2012年4月19日木曜日

6_101 生命の起源5:熱水噴出孔

生命の起源の本命ともいうべき深海の熱水噴出孔が今回の内容です。1977年に熱水噴出孔が発見されて以来、多数の研究がなされてきました。それは生命誕生の場として、有利な点が多々あるためです。しかし、それでもまだ未知はいっぱいあります。

 ここまで「生命の起源」のシリーズで起源について、いくつかみてきました。生命の起源説は、地球外と地球内に大別されました。地球内説として、地表の陸や地下温泉の最新動向を紹介しました。主流派は、なんといっても海、それも深海の熱水噴出孔です。では、シリーズの最後に、熱水噴出孔での生命誕生説の概要をまとめておきましょう。
 かつて深海は、未知世界ではあったのですが、静かで暗く冷たいところで、生命活動のない、変化のない「死の世界」のよなところだと考えられていました。1970年代から、深海の実体は、潜水艇で調査できるようになって、明らかになってきました。
 深海には、活発な場があることがわかってきました。最初の熱水噴出孔の発見は、ガラパゴスの海嶺に潜ったアメリカのアルビン号で1977年のことでした。各地の深海に潜水艇がもぐり、調査をすすめていくと、熱水を噴出しているところが、多数あることがわかっていました。今では500ヶ所以上の噴出孔が見つかっています。
 なによりの驚きは、生態系の発見でした。陸地のものとは全く違う生態系が、そこにはありました。微生物だけでつくっている生態系ではなく、貝、エビ、カニ、魚類などの多様な生物種が織りなす生態系でした。
 地上の生態系における生産者は植物で、太陽光をエネルギー源とする光合成を基盤にしています。深海底では太陽光は届かないので、別のエネルギーを用いている生態系でした。エネルギー源は、噴出している熱水でした。深海の海水温は2℃ほどなのに、熱水の温度は400℃ほどにも達するものもありました。熱水が、エネルギーとなり必要物質の供給源でした。
 生態系において、熱エネルギーと熱水に溶けているさまざまな成分が重要な役割を果たしています。噴出孔では、高温の熱水に溶けていた成分が、周りの冷たい海水に急激に冷やされることで、析出、沈殿をします。それが噴出孔のまわりに付け加わって、煙突状(チムニーとよばれています)になります。チムニーの周りに、深海の不思議な生態系が形成されていました。
 生産者としての微生物は、熱水に含まれている硫化水素を利用するもの(イオウ酸化細菌)です。酸化還元の化学反応によって生じるエネルギーを利用しています。酸素がまったくない環境(嫌気性)で、りっぱな生態系が成り立つことがわかってきました。
 噴出孔の環境は、酸素と太陽エネルギーを中心としている地表の生態系と比べて、効率は悪いのですが、地球初期を想定すると、生命誕生の有力な場といえます。なぜなら、まず酸素は地球では20億年前ころに形成されたものですから、酸素を利用する生物が最初の生命とは考えられません。また、地表は初期の生物にとって、変化の激しい環境、有害の太陽光(紫外線)など、非常に過酷な環境です。深海は、地表に比べると安定した環境だといえます。そして、生命活動のエネルギーとしてだけでなく、生命誕生のための化学合成の環境として充分なりうるものです。
 多数の生物起源にかんする研究が、深海の熱水噴出孔でなされてきました。熱水噴出孔を前提にした実験もいろいろなされてきました。その結果もあって、今では多くの研究者も、深海の熱水噴出孔が生命の誕生の場ではないかと考えるようになってきました。
 しかし、残念ながら、熱水噴出孔が生命の誕生の場という決定的証拠はまだ見つかっていせん。現在の生態系はあくまで、現在生きている生物によるものです。最初の生物によるものが継続しているわけではありません。地球のように、多様な生物があらゆる環境にいる星では、もはや原始の生物はいないでしょう。証拠が見つかるかどうかも疑問です。また、今までの生物と関係なく独自に新たな生物が生まれることは、生存競争の激しい地球では難しいのではないでしょうか。

・永遠の謎の魅力・
自分の由来が、あるいは自分の祖先が
どのようにして出現したのかは、
興味の尽きないテーマです。
しかし、上で述べたように、
生命誕生の謎は、なかなか実証できない難問です。
永遠の謎かもしれません。
そんな謎だからこそ、
より興味を惹かれていくのかもしれません。

・4月も中旬・
新学期がはじまったと思ったらもう4月も中旬です。
時の流れは早いものです。
来週末からはゴールデンウィークがはじまります。
もう少し講義が進んで
大学の日常になれてからの方がいいと思いますがが、
現状の日程ではきついようです。
ゴールデンウィークは慌ただしい環境変化をした
学生にとっては一息の時期かもしれません。
自分を取り戻すいい機会かも知れません。
ただ、5月病になっては元も子もないのですが。