2016年4月28日木曜日

3_150 マントルの内部構造 3:暗いマントル

 地球深部は、謎、多きところです。深部の概略はわかっているのですが、本当の姿、確かな実態は、定かには見えていません。でも、かすかな手がかりをもとに、最新の技術と知恵を使って、研究は進められています。

 マントルは半径で、地球の半分以上を占めていることになります。私たちは、地球の表層からしか、内部を探ることができません。深部になればなるほど、その実態は不確かになります。ですから、マントル下部や核については、地震波の分解能は、あまりよくありません。正確にはわからないことが、多々あります。しかし、研究の進展はあります。
 前回紹介したコールドプルームとスーパーホットプルームは、地震波でその存在は見えてきています。ただしプルームの動きは非常に遅いので、運動自体は見えているわけではありません。
 遷移帯に留まるコールドプルームと、その下には核の直上にコールドプルームが見えています。このような分布から、断続的にコールドプルームが落ちていると推定されます。また、スーパーホットプルームでも似たような状況がみえます。以上の推定から、対流の運動自体は捉えてないのですが、プルームによるマントル対流のモデルには、それなりの説得力があるようにみえます。
 スーパーホットプルームの周囲に、少々不思議な部分があることが、地震波からわかっていました。スーパーホットプルームのある南太平洋とアフリカ大陸の真下に、核との境界、つまり下部マントルの底に、地震波速度が異常に遅くなっている領域が、小さいのですが存在することが観測からわかってきました。
 その部分が何かということは、これまでよくわかっていなませんでした。東北大の村上元彦准教授らは、2014年「Nature Communications」誌で、実験によって、ある可能性を提示しました。ダイヤモンドアンビルとレーザーを利用した高温高圧発生する装置でマントルの底の条件を生み出します。その高温高圧の状態のまま、Spring-8(大型放射光施設)でその場、観測をしました。高温高圧にした物質は、マントル底部に存在する可能性がある重いマグマを想定した成分でした。その成分を、下部マントルの底に条件して調べたものです。
 すると、深くなるとともに、試料の色が「暗く」なっていきました。試料の色が「暗く」なるのというは、圧力とともに鉄の電子状態が変化するためだと、村上さんたちは推定しました。
 暗くなると、熱は伝わりにくくなります。周囲のマントル物質より5~25倍も熱を伝えにくい(熱伝導度が小さい)ことを示しました。その結果、そのようなマグマが少量でもあれば、核からの熱を伝えにくい部分ができ、熱の不均衡が生じ、周辺や隙間から熱が出ていこうとします。それが、スーパーホットプルームの上昇流を生んでいると考えました。
 そして、この重いマグマ(液体)は、地球創世時代の表層を覆っていたマグマオーシャンの名残だというのです。ここ以外のマグマオーシャンはすべて固まってしまったのですが、その名残がまだ固結せずに、残っているのではないかという前提で、村上さんたちは実験を行いました。
 さて、まだこれは仮説です。実験に用いた物質も、想定されたもので、確証のあるものはありません。他の可能性もあるかもしれません。いろいろと実験や観察技術は進んできているので、マントルの底まで見られる状態に近づいてきました。しかし、その可能性を検証するための地震波のデータが、まだ精度が足りないようです。現在のように進んだ科学技術を持ってしても、まだまだわからないことだらけなのです。地球は、それほど大きいということでしょう。

・アイディアの実証・
マグマオーシャンの名残とは
なかなか魅力ある考え方です。
この異常に地震波の遅い領域を
単に何らの物質が溶融して
重たいマグマできていると考えることもできます。
これが一番単純な考え方ではないでしょうか。
いろいろな自由なアイディアを出して、
それを検証していくことができれば楽しいのですが、
実験や観察には、大きな、あるいは高価な装置が必要になり、
誰にでもできるわけはありません。
一部の限られた実績のある研究者だけができます。
そんな研究者に期待したいものです。

