2012年7月26日木曜日

2_107 ヒ素では生きていけない 1:GFAJ-1

以前、生物には毒となるヒ素を好んで利用する変わった生物がいることを紹介しました。その生物の発見は、メディアをにぎわせながら報告されました。当時もいろいろな反論があったのですが、科学的な根拠のある報告でした。最近、その結果に対して、まとめて反論がだされました。そのあたりの事情を紹介していきましょう。

 以前、GFAJ-1と呼ばれている特殊な生物が発見されたという話をしました(2_86:2011.01.06発行~2_89:2011.02.03発行)。覚えておらえるでしょうか。この生物は、ヒ素(As)を体内に貯めて、ヒ素のある条件を好んで繁殖しているという特異なものでした。最近、再びGFA-1が話題になってきました。その話を紹介しましょう。
 生物にとって、リン(P)は欠くことのできない成分の一つです。他にも、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、酸素(O)、イオウ(S)があります。その中でも、リンは代替のできない不可欠な成分だと考えられていました。
 体内でリンは、DAN(生物の中で遺伝情報を記録しているもの)やタンパク質(生物の体を構成し機能を司るもの)、ATP(エネルギー代謝をおこなうもの)などを形成するために、不可欠な成分となっています。リンがなければ、生物は生きていけないはずです。
 生物にとって不可欠の成分は、化学的に似た性質のもので代替されることがあります。化学的には、リンと似たヒ素(周期律表でリンの下にある)が入れ替わることは可能です。それは理屈の上であって、実際にそんなことをしている生物は存在しないとされていました。
 ところが、GFAJ-1はリンの代わりにヒ素を用いて生きているということが、前回のエッセイの内容でした。単に生きているけるのではなく、リンがなくヒ素がある環境を好んでいるという報告でした。この発見の重要性は、地球外生物の多様性、地球生物の異質な生物群の存在など、生命の可能性を広げることになりました。
 生命の仕組みにおいてリンは不可欠ですが、そのリンが別の元素に置き換えられる可能性がでてきたわけです。地球において、リンは、かなり少ない元素です。ヒ素は、もっと少ない元素なのですが、多様性があることは重要です。少ない資源でも、一つでなく代替があれば、生命の多様性が増えていきます。量ではなく、質の多様性が生まれます。大量の生物量はなくても、多様な生物種、あるいは多様な生態系が可能になります。
 地球でもそのような多様性があるのなら、地球外でも可能となるはずです。これは、リンとヒ素の代替だけでなく、他の成分、他の生命機能も代替できることを示唆します。そんな可能性を広げる発見だったのです。
 多様性の方向性を地球に向けると、地球の生物で全く違った生き方のグループの可能性を示すことになります。現在の地球では、すべての生物は一つの祖先から出発したと考えられています。祖先が一つであるというのは、現在の生物は、すべて共通の仕組みをもっているためです。しかし、全く違った生き方をする風変わりな生物がいれば、もしかすると起源の違う祖先の生物の系統を見つけることができます。このような別の起源の生命群の誕生を、「第2創世記」と呼んだりしています。もしかすると、第3創世記、第4創世記・・・の発見ができるかもしれません。
 GFAJ-1の存在は、そんな可能性を広げたのです。
 ところが、この報告に異論を唱えた論文が、アメリカの権威ある科学誌「サイエンス(電子版)」に7月8日発表されました。その詳細は次回にしましょう。

・正しい情報開示・
大学は最後の講義が終わりつつあります。
いつも一番暑い時期に定期試験なので
そんな日に当たると学生はつらい思いをします。
ただし、今年はそれほど暑くないので、
しのぎやすいのですが、
これからどうなることやら。
そういえば北海道電力も計画停電が
アナウンスされていますが、
本当に足りないのでしょうか?
どのような条件のとき、
どれくらい足りないのでしょうか。
正しい情報開示がなされていないので、
判断のしようがありません。
正確な情報を公開してもらいたいものです。
これが一社独占の弊害なのかも知れませんね。

