2013年6月27日木曜日

6_111 バイオミメティックス 1:自然から学ぶ

 バイオミメティックスという言葉は聞きなれませんが、最近盛んに使われるようになったものです。従来にない新しい考え方です。身近な自然に光を当てて、新しい仕組みを見つけ、それを利用していこうというものです。宇宙や深海など、人類がなかなか行けないところだけが新天地ではなく、身近なところにも新天地がいっぱいあるのです。私たちが気づかなかっただけなのです。

 バイオミメティックスという言葉をご存知でしょうか。最近よく使われ、時々メディアにでることもありますが、まだ新しい言葉です。
 バイオミメティックスは、英語のbiomimeticsをそのまま用いています。bioとは、ギリシア語の生命(life)を意味する「bios」に由来していて、他の言葉と連結して、「生」や「生物」、「生物学の」などの意味を付け加えます。また、mimeticは、生物学では「擬態」という意味で使われていますが、「模倣」という意味もあります。バイオミメティックスは、現在では「生物模倣」と訳されています。
 そもそもは、アメリカの神経生理学者のオットー・シュミット(Otto Schmitt)によって提唱されたものです。シュミットは、入ってくる信号から雑音を除去する回路を構築するのに、神経の仕組みを利用しました。これは、「シュミット・トリガー」として知られています。
 バイオミメティックスの意図するところは、生物がもっている仕組みを模倣して、新しい技術や素材を開発していくことです。生物学は、生物の仕組みを解明することに主眼を置いてきたのですが、その仕組には、人の社会に応用すれば、役に立つ仕組みもあはるずです。それを意図的に見つけ、技術的に応用していこうというものです。
 従来の技術は、人の立場から、文明や文化、科学として蓄積されたきたものの上で、開発されてきました。しかし、バイオミメティックスでは、人の立場から離れて、自然界(主には生物)の仕組みから見つけていこうという考え方や方向性です。その姿勢は、今までの科学の方向性とは大きく違っているものです。
 生物が持っている効果や現象は、自然界にある材料、手法、仕組みを利用していて、なおかつ進化によって非常に効率のいいものに仕上げられています。ですから、環境への負担や安全性、製造コストを、画期的に改善できるものがあります。
 環境への影響を強く配慮する社会になってきたことから、バイオミメティックスが注目されています。近年の必要性から、この分野の研究者も多くなり、研究論文の多数書かれるようになってきました。そして2006年には、専門の科学雑誌「Bioinspiration & Biomimetics」も発行されています。
 まだまだ新しい研究分野ですが、実はその萌芽的な応用は早い時期からありました。それは次回としましょう。

・教員採用試験・
小学校での教育実習の前期分は終わりました。
3年生の特別支援学校や介護等体験など
3年生の実習が現在おこなわれています。
特別支援学校での実習は
他の学科の先生が担当してくださって
小学校は私の学科担当なっています。
そのためここ1月余りは、出張が多くなりました。
講義のやりくりがなかなか大変で
来年以降ますます大変になりそうです。
そんな教員側の苦労も、
採用試験の合格の報で
むくわれるのですが。
今年の北海道の採用試験は6月30日です。
どんな結果になることやら。

・きつい時期・
この時期の北海道は、本来であれば、
一番爽快で快適な気候のはずなのですが、
今年はそうでもありません。
天気が悪い時は、肌寒かったり
時には蒸し暑かったりします。
快晴で、本当に心地よい日もあります。
気温の変化が激しいせいでしょうか、
風邪を引いてマスクを着用している学生も多く見かけます。
私も実は先週末あたりから
風邪を引いています。
喉が少々腫れているようで
炭酸の飲み物や刺激の強いものは喉にしみます。
でも、一番の問題は、風邪のせいで、
体力だけでなく気力の衰えていることです。
校務が忙しく、精神的にも肉体的にも
辛い時期であるためでしょう。
夏休みまでなんとか倒れずにいたいものです。
無理をせず、できる範囲で頑張ることでしょう。

2013年6月20日木曜日

1_117 三畳紀初期の温暖化 3:システム擾乱

 生物は、ひとつひとつで見ると弱い存在ですが、全体で見るとなかなかタフです。生物は、35億年前から絶えることなく継続してきたことが、その証です。大きな絶滅があったとすれば、タフな生物全体を揺るがす異変があったことになります。三畳紀初期の温暖化は、そんな異変だったのでしょうか。

