2024年4月25日木曜日

1_216 月の形成 5:マントル・オーバーターン

 月の内部構造を精密にシミュレーションしていくと、金属鉄の核が存在していることがわかってきました。その他にも、マントル内でオーバーターンが起こっていたことも、明らかになってきました。


 前回、天体の内部を探る方法を考えてきました。地震や慣性モーメントなどから探る方法がありましたが、地震波がもっとも正確に内部を探ることができます。ところが、月では、限られた場所、限られた期間しか地震計が設置されていなかったので、情報も限定されています。そのため、正確な内部構造がわかっていませんでした。月を外からの探査した情報を加えることで、内部のより正確に探る試みがなされました。
 2023年のNature誌に、コート・ダジュール大学のブリアウド(Briaud)らの共同研究で、
The lunar solid inner core and the mantle overturn
(月の固体内核とマントルのオーバーターン)
という報告が出されました。この論文では、これまでの地震波データを再検討をして、精度の高い月の形状データも加えた熱対流のモデルから、月の内部構造を検討していきました。さまざまな条件で大量の(12万回)シミュレーションをした結果、前回紹介したように、月に金属鉄の核がある条件が、もっともえられている情報に合うことわかりました。そこから、金属鉄の核が存在すると考えられました。
 さにら、論文のタイトルの後半にあるマントルのオーバーターンがあったという推定も提示されました。論文では、このマントル・オーバーターンの証拠を重視しています。
 月の地殻は、白っぽい斜長岩と黒っぽい玄武岩からできています。月のすべての地殻が火成岩になっているため、大量にマグマが形成されたことになります。月では、形成初期に、大規模な溶融が起こっていたはずです。
 かつてはその熱源として、放射性元素とマントル・オーバーターンによるエネルギーが考えられていました。ただし今では、月の形成時に物質が短期間に集積しことによる重力エネルギーの開放で、マグマオーシャンができたと考えられています。
 マントル・オーバーターンとは、マントル内やマントルと核などで、層をなしていた物質が大きく入れ替わる(オーバーターン)ことです。一般に、天体形成初期の熱かった状態から、冷えていく時に化学分化が起こり、内部に軽い物質と重い物質の分層がおこります。マグマによる化学分別が起こるのですが、できた岩石には密度差ができます。その結果、重力的に不安定な状態(密度の大きいものが上、小さいものが下)が生じれば、ある時一気に、物質の入れ替わりが起こることがあります。例えば、下に岩石(マントル)で上に鉄(核)があると、オーバーターンが起こります。
 では月では、どのようなオーバーターンが起こったのでしょうか。それは、次回としましょう。

・暑い横浜・
先週、横浜にでかけました。
墓参し、親族に会いました。
以前の職場であった博物館を見学し
その周辺をめぐり、その変貌ぶりを味わいました。
また、中華街ではないですが、
馬車道で中華の食事をとりました。
久々の横浜となりました。
桜も遅くまで残っており、
あちこちで名残の桜を見ることができました。

・涼しい北国・
横浜にいる最中、非常に天気もよく、
全国的に暑くなりました。
北海道も夏日になっていました。
ほとんどの雪が溶けてしまいました。
帰札してすぐに、
自家用車のタイヤを夏タイヤに変えました。
すると、また涼しい日が訪れました。
ストーブをまた数日炊きました。
さすがに雪ではないですが
もうすぐゴールデンウィークだというのに
どうしたのでしょうか。

2024年4月18日木曜日

1_215 月の形成 4:核の存在

 月の形成に関する次の話題になります。月の核についてです。月の内部に核があるかどうかは、長らく議論されてきました。前回まで紹介してきたような月の起源とも直接関わることになります。


 月は、有人のアポロ計画から、無人探査機による周回軌道からや表層での調査など、多数の調査がなされていますが、その内部については、未だによくわかっていません。
 天体の内部を調べるのは、どうするのでしょうか。いくつかの方法がありますが、天文学的観測から、質量、半径、角運度量、角速度を調べて、そこから慣性モーメントを求めます。もし内部まで全体の密度一定の物質からできていると、その値は物理学的は方程式から、0.4になります。中に重いものがあるとこの値は小さくなり、軽いものがあると大きくなります。
 地球の慣性モーメントは0.3307、金星が0.336、火星が0.366 となり、岩石惑星は、0.4より小さく、内部に密度大きいものがあることになります。巨大ガス惑星の木星で0.254、土星で0.210となり、値がさらに小さくなるので、より密度差が大きなものがあることになります。
 月は0.393となり、0.4に近いので、内部に密度の大きいものがあることになりますが、小さいはずです。それが金属鉄の核なのかどうかは、この値からは不明です。核があったとしても、小さいものになります。
 他に、地震波の観測から調べる方法があります。地震波の観測には、地震計を月面に置かなくてはなりません。地球と異なって、その設置は限られています。アポロ計画で、月に計5個の地震計が置かれました。9年ほどの観測がされて、1.2万回以上の地震(月震といいます)が記録されました。月震は揺れの大きなもの(マグニチュード3以上のもの)は28回と少なく、大半が深くで起こる小さいものでした。その発生メカニズムもよくわかっていません。時々隕石の衝突による月震も記録されています。
 月震の解析から、月の内部には、地球と同じように固体のマントルがあることはわかってきました。深部には地震波速度が小さくなるところがあり、そこは一部溶融したマントルと金属核(半径480kmのところ)があると考えられています。さらに深部には、また地震波速度が大きくなり、固体の金属核があると考えられるようになってきました。金属核のサイズは半径約330kmから250kmだと考えられ、非常に小さなものです。
 しかしその精度がよくありません。深部の核を詳しく探るには、そこを通る地震波のデータ必要になります。しかし、地震計は月の表側に置かれているために、内部を通る地震波のデータが少ないためです。
 その後、周回衛星で実施された重力探査と組み合わせて、月の内部がある程度正確に推定されるようになってきました。そして、核の存在が確実になってきました。

