2019年1月31日木曜日

3_179 惑星系の誕生 3:原始星円盤

 原始星の周りはガスに覆われています。ガスの形状と原始星の状態から、星と惑星系の形成過程が探られています。通常の光ではガスの中を覗くことはできません。解像度の高い電波でないと見えてきません。

 アルマ望遠鏡で観測されたのは、原始星でした。星はガスの多いところで形成されます。そのため、原始星の周りには、ガスが取り巻く状態になります。一般に宇宙空間に存在する物質は、回転しています。そのため、原始星もガスも回転しています。星の周りでガスが回転すると、星の重力とガスの遠心力の釣り合いで、平たい円盤状に集まってきます(ケプラー回転といいます)。このようなガスを原始星円盤、あるいは降着円盤ガスなどと呼んでいます。
 アルマ望遠鏡は、電波によって、この円盤構造を観測しました。論文の題名は、
The Co-evolution of Disks and Stars in Embedded Stages:The Case of the Very-low-mass Protostar IRAS 15398-3359
(初期段階で円盤と星の共進化:超低質量原始星 IRAS 15398-3359)
というものです。
 IRAS 15398-3359という星は、できはじめの星として知られています。温度が低く、サイズも小さく、ガスの中に埋もれています。そのため通常の光(可視光)での観測は難しい星です。この星は、以前にも調べられていたのですが、解像度が悪く、実態が詳しくはわかっていませんでした。今回の観測から、惑星系の形成について、新しい事実が見つけられました。
 それは、誕生したばかりの原始星にも円盤構造ができていることでした。この発見が意味することは、原始星の誕生とともに、惑星系も形成されるということです。従来は、原始星が成長してから、その周囲に惑星が形成されると考えられてきました。今回の観測で、原始星の形成とともに惑星系もできるということがわかったのです。
 さらに、原始星円盤の質量と原始星の質量が同程度であることも分かりました。このような状態だと、円盤の構造は非常に不安定であるはずので、今後、ガスは急激に原始星に落ち込んでいく状態がくると推定されます。
 従来のモデルを、新しい観測で変更を迫るということは、科学の世界ではよくあります。このシリーズの最初に、多様な惑星の発見によって起こっていることを述べました。惑星科学はいろいろな点で変更、修正を求められている状況が出現しています。でも、そんなとき、研究者は新しいアイディアを次々と出せるので楽しいだろうと思ってしまいます。古いモデルを提唱した人たちは、そのモデルを捨てるか、修正するかが迫られます。一時は多くの人が採用したモデルとしてもてはやされたでしょうが、ある時それが捨て去られる、これが科学の健全な姿です。

・科学の醍醐味・
自然科学では、確定した法則はありません。
すべてが仮説に過ぎません。
仮説にも多数の証拠、多数の検証がなされたものから
特定の対象、少ない証拠、いくつかの検証だけから
構築されたものまであります。
仮説のもっともらしさの程度は、さまざまです。
仮説でとどまっているのは、
私たちが自然界で法則の対象となったものを
すべて調べ尽くすことができないためです。
それが科学の弱点であります。
しかし、それが科学の醍醐味でもあります。
でも自然科学には仮説しかない、というのは
確定した法則でしょうね。

・淡々と・
大学は定期試験がやっと終わりました。
続いて一般入試がはじまります。
教員はその隙間をぬって成績評価を進めていきます。
その期間もあまり長くないので、
かなり慌ただしいスケジュールになります。
まあ例年のことですから、
淡々と進めるしかありませんね。