 P-T境界(ペルム紀と三畳紀の時代境界)に大絶滅が起こりました。その時期に起こったいろいろな異常現象がみつかっているのですが、それぞれの因果や連鎖は、まだよくわかっていません。今回紹介しているのは、P-T境界直後、三畳紀の初期の温暖化です。
 P-T境界直後の三畳紀初期に海水温が、現在より10℃から15℃ほど高かったことが、化石の同位体組成からわかりました。平均気温が10℃も高いということは、非常に大きな異変となります。氷河期から間氷期に勝る温度変化です。P-T境界の絶滅が始まってから、最後に温暖化が起こり、回復するのに要した期間は、500万年間にも達しています。通常の大絶滅は数十万年で終わりますが、500万年絶滅期間は長いものです。
 三畳紀初期で温暖化の証拠がみつかっているのは、今のところ調査された熱帯地域だけです。しかし、ある海域だけで起こる現象ではなく、海洋全体、地球表層全体で、温暖化が起こっていたと考えられています。
 温暖化によって絶滅がどのようにして起こったでしょうか。ひとつのシナリオを紹介しましょう。
 P-T境界の異変によって、多くの生物が絶滅しました。その中には、陸上で大繁栄していた植物(大森林を形成していた)も大きなダメージを受けました。陸上の植物が大絶滅した結果、生態系のバランスだけでなく、地球の物質循環が途切れます。スーパープルームによるシベリア・トラップの火山活動が大絶滅の原因のひとつだとすると、火山活動に由来する二酸化炭素も大量に放出されていたはずです。それを吸収する植物が失われたとなると、二酸化炭素は大量に大気に蓄積されることになります。それも温室効果を促進する役割を担っていたのかもしれません。
 通常は地球のシステムは、極端な変化を緩衝するフィードバックシステムが働くのですが、陸上植物の欠落によって地球の物質循環のシステムが狂います。このシステムの混乱によって「暴走温暖化」が起こります
 スーパープルームは巨大な地球の熱対流に基づくものです。スーパープルームに由来する要因は、非常に長い期間継続しえます。P-T境界の大絶滅は、温暖化以前にある程度、大絶滅が起こっていました。その後に温暖化がおこり、P-T境界をなんとか生き延びた殻の硬い巻貝や二枚貝なども、絶滅しまいました。システムの混乱は500万年かかってやっと回復します。これら推定されているシナリオです。
 温暖化だけが原因とは考えられません。温暖化が長く続くと、もはや絶滅の原因ではなくなります。温暖化、いや地球表層の高温が当たり前の環境になってしまいます。すると、高温に適応した生物群ができあがるはずです。生物の絶滅で重要なことは、生物が対応できない変化が起こることです。大きな変化が広域に起こるか、つぎつぎと環境変化が起こることが、大絶滅の原因となるのです。
 P-T境界の大絶滅の直後に起こった温暖化は、弱っていた生物圏、減少していた生物種に、更なるダメージを与えました。三畳紀初期の温暖化は、ダメ押しとして役割を果たしたのでしょう。これがP-T境界の大絶滅をより大きな、生物史最大のものにしたのではないかと考えられます。

・高湿度・
今週はどんよりした天候が続きます。
湿度が高いので少々不快ですが、
気温がそんなに高くないので、
なんとか過ごせます。
北海道の人は、寒さには慣れているのですが、
暑さには慣れていません。
特に本州の梅雨の蒸し暑さのダメージは大きくなります。
北海道に数年すれば、
北海道人の体質になります。
私のその一人で、暑さには弱くなっています。
清々しい夏が来ることを願っています。

・補講・
毎週のように出張があります。
サラリーマンには、出張が当たり前の人も
一杯いることでしょう。
しかし、大学教員が出張を一杯するということは
休講が一杯あるということです。
近年、講義保障で15回の講義をすることが
義務付けられています。
ですから休講をすると補講をしなければなりません。
しかし、補講日も限られていて、
夜(7校時)などに講義をするように指示されています。
そうなると教員だけでなく、学生も大変です。
学びたい気持ちの学生ばかりだといいのですが、
そうでもない学生もかなりいます。
形式よりも実が大切なはずなのですが・・・

