地球の姿を見ることになります。
 この「宇宙の昔鏡」をずーっと遠くにまで持っていくと、光がそこに届くのに時間がさらにかかることになります。そのために、地球から、遠くの「宇宙の昔鏡」をみると、光が往復にかかった時間だけ、昔の地球の像を見ることになります。もし鏡が1億光年のかなたにあるとすると、その像を地球から見ると、2億年前の地球の様子が映っていることになります。人がタイムトラベルをすることはできないのですが、過去の姿はこの原理によって見ることができるのです。
 「宇宙の昔鏡」は、宇宙が非常に大きいので、「宇宙だけは、過去を直接みることができる例外的なもの」と考えることができます。でも、よく考えると、宇宙というものは大きいし、私たち自身が宇宙の一部に過ぎません。ですから、例外という扱いは、おかしいのかもしれません。私たちが、小さすぎて、例外的な、局所的な見方しかできないのかもしれません。
 「宇宙の昔鏡」は、私たちが宇宙と比べると、あまりにもちっぽけであることを、教えてくれているのです。

・ネタ・
実は、この「宇宙の昔鏡」というのは私がつけたものですが、
このアイディアは昔、本で読んだような気がするのですが、
定かでありません。
もし、だれかがこの考えをどこかで述べたのであるなら、
その人のオリジナリティを尊重します。
しかし、定かでないので、
私が、かなり勝手に考えたものでもあります。

2003年10月23日木曜日

5_26 石は、なぜ硬くなるのか

 ある人から、質問を受けました。深海にたまった微生物の死骸がチャートという硬い岩石になるのですが、それのプロセスがわからないという質問でした。この質問に答えたものから、このエッセイは生まれました。

 素朴な疑問がよくあります。でも、その素朴な疑問を解き明かすには、さまざなま知識の積み重ねが必要となることもあります。堆積物が、なぜ、硬い石、堆積岩になるかということを考えてみましょう。
 チャートは、プランクトンの死骸が集まり、固まってできたものです。プランクトンの死骸のような一見軽い堆積物には浮力が働いてるため、大きな圧力を受けないのでは、と思ってしまいます。しかし、プランクトンが海底に沈んでくる時点で、まず、海水の浮力に質量が勝っているはずです。
 水の密度1g/cm3に対して、プランクトンの遺骸の原料でもあり、チャートを構成する鉱物でもある石英の密度は、2.6 g/cm3ほどあります。プランクトンの遺骸の原料である石は、実は重いのです。ですから、大量に上に積み重なるっていくと、どんどん圧力は大きくなっていきます。
 チャートのもととなる堆積物は、生物の遺骸(石英)プラス水の密度です。つまり、密度は、1から2.6g/cm3の間ですが、上からの圧力によって、圧縮されることで上に水が抜けていきます。これにより堆積物の密度は、より大きくなっていきます。このようにしてプランクトンの遺骸には圧力がかかり、圧縮されていきます。
 岩石になる時には、圧力だけでなく、温度の効果も加わります。
 冷たい海底では、温度は4℃くらいしかありません。なぜ、こんな冷たい海底で温度が加わるのでしょうか。
 岩石は堆積物は断熱効果を持っています。
 陸地での地表の温度を考えると、けっこう温度変化は激しいものです。しかし、地下では地表の気温変化をあまり受けず、年中一定の温度になっています。これは、岩石が地表の気温変化に対して断熱効果が働らいてるからです。つまり、地下に暖かいものがあると、海水が冷たくてもなかなか冷めないということです。
 そんな条件を持っているところに加えて、地球内部からの熱の供給があるのです。つまり、チャートには、圧力が上がるだけでなく、温度も上がっていくという仕組みがあります。地下深くなるにつれて、地殻の温度が上がっていきます。このような効果を地温勾配と呼んでいます。地表付近で地温勾配は、20から30℃/km程度です。それは、地球自身が持っている熱によるものです。堆積岩はそれほど高温にはなりませんが、熱と圧力によって、長い時間をかけて固まっていきます。
 長い時間を経るにしたがって、岩石は一般に圧力と温度が上がるおかげで硬くなっていきます。岩石の固まりぐわいをあらわす方法はいくつかありますが、そのひとつに空隙率というものがあります。空隙率とは隙間の多さのことです。深く埋もれた岩石ほど空隙率は小さくなります。
 日本の岩石でみますと、たまり始めの堆積物は、60から85%ほどの空隙率ですが、1000メートルの深さに埋もれると30%、2000メートルでは20%以下になります。深くに埋もれている堆積岩からは、いまだに水がしぼり出されていることになります。堆積岩が海でたまったものなら、しぼり出される水は、海水です。
 火山のない地帯に温泉がでることがありますが、そのような場合、深いところにある堆積岩からしぼり出された水から由来しているものです。そんな温泉は、地温勾配によって温度が上がったものです。そしてもし、その堆積岩は海底でたまったものなら、温泉は食塩泉つまり海水となります。このような水を古海水と呼ぶことがあります。その古海水は、堆積岩がたまった時代の海水です。食塩泉の温泉につかるということは、古い時代の海水につかるということでもあります。そんなことを考えて温泉に入ってみてはいかがでしょうか。

