2024年12月26日木曜日

1_222 過去のプレートテクトニクス 2:沈み込みの痕跡

 現在のプレートテクトニクスでは、沈み込み帯で非常の大きな地質現象を起こしています。その沈み込み帯の痕跡を手がかりに、過去のプレートテクトニクスを、探ることが可能なはずです。


 地震や火山は、プレート運動に伴う地質現象の中でも、身近に感じる大地の営みとなります。ところが、プレートの運動はゆっくしたもので、人には感じることができない動きです。
 現在では、精度のいい観測によって、それぞれのプレートの移動量が、実測されており、その値は年間数cmから10cm程度とわかっています。また、海底には古い海洋プレートがあり、そこからも岩石が入手されています。海嶺で形成された海洋地殻の岩石が1億年前の年代だとわかっています。海嶺で地殻が形成されるプレートテクトニクスが、少なくとも1億年前からあったことがわかります。
 では、いつからプレート運動があったのでしょうか。古くからはあったはずでしょうが、それはどのように証明していけばいいのでしょうか。
 その証拠は、大陸地域にあるものになります。なぜなら、海洋域には、1億前より古い岩石は、すべて沈み込んで地表からなくなっているためです。
 大陸地殻の中からいくつかの証拠を示すことができます。沈み込み帯では、海洋プレートの断片が陸側に取り込まれたり、前回述べたような陸側で起こった各種の現象の痕跡の岩石が残されていれば、沈み込みがあったことが、間接的ですが、示すことができます。
 古い大陸で、プレートテクトニクスの痕跡が探されていくことになります。沈み込まず大陸に残された海洋プレート層序がオフィオライトとなっています。また、沈み込みの圧縮による付加体固有のデュープレックス構造も手がかりになります。沈み込みつつある海洋プレート内で起こる低温高圧変成作用による青色片岩、また大陸地殻深部で起こる超高温高圧変成作用によるコーサイトやダイヤモンドなども、過去の沈み込み帯があった痕跡となります。
 そのような痕跡を使いながら、プレートテクトニクスを大陸内で探すことできます。では、いったいどの時代まで遡れるでしょうか。

・いつものように研究室にて・
今年も残りわずかになりました。
今週で大学の講義も終わりますが、
最後の週には補講も組まれており、
個人へ代替講義も実施しました。
いつものように、暮れまで研究室で
仕事をしているはずです。
正月三ヶ日は休む予定ですが、
いつもと変わらず4日からは
仕事をはじめる予定です。
ただ、正月には次男も帰省するので、
久しぶりの家族での正月となりそうです。

・暮れの作業を・
現在、遅ればせながら暮れの恒例の
作業を進めています。
現在、年賀状の作成をしています。
1年ぶりのカラープリンターの使用だったので
調子が悪いのため、数枚のミスをしました。
今年の正月は喪中だったので、
年始の挨拶は欠礼としました。
来春は、通常の挨拶状になります。
また、週末には餅をつく予定です。
それでもいつものように
淡々と暮れを過ごしていきます。

2024年12月19日木曜日

1_221 過去のプレートテクトニクス 1:沈み込み帯

 プレートテクトニクスは、現在の地球の営みを生み出す重要な作用です。いつからはじまったのかは、どのように検証していけばいいのでしょうか。まずは、プレートテクトニクスの概要からはじめましょう。


 地球の大地の営みは、プレートテクトニクスによって説明されています。地球表層を何枚かのプレートが覆っています。プレートが、長い時間をかけて移動していくことで、大地にさまざまな変化を起こします。
 プレートには、海洋底となっている海洋プレートと大陸地殻をもった大陸プレートがあります。海洋プレートは、中央海嶺で形成され、海溝に沈み込みます。沈み込む時、各所での変成作用や陸側に火成活動、堆積作用、変形作用の造山運動などの地質現象を起こします。海洋プレートが海洋を移動することで、大陸プレートも連動して移動していきます。
 海洋プレートは、マントル対流の上昇部にあたり、定常的にマントルの溶融が起こり、常にマグマができ、火成作用が起こります。マグマは、海洋プレート固有の成分を持っていて、中央海嶺玄武岩(Mid-oceanic ridge basalt MORBと略されています)と呼ばれています。その上に、海洋のプランクトンの死骸が落ちて海洋底にたまってできる堆積物(層状チャート)が重なります。海洋プレートが陸に近づいてくると、陸からの砕屑物が海溝を越えて溜まってきます(半遠洋性堆積物)。
 沈み込む直前には、海洋プレートは、どこでも似た岩石の連なり(下から、MORB、層状チャート、半遠洋性堆積物の順)となり、海洋プレート層序と呼ばれます。
 海洋プレートが沈み込んで、深部にはいっていくに連れて、岩石の温度は上がりにくいのですが、圧力は深さにともなって上がっていきます。沈み込み帯では、低温高圧の条件での変成作用を受けていきます。
 陸由来の堆積物は、大陸斜面にも厚い地層(タービダイト層)をつくり、沈み込みの力で、押し込まれて重なっていき特別な構造(デュープレックス構造)をもっていきます。このように陸側の大陸斜面の下には、特徴的な構造をもった厚い堆積物(付加体)ができていきます。
 海洋プレートが沈み込むと、圧力が上がり、含まれていた水分が絞り脱されて陸側のマントルに加わっていきます。厚いマントル物質に水分が加わると岩石の融点が下がりマグマができます。そのマグマも固有の成分を持ったものになります。
 陸側の地殻は、火成岩や堆積岩、変成岩などさまざまな岩石からなり、沈み込みで圧縮され続けるので、厚い地殻へとなってきます。厚い地殻の深部では、中温中圧から高温高圧、ときには超高温高圧の変成作用が起こります。このような複雑な岩石が、複合的な地質現象によって、日本列島のような地帯(島弧)ができています。
 沈み込み帯は、地球上でも重要な大地の営みの場となります。これがプレートテクトニクスの基本原理です。
 では、このプレートテクトニクスはいつから働いていたのでしょうか。それはどのようにすれば、検証できるでしょうか。

・来年の正月は・
わが町も、根雪となったようで、
連日雪が降り、除雪も何度か入りました。
着るものも、完全に厳冬期仕様になりきました。
今年は、年賀の準備が遅れています。
今年は喪中だったので、
正月には一周忌もあり
通常の正月を過ごすことはありませんでした。
来年は、三回忌は親族がおこってくれることになりました。
正月には、家族も帰省する予定なので
コロナ以降、久しぶりに通常の正月になりそうです。

・退職の準備・
大学は、今年度で退職になります。
年賀状にも、その旨を書いています。
だんだん年賀状も億劫になっています。
少しずつ出す人を減らしています。
大学でも、いろいろな手続もはじまっています。
校務とともに、退職の作業も加わってきました。
最終講義もおこなうので
その準備も少しずつ進めています。
これは、楽しみながら進めています。

2024年12月12日木曜日

3_227 外核のドーナツ 3:トーラスの意味

 外核にトーラス状の構造があることが、地震波のコーダ波の解析からわかってきました。ではこのトーラス状構造は、どのようなものからできていて、なぜできてきたのでしょうか。


 前回は、地震波の実体波の後に来るコーダ波と呼ばれるものがあることを説明しました。そのコーダ波を利用して、馬らは外核の詳細な構造を調べていきました。
 地震波のコーダ波を観測から、外核を地球の極地と赤道付近で比較していきました。その結果、極地に近い場所で検出された地震波よりも、赤道近くの地震波よりも進みが遅くなっていました。
 地震波の遅い領域は、外核の中でもマントルの境界に近い赤道に沿った領域で、トーラス(ドーナツ)状に、地震波の進みが遅い領域(以下新構造)が存在しいました。トーラスは、マントルとの境界から深度数百kmほどのサイズがありそうだとわかってきました。
 外核は液体で、その成分は金属鉄とニッケルを主成分としていますが、それだけでは地震波速度が説明できません。少量の軽元素(例えば、水素、ケイ素、酸素などが候補とされています)も含まれていなければならないと考えれられています。今回の報告のモデルによると、2%ほど遅いことになりますでの、このような軽元素が多くなれば、地震波速度が遅くなっていくので、軽元素の量と分布が明らかにできるのではと考えられています。
 外核の赤道付近の外側に、不均質な領域がトーラス状にあることになります。もしトーラス構造が、軽元素の分布の違いによるものであれば、外核内の対流で説明できる可能性も指摘されています。
 外核は深部ほど温度が高く、マントルに近い部分は低温になっています。温度差ができれば、液体なので対流が生じます。軽元素を多く含んだ密度の小さい部分があれば、密度が小さいので選択的に上昇流に取り込まれやすくなります。さらに、軽い成分の流れは、地球の自転の影響も受けて、赤道にそった上部に浮かんでいくと考えられます。長い時間がたって、軽い物質が集まってトーラス状になったと推定されます。
 外核の金属鉄が流動すれば、電流が発生し、磁場も起こります。この作用が連続して起こっていれば、核全体が地磁気を持って、地磁気となっていくと考えられます。これを地球ダイナモ説と呼ばれているものです。ダイナモに軽元素の多い部分が関与するようなことあれば、地磁気にその影響が出るかもしれません。そうなると、地磁気の変化でもトーラスの存在が観測できるかもしれません。

・冬が深まる・
週末に冬型になり
かなりの雪が降りました。
激しい降りのときは風も強く、
わが町では積雪量はそれほど多くはなリませんでした。
幸い、除雪が入るほどではありませんでした。
日に日に冬が深まり、
これからの降雪、根雪となっていきそうです。

・まさに師走・
12月も忙しくなっています。
私用ででかけることがも多くなり、
校務も連続してあります。
その上、校務で校外にでかけるものもあり、
その分、さらに時間が取られて忙しくなくなります。
まさに師走となっています。
幸い次年度の私用が、かなり減ったので
来年は少し落ち着けるようです。
多分。

