2016年12月22日木曜日

1_152 K-Pgの絶滅 3:酸性雨

 いよいよ大絶滅の連鎖のシナリオ部分の紹介になります。その一番のトリガーは、石灰岩に含まれてたいイオウの成分に由来する酸性雨でした。連鎖のシナリオを支える傍証もいくつかあるようです。

 K-Pg境界での隕石の衝突を最初に提唱したアルバレスたちは、隕石にる事件を次のようなシナリオを考えました。衝突によって巻き上げられたホコリが太陽光をさえぎり長く暗い状態が続いたため、植物の光合成が停止し、そして寒冷化も起こり、急激な生態系の破壊で大絶滅に至ったとしました。
 しかし、ホコリは植物が絶滅するような長期間は大気中に滞留ないことがわかりました。その後もいろいろな仮説が唱えられてきましたが、陸地だけでなく、海洋まで大絶滅を起こすような説明をできる仮説は、なかなか提唱されませんでした。
 今回のような、隕石はユカタン半島のイオウを含んでいる石灰岩が多いことに着目した仮説もありました。イオウの成分が、衝突により二酸化硫黄(亜硫酸ガス)ができ、酸性雨として降ったと考えられていました。しかし、二酸化硫黄では、海洋全域の生物を絶滅させるような酸性雨を形成することが、難しいことがわかってきました。
 大野さんたちは、その難点を衝突実験を通じて、解消するシナリオを提案しました。実験によると、イオウの変化は、二酸化硫黄ではなく、三酸化硫黄でした。三酸化硫黄は、硫酸になりやすいという性質をもっていました。
 これらの実験結果を利用して理論計算をしてみると、三酸化硫黄は、短時間(数日以内)で、酸性雨として地球全体に降ることがわかってきました。そのような酸性雨が海洋全域に降ってくると、海洋は酸性になっていきます。通常の海水は、pH8ほどの弱アルカリ性ですが、大量の酸性雨が降ってくると、pH6の弱酸性になります。その結果、海面付近に生息する炭酸カルシウムの殻をもつプランクトンは大きな影響を受けるような、海洋酸性化が起こったと考えました。そこから大規模な環境変化と生態系の連鎖が起こります。このような酸性雨が原因として大絶滅を起こしていくというシナリオを提案しました。
 しかし、酸性海水の影響は、深海底にはまでは強く及びません。ですから、深海生物は絶滅を免れました。また、絶滅のあと、陸上植物で最初に復活してきたのは、シダ類でした。山火事などがあると、シダが真っ先に開拓的に生えてくることは知られていて、パイオニア・プラントと呼ばれています。さらにシダには、酸性の環境に強いという性質もあります。火事だけでなく、酸性雨に汚染されていても、生えてくることができます。これらは酸性雨を支持する傍証となりそうです。
 さて、この仮説は、石灰岩に含まれていたイオウの成分が、大絶滅の重要なファクターであったというものです。説としては、筋が通って成立しています。多くの科学者がこの仮説を信じるか、否かは、説のもっている「信憑性」にかかっていると思います。ここでいう「信憑性」とは、感覚的に信じられるかどうかです。理屈や論理でも、科学的でもありませんね。でも、科学も人間がするものなので、多くの人がその説を信じて、採用して、それに基づいた研究が進められるかどうかが、重要になってきます。真実はどこかにあるのでしょうが、それまでは人はいろいろと考えながら進んでいくのです。

・信憑性・
仮説やモデルには、合っている間違っているという
論理的判断も必要なのですが、
感覚的に信じられるかどうかという
心の部分も、重要になってくるように思えます。
人は、大きな話しは、信じやすく、
小さな話は、信じにくく、感じてしまいます。
K-Pg境界の大絶滅も、隕石の衝突という説は信憑性をもっていたため
大論争は起こったのですが、最終的には信じられるようになりました。
石灰岩の中のイオウ成分が酸性雨を生み出し、
それが大絶滅の重要な要因であったというのは
どこまでの信憑性を得られるかは、今後の課題でしょうね。

