2002年5月30日木曜日

2_16 6億年前の大絶滅(その2)

 6億年前のスノーボールアース、あるいは全球凍結という事件の続きのはなしです。さっそく、ホフマン博士の説に基づいて、シナリオの続きを見ていきましょう。
 暴走冷却によって、地球は一気に寒冷化が起こりました。やがて、地球は、一番寒い季節を迎えます。当時の平均気温は-50℃、海面は1kmを越える厚さの氷に覆われています。ですから、海洋から、大気への水蒸気の供給はほとんどなくなります。つまり、雨が降らなくなるのです。大気は、乾燥していきます。氷に覆われずにかろうじて残っていた陸地も、冷たく乾燥した砂漠となっていたはずです。
 氷に覆われた海洋は、今まで海洋がおこなっていた役割を果たさなくなります。それまで、太陽光と地球の自転で、地球表層の温度を平均化する役割を果たしてきました。その働きを、海洋はしなくなったのです。
 この時代には、まだ陸上に進出した生物は、ほとんどいなかったと思います。いたとしても、風を使って広がることのできる細菌類が火山による熱水のあるところで、細々と生活していたに過ぎないはずです。6億年前の大部分の生物は、海洋生物であったはずです。そして、多くの生物は、20億年前の大激変を生き抜き、酸素を有効に利用できる生き物となっていたはずです。ということは、多くの生物は、海面付近で生活していたはずです。
 逆にそのよう性質を持っていたがために、栄養豊富な海岸付近や海面付近で生活してた生き物は絶滅したはずです。20億年前から酸素を供給していたシアノバクテリアなど、光合成をする海洋微生物は、大部分が全滅してしまうはずです。酸素供給のメカニズムのストップしてしまいます。どれほどの大絶滅をしたのかはわかりませんが、20億年前の大絶滅に勝るとも劣らない大絶滅があったと考えられます。
 海と太陽、大気が調和を持って存在することこそ、生命の絶対条件です。20億年前はその内の大気に異変をもたらしました。その異変はもたらしたのは生命自らでした。6億年前の異変は、海洋に起きました。その異変をもたらしたのは、地球自身でした。これは、生命がつくった試練ではなく、与えられた試練でした。こんな試練をも、生命は乗り越えてきました。
 海洋の表面は、ほとんど氷に閉ざされていました。しかし、海が、すべて氷ることはありませんでした。それは、地球内部から供給される熱のためです。氷の厚さが1kmを越えなかったのは、そのためです。深海でも、海嶺や海山などで火山活動があると、熱水噴出口や地下水の湧き出し口で、小さな領域ですが、生物が細々と生き長らえることができたのです。それが、私たちの祖先でもあるわけです。
 そんな過酷な時代も、やがて終わります。それは、大気中に二酸化炭素がたまったためだと考えられています。二酸化炭素は、火山活動によって地球内部から定常的供給されていたはずです。その二酸化炭素が、雨が降らないことで、大気中に二酸化炭素がたまってくるのです。氷の時代が1000万年以上も続き、火山活動が続くと、大気中の二酸化炭素の濃度は、1000倍にもなります。二酸化炭素は水に溶け込みやすい気体です。現在のように海があり、雨が降る環境では、大気から除去される仕組みが働きます。その機能が6億年前にはストップしていたのです。
 大気への二酸化炭素の濃集によって、温室効果が促進され、暖かくなります。そのために海の氷が融けて、やがて赤道付近では、氷がとけ、海が顔を出します。しかし、急激に熱くなることによって、大量の水蒸気が発生して、激しい温室効果が生じます。その結果、寒冷化のゆり戻しかのような激しい温暖化がおきます。その推定値は平均気温50℃というものです。
 激しい環境変化は、さらに生命に追い討ちをかけます。でも、そんな激しい環境変化を生き抜いたものは、逞しい生命となっていました。そして、環境が穏やかになると、生命の大爆発とよばれるカンブリア紀へと突入します。

2002年5月23日木曜日

2_15 6億年前の大絶滅(その1)

