2013年2月28日木曜日

3_113 極限環境微生物 1:未知の環境

 地球上のほとんどのところを、私たちは知っていると思っていますが、実は未知の世界は、まだまだあります。新しい環境が見みつかると、そこには新しい生物が見つかることがよくあります。新しく見つかる環境は、大抵が過酷です。過酷な環境に暮らす生物は、「極限環境微生物」と呼ばれます。「極限環境微生物」について考えていきます。

 「極限生物」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。正確には、「極限環境微生物」といったほうがいいのかもしれません。この微生物は、非常に厳しい環境で暮らしています。
 ただその環境に生きているだけではなく、そこを「住みよい」と思っている必要があります。「住みよさ」は、人ではそれぞれの好みがあり判断できませんが、微生物では明瞭で、その生物が繁殖し、増殖しているかどうかで決めています。繁殖することを、微生物がその環境に適応しているとみなすわけです。極限環境とはいっても、その微生物にとってはそこが快適な場所なのです。極限環境というのは、人からみたときに、過酷に見えるだけであって、その生物にとっては、そこが住みよいところとなのかもしれません。「極限環境微生物」とは人の独善的な呼び名かもしれません。
 本来なら、微生物だけでなく、大型の生物でもあってもいいかもしれませんが、大型生物に対してはそんないい方はしません。かつて、未知の深海や人が暮らせないような極地(北極、南極、高山)は、生物のいないところだと思われていました。しかし、調査がすすでくると、深海や極地でも暮らしている生物が発見されることになってきました。そんな大型の生物は、「極限生物」であったはずです
 人の知見が広がることによって、動物園、植物園、水族館などや映像でも、大型「極限生物」を目にすることにもなり、「そんな生物もいるさ」となり、彼らの住んでいる環境を極限とは思わなくなってきたのかもしれません。人にとって「未知」は、「極限」に見えるのかもしれません。
 極限環境とは、知見の広がりとともに更新されていくのかもしれません。これだけ調査が進んでも、やはり「極限環境微生物」というべきものは見つかります。調べれば調べるほど、地球のいろいろなところに未知の環境が見つかり、そこには生物は住みついているということなのでしょう。
 一般に極限環境としては、高温、高圧、高pH(高アルカリ性)低pH(高酸性)、高NaCl濃度などの条件があります。
 高温とは、80℃以上をさし、高温を好む微生物を好熱性といいます。122℃で暮らしている古細菌がみつかっているます。高圧とは、500気圧以上の水圧の深海です。深海には、微生物だけでなく、魚やカニ、貝など多様な大型生物もみつかっています。高pHとはpH 9以上の強いアルカリ性で、低pHとはpH 5以下の強い酸性の環境です。アルカリ性ではpH 12.5まで、酸性ではpH -0.06まで生きている古細菌などがいることがわかってきました。高NaCl濃度とは、大陸内部の塩湖のような環境で、飽和したNaClの環境でも古細菌が暮らしていることが見つかっています。
 まだ、「極限環境微生物」の生態や起源が解き明かされているわけではありませんが、いろいろなところに暮らす生物がいることがわかってきました。未知の環境には、「極限環境微生物」が暮らしている可能性があります。今までその存在すらよく知られていなかった湖から、今年2月に生物がいることがわかっていました。これも未知の環境の発見になります。詳しくは次回に。

・卒業シーズン・
職場や学校では、そろそろ入退社、転勤、卒業となります。
大学はまだ入学試験がおこなわれていますが、
卒業のシーズンでもあります。
教員も定年退職があり、学科や学部、大学など
組織でその準備がおこなわれます。
そこには寂しさと門出の祝いの両方の気持ちが絡み合います。
送る側からするとやはり寂しいものです。
そんなことを考える時期でもあります。

・刺激的学び・
2月のいよいよ終わりです。
今年のこの期間は、私は自分の好奇心を満たし
可能性を広げるために、
他分野の学問体系を学んでいます。
ひとつは発達心理や教育心理、
もうひとつは統計学です。
心理学の方はまとまりましたが、
統計学に手こずっています。
統計処理用アプリケーションや
数式記述のアプリケーションなどにもトライしてます。
新しいことを学ぶのは大変ですが、
刺激的で楽しいものであります。