・研究を進めよう・
いよいよ世間はゴールデンウィークになります。
私も少し休むつもりですが、
校務が忙しくて、これまで研究ができずに、
少々ストレスが溜まってきています。
熊本への地質調査もキャンセルとなりました。
ですから今年のゴールデンウィークは
たっぷりと自分の時間ができました。
この間にしっかりと研究を進めたいと思います。

2016年4月21日木曜日

3_149 マントルの内部構造 2:スーパーホットプルーム

 地球内部にはマントル対流があります。かつては仮説だったのですが、現在ではその実態をみることができるようになってきました。明らかになってきたマントル対流は、私たちが日常目にしている単純な対流ではないことが、わかってきました。

 地球深部を直接掘って調べることはできないので、地震波や合成実験など間接的な方法で探求していことになります。それでも、科学者のたゆみなき努力やさまざまな工夫、地震計、実験装置、解析用のコンピュータなどの技術の向上により、地球深部の実態が少しずつ解明されてきています。
 地球内部の運動として重要な仕組みは、マントル対流です。マントル対流が、プレートテクトニクスの原動力となっています。プレートテクトニクスとは、大地の変動を起こしているもので、10数枚の硬い岩盤からなるプレートが移動することで、大地の営み(地質現象、地形形成など)を起こすメカニズムです。しかし、対流とはいっても、私たちが日ごろ目にしている水が温まるときに起こる対流よりは、もっと長い時間をかけて移動する、そしてより複雑な対流となっていることがわかってきました。
 マントル対流の基本は、中央海嶺で形成された海洋プレートが、海底下で冷やされて重くなり、海溝で沈み込みマントルにどもっていきます。沈み込んだ物質の反動として、下部マントルの底から、温かく、軽いマントル物質が上昇していきます。この物質循環が、対流となります。
 さらに、冷たいマントル物質が地球内部に戻りマントルや核を冷やし、温かいものが地球外部に移動して、熱を地球表層から宇宙空間へと放出していきます。マントル対流は、地球の冷却過程を見ていることにもなります。このような地球内部の熱の放出とマントル物質の循環を、マントル対流と呼んでいることになります。マントル対流の原理は、わかりやすいものです。
 マントル対流の下降流は、沈み込んだ冷たいプレートの集合体として地震波では見えています。同じマントルの岩石でも、温度差があると地震波の速度に違いが現れ、検出できるようになってきました。冷たいプレートは遷移帯でとどまり、しばらくすると落ちていくことが見えています。この冷たいマントル物質の下降流をコールドプルームと呼んでいます。
 また、上昇流も地震波でとらえられています。その上昇流の形は、下部マントル内をキノコ状になって遷移帯まで上がっていきます。そのような上昇流をスーパーホットプルームと呼んでいます。スーパーホットプルームは、地震波の観測により、南太平洋とアフリカ大陸の下に存在することがわかってきています。
 遷移帯から先は、カーテン状や小さいプルームとして、上部マントルからプレート下部まで上昇していきます。それが海嶺やハワイの長期にわたる火山群(ホットスポットと呼ばれています)、あるいは巨大な火山活動(デカン高原やコロンビア川沿い、シベリアなどの大規模な火山活動)の原因となっています。スパーホットプルームのうち海嶺の火山活動が、海洋プレートの始まりとなります。
 コールドプルームもスーパーホットプルームも連続的な対流ではなく、ある時期に間欠的に落下、上昇をし、その影響は長期間にわかって継続するという現象です。地球時間で見ると、これをマントル対流としてとらえることができるわけです。
 しかし、どこから、なぜ上昇流が発生するのか、その上昇流はどのような物質なのか、などの実態は必ずしもよくわかっていませんでした。その解明が現在進められて、新しいこともわかりつつあります。

・熊本地震・
14日から16日を中心に
熊本から大分にかけて発生した地震は、
大きな被害を与えました。
2011年の東日本大震災とくらべる
津波の発生がないのがまだ救いですが、
これから雨や梅雨の季節にむかっているので
水や地すべりなどの災害も心配です。
まだ、発生直後の混乱が続いていると思いますが、
被災された方へお見舞いを申し上げます。