・京都へ・
週末には、私用で京都を往復しました。
急ぎ足での所用をすまだけの、往復でした。
帰りは、空港に早く着いたので
便を一便早いのに乗れる時間でした。
空席待ちをしていたのですが、満席だったので、
空席は出ませんでした。
予約どおり、最終便に乗って帰ることになりました。
帰りの便も満席でした。
小さな機種を使っているようで、残念でした。
やはり経済性や効率優先ですよね。

2016年12月15日木曜日

1_151 K-Pgの絶滅 2:新仮説

 隕石の衝突によって起こったいくつもの観察事実があります。衝突による連鎖的出来事を考える時は、それらの観察事実を説明する必要があります。すべての説明するのは、なかなか難しいようですが、新たな仮説が提唱されました。

 K-Pg境界で起こった大絶滅の直接の原因は、隕石の衝突だと突き止められました。絶滅のシナリオを明らかにするために、絶滅の特徴をまとめておきましょう。
 K-Pg境界の絶滅は、陸上生物と海洋表層に生息しているプランクトンで大きかったことがわかっています。海洋プランクトンでは、浮遊性の有孔虫は石灰質殻をもつものが種のレベルで80%以上絶滅していることが知られています。一方、陸地の淡水中や海洋底では、それほど大きな絶滅率ではなかったとされています。隕石が落下したクレーターは、半分がユカタン半島の石灰岩の多い地質の陸地になり、あとの半分は海洋になっていました。大絶滅が起こったあとに最初に復活してきた陸上植物はシダ類でした。これらが前提条件になります。
 連鎖的事件に関する仮説を提唱する時には、前提条件を説明する必要があります。隕石衝突によって起こる直接の絶滅は、衝撃波、津波、山火事などによるものだとされていますが、遠くの海底まで起こるような現象は、なかなかいい仮説はありませんでした。
 千葉工業大学惑星探査研究センターの大野宗祐さんたちによる共同研究が、2014年3月10日発行のNature Geoscience誌に報告されました。隕石の衝突にともなっておこる現象に関する実験による検証と、計算機実験を組み合わせて、新しい仮説が提案されました。
 仮説は、酸性雨に注目した研究でした。酸性雨のなかでも、硫酸を含むものを想定しています。隕石が衝突したユカタン半島には、石灰岩には、石膏(硫黄を含む)も含まれていたと考えられています。それか酸性雨の素材になると考えられました。
 隕石の衝突によって膨大なエネルギーが放出されます。ある見積もりによると、衝突地点の岩石は数千度から1万度以上になるとされています。そのようなエネルギーが一点に集中すると、周辺の岩石が蒸発していきます。岩石に含まれていたイオウ成分が、硫黄酸化物ガスとして撒き散らされたのではないかと考えました。
 それを実証するために、大野さんたちは、現地にあった硫酸塩岩に、レーザー光を用いて金属片を高速(約20km/秒、隕石の衝突と同じ条件とされる)でぶつけました。すると三酸化硫黄ができることがわかりました。想定されていた二酸化硫黄ではなく、三酸化硫黄であることが重要です。三酸化硫黄は、理論的には数日程度で強い酸性雨となって降ることがわかってきらからです。
 その説明は次回に。

・大雪・
週末に北海道には強い低気圧が発生し、
強烈な冬型の気圧配置になり、
各地で大雪になりました。
週末の冬型が一旦収まったったと思ったのですが、
月曜日の朝にも、大雪になりました。
地域により雪の量は違っていましたが、
各地で大きな影響を受けました。
しかし、北海道は大雪に慣れているので、
交通の乱れは有りましたが、
大きなトラブルもなく、ただ除雪を繰り返し、
冬に対抗しています。

・処世・
冬も本番となってきましたが、
私はいつものように慌ただしい師走を過ごしています。
もともと校務が多い時期でもあるのに、
今年は仕事もいろいろ重なっているので
慌ただしさがいつもより多いようです。
でも、時間は待ってくれませんので、
日々優先順位をつけて進めていくしかありません。
近年は、身辺が慌ただしくても、
淡々とした心の持ちようで
生きていく術を身につけられたようです。
処世術でしょうか、それとも手抜き、保身でしょうか。

