2014年2月27日木曜日

3_127 氷期サイクル 3:大陸配置

 氷河期の周期性は、ミランコビッチ・サイクルだけが要因ではありませんでした。現在の大陸配置も重要な役割を果たしていたことが、シミュレーションの結果、わかってきました。

 これまで述べてきたように、繰り返される氷河期の原因として、ミランコビッチ・サイクルが重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、ミランコビッチ・サイクルは、最近にはじまったものではなく、地球が天体として運動している限り、いつもあったはずのものです。その周期性は変わるかもしれませんが、あったはずです。氷河期のスタートの問題も重要なものですが、おいておきましょう。氷河期の周期性に、今回は焦点を当てて考えています。
 地球の気候変動の要因として、他にも大陸配置と大気組成が考えられていました。氷河期の周期性を、大気組成や大陸配置に結びつけることは難しく、その位置づけがよくわかっていませんでした。
 地球に温暖化をもたらす二酸化炭素が、周期的に増減するメカニズムは考えにくいものです。大陸の移動速度は年間10cm前後のゆっくりとしたもので、大陸の移動による配置の変化が、周期性を生み出すことも考えられません。
 ただし、現在の配置が、氷河期の周期性を生んでいる可能性はあります。大陸の現在の配置は、氷床を考える上で重要な働きをもっていることは想像できます。なぜなら、極地やその周辺に大きな陸地があれば、寒くなると夏も氷や雪がとけず残っています。やがては大きな氷床となります。南極大陸とグリーンランドにある氷床が蓄えている水の量は、海水面を上下させる大きな要因となります。氷床による海水準の変動幅は、130mにも達すると見積もられています。
 東京大学大気海洋研究所の阿部彩子さんたちのグループは、氷床-気候モデルによるシミュレーションによって、氷河期の周期性と大陸配置の関係をつきとめました。その結果を要約して紹介しましょう。
 シミュレーションによると、ミランコビッチ・サイクルによる日射変化に対して、気候システムが反応していきます。日射量の少しの変化でも、現在の北アメリカ大陸の分布と気候の条件は、大陸の氷床が反応しやすい状態であったそうです。つまり、日射量が少し減っても氷床が広がったり、少し増えても氷床が溶けるという、非常に敏感な反応をする条件をもっているようです。
 大気-氷床-大陸の相互作用によって、ミランコビッチ・サイクルの影響を拡大するという条件を持っていたようです。このような関係が、氷河期の周期性を生んだのではないかというのが、阿部さんたちの報告でした。
 さらに、大気中の二酸化炭素の量は、氷河期の周期にともなって変動しているのですが、気候変動を増幅させる手助けはできるのでは、それは主要因ではないことも判明しました。
 以上のことから、氷河期の周期性は、ミランコビッチ・サイクルと現在大陸の配置によって生み出されたものである、というのが結論になります。将来(もちろん地質学的な時間でみたときですが)、大陸配置が変われば、周期性は消えることもあるでしょう。さらに、過去の氷河期に周期性を考えるときには、大陸配置を考慮しなければならないということになります。
 現状の大陸配置はしばらく続きますから、氷河期の周期性も継続することになります。
 人類は今後の存続するのであれば、10万年ごとに氷河期の危機を乗り越えなければならないことになります。とりあえず、次の氷河期に、化石燃料は多分残っていなのいでしょう。化石燃料がないとすると、その時人類はどのようなエネルギーを手にしているのでしょうか。そのエネルギーは、持続可能なものでしょうか。そのエネルギーは、氷河期を乗り越えるに足るものでしょうか。少々先のことですが、不安でもあります。将来の叡智に期待することになりそうです。

・想定外・
二酸化炭素が氷河期に大きな影響を及ぼしていないのは
重要なことかもしれません。
直前の氷河期は、7万年前にスタートしたので、
約3万年後には再来する可能性があります。
そのころも大陸配置は大きく変わっていないはずですから、
氷河期が訪れる可能性が大きはずです。
そんなとき、人類はどのように対処するでしょうか。
二酸化炭素を増加させて防ぐのでしょう。
あるいはそのようなことで防げるのでしょうか。
シミュレーション結果が気になります。
そんな先のことより、目前の温暖化の方が深刻でしょうか。
いずれにしても、想定外は避けたいものです。