・横浜へ・
このマガジンは、10日ほどの前に予約配信しています。
それは、横浜に週末から週の前半にかけて
出かけているためです。
以前から訪れたかった義母の墓参りをします。
COID-19のはじまりでの訃報だったので
葬儀にも参列できませんでした。
もうひとつは、義父との面会です。
昨年春までは、COVID-19の影響で
出かける機会がつくれなかったのと
2023年度前半はサバティカルで四国に滞在していたため
今回の機会になりました。
そのため、今回は予約配信となりました。

・遅めの春・
北海道では、今年は雪が遅くまで降ったので
少々遅れ気味です。
それでも、4月に入り、急に春めいてきました。
桜の季節にはまだ早いですが、
初春のフキノトウや福寿草など
咲きはじめています。
ヒバリの鳴き声も賑やかになってきました。
北海道の春は一気に進んでいきます。

2024年4月11日木曜日

1_214 月の形成 3:シミュレーション

 ジャイアント・インパクトは、過去の事変なので検証不能です。現在の事実を説明できるモデルを、シミュレーションで確かめていくことになります。ただし、シミュレーションには、落とし穴もあるので注意が必要です。


 ジャイアント・インパクト説は、多くの研究者が起こったと認めるようになってきました。ただし、課題もあり、地球と月のある成分(酸素同位体組成)が似ている点も大きなものです。同位体組成は同じ起源物質からできたことを示しています。
 ジャイアント・インパクトで、ぶつかった天体(ティアと呼ばれています)と地球は、別々にできたものなので、異なった成分(同位体組成)を持っていたはずです。地球に衝突後、粒子が大量に飛び散りますが、ティアと地球の成分が混合していきます。その時、地球と飛び散って月を作った粒子の組成はどうなるでしょうか。地球はもともともっていた成分に、ティアの成分が加わることになるはずですが、月は飛び散った粒子なので混合の程度はさまざまで、異なった組成になりそうです。なのに地球と月の同位体組成は似ています。
 この課題に対して、衝突で地球から飛び出した粒子が高速回転することで加熱され、溶けて均質の雲状態(シネスティア Synestiaと呼ばれています)になったと考えます。シネスティアが冷えて固まり、地球にも月にも降り注げば、お互いに似た組成になるというものです。ただし、できた月の公転軌道が、地球の赤道面になる可能性が低いことが問題でした。
 前回紹介したケゲレイスらの論文は、この問題が解決できたという報告でした。その解決方法は、粒子を100万個から1億個まで増やして高解像度のシミュレーションを進めると、それまでうまくいかなかった月の形成がうまくいくようになりました。
 シミュレーションでは、地球に近い側に大きな天体と、遠い方に小さい天体ができたのですが、地球に近い側にある大きいほうの天体は、地球に衝突してすぐになくなります。遠くの小さい天体(月の0.69倍の質量)は、円軌道をもった月となることがわかってきました。そして、月は、数時間もあれば形成できるという結果もでてきました。衝突さえ起これば、月は簡単にできるということになります。
 この論文では、シミュレーションの精度を上げるために、粒子の数を増やしていきました。従来の研究では、せいぜい100万個でのシミュレーションだったのですが、増やしていくと、約320万個を堺に、別の様相を呈する結果がでてきました。
 現実はどれほどの粒子があったのかは不明ですが、粒子の数が億よりもっと大きな数であったはずです。もしかするとシミュレーションで、もっと大きな数になると、別の様相が生じるかもしれません。そう考えていくと、シミュレーションに終わりがなくなります。
 シミュレーションは、求める結果が出たときに、成功したとして、終わります。しかし、その先に別の様相が起こるかもしれません。どれだけおこなえば変化するのか、それともずっと変化しないのか、それは不明です。現状のシミュレーション結果は、確定したものではありません。

・終わりはない・
シミュレーションは高速の大型計算機を用いて進められます。
研究は、ゴールを想定して進めていきます。
今回紹介した論文のように
これまでいい結果がでていなかった原因が
シミュレーションで扱っている
粒子の数だと想定したのでしょう。
数を増やして、変化を調べてきました。
それまで100万個であったものを増やしていくと、
320万個で、突然、様相が変わりました。
その先に様相がどう変化するかを
1億個まで増やして、同じ結果になることを確かめました。
その先にはもう様相の変化はないでしょうか。
それは不明です。
もし、320億個まで増やしていけば、
そこで変化があったかもしれません。
しかし、さらにその先にも変化があるのかもしれません。
様相の変化は、無限に起こる可能性もありそうです。
シミュレーションの終わりは、
実際の衝突で飛び散った粒子の数に達した時でしょう。
それも不明なので、やはり終わりはないですね。

