2024年1月25日木曜日

1_208 テクタイト 2:クレータとの対応

 テクタイトには、いろいろな形、色、透明度などのものが見つかります。隕石ごとに、その種類や落ちた場所の特徴が異なっているためです。テクタイトには、隕石の落下位置がわかっていないものもあります。


 隕石が衝突した証拠として、隕石の破片やクレータがあれば、すぐにわかります。他にも、シャッターコーンや衝突石英、そして間接的なものとして高温高圧鉱物、特別な元素や津波堆積物や煤の層なども証拠になることを紹介しました。
 前回残していた、テクタイト(tektite)について紹介していきましょう。隕石が衝突した時、高温高圧状態が発生します。隕石と地球の岩石が溶けて、一緒になった液体が飛び散ります。溶けた液体(マグマ)が、飛んでいるうちに、冷え固まりガラス状になったものが、テクタイトになります。
 テクタイトは、成分によって黒色、緑色、黄色、茶色だったり、透明から不透明なものまで、多様なものがあります。また、液体の粘性と飛翔速度によって、形状も、ボタン型や流線型、滴状など、衝突の条件ごとに異なった見かけのものができます。
 テクタイトは、衝突地点の周辺に飛び散ります。特徴のある見かけをしているので、見つかりやすいものです。一つ見つかれば、同じような見かけをしているので、一気に多数見つかっていきます。
 テクタイトは特徴があるので、それぞれ名前がつけられています。モルダバイト、ベディアサイト、ジョージアアイト、アイボライトなどがあります。
 隕石が衝突した方向に応じて、テクタイトの飛び散る方向も決まってきます。ですから、テクタイトの分布からクレータを探すこともできます。テクタイトと対応するクレータが見つかっているものもあります。モルダバイトは1500万年前に衝突でできたドイツのリース・クレータより飛び散ったものです。ベディアサイトとジョージアアイトは、3400万年前のアメリカのチェサピーク湾クレーターから、アイボライトは100万年前のガーナのボスムツイ湖クレータに由来していることがわかっています。
 テクタイトが形成されるような隕石は、かなり大きなサイズだったはずです。衝突でできたクレータも、大きなものだったはずです。クレータが大きくなるほど、衝突の頻度は稀な現象となります。衝突も古い時代のものになります。
 また、地球は3分の2は海で、大陸でできたクレータしか見つかりません。大陸でできた古い時代の衝突のクレータは、大きくても侵食で消えていくこともあります。
 そのため、テクタイトが見つかっていても、クレータがわからないものもあります。実はもっとも広域に分布するテクタイトで、由来したクレータが見つかっていないものあります。次回としましょう。

・後期終了・
大学の今年度の後期の講義が終わり、
現在定期試験の期間に入っています。
担当の講義、2クラスで試験を実施します。
多数の学生が受けるので
採点も、なかなか大変になります。
定期試験のあとには、大学入試が続きます。
その直後には、後期の成績提出となります。
講義が終わってから、
バタバタと忙しい時期がきます。
いつものことですが。

・帰省・
次男が、現在、帰省しています。
長男は3月に帰省するはずです。
子どもたちも、
それぞれの道を進むようになっていくので、
1家4人がそろうのは、
なかなか難しくなっていきます。
これもが家族の時間変遷でしょう。
最後には、夫婦ふたりの生活が基本となってきます。
それに備えて、生活ルーティンや人生設計を
進めていくしかないでしょうね。

2024年1月18日木曜日

1_207 テクタイト 1:衝突の証拠

 隕石の衝突によって、地球表層では、いろいろな現象や変化が起こります。隕石が見つかる場合もありますが、大きな衝突ほど、隕石は見つかりません。それでも、衝突の証拠は残されています。


