2017年1月26日木曜日

1_153 チバニアン 1:時代境界の決定

 地球史における時代の名称は、どのように決まっていくのでしょうか。新しい時代名称の決定をめぐる話題を紹介することで、考えていきましょう。時代名に日本の地層に由来しているものは、今までにありませんでした。もしかすると日本由来の名称がつくかもしれません。

 「チバニアン」という言葉があります。チバニアンは、同当地キャラでも、ポケモンでもありません。時代名です。ただし、まだ正式には認められていないものです。現在有力な時代名の候補のひとつとしてあります。
 チバニアンは、千葉が由来となっています。
 そもそも時代名とはどのようにして決まっているのでしょうか。昔は正式な決め方はなかったのですが、現在では、ユネスコの機関である国際地質科学連合(IUGS)が時代名を国際的に定めています。
 時代境界は、化石などを含みうる、そして連続的に試料が入手しやすい堆積岩で地層となっているものを用いています。そのため、地層として必要な条件として、つぎのようなものがあります。
1 連続した整合層であること
 不整合や断層などの地層の欠損がないことです。そして調べるためには、変成・変質を受けていな地層が望ましいです。
2 地層へアプローチが容易なこと
 アプローチがいいというのは、誰にとってもいうことなので、陸上の露頭であることが条件となります、そして露頭も広く観察しやすいことが望まれます。
3 海成層で化石が豊富なこと
 時代を決めるのためには時期が限られた化石(示準化石といいます)が多くでること必要です。化石は、海でたまった地層(海成層といいます)に多く、陸でできた地層にも化石が多いこともありますが、広がりが期待できません。それは次の条件とも関係しますが、海でたまった地層には、広く分布している海生生物の化石があります。
4 凡世界的化石が多産すること
 示準化石を使って各地の地層を対比していきます。そのため、化石が世界的(汎世界的)で、なおかつ種類が多いことが重要です。
5 堆積速度の速い泥質堆積物
 堆積速度が速いということは、一定期間内に多くの堆積物がたまるので、時間的な分解能がよくなります。粗粒の堆積物が多くたまっていても時間分解能がよくありません。細粒の泥岩が有効です。
6 研究が進んでいること
 時代を正確に決められていて、根拠が十分確認されていることが必要になります。そのためには、査読されている論文として成果が公表されていることが必要になります。できれば、いろいろな研究者が、いろいろな研究手法で調査されていることが望ましいのです。
7 年代がいくつかの方法で決定できること
 年代決定は、化石では相対年代になって数値が決まらない場合もあります。時代の正確さをチェックするためには、複数の方法によって調べられ、その正しさが検証できることが確かさを増していきます。
 以上が、時代境界を決めるための条件です。時代や地層の状態によっては、正確さがさまざまなものになります。その正しさを十分検証して置きたいとして、IUGSがその検証作業をしています。確認されたものをゴールデンスパイクと呼ばれています。その説明は次回にしましょう。

・大学では・
大学は講義が終わりました。
しかし、学科の卒業研究の発表会と
定期試験期間がはじまり、
2月に入ると大学入試がはじまります。
教員はなかなか落ち着かない時期です。
その間に成績評価もしていかなければなりません。
なかなか忙しくて時間をつくれないのですが、
2月になれば研究も進めていきたいと思っています。

・野外調査・
明日(1月27日)から野外調査にでています。
私は、野外調査を冬にいくことはあまりしません。
それは寒いので、海岸沿いや川沿いで
水にはいるのは厳しいからでです。
雪でも降ると車でアプローチできないところもあります。
でも、今年度はしかたがない事情があり
この時期になりました。
時期的にはあまりよくないのですが、
見たいところがいくつかあるので
そこをしっかりみてこうようと思っています。

2017年1月19日木曜日

5_147 ニュー・ホライズンズ 2:成果

 ニュー・ホライズンズの成果によって、冥王星のこれまでの知見を、書き換えかねればならないことが、いろいろでてきました。冥王星は古くから馴染みがあるのに、もっと未知の天体でもありました。その実態がようやく明らかになってきました。

