2013年9月26日木曜日

2_118 火星生命 3:微量元素

 このシリーズは、前回エッセイで終わるつもりでしたが、火星生命について別の報告があったことを知りました。いいチャンスなので、続きで紹介していきます。そして、これらから導かれる仮説は、少々受け入れがたいものになりそうです。まあ、順を追って紹介していきましょう。

 火星が生命誕生において、地球より有利であった理由は、リンが地球より豊富に供給されていた可能性があった点でした。もうひとつ重要な報告がありました。それは、生命誕生に必要な微量成分が、地球より火星に豊富であった点です。
 これは、アメリカのベナー(Steven Benner)が、地球化学の国際会議(ゴルトシュミット・カンファレンス)にて、8月29日の基調講演で述べた意見でした。
 微量成分とはホウ素(元素記号 B)やモリブデン(Mo)のことです。
 ホウ素は、身近によく使われている元素です。ただし。化合物として使われることが多く、ホウ酸として目薬や鼻スプレー、うがい薬なので利用されています。
 このホウ素は、RNA(リボ核酸)の維持に不可欠な役割を果たしているようなのです。生命の誕生の過程において、RNAは、DNAやタンパク質とともに重要な成分となっています。生命誕生の場は、海の中だと考えられています。ところが、RNAを水の中で合成をしようすると、できてもすぐに分解されてしまいます。つまり、地球ではRNAが安定に存在できないのです。
 ベナーは、長年の研究によって、ホウ素があるとRNAの分解が抑えられることを示しました。ところが、初期地球の表層にはホウ素がほとんどないと考えられています。となると、RNAはどうして形成されたのかという問題が生じます。
 モリブデンは、生体の必須元素となっていて、尿酸形成、造血作用、銅の排泄などに重要な役割を果たしています。生命にとって大切なことは、窒素を固定するのに必要な酵素(ニトロゲナーゼなど)には、モリブデンを含ものが多数あります。これらの酵素は、大気中にふんだんにある窒素をアンモニアに変える反応の触媒となっています。
 生命活動に必要な無機的な窒素を、生命が使えるようにするための酵素があり、その酵素にはモリブデンが不可欠な微量成分となっています。さらに、RNAのリボースの結合にも、酸化されたモリブデンが必要であることを、ベナーは確認しています。ところが、モリブデンもホウ素同様、地球初期にはほとんどなかったされています。
 ホウ素もモリブデンも、天体では微量元素ですが、生命誕生そして生命維持には、不可欠な元素であったはずなのに、初期の地球にはほとんどなかったのです。なのに、地球は生命にあふれています。パラドクスです。
 パラドクスを解く鍵は、火星にありました。火星から飛来した隕石に、ホウ素が含まれていることがわかっています。また、火星探査車キュリオシティが、もともと湖底であったところをドリルで掘ったら、そこにはホウ素やモリブデンが存在していたこと確認されているそうです。
 以上のことから、火星の方が生命が誕生しやすかったことになります。この意味するところは、なんでしょうか。パラドクスはどう解けるのでしょうか。それは、次回としましょう。

・調査短縮・
先週、なんとか時間ととって調査に行ってきました。
しかし、出発に日に台風17号の直撃を受けて、
出発が2日間遅れました。
帰ってくる日付が決まっていたので、
調査の日程を短縮することになりました。
4泊5日の調査でしたが、
移動で飛行機の乗り継ぎをしなけばならなかったのと
荷物を事前に送っていたので、
その宿に行かなければならなかったので
正味2日間が調査の日程となりました。
ですから限られた場所に限定して、
必ず目的を果たすという決意で向かいました。
その結果は別の機会に。

・後期のスタート・
我が大学では、今週から
後期の授業が始まりました。
はじめの講義は、何年たっても
緊張感があり、気が重いものです。
そして、馴れる頃にも、
講義の準備に追われることになります。
また、愚痴がでてきそうです。
せっかく野外調査でリフレッシュしたのですから、
気持ちよく日々を送りたいものです。

