2012年5月31日木曜日

3_108 海台 5:ゴンドワナ大陸

(2012.05.31)
 海台をめぐるいくつかの話題を紹介してきました。今回はシリーズの最後となりますが、この海台が地球の歴史の上で、不思議な由来を持ったものであることがわかってきました。その謎は、過去に存在した巨大な大陸とその分裂の謎を解く鍵となるかもしれません。

 バタビア海台は、海底にありながら、大陸を思わせる証拠がいろいろ見つかってきました。不思議な岩石(花崗岩や片麻岩、化石を含む堆積岩)や陸地にみられる地形があることもわかってきました。
 バタビア海台の構成している岩石の年代はまだ測定中ですが、10億年前くらいまで達するのではないかと考えられています。片麻岩は、岩石が高度の変成作用を受けたもので、大陸を特徴付ける岩石でもあります。そして古い時代のものが多くなっています。もし、そのような古い年代が測定されたとしたら、海底の岩石(多くは1億年前より新しい)と比べて、明らかに古いものとなります。
 今後の研究が待たれますが、現状の証拠から、研究者たちは次のような推定をしています。
 バタビア海台はもともと巨大な大陸の一部で、その大陸が分裂した破片ではなかいと考えられています。位置関係からみると、インド大陸(現在はユーラシア大陸に衝突している)がオーストラリア大陸から分離した時、その破片ではないかと考えられています。そうすると、もともとあった大陸は、ゴンドワナ大陸となります。
 ゴンドワナ大陸は、現在のアフリカ大陸、南アメリカ大陸、インド大陸、南極大陸、オーストラリア大陸、アラビア半島、マダガスカル島が集まっていた大きなものでした。さらに遡ると、ゴンドワナ大陸もパンゲア超大陸の一部で、1億8000万年前頃に分裂してできたと考えらています。さらに、インドとオーストラリア、そしてバタビアの分離が、1億3000万年前ころに起こります。
 その分裂過程の詳細は、よくわかっていません。インド大陸の岩石は、大陸同士の衝突で山脈の下にもぐりこんだり、破壊されて、記録があまり残されていないようです。もし本当にバタビア海台がゴンドワナ大陸の破片であれば、その経緯が記録として残っていかも知れません。ですから、バタビア海台の調査の動向に期待されます。
 しかしながら、わからいこともいろいろあります。例えば、バタビア海台はいつまで陸上に顔を出していたのか、なぜ水没したのかなど、謎はまだまだあります。これが科学の現状もであるのですが、ネタが尽きなければ、科学者の仕事もあり続けるわけです。

・月の長短・
5月も終わりです。
私にとって5月は、あっという間の月でした。
ゴールデンウィークやゼミの飲み会など
いくつかの行事はあったのですが、
記憶に残るようなものが少なかったような気がします。
行事がいろいろあると、記憶が残るので
あれこれあったなあと、それなりの時間の長さを感じます。
6月は祝日はないのですが、
教育実習中の学生の指導のために各地に出張します。
そのために、講義を休み、時には宿泊をするため、
日常とは違った大きなできごととなります。
実習指導が重なると、長いひと月となるのでしょう。
6月はそんな月になりそうです。

・ジンギスカン・
5月下旬から6月にかけては、
北海道は一番いい季節になります。
ただし、今年は5月上旬暖かったのですが、
中旬から天候が不順になり、
寒い日が何度もきました。
我が家ではストーブはたかなかったのですが、
学生に聞くと、5月下旬なのに朝には
ストーブをたいていたといっていました。
霧氷がついたというニュースも流れていました。
せっかくのいい季節もこれは台無しです。
今週末は小学校でPTA主催の環境の整備の活動と
その後にジンギスカンがあります。
恒例の行事ですが、次男も今年で卒業なので最後となります。
この小学校とは、あしかけ9年間の付き合いです。
記憶に残すため、いろいろ参加していこうとかと考えています。

2012年5月24日木曜日

3_107 海台 4:バタビア海台

このシリーズの2回目で、海台にはいろいろな成因があることを紹介しました。その一つとして、大陸地殻が沈降したものがあるといいい、後で紹介するといいました。今回と次回のエッセイで、大陸起源の海台を紹介します。