・素朴な疑問・
素朴な疑問は、以前、シリーズで行ないました。
今回もそんな素朴な疑問でした。
当たり前に思っていることも、考えるとよくわからなかったり、
答えを出すのにいろいろな知識が必要だったり、
その答えは思わぬことを教えてくれたりします。
今回の素朴な疑問も、そんな例でした。
私自身、いろいろなことの関連に気づくという意味でも
なかなか面白いものです。
こんな内容も、これからも時々書いていこうと思います。

・子供から教わる・
ちょっと親ばかになりそうで心配ですが、そんな話をします。
以前、長男(5歳)がカタカナを知らないうちに
覚えていたので驚いた話です。
ひらかなは、教え、書く練習をさせたことがあったのですが、
根気が続かないようなので、
「嫌だったら練習はしなくてもいいよ」というと、
その通りに、ほとんど字を書く練習はしていませんでした。
でも、ひらかなは、つまりながらも
だいぶ読めるようになってきていました。
ときどきカタカナがあると
「まだ、カタカナは知らないから読めないよ」っていいながら
読んで聞かせると、一部おほえているようでしたが、まだまだでした。
しかし、ある時突然、長男がカタカナを読み出したのです。
家内が、車で長男を幼稚園まで迎えに行ったら、
前に止まっている車のボディでカタカナで書かれた文字を、
突然、読んだのです。
その理由を家内が突き止めました。
我が家では、長男がひらかなを覚えるために、
冷蔵庫にひらかなの絵付の表がはってあります。
シールを一杯張っていたり、端っこを次男が破ったりで、
もうぼろぼろですが、テープやシールで補修しながらも、
かろうじて文字が読める状態のものです。
長男がしょっちゅうそこで声を上げて文字を読んでいました。
てっきりひらかなの読む練習をしていたと思っていましたが、
よく見ると、その表には小さな字で
カタカナも書いてあることに、家内が気づきました。
ひらかなと絵を頼りにカタカナを覚えたようです。
人間は興味をもつと、知らず知らずのうちに独習できるのです。
無理に覚えさせようとすると、なかなか覚えられませんが、
「まだ読めないよ」といっていると、それに反発してでしょうか、
独習していたのです。
親ばかではなく、人間の能力のすごさには驚かされました。
大人も見習わなければなりません。
大人はついつい、条件や環境を重視します。
道具がないと始められないとか、
指導者いなとできなとか、
教科書がないと何からはじめていいかわからないとか、
みんなが見ていると恥ずかしいとか、
あれやこれや理由をつけ、
はじめもしないことがいかに多いことでしょうか。
好奇心、興味に任せて、こつこつと
好きなところからはじめればいいではないでしょうか。
それがいちばんの上達の道かもしれません。
子供から学ぶことの基本を教わったような気がしました。

