2023年3月30日木曜日

1_205 天体衝突の頻度は 4:8億年前の爆撃

 8億年前ころに、月では、大きなクレータができるような、衝突が多数あったことがわかりました。その衝突は、地球にも大きな異変を起こしたのかもしれません。


 クレータは、小天体あるいは隕石の衝突によってできます。小天体が衝突してできるクレータは、大きなものは少なく、小さなものが多くなるという冪乗則が適用されました。ところが、前回紹介したように、大きなクレータの形成年代を調べると、8億年前ころに、8個(もしくは17個)もできていることが明らかになりました。このような衝突は、偶然には起こる確率は極めて低いはずです。
 では、大きなクレータが、同時に多数できるということは、大きな隕石、つまり小天体が、多数、月に衝突したことになります。月は地球の周りを回っており、地球の方が引力も強いので、地球にも多数の小天体が衝突したと推定されます。
 8億年前に、地球にも激しい小天体の爆撃をもたらした、もとの天体はどのようなものだったでしょうか。寺田さんたちは、アポロが持ち帰った試料で月で衝突で融けて飛び散ったガラス(インパクトガラスといいます)の放射性年代を文献から収集しています。それらと、年代の一致したクレータのサイズ、そして月と地球の直径から、もとの小天体を推定しています。
 100km以上のサイズで、4~5・10^16kgの質量の小惑星だと見積もられました。小天体は、小惑星帯(火星と木星の間の公転軌道)にあったはずですが、衝突に砕かれました。その結果、公転軌道が変わり、地球の軌道を横切るように変更されたと考えられます。
 もし元のサイズの小天体が、地球と衝突すれば、中生代と新生代の境界で恐竜大絶滅を起こした隕石の30~60倍の物質が落ちてきたと考えられてます。100kmサイズの小天体の衝突は、10億年に一度の頻度と見積もられています。
 大きな天体の衝突が、地球でも複数回繰り返されたとすれば、大きな異変がおこっていたはずです。全地球凍結と呼ばれる氷河期の7億000万から7億年前に起こっています。8億年前はその少し前です。全地球凍結との関係はまだ不明ですが、この大きな衝突の繰り返した、全球凍結という異変を起こしたのかもしれません。そのクレータ自体は、全地球凍結の前に形成されているはずですが、氷河により消されているのでしょう。
 でも、地球は幸運だったのかもしれません。この小天体がバラバラになっていたため、破片が月にも落ちて、中には衝突しなかったものもあるはずです。ですから、ひとつの小惑星の衝突よりは、地球への被害は少なくなっているはずです。

・サバティカル・
4月1日から四国の愛媛県にサバティカルで滞在します。
滞在期間中、いろいろな目標と研究計画を立てています。
当然、滞在先の人たちには、
研究のために、生活していくために
いろいろとお世話になります。
何度も訪問してきたこともあり、
これまでの人間関係に感謝しています。
半年間ですが、なにか貢献できることがあればと考えています。
私の場合は、研究での貢献となります。

・年度末・
大学は学位記授与式も終わり
年度末の進級と新入生のための準備、
在校生へのガイダンスなどがありますが、
今年ばかりは免除されています。
サバティカルなので
新年度の準備はなく、
講義、校務から開放されます。
出発のドタバタありますが、
大学の年度の切り替えのドタバタはありません。
いつもとは異なった年度末を過ごしています。

2023年3月23日木曜日

1_204 天体衝突の頻度は 3:クライオジニアン紀

 日本の月探査衛星「かぐや」は、詳細な画像を多数撮影しました。画像を利用して、大きなクレータの形成年代に関する研究が報告されました。そこでは、小さなクレータを用いてクレータ年代学を用いています。

