2011年8月25日木曜日

2_93 恐竜絶滅:K-Pg 1

 恐竜を絶滅させたのが隕石であるというのは、多くの人が知るようになりました。しかし、隕石がどのよう頻度で落ちてきて、どの程度の絶滅を起こすかは、まだ謎のままです。隕石による絶滅が稀でありますが、何度か起きるようなものであったことがわかってきました。そんな研究を紹介します。

 恐竜に代表される大量絶滅は、白亜紀の終り、6550万年前に起こりました。その原因が隕石の衝突であるというのは、皆さんご存知でしょう。今では子供でも知るようになってきました。その背景には、絶滅の原因になった隕石やそのクレーターの認定、あるいは衝突によって形成されたさまざまな事件などに関する多くの研究がなされてきました。
 ところが、隕石による絶滅が実証されているのは、白亜紀のものだけです。他の時代にも大絶滅がいくつもありました。でもその原因は、必ずしもよくわかっていません。そして少なくとも隕石であると確定されているものは、白亜紀のものを除いてありません。
 白亜紀の末の絶滅を引き起こした隕石というのは、太陽系をめぐる小天体が地球にぶつかったものです。小さいものであれば、それこそしょっちゅう衝突は起きています。小さい物質で、一番目立つ衝突は流星です。流星の多くは、大気圏で燃え尽きてしまっている物質で、地表には達していません。
 時には地表にまで達するものもあります。小さいもので地表に達するものは結構な数があるといわれています。人知れずチリのような隕石が落ちきています。古くからあるビルの屋上で、あまり清掃されていないところで、チリを集めると、小さな隕石が結構混じっているそうです。私は試したことがありませんが。このような小さな隕石は宇宙塵(うちゅうじん)と呼んでいます。
 地表に達し、なおかつ人目に触れるほどのサイズとなると、それほど多くはありません。日本のような狭い国土でも、数年ごとに落下が目撃され、ニュースになります。つまり、小さいものが多く、大きくなるにつれて少なくなるということです。
 この「小が多く、大が少ない」という傾向は、地球以外の天体のクレーターのサイズと数(頻度)で確認されています。大きな隕石(小天体)が衝突すると大きなクレーターができ、小さな隕石だと小さなクレーターしかできません、単位面積あたりのクレーターのサイズと数の関係を調べると、指数関数になるという規則性(べき乗則と呼ばれる)があることがわかっています。べき乗則は、隕石だけでなく、自然界の一般則となっているものです。
 話は変わりますが、恐竜の絶滅が起きた白亜紀の終わりは、K-T境界と呼ばれていました。Kは、白亜紀(Cretaceous)の略号(Cはカンブリア紀が使うのでドイツ語で白亜紀のKreideを用いる)です。Tは、第三紀(Tertiary)のTです。新しい地質年代区分では、第三紀という時代は使わなくなました。そのかわり、古第三紀(Paleogene)と新第三紀(Neogene)を使うようになりました。ですから、白亜紀の次の時代は、古第三紀になるので、T-Pg境界というのが正式な呼び名となります。ですから、このエッセイの表題もそれに基づいてK-Pg境界とすることにしました。
 さて、恐竜を絶滅させた小天体は、どれくらいの頻度で起こるのでしょうか。それについて、詳しく検討された論文が今年の4月に発表されました。その内容を次回から紹介します。

・同じ轍・
使い慣れたK-T境界を
有る時からK-Pg境界にするというのは、
最初はかなり抵抗があります。
今でも、まだ抵抗があるのが本音です。
でも、論理的によかれと決めたものなら
それに従うべきでしょう。
私たち地質学者が決めたことを
私たちが使わなければ定着するはずがありません。
第三紀というのも、過去の名前を引きついできたから
生じた不具合であったはずです。
かつては、第一紀、第二紀があり、
そして第三紀、第四紀があります。
第三紀と第四紀が消えることなく残りました。
第三紀をやっとの思いで使わないことにしたのですから、
同じ轍を踏まないためにも、
K-Pg境界を早く定着させましょう。
その責務を私たち地質学者が負っているはずです。
残念ながら第四紀は残ることになりましたが。

・恒例の調査へ・
北海道は涼しくなってきまひた。
朝夕には上着をきていても
おかしくないほどの気候となりました。
歩いてきたも汗だくになることも
もうなくなりました。
今年もこれで、短い夏が終わりました。
これからは秋です。
私は、9月になったら調査に出ます。
台風来襲の時期なのですが、
この頃しか出かけることができません。
今年の夏はとりわけ忙しかったので、
調査が待ち遠しいです。

2011年8月18日木曜日

6_94 課題:レアアース5

 レアアースの大量の資源の発見は、日本とって、そして人類にとって非常に明るい話題となりそうです。しかし、このシリーズ・エッセイの最後に少々苦言を呈したいと思っています。今後の課題とすべきことです。