 7億年前頃、地球では、全地球が真っ白になるくらい寒い時期があったのです。とんでもない事件です。それによって、多くの生物は、死に絶えたと考えられます。しかし、一部の生物は、しぶとく生き延びました。そんな大事件を、今回と次回の2回にわたってみてきましょう。
 地球のさまざまな時代の地層を調べていくと、その時代の環境が読み取れます。ある時代の世界各地の地層で、同じ現象が起こっていることが読み取れると、その現象は、全地球的に起こったことだとわかります。
 そんな地層の一つに、ティライト(tillite)とよばれる堆積岩があります。氷礫岩は、変わった岩石で、巨大な礫から粘土まで、さまざまなサイズの堆積物が混在した岩石、年輪のような縞模様をもつヴァーブ(varve)とよばれる堆積岩、あるいはドロップストーン(dropstone)と呼ばれる大きな石が、縞状堆積物の中に挟まっている岩石などがあります。
 これらは、いずれも氷河によって形成される岩石なのです。ティライトは氷礫岩と呼ばれ、氷河によって運ばれた堆積物である。ヴァーブは、氷縞粘土(ひょうこうねん)と呼ばれ、氷河の前面にできる湖には、夏には粗い砕屑物が冬には細かい堆積物がたまり、年輪のようにきれいな縞模様ができたものです。ドロップストーンは、凍った湖の上に、冬のあいだに転がってきた大きな礫が、春には氷が溶けて湖の堆積物の中に落ち込んだものです。
 他にも、氷河擦痕(さっこん)岩石につけられた氷河の傷跡やモレーンなどの氷河による地形など、なさまざなま氷河の証拠があります。そんな氷河の痕跡が、7億5000万年前から5億8000万年前までのいくつかの時代の地層に、見つかります。
 6億年前、大陸はいくつもの大陸が、赤道付近にありました。現在、赤道付近では、氷河は標高5000m以上でないと形成されません。ところが、赤道に分布していた大陸なのに、この時代に氷河の証拠がたくさん見つかるのです。
 5000m以上の陸地は、そんな広く分することはありません。これはいったい何を意味するのでしょうか。
 当時(6億年前)の地球が、非常に冷たかったことを意味します。その冷たさは、想像を絶するものでした。ホフマン博士の推定によると、地球全体が真っ白で、雪や氷に覆われています。当時の平均気温は-50℃、海面は1kmの厚さの氷に覆われています。ただし、地球内部の熱が放出されていますので、海洋の底までは凍らなかったと考えれています。こんな時期が、1000万年あるいはそれ以上続いたと考えられています。まるで、地球が白い雪球のようみ見えるので、スノーボールアースあるいは、全球凍結とも呼ばれています。
 なぜ、こんな寒冷化が起こるのでしょうか。それはスノーボールアースをいい出したホフマン博士によると、次のようなストーリが考えられています。
 7億7000万年前まであった一つの巨大なロディニアという大陸(超大陸といいます)が、分裂をはじめます。6億年前には、大陸は小さく分裂し、赤道付近に分布します。赤道付近の大陸では、雨がたくさん降り、大陸を侵食します。激しい雨は、大気中の二酸化炭素を溶かし、大陸から持たされたイオンと結びついて、炭酸塩の沈殿物をつくります。二酸化炭素の急速減少によって、温室効果が下がり、地表の温度が急激に下がります。その結果、大きな氷が極地域の海にできます。広く白い氷は、太陽の光をたくさんはね返し、地球を暖めるために使われません。これが、寒冷化に拍車をかけます(暴走冷却とよんでいます)。この連鎖が悪循環をうみ、全球凍結へと向かいます。
 さて、地球は大変な事態を迎えました。続きは次週です。