 隕石の落下は、そのサイズを問わなければ、常時至る所で起こっています。しかし、大きな隕石ほど衝突でなくなっていったり、古い隕石ほど風化な埋没などで分からなくなっていきます。
 隕石本体が見つかっていなくても、落下した証拠が見つかることがあります。一番わかりやすいものとして、クレータがあります。クレーターが見つかれば、隕石がなくても、衝突があったことがわかります。
 他にも衝突の証拠はあります。テクタイトやシャッターコーン、衝突石英などがあります。他にも、間接的ですが、高温高圧鉱物(コーサイト、スティショバイト、ダイヤモンドなど)、特別な元素(イリジウム)や津波堆積物や煤(すす)の層などもあります。
 聞き慣れないものが、いろいろ出てきましたので、説明していきましょう。テクタイトは、今回のテーマなのであとで説明することにして、それ以外のものについて、紹介しておきましょう。
 シャッターコーン(shatter cone)とは、隕石が衝突した時、周辺の岩石を衝撃波が通り抜けて、その模様が残された岩石のことです。溝は、円錐状の細いスジになっています。衝突の中心から放射状にできます。シャッターコーンのスジから、衝突の位置が推定できます。どのような岩石でも衝撃波は通り抜けますが、細粒で緻密な岩石に残されています。大規模な核爆発の際にも、形成されることがわかっています。
 衝突石英とは、もともとあった岩石中の石英が、衝撃による圧力で結晶構造が変形したものです。特殊な顕微鏡(偏光顕微鏡)てみると、特異な縞模様となって現れます。
 高温高圧鉱物とは、衝突時に瞬間的ですが高温高圧条件が生まれ、その時変成作用が起こります。他の変成作用と比べても、異なっているので、衝突変成作用とも呼ばれます。大きなクレータの内部などで、石英の高温高圧鉱物のコーサイト(1960年にアメリカのバリンジャー・クレーターから発見)やスティショバイト(1962年に同じくバリンジャー・クレータから発見)、石墨の高温高圧鉱物のダイヤモンド(1972年にロシアのポピガイ・クレーターから発見)などができています。
 特別な元素として、イリジウム(Ir)が有名です。白亜紀の終わりに恐竜などの大絶滅が隕石によるものだと知られれています。隕石の衝突の証拠になったのが、イリジウムでした。地球表層には稀な元素ですが、隕石には多く含まれていることから、衝突の証拠となった元素です。
 津波堆積物や煤の層は、隕石の衝突によって起こった巨大津波や大規模火災によって形成されたものが、地層となるほどの量あったことになります。だたし、津波も火災も他でも起こる現象なので、他の証拠がないと隕石衝突と結びつけるのは困難です。
 さて、テクタイトですが、少々長くなってきたので、次回としましょう。

・共通テスト・
多くの大学で実施されていた
大学共通テストは無事終わりました。
監督する側としては一安心です。
一般入試を受ける受験生は、
これからが本番となります。
我が大学も、2月に入試があります。
一年で一番寒い時期の入試は
北国では雪や暴風の危険性が常にあります。
公共の乗り物を基準にしていますので
遅延や運休があると、
配慮しなければなりません。
コロナ罹患や今回の能登地震への対応と同じように
代替の試験準備しておかなければなりません。
なかなか大変ですが、配慮すべき事態なので
致し方がありません。
試験時期が、冬場でなければ、
トラブルは少なくなるのでしょうが。
夏の新学期制度は、すべての教育機関で
進まなければならないので
なかなか難しいでしょうね。

・大学入試・
一般入試までの期間に、
大学での後期の講義が終わります。
その後、定期試験も終わっています。
そして、大学も受験生も
いよいよ入試態勢へとなっていきます。
受験生は、合格すると一過性のイベントになりますが、
大学では、毎年の年中行事になります。
大変ですが、重要な行事なので、
かなり前から準備をしていきます。

2024年1月11日木曜日

2_218 生命誕生の条件 13:多数の試行錯誤で

 いよいよ、長かった本シリーズも最後となりました。今回は2つ目の疑問への解決案を考えていきましょう。冥王代だから、ありえる考え方となっています。そんな解決策に納得できるでしょうか。


