2018年11月22日木曜日

3_175 マントル内の水 3:SPring-8

 今回の報告は、ダイヤモンドアンビルという小さな装置で、非常に小さい部分でなされた実験でした。その微小部分の結晶を調べるために、世界最大のエネルギーを発生できる、最高の装置で分析しています。

 ダイヤモンドアンビルは小さい装置ですが、非常に高圧を発生することができます。ただし、前回紹介したように、高圧を発生は、ダイヤモンドの先端を少し平らにしたところだけです。非常に小さい場でしか高圧を発生できません。できる結晶も非常に小さいものとなります。それでも、ダイヤモンドを使うメリットがあるからです。ダイヤモンド特有の性質があることで、その場観察ができることです。
 ダイヤモンドは、硬いだけでなく、透明な結晶です。透明ということは、光を通すことになります。通常の可視光だけでなく、レーザー光線やX線なども通します。レーザー光線は、光を通さない物質を高温にすることができます。また、X線は結晶構造を調べるために利用されています。
 レーザー光線を絞れば、小さい部分を高温にすることができます。レーザー光線は比較的小型の装置でも発生できます。レザーポインターを想像すればいいでしょう。もちろん、高温にするために大型になりますが。レーザー光線は、光を似た性質があるので、レンズで絞ることができます。ダイヤモンドは透明ですので、狭い部分であっても、絞ったレーザー光線を当てることで、高温が発生できます。
 ダイヤモンドアンビルでは、ダイヤモンドの先端で高圧を発生し、絞ったレーザー光線を当てることで高温にできます。その高温高圧の状態、つまりマントルの条件を、手軽につくり出すことができる装置です。
 結晶構造はX線で調べることができ、X線が強ければ強いほど、より詳細に調べられます。小さな結晶の構造を調べるには、X線のビームの直径を小さく絞る必要があります。ここに問題があります。X線のビームを絞ると、断面積に反比例して強度が低くなります。つまり絞れば絞るほどX線の強度は弱まっていきます。
 絞ったX線で強度を出すためには、非常に強度の大きい、つまり相当大きなエネルギーをもったX線を発生しなければ、小さく絞ることができません。それを満たすのが、SPring-8なのです。
 SPring-8の加速器では、電子を加速して貯蔵することができます。加速した電子を、磁場で曲げると電磁波やX線が発生します。電子が高速であればあるほど、強いX線が発生できます。SPring-8は、周囲1436mもある大きな加速器です。世界最長のもので、発生するエネルギーも世界最大となっています。SPring-8では、X線を1μm以下に絞ることができます。このサイズのX線ビームであれば、ダイヤモンドの先端に、高温高圧でできている状態のままで、結晶の構造を調べることができます。
 これが、今回の実験に用いられた装置と仕組みとなります。2つのダイヤモンドの先端でおこなう非常に小さな実験ですが、それを分析する装置は世界最大のものとなっています。日本でしかできない実験なのです。

・里の雪・
山は何度も積雪がありました。
でも、里の雪はまだです。
火曜日の朝、少し雪がちらついていたのですが、
積もることはありませんでした。
何度も天気予報では、降るといっていても
雪がないほうが、楽なのですが、
あまりに降らないと少々心配するのは、
いかがなものでしょうか。
このマガジンは火曜日の朝、書いて送信しています。
寒波がきているようなので、
火曜日の夜以降、雪が降るかもしれませんね。

・次なる構想へ・
2つ目の論文が一段落がつき、
3つ目の論文はデータが集まっていなので、
空白の期間ができました。
ですから、例年より少々早めに
次なる著書の準備をはじめました。
あるソフトで作ったもので、
本のときは他のソフトでつらなければなりません。
そのために、まずは図表の移行です。
大量の図があるので、その整理から始めています。
それと共に骨子も考えていきます。
量が多いと大変なのですが、楽しくもあります。

2018年11月15日木曜日

3_174 マントル内の水 2:理論計算とダイヤモンドアンビル

 水酸化鉄が高圧でも結晶として存在できることを発見できたのは、日本が誇るスーパーコンピュータ京でのシミュレーション、ダイヤモンドアンビルで高圧を発生した実験、強力な放射光を発生するSPring-8で分析したものでした。

