2016年5月26日木曜日

5_138 太陽系外物質 1:不均質

 ケプラー衛星は、多数の系外惑星の発見で、大きな成果を上げました。その中でも重要なのは、太陽系の形成シナリオも見直しだと、私は考えています。完成していたかに見えたシナリオが、この成果によって御破算になりました。研究者にとっては楽しい時でもあるはずです。

 前にも紹介したのですが、ケプラー衛星は、太陽系外の惑星系、中でも地球型惑星を探すという目的で打ち上げられました。2016年5月11日、NASAは、約15万個の恒星を観測した結果、惑星であることが2325個で確定したことを発表しました。解析が進めば、多分今後も数は増えていくことでしょう。
 ケプラー衛星の示した惑星の姿は、非常に多様なものでした。私たちの太陽系は、もしかすると少数派かもしれないという可能性もでてきました。いずれにしても、私たちの太陽系の形成プロセスも見直す必要がでてきました。その内容については別の機会として、今回は太陽系外からもたらされた物質についてです。
 私たちの太陽系の惑星形成のシナリオは、これから二転三転していくことでしょうが、変えることができない条件(束縛条件と呼ばれます)があります。それは、現在の太陽系で観測される結果がその主なものです。惑星ごとの位置や特徴、または太陽系の化学組成についてもいえることがあります。
 太陽系をつくった物質は、宇宙空間に漂っていたもので、不思議なことなのですがは均されて一定の値を持っていることがわかっています。地球では非常の均質な値を持つことが確かめられています。また地球の岩石だけでなく、月の岩石、隕石や惑星間塵などの分析からも均質性が確かめられています。特に、主要な元素の同位体組成は、極めて一様なことが知られています。同位体組成は非常に有効で、多くの物質で起源の探求に利用されています。
 その均質性の原因は、太陽系形成論の中で説明されるべきです。現在、太陽系形成論の見直しがなされているので、今後どうなるかは予断が許されません。これまで考えられてきたモデルがありますので、その紹介をしましょう。
 太陽系形成の初期には、高温の状態がありました。ほとんどガスでしか存在できないほど高温で、その時、激しく混ぜられる状態があったと考えられています。つまり原子レベルでブレンドおこなわれ、非常に均質になったと考えられています。その均質な太陽系ブレンドのガスが冷えてくると、そこからできる固体物質は、たとえ鉱物ごとに化学組成は違ったものになっていても、同位体組成には違いが生じないということになります。これで、均質性の説明とされています。
 もし均質性をもっている太陽系物質の中で、ある物質だけが不均質な同位体組成を持つものがあったとしたら、どうなるでしょうか。それがどうして形成されたか、あるいはどこから来たかを考える必要があります。通常は均質ですから、惑星や天体内であれば、なにかの特別な作用を想定しなければなりませんし、惑星空間の物質であれば、上のブレンドモデルを変更したり、別のできからを考える必要があります
 最近、いくつかの物資で不均質なものが見つかってきました。まず隕石の中から、そして惑星空間にあった物資からです。隕石の中のものは比較的前から見つかっています。まず、プレソーラーグレインと呼ばれるものと、CAIと呼ばれるものです。最近では無人探査機から得られた惑星空間の粒子でも見つかりました。
 次回から、その概要を紹介していきましょう。

・ライラック・
先日末に、札幌の大通り公園で行われている
ライラック祭りにでかけました。
予想通り、多くの人出でした。
その日は非常にいい天気で、
日向を歩いていると、
暑さでぐったりしてしまうような陽気でした。
街の温度計をみると25℃でした。
北海道の人は、この温度でもぐったりしてしまいます。
疲れて木陰で休む人も多数いました。
木陰に入ると、北海道は湿度が低いので
ひんやりとして気持ちがいい涼しさです。
暑さと涼しさを味わいながら
満開のライラックを楽しみました。

・同窓会・
5月下旬から7月にかけては、
でかけることが多くなります。
今週末は同窓会があり、泊まりとなります。
この同窓会は大学時代の学生寮の集まりで
すべての人が私にとっては40年ぶりの再会になります。
ほとんど姿形がわからない人ばかりになっていることだと思いますが、
会えば懐かしく思い出すことでしょう。
何人か旧友の名前も見かけました。
あまり飲み過ぎないようにしないといけませんが。

