2013年12月26日木曜日

3_122 本源マグマ 3:不混和

 2つのマグマが混じり合わずに混在するという現象は、考えにくいかもしれません。水と油を想像するとわかりやすいと思いますが、液体でも交じり合わないことがありえます。そのような現象が、本源マグマに発見されました。

 いくつかのマグマ系列があることを、前回、紹介しました。そのスタートとなるマグマは、本源マグマや初生マグマと呼ばれています。本源マグマは、起源物質からできて変化してないものです。起源物質の代表的なものは、マントルのカンラン岩になります。ですから、カンラン岩が溶けてできるマグマが、本源マグマとなることが多くなるはずです。
 ところが、本源マグマが、地表に噴出することは少ないようです。マグマがマントルできて、上昇してきて、そのまま噴火することはありません。
 できたてのマグマは、周りのマントルと比べて密度が小さいので、浮いき(上昇し)ます。マントルから地殻の中を上昇していくと、周りの圧力や温度も下がり、マグマの状態も変化して、周りの岩石とマグマの密度が釣り合うところに達します。そこにマグマだまりができます。つぎつぎと連続的にマグマが上昇してきて蓄積しています。圧力が増してきて、やがで地表に向かって噴火します。
 地表に噴火したマグマは、本源マグマとは変わっていす。まず、マグマ溜まりへの上昇中に、温度・圧力が下がると、本源マグマの中に結晶ができます。そのとき結晶分化作用が起こります。また、マグマ溜まりでも結晶ができ分化します。つまり、本源マグマ、地下深部から地表に来るまでに、いろいろなところで結晶分化をして変化していると考えられるのです。
 本源マグマは、マントル付近のできる場所には存在するのかもしれませんが、実際に地表では、その存在を確認できない想定上のものでもあります。研究者も、本源マグマを手にできず、苦労していました。苦肉の策として、マントルの岩石を高温・高圧にして溶かして、本源マグマを実験的につくるという方法で調べていました。現実のマグマは手にできないからです。
 ところが、今年の11月に本源マグマを発見したという報告がでました。「Journal of Petrology」(岩石学雑誌)の電子版に掲載されたものです。独立行政法人海洋研究開発機構の田村芳彦さんたちが報告しました。報告の題名は、

Mission Immiscible: Distinct subduction components generate two primary magmas of Pagan Volcano, Mariana arc
ミッション・イミッシブル:顕著な沈み込み成分がマリアナ弧、パガン火山の2つの初生マグマを形成する

というものです。
 田村さんは、自分の説を「ミッション・イミッシブル仮説」と呼んでいます。もちろん、映画の「ミッション・インポッシブル」をもじっています。イミッシブル(immiscible)とは、「不混和」と呼ばれる現象です。
 「不混和」とは、一つのマグマ溜まりに、交じり合わないで2種類のマグマが共存しているものをいいます。珍しい現象ではなく、時々起こっていることが知られています。軽石などに、白っぽいものと黒っぽいものとが縞状になっているものがみつかることがあります。噴火とき、2種類(色が違う)の混じらないマグマが、そのままの吹き飛ばされて固まったものです。これは、種類の違ったマグマが、混じることなく、マグマ溜まりに存在していたことを示しています。マグマの不混和現象の証拠だと考えられています。
 このようなマグマの不混和は、稀なことではなく、マグマ溜まりでは時々起こっていることが知られています。マグマの不混和現象と本源マグマが、どのような関係にあるのでしょうか。それは、次回としましょう。

・イミッシブル仮説・
Journal of Petrologyは
岩石学で権威ある雑誌になります。
そのような雑誌に、
映画のタイトルをもじったものをつけるのは
なかなか勇気のいることではなかったかと考えます。
タイトルだけはなく本文中でも
Mission Inevitable 避けられないミッション
Invisible phase 見えない相
などという用語も使って説明しています。
ミッション・イミッシブル仮説は
可能なことでしょうか。
不可能(インポッシブル)でないことを願っています。

・今年最後のエッセイ・
いよいよ今年最後のエッセイとなりました。
次回のエッセイは、新年1月2日の発行になります。
このエッセイが、まだ続くので、
淡々と続けて書くことも考えられます。
あるいは、新年用のエッセイを書くこともありでしょう。
どうするかは、まだ決めていません。
来年のことは、来年、考えましょう。
それでは、皆さんよいお年を。