 前回はニュー・ホライズンズのデータがすべて到着したという話をしました。その解析は現在進められているはずです。ここでは、ニュー・ホライズンズが上げた成果で現在わかっていることを見ていきましょう。
 まずは、画像でしょう。初めて目にする鮮明な画像から、冥王星と衛星のカロンの表面が明らかになりました。その姿は、ハッブルの撮影していたぼんやりとした画像からは、想像もつかないほどの複雑さをもっていました。
 冥王星は、活動を終えた天体ではなく、現在も地質学的変化が継続しており、新しくできた地形があることがわかりました。その代表ともいえるのが、1000kmにおよぶハート型の氷河です。氷河の氷は、窒素からできているようです。ハート型氷河は、現在の太陽系で知られている最大のものとなります。また、冥王星には大気があり、もやとして存在し、気圧が変化していることもわかっていました。そして大気はあまり宇宙空間に逃げず、冥王星に留まっていることもわかりました。大気は青色をしています。
 衛星のカロンでもいろいろ発見がありました。カロンにも地質学的な変動があったことがわかってきました。赤道にそって帯状の地形があります。そのような地形は、海が凍ったときにできる可能性があり、かつてはカロンにも海があったのではないかと考えられています。またカロンの北極付近には、暗い領域が見つかっています。「モルドー(Mordor)」と呼ばれていますが、その起源はよくわかっていません。冥王星の大気から由来しているのでは、という考えもあります。
 このような画像の情報に加えて、大量の観測データが現在では届いています。その解析が進行中のはずです。成果がでれば、冥王星やその衛星の起源などがさらにわかってくると思います。
 現在、ニュー・ホライズンズは、また休眠モードにはいっています。そして新たな任務として、エッジワース・カイパーベルト内の天体(2014 MU69)を観測するため向かっています。2014 MU69は、冥王星から4億8000万kmも離れています。到着予定は、2年後の2019年1月1日になっています。
 また、大きな成果が上がることと期待していましょう。

・太陽系外縁天体・
ニュー・ホライズンズの次なる目的地は、
太陽系外縁天体と呼ばれるもので、
エッジワース・カイパーベルトとされるところです。
ここは彗星になって飛んでくる天体などが多数あるところです。
近年多くの天体の発見もなされています。
多数の天体があるのはわかっているのですが、
その実態は、だれも見たことがありません。
もしたどり着き、観測できたら、快挙となることでしょう。
ニュー・ホライズンズが順調に目覚め、
再度の観測できればと思います。
この観測衛星は、2006年に打ち上げられていますので
10年以上、過酷な宇宙空間に滞在しているのです。
観測装置が壊れていなければいいのですが。

・この時期は・
北海道は大学だけでなく
多くの学校の冬休みが明けました。
大学は、いち早くスタートしています。
早くはスタートしたのですが、
1月下旬には講義が終わります。
続けて定期試験シーズンがはじまります。
2月には入試もはじまるので、
なかなかタイトなスケジュールになります。
教職員はこれから慌ただしい日々が続きます。
でも、教員は授業がないので、時間的束縛が減るので
自分の仕事ができる時期でもあります。
やりたいことは色々あるのですが、
どこまでやり、できるかは、自身の努力次第なのですが。

2017年1月12日木曜日

EarthEssay 5_146 ニュー・ホライズンズ 1:送信完了

 記憶の薄れている方も多いかもしれませんが、ニュー・ホライズンズという冥王星探査機は、近年、科学界に大きな話題を提供しました。気の長い探査計画と、根気よく待ち続ける研究者たちの思いを紹介しましょう。