2013年2月21日木曜日

1_114 23億年前の事件 4:シナリオ

 23億年前、酸素が急激に増加するのは、光合成をする生物が急激に増えたこととされました。光合成生物が、なぜ増えたのでしょうか。その時期やメカニズムは、よくわかっていませんでしたが、シナリオが考えられました。

 関根さんたちは、23億年前のカナダの地層で、オスミウムの濃度も同位体組成を測定しました。その結果、氷河期終了直後から温暖期への移行期に、酸素の急増が起こったということことを示しました。
 では、時期の厳密な決定から、どのようなシナリオが考えられるのでしょうか。
 約23億年前、赤道まで氷河ができるような大氷河期、全球凍結が起こりました。大氷河期ですべての海が凍っていると、海水の蒸発、降雨という水の循環が停滞した状態になっています。氷河期が終わると、一転、急激な温暖化が起こります。氷河期の間にも火山活動がおこり、噴火で放出された二酸化酸素やメタンなどの温暖化ガスが、大気中に蓄積され続けたため、あるとき温暖化に転換したと考えられます。
 温暖化にともなって、海水の蒸発、降雨という水の循環が復活しました。激しい温暖化が起こると、急激な水の循環になります。大量の降雨により、大陸地域の化学的な風化作用が激しく起こりました。雨は、河川となり、海に流れ込みます。その時、大陸物質で溶けやすい成分も、一緒に海に運んでいきました。もちろん、このとき、オスミウムの濃度も同位体組成も変化をします。
 大陸からの由来する成分として重要なものに、生物の栄養源となるリンがあります。リンは地表や海水には少ない成分ですが、DNAの構成成分として重要なものです。海水にリンが増えると、生物の活動が活発になります。現在でも富栄養化として、プランクトンの大量発生による赤潮が起こっています。
 氷河期が終わった直後、富栄養化が、大規模に長期にわたって起こります。富栄養化によって、光合成をする生物が大繁殖しました。酸素のある環境は、酸素を嫌う生物にとって、絶滅を意味します。光合成をする生物は、酸素を武器に大繁栄をしました。そして、酸素の増産をおこないます。その結果、酸素の大量発生が起こりました。
 23億年前までは、大気に酸素がほとんどない状態から、現在の大気中の酸素量の1/100以上になったと考えられます。現在の1/100というのは、少ないように思えますが、非常に重要な境目だと考えられて、パスツール・ポイントと呼ばれています。大気中の酸素の量が、パスツール・ポイントを越えると、生物にとって、酸素を使う呼吸のほうが、酸素を使わない呼吸より有利になるとされています。
 温暖化によって、大気中の酸素濃度が、パスツール・ポイントまで急激に上昇しました。メタン(温暖化効果が強いガス)は酸化され、二酸化炭素なります。水の循環によって大気中の二酸化炭素は、海水中に溶け込み、炭酸塩岩として大量に沈殿、堆積しました。温暖化ガスが大気中から取り除かれると、温暖化も納まります。これが、関根さんたちの出されたシナリオです。
 関根さんたちは、温暖化ガスの酸化や沈殿により過剰に大気から取り除かれることがあるといいます。温暖化から氷河期へというサイクルが可能になるということです。繰り返しおこる氷河期ー温暖期のサイクルが、光合成生物の活発化と関連があるということです。
 さてさて、このシナリオは仮説です。これを実証するのは、次のステップです。それがどのようなアイディアでおこなわれるでしょうかね。

・充電中・
2月の3分の1が過ぎました。
私は、2月を充電期間として、
研究の基礎を固めるために、
発達心理学と統計学の概要をまとめています。
いずれも大きな学問分野ですが、
なかなか機会がなく、ついつい中途半端にはじめては
挫折していたものばかりです。
今回は、終わることはないのですが、
概要を把握することに重点をおいてすすめています。
さてさてとこまでいけるのやら。

・岐路・
大学では現在多数の企業が来てくださって
説明会をおこなわれています。
3年生向けのものです。
卒業後の自分の進む道を決めるものです。
就職に目を向けている3年生は
どの程度いるのでしょうか。
他の学年で気になる学生に声をかけているのですが、
帰省しているものもいるので、
なかなかコンタクトもとれない学生もいます。
学生生活にもいろいろな岐路があります。