2013年12月19日木曜日

3_121 本源マグマ 2:結晶分化作用

 火成岩の多様性をつくる要因を探りました。それらの要因から生まれる多様性は、現実の岩石で多様性を越えています。一番大きく働いている要因は、結晶分化作用のようです。

 マグマの多様性を生み出す話しをしています。多様性を生み出す要因として、前回、起源物質、溶融作用、結晶分別作用というものがあることを紹介ました。要因にすると単純になりますが、それぞれの要因が、条件をいろいろ変動すれば、非常に大きな多様性を生み出せます。
 例えば、起源物質では、その候補として、マントルの岩石(カンラン岩)だけであれば比較的単純な鉱物の組み合わせのものになります。しかし、地殻深部が起源物質になると、複雑になります。地殻は、多様な既存の岩石からできていることがわかっています。非常に複雑な起源物質が候補になりえます。それを限定できないと、どのような多様性を生むかは推定できません。実際には、地表でみられる要因が働いた結果の岩石から、起源物質の情報は断片的にしか読み取れません。なぜなら、溶融作用や結晶分化作用を経てマグマは変化し、そのマグマから岩石ができいるからです。
 上で述べたように起源物質という多様性を生む要因はあるのですが、実際の火成岩をみると、どうもその効果はあまり大きくないようです。似た環境、似た条件では、似たマグマができることがわります。岩石は、それらのマグマから、結晶分化作用によって生まれる多様性の範疇におさまってしまいそうです。となると、ある地質条件の場所では、どこでも一様なマグマが形成され、そのマグマから結晶分化作用によって、多様性が生まれるというメカニズムがありそうです。
 結晶分化のスタートとなるマグマの種類が、それほど多くないことになります。つまり、起源物質や溶融作用の効果は、火成岩の多様性に、それほど大きな効果はなく、似た地質環境では、似たようなマグマができることになります。 以上のことから、火成岩の多様性においてマグマの結晶分化作用が、現実に大きな役割を果たしていそうだと推定できます。結晶分化作用とは、結晶が晶出することによって、マグマが化学組成の変化をしていき、多様な火成岩を生むというメカニズムです。これらの一連のマグマの変化は、マグマ系列と呼ばれています。
 マグマ系列は、海洋底の火成岩である中央海嶺玄武岩(Mid-Oceanic Ridge Basalt:MORBと略されます)のソレアイト系列や大陸や海洋島の火山でみられるアルカリ岩系列、日本列島に特徴的にみられるカルクアルカリ系列などが代表的なものです。他にもマグマ系列はありますが、多様な火成岩が、いくつかのマグマ系列で代表されるという、単純な図式があるということになります。いく種類かのマグマから、多様な火成岩が形成されることになります。ある限られた種類のマグマ(本源マグマあるいは初生マグマといいます)があると推定されます。
 では、そのいく種類からの本源マグマは、どのようにしてできたのでしょうか。それは地表に噴出して、手にできるものなでしょうか。それがなかなか厄介な問題となります。詳細は次回にしましょう。

・起源物質・
起源物質は、実際には手にできない
地下深部に存在するものです。
それは、科学的に推定するしかありません。
私は、かつてマグマの起源物質を調べていました。
いくつかの方法があるのですが、
私は、同位体組成を用いて調べていました。
素材としていたのは、マントル由来の火成岩でしたが、
同位体組成を調べると、
どのような履歴のマントルであったのかを
推定することができます。
今思えば、遠い昔のような気分ですが。

・忘年会・
いよいよ12月も押し詰まってきました。
子供達は今週で学校が冬休みです。
大学は、25日までです。
私は、4年生の卒業研究の発表会の
予行演習につきあいます。
発表会は1月ですが、
プレゼンテーションの準備ができていれば、
彼らも安心して暮と正月を迎えられるでしょう。
毎年私のゼミではこの予行演習を行なっています。
その後は、忘年会をします。
3年生とは、同日の昼間にやることになりました。
大学内でノンアルコールの昼食会です。

2013年12月12日木曜日

3_120 本源マグマ 1:火成岩の多様性

 大きな多様性が、少ない要素で説明できれば、その要素は多様性の本質に迫っていることになります。しかし、その要素が現実の多様性より広いものを説明しているとしたら、要素をもっと厳選すべきかもしれません。