・2月は短い・
2月は、28日という2、3日の短かさ以上に
短く感じるのは私だけでしょうか。
本当に2月は、あっという間に過ぎ去りました。
大学は入試や学期末、卒業などの作業で
バタバタしているのですが、
例年はそれなりに研究時間がとれました。
しかし、今年は、分掌の関係で
いろいろと校務が多く、
落ち着かない時期となりました。
3月も同様に時間があっという間に
過ぎ去っていきそうです。
仕事の優先順位を考えて
こなしていかなければなりませんね。

2014年2月20日木曜日

3_126 氷期サイクル 2:ミランコビッチ

 氷河期の周期性の原因として、3つの要因があり、ミランコビッチ・サイクル、大陸配置や大気組成が挙げられています。まずは、主要因と考えられているミランコビッチ・サイクルを紹介しましょう。

 氷河期は周期的に訪れていることを、前回、紹介ました。その一番の原因として、ミランコビッチ・サイクルが挙げられています。
 ミランコビッチは、セルビアの地球物理学者で、地球に降り注ぐ太陽の光、日射量は、天体の公転軌道の周期的な変化を反映していると考え、その影響を計算しました。ミランコビッチの計算の結果、日射量には、いくつかの周期性が起こりうることがわかってきました。彼の名前をとって、天体運動による気候の周期的変動を、ミランコビッチ・サイクルと呼んでいます。
 天体の運動の周期性は、3つの要因が知られています。自転軸の円運動である歳差運動には、1万9000年、2万2000年、2万4000年の周期があります。地球の自転軸の傾きは変化して、現在は23.4度ですが、22.1度から24.5度の間を変化しています。その周期は4万1000年となっています。地球の公転軌道は楕円なので、太陽からの距離が変化(離心率)しているのですが、その周期は、9万5000年、12万5000年、40万年が知られています。
 これら3つの要因の周期を計算するのは、非常に大変です。ミランコビッチは、コンピュータや計算機のないころの研究者なので、複雑な方程式を、手計算で解いていきました。1920年から1930年ころにかけて、成果を報告しましたが、その周期性が氷河期に対応することを示しました。
 一方、いろいろな地質学的証拠から、氷河期の周期性が明らかになってきました。その結果、ミランコビッチ・サイクルと氷河期の周期性が一致していることがわかってきました。今では、氷河期の周期性の主たる原因は、ミランコビッチ・サイクルだと考えられるようになりました。
 ミランコビッチ・サイクルの他の要因として、大陸配置や大気組成も関係すると考えられています。
 大陸配置は、20億年前ころや7億年前ころにおこった、スノーボール・アースとよばれる、全球凍結するような激しい寒冷化には、重要な要因になっていたと考えられます。
 大気組成で重要なのは、現在問題視されている二酸化炭素ですが、全球凍結のときは重要な役割を果たしていました。全球凍結から回は、大気に大量に蓄積された二酸化炭素が、激しい温暖化を起こしたためであることがわかってきました。
 大陸配置も大気組成も、第四紀の氷河期に、どのような役割を果たしているのかは、実はよくわかっていませんでした。東京大学大気海洋研究所の阿部彩子さんたちのグループが、シミュレーションによる答えを出しました。次回、紹介しましょう。

・2月の大学・
私立大学の前期の入試は2月上旬に終わったのですが、
現在、内部での作業が続いています。
前期入試が終わると、
3月には後期の入試が始まります。
その間、いろいろな校務が発生して、
毎日のように打ち合わせや会議があります。
その合間には、卒業や進級にかかわる判定もあります。
大学は講義がなくても、
夏休みと違って2月、3月はそれなりに忙しくなります。
しかし、講義がない時期は、
講義準備や学生対応も減り、研究する時間がとれます。
こんなときが、忙しくはありますが、
稼ぎどきとなります。
日々研究することにワクワク感がでてきます。

・吹雪・
先週末に本州で大雪を降らした低気圧が発達して
今週はじめから、北海道を襲っていました。
数日、激しい風が吹きました。
地吹雪となって、雪に突っ込む車がありました。
私は歩いて通勤しているので、
吹雪で車から私が見えないと非常に危険ですが、
多くは、車の通らないコースを歩いていのですが、
大学構内を歩いているとき、
時々暴走車がいるので困ります。
注意して歩くしかありませんね。