・講義のスタート・
いよいよ今週から講義がスタートしました。
久しぶりの講義再開なので、
慣れるのに時間がかかりそうです。
今週末には、私用で3日間でかけます。
その次の週の講義の準備も
しておかなければならないので
よけいにバタバタしています。
この私用が今年最初の遠出となります。

2024年4月4日木曜日

4_182 駒ケ岳:流山と景観

 今回は、昨年11月に訪れた駒ケ岳と大沼の紹介です。激しい火山活動が、現在のきれいな景観をつくりました。今後の「地球地学紀行」のシリーズについても考えました。


 COVID-19のため、2020年度は野外調査に出かけれられず、2021年度から2022年度にかけても、影響はまだあり北海道中心の野外調査となっていました。北海道は広いのですが、なんとなく似たルートでの野外調査が多くなりました。地質学的興味は尽きませんので、何度でも同じ地域にでかけていきます。それでいいと思っています。
 昨年11月中旬に野外調査にでかけた道南の紹介をします。道南には、毎年のように訪れていますが、今回は駒ケ岳と大沼周辺に出かけました。
 駒ケ岳の山頂部は、馬蹄形に削られたような特徴的な形をしています。もともとは、このような形の山頂ではありませんでした。駒ケ岳は、10万年前から活動しており、4万年前には、きれいな円錐形の成層火山(富士山のような形)をしていました。4万年前にいったん活動を停止したのですが、6800年前に活動を再開しました。何度も噴火を繰り返しながら、やがて活動は収まってきました。
 1640年に、再度、激しい活動をはじめました。この活動で山体崩壊が起こり、もともと1700mの標高があったものが、600mほど低くなって、崩れた山の形になりました。山体崩壊で、大きな岩塊が一緒に崩れました。そのような岩塊が斜面に残った流山地形ができました。1640年の噴火で流れ出た溶岩が、河川をせき止め、大沼ができました。大沼の中にある島々は山体崩壊の岩塊です。
 1929年と1942年に中規模の噴火がありましたが、不規則に小規模な活動を繰り返してきています。駒ケ岳では、時々火山性地震が発生するのですが、火山活動はあまり起こっていませんでした。2000年の小規模な水蒸気爆発があったのですが、その後は穏やかになっています。
 ところが、2023年12月以降、火山性地震が発生しています。3月23日には火山性微動や傾斜変動が起こりましたが、まだ大きな噴火の兆候はなさそうです。噴火警戒レベルは1(活火山であることを留意)のままです。
 激しい噴火で山体崩壊が起こした岩塊や溶岩が、大沼の景観をつくりました。火山活動による地形が駒ケ岳や大沼の観光地となりました。また周辺には温泉もあります。しかし、駒ケ岳は、活火山であることは忘れてはいけません。

【定期的配信】
 月刊メールマガジン「GeoEssay 大地を眺める」というエッセイを、先月で休刊としました。GeoEssayは、露頭写真や地形図、地質図、地形解析図、衛星画像など用いて、その地域の地質を文章で紹介していくものでした。そのため、ホームページで、エッセイ(文章)とともの多くの画像も公開していました。
 GeoEssayを休刊にした代替として、このEarthEssayで、月に一度(月初の号)は、「地球地学紀行」のシリーズを配信していこうと考えています。
 GeoEssayを休刊にしたのは、今年度で定年退職するためです。研究のために大学のコンピュータ室に設置しているサーバで「GeoEssay」を公開しているたのですが、退職で停止しなければなりません。この1年でサーバによる教育活動も、順次停止していく予定をしています。
 このEarthEssayはテキストだけなので、退職後も継続していきます。サーバは使いませんが、メールマガジンとブロクでの公開としていくことになります。

・Last Year・
2024年度がはじまりました。
今年は自分にとってはLast Yearとなるため、
すべての行事、講義が最後となっていきます。
二度とできないものが続いてきます。
実際におこなわれている教育は、
受講する学生にとっては
各出会い、講義が一期一会となります。
ですから、いつであっても、手抜きはできません。
そうはいっても、最後となると・・・

・入学式・
大学の入学式は、街の大きな会場を借りて実施されます。
新入生と保護者が一同に入れるサイズの会場が
大学にはないためです。
多くの大学では、入学式や卒業式は
全員が一度に入れる会場はもっていません。
大きな会場を借りて実施しています。
小中高校では、自前の施設で実施しているのですが、
大学は貸会場となることが多いようです。
全学生が集まるという需要が
ほとんどないためでしょう。
大学の自前のホールで実施しているところもあります。
我が大学も、学位記授与式は学部学科ごとに分けて
学内のホールで実施しています。
十分、セレモニーとして成立しています。