 2020年のNature Communications誌に、大阪大学の寺田健太郎さんたちが、
Asteroid shower on the Earth-Moon system immediately before the Cryogenian period revealed by KAGUYA
(かぐやによって明らかにされたクライオジニアン紀直前の地球ー月系の小天体シャワー)
というタイトルで報告されました。この研究には、クレータ年代学が巧妙に利用されています。
 まずは、論文のタイトルに使われているクライオジニアン紀という聞き慣れない時代について説明しておきましょう。
 クライオジニアン紀とは、原生代の後期(7億2000万年前から6億3500万年前)の時代名になります。論文では、「クライオジニアン紀直前」となっているので、8億年前ころになります。カンブリア紀(5億4100万年前がはじまり)より前の時代です。
 小惑星のシャワーとは、シャワーのように降り注いだとことになります。これは、大量の隕石が衝突したことを意味します。また、地球-月系となっているのは、月は地球の衛星と一連の関係にあるという意味です。月で8億年前ころに大量の隕石の衝突が見つかったのですが、月での衝突の現象は、月の母星となる地球でも起こっていたはずということになります。
 寺田さんたちは、かぐやの画像から、直径20km以上の59個のクレータを調べました。このクレータの形成年代を正確に決めるために、少々複雑な方法が取られています。
 年代を調べたいのは、20km以上の大きなクレータです。本来なら表面の形成時代を調べるクレータ年代学を、クレータができた時代を決めるために利用しています。
 大きなクレータができる時は、激しい衝突によって、周辺の地域に物質が飛び散っていきます。クレータ周辺は、放出物が覆ってしまい、きれいな平坦な地面が形成されます。その面は形成されたばかりでクレータはなく、そこに隕石が衝突すると、新たに小さなクレータが形成されていきます。
 大きなクレータの周辺にできている、直径1kmから100mの小さなクレータの数を調べ、そこにクレータ年代学を適用して年代を調べいきます。このような方法で、大きなクレータができた時代を推定していきました。なかなか素晴らしいアイディアです。
 直径93kmの大きなコペルニクスクレータの周辺では、860個の小さなクレータで年代を調べてチェックされています。それだけの数があれば、統計的にも十分な検討ができます。
 さて、59個のクレータで、この方法で形成年代を調べて比べました。すると8個のクレータで、形成年代が一致することがわかりました。モデルを変えると、17個も一致することがわかってきました。8個もの年代が一致することは確率的にはありません。
 このクレータの形成時代の一致は、なにを意味するのでしょうか。次回としましょう。

・今年の年度末・
年度末の大学はバタバタします。
学位記授与式は終わったのですが、
入学手続きや、入学生への準備など
多くの仕事あり、忙しくなります。
4月からのサバティカルで、
3月末には四国への引っ越しがあります。
今度は夫婦ふたりですが、
引っ越しも、その分大掛かりになります。
でも、移動のバタバタが終われば、
四国での新生活への期待が溢れます。
半年ですが研究と調査だけでなく、
田舎の生活を満喫したいと考えています。

・城川町・
サバティカルは、愛媛県の西予市です。
市町村合併以前は、城川町という町があり、
後輩がそこの役場にいて
地質館の開設の手伝いから付き合いがはじまりました。
そこから、現在まで交流が続いています。
2010年に1年間サバティカルで滞在し、
西予市は2013年9月に日本ジオパークに
「四国西予ジオパーク」として認定されました、
2020年春には四国西予ジオミュージックが開館しました。
サバティカルの期間に、
博物館活動にも協力できばと思っています。

2023年3月16日木曜日

1_203 天体衝突の頻度は 2:クレータ年代学

 天体衝突によって、クレータが形成されます。地表の形成年代とクレータの数を調べることで、その地域のクレータ密度がわかります。そこから時代ごとの衝突頻度を見積もることができます。


