2023年4月27日木曜日

6_201 ターミネーター・ゾーン 3:否定的意見

 ターミネーター・ゾーンのハビタブルゾーンには、否定的意見もあります。M型星も長期的には変化していくので、惑星の環境も変化していきます。やがて、ハビタブルゾーンが消えるというものです。


 多数存在するM型星で、潮汐ロックされた惑星には、ターミネーター・ゾーンがハビタブルゾーンになるのではないかという考えを、前回紹介しました。特殊なM型星ですが、そこにも利点もありました。しかし、否定的な意見もあります。それを紹介していきましょう。
 長寿命のM型星ですが、変化していきます。恒星は水素がヘリウムになるという核融合で輝いています。時間経過とともに、恒星内での核融合の効率が上がっていきます。その結果、明るさが増大していきます。
 周辺の惑星、特に近い軌道を巡る惑星は、大きな影響を受けます。明るくなるにしたがって、ターミネーター・ゾーンの暖かくなり、海からの蒸発も多くなっていきます。大気中の水蒸気が多くなると、温室効果が激しくなり、やがて暴走して(暴走温暖化と呼びます)、灼熱の惑星へとなっていくだろう。こんな可能性が指摘されています。
 ところが、別のシミュレーションでは、逆の結果もえられています。恒星が明るくなると、惑星の海が蒸発していき、水蒸気が大気圏外に逃げ出したり、夜の領域に入ってものは、雪となり凍結してしまったりす可能性がでてきました。ターミネーター・ゾーンに存在していた水が、だんだんとなくなっていきます。やがて、ターミネーター・ゾーンも乾燥し、生命が誕生できず、存続もできないという指摘です。
 いずれのシミュレーションに向かうとしても、これまで考えられていた、ターミネーター・ゾーンという安定した領域は、継続できないのではということになってきました。
 このような相反する推定がでてきたということは、詳細なシミュレーションをしてみる必要があります。そこで、カリフォルニア大学アーバイン校のロボさんらは、潮汐ロックされたさまざまな条件でシミュレーションをしました。その結果を、2023年3月に天文学雑誌(The Astrophysical Journal)に報告しました。そのタイトルは、
 Terminator Habitability: The Case for Limited Water Availability on M-dwarf Planets
(ターミネーターゾーンでのハビタブルゾーンの可能性:M型赤色矮星の惑星において水が限られた条件での存在する可能なケース)
というものです。タイトの日本語訳はかなり意訳になっています。
 つまり、限定された条件になりそうですが、水が存在できるハビタブルゾーンができそうだという報告になります。その詳細は次回としましょう。

・最初の野外調査・
このエッセイは、予約配信となります。
ちょうどこの時期、野外調査にでかけています。
最初なので、近場として、しまなみ海道を利用して、
広島に渡り、主には島々を調査する予定です。
しまなに海道ははじめてなのと、
借りた車で自動車を走るのもはじめてなので
少々緊張するかもしれませんが、
なんとか無事に調査が
終わればと思っています。

・ゴールデンウィーク・
週末からゴールデンウィークになります。
土日のあと中に二日間、平日を挟んでいますが、
そのあと、4連休となります。
2日間、休みをとれば、9連休になります。
各地で混雑が予想されるので、
あまり動き回らないでいようと考えています。
日常の通りに、執務室で
研究に専念したいと考えています。

2023年4月20日木曜日

6_200 ターミネーター・ゾーン 2:M型の赤色矮星

 多数存在する赤色矮星は、あまり系外惑星の探査の対象にはされていませんでした。この恒星の惑星にあるターミネーター・ゾーンは、安定して存在します。そこには、ハビタブルゾーンができていそうです。


