2013年11月28日木曜日

6_117 かぐや 1:裏と表

(2013.11.28)
 月の裏と表の違いは、黒っぽい部分の有無です。黒っぽい部分は、表にのみあります。その黒っぽい部分が、どうしてできたのでしょうか。日本の月探査衛星「かぐや」のデータから、その成因がわかってきました。

 地球の衛星の月には、裏と表があります。地球から見えるほうが表で、見えない方が裏となります。地球が自転し、月は地球の周りを公転しながら、月自身も自転しています。ですから、地球から見れば、本来なら月の裏も表も見えるべきものです。ところが、月は常に表側を地球に向けています。その理由は、月の自転と公転は同期しているためです。同期とは、月の自転と公転が一致しているということです。月が1回公転するとき、自転も1回します。その結果、地球に常に同じ側を向けていることになります。その原因が一種の共鳴現象ではないかと考えられています。
 地球から月の表しか見えないので、裏側がどうなっているかは謎でした。明らかになったのは、1959年でした。旧ソ連の月探査機(ルナ3号)は、月を半周して地球に戻るというコースで飛びました。その時、月の裏側の撮影をしました。地球に向かう途中に、ルナ3号は、不鮮明ながら17枚分の撮影データを送ってきました。これが、人類がはじめて見た月の裏の様子でした。その後、多くの無人探査機やアポロ計画なので、月は詳しく調べられるようになりました。
 その結果、月の裏は表とは全く違った様相であることがわかりました。表側は、黒っぽところと白っぽいところが入り乱れたつくりになっています。黒っぽのところが、日本人には、餅をつくうさぎに見えます。月の模様として、各地でいろいろな物語がつくられました。
 黒っぽいところは、新しい岩石からできていて「海」とよばれています。岩石は玄武岩で、マグマが地表(月面)に噴出した火山岩でした。新しいというのは、クレーターの数による年代推定からもわかっていましたが、アポロによる玄武岩の年代測定で決定できました。
 一方、裏側は、白っぽいところだけしかありません。地形もやや高いことから、「高地」と呼ばれています。月の裏側は、高地だけからできています。高地には、多数のクレータが形成されています。ですから、玄武岩より、古い時代に形成された岩石からできていることになります。斜長岩(アノーソサイト)とよばれる、特殊な岩石からできています。斜長岩は、特殊な条件でできるマグマからできた深成岩です。黒っぽいところとは、かなり違った性質や時代を持っています。海と高地の成因は大きく違っているはずです。
 では、月の裏(玄武岩)と表(斜長岩)の起源は、どのようなものでしょうか。表には玄武岩の海がいくつもあることは、大きな何度も大きな隕石の衝突があったことになります。表は、地球を向いているのですから、地球を盾にしている状態ですので。裏に大きな衝突跡があるべきなのに、表にあるのはなぜでしょうか。少々、辻褄があわない気がします。
 その矛盾を説明する考えとして、一度の衝突でできたという考えがあります。日本の月探査機「かぐや」のデータが活用されています。その内容は、次回としましょう。

・かぐや・
かぐやは、2007年9月14日に打ち上げられた
日本の月探査機です。
月周回軌道に達した後、2機の衛星を分離して
高度100kmの月の周回軌道で観測しました。
約1年半にわたり、さまざまな観測をしました。
2009年6月にかぐやは、
月面に落下させられ、役目を終えました。
かぐやの得たデータは、今も活用されています。
その成果が今回、紹介するエッセイでもあります。

・かぐや姫・
高畑勲監督の「かぐや姫の物語」が封切りされました。
私はまだ見ていませんが、大作のようです。
日本人は、子供の頃から
かぐや姫の話しを聞いて育ってきました。
月は身近な存在となっているはずですが、
月を見る機会はあるでしょうか。
私は、早朝歩いて大学に通っていますので、
朝の月はよく見ます。
また、北海道の冬は日が短いので、
夕方にも月を見ることがあります。
私は、夜の付きではなく、朝と夕方の月を見ています。