 前回まで、巨大な海台であるオントンジャワを紹介しました。もうひとつまったく違う海台について、面白い報告が2011年11月に出されましたので、連続のエッセイで紹介します。海台の起源をめぐる内容の論文でした。
 場所は、オーストラリア西部の街パースの沖、西へ1600kmのあたりに、高まりがあります。バタビア海山(Batavia Seamount)とグーデン・ドラーク(Gulden Draak)と呼ばれている、海底の高まりですが、これまでその実態がよくわかっていませんでした。大きさは、2つの高まりを合わせて約60,000平方kmあり、北海道ほどの広さがあります。
 一連の海台として、正式な名称はまだありませんが、本稿では、「バタビア海台」と呼びましょう。
 調査があまりなされていない海域なので、国際的な研究者が集まって研究されました。研究チームは、バタビア海台は起伏にとみ、深さも2000mから1000mほどまで、多様であることを明らかにしました。海台は、周囲の深海底に対して、約4600mも高くなっています。海台の上部の凹凸は、陸地での侵食地形に似ていて、海台周辺の平らなところは、海食台のような地形だと考えられました。
 研究チームによって、バタビア海台の深度2500mのガケから、岩石が採取され、調べられました。その岩石は、なんと花崗岩、片麻岩、砂岩でした。これらは、海底や海山を構成している岩石ではなく、大陸を構成している岩石だったのです。さらに、堆積岩には、化石を含むものが見つかりました。その化石は、海に住む二枚貝でした。化石の二枚貝は、浅海で生活していたと考えられます。
 つまりバタビア海台は、変化にとむ陸の侵食された地形と、海の侵食を受ける海岸線(海食台、二枚貝)、そして海底で堆積する場(堆積岩)があったことになります。さらに、陸でも大陸を想定させるような岩石(花崗岩や片麻岩)もあります。
 これは、いったい何を意味するのでしょうか。次回としましょう。

・金環日食・
金環日食はご覧になられたでしょうか。
私は、あいにくの天気で見ることができませんでした。
もともと北海道は金環日食ではなく
部分日食にしかならないのですが、
80%以上が隠れる大きな部分日食になります。
ただ、終わりの数分の間、晴れ間ができたので
少しだけ欠けた太陽をみることができました。
テレビの特集できれいない金環日食をみたのですが、
今回の日食は、見れないことが
記憶に残るものとなりました。

・リラ冷え・
北海道は季節としては
一番いいころとなりました。
札幌では5月23日から27日まで
ライラックまつりが始まります。
ライラックは、リラとも呼ばれています。
曇で風が吹くと、すごく寒い朝もあります。
この時期のそんな冷え込みを「リラ冷え」といいます。
北海道的でしょうか。

2012年5月17日木曜日

3_106 海台 3:オントンジャワ

私たちが日ごろ目にしている火山と比べると、オントンジャワ海台を生み出した火山は、あまりに巨大でした。そんな巨大な火山であるがゆえの隕石説の登場でした。隕石の衝突によって、大きな火山が発生した例もあります。では、超弩級の火山の原因は、なにでしょうか。

 オントンジャワ海台は火山によってできたことは、岩石の採取から明らかになりました。そのような巨大な火山の原因が、隕石(地球外説)か、熱いマントル上昇流(地球内説)かが、問題になっていることを前回紹介しました。2012年2月16日の科学雑誌(Scientific Reports)に、フィリピン大学のTejada1さん、ハワイ大学のRavizzaとPaquayさん、そして海洋研究開発機構の鈴木勝彦さんが共同で、その起源に決着をつける論文を報告しました。その論文に基づいて説明していきましょう。
 隕石由来かマントル由来かの違いは、化学組成から判別できます。K-T境界の恐竜絶滅の原因が、隕石であるときに利用されたのもこの方法でした。
 隕石には白金族の元素(周期律表で白金の近くにある元素群)の濃度が大きいことが知られています。その濃度をオントンジャワ海台の岩石で調べればいいことになります。
 ただし鈴木さんたちは、少々複雑な手順で調べています。オントンジャワ海台の火山活動をしていた時期に、火山活動によって海に白金族元素が広がっていることを、以前おこなった研究で突き止めています。そこで、火山活動の同時代に海底にたまっていた堆積物(イタリア中央のゴルゴアセルバラというところ)を用いて、白金族の元素を分析をしました。
 その結果、白金族元素の割合が、隕石のものとは全く違うもので、マントルから由来したマグマによってできたことがわかりました。そして、隕石説を否定できたとしています。
 鈴木さんたちは、今までの研究の成果も加えて、オントンジャワ海台の形成過程とその影響を調べました。火山は、2回活発な活動をしていることがわかっています。両者の火山活動は、噴出物の量の多さから、地球史上最大規模の火山活動ではないかと考えられているものです。
 一度目の活動(1億2460万年前)で、大気中に二酸化炭素が大量に加わり、急速な温室効果がスタートしました。活動の終わる頃には、前回紹介しました「海洋無酸素事変」が起こります。その後、二度目の活動(1億2420万年前)が始まります。二度目の火山活動は、一度目よりは激しいものでした。はじまったばかりの海洋無酸素事変も、二度目の火山活動が起こったことで、継続します。無酸素事変の期間は、約100万年間に及びました。その結果、前回紹介した放散虫の大絶滅が起こったと考えられています。
 白亜紀末(K-T境界)の隕石衝突の事件では、大規模な絶滅が起こったことは有名です。今回の研究で、大規模な火山活動でも、大絶滅が起こることが明らかになりました。地球の大異変は、環境に大きな変化を与え、その変化が急激であれば、生物は適応できずに滅びてしまいます。そんなことを今回の研究は、示しているのでしょう。