2013年9月19日木曜日

2_117 火星生命 2:パラドクス

 初期の火星は、地球より誕生しやすい条件がありました。地球には生命が現在も多種多様に存在しますが、火星ではまだ発見できいません。これはパラドクスといえます。このパラドクスは、どのようにして解決されるのでしょうか。

 火星に関する重要なニュースは、2013年9月2日付のNature Geoscience(電子版)に掲載されたアドコックたち(C. T. Adcock, E. M. Hausrath & P. M. Forster)の論文で、
Readily available phosphate from minerals in early aqueous environments on Mars
(火星で初期に水のある環境では鉱物からのリンが容易に利用可能)
というものです。
 地球型生命にとって、リンはリン酸として遺伝情報の中心となるDNAやエネルギー源となる成分(ATP)、リン脂質として細胞膜などとして、必要不可欠な元素です。ところが、現在の地球表層には、それほど多くない成分でもあり、生命はその確保には苦労しています。リンは地表にはあまり存在せずに、まれな鉱物として岩石に少しだけ含まれているものです。リンを含む鉱物は、地球では頑丈で、なかなか水には溶けず、限られた少ない資源でもありました。
 ところが火星では、リンが比較的簡単に手に入る環境であったと報告したのが上記の論文だったのです。火星の初期には地球と同じように海や河川があったことが、今まで探査から明らかになっています。また火星からの隕石や、今まで火星探査の成果から、火星表層にあるリンを含む鉱物の推定できます。
 リンを含む鉱物の水への溶解度を、火星の環境を想定した実験で調べた結果が報告されています。その実験によると、火星では、リンの放出速度は地球と比べて45倍も速く、リン酸の濃度も地球より2倍あったと推定されています。
 もしこの実験通りの環境であれば、火星は地球より、生命誕生の場としては、適していたことになります。地球の方が生命誕生の場としては不利であったことになります。なのに、地球には生命があふれ、火星ではまだ確認されていないという事実があります。これは、パラドクスです。
 このパラドクスの答えとして、火星には初期の頃に生命が誕生したが今はいない、あるいは今も生命が水のある付近に潜んでいるというものです。
 フェニックスやオポチュニティがそんな候補地を探しているのですが、今のところ見つかっていません。もっと前の探査から現在までの探査で、火星の表面に生命が簡単に見つかるほどはいないことは確認されています。火星に生命がいるとしても、地下の水のある付近や極地の氷のある付近など、探しにくく、見つけにくいところだと考えられます。今後も探査は続くでしょう。存在の証明はたった1つの証拠でできますが、不在の証明は非常に難しいものです。努力は継続する必要があります。
 もう一つのパラドクスの答えして、火星では当然のように生命は生まれ、その生命が隕石とともに、地球にやってきたと考えることも可能でしょう。火星が過酷な環境になったので、生命は絶滅したか、見つかりにくいところに特別な環境に逃げ込んで細々と生きているのかもしれません。もしこのシナリオなら、私たち地球生命は火星生命の末裔となります。私たちのふるさとは火星になります。人類が火星に興味を持つのは、そんな血のなせることなのかもしれませんね。

・リンのリンク・
以前、私は火成岩の分析していました。
リンは、私の利用していた分析装置では
比較的精度よく測定できる元素でした。
しかし火成岩には量が少ないので、
どうしても測定値の精度があまりよくはありません。
もし精度を上げたとしても、
そのデータをどう利用すればいいのかも
わかっていませんでした。
地球においてリンが、
どのような化学的意味を持つかが
なかなかつかめなかったのです。
地球においてリンがどんな履歴を持ち
どのような挙動をするのかという
地球学的意義が充分解明されていないためでした。
一方、生命では、リンは非常に重要な
元素であることはわかっていました。
生命の誕生には欠かせない元素でありながら、
惑星や岩石のような無機物と生命の間には
リンクが不明でした。
今回のような研究がその溝を埋めていくのでしょう。

・調査・
このエッセイが発行される頃には
私は和歌山の調査に出ています。
エッセイは、予約して発信しています。
16日に北海道を発って、21日まで調査をして帰ります。
23日には大学の講義がはじまりますので
ぎりぎりの日程調整をして調査をしています。
天気が心配ですが、それは詮なきことです。
どんな天気であろうが、
体力の続く限り調査をしてくるつもりです。