2016年5月19日木曜日

3_153 マントルの内部構造 6:現在の課題

 このシリーズでは、従来の考えと新しい考えを合わせて紹介するようにしてきました。新しい考えは最新の根拠に基づいて提案されています。それらはいずれも、実証されて研究者全員の合意を得ているわけではありませんので、別の考えもあります。シリーズの最後に、総合的な現状の課題を紹介しておきましょう。

 地球深部のマントルの内部構造を中心に紹介してきました。その時、従来の考えと、新しい説もいくつか紹介してきました。どの説も一理ありましたが、それぞれに弱点もありそうです。まだまだ地球深部は、情報不足の状態のようです。
 東京工業大学の岩森光さんが、今年、マントルの現状を概観しています。「マントル対流と全地球ダイナミクス」という総説(その分野を総括するような論文)で、現状の課題として、以下の3つを挙げています。
・プレートの実体とその運動の原動力と応力分布
・マントル対流の大局的構造(2層対流か全マントル対流か)
・コアとマントルの相互作用
 一つ目は、今回のシリーズで紹介していないことを述べています。プレートが運動していることは、多数の傍証と実測がされているため検証されています。しかし、地殻からマントルのどこまで移動するプレートなか、海洋プレートではだいぶわかってきているのですが、列島や大陸地域では、必ずしも充分わかっていません。また、プレートがなぜ動いくのか(原動力)ということに関しては、有力な説はありますが、まだ実証はされていません。またプレート内で地域や状態にによって、どのような力かかっているのか(応力分布)も必ずしもよくわかっていません。
 2つ目は、プレートテクトニクスを取り込んだプルームテクトニクスと呼ばれるものがあります。これは今回紹介した、スーパーホットプルームを上昇流とし、コールドプルームを下降流とする大きな対流(全マントル対流)による熱運搬を考えるのがプルームテクトニクスです。プルームテクトニクスはまだ仮説であり、細部には議論の余地があります。その対案として、上部マントルと下部マントルがそれぞれ別の対流をしていると考える2層対流があります。そのどちらかは本当かは、まだ決着を見ていないということです。
 3つ目は、このエッセイでも紹介したのですが、核と、D"や下部マントルは熱のやり取りをしているのはいいのですが、熱以外になにがやり取りをしているのかということです。それを相互作用と呼んでいますが、どのようなことが起こっているのかが、まだわかっていないのです。
 科学者は、基本的に謙虚で慎重です。論文では結論として大胆な仮説を述べることがあります。その仮説が成立するための前提条件や適用の限定は、論文ではしつこく述べています。でも、大胆な仮説だけが一人歩きすることがよくあります。これは科学だけの話ではなく、いろいろなところで起こっている現象ですので、注意が必要となります。

・総説・
金森さんの総説はマントル対流と
そこから導かれる全地球の仕組み(ダイナミクス)
について、まとめられています。
22ページに及ぶ大部の総説です。
いろいろな専門的な議論がなされています。
なかなか参考になります。
総説とは、その分野に詳しい専門家が、
自分の考えより、現状のまとめや課題を整理している論文です。
ですから、総説は非常に役に立つ重要なものとなります。

・ライラック祭り・
北海道の春から初夏を告げる
ライラック祭りがはじまります。
なかなか行く機会がないのですが、
通勤の道にもライラックがあります。
淡い紫の可憐な花だ。
ライラックはリラとも呼ばれ、
北海道ではリラ冷えという言葉があります。
5月下旬でも、時々寒い日があります。
そんな日をリラ冷えといいます。

2016年5月12日木曜日

3_152 マントルの内部構造 5:核

 マントルの内部構造の紹介だったのですが、この際、核も紹介していきます。とはいっても、核はまだわからないことが、多いようです。それでも、新しい仮説は、今も提示されています。