2003年10月16日木曜日

4_40 生の自然:留萌

 夏の終わりに、留萌川の調査に1泊2日で出かけました。もちろん宿泊は、温泉です。ただし、留萌には温泉が神居岩温泉しかありませんでしたので、他の選択肢はありませんでした。

北海道、札幌から80kmほど北に、日本海側に面して暑寒別岳(1491m)を主峰とする山塊があります。山塊の北西の海側には、留萌市があります。山塊の西側を巡る国道231号線は、断崖絶壁の険しい道です。
そんな海岸沿いの道路に一番奥まった雄冬は、陸の孤島でした。まともな道路がなく、船でしか往来ができないようなところでした。いまでも海岸線沿いの道路は崩落危険箇所でもあり、雪や雨、風が強いと通行止めになります。
切り立った断崖絶壁は、地質学者には、じつは、喜ばしいところなのです。なぜなら、断崖絶壁は、岩石や地層が良く見えるところだからです。地質学者には、なかなか見ごたえがある景色となっています。暑寒別の山塊は火山でできています。ですから海岸線の露頭では、溶岩がつくるいろいろな構造や、溶岩が海に入ったときできる構造が見ることができます。
溶岩の構造としては、節理(せつり)というものがいろいろみられます。節理とは、マグマが固まるとき体積が少し減ります。すると溶岩は縮むときに割れ目ができます。このような割れ目を節理とよんでいます。その節理は、溶岩のかたちや冷え方によって、さまざまなものができます。溶岩が固まるときにできる割れ目が柱のようになっている柱状節理、放射状になっている放射状節理などがみれます。
溶岩が海に入ったときできる構造は、特有のなものがあります。マグマが海水に入ると、急激に冷やされるので、割れてしまいます。壊れたものが集まった岩石ができます。マグマは急激に冷えてしまうので、ほどんど結晶もできる余裕もなく、固まってしまいます。このような溶岩をハイアロクラスタイト(hyaloclastite)と呼んでいます。ハイアロ(hyalo)とはガラス、クラスト(clast)とは壊れたという意味で、最後のアイト(ite)と石につける接尾語です。
マグマが急令されても、壊れることなく丸い枕のようになって固まることがあります。でもあとからマグマが押し出してくると、枕状の溶岩が一部に穴が開き、次の枕ができます。これが積み重なったような溶岩もできます。これを枕状溶岩といいます。
ハイアロクラスタイトや枕状溶岩は、火山の噴出物でも海中でできる特殊なものですが、海洋底の岩石の調査が進むにつれて、その様子が良くわかるようになってきました。そして特別なものではなく、陸地にも過去の海底の岩石が持ち上げられたオフィオライトと呼ばれるものにも、たくさんあることがわかってきました。
人を長く拒絶してきた自然は荒々しいものでしたが、そのおかげで、生の自然を目の当たりにすることができました。そして、そんな自然に戦ってきた人の営みを、小さな村々に感じることができました。

・川の調査・
今年も、旅シリーズが続いています。
これは北海道の地質学者にとっては、宿命とも言うべきことです。
しょうがないことなのです。
夏しか調査できないのですから。
そして処理しきれないほどの資料が研究室に積みあげられていきます。
これは、調査には出れない雪の季節に、こつこつと処理していきます。
私の研究テーマは、北海道の川と火山です。
地質学的資料として、川では、石ころ(転石といいます)と砂を採集します。
石ころは、統計処理できるように50cm四方の枠内で
大きいものから順に、100個の石ころを拾い集めます。
北海道の一級河川河川は13個あります。
それを3年ほどで調査し、画像付のデータベースをつくろうと考えています。
火山では岩石資料を採集します。
北海道には100座ほどの火山があります。
できれば、その火山を何とか調査したいと考えています。
これには、時間がかかりそうなので、
慌てないことにしています。
もちろん、どこでも大量の写真を撮影します。
砂は、いたるところで採集します。
また、北海道の川と比較するために、
日本各地の代表的河川の調査をしています。
などなど出かけなければならないところが一杯あります。
でも、一応予定を立てて出かけていますので、
川の調査は、3年ほどで終了するつもりです。
夏にはお付き合い願います。