 前回、海洋底の堆積物には大量のレアアースが含まれていること、それが有望な鉱床になりそうなことを紹介しました。その報告は、公海の広大な海洋底で、日本の領海内でもそれなりの資源量になりそうなので、日本にも人類にとって、いいことづくしのようです。しかし、手放しに喜べることばかりではなく、いくつかの課題がありそうです。それを考えていきましょう。
 まずは、堆積物が深海にあるということです。今回見つかったのは、3500~6000mほどの深さの海底です。そのような深度から、堆積物をどう効率的に回収するかという技術的課題があります。今、レアアースの価格が高騰してしています。半年で3倍にもなったようですので、かなりの設備投資は可能でしょう。紅海で1979年に、2000mの海底の鉱床を採掘するという開発テストがおこなわれたようです。ですから今の技術をもってすれば、6000mの深海からでも採掘が可能であろうと、加藤さんらは述べています。まあ、鉱業は経済的、技術的に可能であれば、実用化は案外短期間になされるかもしれません。しかし、現実に採掘可能かどうか、まだ不明です。
 次に、廃棄物の処理の問題です。レアアースを取り除いても海底の堆積物だ残るだけで有害な廃棄物はでることはないのですが、堆積物をそのまま海に戻すのは十分慎重になるべきです。細粒の物質(混濁物)を大量に海に流すことになります。もしかしたら海洋全体の生態系に、大きな影響を与えることもあるかもしれません。環境評価を十分検討なしに、開発を進めることはもってのほかでしょう。何らかの処理をして戻すにしても、海上で捨てるのではなく、深海に直接戻すべきせしょう。なぜなら、海上でばらまけば、深海底にそのまま貯まるわけではなく、海流に乗って広範囲に懸濁物をばらまくことなるかもしれません。
 そこまで配慮されたとしても、まだ深海の不可知の領域で環境破壊が起こる可能性があります。人類にとって深海はまだまだ未知の世界が広がっています。一部地域では、不思議な生態系があることがようやくわかってきましたが、まだまだ調査の目が届いていません。そこに、鉱業的に大規模に採掘が進めば、未知の生態系があったとしても破壊されるかもしれません。採掘後の環境回復の確認は、それなりに手間もかかるでしょうが必要となります。
 採掘することは、広域に堆積物をかき混ぜることになります。その行為は、非常に長い時間かけて蓄積されてきた貴重な記録を、ことごとく破壊してしまうかもしれません。深海底の堆積物は、長い時間かけてたまったものです。学術ボーリングによって、その堆積物が回収され、過去のタイムレコーダーとして重要な役割と果たしてきました。今回加藤さんらが調べたボーリングコアも学術目的でおこなわれたものを利用しています。ある資源だけ回収のために、ある国や企業の営利のために、野放図に採掘を進めていいのかということです。さらにいえば、上での述べたような様々な問題だけでなく、目先の利益のために、自然の資産を一気に食い潰してもいいのだろうかという疑問があります。
 加藤さんらの報告は、研究としてなされたものです。これは非常に重要な意義のある成果です。それをすぐに資源開発や営利目的、経済活動に結びつけるのは、慎重にやる必要があると思います。ただ、そこから先は科学者だけの判断ではないでしょう。政治や経済など複雑な要因があるでしょう。
 私は、レアアースに関しては、ふんだんにある素材を用いた代替技術の開発を優先すべきではないかと思います。日本、いや人類は、常に発展、経済成長を目指していますが、少しの停滞や我慢も必要なのではないでしょうか。そんな余裕とゆとりをもって技術開発はできないでしょか。最小不幸ではなく、最大幸福(≠最大利益)を目指すべきではないでしょうか。福島原発を教訓とすべきではないでしょうか。

・日本人の志・
科学と政治の役割分担が不明瞭になってきました。
技術を考える時、どうしても経済がからみます。
科学と政治が近づきすぎ、なんらかの関係ができ、
その関係が本来の役割より重要性を持ってしまいます。
その関係が本来の役割を歪めてしまいます。
悪循環を断ち切るためには、勇気が必要でしょう。
そのためには、金銭に執着することなく、
本質を目指す志が重要になることでしょう。
そこには強い精神力が必要になります。
多くの日本人が忘れてしまった心が
必要になるのでしょう。

・猛暑過ぎ・
北海道は暑さのピークは過ぎたようです。
昼間はまだ暑いですが、
朝夕は涼しく、北海道らしい快適な時間になります。
今週で大学の成績評価などの校務が終わります。
大学は夏休みから復帰します。
ただ、私は校務から解放され、
溜め込んでいた仕事にかかります。
少々溜め過ぎで、けっこう大変ですが、
頑張るしかありません。
今週は校務と休養をここらがけましょうか。