2024年12月5日木曜日

4_189 支笏:カルデラの中の静寂

 支笏湖は、風光明媚で温泉もあり、千歳空港からも札幌からも近く、観光には恵まれた立地です。しかし、限られた所しか観光施設がないため、そこから少し離れると静寂があります。そんな静寂が好きです。


 11月下旬、支笏湖を訪れました。わが町では、数日前にかなりの積雪になったのですが、支笏周辺は降らなかったようです。ところが、訪れる前日に、支笏周辺の山域だけが雪となりました。支笏までの山道は、積雪があり凍っているところもありました。無理せずゆっくりとの走行しましたので、無事たどり着くことができました。
 支笏湖は、火山の雄大さと湖の神秘さ、森の静寂、そして温泉を湧いていると観光に恵まれた地となっています。湖畔からは、湖面越しに恵庭岳、樽前山、風不死岳の雄大な山体が眺められます。これらの山は、いずれも活火山です。
 支笏湖は4万年前ころに激しい噴火(支笏火山)が起こり、大量の火山砕屑物を放出しました。その噴出物は、大規模な火砕流となり、支笏の南側の白老町から、南東側の苫小牧市、そして東側の千歳市一帯を覆いました。その結果、以前は太平洋に流れ込んでいた石狩川がせき止められ、石狩湾に流れ込むようになりました。
 巨大な噴火で大量のマグマが放出されたことで、山体の直下で陥没が起こりました。その結果、直径12kmになるカルデラがでました。それが現在の支笏湖となります。支笏湖は面積も広く(日本で8番)、深い湖(日本で2番)です。もともとは丸い形のカルデラ湖でしたが、その後の火山活動で、現在のようないびつな形になっていきました。
 支笏湖ができてから、2万6千年前ころから支笏カルデラの中に、風不死岳ができました。カルデラの崖の上にあたるところに、9000年前の火山活動で樽前山ができ、少しの休止期をへて、17世紀と18世紀の噴火で山頂に火口ができ、1909年には溶岩円頂丘(遠くから見るとプリンのような形)ができました。現在も、山頂周辺では噴気が上がっています。
 恵庭岳は、2万年前ころにカルデラ壁で火山活動をはじめ、山体ができました。しばらく休止した後、17世紀になって水蒸気爆発が起こり、東側に火口(爆裂火口といいます)ができました。その生々しい火口の地形は現在も残されています。
 支笏湖は、観光地ですが、少しはずれれば周辺には森が広がっているので、静寂を味わえます。出かけた時の帰りや、自宅からも近いため散策に訪れていました。
 今回は野外調査は抜きで、家内と二人で、自然の散策と温泉、そして美味しい料理を楽しみに出かけました。途中で昼食をとって、早目に着きました。森を散策しようと思っていたのですが、積雪のため、ホテルの人に長靴やブーツがないとだめだと止められました。仕方なく、きっさコーナでコーヒーを飲みながら、窓越しに景色を見て過ごしました。朝には、いろいろな野鳥が観察できました。静寂の中で、ゆったりとした、穏やかで豊かな時間を過ごすことができました。

・厚さ寒さ・
先週前半は、温かい日もあったのですが、
週末には冷え込んで雪となりました。
例年の寒さに戻ったようです。
寒暖の変化が激しいと
防寒着も、厚手のものや薄手のものへと
日によって着替えていくことになります。
まあ、季節の変化なので
自分で対処するしかないのでしょう。

・忙しくても・
とうとう師走になりました。
校務が忙しく落ち着いきません。
特に、11月から2月にかけては
次々と重要な校務が続きます。
そこに私事の所要も重なっています。
気が休まらない日が続いています。
我が大学では、退職までの1年間は
落ち着いて研究をまとめるという意味を込めて
校務は少なくするというのが暗黙にあるのですが、
人員が減っているのに、校務が増えています。
そのため、退職前も校務が押し寄せます。
まあ、致し方ないことですが
与えられた業務、すべき作業を
淡々と優先順に進めていきます。
ただしなにがあっても、
研究の進行も止めることなく
進めていかなければなりません。

2024年11月28日木曜日

3_226 外核のドーナツ 2:コーダ波の解析

 前回、地震波には表面波と実体波があり、大きく揺れる実体波にもいろいろな種類があることを紹介しました。実体波の中のコーダ波を使って、外核にこれまでにない構造を発見しています。コーダ波を紹介していきましょう。


 実体波は、いつも感じている地震の揺れをもたらすものです。P波とS波がその代表となります。
 P波はもっとも速い地震波(5~7km/秒)で、最初に伝わってくる揺れで、初期微動とも呼ばれます。進行方向に平行に振動する波で、固体、液体、気体をすべて伝わリます。地球内部を探るために重要なものとなります。
 一方、S波は、P波に比べて速度は小さい(3~4km/秒)のですが、揺れは大きく、主要動と呼ばれます。ただし、固体しか伝わリません。P波は地球内部をすべて通り抜けましたが、S波は液体の鉄からなる外核は通ることができません。そのため、外核の実態と存在は古くから知られていました。
 実体波には、後続波と呼ばれるタイプがあります。P波やS波は、波が直接到達したものですが、後続波には地球内部にあるさまざまな境界で、反射したり屈折してしてから届く地震波もあります。そんな地震波にも重要な地球内部の情報が隠されています。
 反射や屈折は、不連続面となる地表、海底、地殻、マントル、核や、それらの内部にある物性の異なる面で起こります。反射は屈折する場所によって、地震波それぞれに、別の名称がつけられています。例えば、P波が外核内を伝播したものをPKP波、この波が内核まで伝播したものをPKIKP波などと呼ばれて、区別されています。
 後続波には、さらに地下の物質内に存在する不均質によって「散乱」される地震波があり、それらをコーダ波と呼んでいます。コーダ波は、振幅が減衰していく(指数関数的に)波形になるのが特徴ですが、数十秒から数分間振動が続きます。
 コーダ波の減衰は、通過する物質の特性を反映します。減衰は、物質内の不均質、例えば、断層や化学的組成が異なったり、流体の存在や分布、温度分布の違いなどで起こります。また、不均質で減衰しながら伝播していくのですが、その時にも不均質があれば、散乱も起こります。ですからコーダ波には、複雑な経路を取っていきたものが含まれていることになります。このコーダ波の減衰状況や散乱から、地球内部の不均質な部分を見つけていったの今回紹介している論文です。
 馬らは、ひとつの震源からの地震を、異なった地震計で記録された数時間にわたる続くコーダ波を用いました。微小なコーダ波を検出し、複雑にたどってきた経路を解析していき、各地のコーダ波の類似性から相関を調べてきました。これらの類似性をまとめて「後期コーダ波相関波動(late-coda correlation wavefield)」と呼びました。これが論文のタイトルにあったコーダ波の意味です。
 そして、極地と赤道付近で観測された解析の結果を比較していきました。極地に近い場所で検出された地震波は、赤道近くの地震波よりも速く伝わっていることがわかったということです。その意味するところは次回としましょう。

・懸案が次々と・
今月は、特別な校務が重なっていました。
大きな懸案事項もいくつかありましたが、
先週までに、順番に終わらせていきました。
まだいくつか残っています。
懸案事項も、役職上の校務なので
締め切りや重要度の順番に
淡々とこなしていくしかありません。
長年、職場に勤めていると
そんな術も身についてきました。
それも今年度限りと思って
取り組んでいきましょう。

・久しぶりの休暇を・
このエッセイは、土曜日に予約配信しました。
日曜日から、家内と久しぶりに温泉ホテルに一泊します。
人里から離れて、車がないといけない不便な場所です。
森に囲まれていて、散策路を歩いていくと湖があります。
その先に観光施設があります。
そんな静寂に好き、時々利用するホテルです。
自宅や大学は大雪が降ったので心配なのですが、
いってみないと雪の様子はわかりません。
まあ冬タイヤにしているので、
少々雪は大丈夫なはずです。

2024年11月21日木曜日

3_225 外核のドーナツ 1:トーラスとコーダ

 次の核のシリーズに変わります。新しい論文によると、外核でこれまで見つかっていなかった構造がわかったということです。地震波によって発見されたのですが、少々専門的な説明が必要になります。


 2024年8月末のScience Advances誌に、オーストラリア国立大学の馬とトカルチッチ(Ma and Tkalcic)が、核の構造に関する論文を発表しました。論文のタイトルは、
Seismic low-velocity equatorial torus in the Earth's outer core: Evidence from the late-coda correlation wavefield
(地球の外核内の地震波低速度の赤道上のトーラス:後期コーダ波相関波動場からの証拠)
というものでした。聞き慣れない難しい言葉があります。まず、トーラスとコーダ波について説明していきましょう。
 トーラスとは、円柱が環になったドーナツ状の構造をいいます。この論文では、外核の赤道上にトーラス構造が、地震波によって新たに見つかったということになります。
 トーラス構造は、コーダ波から見つかっています。コーダ波を説明するには、地震波の分類を説明しておく必要があります。
 地震波には、表面波と実体波があります。
 表面波とは、文字通り地球の表面を伝わる波です。少々変わった地震波で、固体と気体、あるいは固体と液体の境界だけを伝わっていく波です。主には地殻の表層(地表と大気の境界、海底と海の境界など)を伝わりますが、特徴は周期が長く、振幅幅も大きいものになります。伝わり方により、レイリー波やラブ波などに区分されます。レイリー波は、地表が上下方向に楕円を描くように振動します。ラブ波は、地表に対して平行に、進行方向に対して垂直に振動します。
 今回のコーダ波は、実体波に分類されます。実体波は、いつも感じている地震の揺れをもたらすものが代表です。P波とS波があります。P波はもっとも速い地震波(5~7km/秒)で最初に伝わる揺れで、初期微動などとも呼ばれます。進行方向に平行に振動する波で、固体、液体、気体を伝わリます。S波は、P波に比べて速度が小さい(3~4km/秒)のですが、揺れは大きく、主要動と呼ばれます。ただし、固体しか伝わらないという特徴があります。
 多くの地震波の研究は、地震発生後、1時間ほどで世界中に伝わるP波とS波に関するものです。ところが、実体波には、ほかにも後続波と呼ばれるタイプのものがあります。後続波は地球深部の探査に利用されています。その後続波のひとつに、コーダ波があります。少々長くなってきたので、コーダ波の詳細は次回としましょう。