2013年2月14日木曜日

1_113 23億年前の事件 3:タイミング

 23億年前、全球凍結、酸素の急増、真核生物誕生という大事件が、ほぼ同時期に起こりました。事件は本当に同時でしょうか。それとも前後しているでしょうか。順番によってシナリオが大きく変わってきます。全球凍結と酸素急増のタイミングが決定されました。

 関根さんたちのグループは、オスミウム(Os)という元素を用いて、23億年前の事件を調べました。オスミウムの濃度や同位体組成が、大気中の酸素の濃度を間接的に示していることは、前回、紹介しました。
 関根さんたちが分析した試料は、カナダのオンタリオ州エリオットレイク地区に分布するヒューロニアン累層群(約22~24.5億年前)と呼ばれる地層でした。地層は、23億年前の時代をまたいでたまったものです。以下では氷河堆積物と砂岩泥岩の境界を基準(0m)として、地層の上下の位置で表現します。
 下部には、氷河性堆積物が1m以上あり、その上に60cmほどの砂岩と泥岩の地層があります。砂岩泥岩の地層は、徐々に炭酸塩岩に変わり、1mあたりで、完全な炭酸塩岩層になります。
 この地層から、連続的に試料を採取して、オスミウムの濃度や同位体組成が調べられました。
 氷河性堆積物は、オスミウムの濃度も低く、同位体組成も非常に小さい値でした。
 砂岩泥岩になってすぐに、オスミウムの濃度も同位体組成も上昇しはじめます。砂岩泥岩になってしばらくする(30cmほど)と、値は急激に上昇し、炭酸塩岩に漸移するところ(70cmほど)で、ピークをむかえます。完全な炭酸塩岩になる(1m以上)と、値は落ち着きますが、氷河性堆積物と比べて高いまま保たれているようです。
 氷河堆積物は、大規模で、全地球が凍ったほどだと考えられています。前回説明したように、オスミウムの挙動から、氷河時代は酸素濃度が低い大気であったことがわかります。
 氷河期のあとにたまった炭酸塩岩は、地球が温暖な気候に変わったことを示すと考えられています。23億年前頃には炭酸塩岩の地層は、世界各地でよくみられます。全球凍結の直後に、前地球的に温暖化があったことはよく知られていました。
 今回、関根さんたちは、氷河期が終わってすぐに、酸素が増加しはじめ、炭酸塩岩がたまるような温暖化と同時に、酸素が急増したことを示しました。
 今まで、23億年前の全球凍結と大気の酸素急増のタイミングに限定した研究はありませんでした。今回、関根さんたちは、酸素急増の時期を氷河期直後と厳密に決定しました。従来からそうではないかと考えられていたのですが、データがなく、検証されていませんでした。関根さんたちの成果で、氷河期の記事と酸素の急増の時期が明らかになりました。
 氷河期と酸素急増のタイミングが明らかになり、どのようなシナリオが考えられるのでしょうか。そのシナリオは次回としましょう。

・大学では・
大学は、一般入試も一段落し、
正課の講義は終わったのですが、
変則的な講義はまだ継続中です。
いくつかの学科では卒業論文の発表会がおこなわれています。
特別支援教員課程の事前指導もおこなわれています。
また、企業説明会も同時におこなわれています。
追試もおこなわれています。
採点と評価が終わったばかりですが、
次は来年度の講義シラバスの〆切があります。
つぎつぎと校務があり、
なかなか落ち着かないのですが、
研究としていろいろできる時期でもあるので
抜かりなくやっておこうと考えています。

・追試・
成績をつけていると
レポートなどをきっちりと出しているのに
試験を欠席するする学生が少なからずいます。
欠席した正当な理由があれば、
追試が受けられます。
追試も受けに来る学生が
それほど多くないのが不思議です。
なぜ、試験を受けないのでしょうか。
諦めがいいのでしょうか。
それとも多数ある単位の一つに過ぎないので
それほど必要性がないからでしょうか。
後者ならいいのですが。

2013年2月7日木曜日

1_112 23億年前の事件 2:オスミウム

 23億年前の地球は、いろいろな大事件が連続して起こりました。大事件はどのような関係があるのでしょうか。そして、その関係は、どうすれば読み取ることができるのでしょうか。新しい手法で、その関係が探られました。