2014年2月12日水曜日

3_125 氷期サイクル 1:間氷期

 縄文時代は、急激な温暖化が起こった時代でした。温暖化は、縄文文化を起こす重要な条件だったに違いありません。温暖期以前は氷河期でした。氷河期にサイクルがあることは知られているのですが、その原因に新たな説がでてきました。

 縄文時代は、縄(なわ)の文様がある土器が特徴的ですが、他にも磨製石器の使用、農耕と狩猟採集に基づく定住社会などを特徴としています。このような定住文化を生んだのは、気候変動が大きな役割と果たしていると考えられています。
 縄文時代は、ヴィルム氷河期の終わりから、急激に暖かくなってきた約1万5000年前から約3000年前までです。氷河期には陸に氷床ができるため、海水面が低下しています。間氷期になると、氷床が溶けるのと、海水の熱による膨張によって、一気に海面上昇が起こります。海退から海進への移行で、激しいところでは、100mも海面が変動したとされています。
 縄文時代は、日本でも海水面も上昇が調べられていて、縄文海進として知られています。縄文時代の約6000年前ころには、海水面が今より3~4mは高かった(日本では最大で5mほど)とされています。縄文遺跡の貝塚の分布位置から、当時の海岸線を読み取り復元されています。
 縄文時代は、今より2℃ほど平均気温が高かったとされています。氷河期の最も寒い時期と比べて、平均で10℃以上も気温変化があったと見積もられています。そんな寒さから開放されてきた時代に生まれたのが、縄文文化でした。氷河期から間氷期への移行は、短時間(一説では数百年程度)で起こったと考えられています。
 当時の気候変動は、現在心配されている温暖化の比ではなく、非常に激しいものだったのです。しかし、豊かな縄文文化が花開いたということは、古代の人にとって、温暖化は恩恵をもたらしたことになります。
 縄文時代より前の氷河期は、実は、一度きりではなく、何度も繰り返し襲来しています。最後の氷河期のヴュルム氷期(Würm)は7万年から1万5000年前、その前のリス(Riss)氷期は18万年から13万年前、ミンデル氷期(Mindel)は30万年から23万年前、ギュンツ氷期(Günz)は47万年から33万年前、ドナウII氷期(Donau II)は55万年から54万年前、ドナウI氷期(Donau I)は60万年から58.5万年前と名付けられています。それらは、バラつきますが、ほぼ10万年周期に起こっています。
 なぜ、氷河期が、繰り返しが起こるのでしょうか。従来の定説とは違った考えが、最近提唱されました。その紹介は、次回としましょう。

・大学入試・
大学は入試の真っ最中です。
各地で入試会場を設けておこなうため、
スタッフは各地に派遣されます。
地域によって受験生の多い少ないがありますが
受験生の便宜を一義に考えると
しかたがないことでしょう。。
我が大学だけなく、
本州の大学も北海道で試験をおこないます。
我が大学が試験会場にされている時もあります。
少々複雑な気持ちがしますが、
お互い様でしょうか。

・卒業研究・
大学は、入試とともに
4年生の卒業研究の発表会に時期ともなっています。
私の学科は、学期内の授業期間に発表会をしてしまいました。
それは、それでいいのですが、
時間的制約や教員の講義担当の制約もあり
一気に発表時間をつくることがなかなか難しくなります。
講義期間に内にすべて終わるというメリットもあります。
一方、講義に煩わされることなく
じっくりと時間をかけて指導したいという気持ちもあります。
学生は、どちらを選ぶでしょうか。
早く終わる方を選ぶでしょうか。
それとも熱心な指導でない方を選ぶでしょうか。
いずれも講義期間内になるのようですが、
本当のところはどうでしょうかね。

2014年2月6日木曜日

6_120 日本珍菌賞 2:謎が解けた菌

 日本珍菌賞について紹介しています。一位に輝いたのは、謎に満ちた菌の謎を解明したものでした。その解明された謎は、自然の不思議に満ちたものでした。その謎を解いた研究者は、熱心で真面目な人でした。