・白金族・
白金族とは、
ルテニウム:原子番号44 Ru
ロジウム:原子番号45 Rh
パラジウム:原子番号46 Pd
オスミウム:原子番号76 Os
イリジウム:原子番号77 Ir
白金:原子番号78 Pt
の総称です。
いずれも地殻には少ない元素で、
多くは核(コア)にあると考えられています。
隕石では、元素の分離(正確には分化といいます)が
おこっていないので、
白金族の濃度も比較的高くなっていることがわかっています。
白金族の農集を、根拠に
K-T境界で隕石の衝突があったことが証明されました。
今回は、白金族の農集がないことが
隕石の衝突を否定ました。
面白いものです。

・疑問・
今回の論文において、なぜ、
オントンジャワ海台の火山岩や
その直上の堆積物を調べないのか
という疑問が生じます。
その答えは、隕石の衝突によって
マグマが形成されたとしても、
マグマ自体は多くはマントルが溶けたものとなります。
ですからマグマの中に隕石の痕跡がないからといって
隕石を否定したことにはなりません。
また、海台直上の堆積物は、
火山活動の終了後に堆積したものなので、
隕石の痕跡が残っていない可能性があります。
ですから、確実に隕石の痕跡を捉えるには、
少々離れてるかも知れませんが、
同時期に堆積したものを
試料にしたほうがいいことになります。
でも、あまりに離れているのは
少々気になりますが。

2012年5月10日木曜日

3_105 海台 2:巨大火山

火山はマグマによってできます。マグマはマントルが「何らかの原因」によって溶けたものです。その原因はなにか、というのが今回のテーマです。大規模な火山になると、普通ではない原因も考えられます。その有力な説として、地球外に起因する可能性も考えられています。

 海台には大きなものがあり、中でもオントンジャワ海台は、最大級の大きさがあることを前回紹介ました。オントンジャワ海台も含めて、海台はどのような起源があるのでしょうか。
 海台は、いろいろな成因があるとされています。火山活動によってきた海山や海洋島が沈降してできたもの(サンゴ海海台やベロナ海台)、海流によって堆積物がたまったもの(ブレーク海台)、断層などの構造運動でできたもの(キャンベル海台)、大陸地殻が沈降したもの(後で紹介します)、大規模で火山活動できた火山などが挙げられています。海台とは、地形としての区分名にすぎず、多様な成因があることになります。つまり、海台ごとにその成因を解明してく必要があるわけです。
 オントンジャワ海台は、活動時期が白亜紀前期(約1億2千万年前)の玄武岩の火山からできていることがわかっています。オントンジャワ海台は、大きいので、そのような火山は、地球(現在でも地球史上)でも、最大といえる大きさがあります。
 そのような超弩級の火山活動が海底で起こったのならば、地球環境に大きな影響を与えた可能性があります。
 火山活動に伴われて大量の噴出されたであろう二酸化炭素は、海底の噴火であっても、すぐに大気に達します。大量の二酸化炭素が大気に加わることになります。加わった二酸化炭素の量に応じて、温室効果によって温暖化が起こったはずです。
 実は、オントンジャワ海台の火山活動と同じ時期に、海水中の酸素が欠乏する「海洋無酸素事変」が起こっています。その原因は、温暖化によって陸地にあった氷床がほとんど溶けて、冷たい海水が大量に深海底に流れこみ、海水の大循環を止めてしまったと考えられています。その結果、海水に酸素が供給されなくなったのではないかとされています。
 同じ時期に、海のブランクトンの仲間(放散虫という種類)で、約40%もの大絶滅がありました。その大絶滅は、海洋無酸素事変によるとされています。放散虫の大絶滅も、もとをたどっていけば、この火山活動が原因ではないかということです。
 火山活動を起こした原因として、2つの説が唱えられています。下部マントルからの熱いマントル上昇流がマントル上部で大規模に溶けたためという説と隕石の衝突によってマントルが溶融してできたという説があり、長年論争されてきました。隕石の衝突による絶滅は、白亜紀末の恐竜絶滅が有名です。似たような規模の隕石の衝突があれば、上で述べたような環境異変や大絶滅も起こりえます。
 問題は、火山の原因が、隕石(地球外説)か、熱いマントル上昇流(地球内説)かということになります。オントンジャワ海台の物理探査や海底掘削などによる調査が進んできて、実体が少しずつわかってきました。そして、今年になって日本人研究者によって、決定的な証拠が出され、起源について決着を見ました。その詳細は次回としましょう。