・勝つこと・
子供たちの学校は、夏休みです。
長男はグラブが引退のはずですが、
予定外に地区の大会に勝ち続けていて
試合が続いています。
あまり強くないクラブなのですが、
今年はそこそこ強いチームなっているようです。
勝つ限り8月7日まで試合が続きます。
今日試合があります。
それより上の大会がないのではないで、
本人もそろそろ引退したいそうです。
しかし、勝つのは、やはり気持ちいいようで、
それなり練習にも力がはいるようです。
毎日真っ黒に日焼けしながら
クラブ活動を続けています。

2012年7月19日木曜日

2_106 大不整合 3:生物鉱化作用

大不整合は、単なる欠損ではなく、地形や圏の境界でもありました。次なる時代への影響も少なからずあったようです。ただし、不整合にはその証拠は残っていません。その後の堆積物の中に、広く薄く残されていました。そこから、カンブリア大爆発への影響の痕跡が読み取られました。

 北アメリカ大陸だけでなく世界中でみられる大不整合は、地球の歴史においてどんな意味を持つでしょうか。
 ペーターとジャイネスは、地質のデータベース(Macrostrat)を活用して、北アメリカ大陸での大不整合の意義を調べました。大不整合は、古い基盤の岩石とカンブリア紀からオルドビス紀初期までたまった地層の間に時代にあります。カンブリア紀以前の地層は、陸地になっていたためたまっていません。地層の欠損となります。
 カンブリア紀以降の地層の堆積岩の化学的特徴から、どのような環境であったかを、彼らは調べています。その結果、大不整合の上に溜まった地層には、他の時代の地層と比べて、いくつかの際立った特徴がみつかりました。不整合の面積が広いこと、海が浅海であること、陸棚の炭酸塩が多いこと、などでした。この結果から、どのような意味が読み取れるでしょうか。
 大不整合の時期、北メリカ大陸は広範囲に陸化していて、大陸では激しい風化が起こっていました。ダーウィンや多くの古生物学者も、大不整合は、地層の欠損を意味していると考えていましたが、別の意味があると主張しています。大不整合は、陸-大気から海洋-大気への地形境界面の変化ともみなすこともできます。陸地の境界面で起こっていた風化作用が、浅海になったときに、海洋環境に大きな影響があったのではないかと考えました。
 広い大陸で激しい風化が起こり、そこに海が侵入してきました。広い大陸に浅海が広がります。浅海の海水では、イオンの濃度が一気に上がり、アルカリ性も強くなりました。それは普通の海の環境とは大きく違っていました。その結果、生物鉱化作用(biomineralization、殻は骨などの形成)が起こり、その後カンブリア紀の大爆発が引き起こされたのではないかとしています。
 従来カンブリア大爆発はカンブリア紀以前(クリジェニ紀からエディアカラ紀)に起こったとされています。もしそうなら、順序が逆で、しかも数千万年ほどの年代差があります。彼らは、すでに誕生していた多様な祖先型動物に、環境変化によって生物鉱化作用が促進され、それがカンブリア大爆発となったのではないかとしています。
 ペーターとジャイネスの仮説は、膨大なデータに基づいています。それなりの説得力もあります。量が質を保証する訳でないですが、量は発言者の自信を生みます。コンピュータの進歩や情報量の増加によって、デジタル情報処理は大きな武器になります。今後も科学は、その手法も取り入れて進むでしょう。
 提唱される説は、これからの検討が答えを出すことになるでしょう。各地の試料の再検討、新しい精度の良い分析などが、根拠となり、決着をみるでしょう。今後も見守って行きたいと思います。

・計画停電・
西日本では激しい集中豪雨で、
各地に被害がでています。
お見舞い申し上げます。
幸い北海道は、夏の快適な天気になっています。
乾燥しているので風があると、
木陰では涼しいくらいの快適な時期です。
我が家では、夜は窓を閉めて寝ています。
7月下旬から8月上旬の暑さはわかりませんが、
2010年夏並に熱くなるようだと、
電力不足が心配されています。
しかし、節電、計画停電ですみ、
それで乗り越えられるのであれば、
北海道には原発は、
要らないことになるはずなのですが・・・・

