2012年12月27日木曜日

6_107 ボイジャー1号:協同作業


 今年最後のエッセイになります。一年をふりかえろうかと思ったのですが、あまり生産的でないので、いつものように淡々と綴ろうと思いました。今を遡ること35年前。その時にスタートした研究が、今も継続していること、そして大きな成果を挙げていることを紹介しましょう。

 1977年9月5日、アメリカ、フロリダ州ケープカナベラルのメリット島にある空軍基地から、探査機が打ち上げられました。先行して8月20日に兄弟機というべき探査機も打ち上げられています。これらの探査機は、ボイジャー計画に使用されたものでした。先発して打ち上げものをボイジャー2号機、後発を1号機と呼ばれています。もともと同じ日に打ち上げられる予定だったのが、1号機がシステムのトラブルのため遅れたとされています。
 2つの探査機が連続して打ち上げられたのは、その頃、太陽系の惑星が同じ方向に並ぶ時期にあたっていたためです。外惑星(地球より外側の惑星)を連続的に、少ない燃料で接近し観測できる、非常にいい時期にあたっていました。その時期を活用するために、2機が同時に打ち上げられたのです。その探査は、惑星グランドツアーと呼ばれました。
 ボイジャー1号機、2号機は、実際にすばらしい惑星の写真を送ってきました。まさに、惑星グランドツアーをして、その鮮明な惑星の画像がいたるところで使用されました。ボイジャーの画像が、私たちの木星や土星、海王星、天王星などの惑星のイメージをつくりあげたといえます。
 35年間、それも冥王星よりずっと離れたところにあるボイジャー1号、2号は、現在も運用されています。もっとも速いスピードで動いているのはボイジャー1号で、秒速17kmで太陽系から遠ざかっています。現在は、光のスピードで17時間もかかるところにいます。太陽系の外と内の境界にいます。
 太陽系の範囲は、ヘリオスフィア(太陽圏と訳されています)と呼ばれています。太陽からの太陽風の届く範囲のことで、太陽から放出されたプラズマ(太陽からのイオン化した粒子)が飛んでいける範囲です。境界では、太陽系外からくる粒子や磁場と太陽風が衝突するところになるはずです。まだ確かめられていません。
 その境界にボイジャー1号が達したというニュースが、今年12月5日に届きました。予想では、ヘリオスフィアから抜けると太陽風はゼロになるとされていました。ところが、太陽系外から高エネルギーの粒子がヘリオポーズに流れ込んでいることを示すデータが送られてきました。予想外のデータでした。
 ヘリオスフィアの外では、荷電粒子が飛び交っていることから、「磁気ハイウエー」と呼んでいます。ボイジャー2号機もヘリオスフィアに近づき、形状が歪んでいることを示すデータを送ってきました。そのうち境界に達するはずです。データが届けば、「磁気ハイウエー」の実態が、解明されることになります。期待したいものです。
 データを淡々と今も送り続ける無人探査機が、人の知らいないところで活動しています。指示された命令を、35年も淡々と実行する機械があったのです。人類がいけるはずもないところで、活躍するロボットとともいえます。
 現代社会で、実は、ロボットがいたるところで働いています。ロボットは、意志を表明しないので、危険や退屈、過酷さ、死など、人には行けない世界を、調べて情報を送ったり活動しています。これがロボットの素晴らしいことです。
 そして、その情報を35年間待ち続け、読み続ける研究者も、そこにはいます。人とロボットの協同作業のすばらしさを教えられました。この知恵は、もっといろいろ場面で活用できるでしょう。

・寒波・
連休は日本は寒波に見まわれ、
しばらく冬型が続きそうです。
北海道も冷え込んでいます。
通常や我が家は、太陽がでると暖かくなので
暖房をきるのですが、
太陽がでても一日暖房がはいったままでした。
大学はまだ授業日になっているので、暖房が入っていますが、
寒さが強いので、研究室はあまり暖かくありません。
でも、仕方がありません。
これが北国の冬ですから。

・最後のあがき・
いよいよ今年最後のエッセイとなりました。
いつもいっていると思いますが、
時間に区切りがあるわけではありません。
年末や年始は人間が便宜的に決めた
時間の区切りにしかすぎません。
しかし、人間だから、その区切りを必要以上に重視します。
私も今年1年の区切りとして、
残された日々でどこまで仕事や研究ができるかをやろうとしています。
日数が少ないので、大したことはできませんが、
すんな数日も積み重ねれれば大きなものになります。
そんな日々の努力が必要なことを感じるためにも、
年末に最後のあがきをいつもします。
もちろん今年もです。
あと4日あります。
少しでも前に進みましょう。
そして、よいお年をお迎えください。