・全原発停止・
原子力であろうがなかろうが、
電気にその由来の色はありません。
しかし、使う心にはその色を気にしてしまいます。
5月5日、北海道の泊原発が定期点検で停止しました。
これで日本では稼働中の原発はなくなりました。
だからといって、安心できるはわけではありません。
放射性物質はそこにまだ存在するのです。
そして動かすべきだと、必要だ考える人もいます。
放射性物質や放射線は無色無臭で、
その存在を感じる感覚器官は人間にはありません。
体が感じころには、死の恐怖が訪れるのです。
安全や安心は、他人や国から一方的に与えられるものではなく、
いつの時代であっても努力して手に入れるものなのでしょう。
手に入れる努力、守る努力をしなければと思います。
でも、なにをどうすべきか、悩みます。

・遅めの春・
長かったゴールデンウィークも終わりました。
天候の不順も少しずつおさまり、
北海道にも心地より春が訪れるようになります。
今年の桜は、少し遅目でしたが、
遅れた春を急ぐように足早に咲いては散っていきます。
今週でわが町の桜のピークも終わりそうです。
そして、すぐに初夏を迎えるようになります。
北海道の一番いい季節です。

2012年5月3日木曜日

3_104 海台 1:巨大海台

海洋は、まだまだ謎に満ちています。最初の謎解きは、多くの人が興味をひく、特別な場です。ありふれた場所は、代表的なところが解明されれば終了です。あとは特徴的なところへとつき進みます。海底の調査研究もその順に進んできました。

 海底には、さまざまな地形があることがわかってきました。列島や大陸の縁にある海溝、巨大な山脈である中央海嶺、海嶺を切る巨大な横ずれのトランスフォーム断層、点々と多数分布する海洋島や海山などの火山。海底は大陸以上に多様な地形があります。それぞれの地形は、地質学的背景をもっています。
 変化に富む海底ですが、いまだに未知の世界で、わからないことが一杯あります。海底は、専用の大きな調査船と特別な観測機器がないと調査がでないので、個人が自由に調べることはできません。研究をするためには、大きなプロジェクトを組む必要があります。大きなプロジェクトには、莫大な税金が投入されますので、明瞭な目的と規模に見合った成果が要求されます。
 海底地形は、大まかには知られています。そのために、概略の地形に基づいて、多くの研究者の興味をひく場で、プロジェクトが組まれ、調査が入ります。そして、より詳細がわかってきます。
 幸い海洋島は、海上に顔を出しているので、島に行く手段さえあれば、個人でも調査が可能です。しかし、個人の興味では、海底は調査ができないところです。また、興味を引く話題性に乏しいところの調査は、後回しにされます。
 調査船が自由に使えないころは、海域では、海洋島が主な調査対象でした。その後、海底の音波探査や海底の地磁気の調査によって、海底地形や形成過程の概要がわかってきました。深海底の平らなところは、いくつものボーリングがなされ、典型的なところはおさえられました。一番広い代表的なところがわかってきたので、それでよしとされました。
 興味の中心は、まずは中央海嶺、ついで各地の海山、海溝付近になり、現在では列島の付加体付近が、それに加わりました。いずれも海底地形では特徴のあるところでした。
 「海台」の実体解明が、他の海底には比べて遅れていたのですが、近年その研究が進められてきました。海台とは、海底より高い台地状の地形のところで、非常に大きな規模のものがあることもわかっていました。以前は海台の上部は平らだと考えられていたのですが、調査が進むにつれて、複雑な地形があることがわかってきました。海台には、いくつかの起源があると考えられています。
 中でも巨大な海台について、最近、その実体がわかってきたので、シリーズの紹介していきましょう。まずは、海台の中でももっとも巨大なオントンジャワ海台です。オントンジャワ海台は、西太平洋の赤道付近、ソロモン諸島の北にあります。面積186万km2、体積2690万~6130万km3(見積もりの誤差は大きです)で、関連する周辺の部分も含めると全体で面積488万km2、体積3640万~7600万km3になり、面積は地球の約1%、日本の面積の約14倍にもなります。
 その海台の正体は、次回としましょう。

・粘り強さ・
個人の努力で目標を達成できないのは、
いち研究者としては、歯がゆいものです。
それでも諦めることなく興味を維持していれば
やがては叶えられることがあります。
そのためには絶えることなく
他のことをしながらも、
興味を維持する粘り強さが必要です。
その粘りが、研究には一番大変なのですが。

・真面目な学生・
ゴールデンウィークの中2日間は、
授業をしていても学生の数が幾分少なく感じます。
でも、思ったより多くの学生が出席しています。
聞くと体育会系のクラブでは大会があるとのこと。
そして、後半の連休に帰省するという学生も多いようです。
まあ、素直で真面目な学生たちが
大半なのでしょうね。