2019年7月25日木曜日

1_172 日本最古の岩石 4:ナップとクリッペ

 造山帯の構造を詳しく調べると、大きな地質体が激しく移動をしていたことがわかってきました。ゆっくりとした大地の運動ではあるのですが、長い時間をかけると大きな移動が起こるようです。

 西南日本では、大陸側(日本海側)に飛騨-隠岐帯があり、海側(瀬戸内海側)に舞鶴帯が分布しています。古い年代の構成岩石には時代が類似しているものと、異なったものが含まれていました。
 最近まで、古い造山帯が大陸側に、新しい造山帯が、時代順に配列していると考えられていました。つまり、造山帯は陸側から海側に向かって新たに形成されていくもの、あるいは島弧の造山帯が次々と大陸にくっついていくものと考えられていました。ところが、日本列島はかつてはユーラシア大陸にくっついていたのですが、2000万年前ころから大陸から分裂をはじめ、1400万年前には分裂が終わり、日本海ができます。しかし、日本の造山帯のほとんどは、大陸の縁で形成された記録となります。
 これまでの考えであれば、陸側に古い造山帯である飛騨-隠岐帯が、海側に舞鶴帯が分布しているということになりました。ところが、構造や造山帯の構成岩石の年代などが明らかになるしたがって、そんな単純な構造ではないことがわかってきました。
 造山帯では、地質体が薄い板上(造山帯の一部分)になって、新しい時代の地質体(造山帯の一部分)の上に低角度(水平に近い)の逆断層で重なっている構造がよくあることがわかってきました。古い時代の地質体が、押し縮められて、褶曲し、横に倒れて、別の地質体の上に乗っかったためできたと考えれます。このような構造をナップ(英語でnappe、ドイツ語でデッケ Deck)と呼んでいます。このような現象は、プレートが衝突したり、沈み込んだりするようなプレートの収斂境界で起こります。日本列島も昔も、現在のこのような場でした。
 ナップはもとの地質体とつながったものをいうのですが、ナップのどこかで侵食されていくと、本体から切り離されて、先の部分だけが残ることがあります。そのようなものをクリッペ(独語でKlippe)と呼びます。一方、侵食され、下にある地層が顔を出したものを、フェンスター(Fenster 地窓、テクトニックウィンドウ)と呼びます。
 ナップは丹念に調査すればわかるのですが、クリッペであることは、もとの地質体との連続が、なんらかの証拠で推定できなければわかりません。日本列島の造山帯でそのようなクリップの存在が明らかにされてきました。それは、堆積岩中の砕屑性ジルコンを用いて、各地の造山帯の中の地質体の年代も明らかにされることで明らかになってきました。
 一番陸側の造山帯がもっとも古いものではなく、海側にクリッペとして古いものが乗っかる構造が、何度も繰り返されていることがわかってきました。
 さらに、造山帯は大陸地殻が増えていくだけの作用に見えるのですが、構造適し侵食する作用もあることもわかってきました。それは次回としましょう。

・激しい褶曲・
アルプス山脈やヒマヤラ山脈、ロッキー山脈などで
激しい褶曲をした地層を見たことがあるでしょうか。
写真や映像で見たことがあるかもしれませんね。
その規模は、見えているものでも、数100mにサイズです。
地図や地質図でみると
もっと大きな数10kmから数100kmの規模の移動が
起こっていることがわかります。
日本列島はプレートが収斂(しゅうれん)する場なので
これのような規模の褶曲や造山運動が
繰り返し起こっていてもいいはずのところでした。
侵食の激しいところでは、
そのような運動を認定するのが難しいものでした。
しかし、技術の進歩によって
その認定ができるようになりました。

・冷夏・
いよいよ前期の講義が終わりました。
いつもの夏なら暑くて授業なんかできない
と思える日が来る頃ですが、
今年は、涼しくて助かっています。
農業関係者は困っています。
農作物に影響が出はじめているようです。
梅雨明けもかなり遅れているようです。
かなり心配な状況ですね。