2016年12月8日木曜日

1_150 K-Pgの絶滅 1:原因は分かったが

 絶滅の話題が続きます。大絶滅でもっとも有名なのは、恐竜絶滅を起こしたK-Pg境界での事件でした。この事件を起こした原因ははっきりしているのですが、プロセスはよくわかっていません。そこに新しい仮説が提案されました。

 恐竜の絶滅が起こったのは、白亜紀の終わり(約6550万年前)、K-Pg境界(かつてはK-T境界と呼ばれていました)とされている時代です。K-Pg境界の絶滅は、恐竜だけでなく、陸上でも海洋でも多くの生物が絶滅をしていました。そのためK-Pg境界の事件は、単に恐竜の絶滅だけでなく、大絶滅として扱われています。このように大絶滅とは、多くの種類が絶滅することです。多種類の絶滅が起こるためには、「いろいろな環境」で、「同時」に異変が起こらなければなりません。
 「いろいろな環境」というのは、陸だけでなく、海でも絶滅が起こるということです。陸は大気と接していますので、環境の変化が伝播しやすいという条件があります。一方、海は液体の水を介して起こるので、変動の伝搬がしにくくなります。浅海から深海、内湾や極や赤道の海など、多様な海の環境が存在します。ですから広域での生態系の破壊は、非常の大きな異変を想定しなければなりません。
 また、「同時」というは、地質学的にみたとき、時間の差が検出できないほどの短い期間に起こったという意味です。現実には時間の前後あっても、それが検出できない程度の差であれば、地質学的には「同時」となってしまいます。近年は分析精度が上がっていますので、100万年以上の差は検出できるので、大絶滅は数十万年以内の誤差でおこっている現象となりそうです。
 数十万年というと、広域で生態系が崩壊するのには充分な時間といえます。例えば、氷河期の繰り返しは、約10万年周期だとされています。氷河期のような現象は、氷河期と間氷期の数万年の間に、地球の平均気温が10℃以上の変動を起こします。氷河期のような自然現象として起こる激しい変動でも、環境変化は短期間に起こることがあり得ることが納得できます。でも大絶滅とは、もっと大規模な生態系の破壊が短期間(10万年程度の期間)に起こるものとなります。
 K-Pg境界の大絶滅は、このエッセイでも何度か取り上げていますが、メキシコのユカタン半島に落ちた隕石が原因であったことがわかっています。K-Pg境界の絶滅の原因も、2010年3月のScience誌の41名の連名によって、決着をみたという論文が出されました。
 直径約15kmの隕石(小惑星といったほうがいいかもしれません)が落ちて、膨大なエネルギーを開放しました。この隕石の衝突が、そもそもの原因、すべての引き金であったことは、確かなことになりました。そこから連鎖的な現象によって多様な環境での異変が起こり、生態系の破壊が起こったはずです。
 隕石の衝突から起こる連鎖的現象については、まだ定説がありません。それに対して、一つの仮説が提案されました。それを次回に紹介していきます。

・師走は・
師走は、いつも忙しいのですが、
今年は、特に忙しくなっています。
それは、担当ゼミの学生が例年の倍いることと
依頼されている論文がいくつもあったためです。
でも、忙しさは、歓迎すべきと考えています。
本来の自分のすべき計画があるのですが、
それを横に置いてもやるべき仕事もあります。
しかし、努力や工夫をすれば、
やるべき仕事の一環、一部として
位置づけることもできるかもしれません。
そんなことを考えながら、
つぎつぎ迫りくる締切をこなしていくことにあります。

・メディアは・
北海道は、気温変化の激しい日々が続いています。
週末は部屋はストーブを切らなければ
暑くなるほどの暖かさでした。
道の雪もすべて溶けてしまいました。
っと、思ったら、一気に数cmも積もる大雪になりました。
目まぐるしく移り変わる天気が繰り返します。
でも、これは11月はじめから続くような
変動の激しい天気です。
こんな変動をみると天変地異をいう人が出てくるかもしれません。
でも最近のメディアはだいぶ落ち着きをもっていて
そんなデマを流すことは少なくなりました。
ところが、問題を起こした人物を見つけると
徹底的に叩くというやりかたは、
未だに継続、いやエスカレートしているようですが。