・コーダ・
コーダ(coda)はイタリア語で「尾」を意味しています。
そこから、楽曲の最後に付けられる
終結、締めくくりを指す部分の名称として使われています。
コーダ波は、主な地震波のあとに現れ、
波形の最後にくっついています。
その様子から地震波の区分にも用いられました。
ただし、音楽のコーダは本体より短いのですが
コーダ波の継続時間は、本振動より長くなっています。

・晩秋から冬へ・
11月初旬に降った大雪は
その後、すべて溶けてしまいました。
紅葉の名残りも少なくなり、
多くの木々が葉を落としました。
季節は、晩秋から冬にむかっています。
そんな矢先、週のはじめには寒波到来で
また雪が少しですが降りました。
大学も後期の折り返しを過ぎました。
落ち着いて授業が進んでいます。

2024年11月14日木曜日

3_224 内核の回転 3:後退運動

 内核が回転していること、運動は一定ではなくブレがあることは、以前から知られていました。今回の研究で、内核の回転が、ここ10年ほどで後退していることがわかってきました。


 いよいよ観測の結果を紹介していきましょう。20年以上に渡った地震波の観測値を用いたことから、経年変化が読み取ることができました。
 同じ震源からの複数の地震波を観測することで、昔のものと一致するような地震波を発見しました。このような一致から、内核がマントルに対して、過去と同じ位置に達したと区別できました。その結果、数年から数10年かけて回転の変化が読み取られてきました。
 内核は2003年から2008年にかけて、一回りしました。その後、2008年から2023年にかけては、同じ経路をゆっくりと回転していることがわかりました。回転速度が、2分の1から3分の1くらいになっています。2010年ころから減速がはじまり、後退(backtracking)と呼ばれる状態になっていることがわかりました。ここでいう後退とは、地表からみて、自転より遅れる状態になっていることです。
 このような内核の回転速度は変化は、以前の研究でも知られていました。また、後退していることも知られていました。そのような変動が、自転軸を中心に8.5年の周期で起きているらしいこともわかっていました。後退の現象は、ここ40年間は起こっていませんでしたが、今回、後退が見つかりました。
 巨大な内核の運動が、急激に変化することが示されましたが、その原因は、まだ不明です。液体の鉄の外核の中に、固体の鉄の内核が浮いている状態です。その運動を左右するには、かなり大きな力、エネルギーが必要となるはずです。
 その候補に、外核の対流の変化が考えられます。もし外核の対流のパターンに変化が起これば、地磁気への変化も起こるはずです。あるいは逆に地磁気の変化が、外核に対流に変化を及ぼし、内核の回転にブレーキをかけたのかもしれません。
 今回の研究の後退という結論についても、今後、議論が進むことでしょう。内核の運動は、地球の自転に影響があるはずです。内核の回転が遅くなっているのであれば、自転も遅くなっているはずです。その変化は非常に小さいでしょうが、もしかすると観測できるかもしれませんね。そうなれば、後退現象が事実と認定できるでしょう。

・大雪・
先週はじめに、近くの山並みに
初冠雪を見たと思っていたら、
里にも初雪が降りました。
シーズンのはじめの雪としては、
積雪量が多くて、驚きました。
いつもお世話になっている
自動車の整備工場にいって
冬タイヤに交換してもらいました。
週末になっても、まだ溶けません。
今年の初雪は大雪となりました。

・続けて医院へ・
今週の前半は、医院に続けていきます。
検査とその結果を聞くこと、
常用薬をもらうことになります。
医院はたいてい混んでいるので、
曜日や時間帯を考えていかないと
何時間も待つことになります。
選んでいっえも、半日仕事になります。
医者にかかるにも体力が必要です。

2024年11月7日木曜日

4_189 登別:噴気と紅葉

 今シーズン最後の野外調査で、登別からオロフレ峠、美笛峠、支笏湖という山岳ルートを巡りました。火山地質を観察したのですが、周辺は秋の紅葉でした。紅葉も山や峠では終わっていましたが。


 今シーズン最後に、1泊2日で、登別からオロフレ峠を超えるルートの調査にいきましました。10月になって、一度道内各地で初雪が見られました。10月下旬なら、山では雪が降ってもおかしくないので、峠越えも、今シーズン最後の時期かもしれません。
 初日は、札幌周辺は冷たい雨でした。登別に向かうと晴れ間があったのですが、午後からは時々雨が降る天気でした。登別の火山地帯は地獄谷と呼ばれているのですが、時々雨が降る中を傘をさして、調査となりました。
 登別温泉は、古くからある温泉地で、かつては鉄道も通っていました。湧出量が多く、いろいろな成分の温泉が出ていることで有名です。泉質としては、硫黄泉、食塩泉、明ばん泉、硫酸塩泉、緑ばん泉、鉄泉、酸性泉、重曹泉、ラジウム泉の9種があります。泊まったホテルでも、硫黄泉、食塩泉、鉄泉の3つの温泉がありました。
 登別で有名な地獄谷は、観光ルートが整備されていて、噴気口も湧水、温泉の流れもあります。寒い雨でしたが、噴気もよく見ることができました。泉質の異なった温泉が沢で合流しているのが、色の違いとして見ることができます。火山と温泉を観察するにはいいところです。
 この日の雨も山でも雪にならず、翌日は幸い晴れてきましたので、オロフレ峠を越え、美笛峠から支笏に入ることにしました。オロフレ峠は、これまで通ったことがなく、はじめての峠越えになりました。
 このコースは、山が深く、ところどころに温泉が湧いて、温泉宿もあります。山や峠では、紅葉はほとんど終わっていました。ところが、支笏湖周辺だけは、紅葉がまだきれいに見ることができました。湖畔周辺だけ、紅葉が遅れていて、不思議でした。平日でしたが、紅葉を見に、多くの観光客が訪れていました。
 登別からオロフレ峠、支笏湖周辺は、火山が作った地形です。活火山も多数あります。火山岩、火山砕屑物からできています。多数の観光客が訪れる火山と温泉の景勝地となっています。

・本当に最後の野外調査・
年度当初の研究計画では、
この調査は予定していませんでした。
9月の調査で、今シーズンは終わるつもりでした。
調査終了時に、研究費が少し残っていました。
そのため、1泊2日の調査に出ることにしました。
日程を調整していたら、
10月の下旬になってしまいました。
火山の調査でしたが、
周辺は紅葉の名残もあり、景色も堪能しました。

・サーバ停止・
このエッセイのホームページは廃止しました。
大学のサーバが10月末に停止したためです。
2012年から情報処理課にサーバを
保管していただいていました。
古いOSがかなり古くなり、
セキュリティの更新ができず、
機材の更新か廃止を迫られました。
12月一杯で廃止予定でしたが、
10月末に廃棄することとなりました。
そのためホームページでの公開は
急遽、終了となりました。
ブログは継続していますので、
バックナンバーも見ることができます。

2024年10月31日木曜日

3_223 内核の回転 2:ペアの地震

 地震波には、液体も伝伝わっていくものがあります。そんな地震波から、外核を通り内核の情報もえられます。ひとつの地震でも、いろいろな経路を経ているものがあります。そんな地震を利用して、内核の解析が進められました。


 地球内部には、液体の鉄(外核)の中に、固体の鉄(内核)が重力によってその位置に固定はされています。ただ、液体の中にある固体なので、浮遊状態でもあるので、動きやすい状態になっています。
 ワン(Wang E.)らの共同研究として、ネイチャー誌に2024年6月12日に
  Inner core backtracking by seismic waveform change reversals
  (地震波形の変化の反転によって逆回転する内核)
という論文が報告されました。この論文は、内核の運動を調べたところ、逆転していることがわかったというものです。
 核の内部は、液体も通過する地震波(P波)を用いて観測することができます。以前から核の内部は観測されており、内核にもいくつかの構造があること、地球の表面に対して、回転していることも知られていました。
 この報告では、1991年から2023年の間にサウスサンドウィッチ諸島で発生した地震のデータを集めています。サウスサンドウィッチ諸島は、南米と南極半島の間のドレイク海峡の東にある列島です。この列島は、大西洋の海洋プレートが沈み込んでいるため、地震が多く発生します。そして、内核を通った地震波が観測できる位置に、ちょうど北米大陸があります。内核を貫通する地震波(PKIKP波と呼ばれています)を、北米大陸の北部にある地震計群で観測しました。
 起こった地震がひとつであっても、外核や内核の内部で異なった経路を通った成分が含まれています。それを見分けていくことで、より詳しい核の情報を読み取ろうとしています。
 サウスサンドウィッチ諸島の42地点で起こった121個の地震から、はっきりとした143組のペアとなっている地震を見つけています。その中には、3から7通りの経路をもった地震も16件、見つかっています。
 それらを分析して、内核が逆転しているという現象を発見してます。その詳細は次回としましょう。

・アイディア勝負・
地震波は地球内部を調べるための有効な方法です。
地球内部を、深部まで調べることができます。
そのためには地震が起こる必要があります。
地震は、自然現象なので、いつ起こるかわかりません。
発生する地震任せに見えますが、
規模を問わなければ、沈み込み帯や海嶺、衝突帯など
プレート境界と呼ばれるところでは
しょっちゅう地震は起こっています。
常時観測と情報ネットワークの体制があれば、
データは自動的に入手できます。
そうなると後はデータ解析の手法や
アイディアの勝負となります。
今回紹介している論文のそんな一つです。