 前回、マントルに水酸化鉄が存在するという報告をお話しました。この報告を発表したのは、愛媛大学の西真之さんと共同研究のチームで、最先端の装置を用いたものでした。最先端の装置とは、京(けい 神戸市の理化学研究所計算科学研究機構 かつては世界最速を誇ったスーパーコンピュータ)、ダイヤモンドアンビルやSPring-8(兵庫県播磨科学公園都市の理化学研究所・播磨研究所 大型で強力な放射光を発生する装置)などを用いた研究でした。その概要を紹介しましょう。
 水酸化鉄は、鉄を含む岩石が水と反応したときできる鉱物です。水酸化鉄は、玄武岩などで簡単に形成され、比較的低圧で安定に存在する鉱物です。水酸化鉄は、これまで高圧になると分解すると考えられていました。しかし、京を用いて理論計算をしていくと、水酸化鉄は高圧(80万気圧付近)でも分解することなく、より高圧で存在できる結晶構造(パイライト型)に変るという結果がでてきました。
 理論計算(第一原理計算と呼ばれています)では、物理条件によって結晶構造が安定かどうかをシミュレーションしていく方法です。量子力学の理論に基づく複雑な計算なのですが、コンピュータの計算能力が上がったことで、より正確に計算できるようになりました。その結果、水酸化鉄は高圧で分解することなく、別の結晶型になって存在できる可能性がでてきました。あとは、実際に実験で確かめる必要があります。
 高圧でできる結晶ですから、高圧状態にしたまま、結晶構造を調べるという技術が必要になります。そこに登場するのが、ダイヤモンドアンビルとSPring-8という装置です。
 ダイヤモンドアンビルの「ダイヤモン」とは宝石のダイヤモンドのことで、「アンビル」とは台座のことです。ダイヤモンドアンビルは、2つのダイヤモンドを台座にした高圧発生装置です。ダイヤモンドの先端を少し平らにしておきます。先端同士を合わせて、平らなところに試料を入れて高圧を発生する装置です。装置自体はシンプルなものです。
 ダイヤモンドアンビルの原理は、平底の靴とハイヒールのカカトで足を踏まれたときの違いを想像するとわかりやすいです。同じ体重であっても、ハイヒールのように尖ったカカトで踏まれるので、非常に痛くなります。これは、同じ圧力(体重)であっても、面積が小さければ小さいほど、大きな圧力を発生することになります。その圧力の発生の原理を、本物のダイヤモンドを使っておこなった実験となります。
 ダイヤモンドを使うのは、SPring-8の能力を使うためです。その内容は、次回にしましょう。

・例年とは違う天候・
北海道は、寒暖が繰り返しています。
黒岳には、例年に比べて早い初雪ありました。
私の町から見える山並みにも、少し前に冠雪があり、
その後も何度か山には降雪はありました。
里では、まだ初雪がありません。
これは、かなり遅い記録となっているようです。
先週末には日高に野外調査にいったのですが、
雪がなくて助かりました。
今年は、夏の天候も、台風襲来も、初雪も、
例年とは少々違っているようですね。

・頭を使っている・
今年は研究がはかどっています。
論文を書く時は、頭は休むことなく働き続けています。
頭は、睡眠をとることで休めることができます。
最近、論文を書き続けているので、
頭を使っているためでしょうか。
朝までぐっすり寝れます。
もしかしたら、老化かも。

2018年11月8日木曜日

3_173 マントル内の水 1:水酸化鉄

 地球深部は、興味深いとろこです。しかし、実際に掘って試料を入手できるのは、ほんの一部です。工夫をして調べるしかありません。実験室で高温高圧条件をつくりだし、深部を再現するという方法があります。

 少々古い記事ですが、2017年7月のイギリスのNature誌に掲載されたものですが、地球内部の水の挙動に関する論文があります。
  The pyrite-type high-pressure form of FeOOH
  (水酸化鉄(FeOOH)のパイライト型高圧型)
というタイトルです。水酸化鉄という化合物が、パイライト型という結晶構造で、高圧で安定に存在することがわかったということを報告しているものです。タイトルは、シンプルなのですが、実は複雑な内容でもあります。
 この水酸化鉄は、結晶ですが、鉱物名がついていないのは、天然の鉱物として見つかっていないためです。水酸化鉄でもいろいろな結晶型があってもいいのです、今回はパイライト型の結晶であることがミソです。
 パイライト(pyrite)とは、黄鉄鉱という鉱物で、化学組成はFeS2です。結晶の形としては、六面体や八面体、正十二面体などになりますが、今回の水酸化鉄では、八面体になっています。今回報告されている水酸化鉄では、正八面体内部の中央に、鉄原子が存在し、6つの角にあたるところに、酸素原子が4つ、水素原子が2つがあります。鉄の周りの酸素と水素の原子の数が、化合物の2倍になっていて少々ふしぎです。それらの元素は、隣の正八面体と共有しているので、実質は半分になるので、鉄原子1個に対して、酸素原子2個、水素元素1個の比率になり、FeOOHという結晶式となります。
 実はこの水酸化鉄は、2016年のNature誌で、マントル深部では、水素と酸化鉄に分解すると報告されていました。今回の報告は、分解せずに安定に存在することがわかったというものです。
 では、この水酸化鉄が、高圧で安定であるということに、どんな意味があるのでしょうか。また、その結晶の形が高圧で存在するはずのものなのに、どうしてわかったのでしょうか。次回以降紹介していきます。