2019年7月18日木曜日

1_171 日本最古の岩石 3:原岩年代

 ジルコン年代では、変成を受けた年代と、火成作用で形成されたときの年代が記録されています。それらの年代が持っている意味は、慎重に解釈しなければなりません。

 日本列島で古い石が見つかったという論文の紹介をするシリーズだったのですが、その石の説明をする前に、背景となる造山運動と年代測定の素材であるジルコンについて紹介しました。今回からは、その論文を紹介します。
 2019年2月の地質学雑誌に「島根県津和野地域の舞鶴帯から古原生代18.5億年花崗岩質岩体の発見とその意義」というタイトルで報告されました。著者は、広島大学の木村光佑たちの共同研究です。
 この論文で驚いたのは、舞鶴帯から最古の岩石が見つかったということです。もうひとつは、タイトルの年代の他に、最古の年代をもった岩石が見つかったことが論文では報告されています。プレス発表では「日本最古」という語句が最初にでていますが、なぜそれを論文のタイトルにしなかったのでしょうかね。。
 舞鶴帯は私が以前研究していたところでもあり、親しみを感じていました。この造山帯は、古生代後期以降に形成されたものです。もちろん造山帯ですから、陸を構成していた岩石には、もっと古い時代のものがあってもいのですが、これまで発見されていませんでした。
 舞鶴帯より陸側に、飛騨-隠岐帯があります。飛騨ー隠岐帯は、大陸棚で形成された堆積岩(石灰岩やアルミニュームが多い泥岩など)やリフト帯で活動した火山岩類(アルカリ岩質の火山岩)が見つかっています。また、変成年代として、2.4~2.5億年前が得られています。これは、変成作用のピークの年代、そして造山運動の最盛期の年代を示していると考えられます。変成岩の原岩のジルコン年代として24億年から17億年前がえられています。
 飛騨-隠岐帯は、24億年前以降の岩石が分布している大陸があり、その海側(大陸棚)には3.5億年前以降に形成された堆積物がありました。そこで2.5億年前ころの造山運動でできたものが残されていることになります。
 舞鶴帯は、古生代末から三畳紀の造山帯で年代として飛騨-隠岐帯と似た時期になります。今回の報告は、舞鶴帯の構成岩石の年代に関するものでした。近接した露頭から3種の岩石の分析をしています。片麻岩、トーナル岩から石英閃緑岩の混在した岩石(ここで花崗岩類と呼びます)と花崗閃緑岩です。片麻岩は花崗閃緑岩が変成をうけたものです。
 論文のタイトルでは、「18.5億年前」と書かれていますが、それはジルコンから求めた変成年代です。片麻岩だけでなく、花崗閃緑岩でもそのような変成年代がえられています。一方、もともと原岩の年代(火成作用の年代)として、片麻岩では25億年前が、花崗岩類と花崗閃緑岩では4億年前(デボン紀前期)の年代がえらました。
 舞鶴帯の岩石の年代と飛騨-隠岐帯の年代には類似してものと、異なったものが含まれています。それは何を意味しているのでしょうか。それは、次回としましょう。

・前期の終盤・
前期の講義も残すところ、あと少しとなりました。
教員には、前期が終わってからも
定期試験、採点、評価などの作業や、
入試や保護者に関係した出張も続きます。
とびとびではありますが、校務が続きます。
でも講義が終わるので、精神的にほっとできます。
9月には、長期の野外調査もあります。
私用ですが、数日ですが帰省します。
9月の後期の開始まで、集中して研究できる時期です。
それを励みに、残りの前期の授業と
校務を乗り切れればと思います。

・ヒグマの続報・
わが町のヒグマの続報です。
森林公園の一部には農場があります。
その農場の作物にヒグマによる食害が発生しました。
その結果、やっと捕獲がおこなわれることになりました。
14日に目撃情報が2箇所からあり、
私は、そのうちの一つを車通っています。
時間帯が違っているのでみることはできそうにはありませんが。
火曜日の段階でまだ捕まったというニュースはありません。
広い森林公園で、ひとつの罠で捉えることができるのでしょうか。
あまりに遅く不十分な対応に。
市民はかなり戸惑っているようです。