2013年11月21日木曜日

2_121 最古の有性生殖 2:アワフキムシ

 アワフキムシの交尾中の化石が見つかりました。最古の交尾化石としてニュースになりました。その化石を見つけるために、大量の化石が処理されました。その処理の中で、研究は深まっていきます。

 前回、生物の生殖戦略として、無性生殖と有性生殖があるということを紹介しました。動物や植物などは有性生殖をし、単細胞生物の多くは無性生殖をします。いずれの生殖方法も、生物の生存戦略として成功しています。
 今回、紹介しているのは、昆虫で有性生殖している状態の化石が、みつかったというものでした。昆虫の種類は、アワフキムシというもので、現在もその子孫がいます。現在生きているアワフキムシの子孫の交尾姿勢は、化石の交尾状態と同じでした。非常によく保存された化石で、交尾器の状態まで詳しく観察することができました。
 これまで昆虫の交尾の確認されている化石が、33例あるそうです。その多くはコハクの中に閉じ込められたものです。昆虫の種類は、ホタルや蚊、ウンカ、ヨコバイ、アメンボ、ミツバチ、アリなどです。今回のアワフキムシの化石は、コハクではなく、火山灰の中から見つかっています。これが新しい特徴でもあります。
 北京の大学のドン・レン(Dong Ren)博士たちは、化石コレクションを用いて研究をしました。内モンゴルから発見された化石のコレクションで、20万個ほどの昆虫化石の標本のうち1200個以上のアワフキムシ標本がありました。それらを網羅的に研究しました。そして、今回の交尾中の化石が見つかったのです。
 交尾中の化石は、中国東北部の内モンゴル自治区に分布する1億6500万年前(中期ジュラ紀)に形成されたジューロンシャン層(Jiulongshan)から見つかりました。交尾中の化石としては、最古のものでした。
 ドン・レンらは、アワフキムシのオスとメス、200標本の交尾器を観察しています。大量の標本を調査したメリットとして、オスとメスの交尾器がよくわかった状態で、交尾の様子も検証できます。
 化石から、アワフキムシは、植物に停まりながらオスとメスが向かい合って、柔軟性のある腹部を合わせて交尾していたようです。そこに火山灰が激しく降ってきて、そのまま生き埋めになったようです。
 昆虫にとっては、やっとペアが見つかり交尾にいたった至福の瞬間に訪れた突然の死でした。子孫が残せるはずが、実現できずに、昆虫のペアにとっては、不幸であった違いありません。しかし、多数の標本を調べて、やっと交尾状態の標本を見つけた研究者にとっては、幸運であったはずです。「他人の不幸は蜜の味」なのでしょうか。

・秘事・
交尾の生物の営みとして重要な生態となります。
博物館の知り合いに、
ある種の昆虫の生態を調べているTa学芸員がいました。
彼は、昆虫の交尾中の瞬間が重要だといって
よく写真撮影をしていました。
形態の違ったオスとメスが交尾しているときは
同種だと判定できる重要な瞬間でもあります。
昆虫の雌雄や種区分の判定には、
解剖して、交尾器を出して顕微鏡で観察して研究していました。
生態や生物学的研究では、
交尾器が重要な役割をしています。
交尾は昆虫であろうと
秘事を覗くような淫靡な気配が漂います。
でも、研究は淡々と進めるべきでしょうね。

・冬の到来・
先週の大雪も一気に溶けました。
そして、雨となりました。
初雪としては、10月に札幌の山並みで見ており
例年どおりでしょうか。
急に寒くなったかと思うと、
すぐに暖かくなったりしました。
寒暖の変化の激しさが、
今年の天候の特徴でしょうか。
行きつ戻りつしながら、冬が訪れます。

2013年11月14日木曜日

2_120 最古の有性生殖 1:生殖戦略

 最近、昆虫の交尾中の化石が見つかり、ニュースになりました。初めての例ではないですが、このような化石の写真を見るのは、私は初めてでしたので、驚きました。今回は、交尾の化石の意味するところを紹介していきましょう。