2013年9月12日木曜日

2_116 火星生命 1:身近な惑星

 火星には、生命の可能性が秘められています。今のところは、残念ながら生命の痕跡で確実なものは見つかっていません。しかし、可能性を感じさせるものが、次々と発見されています。そんな可能性を感じささせる最新の発見を紹介します。

 火星が地球の隣の惑星で、身近に感じるからでしょうか。金星が厚い雲に覆われた過酷な灼熱の惑星あるのに対して、火星には海や水の痕跡があり、現在も地下や極地には水や氷があることがわかっています。人類にとって火星は、生命の誕生の場、地球外生物の可能性、あるいは地球の生命の故郷として、非常に興味を惹かれる天体です。
 「火星隕石から化石の発見」というニュースが、1996年の夏に流れました。その化石に関して、いろいろ検討された結果、どうも化石ではなさそうだという結論になているようです。ただし、発見者たちは化石であるとして、その後も証拠を提示していますが、他の研究者にはあまり受け入れられていなようです。
 化石は、隕石を用いた研究ですが、火星の生命探しは長らくなされています。現在でも、アメリが合衆国が中心になって、火星の探査は継続されています。主な火星の生命探査の話を紹介していきましょう。火星探査の歴史が近年の探査の概要ともなります。
 「化石発見」の直後、1996年11月7日に打ち上げられたマーズ・グローバル・サーベイヤーは、1997年に火星に到着し、火星を周回して、詳細な地形データをとりました。この地形データが、火星を探査するための基礎情報となり、厳密な調査計画をたてることができるようになりました。
 1997年にはマーズ・パスファインダーが、火星にバルーンを用いた軟着陸をし、ソジャーナと呼ばれる探査ロボットが、2ヶ月間動きまわって調査をしました。手軽に着陸する試みで、今回はかろうじてうまくいきましたが、少々乱暴だったので、その後は利用されていません。
 2004年1月には、火星探査車スピリットとオポチュニティが着陸に成功しました。火星での水の痕跡を探索することが目的で、達成しました。スピリットは2011年4月で活動を停止しました。一方、オポチュニティは予想以上の耐久性を示して、2013年6月末には走行距離が37kmを越え、現在も観測を継続中です。火星でも長期の観測が、太陽パネルによる発電で可能なことを証明しました。
 2008年5月にフェニックスが火星の北極地域に着陸しましたが、寒さのためバッテリーが故障して活動を停止しました。
 2012年8月6日には大型のキュリオシティが着陸しました。キュリオシティには、多くの種類の観測装置を積んでいて、小型ですが最新実験室ともいえる重装備です。いろいろな調査や分析ができ、現在も調査中です。
 現在、困難は伴うでしょうが、火星への友人探査も真剣に検討されるようになってきました。
 先日(2013年9月2日)の科学雑誌(Nature Geoscience)に、重要な論文が掲載されました。それは、火星は生命誕生には、非常に都合がいい環境であったという報告でした。詳細は次回にしましょう。

・耐久性・
オポチュニティは現在も観測をしており、
毎週その成果が報告されています。
http://marsrovers.jpl.nasa.gov/mission/status.html#opportunity
2013年8月28日から9月03日の報告では、
レーターの縁にある崖(岩石露頭)を調べています。
「石炭島」と名付けられたところで、
ロボットアームやマルチスペクトル・パノラマ・カメラなどを使って
調査を始めているそうです。
もともと想定されていた92日間の運用を遥かに越えて
今日(9月12日)で3518日になります。
40倍以上も上回って稼働しています。
調査を続けています。
太陽パネルの性能が上がってきているのでしょう。

・秋を味わう・
北海道は9月になり、一気に秋めていきました。
天気のいい日は、
心地よい抜けるような青空になります。
日差しはまだ強いですが、湿度も下がり、
北海道らしい天気になりました。
しかし、秋は冬の前触れでもあります。
暑かった夏がそのうち懐かしく思えるのでしょうが、
秋の快適さを、今は味わっていきましょう。