・最後の野外調査・
先週末、2泊3日で、
日高地方へ今年最後になる野外調査にでました。
静内、浦河、様似、えりも、広尾と
日高山脈のふもとを襟裳岬を経てまわりました。
帰りも大樹から浦河に抜ける天馬街道を通りました。
幸い天気には恵まれ、
非常の気持ちのいい調査になりました。
山は紅葉は終わっていましたが、
裾野では、まだ紅葉が残っていました。
心地よい天気で野外調査ができました。
精神心的にリフレッシュしました。
肉体的に結構つかれましたが。

・3つの論文・
現在、論文3編を抱えています。
今月締切の論文が2編(A論文、B論文)、
1月締切りのものが1編(C論文)あります。
今月のA論文は現在推敲中で、時間さえあれば
今週中に投稿できると思います。
なんとか予定通りに進めたいものですが。
B論文の骨子はでき、データも揃いつつあります。
あとは書く時間がとれるかどうかが勝負です。
これは、自分で工夫、優先順位をつけて
都合つけるしかないですね。

2018年11月1日木曜日

2_162 ムカワリュウ 3:ティラノサウルス

 2016年に発見された1個の化石は「ムカワリュウ」と呼ばれました。ムカワリウは、ティラノサウルスの仲間であったことが、2018年6月に発表されました。この1個の化石が意味することはどんなことでしょうか。

 2016年6月に北海道の中央に位置する芦別市から、「ムカワリュウ」が発見されました。2018年6月にその内容がやっと発表されました。化石の出た地層は、エゾ層群の羽幌川層でした。時代は白亜紀後期コニアシアン(8630万~8980万年前)です。
 この地層からは、サメの歯の化石や貝化石もでていましたが、2016年にアマチュアの人が、これまでにない化石を発見しました。長さ9cm、高さ6cm、幅5cmほどの円柱形で、かなり大きなもので、動物の脊椎の骨のような形でした。北海道大学と三笠市立博物館が、この化石を調べました。形だけでなく、CTスキャンで内部構造も調べたところ、脊椎の骨のうち、円柱形をしている「椎体」であることがわかりました。サイズや形から、体長6メートルほどの中型のティラノサウルス類のものの可能性が高いことがわかりました。
 発見された地層のコニアシアンという時代は、ティラノサウルスがあまり見つかっていない時代でした。そして、ティラノサウルスが大型化していく時代でもありました。両方の意味で、重要な化石であると考えられています。
 日本では、20世紀後半から化石が見つかりはじめます。化石は過去に生きていた生物が、土砂に埋もれていくわけですから、近年に化石が増えたわけではありません。見つかる機会が増えたことになります。20世紀後半は、日本各地で開発が進み、それまで人があまり入ってこなかったところが切り拓かれていき、道路が山間にも入り込み、これまで人目に触れていなかった地層が調べられるようになったからでしょうか。そんな地層の中に、恐竜が生きていた時代にできた地層もありました。
 21世紀になると、化石の詳細な記載が日本人研究者から発表されるようになってきました。これは、海外などで経験を積んだ日本の研究者の育成が進んできたことを表しているのでしょう。日本の身近なところから恐竜化石が見つかるようになり、その化石がすぐに研究者に渡り調べることができるシステムが完成してきました。日本でも恐竜を研究できる環境も整ってきて、後進の育成も進んできた結果なのでしょう。
 今後も化石の発見の機会は増えていくのでしょうが、それが恐竜のような重要な化石であれば、しかるべき研究者が研究されるシステムができてきました。これからは、重要な化石はすぐに記載が進んでいくでしょう。

・野外調査・
今週末、日高山脈を浦河から襟裳岬をまわり
広尾まで抜ける調査にでます。
できれば、もう一度、野外調査に出たいのですが
そろそろ雪が季節なので
今シーズンの最後の調査になるかもしれません。
自家用車は冬タイヤにはしていますが、
峠で雪が降る時期は、野外での調査は厳しくなります。
今年は、いろいろな事情から
野外調査を道内で何度も行うことになりました。
道南を主にして、他にも道央、そして今回の日高など、
7回の調査を週末を使って行いました。
その多くは、2泊3日ででかけました。
往復にそれなりの時間がかかるので
短期の調査ではロスも多いですが、
大学の講義を休むことなく、気軽にいけます。
また時間調整をしなくてもいいし
時期が限定されることもないので楽でした。

・季節感・
いよいよ11月です。
雪虫も何度か飛びました。
手稲の山並みも、冠雪はまだみていません。
わが町で初霜はありましたが、初雪はまだです。
黒岳の初雪は早かったのですが、
里の雪は遅いようです。
大学では推薦入試の季節に入ります。
後期の講義も半ばになってきました。
大学ではいくつかの年中行事があるので、
季節に変動あっても、季節感は感じます。