 生命誕生の条件における疑問の2つ目です。生命の誕生にかけられる時間が短すぎる点です。これまで述べてきたシリーズの復習にもなります。
 水や大気が形成され、ハビタブルトリニティが整うのは、後期重爆撃が落ち着く42億年前だと考えられます。また、41億年前には生命の痕跡(化学化石)が見つかっています。これらがの年代が正しければ、1、2億年ほどの期間で、生命が誕生することになります。条件が整えば、短期間に生命が誕生していくような時間に思えます。
 これまで述べてきたように、生命に必要な化合物を合成するための条件がわかってきました。その条件は多様で、プロセスも複雑なことがわかってきました。化合物の合成には、非常に多く環境や条件で、多数の試行錯誤が必要だったはずです。その試行錯誤を、長くても2億年ほどの期間で進めていかなければなりません。
 プロセスの複雑さを考えると、短期間に生命合成にたどり着くには、非常に困難に見えます。克服するためには、非常に多くの試行を繰り返す必要があるはずです。生命誕生においては、多数の環境で多様な条件があり、そこに多数の試行がなされなければなりません。多数の環境や条件は、どのようにしてできたのでしょうか。
 天然の原子炉説が、合成場として有効だと紹介していきました。天然の原子炉では、放射性元素の235Uが使われています。235Uは超新星爆発で形成された元素で、太陽系にもともとあった元素で、その後は崩壊していきます。半減期が7億年なので、冥王代には現在よりもっと多く(30倍以上)あったはずです。
 そして、ウランは固相に入りにくい元素なので、マグマオーシャンができて、固化する時に表層の大陸地殻に集まる元素です。また、ウラン鉱物は隕石からも供給されます。そのため、冥王代の表層にはウランが多くあったはずです。
 後期重爆撃で揮発成分が供給され、海ができ、大気、大地で水が循環しだすと、水に溶けやすいウランが移動し、地層中への濃集が起こり、天然の原子炉ができる条件が整います。冥王代には、大陸地殻の地下に多数の原子炉ができたと考えれます。
 原子炉で、多様な化合物が合成されます。地表では、大きな大陸はまだ少なく、多数の列島のサイズの陸地だったと考えられ、火山活動も活発な多様な環境ができていました。そこに間欠泉から吹き出された化学合成された多様な分子を含む溶液が流れ出します。多様な環境に溶液がもたされ、新たに化合物ができ、付け加わっていきます。その一部は、地下水となって、再度、別の原子炉に入ってきます。そんか繰り返しが、陸地周辺で繰り返されます。
 冥王代固有の多数の原子炉と、地表の多様な環境で、化合物の合成と循環が継続され、多数の試行錯誤が、同時並行してなされます。その結果、1、2億年ほどの短期間で、最初の生命が誕生したと考えられます。
 長いシリーズで、生命合成に関する新しい考え方を導入しながら、生命誕の条件を見てきました。天然の原子炉という少々奇異なシステムを想定した仮説を紹介しました。近年の多くの成果が盛り込まれた仮説です。今後も検証、修正作業が続いていくでしょう。

・新しい仮説の評価・
最後にこの仮説の感想を述べておきましょう。
天然の原子炉と間欠泉の仮説をみたときは、
あまりにも荒唐無稽に思えました。
20億年前の天然の原子炉であるオクロの存在は
以前から知っていました。
現在には存在しない天然の原子炉を冥王代に想定して
仮説が組み立てられています。
本当に妥当だろうかという疑問も持ちました。
新しい科学的仮説ですから、
これまでの問題点や課題を克服して
なおかつ利点をもったものになっています。
心理的に受け入れがたくとも
理性的に科学的に判断していくべきでしょう。
この仮説に関する論文を
いくつも精読していくと、
だんだんと納得できるようになってきました。
今後、この仮説の問題点を議論し、
それが仮説内で解決できるかどうかを
繰り返していくことになります。
このような議論を重ねていくことが、
もっとも科学的姿勢でしょう。

・充実した冬休み・
今年の大学の冬期休業の期間は、
月曜日の8日が祝日になっているので、
通常の正月休みより長くなっていました。
9日から講義が再開しました。
正月の三ヶ日は休みましたが、
年末も大晦日まで、正月も4日から、
いつものように大学にでていました。
その間、大学は静かなので、研究がはかどりました。
おかげで、論文の粗稿が、なんとか完成しました。
あとは推敲を重ねていくだけです。