2019年7月11日木曜日

1_170 日本最古の岩石 2:ジルコン

 造山帯の深部のマグマだまりは、花崗岩類が主として分布しています。その花崗岩に含まれているジルコンという鉱物で、年代測定ができます。ジルコンの年代測定には、どのような意味があるのでしょうか。

 南北に走るフォッサマグナで、日本列島は東西に区分され、西を西南日本と呼び、東を東北日本と呼んでいます。また西南日本は、東西に走る中央構造線を境にして、南側(海側)を外帯、北側(大陸側)を内帯と呼んで区分します。
 このうち西南日本内帯は、何度も造山活動が起こっていることが知られています。北側(大陸側)ほど古く岩石の地質体があるのですが、それが新しい時代の地質体の上に、断層でずり上がっているという構造になっています。
 実際に露頭でみると古いものほど断片的になっていて、どのグループ(地質体)に属するのかを、判定するのは難しいものです。その時に、手がかりとなるのが、岩石の種類と年代です。
 まず、岩石の種類ですが、前回、造山帯の花崗岩などの深成岩は、昔のマグマだまりだったという話をしました。造山帯は変動が激しいので、上にあった岩石類が侵食でなくなっていき、マグマだまりが見えることになります。もし、その造山帯が、繰り返し火成活動をおこなっているようなところだと、いろいろな時代の深成岩が見つかることになります。また、花崗岩類は、島弧(大陸)に特徴的な岩石ですので、点々と花崗岩が分布する地域は、かつての島弧の造山帯の深部であったことになります。
 年代測定は、ジルコンと呼ばれる鉱物が見つかれば、一粒でも年代が決められるようになってきました。近年の地質学の科学雑誌は、ジルコン年代による成果の報告が、非常に多くなりました。
 ジルコンは、花崗岩質のマグマから結晶する鉱物です。ジルコン(Zr)という元素が多い鉱物なのですが、その他にウラン(U)も多く含んでいます。ウランは放射性元素で崩壊して鉛(Pb)になります。その放射崩壊を利用して、一点の分析で年代を決めることができます。そして、ジルコンはできると頑丈な鉱物なので、風化や侵食でも残ります。堆積岩中にも見つかり、砕屑性ジルコンの年代測定から、かつて存在したはず花崗岩の年代を知ることができます。また、変成作用にも強く、少々の変成作用では変化しません。ただし変成度が高くなると、縁に新たに結晶が成長したり、縁が再結晶することがあります。そのような部分を測定すると、変成作用の年代を知ることができます。
 つまり、ひとつの岩石から、何粒ものジルコンが取り出せれば、火成作用や変成作用などの事件の記録が、読み取ることができます。ですから、少々変わった花崗岩類が見つかり、そこからジルコンを取り出せれば、いろいろな事件の年代をしることが可能になります。
 その技術を西南日本内帯の小さな露頭の片麻岩に適用されました。すると今まで見つからなかった古い年代と、新たな地帯の分布がわかってきました。それは、次回以降にしましょう。

・努力と経験・
ジルコンの年代測定自体は、機械化されているので
今では、なかり簡便に測定できるようになりました。
しかし、試料を見つけるための地質調査や
ジルコンを分離するための手間は、
労力が必要になり、なかなか大変です。
特に地質調査は、古い石を見つけよう思っても
簡単に見るかるものではありません。
長年、調査を続けた結果、
この当たりに分布していそうだとか
この岩石がどうも古そうだとか、という目が必要です。
それなりの経験が必要だということです。
つまりは、科学の成果には、努力と経験が必要だということです。