 このシリーズは、マントルの内部構造についての紹介なので、核については書く予定をしていませんでした。しかし、ここまでマントル内部の深い部分までみてきました。前回は、マントルー核境界(CMB)やその直上に存在する謎のD"についても紹介してきました。そうなると、次はどうしても核について知りたくなります。ということで、今回は核の概要を紹介していきましょう。
 残念ながら、核については、マントルの下部よりさらに分からないことも多くなっていきます。深くなると、高温高圧の合成実験も難しくなります。地震波の解像度にも限界があります。そしてなにより、実証がしにくくなります。それでも、新しい仮説は生まれています。
 まず今まで知られている核の概要を、紹介しておきましょう。すでに紹介しましたが、地震波の縦波と横波の伝わり方の違いから、外核が液体で、内核が固体であることがわかっています。地震波の速度から推定される核の物質の密度は、岩石よりずっと大きいものからできています。さらに、隕石と比較から、金属鉄を主としてニッケルを少し含むと考えられています。精度の高い地震波速度の測定から、純粋な鉄ーニッケル合金よりは、密度が小さいことがわかってきました。密度を小さくするための成分として、硫黄や酸素、珪素、水素などが候補になっています。
 外核で、伝導性のある金属鉄が流動するので、電気の流れが生じ、それが磁力を発生していると考えられています。このような仮説を地球ダイナモ理論と呼ばれています。地球では磁力が、昔から常に存在していたことが古地磁気学からわかっています。そのことから、外核は、古くから液体として存在し、継続的に対流していることになります。
 対流の原因は、何度もでてきましたが、熱の放出です。核の熱放出は、当然、マントルを通じておこなわれます。核の熱が、マントル対流の原因ともなります。ただしCMBは物質境界であり、物質移動はほとんどないと考えられています。ですから、CMBでは、熱の受け渡しだけが、おこなわれる境界となります。
 核内とマントル内の熱の運搬は、対流によって起こります。しかし、CMBでは熱だけが受け渡されることになります。ここからが、新しい考えが導入されます。それはプルームテクトニクスです。プルームテクトニクスでは、マントル内の物質の対流は、定常的ではなく間欠的に起こることになります。このCMBの物質の不連続と、マントルの対流運動の不連続性が、なかなか複雑なメカニズムになります。少し説明しましょう。
 核からマントルへの熱の流れは、このシリーズで紹介してきたスーパーホットプルームになります。このプルームは、一度形成されると数千万から1億年のスケールで活動を続けます。一方、核を冷ますためのプロセスは、コールドプルームが担うはずです。コールドプルームも数千万年から億年で、冷たい沈み込んだプレートが、相変化により、遷移帯から落下していきます。
 落ちるコールドプルームから上昇するスーパーホットプルームは、どちらが原因で、どちらが結果かわかりません。しかし、物質の運動が、プルームテクトニクスでは、連続的はなく、間欠的な運動になっているのです。
 さらに、マントル内の遷移帯から落ちてくるコールドプルームは、2000度ほどだと推定されています。通常は4000度ほどあるCMBにおいて、コールドプルームの落下が起こると、大きな温度勾配ができます。この温度差が、外核を冷やしていきます。これが核の対流に、大きな影響を与えているはずです。その影響は、まだ充分観測されていないようです。
 CMBでは、連続的な熱の流れではなく、コールドプルームが温まると対流を起こす効果は減少します。そして新しいコールドプルームが別のところに落ちてくるたびに、核の対流に大きな変化が起こるはずです。
 この複雑さ不規則は、地球表層で地質現象として残っていないのでしょうか。それは、核や古地磁気の観測精度が悪いためでしょうか。それとも、このマントルの熱対流システムと核の関係の理解が、間違っているのでしょうか。まだ謎のままです。

・夏に向かって・
北海道はゴールデンウィークがあけけてから
急に暖かくなりました。
ゴールデンウィークには、少々肌寒い日があると
我が家ではストーブをたいていました。
しかし、今は、もう半袖の学生を見かけます。
うちの次男も、暑い暑いといって
自宅内では、もっと前から半袖と短パンでしたが。
いよいよ、北海道も夏に向かっています。
春の花、新緑と非常にいい季節になっていきます。

・好奇心・
核については、地質学者や岩石学者はあまり口出しできません。
でも、気になるところでもあります。
なぜなら、マントル対流の原因が
核にあることは明らかだからです。
そして、核とマントルの物質のやり取りが
全くないのか、それとも少しでもあるのか。
もしあるとすると、スーパーホットプルームで
どうのような成分として検出できるだろうか。
そんなことを考えてしまいます。
手の届かない深部や、見えないところを
なんとか覗きたいという気持ちが誰にもであるはずです。
深部は、好奇心がくすぐられるテーマでもあります。

2016年5月5日木曜日

3_151 マントルの内部構造 4:D"層

 マントルの底の不思議な層の存在は、地震波のデータから証拠付けられています。その解釈として、前回紹介した説が新しく報告されました。他にも、いろいろな考え、またかつて考えられていた説も否定されたわけではありません。それらの説を概観していきましょう。