2019年1月24日木曜日

3_178 惑星系の誕生 2:アルマ望遠鏡

 惑星ができる時の様子がわかってきました。原始星の観測から明らかになってきました。チリの高原にある巨大な望遠鏡で、日本も設立に参加していました。

 惑星形成に関する新発見は、できたての星の観測によるものでした。その観測は、アルマ望遠鏡によるものでした。アルマ望遠鏡は、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA:Atacama Large Millimeter / submillimeter Array)の略称で、チリの北部、アタカマ砂漠の中にあります。アタカマ砂漠は標高5000mの高地になっています。
 なぜ、このような不便で標高の高い過酷な環境に望遠鏡があるのでしょうか。それは、ミリ波からサブミリ波の波長を観測するために適している地だからです。ミリ波は波長が1~10mm(周波数が30~300 GHz)で、サブミリ波は波長が0.1~1mmの(300 GHz~3THz)の電波です。いずれの波長の電波も、大気中に含まれている水蒸気によって、吸収が激しくて感度が悪くなっているます。日本のような湿潤な気候の地では、いい観測できませんでした。そのため、標高が高く砂漠の高地が観測に適していることになります。もちろん水蒸気を含む空気も薄い方が適しています。
 世界中のそのような条件を満たした「観測最適地」がいろいろ候補が挙げられた中で、最も適した地としてアタカマ砂漠が選ばれました。標高も高いので空気が薄く、また非常に乾燥していて年間降水量が100mm以下しかありません。観測する研究者にとっては過酷ですが、観測条件が優先です。
 日本だけでなく、東アジア、ヨーロッパ、北米の諸国が、チリと協力して建設されました。チリが選ばれたのは、先程の「観測最適地」を満たし、なおかつ、南半球は観測できる拠点が少ないので、今まであまり研究がなされていない星域での観測が期待されたためでした。
 この望遠鏡は巨大です。ひとつの望遠鏡ではなく、複数のアンテナが組み合わられて、ひとつの巨大なアンテナとなっています。直径12mのパラボラアンテナが54台、直径7mのパラボラアンテナが12台、合計66台のアンテナから構成されています。これまでの電波望遠鏡の約100倍の感度と数10倍の解像度を持った性能となっています。
 ただし、弱点もあります。不便な地です。日本から40時間ほどかかり、なおかつ標高も高いので高度障害も起きやすくなります。しかし、観測には理想的な環境なので、天文学者は訪れることになります。
 アルマ望遠鏡は、銀河の形成、星や惑星の誕生、有機分子の合成などの物質進化、ブラックホールの研究に威力が発揮できると期待されています。今回の報告もその一環です。

・センター試験・
先週末、センター試験が終わりました。
北海道はセンター試験の前後は大荒れの天候でしたが、
幸い試験の日は穏やかな日でした。
受験生にとっても実施する側いとっても
ホッとできる天気でした。
全国50万人以上の受験生が
一斉に同じ条件で試験に望むことになります。
日本列島は長いので気候のハンディもあるはずです。
それを克服することは難しいものです。
長年続いてきたセンター試験も来年度で最後になります。
次の試験はどうなるのでしょうか。
受験生が一番心配でしょうね。

・卒業研究発表会・
学科では卒業研究の発表会があります。
このエッセイを送るのは発表の前日です。
皆さんに届く頃には終わっています。
学生にとっては発表会がプレッシャーになるでしょう。
学生生活最後に卒業研究として
レポートをまとめ、発表することは
非常にいい経験になると思います。
社会でも同じような経験をすることがあるはずです。
そのためにも精一杯取り組んでいって欲しいものです。

2019年1月17日木曜日

3_177 惑星系の誕生 1:モデル修正

 惑星系の誕生は、これまで私たちの太陽系をモデルにして考えるしかありませんでした。多くの惑星が発見されるようになったので、これまでの惑星系誕生のモデルも修正を迫られるようになりました。

 近年、多様な惑星が多数発見されています。さまざまな想像もしていなかった惑星系もありました。もちろん、生命が誕生していてもいいような惑星もありそうです。地球に似たものもありそうですが、まだ完全にそっくりなものはなそうです。しかし、多数の惑星の発見は、いろいろなことを考えさせてくれました。
 私たちの太陽系の惑星は、太陽系においては、いくつもの規則性があるように見えます。例えば、惑星の公転軌道が簡単な式で示せるティティウス・ボーデの法則にそっている、太陽から近い順に固体惑星とガス惑星、氷惑星が並ぶ、恒星、惑星や衛星は軌道共鳴により整数比になる尽数関係になる、惑星系はほぼ同一の公転軌道を同一方向に回転している、などさまざまなものがあります。これらの規則性は、力学の法則に反するものではありませんが、力学の法則から直接導き出せるものでもありません。ですから、このような規則性は、太陽系形成時に与えられた条件なのか、それとも偶然や別の要因によるものなのかは、検討が必要になります。
 これまで、雛形にすべき惑星系は私たちの太陽系だけでしたので、太陽系が説明できれば、とりあえずはそのモデルはOKでした。
 現在のモデルは、太陽系を形成したガスやチリからできるというものです。恒星の形成が終わったあと、残ったガスやチリ(降着円盤と呼ばれています)から形成されます。降着円盤は、チリが恒星の周りを回り、衝突・合体して微惑星になり、数百万年間で成長して、原始惑星になります。恒星からの位置で、近いところでは、金属や鉱物など固体になるものだけで微惑星ができ、離れると揮発性物質(主にH2Oの氷)も固化して巨大ガス惑星になり、さらに外側では集積速度が遅くなるため氷惑星となる、というものでした。
 新しい惑星が多数見つかり、それも多様性があることがわかってきました。それは、惑星系の誕生を、私たちの太陽系をモデルにしたものが、そのまますべての惑星系に適用できないことを意味しています。私たちの惑星系の誕生の物語をどう修正するかが重要な課題になります。
 そんな中、惑星誕生に関する新しい発見がありました。それは、誕生間もない原始の星の観測によるものでした。詳細は、次回としましょう。