2002年5月16日木曜日

2_14 20億年前の大絶滅

 私たち(生命、あるいは人類)は、平穏無事に、現在にたどり着いた訳ではないのです。紆余曲折をへて、それこそ波乱万丈の試練を乗り越えて、現在に、生きているのです。いや、生き延びてきたというべきかもしれません。そんな、事件で、最初で、最大の事件をみていきましょう。
 地球生命において、最大の事件、それは、約20億年前に起こったものです。これは、多くの科学者が、一番のものとしてあげる事件でしょう。では、その20億年前の事件とは、どんなものだったのでしょうか。
 20億年前までの地球環境は、二酸化炭素(CO2)を中心とするものでした。大気も、二酸化炭素が主要成分でした。もちろん二酸化炭素は、水への溶解度が大きいので、海にも多くの二酸化炭素が溶け込んでいました。
 ところが、約28億年前に、シアノバクテリアとよばれる小さな生き物が誕生しました。その生き物は、その後、約20億年前には、大量に発生したのです。それは、シアノバクテリアの敵が少なかったのと、繁殖する環境が整っていたからでしょう。
 シアノバクテリアは、光合成をする生き物です。光合成とは、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から、光のエネルギーを利用して、有機物と酸素(O2)をつくるという作用のことです。シアノバクテリアが大量発生するということは、大量に酸素が発生するということです。
 その証拠が、大陸各地からみつかっています。ストロマトライトと縞状鉄鉱層とよばれる岩石が、その証拠です。
 ストロマトライトは、全体としてはマッシュルームのような形をして、内部に同心円状の構造をもつ岩石です。このようなマッシュルームが密集してできた岩石が、大陸の堆積岩の中から、大量にみつかります。以前は、その素性やでき方がわからなかったのですが、西オーストラリアの西北にあるシャーク湾ハメリンプールから、同じ構造をもつ岩石がみつかったのです。
 ハメリンプールでは、ストロマトライトが、現在つくられているさいちゅうでした。シアノバクテリアが表面に群生して住んでおり、盛んに光合成をしているのです。今まで見つからなかったのは、シャーク湾のように塩分濃度が異常に高い、特殊な環境にしか生き延びてなかったのです。しかし、かろうじてでも、ストロマトライトを作る生物が、生き延びていたおけげで、その岩石の素性や成因がわかったのです。つまり、大量のストロマトライトの存在は、大量の酸素の発生を意味します。
 もう一つの証拠の縞状鉄鉱層は、鉄の原料となる鉄鉱石のものとです。鉄鉱石は、大陸各地で、大規模に露天掘りされています。つまり、大量の縞状鉄鉱層が存在するのです。その大規模な縞状鉄鉱層の形成された年代が、やはり約20億年前なのです。縞状鉄鉱層は、海に解けていたいた鉄のイオンが酸化状態になることによって沈殿してできる堆積岩だと考えられています。つまり、海水中の酸素の量が多くなると形成される岩石なのです。
 ストロマトライトと縞状鉄鉱層は、呼応していたのです。どちらも酸素の量産が起こった証拠なのです。
 海で鉄を使い尽くすと、酸素はやがて、海水からあふれ、大気中へのでてきます。大気の環境も酸化状態になるわけです。
 酸素は、生物にとっては、猛毒です。酸素は、ものを酸化させます。生物にとって、酸素に満ちた環境では、からだが、酸化、つまり分解していくのです。それまで、酸素のない環境に生きていた生物は、20億年前ころ、大絶滅をしたはずです。
 シアノバクテリアのもちろん生き残り繁栄しましたが、解毒能力を持つミトコンドリアという装置を体にもっていた数少ない生物のみが、生き延びました。それは、私たちの祖先でもあるわけです。私たちの祖先は、地球上最大の試練、大絶滅を生き延びたのです。

2002年5月9日木曜日

2_13 生物の絶滅

 一つの命は、多くの命の連鎖の中に生きています。連鎖の中では、多くの同胞たちが、一つの命に先行しています。そして、やはり、同胞たちが、その後に続きます。これが、「種(しゅ)」です。種は、永遠ではありません。命に限りがあるように、種にも限りがあります。種の終わり、それは種の絶滅に意味します。そんな限りある種の命、「絶滅」をみていきます。
 生物の一番基本となる単位は、一つの命です。一つの命は、なんのために生きているのでしょうか。食べるためでしょうか。それとも、他の命に勝って、住みかや縄張りを守るためでしょうか。どの答えを選んだとしても、最終的には、メスやオスを見つけ、家族となり、子孫をつくり、その子孫を含めた家族を守るために生きているのではないでしょうか。
 家族を守るため、あるいは子孫をつくるためとは、一つの命が、意図しようが、しまいが、結果としてメンメンと続く、種の保存を意味します。家族を守ること、それは、ある命が何をも儀性にしてすべきことなのです。もしかすると、自分の命を儀性にしても、すべきことなのかもしれません。それほど家族、つまり、種の保存とは重要なことなのです。そんな万難を排して守るべき種も、終わるときがあるのです。
 一つの命の終焉、それは、死です。一つの種の終わり、それは、絶滅(ぜつめつ)です。絶滅とは、種の連続が途絶えるときです。あるとき、ある種から生まれた種が、その連鎖を絶つときが、絶滅です。
 死には、さまざまな原因が考えられます。人の死を例にしますと、一番、一般的な死は、「寿命」です。一つの命(個体)が、自分自身の内部にあるなんらかの原因で維持できないとき、その命は尽きます。それはすべての生命に起こる死です。
 しかし、個体としては、まだ、生きる力があるのに、外的な要因で死ぬこともあります。交通事故、流行病、怪我など、外部に原因があって死に至ることもあります。
 内的原因である寿命、外的原因、いずれであっても、死がきます。
 このような内因の死も外因の死も、個々の人間の死だけでなく、種のレベルでも、同様に訪れます。つまり、絶滅も、内因によるものと、外因によるものがあるはずです。
 内因による絶滅とは、種自身が、自分達の種の内部にある原因によって絶滅する場合です。例えば、人類でいえば、戦争や薬害、自分達が引き起こした環境破壊による絶滅などによって、絶滅すれば、内因的絶滅が起こります。人類以外の場合では、特殊化しすぎた種がちょっとした環境の変化に適応できなかったり、種内の競争で特殊化したため他の種との競争に負けて絶滅することなどが、内因的絶滅にあたるでしょう。
 外因による絶滅は、例えば、人類が他の生物種を絶滅に追いやる場合や、変異した病原菌によって人類が絶滅することなどです。外因による絶滅とは、一般的には、ある種が、なんらかの環境の変化や、他の種との生存競争に負けてしまうときなどです。
 個々の種の絶滅の場合は、その原因が定かではない場合が大部分です。ところが、人類が関与した種は、例えば、ドゥドゥ、タスマニアタイガー、ニッポンオオカミなどは、その絶滅の原因がはっきりします。でも、一般的には、なかなかその原因が、わからない場合が多いのです。まして、今は亡き過去の生物種の場合は、もっと困難です。
 ところが、種の大量絶滅があるときは、外因が、その重要な原因となるはずです。その原因は、絶滅の規模が大きいほど、その記録は、大地に刻まれているはずです。まだ、すべての大絶滅の原因が解明されているわけではありませんが、そこには、地球環境と生命の関わりが見てとれるのです。