2013年6月13日木曜日

1_116 三畳紀初期の温暖化 2:致死的

 P-T境界を挟んで、いろいろな異常現象が起こりました。最近、三畳紀初期に起こった異常現象が発見され、「致死的な高温」と呼ばれています。この温暖化が、ペルム紀末のさまざまな異変に続いて起こります。

 古生代と中生代の時代境界(P-T境界)では、生物史上最悪の大絶滅が起こりました。古生代と中生代の生物種が一変するほどの変化でした。そのP-T境界で起こった大絶滅事件には、いろいろな異常現象が伴っていました。超大陸パンゲアの形成から分裂へ、スーパープルームの上昇、世界規模での海退、激しい火山活動、特にシベリアの火山活動(シベリア・トラップと呼ばれています)は広範囲に及ぶものでした。さらに他の大絶滅に比べて期間が長い点も特徴です。通常の絶滅が数10万年の期間で起こるのに対して、P-T境界の絶滅は、2億5200万~2億4700万年前の500万年もかかっています。この絶滅はP-T境界をまたいで起こっています。
 これらの現象は、どれもが地球生命には大きな変化を起こしうるものです。どれかひとつの現象が、他のすべてを起こした原因だったのか。あるいは、いくつもの原因が、複合的に他の現象を起こしたのか。いくつもの現象が、どのような因果関係にあったのかを知りたいのですが、その解明はなかなか困難なようです。
 昨年、P-T境界付近の時代に、新たな異常現象が見つかりました。サイエンス誌(Science)の2012年10月19日付けのオンライン版に発表されました。イギリスのリーズ大学のスンさんらの研究グループが、中国南部の浅い海の堆積物を研究したものです。その地層は、三畳紀の最初期に形成されました。P-T境界の絶滅事件の直後にたまったものです。
 さて、酸素の同位体組成が温度と相関をもっており、同位体組成を分析すれば、海水がなくても、海水温を見積もることができます。知りたい時代、今回はP-T境界付近、あるいは中国の地層では三畳紀最初期の海水の酸素を見つければ、当時の海水の温度を見積もることが可能になります。
 スンさんたちは、地層が赤道付近で溜まったものであるのことを明らかにしています。そして地層には化石が含まれていることがわかっていました。化石(当時生物の殻)をつくっている物質は、当時の海水に溶け込んでいた成分からできたはずです。化石を形づくる物質(多くは炭酸カルシウムCaCO3)の酸素を利用すれば、海水の温度を見積もることができます。この方法は、多くのところで、すでに利用され、実績を挙げているものです。もちろんこの炭酸カルシウムが形成後変化していないという前提が必要ですが。
 化石の酸素同位体の分析の結果、当時の海水温が40℃に達していたことを示していました。浅い海の化石なので、海水表面付近の温度とみなすことができます。現在の赤道の海表面の温度は、平均で25~30℃ですので、それと比べても明らかに高い温度を示しています。
 スンたちは、この高温を「致死的な高温(lethally hot temperatures)」と呼びました。その様子と意義を次回考えていきましょう。

・おわび・
当初、「ペルム紀の温暖化」というシリーズ名をつけたのですが、
論文を読んでいくと、
「三畳紀初期」ということがわかりましたので修正します。
ホームページとブロクは修正しましたが、
発行してしまたメールマガジンは変更できません。
それでお詫びの文章をここに掲載しておきます。
申し訳ありませんでした。

・初夏・
北海道は夏めいてきました。
初夏の心地いい天気が続いています。
YOSAKOIも好天に恵まれ成功裏に終わりました。
私は、テレビ観覧でしたが。
遅ればせながら、エゾハルゼミ鳴き始めました。
先日のニュースでは、今年の6月に入ってからの晴天率が
非常にいいということです。
5月までの天候不順を取り戻すかのように
いい天気が続いています。
農家もこれで一息つけるでしょうか。

・出張・
毎週、教育実習の指導のために出張しています。
その疲れもあるのでしょうが、
あれやこれやと校務が結構あり、
精神的にも疲れています。
それに加えて論文の進行があまりよくありません。
7月には講演会もあるので、
その準備もそろそろしなければなりません。
気ばかり焦って、なかなかことが進みません。
ただ、ひたすら少しでもいいからやり続けることが
最終的には近道なのです。
わかっているけどできないのが人の常なのですが。

