2018年1月25日木曜日

6_151 重さの単位 3:ケイ素の真球

 重さは、なかなか厄介な単位でが、これまでキログラム原器を、なんとか使ってきました。しかし、新しい重さの単位への期待も高まります。新たに正確に決める方法は、これまでのすべての技術の集大成となります。

 現在の質量の単位は、正確にはかったオモリを基準したものです。でも、これはいろいろな問題があることを、前回までのエッセイで紹介しました。科学者たちも、この状態は十分に理解していてて、新たな方法を模索しています。
 他の方法もいろいろ考えられますが、かなり高度な技術が必要になります。安定した元素を基準にするのは、いい考えです。現在、元素一個を操作する技術はあります。しかし、1つの元素の質量を正確に測定する技術はありません
 ある一定量の元素を集めて、その数を正確に数えることができれば、理想の質量の単位にできるはずです。この方法は、原子量と1molを基準にすることで、今までのものとは全く違った考え方になります。
 原子量とは、相対的に決めた原子の質量です。どれかの元素を基準にして、その比率とります。例えば、水素は原子量が1とすれば、炭素は12となります。ただしこれは比率なので、質量にするには、原子をアボガドロ数(6.02214179×10^23)個、集めれ、1molとすれば質量になります。水素1molなら1g、炭素1molであれば12gとなります。同位体がある場合は、その比が正確にわかっていれば、補正は可能です。
 しかし、原子を10の23乗個分、正確に集めたり、その数を正確に数えるのは不可能です。そこで、体積から正確な元素の数を推定し、mol数を決めていきば、質量の基準になるという方法が考えられます。
 体積は、正確な長さの測定さえできれば、長さの精度に応じて決めることができます。ただし、正確な形状をつくって、体積から元素の数を正確に計算できる状態(物質状態)をつくっておく必要があります。
 基準とするには、ひとつ元素からできた均質な物質が必要です。さらに、元素の数を正確に決めるためには、原子が規則正しく並んでいる結晶、それも単結晶が理想的です。単結晶であれば、体積から元素の数を正確に見積もることができます。
 今回、報告されたのは、産業技術総合研究所の工学計測標準研究部門と同部門の質量標準研究グループ、物質計測標準研究部門、表面・ナノ分析研究グループが共同でおこなった研究の成果です。
 元素として、ケイ素(シリコン、Si)が用いられました。ケイ素は、原子番号14です。地殻中に多く、元素としても安定しています。自然界では、同位体として質量数28が92.18%、29が4.71%、30が3.12%という比率になっています。
 半導体物質としても利用されているため、既存の技術が応用できます。現在、純度としては、99.9999999999999%(15・9(Nine)が15個並ぶ)まで高める技術があります。今回の測定では、質量数28のケイ素だけを99.99%まで濃縮して、単結晶がつくられました。
 ケイ素の単結晶の形状を、真球にしています。その真球の凹凸が、正確に測定されました。その精度と結果は、次回としましょう。

・後期の講義の終了・
大学の後期の講義が全て終わり、
定期試験が始まりました。
学科では、卒業研究の報告会もありました。
今週は、校務の会議や打ち合わせ、
出張などがいろいろ校務が入り、
なかなか忙しい一週間となります。
でも、講義の負担がへることは
精神的にだいぶ楽になります。
隙間時間ではなく、集中して研究に没頭できます。
そんな貴重な日が2月ほど続きます。
今から、ワクワクしています。

・大学4年生の心は・
大学の後期の授業が終わると、
4年生の多くは、最後の大学生活の自由を
満喫するのでしょう。
気持ちの中には、
卒業してからの社会への不安と期待、
新しい環境への適応の不安と新天地へ期待
これまでの経験が、社会で試される不安
そして新たな体験への期待
いろいろな気持ちが混在しているのでしょう。
4年生の心は社会に向かいます。

2018年1月11日木曜日

6_148 重さの基準 1:水が基準

 体重を量るには体重計に乗り、重さを量るのはハカリを使います。当たり前のことですが、考えると疑問があります。例えば、ハカリの目盛りを、どのように決めているのでしょうか。目盛りの基準が正確になるかも知れないという報告がありました。

 重さを量る時の単位は、グラム(g)やキログラム(kg)です。重さには、物質が本来持っている属性としての「質量」という意味と、地球の引力(重力)のもとで量った「重さ」という意味もあります。
 同じ物を同じハカリを用いたとしても、違う天体で量ると、目盛りの指す値は違ってきます。これは、引力が違うからです。バネばかりを想像するとわかりやすいかもしれません。地球でも、場所によって引力が異なっているので、厳密に測定すると示す値が違ってきます。これが私たちがいつも量っている「重さ」というものです。
 もうひとつ、物理学で用いる「質量」というものがあります。「質量」は、物がもともと持っている属性です。動かそうとるするときの手応えとして感じるものです。宇宙のどこにいっても、この動きにくさは、その物がもっている本来の性質となります。
 では、質量の単位で1kgという値は、どう定義されているのでしょうか。これが今回の話題です。
 バネを利用したものだと、引力の影響を受けて、場所によって違ってきます。質量を量るときには、引力に影響されない方法を用いなければなりません。とはいっても、量る方法の仕組みは簡単です。質量の基準となるオモリがあれば、それと比べていけばいいのです。天秤とオモリを利用した量り方です。小学校でおこなった、上皿天秤を用いた量り方も、この方法です。
 では、オモリの質量は、どのようにして決めたのでしょうか。おおもとになったオモリのことです。ある時点で正確に量って決めなければなりません。
 かつての質量の基準は、水1リットルを1kgとしました。正確には、「最大密度における純水1リットルの質量」です。水の最大密度は、水温が4℃のときのものです。かつてはこの条件を満たしたものを重さの基準としていました。
 しかし、これにはいくつか問題がありました。
 質量を量る時には、4℃に設定した水1リットルを用意しなければなりません。これは大変な手間を要します。水を入れる容器も温度変化して体積が変わります。正確に量るには問題になります。
 さらに大きな問題がありました。大気圧下と温度を一定にした条件で量ることになるのですが、気圧や温度を正確に測定することが必要になります。ところが、気圧は質量が関与した単位となっています。質量の基準を決めるのに、質量を用いた条件が必要になります。ここに矛盾があります。
 この基準は問題があるので、1799年に変更され、現在の「キログラム原器」と呼ばれるものになりました。「キログラム原器」は次回としましょう。