2012年12月20日木曜日

1_110 最古のクレーター 2:意義

 最古のクレーターが、30億年前の衝突でできました。クリーンランドの西の海岸沿いから見つかりました。古いものなので、クレーターの形態は不明瞭ですが、いくつも証拠が示されています。では、この古いクレーターが発見された意義は、いったなんだったのでしょうか。

 前回、地球最古のクレーターは、約20億2300万年前のフレデフォート・ドームだと紹介しました。しかし、今年の夏、もっと古いクレータが発見されました。約30億年前のもので、クリーンランドから見つかりました。
 デンマークやイギリスのガルディア(Adam A. Gardea,Iain McDonaldb, Brendan Dyckc, Nynke Keulena)たちのチームが、発見して報告しました。論文のタイトルは、「Searching for giant, ancient impact structures on Earth: The Mesoarchaean Maniitsoq structure, West Greenland」(地球の巨大で古い衝突構造の探査:西部クリーンランド、太古代中期マニツォーク構造)というものです。
 地下20~25kmに直径約100kmのクレーターの構造があるようです。地表にもそれなりの痕跡はありますが、明瞭なクレーターの構造はみられないようです。3年間以上かけて調査をしたそうです。2010年までは内陸部で野外調査をして、2011年には海岸沿いを調査したようです。
 その結果、クレーターの証拠として、磁気異常があること、変形はしているが丸い構造があること、割れ目のような構造が多数あること、砕かれた岩石が丸い地形の中心付近に広く分布していること、もともとあった花崗岩類が砕かれて溶けていること、さらにいろいろな鉱物で衝突の証拠が示されています。
 彼らは、衝突した天体が、直径30km以上の小惑星か彗星で、クレーターももともとは500~600kmほどあったとかもしれないと見積もっています。
 地下深部に存在することと古いことで、明瞭なクレーターの地形は残っていません。しかし、クレーターといってもいいような構造のみえる地質図が示されています。衝突の確実な証拠ではなさそうですが、それなりの根拠がありそうです。
 これがクレーターだったとして、30億年前のクレーターが見つかった意義は、どのようなものでしょうか。
 30億年前の時代にできたクレーターが残っていることは、非常にまれなことのはずです。なぜなら、そもそも30億年前の地層が、当時のまま現在まで残されている地域が、非常に限られています。そんな限られた地域にもクレーターの証拠があったとなれば、地表は隕石の衝突は、たびたび、そしていたるところにあったことになります。
 地球上の古いクレーターの数は少ないので、その頻度に対して結論はでませんが、月のクレーターをみると、40億年前から38億5000万年前の間に、激しい隕石の衝突(後期重爆撃)があったこと、地球の衝突スフェルールからは、34億7000万~32億3000万年前の間と26億3000万~24億9000万年前の間、21億~17億年前の間に何度かの衝突があったことがわかりました(本エッセイの1_105から107)。今回のクレーターは、約30億年前のもので、今まで見積もられていたデータとは一致しません。新たな衝突のピーク時期があったのか。たまたまその時期に一つだけ衝突があったのか。それともスフェルールからの推定が間違っているのか。いろいろな疑問が生じます。
 あまり、これといった意義はないような気がします。もしかすると、この論文は、過去の不確かさを伝えたことが、一番重要な意義だったかもしれませんね。

・不調・
今週は、土、日曜日をしっかりいつものように休んだのに、
なぜか月曜日の朝が起きられずに
1時間ほど寝過ごしました。
火曜日の明け方は激しい寝汗をかきました。
熱もなく、食欲も普通にあります。
でも、なんとなくボーっとしています。
どうも風邪にかかっているようです。
週末には学生と飲み会があります。
無理せずに休養しながら
日々を過ごして治しましょう。
教員は休めないのが辛いところです。

・師走に・
いよいよ今年も終わろうとしています。
しかし、まだ12月は2週間も残っています。
1年で考えると52週分の2週です。
まだまだ やりたいこと、
やれること、やるべきこと
があるはずです。
日々を疎かにしないこと。
こんなことを師走になると
いつも考えてしまいます。

2012年12月13日木曜日

1_109 最古のクレーター 1:最大・最古

 クレーターは、隕石が天体に衝突してできるものです。地球にできたクレーターは、大気や降雨、流水などの侵食、風化、さらには大地の運動によって、痕跡は薄れていきます。やがては、消えて行く運命なのでしょう。しかし、規模が大きなクレーターは、その痕跡を長くとどめます。