 マグマは、地下深部で岩石が溶けたものをいいます。マグマが固まったものが火成岩となります。岩石の成因として、火成岩のほかに、変成岩と堆積岩があります。
 陸地に分布する岩石の種類を区分すると、65%が火成岩になり、27%が変成岩、8%が堆積岩となっています。これを地殻全体に敷衍していいかどうかは慎重にすべきでしょう。例えば、海洋地殻は、表層には生物の死骸が降り積もってできた堆積岩に覆われていますが、表層より下の海洋地殻の大部分は火成岩でできていることが知られています。大陸は上から降り積もる堆積岩はないため、地下まで上記の比率が利用できると考えられています。大陸だけでなく海洋も考えると、地球全体の地殻は、圧倒的に火成岩が多いといえそうです。
 火成岩は、マグマが固まったもので、火成岩の起源をさぐれることは、マグマの起源をさぐることになり、地球の種たる岩石の起源を探ることになります。起源の探求は、火成岩の研究において重要なテーマとなっています。
 火成岩の種類は非常に多様です。その多様な種類に対応するマグマがあったはず。それを網羅的に知るには、火成岩の研究のネタは尽きることはなさそうです。
 もし、あるいく種類かのマグマが、性質を変化をしながら、多様な火成岩をつくりだすのであれば、そのメカニズムを解明すれば、火成岩の起源は解決してしまいます。となれば、研究テーマが尽きるかもしれません。
 多様性形成のメカニズムの解明は、火成岩岩石学の研究テーマですが、その概略は、実はわかっています。
 マグマを生み出す素材(起源物質と呼びます)となる岩石の種類、マグマが溶けるときに起こる溶融作用、そしてマグマが固まるときに起こる結晶分別作用が重要な役割を果たします。
 起源物質の種類が違えば、それが溶けてできるマグマも違ったものなるはずです。起源物質の多様性を見極めれば溶融作用とは、マグマの溶け方で、起源物質がどのように、どの程度が溶けるのか、によってできるマグマも違ってきます。
 マグマが固まる時、いくつかの結晶ができて、沈降や浮遊していきます。するとその結晶は、マグマが分かれて(分別あるいは分化といいます)いきます。分別した結晶の分だけ、マグマの化学組成は変化していきます。分別作用が継続すると、マグマの成分の変化により結晶の種類が変わり、結晶の種類が変わるとマグマの組成変化の方向を変わります。結晶分別作用では、マグマが固まるまで起こり続ける作用です。
 これらの要因が組み合わされることによって、火成岩の多様性ができています。これらの要因から生まれる多様性の範囲は、非常に広いものです。実際の岩石にはないほどの広がりがあります。十分すぎるほどの広がりがありますが、現実の火成岩には、そこまでの多様性はないようです。そうなると、現実のマグマあるいは火成岩において、どの要因が主として多様性を生み出しているか、を見極めていく必要があります。
 それは、次回としましょう。

・研究のスパイラル・
多様性を多様なままとらえることも必要です。
それが個別の記載となります。
個別の記載がある程度集まってくると
多様性を生み出す仕組みを考えていくことになります。
より普遍的な要因を求めることになります。
多くの研究者がそれを目指しテーマでもあります。
要因がわかると、それを個別の自然に適用していきます。
そのようなチェックが進むと、
要因があっているか、間違っているか、
あるいは今回紹介したように、
どの要因が一番効くのかが興味となります。
こんなスパイラル、あるいはループが研究を深めていきます。

・いったりきたりの季節・
冬だと思っていたのに、
先日雨が降りました。
冷たい雨で、道路の氷があまり溶けることなく
滑りやすくなっていました。
歩くのが怖くなるような道路状況でした。
今年は、季節がいったりきたりします。
でも、冬の寒さは来ていますが。

2013年12月5日木曜日

6_118 かぐや 2:プロセラルム盆地

 月の表側(地球に面している方)の黒っぽい部分(海と呼ばれる)ところは、大きな衝突でできたもののようです。月の表側にだけ黒っぽい部分が多いという謎は、一度の巨大な隕石の衝突によるものなら、なんとなく納得できそうです。