2011年8月11日木曜日

6_93 大鉱床:レアアース4

 国際政治によってレアアースの不足が話題になりました。そのレアアースが大量に埋蔵されているというニュースが、流れました。まだ、研究段階ですが、その内容を紹介しましょう。

 東大の加藤泰浩教授らは、海底に大量のレアアースがあることを発見しました。加藤さんらは、太平洋の海底を掘削したコアを対象に分析をしました。コアは、東大海洋研究所や深海掘削計画(DSDP: Deep Sea Drilling Project:DSDPの略されます)や国際深海掘削計画(Ocean Drilling Program:ODP)で採取されたものが使われました。調べられたコアの数は78本ですが、分析された試料は2037個になります。同じコアで深さの違う部分の分析を多数なされたことになります。
 大量の分析から、海洋底の堆積物中にレアアースの濃集があることがわかりました。南東太平洋の海底では、平均の厚さ8mの堆積物で、総レアアース(すべてのレアアースの元素)の濃度は1054ppmとなりました。中央太平洋では平均層厚23.6mで総レアアース濃度625ppmになりました。地球の存在度と比べても、非常に濃集しているといえます。
 鉱業的に採取できるものを鉱床といいますので、海洋底の堆積物中のレアアースは鉱床と呼んでいいものです。海底の堆積物はほとんどが未固結の泥なので、粉砕などの手間をかけることなく、簡単に抽出できるようです。論文ではその検証されています。薄い硫酸を用いれば、セシウム(Ce)以外のレアアースは、1時間から3時間程度で100%近い回収率になることを示されています。非常に簡単に効率的にレアアースを取り出すことができます。
 海底のどの深さにレアアースが濃集しているかは、コアによってさまざまのようです。表層に濃集しているもの、深部に濃集しているもの、ある層に濃集しているもの、まんべんなく濃集しているものなど、いろいろなパターンがあるようです。
 なぜ、このようなレアアースの濃集が海底の泥にあるのでしょうか。さらになぜ、濃集の規則性がいろいろあるのでしょうか。
 鉄質懸濁物質と沸石の仲間の鉱物(フィリップサイト)に、海水中のレアアースが吸着されたためだと考えられています。海洋底の堆積物は、次々と上に積み重なります。いずれの層もある時点の海底の表層にあったものです。海洋底表層の環境、状況によって、鉄質懸濁物やフィリップサイトの堆積量が変わったと考えられます。風や海流による陸からの供給量の変化、火山活動に変動よる成分量の変化などがあれば、吸着されるレアアースの量は変わってきます。深さ方向の濃集部の違いは、このような堆積状態に影響を受けているのかもしれません。今後の検討課題でしょう。
 堆積物の濃集部がどこにあるかは不規則なので調べてみなければなりません。しかし、堆積物全体を対象にすれば、上記の平均値となる量を回収できるはずです。上記の2つの海域だけで、陸上の埋蔵量の1000倍もあると見積もられています。
 他にも、バナジム(V)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)などのレアメタルも豊富にあることがわかってきました。深海底の堆積物は、レアアースやレアメタルなどの希少元素の大規模な鉱床となりそうです。
 非常に有望な鉱床だと考えられるので、国際的なレアアースの問題もあった後なので、多くのメディアにニュースとして取り上げられました。まだ研究段階なので、まだ課題もいつくかありそうです。それは次回としましょう。
・卒業研究・
今、4年生の卒業論文の構成をチェックしています。
12月の提出に向けて、
今まで積み上げてきた内容のチェックをしています。
まだまだ、論文や研究報告の形にはなっていません。
もちろん、私が担当している学生に
研究者を目指してい人はいませんが、
大学の学びの総まとめとして卒業研究はいい経験だと思います。
大部の報告を作成するという経験は
きっと将来役に立つと思います。
卒業研究が、大学でどんなことを学んだのかを示す時の
一番のものとなって欲しいものです。
そんな思いがどこまで通じるかどうかわかりませんが、
ただひたすら、個別面談に時間を使っています。
一度で終わった学生は一人だけです。
後は、全員やり直しをしてもらっています。
そして成果は上がっています。
暑けれども頑張ってもらっています。
この苦労はきっと役に立つぞ、4年生諸君!!