 ニュー・ホライズンズ(New Horizons)、「新しい地平」という名称をもった人工衛星は、冥王星探査を目的として、2006年に打ち上げられました。9年におよぶ長旅をして、2015年にやっと冥王星までたどり着きました。冥王星は太陽から離れているため、ソーラー発電を利用できませんので、原子力電池が使用されています。
 移動の間は、探査機は休止状態になります。途中に天体があると観測はしていましたが、約半年に一回のペースで、定期的に再起動と点検がなされ、2014年12月6日に冥王星が近づいたので、休眠モードから再始動させられました。
 2015年1月15日から観測を開始し、2015年7月14日には冥王星に最接近し、その後も観測を続け、2016年1月で探査を終了しました。しかし、観測データはその後も送り続けており、2016年10月28日に、やっと全てのデータを送信し終わりました。
 なぜこのようにデータ転送に時間がかかったかというと、観測データを収集することが最優先され、データ転送は二の次にされていたためです。例えば、冥王星と衛星のカロンに接近しているときの観測の速度は、データを送る速度の100倍以上の処理速度でおこなわれました。もし、何かあったときに備えての配慮でしょう。観測で蓄えられてきた膨大なデータを2015年9月から送信をはじめ、総計50ギガビット以上のデータを、15ヶ月かけて2016年10月にやっと送り終えました。
 観測のための探査機ですから、観測最優先で、接近しているうちに可能な限りデータ収集しておく必要があります。そして、データ送信も重要ですが、送る時間は観測が終わってからいくらでもあるはずです。優先順位を考える必要があります。市民にも興味がある冥王星の真の姿を伝える画像も優先され送信されました。
 冥王星の姿は、ハッブル宇宙望遠鏡のぼんやりとした画像しかなく、実態がよくわかっていませんでした。ニュー・ホライズンズが打ち上げられたときは、冥王星は惑星とされていたのですが、2006年に準惑星に区分されるようになりました。ですから、だんだん注目されなくなってきていました。
 しかし、太陽系の外縁天体の代表として、冥王星型天体と呼ばれる存在でもあります。今回のニュー・ホライズンズの観測によって、注目が高まりました。科学的成果はいろいろありますが、市民にとっては、冥王星の鮮明な画像が一番インパクトがありました。冥王星の新たな姿を示すとともに、その科学的成果に期待させました。
 ニュー・ホライズンズが上げた成果は、次回、紹介しましょう。

・原子力電池・
原子力電池とは、放射性元素が崩壊する時の
熱エネルギーを電力に変換する方式です。
プルトニウム(238Pu)やポロニウム(210Po)など
放射性元素のアルファ崩壊で生じた熱を利用しています。
放射性物質を積んでいるので、
打ち上げに失敗すると危険なのですが、
遠くの天体の観測では、太陽光が少なくなるので
どうしても原子力電池を使用する必要があります。
現在ではソーラーパネルの性能もよくなって
木星軌道あたりまではソーラーパネルが使えるようになってきました。
しかし、木星より遠くの天体の探査には、原子力電池が必要になります。
原子力電池こそ、核の平和利用ではないでしょうか。

・始動・
正月、成人式の連休もおわり、
やっと正月気分も抜けたでしょうか。
大学も始動しました。
そして週末には早速、センター試験がはじまります。
今年は、少々、慌ただしい始動となりました。
北海道の小・中学校は、長い冬休みなので、
来週からの始業となりますが。