・峠越え・
このエッセイは予約配信しています。
今週初めに1泊2日で調査に出ました。
今年最後の野外調査になります。
山間の峠を通るルートを
予定しているので、雪が心配です。
山では積雪のニュースが流れました。
我が家の車は、まだ冬タイヤには交換していません。
もし雪なら峠越えのルートは、
変更することになります。
当日の天候次第ですが。

2024年10月24日木曜日

3_222 内核の回転 1:液体と固体の核

 核のシリーズの第三弾となります。シリーズごとに、地球の奥深くに入ってきています。今回は、内核の実態を解明したという論文を紹介していきます。まずは、内核の地球における意味を考えておきましょう。


 このシリーズからは、内核の話題となります。核全体は金属鉄できていますが、内核は固体の鉄で、外核は液体の鉄を主成分としています。外核の外側には、岩石できたマントルや地殻があります。鉄と岩石が別れているのは、地球のでき方によると考えらえています。
 太陽系初期には、多数の小天体が衝突合体が起こり、原始惑星ができます。その時、惑星は高温状態になっていきます。小天体の中に含まれていた鉄の成分は、溶けて金属鉄となりますが、岩石と比べて密度が大きいため、地球の中心に向かって落ちていきます。
 その結果、地球の中心部に、液体の金属鉄の核ができたと考えられます。地球形成時に集まってきた熱が、液体の金属鉄の状態で地球内部に蓄えられたことになりました。
 マントルは岩石ができており、断熱効果が高くなっています。核の熱は、そのまま核内に保存されやすい条件となります。ところが、マントルは、対流やプレートテクトニクスにより、物質の移動が起こっています。物質移動に伴って、内部の熱い物質が地球表層で冷やされることで、熱が外に向かって移動していくことになります。地球全体としてみると、形成時の熱が、少しずつ地球外に放出されていることになります。
 外核が液体で、内核が固体の鉄になっています。この相の違いは、金属鉄の密度の差で説明できます。ほぼすべての物質(H2Oは除く)は、固体の密度が液体より大きくなります。そのため、核内でも液体金属の鉄が結晶化すると、固体の鉄ができ、密度大きいため、中心部に向かって落下していきます。
 マントルへ対流により核から熱が運ばれて、核の冷却が起こります。液体の物質で温度が下がっていくと、結晶化が起こります。冷却が進むと、固体の鉄が中心に集まり、固体の内核が成長していきます。
 液体の金属鉄は、地球の自転に伴って対流することで、電流が起こって地場を発生します。これが地磁気の原因だと考えられています。
 核は、液体の中に固体があることになります。固体の部分は重力により中心に固定されていることになります。では、内核は、地球の自転や外核の対流などの影響は受けていないでしょうか。
 それに関する報告が出されました。それは次回としましょう。

・秋の深まり・
秋も深まり、紅葉も進んでいます。
朝夕の冷え込みも厳しくなってきました。
そろそろ初雪の報告がありそうです。
今月末に今シーズン最後の野外調査に出ます。
それま山に積雪がなければいいのですが。
積雪があると露頭が見づらくなります。
山なのでしかたがありません。
しかし地殻に温泉があるので、
冷えた体を温めることができるでしょう。

・研究計画・
後期の講義も5週目になってきたため
大学も落ち着てきました。
落ち着いた状態での日常が過ごせています。
研究は順調に進んでいます。
今年度で退職なので、論文も著書の執筆も
これが最後と思い進めています。
いずれも順調に進捗しているので、
今後もこのまま進めていければと思っています。
とはいっても、もうかなり進捗しいるため
次年度以降の研究計画を考えていこうと思っています。

2024年10月17日木曜日

3_221 最外核の水素富化層 4:水素に富む層

 合成実験の結果、核物質がマントルの含水鉱物と反応することがわかってきました。反応により核物質は、密度が小さく、地震波速度が遅くできることがわかってきました。これがE"層になると考えました。


 マントルの含水鉱物と核の鉄ケイ素の合金が、どうのような反応したのでしょうか。高温高圧実験の結果を紹介していきましょう。
 マントルの含水鉱物の中にある水の成分(とはいっても、水酸基OHとなっていますが)が反応します。核のケイ素が酸素と結びつき酸化ケイ素になり、鉄は水素と結びついて鉄水素合金(FeHx)となることがわかってきました。それぞれの成分が、反応により、別の結晶になっていくということです。
 マントルと核の境界で、マントルの水(OH)と核の最上部の物質(Fe-Si)と反応が起これば、核の最上部、もしくはマントル-核の境界に、酸化ケイ素と鉄水素合金ができることになります。合成実験は境界部の条件で実施しているので、境界部にそれらの結晶が安定に存在する可能性を示しています。
 その部分を、キムらは論文のタイトルあるように「水素富化層(hydrogen-enriched layer)」と呼びました。この層ができると、密度が小さくなってき、地震波速度も遅くなってきます。
 前回紹介したように、マントルの最下部にはD"層が広く分布していることが明らかにされてきました。D"層は、境界に沈み込んだスラブだと考えられるので、含水鉱物が境界部の存在していると考えられます。プレートテクトニクスが古くからはじまっていれば、沈み込んだスラブとして含水鉱物が定常的に核-マントル境界に送り込まれることになります。物理化学的条件さえ整っていれば、この実験の反応が起こり、核の最上部にE"層が広くできている可能性があります。もしかすると、地球全体に広がっているかも知れません。これが、シリーズの最初に紹介した、E"層の実態ではないかという報告になります。
 もしそうのような状態になっていれば、詳しい地震波の解析ができれば、検知できるかもしれません。今後、E"層の実態のより正確な解明が必要でしょう。また、D"層とE"層との関係、あるいは両層の相互作用の解明が必要になるでしょう。両者がいつできたのかなども、問題になってくるでしょう。
 地球深部には、まだわからないことが多々ありますね。

・秋の風物詩・
10月中旬なって北海道では秋が深まってきています。
紅葉も落葉も進んでいます。
自宅では、何度かストーブも炊きました。
冬への準備としてエアコンの雪囲いもしました。
まだ雪虫の大群は見ていません。
毎日のように自宅も研究室でも
冬ごもりするカメムシの大群の襲撃を受けています。
脅かさないように、穏やかに退散を願っています。

・最後の調査・
9月の野外調査を終えて、
研究費が少し余っています。
今月末に1泊の調査に出ることにしました。
遠出も長期もできないので、近場での調査にしました。
紅葉が進んでいるでしょうが、寒さも同時にあるので、
山地での野外調査もそろそろ最後になります。
紅葉を楽しみながら、今シーズン最後の調査を
味わってこようと思っています。

2024年10月10日木曜日

3_220 最外核の水素富化層 3:工夫された試料

 核とマントルの境界を想定した高温高圧実験が進められました。核もマントルも、想定される組成の試料ではなく、工夫を凝らした成分を用いています。そんな成分を用いたのには、どのような目論見があるのでしょうか。


 キムらは、タイヤモンドアンビルを用いて、E"層を再現する実験をしました。外核のもっとも上部と、マントルの最下部の境界の条件での実験となります。用いた試料は、核を想定した鉄と、マントルを想定したケイ酸塩鉱物を使っています。ただし、いずれの試料にも、純粋な金属鉄やケイ酸塩ではなく、工夫が凝らされています。
 核を想定した試料は鉄だけでなく、鉄とケイ素の合金にしています。これは、核の最上部は、地震学のデータからは、純粋な鉄ではなく、鉄とニッケルの合金(鉄:90%、ニッケル:10%)ですが、それより密度が小さいことがわかっています。つまり、密度の小さい元素が混じっていることがわかっています。その候補として、水素や炭素、酸素、イオウ、ケイ素などが考えられていますが、いずれかはまだ決着を見ていません。しかし、この実験では、ケイ素を用いています。
 マントルはカンラン岩からできています。マントルのカンラン岩も、深くなるほど、より高密度の結晶に変わったケイ酸塩鉱物の組み合わせへとなっていきます。ところが、実験ではケイ酸塩だけでなく、含水鉱物(ケイ酸塩やアルミケイ酸塩などで水酸基を含む鉱物)を用いています。
 含水鉱物にしているのは、スラブを想定しているためです。スラブとは、海洋プレートが海溝で沈み込んだものです。スラブは、海洋地殻とマントル物質が混じったものになります。上部・下部の境界のマントル(遷移帯と呼ばれています)でいったん滞留した後、マントル下部へと落ちていくと考えられています。
 スラブには海洋由来の水の成分が混じっている可能性があります。ただし、水といっても、岩石の隙間などに含まれているもの(間隙水)は、高温高圧でなくなっているので、結晶水として鉱物に組み込まれている必要があります。結晶水、つまり含水鉱物として、地球深部まで持ち込まれることになります。ただし、どのような含水鉱物かは、明らかになっていません。
 核もマントルの物質のいずれも、未知の部分があります。しかし、いずれも仮定の上で実験は進められています。核では、軽元素をケイ酸と考え、鉄とケイ素の合金を用いています。マントルでは、含水鉱物をを含んだケイ酸塩鉱物としています。両物質が、核マントル境界の条件で反応したらどうなるかという実験です。そこから、E"層の実態に迫ろうという目論見です。
 次回で、いよいよ実験の結果を見ていきましょう。

・梱包作業中止・
本の入稿が終わり、初校の戻ってきました。
今週中に修正をして、
来週早々にもどす必要があります。
これが最優先の作業となります。
また、これまで集めた砂の試料が
博物館で引き取ってもらえることになりました。
試料の発送のための荷造りも必要になりました。
大量の重い荷物になるので
家内にも手伝ってもらうことにしていす。
先週をこの荷造り作業を実施する予定でしたが
体調不良で中止しました。
できれば今週にしたいのですが、
どうなるでしょうか。