・留萌川・
留萌川は北海道の一級河川でもいちばん小さいものです。
長さ(幹川流路延長)が44kmで、流域面積でも270平方kmしかありません。
ちなみに北海道でいちばん大きな河川は、
石狩川で、長さ268km、流域面積14,330平方kmです。
こんな小さな川ですが、護岸がいたるところになされて、
自然の川の面影をもはや見ることはできません。
一級河川ともなる資金が導入され、下流の町の安全を守るために、
治水がなされていくようです。
少し、驚かされました。

2003年10月9日木曜日

6_32 大地の造形、海中ハイウェイ

 コバルトブルーの海の上を延々と続くハイウェイ。そんな道を車で走る爽快さは、車が特別好きでない人もきっと感じるはずです。海と空の境界を切り裂きながら走り抜けているような気がして、気持ちのいいものでした。でも、この海上ハイウェイは、私に多様な大地の世界があることを、気づかせてくれました。

 私は、アメリカ合衆国の国立公園が好きで、機会があれば訪れることにしてます。1996年4月にフロリダ半島のケープカナベラルにあるNASAのケネディ宇宙センターを見学に行きました。その時、半島の南にあるエバーグレイズ国立公園とビスケーン国立公園を見学に行きました。さらに、足を延ばして、1日、キーウエスト(Keywest)を訪れました。
 フロリダキーズ(Florida Keys)と呼ばれる島並みを縫うように、U.S.ハイウェイ、ルート1が、フロリダ半島から先端のキーウエストまで続いています。島並みの中ほどにマラソンという町があり、そこから先へは、映画やCMで見かける7マイルズブリッジがあります。7マイルズブリッジは、アップダウンがあり、カーブもあるため、海の上の走っているような爽快な気分になります。
 キーウエストは、ルート1の尽きるところでもあります。キーウエストには、アメリカ本土の最南端(Southern Most Point)があります。本当の最南端は軍の基地がありますので、一般人は入れませんし、さらに先にも島々が続いています。
 ここから、約150kmほど南にキューバがあります。ここまでくると、私には聞きなれないスペイン語が多く聞こえてくるようになります。そんな南の果ての異国情緒のあふれるキーウエストを、文豪ヘミングウェイは愛し、8年間、家族と暮らした家が今では博物館となっています。
 フロリダ半島は、湿地帯であります。湿地帯も多様な環境があります。例えば、湿地帯の中に丸く小さな丘がこんもりとあります。そんなところには木が生えています。湿地の植物がぎっしと支配しているなかに、そんな島のような小さな森があります。植物と共存して、湿地に適応できる動物もすんでいます。なかでも、野生のワニはなかなか迫力がありました。
 こんな平坦な湿地帯では、岩石や地層をみることはむつかしいものです。しかし、私は、たまたま道路際で、電柱を立てるための工事現場で穴を見つけました。そこを覗いてみると、貝がらだけからできている岩石がありました。岩石というより固まりかけの礫が集まったようなものでありました。強く触るとくずれそうなもろいものでした。また、フロリダキーズの島では、マングローブの隙間や海岸に、死んでしまったサンゴが石ころとしてたくさん転がっていました。