2013年6月6日木曜日

1_115 三畳紀初期の温暖化 1:P-T境界

 ペルム紀は古生代最後の時代です。古生代と中生代は、地質年代区分でも大きな境界になります。その境界で、大きな事件があったことがわかっていました。ただそのシナリオは、まだ完成していません。最近、新たな事件の証拠が発見されました。

 古生代の終わりの時代はペルム紀(Permian)と呼ばれ、2億9900万~2億5100万年前の期間です。ペルム紀の次の時代は三畳紀(Triassic)で中生代になります。ペルム紀と三畳紀の時代境界を、英語の頭文字をとって、P-T境界と呼びます。
 ペルム紀は、陸上生物が繁栄していました。動物では、大型化した両生類や爬虫類が出現していました。後の恐竜や現在の爬虫類の祖先になる爬虫類(双弓類)や哺乳類の祖先に当たる哺乳類型爬虫類(単弓類)もいました。また、石炭紀に繁栄して大森林をつくっていたシダ類、ソテツ類、イチョウ類などの裸子植物が繁茂していました。海では三葉虫の他にも、フズリナ、四射サンゴ(棘皮動物)、軟体動物、腕足類などの多様な化石が、浅い海の堆積物から見つかっています。陸地も海も、生物で賑わっていたようです。
 ところが、古生代に繁栄していた生物が、P-T境界でほとんど絶滅してしまいました。古生代と中生代の境界が、ここに置かれているのは、今では重要な意味を持つようになりました。P-T境界の絶滅は、地球生命が経験したもっとも大きなものだと推定されています。古生代に繁栄していた三葉虫が絶滅したことはよく知られていますが、他にも多数の生物種が消えた大絶滅だと考えられています。
 「大絶滅」というと、恐竜が絶滅した中生代と新生代の境界(K-T境界、あるいはK-Pg境界と呼ばれる)を、多くの人が思い浮かべることでしょう。K-Pg境界も大絶滅ではあるのですが、「大絶滅のランキング」でいうと、第5位にあたります。
 絶滅のランキングの第1位は、実はP-T境界のものです。その絶滅の程度はいくつかの推定がありますが、海生生物では最大で96%の種が、全生物種で見ると90%ほどが絶滅したと見積もられています。
 それでも、ほんの一部の生物種が生きのびて、中生代の生物がはじまりました。生き延びた一部の生物が、中生代から後の生物の祖先となり、後の系統を形成したので、古生代の生物と中生代の生物は、だいぶタイプが変わっています。その生物種の差が大きさからも、時代の境界がP-T境界にあることは、意味があったのです。
 ところが、P-T境界の大絶滅が、なぜ起こったのか、今でも謎でなのです。いくつかの特異的な現象が知られています。これを説明するために、いくつかの仮説が提唱されています。いずれの仮説も多様な現象を説明するために、複雑なシナリオが必要です。まだ決定的な仮説がありません。研究途上なのです。
 昨年、P-T境界付近で、新たな異常現象が見つかりました。それは、強烈な温暖化でした。その紹介は次回としましょう。

・二畳紀・
ペルム紀は二畳紀とも呼ばれることもあります。
かつては二畳紀のほうがよく使われていましたが、
今では、あまり使わなくなりました。
ペルム紀は、ロシアのウラル山脈の西部の
ペルム地方からとって付けられた名称です。
二畳紀は、この時代の地層がでているドイツでは
赤底統と苦灰統の2つの地層になっていることから
ダイアス(Dyas)と呼ばれていました。
その訳語が二畳紀とされました。
残念がらあまり使われませんが。

・YOSAKOIソーラン・
6月になり、北海道もやっと初夏の気候になってきました。
長い冬と、寒い春がやっと終わりました。
我が家のストーブもやっと休みになりそうです。
天気がいいと、暑さを感じるようになってきました。
暑い日などは、帰宅すると一汗かいているので
風呂よりシャワーで済ましてしまう日もあります。
今週から、YOSAKOIソーラン祭りが始まります。
今年の北海道の夏は、
YOSAKOIとともにはじまります。