2017年1月5日木曜日

6_141 地震の頻度

 今年最初のエッセイです。正月の三ヶ日も過ぎましたが、まだ正月気分が残っているかもしれませんが、昨年のことを振り返り、ゆるんだ心を引き締めたいと思います。

 明けましておめでとうございます。今年こそは、穏やかな年になればと思っています。
 穏やかな年は、自然現象において異変がないことが前提ですが、こればかりはおさえようがありません。昨年は、異常気象がいろいろあり、北海道でも例年になく、雪が多く、雪の早い冬のはじまりとなりました。地質では、地震の多い年でした。地震は、私に身近なところでの影響はありませんでしたが、いろいろ印象に残るものがありました。
 2010年の東日本地震が大きなものだったので、それ以降のことはあまり印象の残っていなかったのですが、昨年の2016年4月の熊本地震は、記憶に残るものとなりましたし、現在も避難生活が続き、復興も十分でないことも伝わっています。
 気象庁のデータベースで地震の記録を確かめることにしました。大きな地震として震度6弱以上がどれくらい起こったかを調べることにしました。震度6弱の揺れは、家屋に被害がでたり、立って歩くことができないような地震です。
 2016年の震度6弱以上の地震を検索すると、10個あったことがわかります。熊本地震の関連するものが、2016年4月14日の夜に発生した地震とその余震(?)が2個、16日の再度の地震とその余震が3つありました。この地震があったため、私は大分熊本の調査を断念しました。
 2016年6月16日には、北海道道南の内浦湾で震度6弱の地震がありました。北海道の地震だったので、京都の母から電話があり、気遣ってくれました。マグニチュードが5.3程度で、震源も浅いものだったので、幸いわが町では大きな揺れはありませんでした。
 そして、2016年10月21日には、鳥取県中部で震度6弱、マグニチュードも6.6あり、大きな被害がありました。私が以前いた研究所があり、知り合いも多数おられ、年賀状でも被害を述べられている人もおられました。
 そしてつい先日、2016年12月28日には、茨城県北部で震度6弱、マグニチュード6.3の地震がありました。
 熊本地震以外は、いずれもマグニチュードはそれほど大きくないのですが、震度が10km前後の浅いところで起こった直下型の地震のため、周辺では大きな揺れとなりました。
 同じデータベースで、さらに過去の地震を調べました。震度6弱以上の地震を検索すると、2015年はなし、2014年は1回(11月22日、長野県北部、M6.7、6弱)、2013年は1回(4月13日、淡路島付近、M6.3、6弱)、2012年はなし、となっています。2011年には9回ありましたが、これは東日本地震とその後に頻繁に地震が起こった時期になります。ですから、2012年から2015年まで、日本列島は、比較的大きな地震は少なかったといえます。
 こうしてみると、2011年に次いで2016年は、大きな地震が何度も起こっている年だったことがわかります。地震発生の傾向は、地震が少ない地域で大きな揺れが起こると、その影響はその周辺に及び、時には日本列島全体で地震が起こりやすくなっているようです。
 地震が地下の岩石にかかる圧力によって歪みが蓄積して、それらが何らかのきっかけで岩石の破壊が起こると、地震となります。日本列島は、太平洋プレートの沈み込もで東日本が、フィリピンプレートの沈み込み西日本に大きな圧縮の力がかかっているところです。常に歪みがたまる地質学的位置に置かれています。そのために、大きな地震が起こると周辺で歪みが溜まっているところでは地震が起こりやすくなります。
 ただし、これは理屈で、いつ、どこで、どれくらいの地震が起こるかは、岩石の破壊なので、なかなか難しいものだと思います。ですから、いつ、どこで、どのくらいなどの確かさわなくても、防災の心構えを怠ることのないようにしておくことが重要です。
 新年そうそう、地震の話題をしましたが、今年こそは、穏やかな年であることを願っています。

・地震予知の難しさ・
ものの破壊を予測するのは難しいことは、だれもが理解できます。
ガラスをハンマーでたたけば、どこをたたいたかで割れるところが、
力の入れぐわいでどれくらの割れ方をするのかが予測できます。
これは一気に力をかけた場合です。
一方、一枚のカラス板にあちこち不均等に砂を載せていくと
あるときガラスは重さに耐えかねて、割れます。
一定以上の重さをかければ、割れることは予測できます。
しかし、いつ、どこが、どのような割れ方をするのかを予測するのは、
なかなか難しいものだといいうことは、わかっていただけるはずです。
これが地震予知の難しさに通じるものです。

・いつもの正月・
正月の三ヶ日はいかがだったでしょうか。
我が家は、大晦日の年越しそばから、
三ヶ日の朝のお雑煮、二日の初詣、
夜の少々高級な食材を使った夕食を、決まりにしています。
ただ、受験生がいるので、少々変則になってしまいますが。