・体調を考えて・
最近、体調不良や健康診断での再検査など
医者に通うことが多くなっています。
常用薬も3種となってきました。
年相応ということなのでしょうが、
無理ができなくなります。
ところが研究へと意欲と
成果の生産量は衰えていません。
いや年齢とともに増えてきているように思います。
ただし、これも定年をすると一段落になるので、
抜け殻状態になりそうです。
退職後の準備も怠りなく
ソフトランディングをするように
考えていかなければなりませんね。

2024年10月3日木曜日

4_188 白神岬:付加体での変動

 北海道の最南端の白神岬は、津軽海峡を挟んで本州に面しています。白神岬には、不思議な岩石が分布しています。海でできた石、陸でできた石、境界で起こった激しい変動が記録された露頭があります。


 9月中旬に、道南を巡りました。夏の暑さはおさまっていたのですが、秋にはまだ早い時期でした。函館から松前に向かうときには、いつも白神岬の駐車場に車を止めて一休みします。白神岬からは、天気がよく空気が澄んでいると青森の津軽半島が見えます。
 ただ、この白神岬はわかりにくく間違いやすいところです。松前に近いところに、大きな駐車場とトイレのある「白神展望広場」があります。しかし、いつも立ち寄っている白神岬は、トンネルの手前の狭い駐車場のあり、「北海道最南端」の石碑があるところです。
 天気がよければ、海岸への階段があるので、降りて石を眺めます。この周辺では、付加体でみられるタービダイトと海洋プレート層序がバラバラのメランジュになった岩石が見ることができます。
 ここで、付加体、タービダイト層、海洋プレート層序、メランジュという聞き慣れない地質学の用語がいくつも出てきましたが、少し説明しいきましょう。それがこの海岸に来る理由になります。
 海洋プレートが海で沈み込むとき、沈み込まれた側に、日本列島のような火山活動の盛んな列島(島弧と呼ばれています)が形成されていきます。海洋プレートが沈み込むときに圧縮の力が働くため、海溝と島弧の間の海底に、「付加体」ができます。その付加体を構成しているのが、「タービダイト層」と「海洋プレート層序」になります。それらの岩石が、圧縮に力で砕かれてぐしゃぐしゃに入り混じった状態を「メランジュ」といいます。もう少し詳しく説明していきましょう。
 陸地の島弧では、山地ができ、河川などの侵食によって土砂(砕屑物といいます)が海に運ばれ、海岸沿いにたまっていきます。稀に起こる地震などを契機にして、さらに稀に大きな海底地滑りが起こり、大陸棚を土砂が流れ下ることがあります(タービダイト流)。その結果、大陸斜面の海溝近くに、粗い粒の砂から細かい泥まで粒が並んだ一層の堆積層ができます。タービダイト流が長い時間をかけて何度も繰り返されると、砂から泥の堆積層が繰り返される地層(砂泥互層)ができます。それがタービダイト層となります。
 一方、海側では、遠くの海嶺での玄武岩質のマグマ活動によって海洋プレートができます。海洋プレートは、海底表層ではマグマが水中で急冷してできる特徴的な構造をもった玄武岩(枕状溶岩)からできています。海洋プレートが海底を移動していくと、その上にプランクトンの死骸が降り積もり堆積物(層状チャート)となります。海溝に近づくと陸からの堆積物がチャートに混じってきます(半遠洋性堆積物、珪質泥岩という岩石)。
 海洋地殻の上部の玄武岩に、層状チャート、珪質泥岩と重なった地層群が、海溝近くにはできてきます。これを海洋プレート層序といいます。海溝になると圧縮ために付加作用で、陸側のタービダイト層と海側の海洋プレート層序がともに付加体になっていきます。付加体がさらに圧縮で破壊されたものが、メランジュとなります。それらの岩石がメランジュとして白神岬に分布しています。
 この地域の層状チャートから三畳紀の化石(コノドント)が1980年に見つかり、北海道の付加体研究に重要な役割を果たしました。白神岬では、狭い海岸なのですが、堆積岩や火成岩などの他にも付加体やメランジュの複雑な構造も見られます。
 なんといっても、白神岬には、さまざまな岩石が、時にはぐしゃぐしゃにされた露頭は、大地の変動の感じさせてくれます。

・冬支度・
北海道は9月下旬から一気に秋めいてきました。
気温が下がった夕方には
一度ストーブをたいたことがありました。
その後、また暖かくなってきました。
夏に使ったエアコンはもう使わないので
室内機にカバーを掛け、室外機の雪よけの枠を自作し
そこにビニールシートをかけて冬支度としました。
秋から冬の支度をするようになりました。

・カメムシ・
秋が深まると、カメムシが冬ごもりのため
雪の影響のない暖かいことろを求めて、
家に侵入しようとしてきます。
家内が毎日、窓のいるカメムシを
多数、外の追い出しています。
しかし、注意しないと嫌な匂いを出すので
穏やかに引き取ってもらっています。

2024年9月26日木曜日

3_219 最外核の水素富化層 2:ダイヤモンドアンビル

 E"層は、地球のかなり深部になるので、非常に高温高圧の条件になります。そのような条件で実験を進めていくことになります。どんな装置で実験をしていくのでしょうか。


 最下部マントルと外核の境界は、超高温高圧となっているため、通常の実験装置では、再現がしがたい条件となります。特殊な装置を利用することで、その条件を達成していきます。
 その装置とはダイヤモンドアンビル(Diamond anvi)と呼ばれているもので、聞き慣れないものです。ダイヤモンドとは、皆が知っている宝石のことです。アンビルとは、もともとは金床(かなとこ)という意味で、ダイヤモンドを支える台座を意味します。つまり、ダイヤモンドを台座として高温高圧を発生する装置となります。
 タイヤモンドアンビルだけは、手のひらほどの小さな装置で高圧を発生できます。それはダイヤモンドが小さいためと、圧力発生する仕組みが小型であるためです。
 圧力の発生は、通常は巨大なピストンで押し付けていくため、高圧を発生するのに、大きな装置が必要になります。しかし、単純な原理で小型にする方法があります。
 圧力をかけたとき、かかる場所の面積によって圧力のかかり方は変わってきます。同じ圧力でも、かかる場所が広ければ単位面積当たりの圧力は小さくなり、狭ければ狭いほど大きくなります。したがって、ハイヒールで踏まれたり、針で刺されると、非常に痛いものです。それは狭いところには、非常の大きな圧力がかかるためです。
 2個のダイヤモンドの細い先端を少しだけ平らに削り、その狭い面同士を合わせたところに試料を入れます。その2つのダイヤモンド全体を、ネジで締めていけるようなジグを用います。ネジを締めていくと、合わせ面にすごい圧力が発生します。
 この装置の有利な点は、圧力をかけた状態で、レーザ光線で加熱していきます。ダイヤモンドは透明なのでレーザやX線を当てて、高圧状態で物質の性質を調べることができます。ただし、面積が小さいので、実験に使える試料も少なくなります。また、実験に用いるダイヤモンドは高価なものなので、それなりの経費が必要になってきます。
 キムらの研究では、タイヤモンドアンビルを用いて、外核のもっとも上部の条件を再現しました。その結果は次回としましょう。

・7回目の調査・
9月には2度の野外調査をしました。
幸いにも、天候にも恵まれて
予定してた通りに進めることができました。
申請時の計画では
すべてで7回を予定していたのですが、
予算的にはもう一回は厳しくなっています。
そのため、最後だと思っています。
少しだけ予算が残っているので
近場に重要な地点を見つけて、
1泊の予定で調査をしようかと考えています。
しかし、だいぶ先のことになりそうですが。

・パソコン更新・
メインのパソコンを9月に更新しました。
多様なソフトや大量のデータを使っているため、
メインとなるパソコンを入れ替えるためには
長い時間が必要になってきます。
問題は、新しいシステムになると
古いアプリケーションが動かくなることがよくあります。
アプリケーションの設定のやり直しも
アプリケーションの数だけあるので
手間もいっぱいかかります。
8月に購入していたのですが、
切り替えに時間がかかるので、
時間的余裕のできる9月に
更新することにしました。
いろいろなことが重なっているため
9月は忙しい日々となります。

2024年9月19日木曜日

3_218 最外核の水素富化層 1:E"層

 前回のシリーズはD"層についてでした。今回のシリーズは外核のE"層についてのシリーズです。E"層とは、現在あまり使われていない名称ですが、外核のもっとも外側の部分のことです。E"層の様子を探る研究が報告されました。


 前回のシリーズでD"層についての実態解明が、なされつつあることを紹介してきまた。核とマントルの境界付近には、まだよくわかっていないE"層と呼ばれる層があります。ところが、E"層は、あまり使わわれていない名称です。
 E"層の名称の由来を紹介しておきましょう。かつて、地震波による地球の内部を、地表からA層(地殻)、B層(上部マントル)、C層(マントル遷移層)、D層(下部マントル)、E層(外核)、F層(外核と内核の境界)、G層(内核)の7層に区分されてきました。外核がE層となり、E層のもっとも外側をE"層として区分され呼ばれています。
 今回紹介するのは、E"層の実態を明らかにしようとして研究がされました。アリゾナ州立大学のキム(T. Kim)さんたちの研究グループが、2023年11月13日発行のNature Geoscience誌に、
A hydrogen-enriched layer in the topmost outer core sourced from deeply subducted water
(深くに沈み込んだ水から供給された最外核の水素に富んだ層)
という論文を報告しました。
 この論文内で、E"層という名称が使われています。D"層同様に、最外核でも地震波が遅くなる領域があります。数十~数百kmの幅を持っているため、E"層と名付けられています。
 外核は、地球の深部で溶けている金属鉄を主成分とし、マントルはケイ酸塩からなるため、化学的特徴が非常に異なっています。そのため、この境界部は非常に特別なものです。マントル側はD"層として研究されてきているのですが、E"層はあまり研究がされていませんでした。高温高圧の条件であることもさることながら、化学的特徴が異なるため、実験も難しくなっています。
 今回の論文では、その境界の実験を進めています。どのようは工夫をしているのでしょうか。詳細は次回としましょう。