・活況・
惑星の研究をされているかたは
近年は非常にワクワクしているのではないと思います。
上でも述べたようにいろいろな惑星、次々と見つかっているので、
研究対象がいろいろ出てきたことになります。
大発見、それも多数の発見があるので、
研究者はいろいろなアイディアが出せることになります。
そんなチャンスはそうそうないでしょう。
活気に満ちていることとも思います。

・変化の時期・
大学はいよいよ後期も後少しとなります。
来週ですべての講義が終わり、定期試験となります。
そのあとは、一般入試となります。
在学生でも4年生は卒業式
そして社会へと気持ちが向かうことでしょう。
在学生は、単位習得できているかどうかを心配しながらも
春休みに気持ちは向かうことでしょう。
いずれも変化の時期となります。

2019年1月10日木曜日

6_159 ニュー・ホライズンズ 2:ウルティマ・トゥーレ

 前回、紹介するとしていたニュースが流れました。ニュー・ホライズンズが最接近したウルティマ・トゥーレ画像が公開されました。その異様な姿が明らかになりました。

 ニュー・ホライズンズは、ウルティマ・トゥーレ(Ultima Thule)に約3500kmまで接近しフライバイをしました。時速5万km以上のスピードで通過しました。ウルティマ・トゥーレは、冥王星の軌道から7億kmほど外側にあり、太陽から距離は65億kmほど離れています。人類が観測した太陽系内でもっとも遠くにある天体となりました。冥王星は、エッジワース・カイパーベルトの一員となりましたので、このウルティマ・トゥーレは2番目の観測となります。
 天体の話では、示される数値が、日常とはかけ離れたものばかりです。3500kmを最接近といっていますが、日常感覚からはすごく遠くに感じます。2015年7月に接近して観察した冥王星から16億kmほども離れたところにあるので、sの距離と比べれば3500kmは接近といえるでしょう。
 最接近の間に900枚ほどの画像を撮影するそうです。ただし、遠くなので画像を送信してから受け取るまで、10時間ほどかかります。また、現在衛星は、太陽と同じ方向になったので、画像転送は一時中止され、10日から再開されるそうです。今回の探査の観測データをすべて送信するには、20ヶ月ほどかかるという気の長い話になります。
 ウルティマ・トゥーレの画像をみると、15時間ほどの周期で自転していて、雪だるまのような形をしています。2つの丸い天体がくっついた形になっています。岩石と氷からできていて、表面はが赤っぽく、茶色のまだら模様があるようです。日本の「はやぶさ」が到達した、小惑星の「イトカワ」もラッコのような形をしていましたが、この天体も歪でした。2つの天体がゆっくりと合体してできたようで、小さい玉の直径が14km、大きいほうが19kmほどです。
 赤い色は、冥王星の衛星カロンも似た色をしてました。多分、ソリンという窒素とメタンからできている炭素化合物で、太陽から飛んできたイオン粒子によって形成されたと考えられています。
 ウルティマ・トゥーレの姿は、ひとつひとつの特徴は、既知の天体でもみられたものです。しかし、観測データが届いて解析されいくと、新しいことが次々とわかってくでしょう。期待したいと思います。新年からいいニュースを聞けました。