 「かぐや」は日本が打ち上げた月探査用の人工衛星で、2007年から2009年にかけて、2年間弱にわたって調査をしました。「かぐや」は、大量の観測データを取得しました。その解析は現在もなされていて、成果も出されています。そんな成果として、前回紹介している月の表のクレータの謎を解き明かしました。
 月の表(地球から見える側)は、黒っぽいところ(海と呼ばれています)と白っぽいところ(高地)が織りなす模様があります。黒っぽい海は、白っぽい高地より新しい時代に形成された、衝突によるクレーターの跡であることがわかっています。海は、衝突によって引き起こされた火山活動で、玄武岩のマグマが噴出して、月面を覆ったものです。さらに、海は高地と比べて、地殻も薄く、化学成分だけでなく放射性元素も違っていることもわかっています。
 海をつくった衝突が、なぜ、地球側に集中しているかが、謎でした。本来なら地球の陰にあたり、衝突の影響が減るはずです。なのに多いのは不思議なことです。
 産業技術総合研究所の中村良介さんたちのグループは、クレーターの起源を解明しました。「かぐや」が得た約7000万地点、200億点以上の可視赤外線反射率スペクトルちうデータを解析した結果でした。
 可視赤外線反射率スペクトルの解析とは、月の表面から反射する光(可視光から赤外線の範囲)の反射の光(電磁波)を用いて、波長ごとの特性から、その地点が、どのような鉱物からできているかを調べました。月を構成している岩石の主要鉱物であるカンラン石、斜長石、高カルシウム輝石、低カルシウム輝石を見分けることができ、その量も推定できます。
 衝突の衝撃によってマントルまで溶けた岩石では、低カルシウム輝石ができることがわかっています。その分布を、「かぐや」の膨大なデータから調べました。低カルシウム輝石の多いところ(20%以上含む)は、いくつかの場所に集まっていました。
 一つは、月の裏側の南極周辺にある「南極エイトケン盆地(直径約2500km)」と呼ばれる部分に広く散らばって分布しています。もう一つは、雨の海の周縁に低カルシウム輝石が多く分布しています。さらに、雨の海を含むプロセラルム盆地とよばれるところに広く分布することがわかりました。
 プロセラルム盆地は、雨の海を含み、その周辺に分布する、表側の黒っぽい部分です。直径3000kmの広さをもっています。プロセラルム盆地は、月の表の黒っぽい部分のほとんどを含んでしまうほどの大きさです。うさぎの模様でいうと、耳以外のうさぎの体と臼もふくめた部分にあたります。非常の拾い範囲となります。
 かつて、月の表側に海が多い理由として、月の表のクレーターは巨大な衝突で形成されたという仮説がありました。しかし、証拠がなく、仮説のままでした。
 今回、中村さんたちが、鉱物の分布から、雨の海を中心とするプロセラルム盆地が、衝突の範囲であり、衝突の結果、飛び散ったものの形も示しました。
 直径3000kmもの衝突クレーターをつくるには、径が300kmもある隕石が衝突した考えられます。非常に大きな衝突です。重要なことは、一度の衝突によってできたのであれば、海の分布の不均質さが説明できます。衝突が一回であれば、月のどこにあたっても不思議ではありません。
 同じ理屈で、南極エイトケン盆地も衝突の可能性があります。黒っぽいクレーターは、あまりみられません。ここでは、玄武岩を噴出するようなマグマの活動は引き起こされなかったことになります。当たる角度は衝突の様子の違いによるものかはわかりませんが、こちらは南極付近ですが裏側での衝突です。
 月の裏と表の違いの謎は、どうやら大きな一度の衝突のせいだということになりそうです。月の形成にまつわる衝突は地球を巻き込んだものですが、プロセラルム盆地は月だけの衝突です。でも、本当に地球には影響がなかったのでしょうか。気になるとこです。

・嵐の盆地・
プロセラルムとは、ラテン語で「嵐」という意味です。
「嵐の海」という地形があります。
月では一番大きな海の地形です。
嵐の海を含む盆地のことを、プロセラルム盆地と呼んでいます。
プロセラルム盆地は、日本語にすると嵐の盆地となります。
うさぎの模様でいうと
足から胴にかけての部分にあたります。

・冬本番・
12月になり、北海道は雪になりました。
わが町にも、除雪が今シーズンはめて入りました。
湿った重たい雪で、除雪が大変です。
平日の除雪は、家内の役割です。
私は雪の中を歩いてきました。
もう、クツも冬仕様となりました。
いよいよ冬も本番となりました。

・二度とできない経験・
今、4年生は卒業研究の追い込みの真っ最中です。
皆、苦労しながら、取り組んでいます。
大変さに負けてしまいそうな学生もいますが、
その大変さを乗り越えれば、
きっと大きな達成感、満足感など
言葉に表せないような経験ができるはずです。
2年かけて取り組んできた研究の集大成です。
二度とできない経験をしてもらいたいものです。