 日本珍菌賞の選考は、現代的にTwitterを使っておこなわれました。学術雑誌や学会報告された菌に限定して、2013年4月から5月にかけて、Twitterで候補を募りました。期間中に、約100アカウントから300以上のツイートが寄せられました。そこから、34種の候補が選ばれ、順位がつけられました。
 栄えある一位を受賞したのは、「Aenigmatomyces」という菌で筑波大学の出川洋介さんが発見されたものです。菌の珍しさもさることながら、その菌の生態を明らかにする努力と、解き明かされた不思議さも受賞に値するものでした。
 Aenigmato(エニグマト)は「謎(に満ちた)」という意味で、myces(マイセスあるいはミケスとも読みます)は「菌」という意味になります。Aenigmatomycesとは、「謎の菌」という学名を持つ菌なのです。このような学名がつけられたのは、実態がよくわかっていないためでした。
 出川さんは、エニグマトミケスを発見しただけでなく、その生態も解明しました。その生態が非常に不思議なもので、日本珍菌賞に値するものでしょう。
 出川さんが、神奈川県立生命の星・地球博物館の学芸員だったときに、発見しています。1999年の夏、箱根で観察会があった時、森から持って帰った土を培養しました。土のまま培養して、そこからどのような菌が出てくるかを調べていきます。一ヶ月ほどすると、見慣れない菌が発生しているのに、出川さんは気づかれました。かすかな記憶を頼りに論文を探り、それがエニグマトミケスではないかと考えられました。
 エニグマトミケスは、1993年にカナダのオンタリオ州の森で二度だけ見つかっています。ただ、正体が不明だったので、そのままの学名をつけられていたのでした。カナダから記載された標本(タイプ標本といいます)を取り寄せて照合したところ、同じものであることが判明しました。
 出川さんは、この菌を調べ続けました。出てきた菌を、顕微鏡で詳しくみると、精包に寄生していることがわかりました。精包は、トビムシなどの土壌動物が作る構造です。原始的な節足動物であるトビムシは、オスの精子をゼリーでくるみ、枯れ葉の上に柄をつけて立てたものをつくります。これを、精包と呼びます。オスが立てた精包を、そこの通りかかったメスが見つけて体に取り込んで受精します。このように交尾をしない繁殖方法は、間接受精と呼ばれています。
 幸運なことに、培養した土の中に、アヤトビムシ科の一種がいました。ですから、トビムシの精包に寄生する菌である可能性が高くなりました。それを確かめるために、野外でトビムシがたくさん生息している土壌を選んで持ち帰り、培養しました。すると、箱根以外にも入生田、丹沢、鎌倉など神奈川県の各地の土壌から、さらに関西地方の土壌からもエニグマトミケスを見つけることができました。ここまで調べて、やっとエニグマトミケスの「謎」が解けたのです。
 トビムシの生態も奇妙ですが、利用されなかった精包に寄生して、栄養としながら繁殖するのが、エニグマトミケスです。確かに、この奇妙さは、日本珍菌賞に値するものでしょう。
 もっとも不思議なのは、このような生態を調べ上げた出川さんではないでしょうか。ただし彼にとっては、特別なことではなく、ただただ好奇心に燃えて、知らないことを解き明かすということだったのでしょう。その熱意こそが一番の推進剤だったはずです。もちろん、並大抵の努力ではできないでしょう。出川さんが、非常に真面目で、研究熱心な人だったからこそ、このような奇妙な菌の生活史を探り当てることができたのでしょう。
 出川さんは、日本珍菌賞の授賞式で、「珍しいとされる珍菌はちゃんと探せば、実はどこにでもいる。珍菌を珍菌でなくするために研究をしている」とコメントされたそうです。素晴らしい姿勢だと思います。

・さらなる珍菌・
世界には150万種の菌類がいると推定されています。
記載され学名あるのは10万種ほどです。
日本で見つかっているのは、そのうち1万5000種ほどです。
総数は不確かだだとしても、
多数の菌類が、まだ誰にも知られず、
多様な生活を送っているはずです。
エニグマトミケスよりもっと不思議な菌類も
いっぱいいるでしょう。
そんな不思議さを、もっと伝えて欲しいものです。
2位以下の受賞をした菌も
http://www.huffingtonpost.jp/takashi-shirouzu/-_11_b_3432753.html
に紹介されています。
少々刺激的なものもありますが、
興味のある方は、どうぞ覗いてみてください。

・同僚・
出川さんがいた博物館に私もいました。
ですから、出川さんをよく知っています。
非常に真面目で、研究熱心な人でした。
その後、2009年からは筑波大学の施設で菅平にある
菅平高原実験センターに転出されました。
きっと、人里離れた森の実験センターは
出川さんにとっては、天国のようなところでしょう。
つぎつぎと成果も出されていることだと思います。
さらなる珍菌の発見があるかもしませんね。