 太陽は、G2V型(スペクトル型という分類)というもので、多くの恒星のありふれたものです。そこには、ハビタブルゾーンに惑星(地球)があり、生命がいる天体となっています。しかし、私たちの太陽以外の恒星で、G2V型に限定すると、恒星の数は多くても系外惑星はそれほどは見つかっていません。
 生命誕生の条件はまだ不明ですが、生命が誕生するには、多数の天体で試行錯誤が必要かもしれません。もし多数の天体に生命が存在するのであれば、生命の痕跡(例えば、酸素の多い大気が見つかるなど)が観測できるかもしれません。そこには至っていませんが。もし、少数の天体にしか、生命が誕生していかなければ、見つけることができないかもしれません。
 現在、太陽系近隣の恒星で、通常の恒星(主系列星と呼ばれています)をターゲットにして、探査が進められています。発見されているハビタブルゾーンをもった系外惑星が少ないため、生命誕生の可能性は多くなさそうです。
 生命誕生の条件として、惑星内のどこかに、局所的にでも海が恒常的に存在すればいいと考えていけば、可能性が上がってきます。そのような場として、今までターゲットとしてきたものより、もっとたくさんある恒星であれば、惑星の存在確率も多くなるはずです。問題は、多数存在する恒星の惑星に、ハビタブルゾーンに存在するかどうかです。
 まず、恒星として、主系列星ではないのですが、多数存在する赤色矮星と呼ばれるもの(M型星)があります。太陽よりずっと小さいのですが、数は多くあります。軽くて暗い恒星なのですが、恒星の3/4がこのタイプだと考えられています。
 M型星は暗い恒星なので、惑星でのハビタブルゾーンも恒星に近くなってきます。恒星が暗いため放射も少なく、惑星の表層を擾乱させることもなく、海が安定に存在しやくすくなります。近くを巡る惑星は、潮汐ロックが起こり、自転と公転が一致します。これは地球と月の関係で起こっているもので、月は常に同じ表面を地球の方に向けることになります。そこに「ターミネーター・ゾーン」ができます。
 潮汐ロックされた惑星のターミネーター・ゾーンは、明暗境界線とも呼ばれているのですが、朝と夕方の領域です。潮汐ロックされた惑星では、昼の地表が暑く、夜が寒くても、ターミネーター・ゾーンでは中間的な条件のところができます。ターミネーター・ゾーンは、常に同じ位置に存在し、そこに海ができるハビタブルゾーンとなります。
 M型星の惑星は質量が小さく、暗いので、主系列星よりずっと長寿となります。そのため、長く安定した条件が継続することになり、生命誕生の試行錯誤も長期にわたってできます。恒星の数も多いので、このターミネーター・ゾーンが、生命誕生の可能性として注目されています。
 しかし、M型星のハビタブルゾーンに関しても、問題点はあります。その内容は、次回としましょう。

・近隣の散策を・
サバティカルの生活も
だんだんと落ち着いてきました。
火曜日と金曜日に、半日、
近隣を散策するようにしています。
近隣地域は、以前に一通り巡っていますが、
家内ははじめてです。
観光や買い物などを兼ねて
あちこちを周っています。
再訪すれば、それなりに知らないこと、
新しいことも見つかります。

・温水プール・
これまで通勤で、往復7kmを歩くだけが
運動だったので筋肉が衰えてきました。
野外調査をしていると
体幹や足腰の衰えを度々感じています。
サバティカルを機会にして、
町内にある温水プールに、
夕方、家内と一緒に通うことにしました。
最初は、少ししか泳げなかったのですが
少しずつ泳ぐ距離も伸ばしています。
そのせいか、夜もすぐに眠りにつけます。
この生活サイクルと続けていければと考えています。

2023年4月13日木曜日

6_199 ターミネーター・ゾーン 1:ハビタブルゾーン

 地球外生命が存在する可能性を考えるとき、稀な天体から探すより、多数の候補から探したほうが、見つかる可能性があるはずです。そんな可能性として、ターミネーター・ゾーンと呼ばれるものがあります。


 地球外生命については、このエッセイでも、何度か取り上げてきた話題となります。今のところ、地球以外の天体で、生命の存在は確認されていません。ここでいう生命とは、炭素を主体とした有機物からなる地球型です。また、生物と認定でき、さらに検出できるものでなければなりません。もしかすると、地球型生命でないものや、有機物を用いない生命、炭素型でない生命がいても、観測していたとしても、生命とは認識できていないかもしれません。認識でない生命に関して議論してもしかたがないので、私たちがよく知っている生命を考えていきましょう。
 地球外生命を探すときは、遠くの天体が対象になるので、ハビタブルゾーン(Habitable zone)という条件を考えていきます。ハビタブルゾーンとは、地球型生命が生存できる領域に、天体があるかどうかを調べるためのものです。生命居住可能領域とも呼ばれています。
 その条件とは、惑星の表層に液体の水が安定して存在できるかどうかです。表層温度が0℃以上から100℃以下になっている条件のことです。恒星の明るさ(放射量)と惑星の軌道半径(恒星からの距離)によって、一義的に決まってきます。まずは、そこに惑星が存在するかどうかです。
 ハビタブルゾーンにあったとしても、液体の水(海)が存在するためには、惑星に大気が必要です。ただし、巨大ガス惑星になると、表層は水素やヘリウムの大気になり、液体の水が存在できそうにありません。そのため、固体表面をもった小型の岩石惑星(地球型惑星)で薄い大気をもったものでなければなりません。
 太陽系では、地球だけが、その条件を満たしています。過去には、火星も条件を満たしていて海が存在していたのですが、大気が少なくなり、現在では液体の海は消えています。
 太陽系以外で、多数の惑星の発見されきました。系外惑星と呼ばれています。当初は、大きなガス惑星だけが発見されてきましたが、最近では地球型惑星も発見されてきました。その中には、ハビタブルゾーンになりそうな地球型惑星を見つかってきました。しかし、数は多くありません。これでは、生命がいたとしても、見つけることが困難になります。
 生命存在領域が、もっと多くならないでしょうか。そんな可能性として、ターミネーター・ゾーン(Terminator zone 明暗境界線と訳されています)が考えられるようになってきました。次回としましょう。