・一杯一杯・
大学は、まだ講義中です。
7月一杯まで、講義がおこなわれ、
8月に定期テストがあります。
それが終わると、お盆に入りますが、
教員は採点、入力、評価をして
お盆明けに成績提出となります。
その後、夏の集中講義あります。
8月は、一杯一杯です。
もちろん7月もですが。

2012年7月12日木曜日

2_105 大不整合 2:データベース

「大不整合」は北アメリカで広く認められ、その直上には似たような堆積物がたまっています。広い範囲にたまっている地層に対して、地質データベースを用いて、データ解析をして、その特徴を探ろうとしたのが今回の報告でした。

 2012年4月19日のネイチャー誌に報告したのは、ペーターとジャイネス(S. Peter and R. Gaines)でした。不整合とは何かは、前回紹介しました。アメリカ大陸では、広範囲でみつかる「大不整合(Great Unconformity)」として有名なものがあります。その不整合は、グランドキャニオンの谷底に連続的に見つかり、多くの人の目に触れる典型的なものでもあります。それだけでなく、地質学的にも、先カンブリア紀とカンブリア紀の境界にあることで、非常に重要な意味があると考えられます。そのために、わざわざ「大(Great)」がつけれられ、「大不整合」と呼ばれています。
 先カンブリア紀の岩石は、大陸の古いもので変成作用を受けています。その上に不整合として、浅い海でたまった堆積岩が重なっています。その時代には、似た堆積物が、北アメリカの大陸に広く分布しています。その下には不整合があります。同じような不整合と堆積物は、アメリカ大陸だけでなく、世界的に見られるものであることがわかっています。そのため、「大不整合」がどんな意味をもつのかが重要だと考えられます。
 ペーターとジャイネスは、アメリカ大陸の「大不整合」の意義を調べるために、少々変わった方法を用いました。彼らは、地質のデータベース(Macrostrat)を活用しました。
 Macrostratというデータベースは、世界各地の地質について、1475地域から、3万3965の層序的ユニットについて、9万以上の属性について記録されています。属性は、位置や年代区分だけでなく、化石や岩石種、環境、地質構造などのデータがあります。
 北アメリカから、大不整合の直上に堆積したソーク層(Sauk Sequence)と、それに相当する地層をデータベースから選び、特徴を調べました。
 ソーク層のたまった年代は、カンブリア紀からオルドビス紀初期(5億4200万から4億7200万年前)です。それ以前は大不整合なので陸地化しているので、地層は欠損しています。その間、北アメリカは陸地化していたことになります。その陸地化が、カンブリア紀になって海が広がった時(地層の堆積時)にどのような影響を与えたかを、データベースから探っています。
 カンブリア紀のはじまりは、生物に大きな進化が起こった時期です。「カンブリア大爆発」と呼ばれています。それと大不整合とはどんな関係があったのでしょうか。次回、それを紹介しましょう。

・休みなく・
大学の講義も終盤となりました。
15回の講義をしなければならないので、
7月一杯講義をすことになります。
そして、8月の上旬に定期試験となります。
その後、採点、集計、評価をして
お盆明け直後が成績の提出になっています。
その後すぐに、夏の集中講義が続きます。
気の休まることがありません。
その合間をぬって研究もしなければなりません。
今も論文の締め切りに追われています。
大学教員は、夏も休むことなく
働かなけばならないようです。

・Macrostrat・
地質データベースであるMacrostratは
http://macrostrat.org/
というサイトにあります。
私はまだ使ったことのがないのですが、
統計的に処理するには便利なデータベースだと思います。
ただしまだベータ版でバージンも0.3となっています。
一部の機能しか公開していなようなので、
今後、完成すれば公開されることになるようです。
現在北アメリカ、ニュージーランド、深海掘削のデータ、
カリブ海が公開されています。
現在オーストラリアが準備中だそうです。
「数は力(Strength in numbers)」としています。
その証明の一つとして、今回の報告があります。