・シリーズが3つ連続・
いくつかの重要だと思える核に関する
論文がたまってきています。
それを順番に紹介していくことにしました。
前回も今回も含めて、
核やマントルの境界に関する論文3つを
連続のシリーズとして紹介していくつもりです。
核はその存在は古くから知られていたのですが
研究方法がなかなか開発できず、
最近になって研究が進むようになってきました。

・野外調査中・
現在、野外調査中なので、
このメールマガジンは予約配信しています。
来週からは、後期がはじまるので、
野外調査が集中して進められるのは9月だけです。
そのため、9月が忙しくなります。
さらに今年度で退職なので
校務としての野外調査も最後になります。
噛み締めながら、野外調査を進めています。

2024年9月12日木曜日

3_217 外核とマントル最下部 3:D"の広がり

 この研究で、南半球のD"の様子を観測がされました。これまでの知見を塗り替えるようなものが、見つかってきました。問題は、なぜそうなっているのかです。ここから科学がはじまりそうです。


 ハンセンたちの研究チームは、手薄な南半球の地震波を計測するとにしました。しかし南半球は海が多いため、南極大陸に15箇所の観測点を設置しました。そして、3年にわたってデータを収集していきました。
 その結果、南半球のマントルの底には、広範囲にD"(超低速度帯ULVZと論文では呼ばれています)が発見されました。D"は、これまで考えられていたよりも、ずっと広範囲に広がっていることがわかっていました。
 さらに、D"の厚さは濃度はさまざまですが、マントル下部全体に広がっている可能性もでてきました。これまでD"はないとされていたところも、薄いものがあるかもしれません。
 D"の由来は、沈み込んだメガリスがあります。これは低温のD"となります。ところが、南半球には、海が多いのですが、海洋プレートがマントルに大量にもたらすような沈み込み帯が、多くはありません。では、この南半球の広範囲のD"、あるいは全地球のマントルの底に広がるD"は、いったいどこから由来したのでしょうか。
 沈み込んだメガリスが、マントルに底を流動しているかもしれません。そのようなことが起こりうるでしょうか。シミュレーションや岩石の高温高圧での物性に関する研究が、さらに必要でしょう。
 一方、D"には温かいものもあります。これは、古いメガリスが温まったものという考えがありますが、別の可能性も指摘されてきました。外核は液体の鉄で活発な対流をしています。その対流とともに、液体の鉄に含まれている成分で、岩石に取り込まれやすい成分(親石元素)や揮発成分(水素、酸素など)が、マントルの岩石に反応して取り込まれたという考えもあります。そのような成分を含んだマントル物質も温まり地震波が低速度になっていくと考えられています。
 またマントルの岩石が、外核に対流の熱によって、少し溶融しているとも考えられます。少し溶融してていても、地震波速度は小さくなります。
 D"の実体が少し鮮明なってきました。しかし、まだまだわからないことがいろいろあります。ここから、新しい科学がはじまっていくことになりそうな予感がします。

・野外調査・
9月の新学期がはじまります。
野外調査を連続的に進めています。
その傍ら、本の執筆の最終段階を進めています。
9月は研究を進めることがいろいろあるります。
その他に後期の校務も9月から
本格的にスタートしました。
忙しくて、あっという間に
9月は過ぎていきそうです。

・9月は忙しい・
8月上旬に購入していた、
新しいPCのセットアップを
9月に入って進めています。
このPCは、退職後に使うためのもので用意しました。
小型のコンパクトなものです。
小さいですが、新しいシステムになります。
するとそこでは動かない
アプリケーションがいくつもあります。
工夫でなんとなるのか、
それとも、諦めて代替のものを探すのか。
その判断もしていかなければなりません。
9月は忙しいです。

2024年9月5日木曜日

4_187 フォルンフェルスの付加体

 道南瀬棚の海岸には、花崗岩と付加体の堆積岩が接しているところがあります。その露頭は、新しくできた道路の入口にあります。なかなかの見ごたえがある露頭なので、何度が訪れています。


 北海道の南部、瀬棚町には、海岸を辿る道道740号線があります。この地域には、何度も出かけていいます。以前は、いくつかのトンネルはできていたのですが、一部開通していないところがあり、不通の道路で通り抜けることができませんでした。この間、陸側に国道229号線があるので、日常生活には不自由はなかったのかと思います。
 開通前は、南側が太田神社にあるトンネルの入口まで、北側が鵜泊(うどまり)漁港までで、それぞれバリケードがあり、通行止めになっていました。両地は、バリケード付近まで、昔から生活の場がありました。
 大田神社の本殿は、海を遥か上から望む崖の上にあります。そこにたどり着くためには、急傾斜の石段があり、その踏み面も狭く、足を横にしないと登れないほどです。安全のために何本かのロープがあり、それを掴んで登っていくことになります。この大田神社の本殿周辺はジュラ紀の付加体が分布していますが、海岸にある拝殿の周辺は、白亜紀の花崗岩が分布しています。ちょうと付加体と花崗岩の境界にトンネルがあります。
 興味深いのは、北の鵜泊の方でした。こちら側には、漁港に海岸にジュラ紀の付加体が分布しています。激しく褶曲したタービダイト層が、海岸沿いに分布しています。ここの地層は、すぐ南に広がっている白亜紀の花崗岩類の熱によって接触変成作用を受けています。見かけは堆積岩のままなのですが、固くなったホルンフェルスと呼ばれる接触変成岩になっています。
 付加体のよく見える海岸に出るには、漁港の水産物処理場の裏にでなければなりません。許可をもらって見にいくことになります。残念なことに、こんな見事な、地層がでているのですが、海岸には処理場の廃液が流されているために、ひどく汚く臭う状態になっています。しかし、写真には臭いは映りませんので、画像をたくさん撮影しました。
 海岸沿いは、硬い花崗岩が分布する地域で、海岸まで切り立った崖となっています。大田神社と鵜泊の間は、硬い岩石を掘り進めなければならないので、多数のトンネルが掘削しなければなりません。そのため、工事が遅れていました。
 工事中の区間は、2013年に開通しました。開通後、しばらく瀬棚の方には出かけていなかったのですが、コロナ終了後、瀬棚方面から海岸沿いを訪れました。そのとき、やっと開通区間を通ることができました。ただ、当日は吹雪いていたため、調査はできずに、通り抜けるだけでした。日本海からの季節風がひどかったのですが、トンネルが多かったので、安心して通行することができました。
 その後、2度ほどこのルートを通りました。今年の春にも調査をしました。漁港の海岸にあるフォルンフェルスへも再訪しました。この9月中旬にも通る予定です。トンネルが多くて露頭を見れるところは少ないですが、それでも海岸沿いを進めるのはいいですね。

・予約配信・
本エッセイは、予約配信をしています。
月の初めのエッセイは、
地球地学紀行をテーマとしています。
今年で退職ですので、
北海道を中心に野外調査を進めています。
7、8月は暑いので調査は休んでいました。
9月早々に再開をしました。
5泊6日で道東に調査にでています。
移動距離が長いので、
調査の日程が長めのほうが有効です。
以前、道外に長期の調査にでていたのですが、
最近は北海道中心に進めています。

・いろいろと調整を・
長期の調査にですためには、
出かける前には、不在時の時の分も
研究や校務を計画的に進めて
いかなければなりません。
会議や打合せも調整しておきます。
今年度で退職なので
こんな苦労も最後になりそうです。

2024年8月29日木曜日

3_216 外核とマントル最下部 2:D"の由来

 プレートテクトニクスでは、海洋プレートが沈み込んで、マントル対流が起こると考えられています。その実体は複雑なものです。沈み込んだ海洋プレートの行方はマントルにとどまり、やがてマントルの底にたどり着きます。


 前回、核とマントルの境界(CMB)にある不思議な層について紹介しました。その層は、D"(Dダブルプライム)と呼ばれています。D"は、薄い領域(厚さ5~50kmほど)で、境界に連続した層となっているわけではありません。領域として、境界部の部分的に、その存在が分散していると考えられていました。
 D"は、地震波速度が異常に小さくなっている領域なので、超低速度帯(Ultra Low velocity zones ULVZと略されています)と呼ばれることがあります。実体としては、沈み込んだ海洋プレートだと考えられています。ただし、その履歴は複雑なものになっています。その履歴をみていきましょう。
 海溝で沈み込んだ海洋プレートは、マントルに入っていきますが、密度の釣り合うマントル遷移層に滞留します。海洋プレートがマントル内で滞留したものを、メガリスと呼んでいます。メガリスが、マントルにしばらく滞在していると、周辺のマントルの温度が高いため、温まってきます。温度変化のため、メガリス内の結晶が、より高密の構造に変わっていきます。その結果、メガリス全体の密度が、遷移層や下部マント物質より大きくなり、ある時バランスがくずれ、下部マントルの中を落下していきます。メガリスはやがてCMBに達します。
 このメガリス、つまり沈み込んだ海洋プレートが、D"だと考えられています。海洋プレートに由来しているため、上部マントル物質に海洋底堆積物や海洋地殻が混在した岩石となっています。高密度になっていたとしても、下部マントルとは、明らかに異なった物質となります。そして、地震波速度は、非常に小さい値をもつことで、超低速度帯として見分けられています。
 このD"が、CMBに長期間滞在することで、温まってくると、やがて周りより密度が小さくなってきます。そのため上昇しやすくなります。上昇するD"が、大きなマントルプルームとなります。
 現在、アフリカの大地溝帯をつくっているマントルプームと南太平洋のマントルプルームの2つができています。これが、プルームテクトニクスの重要な要素なっています。
 ただし、この上下するプルームは地震波で調べていくのですが、南半球のマントル最下部が、実は、まだ詳しく調べられていませんでした。なぜなら、南半球は陸地が少なく、地震波の測定が詳しくできていないためでした。
 アラバマ大学のハンセン(Samantha Hansen)とその共同研究者は、その地域を調べて、2023年4月「Science Advances」誌に報告しました。タイトルは、
Globally distributed subducted materials along the Earth's core-mantle boundary: Implications for ultralow velocity zones
(地球のコア-マントルの境界に沿った全地球的に分布する沈み込み物質:超低速帯との関連)
というものです。
 その詳細は次回としましょう。