 先日、交尾したまま化石がみつかり話題になりました。私も、この論文の写真をみて驚きました。このような化石は、可能性としてはあるでしょうが、非常に稀なはずです。その上この化石は、非常に鮮明に交接の状況が保存されています。
 この論文の写真は非常に衝撃があったようで、いくつかの科学ニュース誌で取り上げられました。「最古のセックス」というタイトルをつけて、少々センセーショナルに報じたものもありました。
 生物学的に「セックス」とは、生殖行為のことで、雌雄が交接することをいいます。雌雄が生殖をするのは、子孫を残すために不可欠な行為です。雌雄で子孫を残す方法は、有性生殖と呼ばれます。
 生物に雌雄の性別があるのは、いろいろなメリット、デメリットがあります。
 まずデメリットは、少なくとも雌雄の2匹がいないと子孫が残せないということです。どちらか一方では子孫は残せません。雌雄が常に一緒にいれば、出会いに関する問題が解消されますが、通常はばらばらに暮らしていています。生殖時に、雌雄がお互いを見つけて交尾します。相手を探すための仕組みが必要となります。
 相手を見つけるために、鳥はさえずり、セミは鳴き、蛍は光り、蛾はフェロモンをだし、カゲロウは大量発生します。種によっては、生殖にのみを目的としているかのような、不思議な生き方をしているものもいます。
 また、相手を探す時や交尾中は無防備なることも多く、危険の多い行動となります。つまり、有性生殖には、生殖に多大な労力を費やし、危険を背負わなければなりません。
 一方、メリットとしては、雌雄で半分ずつの遺伝子が子に伝わるので、遺伝上の多様性をつくりやすくなります。これが最大のメリットといえるでしょう。子は、親の雌雄から半分ずつ遺伝子を受け継ぎますので、片方の親と遺伝子の半分は同じですが、半分は違っています。遺伝子の交換により、子孫に進化を促すという機能が組み込まれています。複雑な体制や機能を持つ雌雄のある生物は、長生きをするものが多く、進化のスピードは遅くなります。進化の速度を上げる方法として、有性生殖は有効な戦略となったのでしょう。
 自然界には優勢生殖をとる種が多数い、後述の無誠意生殖よりあとにでてきました。そこには、生存戦略上、有利な点があったからです。それは、有害な突然変異を減らす仕組みが働くためだと考えられています。
 有性生殖するために、染色体を半分にする減数分裂がおこり、精子や卵子などの配偶子ができます。配偶子の形成、あるいは生殖時に、有害な変異をもつものは、淘汰されることが多くなり、安全率の高くする生殖になるというものです。
 有性生殖はメリット、デメリットがあり、どのような戦略を取るかによってその割合は違ってきます。今後の繁栄や衰退は不明ですが、少なくとも現在生きている種は、生存戦略上は成功者であるはずです。
 有性生殖に対して、一匹で子孫を残す方法もあり、無性生殖といいます。一つの個体が二つに分裂して増える方法です。同じ遺伝子のコピーをするだけなので、条件さえ整えば、簡単に増えることができます。生殖活動にかかわる労力は、有性生殖に比べて少なくてすみます。非常に単純で有効な子孫を残すシステムでもあります。
 もし増殖中に、ミスコピー(突然変異)が生じたら、以降の個体はすべてそのミスコピーのまま複製されていきます。突然変異がその種にとって不利なものであれば、種の縮小や絶滅を引き起こします。突然変異が有利なものであれば、その個体の進化を促進します。突然変異は諸刃の刃として、進化の手段として組み込まれています。ただし、偶然に頼った進化戦略といえます。でも、生き残っている種が多数いることから、成功している戦略といえます。
 次回は、化石の話しをしていきましょう。

・化石の画像・
インターネットが見れる環境であれば、
次の論文の写真をみてください。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0078188
なかなか感動的な化石であることがわかるはずです。
よく保存されていたなあと、感心してしまいます。
横向きに交尾状態のまま埋もれたようです。
なぜこのような化石が残ったかは次回紹介しますが、
インパクトのある化石です。