 太陽系で表面が硬い天体には、すべてクレーターが見つかっています。月や火星、金星、水星はもちろん、木星や土星の多数の衛星、ハレー彗星などにも見つかっています。小惑星であるイトカワにもクレーターがあることは、「はやぶさ」が撮影した写真がニュースに何度も放送されていたので、記憶にも残っていることでしょう。太陽系の天体では、ごく普通に隕石の衝突とクレーターの形成があったことを意味します。
 太陽系は、多数の小さな固体物質の形成からはじまり、それが集積して大きくなりながら成長してきたと考えられています。多数あった小さな天体が、大きな天体になるには、衝突・合体がありました。そこにはクレーターが形成されます。小天体は、最終的には大きい方の天体に吸収され、いくつかの少数の巨大天体へと成長していきます。集積、衝突、合体によって天体が成長してきたという誕生の歴史も、クレーターは物語っているのです。
 月は、地球からよく見える天体で、人類は古くから眺めてきました。望遠鏡でみるとクレーターが多数あることがわかります。そのため、人類は古くからクレーターを見ていたことになります。月には大気がなく、天体の内部の活動も誕生初期に停止しているので、古いクレーターが残っています。月の表面には、天体誕生の痕跡がそのまま残されているのです。
 地球にも、もちろんクレーターがあります。世界各地でクレーターは見つかっています。日本列島でもクレーターとされているものもありますが、地形的に明瞭で、だれもがクレーターとわかるものはありません。地球のクレーターの多くは、比較的新しい衝突で形成されたものです。地球では、大気の風化や降雨の侵食と、プレートテクトニクスや火山活動などの大地の営みによって、古い大地は更新され続けています。そのため、地球では古いクレーターは消えていく運命にあります。
 地球最古のクレーターは、南アフリカ共和国の中央部、フリーステイト州にあるフレデフォート・ドーム(Vredefort dome)と呼ばれるクレーターです。約20億2300万年前の衝突で形成されました。かなり古いクレーターですが、現在まで残っているのは、非常に大きかったためだと考えられています。現在、クレーターは、直径約50kmの中央ドームとその周囲に直径約190kmリング状の外輪山として残っています。もともとのドームは直径300kmもあったとされています。侵食で今のサイズになったとされていますが、このクレーターは世界最大となっています。
 アメリカ合衆国アリゾナ州にあるバリンジャー・クレーターは、非常に有名です。直径は約1.2から1.5km、深さ170mの規模ですが、クレーターらしい姿をしていて、観光地にもなっています。約5万年前にできた新しいクレーターで、地形が侵食されていないため、クレーターらしさをよく残しています。
 バリンジャー・クレーターと比べても、フレデフォート・ドームはとてつなく大きかったことがわかります。さらに比較的大地の営みが少ない安定大陸の真ん中にあったことも幸いしたのでしょう。大きなクレーターで大地の営みが激しくないところにあるものは、残りやすくなります。
 カナダのオンタリオ州にあるサドベリー・クレーターも18億5000万年前ものですが、直径62から30kmで、深さも15kmもあります。形成時には直径200から250kmの円形のクレーターだったと考えられています。サドベリー・クレーターも古い時代ですが、巨大だったので今まで残っていると考えられます。ちなみにサドベリー・クレーターは、地球上では二番目に大きなクレーターです。
 20億年前くらいが、地球でのクレーターが残る限界ではないかと考えられていたのですが、今年の夏、もっと古い(約30億年前)と考えられるクレーターが発見されました。次回、その詳細を紹介しましょう。

・3大衝突・
フレデフォート・ドームとサドベリー・クレーターは
メキシコのチクシュルーブ・クレーターを合わせて
3大衝突クレーターとされています。
本文でも紹介した2つのクレーターは古いものですが、
チクシュルーブ・クレーターは、
恐竜絶滅の原因とされている衝突よってきたもので、
白亜紀の終わりに形成されています。
他の2つに比べると新しいものです。
フレデフォート・ドームは世界遺産に登録されています。
地球の歴史上、重要なものであるためです。
しかし、紹介したクレーターは残されたものに過ぎず、
地球形成初期には、もっと大きな衝突やクレーターもあったはずです。
それを地球の営みが、消していったのです。

・ホワイトクリスマス・
北海道は11月下旬の初雪から、
ずっと雪が残っています。
12月になっても温かい日もありましたが、
その後、すぐに寒くなり雪がつもります。
もう根雪の様相となっています。
夏から秋にかけて暑い日が続きました。
その反動のように、寒い日が来たと思ったら、
一気に冬、そして根雪にまでなったようです。
いよいよ北海道はホワイトクリスマスとなりそうです。

2012年12月6日木曜日

6_106 不確定の破れ 3:検証


 不確定性原理には間違いがあり、小澤の不等式での表現のほうが確かになるということが、理論的に示されました。さらに続いて、実験による検証でも示されました。その実験は少々の「不確かさ」があるため、今後、さらなる「検証」が必要になりそうです。