2012年7月5日木曜日

2_104 大不整合 1:不連続面

科学雑誌ネイチャーに、カンブリア紀の生物の大進化に関する新しい仮説が掲載されました。今回のエッセイでは、その概要を紹介しましょう。まずは、仮説提唱にとって象徴の場となったグランドキャニオンからはじめましょう。

 アメリカ合衆国アリゾナ州のロッキー山脈をぬって流れるコロラド川沿いに、グランドキャニオン国立公園があります。だいぶ昔になりますが、南側(左岸側)から見るポピュラーな観光コースに二度訪れたことがあります。河床まで降りることはなかったのですが、いくつかの観光コースを散策し、ツアーにも参加しました。
 北側(右岸)からコロラド川を眺めるためには、長い距離を走り、ユタ州からいくしかありません。遠いので、一泊してでかけましたが、あまり観光化されていないので、ひなびた感じがして、それなりの味わいがありました。ただし、朝夕はいいのですが、昼間は、谷の北側から眺めることになるので、逆光でみることになります。写真や景色を堪能するには、少々興ざめしてしまいますが。
 今回の話題は、イギリスの2012年4月19日付けのネイチャー(Nature)誌の表紙を飾ったグランドキャニオンからです。表紙となったグランドキャニオンには、大きな不整合が写されています。そして「生命の力(Life Force)」と書かれています。
 そもそも不整合とは、いったいどんなものでしょうか。不整合とは、地層の関係を表す言葉で、「整合」ではないものです。地層は海底にたまった土砂が固まってきたものです。地層が連続的に積み重なったものを「整合」とよびます。不整合は、地層の連続してない、不連続の関係を示す言葉です。
 整合としてたまった地層が、大地の作用によって盛り上がり、陸になることがあります。陸に上った地層には、堆積作用はなくなり、こんどは浸食作用を受けるようになります。浸食によって地層は削られ、浸食の状況によって、不規則な凹凸(山や谷など)ができます。その後、陸にあった地層が、大地の営みによって沈降して海になることがあります。すると、削られた地層の上に新しい時代の地層が、再度堆積することになります。
 このような履歴をもつ地層の境界は、物質的にも不連続で、時間的にも不連続となります。この不連続面を不整合と呼んでいます。年代のギャップが大きいほど、不整合の規模は大きくなります。
 不整合のなかでも、グランドキャニオンでみられる不整合は、「大不整合(Great Unconformity)」と呼ばれて、特別な扱いを受けています。その意味するところは、次回としましょう。

・グランドキャニオン・
5億4200万年前がカンブリア紀の始まりです。
その前後にGreat Unconformity(大不整合)が形成されます。
グランドキャニオンだけの話であれば、
局所的、地域的な話になるのですが、
どうもそうではなく、全地球的な事件になりそうです。
残念ながら今回の大不整合は、
日本ではみることのできない現象です。
日本では、古生代の地層は断片的にしか見つかりません。
アメリカ大陸こそが、今回の事件解明の場として
ふさわしいところとなります。
私は、以前にいったグランドキャニオンを思い出しながら
今回紹介する報告を見ました。

・キャンプ・
はや、7月です。
北海道も夏らしくなって来ました。
曇や雨の日は蒸し暑い日もあります。
次男の小学校では、今週にキャンプがあります。
テントを張り、夕食を自炊して、
夜にはキャンプファイアをします。
グループごとにテントで寝ます。
翌日は昼前に帰宅となります。
親も手伝いにでることになります。
家内は夜の読み聞かせにいくようです。
夜9時半からの行事への参加です。
我が家の朝型の生活とは違っていますが、
まあ特別な日だから、子どもたちは、
興奮してなかなか寝付けないようですが。