 フロリダ半島からフロリダキーズまでは、浅瀬で堆積物を運ぶ大きな川もなく、貝殻やサンゴくらいしか硬いものがない地域なので、そのようなものが、岩石のもととなるのでしょう。でも、土砂からできている堆積岩しかみかけない私にとっては、ちょっと不思議な気がしました。
 私は、降雨量の多い温帯の火山地帯である日本列島に住んでいます。このような環境では、火山岩や山を構成する各種の岩石を起源とする土砂が、川によって海に運ばれ、堆積します。堆積物はやがて堆積岩となり、その一部は、大地になります。そんなことが繰り返し起こっているところが日本列島です。ですから、堆積岩というと土砂が固まったものというイメージが、日本ではできてしまいます。これは、日本人の常識、あるいは先入観というべきものです。
 日本での堆積岩の常識は、あまりにも局所的で、小さいものです。地球はもっと広く、多様なのです。フロリダキーズの石ころは、私にそんなことを気づかせてくれました。
 さらにもう一つ、大切なことをフロリダキーズは、私に気づかせてくれました。
 フロリダキーズやキーウエストで使われてているキーとは、フロリダのこの地域でよく使われている言葉で、サンゴ礁のことを意味します。スペイン語のcayoから由来しています。
 フロリダキーズは、北東に位置するビスケーン湾から、南西のキーウエストまで、弧状に、200kmほども続くサンゴ礁の島のつらなりです。サンゴ礁は浅瀬にできます。ですから、フロリダキーズは、もともと深い海ではなく、弧状にのびる浅瀬に形成された島なみなのです。
 衛星画像や海底地形図を見ると、そのようすをみることができます。浅い海底の地形が連続していて、フロリダキーズはフロリダ半島の延長として大地が続いていることがよくわかります。フロリダ半島は、湿地ですが陸地として海上に恒常的に顔を出しています。いっぽう、フロリダキーズでは、陸地に顔を出している部分は点々として少ないですが、海底地形を見ると、大地が続いているのです。
 フロリダ半島もフロリダキーズも一連の地形的高まりがあり、半島では、湿地帯となり、先端では海の要素が強いサンゴ礁の島の連なりとなっています。つまり、海底にも大地のハイウェイがあったのです。
 人のつくった車数台分の幅の狭いハイウェイより、もっと長く太いハイウェイが、フロリダ半島の先にはあったのです。大地は巨大な造形を、人より先につくっていたのです。人の造形は、人のサイズでしかありません。でも、大地の造形は、そのスケールが違っていました。そんな雄大さをフロリダキーズは気づかせてくれました。
 フロリダキーズ、大地と海の境界に位置するところです。その隙間に人間は分け入っています。でもそれは、もしかすると、ささやかものなのかもしれません。でもそんなささやかな進入にも、私に、爽快感を与えてくれたのです。大地の大きさに比べて、人間のスケールの小ささも感じさせてくれました。