・夏休み・
いよいよ大学も夏休みになりました。
教員は採点、評価、そして入力作業と
まだいろいろ忙しいのですが、
来週の半ばに2泊3日の家族旅行へ出かけます。
海岸をめぐり磯遊びをする予定です。
台風の影響が気になります。
直撃でなくても、うねりが残りそうな不安があります。
まあ、いってみるしかありません。
昨年は雨に祟られたのですが。
今年こそはという思いもあります。

2011年8月4日木曜日

6_92 海底から:レアアース3

 現在の科学技術において、思わぬところや、新しい素材に、レアアースが使われています。そのようなレアアースがある日突然、なくなったら今までの技術は方向転換しなければなりません。そんな時、朗報がありました。ただし、まだこれからの可能性ですが。

 レアアースは、少ない資源です。なのに重要視されています。そのような利用のされ方をしているのでしょうか。
 レアアースの用途として、古くはライターの火打ち石やテレビのブラウン管に使われてきました。ですから、案外身近なところで利用されていました。ところが、喫煙率の低下や電子ライターの出現、プラズマ・ディスプレイや液晶ディスプレイの発展によって、需要量は変化していきます。
 一方、強力な磁石・磁性体材料、光や光磁気ディスク、蛍光体やレーザーなどにレアアースは使われはじめています。今までにない新しい素材となっています。いずれもICT関係ですが、他にも、水素吸蔵合金(新しいタイプの燃料電池)、光ファイバ増幅器や超伝導材料など、これからのおおいに使われていく素材にも利用されています。どれも、現代の科学技術を考える上で、非常に重要な役割を持っています。
 このような重要素材にレアアースは使われているので、資源が枯渇するなら代替のものを見つけなければなりません。それには新素材や新しい技術を開発することになり、費用も人材もつぎ込まなければなりません。そしてなんといっても、時間的余裕必要です。ある程度の時間があれば、じっくりと開発できます。ところが先日のようには、国際事情である日突然、レアアースの供給が止まってしまうと、日本の工業が生命線を絶たれることになりかねません。とりあえずは、他の国の供給源、複数の供給源を確保することが重要になり、各地でのレアアースの確保が模索されています。
 そこに、新しいタイプのレアアース鉱床が発見されたというニュースが報告されました。発見者は東京大学の加藤泰浩さんたちです。イギリスの科学雑誌「ネイチャー・ジオサイエンス(Nature Geoscience)」の電子版2011年7月4日号に掲載されました。
 この論文は、太平洋の海底の泥から、レアアースが見つかったという報告でした。この論文の重要性は、海底の泥は、無尽蔵ではありませんが、膨大な量あります。これは朗報です。さらに、今までにないタイプの鉱床であることは、科学的な重要性を持ちます。この報告には、他にもいろいろ将来の可能性を感じさせる内容があります。ただし、いずれも実用化はこれからです。その詳細は次回としましょう。

・研究環境・
Natureというイギリスの雑誌は、
科学の世界ではもっとも権威ある雑誌のひとつです。
この雑誌はかつては
Nature一誌しかなかったのですが、
いろいろな姉妹雑誌が出版されてきました。
今回のNature Geoscienceのそのひとつです。
他にも、Natureがつくだけでも20以上の雑誌があります。
それぞれの専門分野に別れて出版されています。
それだけ研究分野も研究者の数も多くなったのでしょう。
また論文の生産量が多くなったこともあるのでしょう。
フォローするものは、どの雑誌を見ればいいのか、
個人で雑誌を多数購入するのはもともと不可能ですし、
大学でも購入雑誌の数には限界があります。
それでも予算のある大きな大学はいいのでしょうが、
小さな大学は情報からも取り残されます。
我が大学では、Nature本誌はありますが、それ以外はありません。
研究環境において、格差がでてきます。
でも、環境や条件に左右されない
普遍的なアイディアや研究もあるはずです。
そして逆境は、なによりモチベーションになります。
これは負け惜しみでしょうか。

・教育・
大学は、今週は定期試験の真っ最中です。
午前中はまだ涼しいのですが、午後は暑いです。
まあ、北海道ですから、本州と比べるとましでしょうが、暑いです。
そんな中でテストを受ける学生はかわいそうです。
しかし、大学の講義が15回+定期試験となると
この日程になってしまいます。
この日程でも、きつきつです。
おかげで補習日が、ほとんど確保されていません。
まあ、補習などしなくてもいいのなら楽なのですが、
今度はFDや大学評価などで、授業保証や学生の満足度など、
昔は聞いたこともなかったことで、締め付けもあります。
いろいろややこしくなっています。
学生も大変、教員も大変です。
12、3回の講義から15回の講義になって、
昔より学生は、高度な内容を理解して卒業しているかというと、
必ずしもそうではありません。
昔の高校生の方がレベルが高いような部分や
高校で学んでおくべきことを大学で肩代わりしていることもあります。
大学が再教育機関であれば問題ないのですが、
これでは教育全体がレベル低下をしていることになります。
なによりモチベーションや目的意識の低下が気になります。
これでは、国民の教育度が低下していくことになります。
大学教育だけが変わってもあまり効果はなさそうです。
もっと抜本的な変化が必要なようです