 隕石の落下でできたクレータは、火山噴火でできるクレータとは異なっているので、見分けることができます。ただし、クレータを探すことができるのは、多くは大陸地域のもの主となります。
 大陸地域は、常に侵食や風化で古い地形は消えていき、火山活動や造山運動で上書きされていきます。古いクレータほど、消えていく可能性が高くなっているので、その効果を考慮にいれなければなりません。さらに、大陸では、長期に渡り寒くなると氷河に覆われ、古い地形は消されてしまいます。全地球凍結と呼ばれる、地表全体が氷に覆われる時代が、6億5000万~6億4000万年前と、7億3000万~7億年前に、少なくとも2度起こったことがわかっています。これ以前のクレータの多くは、消された可能性があります。
 海に落下した隕石が海洋底にクレータを形成しても、海洋地殻はプレートともに移動して、やがて海溝に沈み込みます。古いものでは2億年前のものしかありません。海洋地殻には古いクレータはなくなっています。
 このような理由から、全地球的を対象にして、クレータの数と地表の時代から、衝突の頻度を探るのは、どうしても不正確になってしまいます。ではどうすれば、正確な値が求められるでしょうか。
 大気のない天体では、表層での侵食は起こりませんし、プレートテクトニクスが働いていないところであれば、古いクレータも残っているはずです。問題は、その地域の形成年代をどうして探るかです。
 幸い月は、探査が進んでおり、試料も回収され、年代測定された岩石も多数あります。そこから、地域ごとの形成年代が比較的よくわかっています。月のクレータは、日本では月の観測衛星「かぐや」の撮った詳細が画像があります。その画像から、精密に調べることが可能になります。月の表層の形成時期と、クレータの数から、時代ごとの衝突頻度、またサイズごとの衝突頻度も調べることができます。
 その関係(相関係数や比例定数)が決まれば、関係を逆に利用することもできます。ある地域で、クレータのサイズごとの頻度を決めることができれば、その地域の形成年代を推定することができます。このような方法はクレータ年代学と呼ばれています。詳細な画像がえられている天体では、それぞれの地域にクレータ年代学が適用されています。そこから、天体の形成史が考えられています。
 かぐやの画像を用いた研究が報告されていますが、次回としましょう。

・祝賀会・
大学は、今週末に学位記授与式があります。
一度に開催すると、人数が多くなるので、
学部学科を3つに分けで実施されます。
その後学科で、学位記をそれぞれに手渡ししていきます。
昨年まではそれで終了でしたが、
今年は、ホテルを会場を借りて
祝賀会が実施されることになりました。
やっとここまで日常が戻ってきたかと思います。
ただし、祝賀会では飲食ができないままです。
一堂に会することもなく3つに分散したまま実施されます。
以前のような状態にもどるには
あと少し時間が必要かもしれません。

・マスク着用・
マスク着用のルールは緩和されましたが、
今後、どうなるのでしょうか。
最初にマスクはずすのは勇気がいります。
人混みでは着用し、人の少ないところや
屋外では外しているということから
はじめていくことになりそうです。
しかし、その頃には四国へと旅立っているのでしょうが。

2023年3月9日木曜日

1_202 天体衝突の頻度は 1:2つの方法での報告

 天体衝突は、太陽系初期に終わっています。しかし、小さいの物体は隕石として、時々落ちてきます。その頻度はどうなっているのでしょうか。今回、新しい報告が2つあったので、シリーズで紹介していきます。


 太陽系初期、小さな物体が衝突合体することで、天体が成長して惑星になっていきました。天体衝突の事件は太陽系初期が激しかったのですが、その後は穏やかになりました。現在、地球軌道上には、大きな天体は月以外はなく、小天体もありません。ですから、衝突合体のような激しい事件は、初期に終わってしまったはずです。
 現在でも地球には隕石(天体ではなく、小さな物体というべきでしょう)が時々落ちてきます。その頻度は、小さなものほど多く、大きなものほど少なくなります。これば他の天体の表面の観測によって、冪乗則になることが知られています。
 小さい隕石は、毎年かなりの数の落下が観測されています。そのため、小さい隕石については、現在の隕石のサイズの落下頻度はわかります。しかし、大きくなるほど稀になるので、頻度を正確に求めることができません。地球で大きな隕石の落下頻度は、どうすれば調べることできるでしょうか。最近、報告があったので、それもとに紹介していきましょう。
 小さい隕石とか大きな隕石といういい方をしていましたが、ここでは、大きな隕石を地表にクレータができるほどのものとします。大きな隕石の落下でできたクレータのサイズと、その時代を調べることで、過去の落下頻度を推定することができます。ひとつ目の報告は、そのようなクレータを用いた方法です。
 別の方法もあります。クレータがなくても、隕石が衝突すると、隕石の痕跡となる物質が広く飛び散ります。大きな隕石ほど、広域にわたって、多くの物質が飛び散ります。その飛び散った物質は、地球にばらまかれます。そして、海底にまで飛んだものは、堆積物の中に取り込まれます。
 地表では古い時代のクレータは、地表の営み(風化侵食、火山活動、造山運動など)で、消されていきます。クレータが消えてしまった時代でも、隕石の痕跡の成分を調べることで、落下の頻度を調べることができるはずです。その報告がされました。
 まずは、クレータのサイズと時代から探る方法を、次回から紹介しましょう。