 2003年の「小澤の不等式」の理論では、2つの測定で一方の精度を上げても、他方の誤差が際限なく大きくなることはなく、一定の範囲に留まるということが示されました。この「小澤の不等式」は、理論によって導かれた仮説にすぎません。仮説を検証するためには、実験が必要となります。その実験結果が、今回の報告になります。
 2012年1月15日のNature Physicsという科学雑誌の電子版に、
J. Erhart, S. Sponar, G. Sulyok, G. Badurek, M. Ozawa, and Y. Hasegawa
"Experimental demonstration of a universally valid error-disturbance uncertainty relation in spin measurements"(スピンの測定における普遍的に確実な誤差分布の不確定性関係の実験的検証)
という報告が発表されました。少々難解なタイトルで、中身もよくわかりません。
 スピンとは、素粒子の角運動量の特性のひとつで、磁場の影響を受けます。スピンの測定は、不連続でとびとびの値として観測されます。スピンの異なる方向の成分は、素粒子の位置と運動量に相当します。この2つの方向にも、不確定性原理の関係が生じます。
 エルハートたちは、原子炉から出てくる中性子のスピンの2つの方向を順に、2台の装置で精度よく測定しました。一方の成分の誤差を限りなくゼロに近づけると、不確定性原理の式では他方の成分の誤差は際限なく大きくなり発散するはずです。しかし実際の測定では、1.5ほどの値に収まっていて、無限に大きくはなりませんでした。両者をかけても、不確定性原理より小さな値になります。
 その結果は、不確定性原理で示されている誤差より、小さくできることを示したとなります。従来の不確定性原理は正しくなく、小澤の不等式のほうが正しいことを意味しています。
 小澤の不等式が正しいことが確かめられたら、位置や運動量の関係だけでなく、時間とエネルギーの関係でも不確定性原理が働くので、それも「破れている」可能性がでてきます。
 ただし、この実験が充分に正確かというと、必ずしもそうではなく、まだ「不確定性」が残されているようです。難しい実験は、さまざまな制約条件や誤差がつきまといます。ですから、エルハートたちの実験もひとつの結果、それも誤差の大きいものなので、別の装置、別の仕組みでの測定がなされていくべきでしょう。そして小澤の不等式が正しいかどうかを、再度、検証していく必要があります。
 もし小澤の不等式が正しいことが判明すれば、どんな世界が出現するのでしょうか。精度の不確実性が整理されたので、今まで諦めていた精度の新素材、新技術などのが発明できるかもしれません。いくつかの影響が考えられています。
 ひとつは、重力波の発見です。重力波は一般相対性理論でその存在が予言されているのですが、まだ見つかっていないものです。時空間のゆがみが、光速の波動として伝わる現象です。その歪みは非常に小さいので、検出限界が不確定性原理にかかるとされていました。今までは、根拠が不確かなまま実験が進められてきたのですが、今回の検証によって理論的根拠が確からしくなってきたわけです。重力波の検出が可能になるかもしれません。
 また、量子暗号の分野への影響もありそうです。まだ達成されていない技術なのですが、量子コンピュータのようなものができたとき、そのセキュリティにかかわる問題です。量子による暗号を送信したとき、盗聴されたしましょう。盗聴による測定がされたら、不確定性原理の制約があるため、盗聴の痕跡が検知できると従来はされていました。しかし、今回の検証によって、その限界が変わるかもしれません。もしそうなれば、セキュリティが高いと期待される量子暗号が、成立しなくなるかもしれません。もっと精度を上げる必要があるかもしれません。将来の技術にとって、非常に大きな影響を与えるかもしれません。まだできていない技術なので、今後の展開しだいでは、他の応用も生まれることでしょう。
 今回の成果は、基礎的な研究なので、他の分野の技術として社会還元されていくのは先の話になるでしょう。しかし、このような基礎科学がまったく新しい世界を生み出す可能性も秘めているのです。

・添削・
今、私たちの大学は、卒業研究の提出が間近に迫っています。
私のすべての空き時間が、
4年生への添削に費やされています。
「大変だったけれどもやっとできた」という
自分なりの達成感を持ってもらいたいと思っています。
苦労が大きいほど、努力が大きいほど
達成感は大きくなります。
卒業研究は、研究としての客観的な評価も重要かもしれませんが、
教育的な視点では、そのような評価が最優先ではないかもしれません。
私は、個人個人の達成感が一番重要だと思っています。
ですから、最後の最後まで、赤を入れ続けるのです。

・根雪・
北海道は雪模様ですが、
先日、温かい日があって、雨も降りました。
残っていた雪が少しは溶けたのですが、
雪が固まったところが、
スケートリンクのようにつるつるになりました。
非常に歩きづらく、転びそうで怖かったです。
こんな日が繰り返されながら
根雪へと進みます。
今年の初雪は遅かったのですが、
根雪は早そうです。