・冬休み明け・
大学もスタートしました。
でも、すぐにセンター試験があるので、
講義は一時休講になります。
正月は終わって、急に慌ただしくなります。
これから3月までは、通常の授業に加えて
卒業研究の発表会や
いくつもの入試がはじまり、
慌ただしさが加わります。

・冬の雨・
北海道は冬になっても、
晴天率は少ないようです。
先日は、雪が降ったと思ったら、
雨が降りました。
この時期に雨は珍しいものです。

2018年1月4日木曜日

3_161 海の水の寿命 4:課題

 海水が6億年後にはなくなる、という推定を紹介しました。しかし、そこにいくつかの課題もあるようでうす。このような課題が、学界に議論を呼んで、科学を進めていくのでしょう。

 沈み込む海洋プレートにともなって、海水が地球深部に入り込んでいきます。一方、絞り出されて地表に火山などで戻ってくる水もあります。深部に入っていく水の量と戻ってくる量がわかれば、収支が計算できます。
 これまで沈み込む水は、海洋地殻に含まれているものだけによるものだとされていました。ところが、海洋プレートのマントル部分にも水が含まれることがわかってきました。マントルの含水量も見積もり加えると、かなりの水が地球深部に入っていくことがわかってきました。6億年後には、海水がなくなる可能性が指摘されました。
 ここまでは前回まで紹介したことでした。この見積もりには、いくつか問題があるように思えます。実は、似たようなモデルが、以前に唱えられました。
 6億年前ころから、地球の冷却が進み、沈み込む海洋プレートの含水鉱物が分解されることなく、地球深部に沈み込んでいくことになるという考えがありました。この時の証拠は、高圧変成帯の変成鉱物の時代変化をみていくと、明瞭な違いありました。6億年前ころから、海洋地殻の含水の変成鉱物が、地球深部にまで分解されずに入り込むことになります。そして、海水が一気に減少し、海水面が200mも低下したというモデルが唱えられたことがありました。
 その時、私は、いつかの課題があると考えました。ひとつは、マントルに急激に水が入り込むと、マントルの物性が変化しマントルの状況が変わること、その後もそのペースで海水が減っていくと海水がなくなってしまう可能性があること、などでした。これらの課題をどう解いていくかということになります。マントルに水が入ると対流の速度が変わったり、プレートの厚さが変わる可能性もあります。降下プルーム(コールドプルーム)の形成条件が変わり、それに連動して、大規模な火成作用の状況、海洋プレートの形成速度も変わっていくはずです。そのような異変は、地球史に記録されているはずです。それが検証されるかどうか、という疑問でした。
 今回のモデルでも、似たような疑問があります。海洋プレートへの水の浸透は、論文での現象であれば、いつでも起こりうることです。ですから、プレートテクトニクスで常に起こる現象なら、なぜ今も海水があるのか。現状に至るモデルとしてどのようなものがあるのか、気になるところです。
 現在の状態は動かしがたい事実です。もし海水が見積もり通りに減っているでのあれば、過去へ遡ると海水は昔ほど多くかったはずです。ある時以前は、地球は水惑星だったはずです。しかし地球には、陸地でしかできない地層が、38億年前から現在まで見つかっています。ですから、陸がすべて沈むほどの海水はなかったことになります。
 現在から過去の遡った時、ありえない過去が見えるのであれば、なにかが、どこかが間違っているはずです。ある時代に含水量に大きな変化があったのではないか、見積もり間違っていないかなど、議論すべきことろがあるはずです。
 しかし、このような新しいアイディアは、面白いものです。いろいろな議論を沸き起こして、その真偽の確認を進めてもらいたいものです。

・正月・
正月の三が日、我が家では朝に
お雑煮を家族で食べています。
元旦には初詣にもいきます。
元旦はよるは我が家では贅沢な食事を自宅でとります。
2日の夜は、知り合いの中華屋さんに
家族で食事にいきます。
3日は近くの温泉にいきます。
これらを毎年のようにおこなっています。
これが現在の正月の恒例となっています。
でも、家族の形態が変われば、
いずれは変わっていくのでしょう。
のんびりと三ヶ日を過ごしました。
北海道も雪は降りましたが、
比較的穏やかな、年の初めとなりました。

・英気を養う・
私は、4日から大学に出て仕事を初めていきます。
大学の講義は9日からスタートですが、
私には急ぎの仕事があるので、
それをこなさなければなりません。
そのための準備で早目にでています。
年末年始で、5日も、のんびりとした時間を過ごしたのは
昨年の正月以来でしょうか。
英気を養えました。