・野外調査のキャンセル・
私は、夜早く寝て、朝もニュースを見ずに大学にでます。
今回のニュースは、15日の昼頃、
ネットのニュースをみて初めて知りました。
その後、いろいろ情報を見るようにしてきました。
実は、私はゴールデンウィークの6日間、
熊本から大分にかけて、野外調査をする予定でいました。
もちろん、すべての手配を終えていました。
今回の地震発生域の断層付近に分布する
地層の中の層状チャートを調査していく予定でした。
ニュースをみて、調査どころでないので、
月曜日にはすべてをキャンセルしました。
一日も早い復興を願っています。

2016年4月14日木曜日

3_148 マントルの内部構造 1:覗く技術

 宇宙の探査は宇宙望遠鏡、地上でも高性能の望遠鏡などが開発され、遠くを、広くを、詳細に観測できるようになっています。その成果はニュースとしてよく目にします。地球内部の成果は地味なのでしょうか、ニュースになる頻度が少ないような気がします。しかし、技術は確実に進歩しています。

 地球内部の構造は、研究が進むとともに、より詳しくわかるようになってきた。地球深部を掘って直接調べるという方法は今でも重要なですが、まだ10kmほどで、地球の6,400kmの半径に比べると、ほんの一部にしか達していません。地球内部を探査するときの主要な手段は地震波です。ほかにも地域ごとの重力の差、地磁気、熱流量、地震の影響による地球自身の振動(地球振動)や、合成実験によるものなど、いろいろな方法で探査されています。それぞれ一長一短があります。
 地震波は、文字通り、地震の振動を利用して探査する方法です。地震は自然現象なので、いつどこで起こるかがわからない現象を利用しているという欠点があります。大きな地震が時々しか起こりませんが、小さな地震は多数起こりますので補えます。地震波の長所は、地球深部を通ってくる経路がわかっているので、他の方法より地球深部を正確に探査することができます。さらに、地震波には、いくつかの波の成分があり、それぞれが地球内部の違う性質の検出に利用できます。
 地震計の感度の向上と、観測データのネットワーク化や地震波解析にコンピュータの導入などにより、マントルの内部構造が3次元的に、より詳しくわかってくるようになってきました。これらの技術は日々進歩していますので、解析精度は向上し、内部構造もより詳しくわかってきています。
 地球内部の概要は、表層5~70km(海洋域で薄く、大陸域で厚い)の岩石でできた地殻が、その下には地殻より密度の大きな岩石からできたマントルがあり、最深部には鉄でできた核(コア)があることがわかりました。また、地震波の性質から、核の鉄には溶けた鉄の外核と固体の鉄の内核に分かれていることもわかってきました。
 マントル内の構造は、410kmより浅い部分が上部マントル、410から660kmまでは遷移帯となり、660kmから核の境界の2900kmまでは下部マントルに区分できることわかってきました。
 マントル内のそれぞれの物質の様子の違いを検証する方法として、高温高圧実験が有効になります。実験室の装置で、想定されるマントルの物質を、調べたいマントルの部分の温度圧力条件を発生させ、その条件での物質合成をします。その結果、どのような結晶か、どんな性質を持っているのかなどを調べるものです。以前は装置から取り出していましたが、今では、高温高圧の条件に置いたまま調べる方法もあります。
 地震波によって限定されたマントルの条件が重要になってきます。また、高温高圧実験の結果が、地震波の解析にフィードバックされ、解析の精度をより向上させることにもなります。
 そのような研究の結果、マントル対流の実態やマントルと核の境界の詳細などもわかるようになってきました。その概要は次回からとしましょう。

・新陳代謝・
いよいよ大学の講義も本格的にはじまりました。
大学の日常になりました。
しかし、学生は、毎年新しく加わり卒業してきます。
新陳代謝をしているのです。
これが大学の一番の特徴です。
そして卒業生は社会へと羽ばたきます。
今は新入生と在学生に集中しています。
教職員の新陳代謝は少ないですが。