・月末はバタバタと・
今週は、集中講義があったのですが
無事終わりました。
いくつかの校務があり、
査読論文の返却がありその締切があります。
本の最終修正も終えたいと考えています。
完成後、印刷屋さんと調整に入ります。
医者の検診も入っています。
9月上旬に野外調査を再開します。
1週間の長期になりますので、
その間の校務をすべて調整していき、
今週にすますべきことが多くあります。
少々バタバタしています。

・休みの日に・
週末には停電とネットワークの停止、
医者の診療などで、
土曜の午後から月曜日まで
2日半の間、不在となりました。
その間、自宅で日曜大工をする予定をしています。
壊れたブラインドをカーテンに交換して、
エアコンの室外機に木枠をつくり
その上にビニールシートをまいて
冬越としようと考えています。
さてうまくできるでしょうか。

2024年8月22日木曜日

3_215 外核とマントルの境界 1:異質な領域

 最近、核に関する報告がいくつかあったのですが、しばらく眠らせていました。そこで、今回3つの論文をまとめて、紹介していこうと考えています。まずは、外核とマントルに存在する不思議な層の話題です。


 地球深部は、直接岩石を入手して調べることができません。地震波を利用するころで、ある程度調べることができます。ただし、詳細に調べることは、なかなか難しいです。しかし地球の内部の概要は古くからわかってきており、地震波の詳細な解析で少しずつ、わかってきました。
 まず、地球の表層から、地殻、マントル、核という層構造を持っています。それぞれの構成物の密度や組成がかなり異なっているため、地震波速度の違いとして見分けることができます。
 それぞれの層は、さらに詳しく調べられて、区分されてきました。地殻は大陸地殻と海洋地殻に、マントルは遷移層を境界に上部と下部に、核は外核と内核に分けられています。
 大陸地殻は花崗岩(とその変成岩)、海洋地殻は玄武岩(斑レイ岩)からできています。マントルは、カンラン岩の仲間ですが、深くなると密度や温度が上がるために、より高密度の結晶に変わっていき、別の岩石になっていきます。そのような結晶の変化が起こるところが、遷移層となっています。下部マントルは高密度のカンラン岩(ペロブスカイトという鉱物が多い岩石)からでています。核は金属の鉄からできていますが、外核は液体の鉄、内核は固体の鉄となっています。
 観測技術が進んでくると、各層のそれぞれ違いも、地震波の詳細な解析から見分けられてきています。そのひとつに外核とマントル最下部の境界があります。かつてはグーテンベルク不連続面と呼ばれていましたが、現在ではCMB(core–mantle boundary)と略されることが多いようです。
 外核は液体の鉄でできており、マントルは固体の岩石からできています。この境界は、非常の大きな変化、違いがあるところになります。核が液体の金属の鉄からできているの対し、マントルは固体の酸化物の珪酸鉱物を中心としています。非常に異なった境界となっています。
 ところが、詳しくみていくと、両者の間に、異なった物質からできている領域があることがわかってきました。ただし、その領域は、明瞭は層となっていませんでした。
 その領域について、新しい報告が出されました。それは、次回としましょう。

・集中講義・
今週は集中講義を担当しています。
この講義も、今年が最後となります。
夏の暑い時期の講義になるので、
午前中は西向きの教室で
午後は東向きの教室で実施することにしています。
最近は教室にエアコンが入るようになったので
涼しい部屋で講義ができます。
それでも太陽が入らない教室がいいので
午前と午後で移動して実施します。

・復調・
だいぶ体調が戻ってきたので、
集中講義もなんとかこなせるかと思っています。
ただし、もともと集中講義は
4日間連続して実施するので、
体力的、精神的に疲れます。
声も枯れそうです。
連続した講義ならではの有利な点もあるので、
その良さを利用しています。

2024年8月15日木曜日

2_221 太陽系外生命の痕跡 3:パンスパーミア説

 惑星への小天体の衝突で、岩石が飛び出すことがあります。一部は、大きな惑星の影響で軌道をはずれ、恒星の引力も振り切って飛び出すこともあるようです。そんな微隕石が地球に届いているかもしれません。


 前回紹介した戸谷さん論文を紹介しました。大量の微隕石の中には、稀ですが、太陽系外から由来するものが含まれている可能性があると推定されました。さらに稀でしょうが、生物の痕跡が発見できるのではないかと考えました。
 これは生命起源にも関係します。地球外のどこかの天体で誕生した生命が、微隕石とともに地球に飛来して、それが地球生命の起源になったいうパンスパーミア説に通じるものです。
 太陽系内であれば、例えば火星から、小天体の衝突で飛び出した岩石は、惑星軌道を一定期間(100万から1000万年ほど)回り、やがてその天体に落下していきます。しかし、巨大惑星(木星や土星)の影響があると、岩石の軌道が乱され、太陽系を飛び出すものもあるとされています。
 しかし、パンスパーミア説として、他天体まで生きたまま移動させるためには、生命の生存期間(10万から1000万年以内)や生命体を守れる岩石の大きさ(10kg以上)にも制限がかかります。
 ところが、生きていなくても、生命の痕跡であれば、期間や大きさの制限はほどんなくなります。化石などの生物の痕跡、バイオマーカーと呼ばれる化学分子や同位体組成、あるいは生物がつくった鉱物(バイオミネラル)などであれば、1μm以上あれば、検出できそうです。
 このシリーズの最初に紹介した地表で見つかる大量の微隕石は、非常に有効な素材となります。数が多ければ、太陽系外の微隕石も含まれているはずです。中には、太陽系外の生物の痕跡もあるかもしれません。そのような目で再度探してみることは、手軽ですが、重要なテーマとなりそうです。
 太陽系外からの由来をどのように検証していくかが、問題となります。いくつかの同位体組成で太陽系固有の値があることが知られているので、そのような成分を利用するといいかもしれません。
 ただし、微隕石は、長年地球の表層にあったので、地球の物質や地球生物の汚染を受けているはずです。汚染の少ない氷床の中の微隕石を探すなどの工夫が必要でしょう。その中から、太陽系外の成分やが検出できるでしょうか。地球生物の汚染がないのであれば、地球外生物の化石の痕跡やバイオミネラルも、検出可能かもしれません。必要であれば、地球外の惑星空間で、微隕石を収集するはいいかもしれません。
 天文学的観測による系外惑星の地球型惑星の探査とは、異なったアプローチになります。このような試みで、見つかれば、はじめて地球外生命、太陽系外生命の発見となります。いくつも見つかってくれば、銀河系にどの程、生命が分布しているのかがわかるはずです。だれかチャレンジしませんかね。

・帰省・
お盆の只中です。
皆様も、里帰りされているのでしょうか。
我が家では、長男が帰省しています。
少々長く滞在します。
あちこち出かけたいとのことですが、
日程もあまり決まっていないようです。
その日程によって親の日程も変わってきます。
それでも家族の久しぶりの帰省はいいものです。

・復調・
体調は戻ってきています。
ただし、長時間じっと
同じ姿勢をしているのが少々つらいので、
うろうろ歩たり、研究室内で動きながら
研究を少しずつ進めています。
まあ、とりあえず一番ひどい状態から
脱したのでホッとしています。
お盆中も無理せず
じっとしていようと思っています。

2024年8月8日木曜日

2_220 太陽系外生命の痕跡 2:太陽系外からの微隕石

 微隕石は、地球外でありますが、太陽系内から由来しています。その中に、太陽系外から由来しているかもしれません。そんな太陽系外微隕石が見つけられたら、重要な情報も持たしてくれるかもしれません。



 前回、微隕石を紹介しましたが、今回は話題は転換して、地球外生命の探査についてです。
 系外惑星の探査では、地球型惑星の発見、その中でもハビタブルゾーンにあるものが、注目されています。しかし、系外惑星は遠くて、天文学的観測では実態の解明は難しく、まして生命の存在の有無や、その存在比率などを調べるのは困難です。
 その観点で、微隕石の存在に注目されています。微隕石という実物があれば、それらを用いて、化学的に検出できる可能性があります。微小ですが、多種、大量にあるので、そこからこれまで知られていないタイプのものが発見できるかもしれません。
 太陽系外の生命の痕跡を、地球で実際に検出したというわけではありませんが、その可能性が検討されました。2023年3月に、東大の戸谷友則教授が国際天文学雑誌(International Journal of Astrobiology)に報告されました。そのタイトルは、
Solid grains ejected from terrestrial exoplanets as a probe of the abundance of life in the Milky Way
(銀河系内の生命存在度の探針として地球型系外惑星から飛び出した固体粒子)
というものでした。
 地球型惑星から飛び出し、銀河を移動し、地球にたどり着くために、1μm程度が最適なサイズと考えられました。また、1μm程度あれば、微生物の化石が判別可能な形で残る可能性があるとしました。
 論文では、1μm程度の微隕石が、太陽系外から、地球にどの程度届くかを見積もっています。銀河系の恒星にある地球型惑星から、微粒子が脱出し、星間空間での移動し、様々なプロセスで損失しながら、最終的に太陽系地球にどの程度到達するかを見積もっています。その結果、地球にたどり着く粒子の数が、年間約10万個となりました。
 10万個という、その数が多いようみ見えますが、すべて合わせても1グラムにも満たない量です。そして、年間数万トンの微隕石が地球に降ってきているとされていることから、系外微隕石は非常に稀な存在となります。しかし、存在する可能性があります。
 戸谷さんは、そこに期待しています。しかし、論文のねらいは、他にあります。それは、次回としましょう。