 23億年前頃に起こった酸素の急増、全球凍結、真核生物誕生(20億年前)という大事件は、連続的に、あるいは同時に起こっています。事件には、どのような因果関係があったのでしょうか。まずは、年代を正確に決めたいところです。
 全球凍結は氷河堆積物の、真核生物の誕生は化石を含む地層の年代測定をそれぞれすればいいわけですが。しかし、酸素の急増はどのように調べればいいのでしょうか。大気のできごとですが、なかなか難しい課題でした。
 東京大学の関根さんたちのグループは、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌に、あるアイディアを示しました。その論文は、2011年10月に発表されました。
Osmium evidence for synchronicity between a rise in atmospheric oxygen and Palaeoproterozoic deglaciation(大気の酸素の増加と前期原生代の氷河期回復の同時性に関するオスミウムの証拠)
というタイトルでした。
 関根さんたちは、オスミウム(Os)という元素の同位体(同じ元素だが質量の違う原子)を用いて、大気中の酸素の濃度を調べています。
 オスミウムは白金族の元素のひとつです。白金族の元素は、もともと非常に少ない金属です。安定しているので、水とは反応しくく、酸や塩基に溶けにくいもので、貴金属とよばれています。ところが、オスミウムは、白金族の中で、最も酸化されやすく、空気中においておくだけでと、酸化オスミウム(猛毒)になってしまいます。オスミウムは酸素と反応しやすい元素なのです。
 岩石に含まれているオスミウムは、大気中の酸素が増えると、水に溶けやすいという性質があります。その性質によって、酸素が増えると、オスミウムは川から海に運ばれ、堆積物にたまっていきます。酸素が少ないと、大陸から海に運ばれることなく、海底の堆積物はオスミウムが少ないままになります。オスミウムの濃度から、大気中の酸素濃度と大陸地殻の寄与が、定性的ですが推定できます。
 たとえ量が少なくても、大気中の酸素の濃度を知ることができます。オスミウムには、レニウム(Re)の放射壊変からできる同位体(187Os→187Re)が含まれています。レニウムには安定同位体より放射性同位体のほうが多く(62.6%)なっています。放射性同位体の半減期は、412億年なので、古い岩石や隕石の年代測定に応用されています。
 レニウムは大陸地殻に多く含まれるので、放射壊変に由来するオスミウムも大陸地殻の岩石には、古いほど多くなります。一方、マントルから由来するマグマは、放射壊変に由来するオスミウムが少なくなります。海水には海嶺の火山活動に由来するオスミウムがありますが、放射性起源のものは少なくなっています。
 その関係を利用して、大陸起源かマントル起源かを判別することができます。187Os/188Os比(分母のオスミウム188は安定同位体で含まれる比率も比較的多い)が、大きければ大陸起源で、小さければマントル起源とみなせます。
 濃度の他にも、堆積物中の同位体組成(187Os/188Os比)からも、大気の酸素濃度が、間接的ですがわかることになります。両者を利用すれば、堆積物の大陸地殻の寄与、そこから大気中の酸素濃度が推定可能となります。
 では、関根さんたちは、どこで、どのようなことを調べ、何を明らかにしたのでしょうか。それは次回としましょう。

・雪まつり・
北海道は暖か日が続いた後、
ドカ雪が降りました。
除雪が入ったのはいいのですが、
ツルツルに凍った路面が新雪の中にでていて、
危険な道路状況になっていました。
そのため、いたるとこで衝突事故や
雪に突っ込む車もありました。
救急車のサイレンも頻繁に聞きました。
札幌ではドカ雪の日に、
雪まつりが開幕しました。
雪まつりは北海道の冬の最大のイベントとなりました。
晴れれば暖かさで雪像が溶けることを心配し
寒ければ観客の動員が心配です。
成功するといいのですが。

・一般入試・
大学は、定期試験が終わり、
今週は大学の一般入試の真っ最中です。
高卒者の人口が少しずつ減っているので
どの大学も苦戦が強いられています。
生き残りをかけた戦いです。
しかし、大学とはそもそも学問を身につける場で、
教職員も学問を進め、伝えるために専心すべきのはずです。
しかし、今は大学間の競争に勝つことに
多くの時間がさかれています。
これも、しかたがないことなんでしょうね。