・海洋調査船・
海洋調査船「ちきゅう」は最新鋭のものです。
正式には、地球深部探査船というそうです。
実験室も完備されていて、
一流の研究装置、スタッフなど
充実した環境が整えられています。
残念ながら、私は「ちきゅう」には乗ったことがありません。
大学院時代に、別の調査船には1ヶ月ほど乗船したことがあります。
その間は、研究に没頭できますが、
生活のスケジュールはなかなかハードでした。
でも、乗船中は非常に充実した時間となります。
これは、今も変わらないことだと思います。
私は、今では地質研究の最先端からは引退していますので
もう乗れませんがね。

2016年4月7日木曜日

5_137 ケプラー衛星 3:課題

 ケプラー衛星は、姿勢制御装置の故障があったのですが、アイディアで克服しました。その結果、現在も観測を続けています。衛星の成果により、私たちの太陽系形成のモデルの変更が迫まられています。

 ケプラー衛星は、2009年3月6日に打ち上げられました。これまで述べてきたように、太陽系外の惑星系、それも地球型惑星を探すという目的でした。そして、約15万個の恒星を観測し、1000個以上の太陽系外惑星を発見し、地球型惑星や、ハビタブルゾーンにある惑星も発見しました。
 ところが、2013年8月15日には望遠鏡の位置を調整する4つの装置(姿勢制御用ホイール)のうち、2つが壊れてしまいました。いろいろな試みがなされたのですが、修理は不可能でした。しかし、ホイールの故障であって、望遠鏡や本体の故障ではありません。もったいない話です。しかし、観測において、姿勢制御できないのは、致命的な故障でもありました。
 そこで、いろいろなアイディアを募って、「K2ミッション」を行うことが決定されました。K2ミッションとは、太陽光パネルに光をあてることにより、その圧力で3つ目のホイールの代わりに制御用に利用する、というアイディアでした。K2ミッションを行えば、壊れたものが補われることがわかり、なんとか観測が再開されました。運用はうまくいっており、新たな地球型惑星も発見でき、現在もケプラー衛星は働いています。
 ケプラー衛星のミッション以外でも、太陽系外の惑星は、発見されていました。その数は約800個ほどでした。ところが、ケプラー衛星の成果は、約1000個という太陽系外惑星の発見でした。倍以上の惑星の情報が、手に入ったのです。
 その結果、私の太陽系は必ずしも典型的なものではないこと、言い方をかえると、惑星系は多様だということがわかってきました。
 太陽系外惑星の発見までは、私たちの惑星系が典型的なものとして、太陽系形成のモデルが作成されてきました。いろいろなモデルの中で、私たちの太陽系が形成できるモデルだけが、正しいものとして作り上げられてきました。
 現状では、ケプラー衛星の観測結果には、観測限界によるフィルターがかかっているはずです。それにしても、地球型惑星もハビタブルゾーンの惑星も、それほど普遍的なものではないことがわかってきました。想像を越えるような惑星系も多数発見されてきました。
 ケプラー衛星の観測結果は、惑星系の形成モデルを、大きく考え方を変える必要を迫ってきました。この考え方の変更こそが、ケプラー衛星の一番の功績ではないかと、私は思います。ケプラー衛星からの課題ですね。この課題は、いつ解けるでしょうか。

・新入生・
4月1日に新入生を迎えました。
1週間で、何度か顔を合わせ、
挨拶をして、少しずつ面識ができてきました。
1年生同士では、かなり仲良くなってきた学生も
すでにでてきているようです。
なかには、背伸びしている学生、
少々調子に乗りすぎている学生、
自分の居場所を探している学生、
たんたんとマイペースの学生、
あるいはこの機会に再出発を考えている学生もいるでしょう。
リーダーシップを取れそうが学生もいます。
人それぞれ、毎年ごとに、それぞれの個性があります。
それを早く見分けかなればならないのですが。

・4年生・
4月早々、土、日曜日も使って、
新4年生のための集中講義がありました。
実習のための事前の講義でした。
かなりのストレスであったが
全員なんと乗り越えられました。
到達点は、人それぞれだが、
明らかに、この集中講義で成長できました。
目つきや表情をみているだけで
その成長ぶりがわかります。
その変化が、教える側の大きな楽しみです。