2012年11月1日木曜日

2_110 ウイルス 2:共通祖先


 ウイルスが生物であるという報告が、今年8月に出されました。その結果を、私は衝撃をもって受け取りました。しかし、生物学界の方では、それほど反響が聞こえてきません。なぜでしょうか。まあ、そんな疑問はさておき、報告をみてきましょう。まずは、タイトルからはじめましょう。
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 私は、ウイルスは生物だと考えています。なぜなら、ウイルスは、生物学の範疇で扱われているし、生物との比較なくしては語れないからです。少なくとも無生物としては、決して扱えない存在だからです。
 生物学では、ウイルスは、「生物と無生物の中間的な存在」とされています。つまり、生物と認めたくない、という主張が見え隠れしています。実際、ウイルスは、前回も紹介しましたが、さまざまな点で生物と大きく違っています。
 ウイルスは、タンパク質と核酸だけで構成されています。核酸は、生物ではDNAとRNAの両方をもっているのですが、ウイルスは、どちらかしか持っていません。ウイルスは、単独でいるときは、生命活動をほとんどしません。他の生物(宿主とよびます)の細胞に入った時のみ、増殖していきます。ただし、自身では材料も用意することなく、エネルギーもつくることなく、すべて宿主の細胞の機能を利用しています。
 生物としての営みを極力排除して、遺伝情報のみをもち、それ以外の機能はすべて宿主のものを利用しています。この生存戦略が一番の違いといえます。生命活動をしていない点を重視する人は、ウイルスは生物ではないと主張します。
 もし、生物とウイルスが進化のどこかの段階で関係が判明すれば、ウイルスが生物であるという重要な根拠となります。その関係とは、生物からウイルスが派生した、ウイルスから生物が派生した、共通の祖先となる生物から派生した、という3つの可能性が考えられます。
 2012年8月24日にナシャーたち(Arshan Nasir, Kyung Mo Kim and Gustavo Caetano-Anolles)が、次のような報告をしました。
"Giant viruses coexisted with the cellular ancestors and represent a distinct supergroup along with superkingdoms Archaea, Bacteria and Eukarya"
 訳すると、「巨大ウイルスは細胞を持つ祖先と共存していて、古細菌、細菌、真核生物などのグループとともに一つの別のグループをなしていた」となります。つまり、ウイルスは、すべての生物と共通の祖先から進化してきたことになるという報告です。
 これは上で述べた、ウイルスが生物を決定づける可能性の3番目のものを発見したこと意味しています。
 もしこの報告が本当であれば、ウイルスは生物だ、もしくは生物であった、ということになります。さてさて、本当のところは、どうなるでしょうか。

・紅葉・
北海道では、秋が里に降りてきました。
里の木々は、一気に紅葉が進み、
葉を落としています。
ある講義で、落ち葉を拾ってしようするので、
雨がふらなければ、絶好の時期となります。
そんな天気になればいいのです。
こればかりは、どうしようもありません。

・Monolog・
次回、論文をもう少し詳しく紹介する予定です。
もしこの報告が本当であれば、
ウイルスを生物扱いすべきだ
という主張が通りやすくなります。
そしてなにより、生物学を
より広いものにしていく可能性が生まれてきます。
詳しくは、別のエッセイで紹介しました。
興味ある方は
Monologの
http://terra.sgu.ac.jp/monolog/2012/130.htm
で見てください。