・短い冬休み・
大学の後期の授業が、今週から再開しました。
学生にとっては、短い冬休みでした。
1月の講義は変則的なスケジュールとなります。
曜日によって講義回数が異なるので
それを調整するために、
別の曜日に割り振られることがあります。
スケジュールを確認しておかないと
間違ってしまうと大変です。

・お蔵入り・
以前にも書いたのですが、
このエッセイでは、最新情報を広く取り入れるために、
自分にも役立てようと考えてもいます。
最新のニュースや論文などをとりあえず入手し読むためです。
後回しになることを防ぐためにもなっています。
でも、ついつい後回しになってしまう
お蔵入りした論文も多数あります。
そんな論文を年末年始にかけて整理していきました。
それらは、今の自分にとっては
重要な論文ではなかったと思うことにしています。

2019年1月3日木曜日

6_158 ニュー・ホライズンズ 1:最果ての地

 あけましておめでとうございます。今年最初のエッセイは、「新しい地平線」で見出された「最果ての地」の話題です。今年が、いい年であるように、最新情報からはじめましょう。

 今年最初のエッセイは、「新しい地平線」(ニュー・ホライズンズ New Horizons)の話しですが、エッセイでも何度か取り上げました。ニュー・ホライズンズは、NASAが2006年に打ち上げた衛星で、冥王星やそれよ遠くにある天体を探査するためのものです。
 ニュー・ホライズンズは、2015年から冥王星の探査をはじめて、2015年7月14日に冥王星をフライバイをするとき、最接近しました。冥王星とその衛星のカロンの鮮明画像と多くの情報をもたらしました。2016年1月まで冥王星を観測を続けました。そして2年後現在、冥王星の次のターゲットとして、小惑星の「2014 MU69」に接近しています。
 2014 MU69は、目標設定の予備探査の際にハッブル宇宙望遠鏡が発見しましたが、まだ軌道などの天体データが不足していたので、仮の名称でした。ハッブル宇宙望遠鏡のチームは、1110113Yと呼びました。ニュー・ホライズンズのチームは、探査の対象になるので、PT1(潜在的目標 1;Potential Target 1)と呼びました。その後、正確データが得られたので、2015年3月に小惑星センターにより2014 MU69が割り当てられました。NASAは、2014 MU69の愛称を公募して、ウルティマ・トゥーレ(Ultima Thure)となりました。意味は、「最果ての地」という意味です。変な名前ですが、遠くにある天体であることを象徴したものです。
 その位置は、エッジワース・カイパーベルト(Edgeworth-Kuiper belt)と呼ばれるところです。太陽系の惑星軌道より外側(太陽から約30天文単位)にある天体です。太陽系の黄道面に多数の小天体が分布しているところです。その領域は冥王星も含まれています。
 ニュー・ホライズンズは、2019年1月1日にウルティマ・トゥーレに最接近します。1月2日にはそのデータが公開される予定だそうです。なお、このエッセイは、2018年12月31日に書いて予約配信をしていますので、その画像はまだ見ていません。もし公開された、次のエッセイで紹介していこうと思います。

・年の終わりに・
2018年の年末は、寒波の襲来で
日本の各地で降雪がありました。
わが町でも降雪あったのですが、
そんなにひどい降雪ではなく、幸いでした。
30日の明け方の地震の方にビクリとしました。
大した揺れはなかったのですが、長く揺れました。
9月6日の北海道胆振東部地震の記憶が蘇り
家族全員が起きたようです。
幸い、大きな揺れになりませんでしたので、
家族は再度寝たようです。
私は、起きる時間まで本を読んでいました。

・トラブルと期待と・
ニュー・ホライズンズは2015年7月4日に通信途絶しました。
その後、回復しましたが、一部の装置のみが動かない状態でした。
3日後、通常の観測を再開できる状態に回復しました。
そんな危機を乗り越えて、冥王星の観測がなされました。
鮮明な冥王星の画像は、エッジワース・カイパーベルトの
天体の実態を明らかにしました。
その画像はハッブル宇宙望遠鏡より鮮明でした。
2016年1月で冥王星の探査が終了しましたが、
そのデータの送信には、2016年10月25日までかかっています。
今回、2つ目の重要なターゲットなので、期待が膨らみます。
2日のデータが楽しみです。