・うんざり・
先週は、帰省していろいろな儀式をすませ
役所での手続きもしてきました。
儀式は、あまりに因習的です。
役所でも様式や手続きも煩雑でした。
役所にも2度いって、チェックしてもらい、
電話での問い合わせも何度もしました。
うんざりしました。
これで終わったはずです。
もうしばらくはしたくないことです。

・事前指導・
今週は、来年度、教育実習にいく
現3年生への事前指導の時期になっています。
毎日、講義に集中する期間になります。
この間、他のことが手がまわりません。
このエッセイも、いつものように
事前に書いておき、予約送信してあります。

2023年3月2日木曜日

4_173 火星のマントルプルーム 5:活動史の編成

 エリシウム平原は、マントルプルームの直上という特別なところだったのかもしれません。そのため、地震も活発に起こっているのかもしれません。今後の探究の可能性も示してくれます。


 このシリーズも最後になりました。マントルプルームとエリシウム平原との関係をみていきましょう。
 エリシウム平原は、もっとも静かな地域だと考えられていたため、探査がされていました。ところが、前にも述べたように、活動的な地域であったことがわかってきました。
 エリシウム平原では、火山活動が長く続いていて、5万3000年前にも小規模な火山噴火も起こっていたことが報告されていました。最近まで火山活動があった地域となります。地震計で火星の地震も観測していました。エリシウム平原の中にあるケルベロス地溝帯の割れ目に、地震が集中して起こっていました。地溝帯は、現在も運動している可能性があります。
 エリシウム平原は、現在でも火山や地震が起こっている非常に活動的なところであることがわかってきました。しかし、前回述べたように、火星にはプレートテクトニクスを示す地形はありません。この活動の原動力は何でしょうか。
 論文では、エリシウム平原の地形や重力の分布などを分析していくことで、下にマントルプルームがある可能性が示されました。マントルプルームが上昇しているため、エリシウム平原の標高が高くなり、ケルベロス地溝帯ができたのではないかと考えられました。
 では、どれくらいの大きさのプルームが上昇しているのでしょうか。ブロクエさんたちの地球物理学的モデルの解析によると、幅4000kmの大きさのプルームと推定しています。幅4000kmとは、火星の半径3400kmより大きなものとなります。火星のサイズから考えると、このプルームは異常な大きさに見えます。
 エリシウム平原の火山活動もプルームに由来している可能性があります。プルームの上昇させていきた熱が、火星内部に現在でも残っていたことになります。現在も上昇してくるプルームがあるということは、過去にもプルームの上昇が起こっていたはずです。いろいろな時代に、何度も上昇してきたプルームによって、火成活動が継続されてきたかもしれません。
 地球のように活火山があれば、発見できるはずです。火星では、まだ活火山は見つかっていません。活火山があるという視点で探査すれば、見つかってくるかもしれません。また、いろいろな時代の火成活動が見つかってくれば、プルームの上昇履歴を知ることができるかもしれません。火星でのプルームテクトニクスを再現できるかもしれませんね。

・帰省中・
現在帰省中なのでこのエッセイは、
予約して配信しています。
京都に帰省しているので、
息子たちとも会えるのは楽しみです。
今回は、儀式といろいろな手続きをしてきます。
多分、ぐったりしていると思います。
親族のことですが粛々と進めましょう。

・バタバタと・
大学では、来週から、
共同で担当する集中講義がはじまります。
その後には、学位記授与式が続きます。
今年から祝賀会も復活しそうです。
4月からの四国でのサバティカルがあるので
引っ越しの準備もあります。
3月は何かとバタバタします。