2016年12月1日木曜日

2_143 三畳紀の大絶滅 6:宇宙塵

 層状チャートの中から大量に見つかる宇宙塵に注目した研究を紹介します。もしこの研究による仮説が正しければ、いままでの層状チャートの成因がまったく違ったものになります。真実はどこにあるのでしょうか。

 今回紹介している層状チャートからの衝突の証拠は、丸い粒が多数見つかっていました。しかし、これらは通常の宇宙塵ではないようです。隕石の衝突によってできた粒子や成分が飛んでいるうちに、丸くなった粒子とされています。
 チャートを研究している研究者は、層状チャートから化石を抽出するとき、宇宙塵がたくさん見つかることがあるのを、以前から知っていました。この宇宙塵は、地球外から落ちてくる小さな粒子のことです。
 多量の宇宙塵を、層状チャートの形成メカニズムの解明に利用する堀さんたち(1993)や池田たち(2010)の研究があります。三畳紀の大絶滅とは違った話題になりますが、まったく違った見方を提示しているので、シリーズの最後に紹介していきましょう。
 宇宙塵は、かなりの量が定常的に地球には降ってきていることがわかっています。その量は、毎年100トンほどと見積もられています。ただし、その量は、地質時代の長期に渡ってみていくと、変化していることがわかっていきています。ただしひとつの地質時代の中では、大きな変動はないとみなせます。
 このような前提から、ある時代の層状チャートができる期間では、宇宙塵の降っていくる量には変化がないと仮定できます。チャートと粘土の部分で宇宙塵の量を見積もっていきます。宇宙塵を取り出して数えるのは難しいので、宇宙塵に多い鉄などの化学組成に注目して、宇宙塵の量を見積もっていきます。宇宙塵の量から、チャートと粘土の堆積速度が計算できます。その結果、チャートの堆積速度は、粘土のものより二桁速いことになりました。これは、何を意味しているのでしょうか。
 層状チャートの一般的な形成メカニズムは、チャートと粘土の二種類が堆積量の変化によってできると考えられています。チャートの材料は深海底には定常的に珪質プランクトンの殻が堆積しててきます。粘土層は、量は少ないのですが、陸源の粘土粒が海流や風に乗って定常的に混じってきます。通常時は形質殻の方が多いので、チャート層ができます。生物の大絶滅が時々起こり、その絶滅期間に珪質殻の堆積はストップします。絶滅の間、粘土成分だけが堆積します。それが粘土層になります。大絶滅の非常時に粘土が堆積し、通常時にはチャートが堆積します。これが、層状チャートのでき方だと考えられています。
 ところが堀さんたちの説は、珪質殻が短期間に一気に堆積していくという説です。これは、従来の層状チャートの成因とは全く違ったものです。では、現在海底に堆積している珪質堆積物は、チャートになるはずですから、珪質プランクトンの繁栄の時期なのでしょうか。では前回の不活発な時期はいつでしょうか。氷河期なのでしょうか。疑問はわきます。
 実は層状チャートの成因はまだ確定していなので、いろいろな可能性が提唱されています。生物の大絶滅はあったことは確かなのですが、「なぜ」という原因究明は、K-Pg境界以外は、まだまだの状態です。今後も研究を進めなければらないですね。

・層状チャート・
堀さんたちは、岐阜県の犬山にある
層状チャートの連続したルートで調べました。
時代は、後期三畳紀から前期ジュラ紀のものです。
層状チャートから3000個以上の宇宙塵を見つけています。
そこから統計的な処理もしています。
大量の金属の粒(宇宙塵)が
深海で堆積したチャートから見つかるのは不思議ですね。
理屈ではわかっているのですが、
不思議さを感じます。

・師走・
今シーズンは、何度目の積雪でしょうか。
北海道は週末から週初めにかけて、雪模様です。
まだ根雪には早いと思います。
ですから暖かくなれば、すぐ溶けると思いますが、
真っ白な雪景色は厳冬のように見えます。
12月になったのですが、
論文と卒業研究の添削に追われて走り回っています。
師走ですね。