 前回は、マントルと核の境界にある不思議な部分に関する、最近の研究成果を紹介しました。それは、マントルの底には、マグマオーシャンの残存物が残っているのではないかという説でした。この説は、昔からある考えに対して、新しい考えとして出されたものでした。このマグマオーシャンの残存物に対しても、別の考えもあります。昔の説、現在の他の説などを、まとめて紹介しましょう。
 核は液体の状態にある金属の鉄で、マントルは固体の岩石のカンラン岩です。その境界は、地球におていは非常の特異なものとなっています。核とマントルの境界は、状態(相)でいうと固体ー液体、物質の化合物でいうと岩石(珪酸化合物物)ー金属、酸化状態でみると酸化物ー還元状態の金属、密度でみると低密度ー高密度、という大きな違いのあり、決して連続しないものです。いろいろな特徴で比べてみても、非常に特異な境界といえます。これらの物質が、接しているのは、非常に奇異な状態です。
 地震波で非常に明瞭な境界となっており、1926年には見つかっています。発見者にちなんで、地震学ではグーテンベルク不連続面(Gutenberg discontinuity)と呼ばれ、地球科学では単に核ーマントル境界の略でCMB(core-mantle boundary)と呼ばれています。
 さて、CMBの境界部でマントルの底にあたるところは、地震波でみると特異な物質、あるいは部分が存在することは、前回も紹介しました。その特徴は、地震波速度が急激に遅くなるということでした。この層は、D"(ディー・ダブルプライム)と呼ばれています。D"は、CMBに全域に存在するものではなく、200km以下の薄い層が、局所的に、特にスーパーホットプルームの周辺に見つかります。このD"をどうとらえるかが問題となります。
 マントル全体はカンラン岩という岩石ですが、マントル下部では主たる鉱物が、ペロブスカイトというものになっています。ところがD"では、もっと高密度の鉱物(ポストペロブスカイト相)ができると考えられています。ポストペロブスカイト相の鉱物は、熱の伝導を効率よくおこなう性質をもっていることが、高温高圧条件での合成実験で確かめられています。ただし、核が高温だった昔は、この鉱物は存在できず、熱放出によって地球がある程度冷めてくると、形成される条件となります。
 さて、地球の温度が下がり、D"にある時期からポストペロブスカイトができると、それまでより核の熱をマントルに伝えやすくなります。その結果、マントル対流がさかんになると考えられます。D"がポストペロブスカイトからできているとなると、このような説も成立するでしょう。
 さらに、そのポストペロブスカイトの材料となったのは、沈み込んだ海洋プレートだと考える研究者もいます。前回紹介したように、マントル下部の一部が溶融していると考える説もありました。液体は地震波の速度を遅くするのでD"の特徴が説明できるというわけです。その説によれば、マグマオーシャンの残存物ではないかという考えでした。さらに別の考えとして、地球初期の大陸物質(変成を受けたアノーソサイトと呼ばれる岩石)が沈んでいるのではないか、と考えている研究者もいます。
 D"の特徴を説明する説については、まさに百花繚乱の状態です。

・休みには・
ゴールデンウィークも、今日で終わります。
皆さんは、金曜日も休みにして、
ゴールデンウィークの後半も
連続した休みとしてお楽しみでしょうか。
私は、野外調査の予定が、熊本地震で中止になったので、
いつものように、自宅と大学の往復をしていました。
ただし、2日だけは、家内と小樽に散策に出かけました。
小樽は、天気は良かったのですが、風が冷たく寒い日でした。
それに平日にもかかわらず。
かなりの人出で賑わっていました。
それ以外は、のんびりと研究三昧をして過ごしました。
連休は、研究室にこもっていたことになります。
いつもと同じ状態に見えますが、
私自身の気持ちとしては、自分の好きな研究に、
何事にも煩わされることなく、没頭できるので
満足感は大きなものとなります。

・異質な境界・
CMBは、非常に異質な境界でした。
しかし、大きな異質な境界が
身近にあるのに気づいているでしょうか。
それは、大気と大地の境界、大気の海洋の境界です。
物質的には非常に大きな違いがあります。
前者は気体ー固体境界、
後者は気体ー液体境界になります。
私たちは、今、前者で生きていますが、
かつては液体の中から誕生し、進化してきました。
これらの境界は、あまりに当たり前の存在なので、
私たちは気にならないようになっていますが。