2002年5月2日木曜日

6_11 5月の誕生石

 5月の誕生石は、エメラルドとヒスイです。5月の誕生石は、どちらも緑色です。そう、5月は新緑ころです。さて、その緑色には、どんな秘密が隠されているのでしょうか。そして、どんな宝石かみていきましょう。

 エメラルド(emerald)の日本名は、翠玉(すいぎょく)です。エメラルドは、いわゆるエメラルド・グリーンと呼ばれる緑色のきれいな鉱物です。しかし、エメラルドは、内部に傷や割れ目があることが多く、くもってみえたり、半透明にみえたりします。また、不純物として、他の鉱物などができていることもあります。このようにエメラルドは、傷のないものは少ないため、高品質の透明感のあるものは、高価になっています。
 エメラルドの鉱物名は、ベリル(緑柱石(りょくちゅうせき)、beryl)です。化学組成は、Be3Al2(SiO3)6、です。アクアマリン(3月の誕生石)と同じ鉱物です。エメラルドの緑色の原因は、少量含まれているクロム(Cr)とバラジウム(V)のためです。
 エメラルドは、古くから宝石として使われてきました。紀元前5000年頃から利用され、クレオパトラも愛したといわれています。そして、歴史上有名なエメラルドの多くは、エジプトのクレオパトラの鉱山から採れたものです。しかし、その鉱山は、いまでは、品質のいいエメラルドはあまり採れなくなってしまっています。
 もう一つの誕生石とされるのは、ヒスイです。ヒスイは、漢字では翡翠とかきます。ヒスイは、以前は一つの種類の宝石と考えられてきましたが、1863年に、実は2種類の別の鉱物があることがわかりました。輝石の仲間と角閃石の仲間の2種類です。
 輝石の仲間のヒスイは、ヒスイ輝石(jadeite)という鉱物で、硬玉(こうぎょく)と呼ばれています。Na(Al, Fe)Si2O6、という化学組成をもっています。ヒスイ輝石は、単一の結晶ではなく、小さな結晶が集まって(交差繊維状組織と呼ばれています)いるもので、さまざまな色(緑、白、ピンク、褐色、赤、青、黒オレンジ、黄色など)のものがあります。クロム(Cr)によって、緑になったもので、きれいなエメラルド・グリーンのものが高価とされ、インペリアル・ジェードと呼ばれています。
 もう一つの閃石の仲間のヒスイは、ネフライト(nephrite)という鉱物(Ca2(Mg, Fe)5Si3O22(OH)2)で、軟玉(なんぎょく)と呼ばれています。硬玉(硬度7)とくらべて、軟玉(硬度6.5)は、やや硬さ(硬度(こうど))が低くなっています。それは、鉱物の種類を反映したものです。ネフライトも、単一の結晶ではなく、繊維状の組織をもった結晶が集まったものです。ネフライトも各種の色を持ちますが、一様なものか、しみ状、縞状になることがおおく、鉄(Fe)を含むものは濃い緑色となります。
 どちらのヒスイも、弾力性があり、丈夫であるので、彫刻を施すのに適していました。そのため、古くから宝石として利用されてきました。その一番古い利用の歴史は、日本なのです。縄文中期には、勾玉(まがたま)として、ヒスイ輝石が使われていました。
 エメラルドも、ヒスイもどちらも緑色でした。エメラルドとヒスイ輝石の緑はクロムで、ネフライトは鉄でした。それも、少量ふくむとそのような色になります。ところで、ヒスイ輝石に鉄が少量含まれると何色になるとおもいますか。それは、紫です。不思議ですね。人の世も、宝石の世界も、色の道は奥が深そうです。