2013年9月5日木曜日

6_116 ボイジャー 2:磁気ハイウェイ

 ボイジャー1号は、現在磁気ハイウェイを通過中です。しかし、この磁気ハイウェイはどれくらいの広さあるのかは、わかっていません。なぜなら、今回、ボイジャー1号が、はじめて発見したものだからです。

 前回、ボイジャーの経歴を概観し、そのタフさを紹介しました。そのタフさが功を奏して、重要なデータを送ってきました。それがニュースとして、12月に報道され、6月にサイエンス誌のその研究成果が、3つの論文として報告されました。
 ボイジャー1号が、186億kmの彼方から送ってきたデータは、太陽圏の端に関するデータでした。太陽圏とは、太陽の影響を受ける範囲のことで、影響の対象を何にするかによって、範囲がかわってきます。現在、太陽の影響として、3つのものが考えられています。太陽から放出される荷電粒子と磁場、さらに宇宙から(起源は不明)の宇宙線です。
 今回の報告は、太陽からの荷電粒子の減少と、宇宙線の量が増えたという観測データが得られました。太陽から放出された荷電粒子が届く範囲を越えて、宇宙線の届く星間空間に出たことになります。荷電粒子を太陽からの物質としてとらえると、太陽の勢力が及ぶ範囲を抜け出たことを意味します。人類が作ったもので、はじめて太陽系を離れといえます。
 ただし、磁場の変化は、まだ見られません。太陽は強い磁場をもっています。その磁場の及ぶ範囲は、磁界が揃っています。もし、太陽からの磁場の範囲を抜けると、磁界の向きに変化が起こると考えられています。その変化はまだ観測されていません。磁場は、太陽の影響や環境を意味します。ですから、現在ボイジャー1号がいるところは、磁場は太陽から影響下にあることになります。
 太陽から磁場の影響下にあるのですが、太陽からの荷電粒子がなくなり、強力な宇宙線が飛び交うところにいます。このようなところを、「磁気ハイウェイ」と呼ばれています。太陽の磁場の影響はあるのですが、急激にスピードの早い粒子がばらばらの方向に飛び交うところという意味です。
 「磁気ハイウェイ」を抜けると、そこは太陽の影響の及ばない、星間空間となります。「磁気ハイウェイ」はどれくらいの範囲に及ぶのかは、まだ不明です。つまり、ボイジャー1号がいつ太陽圏を脱するのかも、まだわからないということです。
 「磁気ハイウェイ」は、今回新しくわかったもので、今までこのようなところが存在するということは、予想されていませんでした。今考えると、太陽からの荷電粒子と磁気が、同じところで消えることはないはずです。ずれているとすれば、どちらか一方の影響のない状態が出現することは、容易に想像できます。後付けの考えですが。
 太陽圏を抜けだしたときには、太陽以外の恒星から荷電粒子や星間物質、あるいは磁場が観測される可能性があります。そうなれば、光や電波などの電磁波以外で、はじめての他の天体の存在を「見る」ことになります。それは、どんな天体でしょう。
 科学はすべてを明らかにしているわけではありません。ですから、ボイジャーのように先入観のない、地道な観測によって、新しい発見があるということは、なかなか教訓的でいいのではないでしょうか。

・秋・
北海道は9月になって、
一気に秋めいてきました。
まだ、動くと汗をかきますが、
じっとしている分には
涼しくなってきました。
紅葉にはまだ少し早いですが、
今年の夏の暑さを考えると
一息ついた感じがします。
でも、北海道の秋は短いので、
すぐに冬が来ると思うと、
秋の寂しさもひとしおです。

・腰痛・
このところ週末の出張が続きます。
校務自体はそれほど長い時間を
要するものではないのですが、
何分北海道は広いので、
移動に時間がかかります。
そのため、前泊して校務に備えることになります。
また帰るのも行きと同じ時間が必要です。
先日の釧路への移動は
行きのJRで、腰が痛くなります。
帯広での校務をして1泊で
移動は貸し切りバスなので
1時間ほどの休憩をとってくれるので
腰の痛みは悪化しなかったので助かりました。
運動不足とともに、年齢による衰えものあるでしょう。
移動が苦になってきました。
今週末は青森です。