2024年1月4日木曜日

2_217 生命誕生の条件 12:構造侵食

 明けましておめでとうございます。正月早々ですが、昨年まで連載していた、途中であったシリーズ「生命誕生の条件」を続けていきましょう。長くなっているのですが、あと2回で終わる予定です。


 「生命誕生の条件」のシリーズで、生命合成のためには、天然の原子炉と間欠泉というモデルが、現在有力だと紹介してきました。しかし、そこには大きな疑問も2つありました。その1つ目の疑問が、冥王代の年代の砕屑性ジルコンは残っているのに、なぜ岩石が残っていないのか、というものでした。
 鉱物が存在しているということは、冥王代にはマグマができ火成作用が起こって固まり、岩石になった過程があったことになります。間接的ですが、地殻があったことになります。ところが、40億年前より古い岩石は見つかっていません。証拠のない時代「冥王代」との定義通りの時代となります。
 原因のひとつには、古い証拠ほど残りにくくなるという「時間の淘汰」があります。砕屑粒子は残っているのが岩石がないのは、なんらかの作用や原因があったのではないかと考えられます。
 ふたつの要因が考えられています。ひとつは後期重爆撃で、もうひとつが構造侵食です。
 後期重爆撃は、地球に揮発成分をもたらす現象でした。それ以前の地球は、揮発成分がない状態で、硬い地殻が、厚く覆った状態でした(スタグナントリッドテクトニクス stagnant lid tectonics と呼ばれています)。プレートテクトニクスは機能せず、大きな変動はなく、火山が噴出するだけの状態だったと考えられます。
 しかし、43.7~42.0億年前にかけて、大量の隕石の爆撃が起こります。小惑星帯や木星のあたりの軌道から、小天体や隕石が大量に飛んできて、地球に衝突します。厚い地殻が破壊され、揮発成分がマントルへ追加されることで、地球に大きな変化が起こります。
 後期重爆撃で多数のクレータができ、地球の岩石は破壊され飛び散り、時には岩石を溶かしてマグマができます。激しい衝突で、地球の岩石が大半が破壊されたと考えられます。月では、表層はレゴリスと呼ばれる、破砕された礫や砂のようなもので覆われています。レゴリスは、重爆撃で形成されたものがあります。隕石が地球の公転軌道の外側から来ても、地球は自転しているので、表層の岩石が、万遍なく破壊されていきます。表層はレゴリスで覆われ、岩石は破壊され、表面からはなくなっていた状態だと考えらます。ですから、海や大気だできても、堆積作用で移動するのは砕屑性の礫や砂だったのでしょう。
 衝突で揮発成分がマントルにも加わります。するとマントルの流動性が大きくなって、マントル対流が起こります。流動性の増加とともに、対流は大きくなり、やがて破壊された地表付近まで達します。プレートテクトニクスがはじまり、表層でプレート運動が起こります。
 海洋プレートが形成され、沈み込みもはじまります。この時、構造侵食として、地表にあった冥王代の地殻の岩石の大半が、マントルに持ち込まれていきます。その結果、冥王代の岩石の痕跡がなくなったと考えられます。
 残っていたとしても、レゴリスとして砕屑物だったのでしょう。これが、冥王代の岩石が残っておらず、砕屑性ジルコンは残っている理由ではないかと考えられます。

・新鮮な気持ちの正月・
COVID-19の感染対応も消えて
久しぶりに普通の正月を
迎えることができました。
初詣も、正月の買い物も、
マスクなしに、出かけることができます。
4年前には当たり前であったことが
3年間、当たり前ではなくなりました。
そして以前の日常がもってきました。
新鮮な気持ちで正月を迎えられます。

・大学の日常・
大学の1月の講義の再開は、
土日祝日の関係で9日(火)からです。
13、14日は大学入学共通テスト
この日には、行事もあり、飲み会もあり、
忙しい一日になります。
こような忙しさも、大学に日常が
戻ってきた証拠でしょう。
大変ですが、味わっていきましょう。