2003年10月2日木曜日

4_39 実物と歴史の重み:ロンドンにて

 今回のイギリスへの旅でも、最後はロンドンでした。3日間ロンドンを見学しましたが、その大部分を大英自然史博物館で過ごしました。そこで感じたことを述べましょう。


 前回の滞在では、大英博物館だけを見ていました。ですから、今回のロンドン滞在では、いろいろなところを見て回ろうと当初は考えていました。しかし、思い直して、ひとつのところをしっかりと見たほうがいいのではないかと思い、大英自然史博物館をみることにしました。
 自然史博物館は、大英博物館が手狭になったので、1880年に現在の場所に移転してきました。現在の建物も立派で巨大ですが、今では手狭になったことと、展示を更新するために、改修、増築がされています。新しくなって、Life GalleriesとEarth Galleriesができ、Earth Galleriesは全く新しい展示となっています。まだ、改修や増築は続いています。
 Earth Galleriesは、現代風の展示手法をつかっています。ストーリーを重視した展示で、子供たちへの教育的目的が強く出ています。Life Galleriesでは、従来の展示手法をそのままにして、コーナーごとに新しい展示をつくっています。環境の展示や人体の展示など、実物より解説やストーリーを中心に、映像や装置を駆使して展示をしています。
 Life Galleriesには、鉱物や化石、生物の昔ながらの展示室が残っています。いわゆる分類展示です。また、樹齢1300年のメタセコイヤの巨大な輪切りやゾウやキリン、クジラの骨格や実寸模型まで、所狭しと昔風のコレクションの展示がおいてあります。その歴史と物量に圧倒されます。
 鉱物の研究者に、スタンレイ氏(C. J. Dtanley)にバックヤードである研究室や実験室を見せてもらいました。そのときに新しい展示室は展示業者が考えたのだといってました。よく聞くと、新しい展示場は暗すぎるし、ディズニーランドのようだと批判的でした。展示を作る人と資料を管理している人、研究者がそれぞれ考えが違うのだともいってました。
 私は以前、博物館に勤めていたのですが、そこでも似たような悩みがありました。いずこも同じような悩みを抱えているようです。
 今まで、大英自然史博物館は、金銭的なことは気にしなくても本来の博物館の業務に専念できました。でもこれからは、国民への還元、普及、教育など重視し、なおかつそれをアピールしなければならないようです。研究者は研究をしていればいいという時代ではなくなってきたのです。市民や企業からの献金やスポンサーなど求めることも重要になってきています。実際にEarth Galleriesの宝石やきれいな鉱物展示のスポンサーには、デビアスというダイヤモンド関連の会社が大きな貢献をしています。
 大英自然史博物館は、いま大きな変貌の時期にさしかかっています。100年以上にわたってつづけてきた自然史博物館の展示手法が変わりつつあります。多分今は模索の時期ではないでしょうか。アメリカ的(デズニー的)あるいは日本的(イベント的)な展示がイギリスの博物館が一番いいやり方なのでしょうか。大英博物館は従来の物量による展示で、いまだに、多くの集客をしています。さて、大英自然史博物館はこれからどうなっていくのでしょうか。
 ひとつ面白いことがありました。美術の大学生でしょうか。博物館内で科学イラストのためでしょうか、いたるところで座り込んスケッチをしています。スケッチをしている場所は、すべての学生は、古い昔ながらの展示室の標本でした。一方、Earth GalleriesやLife Galleriesの新しい展示室ではだれも見かけませんでした。これは、重要な意味あることなのかどうかわかりませんが、なにかを暗示しているような気がしたのは、考え過ぎでしょうか。

・ダーウィンセンター・
ダーウィンセンターとは、大英自然史博物館にある収蔵庫です。
収蔵庫をガラス張りに、作業風景を見せています。
現在完成している収蔵システムは液浸のためものです。
8階建ての建物です。
同じ規模の収蔵庫を、植物と昆虫のために
2007年に完成予定で建てているそうです。
そして、ダーウィンセンターのもうひとつの重要な役割は、
1階の一角に研究者がライブで一般向けに講義を行うことです。
映像装置は整備されています。
専属のスタッフが3名ついて運営しています。
4つの大きなスクリーンを管理する人、
カメラマン、そして司会者の3名です。
これはすばらしいアイディアとだと思います。
300人からの研究者が自然史博物館にはいるのですから、
1年に一度その講義のノルマをこなせば、
毎日の講義が実現します。
これは、すばらしいことです。
毎日、自然史に関する研究者の講義が、
ここでは、無料で行われているのです。

・インベスティゲイション・
学校と一般向きに科学教育をする部屋があります。
博物館の地下の一角にありました。
午前中は3回、学校向けに予約制でおこなっており、
午後からは一般の人向けに予約で利用できるようにしています。
実物資料をトレイに数個入れたものが100ほどあります。
それぞれのトレイは、関連のあるものが入っています。
岩石、鉱物、化石や動植物などあります。
そして、それを自分たちで調べていく仕組みです。
トレイのほかに屋外には、植物が植えてあります。
計測する道具、拡大する道具などを使って、いろいろ調べていきます。
コンピュータを使って名前を決めていったり、
関連の資料を調べたり、
展示場の展示とリンクさせたりしています。
なかなか工夫されているものです。

・アースラボ・
Earth Galleriesには、アースラボというところがあります。
そこでは、イギリスの地質に関する情報や質問などを受けています。
一般の人が自由に利用することができます。
イギリスの代表的な化石、岩石、鉱物の標本が展示されています。
また、地質に関する文献も充実しています。
また、地質学者が常駐していますので、
即座に疑問に答えてくれます。
地質だけにこれだけの勢力を裂いているのというのは
すばらしいことです。
そして、設備や資料もなかなか充実しています。
日本でもまねしてもらいたいのですが、
大英自然史博物館だからできることなのかもしれません。