・ヒグマ・
私が住んでいる街には、隣街にまたがって
大きな道立の森林公園があります。
先日来、その森林公園の中でヒグマが出没しています。
別の森から来た、若い個体です。
現在、この森を縄張りにして、動き回っています。
森の周辺には、いくつもの大学、小・中・高校があります。
学生もクマを目撃しています。
設置したカメラにも何度も写っています。
早く対処して欲しいのですが、
市と道や部署の縄ばりやテタ割行政のためでしょうか。
それとも大きな被害がでないと動かないのでしょうか。
困ったものです。

2019年7月4日木曜日

1_169 日本最古の岩石 1:造山運動

 日本最古の岩石を発見したと、2月に報告されました。その内容を紹介していきましょう。最古の岩石がどのようなところにあったのか。その基礎となるところから、はじめていきましょう。

 現在、日本には各地で火山があり、活動中の活火山も多数あります。日本列島の火山は、でたらめに分布するのではなく、列をなしていることが特徴です。火山列はいくつかありますが、すべて海溝と平行してあります。ただし、海溝から一定の距離が離れたところに並んでいます。
 日本の火山は、海洋プレートの沈み込みに関係していることがわかっています。火山ができる原理は、沈み込むプレートから水分が絞り出されて、それがマントルの融点を下げてマグマができます。水分が出る位置は圧力に依存しているので、ある深さでマグマができ、その上部の位置が、海溝から少し離れた火山列になります。
 日本列島には活火山だけでなく、活動を停止した火山列もあり、いろいろな時代に活動していたことが分かります。つまり、日本は常に火山列が形成されるような位置、常に沈み込み帯があったことになります。
 古い火山は活動を停止したときから、侵食を受けていきます。古くなればなるほど、侵食の程度は進みます。やがて火山全体が侵食を受けていくことになります。では、もっと侵食を受けると、火山活動を起こしたマグマがあった場所、マグマだまりまで侵食が進んでいきます。
 マグマだまりは、マグマの活動、あるいは火山活動が終わると、そのままゆっくりと冷えていきます。マグマがゆっくりと冷えていくと、大きな結晶からなる深成岩になります。日本列島には深成岩が列をなして分布している地帯がいくつもあります。そのような地帯は、過去の火山列のマグマだまりを見ていることになります。
 深成岩の列の中に、新しい時代の火山が活動していることがあります。そのような火成岩類の分布は、古い時代から現在まで、繰り返しマグマの活動があったこと、沈み込み帯が繰り返し形成されていたことを示しています。
 侵食を受けた火山や陸の砕屑物は、川によって運ばれ、海に堆積します。長く侵食され続けると、堆積岩も多く形成されることになります。古い深成岩だけでなく、古い堆積岩からできた地層も日本列島では見つかっています。いろいろな時代の堆積岩があるということは、常に侵食を受けていることになります。
 常に侵食されるためには、高まりをもった陸地がなければなりません。いろいろな時代の地層があるということは、侵食があっても盛り上がる場であったことになります。隆起運動も何度も起これば、その都度、侵食が起こり地層ができます。
 日本列島は、何度もマグマの列ができ、何度も隆起運動をして、削剥されマグマだまりが露出して、砕屑物から地層ができる場となっています。そのような活動を造山運動と呼び、そのような地帯を造山帯といいます。
 日本列島は古い時代から現在まで、何度も造山運動が起こった地帯となっています。古い造山帯は、侵食を受けるので、その痕跡はだんだん少なくなっていきます。よく探せば痕跡は見つかることがあり、最近、古い岩石が見つかりました。

・天候不順・
北海道はここ数日、肌寒い天候が続いています。
先週末に雲の多い天気の中、
前期では、最後の野外調査にでかけていました。
今後は、8月末からの本州の調査まで一段落です。
今年はかなり天候不順で
例年とは異なっているようで、
これもエルニーニョの影響なのでしょう。
調査には天候が影響するので、気になります。

・道内調査・
今年は、道内の調査に力を入れています。
昨年から、少し始めたのですが、
今後も、その方針で続ける予定です。
この大学に赴任してすぐのころは、
道内各地にの調査をしていたのですが、
その後は本州に移しました。
やはり道内の調査は、準備も移動も楽なので
気楽に出かけられるのがいいですね。