・研究のルーティン・
サバティカルに来て10日ほど過ぎました。
住む環境が変わったので、
一日の過ごし方としてのルーティンがまだできません。
しかし、心身ともに健全な生活ができつつあります。
また仕事のための環境も、
施設や執務室は整えてもらったのですが
インターネットやパソコンやその周辺設備も
整えるに時間がかかりました。
ハードディスクの電源を間違って持ってきたり、
SDカードリーダが足りなかったり、
パソコンが変わったので、
アプリケーションを入れ直したりと
いろいろセットアップに時間がかかりました。
しかし、少しずつルーティンも整ってきました。

・生活のルーティン・
北海道にいるときよりは通勤距離が短く
30分ほどで付きます。
遅めに出ても、6時過ぎには研究をはじめています。
基本的に土・日曜日も、毎日執務室で仕事をしています。
近隣への観光やイベント、大きな街に買い物など
家内と週に2、3度、出かけるようにしています。
それは平日の昼前後からになります。
曜日ごとに、ルーティンを組んでいきたいのですが、
まだできていません。
家内も新しい環境での生活なので、
いろいろと戸惑っていますが
少しずつ慣れていくしかありません。
半年間、英気を養いながら
研究を深めていこうと考えています。

2023年4月6日木曜日

1_206 天体衝突の頻度は 5:スフェルール

 クレータがなくても、隕石の衝突を調べる別の方法もあります。それは、衝突で飛び散った隕石物質を検出して、調べていく方法です。そこから、新たな衝突の様子が見えてきました。


 太陽系の惑星形成の時期には、宇宙空間には小惑星や小天体が多数あり、それらが衝突合体していきます。やがて、公転軌道には、大きな天体が成長して、唯一の惑星となっていきます。地球も同じように形成されたました。
 惑星形成後も、初期のころは、まだ小天体の衝突も激しかったと考えられます。地球初期に起こった小天体の衝突の様子を直接しらべることはできません。なぜなら、証拠となる隕石やクレータなどは消えてしまっているからです。衝突の頻度を見積もる方法は、これまでの紹介してきたもの以外にも考えられています。
 隕石が衝突すると、隕石物質が砕けたり融けたりして、周辺に広く飛び散ります。大きな隕石ほど、広域に、時には地球全体に飛び散ります。飛び散って地球にばらまかれた物質のうち、隕石の融けた物質は、大気中を飛んている時、小さな球状のガラスとして固まり、スフェルールと呼ばれる物質になります。
 スフェルールが堆積物としてたまれば、地層に取り込まれます。時代のわかっている地層ごとに、スフェルールの量を調べると、隕石物質の量がわかります。時代ごとに衝突量がわかれば、衝突頻度が推定できます。
 地球の隕石の衝突頻度が、このような考え方で求められていました。モデルにはいろいろなものがあります。米国サウスウエスト研究所のMarchiさんが、2021年の第31回ゴールドシュミット国際会議で、モデルを再検討した結果を報告しました。
 小天体の衝突の頻度(衝突フラックス)に関して、新たなモデルを作成しました。そのモデルに基づいて、地層中のスフェルールの統計データを見直していきました。すると、これまで考えられていた衝突頻度とは異なることがわかってきました。
 新しいモデルでは、これまでの衝突頻度の見積もりと比べて、約35億~25億年前に、最大で10倍にもなることがわかってきました。非常の激しい衝突が予想されました。その頻度は、直径10km程度の隕石にすると、1500万年に一度は衝突していたことになりました。
 もし地球初期の太古代に、そのような激しい隕石の衝突があったとすると、大気や海洋に大きな影響を与えたはずです。また、生命誕生や進化にも影響を与えたことになります。その検討に関しては、今度の課題となるでしょう。

・予約配信・
滞在中のインターネットは、
自宅も執務室も、
期間限定のSIMとルータで接続する予定です。
インターネットとパソコンの接続が
どうなるかは不明なので
トラブルが発生する可能性もあります。
大学では、一応、接続は確認していますが、
別の地域、環境では、どうなるかは不明です。
いつものように、このメールマガジンも
予約配信しました。

・荷物を搬出・
サバティカルのために
先日、荷物を搬出しました。
引っ越しも、混んでいるため、
2月初頭に引っ越しの予約をしたのですが
この日程を取るもの大変でした。
なんとか27日に引っ越しをすることができました。
出かける前は、バタバタしましたが、
無事、送り出すことができました。