・冬到来・
北海道は週末からの寒波で
一気に真冬の様相になりました。
一面、雪景色です。
場所によっては除雪車が、早くも出動となりました。
根雪ではなく、すぐに溶けるでしょうが、
多くの車はスタットレスに履き替えたことでしょう。
我が家も、急遽、冬のタイヤに変えました。
久しぶりの冬道なので、
みんなゆっくりと走っています。
北国は、冬、到来です。

2013年11月7日木曜日

1_121 日本の隕石衝突 3:さらなる研究を

 日本の隕石衝突の発見は、もしかすると白亜期末のK-Pg境界と同等の異変を起こしていた可能性があります。その異変は、衝突が火山かというK-Pg境界で起きたのと同じような論争が、起こるかもしれません。

 日本の隕石衝突の証拠は、世界規模で起こったらしいことがわかってきました。地層の厚さと元素の濃集程度から、隕石の大きさや重さが推定できます。佐藤さんらの見積もりによると、直径は8km~3.3km(2箇所のデータを使ったもの)、重さは約5000億トンとされています。恐竜の絶滅を起こしたK-Pg境界の隕石が直径14~6.6kmだったので、それに次ぐサイズとなります。このようなサイズの衝突があれば、地球規模の異変が起こるはずです。
 衝突は、三畳紀後期(2億年前~2億3700万年前)の2億1500万年前に起こりました。衝突の時期に対応しそうなクレータとして、カナダのマニコーガンクレータ(Manicouagan Crater)があります。マニコーガンクレータは、現在地球で見つかっているものでは二番目の大きいものです。クレータの直径が100kmで、衝突の時代が2億1500万年前で、衝突の証拠と一致しています。
 2億1500万年前ころの絶滅にかかわる異変として、ノール期からレート期の生物入れ替え事件(Norian-to-Rhaetian biotic turnover events)と呼ばれているものがあります。この事件では、哺乳類型爬虫類が絶滅しました。その後、哺乳類が新しくでてきます。哺乳類型爬虫類にかわって地表を支配したのは、哺乳類はなく、恐竜の仲間でした。恐竜たちが、多様化をしていきます。以降、中生代は、恐竜の大繁栄の時代となります。
 今まで、この絶滅をおこした原因として考えられていたのは、中央大西洋で起こった火山活動(Central Atlantic Magmatic Province)で、大量の玄武岩の噴出による火山説が有力でした。
 今後、火山か衝突のどちらが絶滅を起こしたのか、議論がはじまるでしょう。K-Pg境界でも同じような論争がありました。その再現になるでしょうか。それともあっさりと結論がでるでしょうか。
 K-Pg境界の教訓から、打開策として、年代決定を正確にすること(同位体年代学が答えを出すべき課題)、絶滅の時期を厳密に決めること(古生物学)、関連する証拠をもっと探すこと(地質学全般)などで、決着をみました。つまりは、いろいろな分野で、さらなる研究の進展が必要だということになります。
 今回の報告者の佐藤さんは、まだ若い研究者です。今回の論文の発表に至るまでの、非常に臨場感のあるエッセイが公開されています。もし興味ある方は、
コラム:「日本からみつかった巨大隕石衝突の証拠」発表までの道のり
http://www.geosociety.jp/faq/content0477.html
をご覧になららればと思います。

・若き研究者・
佐藤さんのエッセイを読んで、
自分の若い頃を思い出しました。
もちろん佐藤さんような
インパクトのある報告はできませんでしたが。
遮二無二研究に励んだ時期があり、
そのころの大変さと充実感が思い出されます。
佐藤さんは、まだ博士課程の2年生です。
若いのに、このような話題なる報告をされました。
大変な苦労の末、達成された今回の報告です。
まだまだスタートしたばかりの研究者です。
今後の活躍に期待したいものです。

・冬近し・
北海道は一気に紅葉が進み、
木々は葉をどんどん落としています。
先日の肌寒い日には、
ミゾレが降ってきて驚きました。
山には何度か積雪がありました。
里でも初雪も近そうです。
雪の話題を聞くと、
車のタイヤをいつ冬タイヤに変えるかと、
悩む時期となります。