・涼しい日々・
北海道は、暑いですが、
まだ、朝夕は涼しくなるので
寝るときも窓を閉めてちょうどなので
過ごしやすくて助かっています。
今年からは、エアコンをつけたので
昼間暑くてもエアコンがあるので
なんとかなります。
ただし、最近はあまり出番がありません。

・体調不良・
体調不良は、一月ほど続きそうです。
その間、薬を飲むことになります。
その後、検査を受けます。
問題は、9月に2度予定している野外調査です。
校務として、これが最後の野外調査となるので、
なんとしても出かけたいのですが、
どうなることでしょう。
こればかりは、予想できません。

2024年8月1日木曜日

4_186 大雪:一期一会と無知の知

 北海道の春から初夏は、色鮮やかな季節になります。北海道でも遅く春が訪れる大雪山も、7月には緑と花の季節になります。そんな大雪山の山頂と裾野で2つの教訓をえました。


 7月はじめ、初夏の大雪山周辺を巡りました。山頂付近には少し雪が残っていますが、5合目の散策コースは、一面緑に覆われた初夏の山の景色になっていました。
 大雪山は、その雄大さはいつ訪れても変わりませんが、季節ごとで景観には大きな変化があります。黒岳のロープウェイの5合目付近も、よく訪れるのですが、春や晩秋には残雪や積雪のため、散策できないことがあります。しかし、初夏には快適な散策ができます。同じ季節でもその年により、景観は異なっています。まさに一期一会です。どんな時であっても、その時を楽しみ、味わうことが必要だと教えられました。
 大雪山は、多くの火山の集合なので、いろいろな火山地形をもった山頂や火口があります。中でも御鉢平の火口は雄大で見応えがあります。また、山体周辺は河川による解析も激しく、溶結凝灰岩の柱状節理のよる深い谷や、火山岩類のむき出した渓谷も多数周辺に広がり、観光名所となっています。
 このような荒々しい景観だけでなく、大きな山体の周辺にはなだらかな斜面もあり、そこでは雄大な景観が広がっています。もちろん温泉も各地にあります。今回は、山頂や渓谷だけでなく、これまでいったことのない、愛別岳の北側斜面を、いろいろ巡ってみました。
 山麓の多くは森林地帯になっているのですが、上川の石狩川の左岸に近いところだけに、畑が広がっています。畑越しにみる石狩川や、その東にそびえるニセイカウシュッペは、これまで見たことにない景色でした。
 大雪山には毎年のように、何度も訪れているのですが、まだまだ見残しているところがあることを知りました。これこそ自然が、私の無知の知を教えてくれたのかと思えます。

・体調不良・
講義が終わった直後に、
体調不良になりましました。
講義の空き時間に2日間にわたって
4年生との多数の予約があったのですが、
それがすべてキャンセルとなりました。
一応、定期試験直前には
なんとか復帰する予定なのですが、
また体調は戻っていません。
教員としてひとりでこなしていることが多数あります。
そのため、いろいろなところに
迷惑をかけることになります。

・一人「授業」主・
このエッセイは、発行の前日に書いています。
2つのエッセイを書かなくてはなりません。
自宅でもメールで処理できることは
最低限していたのですが、
校務もたまってきたことから
少々無理して復帰しています。
大学教員とは、一人事業主のように、
「一人授業主」たる存在なのです。
本人しかできない仕事を
いくつも請け負っているので
体調不良になる恐ろしさを味わいました。
しかし、今は、回復することが一番です。

2024年7月25日木曜日

2_219 太陽系外生命の痕跡 1:微隕石

 直径1mm以下の微隕石は、いつもで地球に大量に降ってきています。そこには人間の営みや地球由来のものが紛れ込んでいます。しかし、その中には地球外からきた微小な隕石が含まれています。


 少々変わった図鑑が手元にあります。ヨン・ラーセン著「微隕石探索図鑑 あなたの身近の美しい宇宙のかけら」(創元社, 2018)という書籍です。この本には、微隕石とそれと類似したものの顕微鏡写真や電子顕微鏡写真が、大量に掲載されています。特に電子顕微鏡写真には不思議な模様をもち、カラーで撮影されたものにはきれいな色をもっています。
 ラーセンは、世界各地で、微隕石を探してきました。ラーセンは「プロジェクト・スターダスト」として、大量の画像(4万個以上)が登録されています。その中から厳選されて図鑑が出版されました。
 そこから、多様な微隕石を発見してきました。その中には、地球の微小粒子や人間活動に由来するものも、多数掲載されています。地球由来のものとしては、地球の岩石に由来する鉱物片、生物起源のもの、隕石の衝突によって形成されたテクタイト、火山ガラス由来などがあります。人間活動によるものとしては、各種鉄粉、噴煙中の微粒子、溶接や火花、屋根の瓦や金属片、道路の粉塵などがあります。非常にきれいなものもあり、見応えがあります。
 大きな隕石は、落下を目撃されたり、クレータができたりしますが、人口密集地に落ちたらニュースになります。微隕石とは、小さな隕石のことで、人知れず大量に落ちています。微隕石は、地球全体としては、年間100トンから数万トンも落下しているとも、積もられています。ラーセンによると、50平方メートルあたり、年間2個ほど飛来すると見積もられています。
 微隕石を見分けるためには、隕石だけにみられる特徴的な組織(コンドリュール、ウィドマンシュテッテン構造)や化学組成を手がかりにしなければなりません。
 微隕石は、深海底の堆積物や南極の氷床からも見つかっています。特別なところではなくても、場所を選べば、微隕石は簡単に見つかります。古いビルの屋上で溝や側溝に溜まったチリから、多数採取できます。ただし、隕石と見分けるのは、難しいかもしれませんが。

・宇宙塵・
微隕石という言葉を使いしました。
宇宙塵とも呼ばれています。
微惑星、宇宙塵は、地球外から地表に落下した、
小さな(直径1mm以下)の固体粒子のことです。
中学校や高校の理科や科学の部活の
研究テーマで時々取り組まれています。
人が出入りしない学校の屋上などは
微隕石の採取場所として最適です。
地質学者は存在は知っていますが、
見分けるのはなかなか難しいですが。

・共同研究者・
ラーセンは、ジャズミュージシャンで
音楽を生業としていますが、
微隕石の収集、研究にのめり込んだようです。
世界50カ国ほどで、1000箇所以上で
サンプルを集めています。
大量のコレクションともいうべきものができています。
大英自然博物館のゲンジなどの研究者が加わることで
化学分析や電子顕微鏡で
隕石であることが鑑定されていきました。

2024年7月18日木曜日

6_214 人新世 5:議論が残したもの

 新しい地質時代としての「人新世」の設立は、長い議論の結果、否定されたました。長い時間をかけての議論は、無駄だったのでしょうか。人新世の議論は、何をもたらしたのでしょうか。


 今回の人新世のシリーズを書いていて、相反する感想を持ちました。それを紹介していくこと、このシリーズのまとめとしましょう。
 まずは、「人新世」の設立が、長い議論の末、会議で否決されました。とはいっても、人類が地球に与えている影響が、今後減っていくわけではない点です。
 人類の影響が、現状でも、地質学的に検証されうる状態になっています。今後も増えはしても、減ることはないでしょう。影響が年々多く、大きくなっていくということを、今回の人新世「騒動」によって、多くの人が注目する機会を与えました。
 建材などの素材は、自然物の石を物理的に加工(げずったり、磨いたり)したものから、土や粘土を乾かしたり、焼いたりしたものになり、やがては化学的に加工したものになってきました。青銅や鉄などの金属、また石灰岩を加工したセメント、石油を加工したプラスチック、あるいは完全に化学合成にした化合物なども利用されてきました。それらが、放置されたままになると遺跡となり、廃材として自然界に捨てられると地層中の記録となっていくはずです。
 今後も人類の文明は発展していくはずです。文明の痕跡は、世界中に残されていくことになります。地質学的な時間軸で見ていけば、記録として、地層中に人類の痕跡は、ますます多く濃くなっていくことでしょう。こんなことについて、多くの人は思いを馳せていったことでしょう。
 ただ、学問的にみた時、時代区分は地質学の分野で決定されますが、人新世を定義するために、人類の行為の痕跡を定義に利用していいのか、そもそも時代境界の地質学的根拠を人類にまで拡大していいのか、また人新世がどの程度時間的に継続可能かなど、いろいろ考慮しておくべきこともあるでしょう。そのため多くの議論を進められてきました。しかし、その決定は、人類の歴史の時代区分に関与することになります。本来なら、その決定も、世に問う必要もあったかもしれません。しかし、今回は否定されてしまいことなきをえました。
 この「騒動」において、人類は自然と対峙する存在として扱われ、人類のなしてきたことの痕跡や影響が議論されてきました。その点が2つ目です。
 人類も地球の生物種のひとつです。ひとつの種が地球に大きな影響を与え、それが地質学的記録に残ったとしたら、地質学的境界に利用することが可能でしょう。例えば、全地球的に広がっていた古生物の大きな分類群の出現、絶滅を、時代境界にすることもなされています。しかし、ひとつの種の痕跡に依存してしまうと、その種がどれほど継続していくかが問題になります。
 もし、近い将来、人類が絶滅したら、今後新たな痕跡を残していくことはありません。人新世は、そこで終わることになり、それ以上長くはなりません。
 また、はじまりを考えても、それほど古くはなりません。人新世のはじまりの候補は、金属製錬の痕跡(紀元前1000年)、農業の開始によるメタンの増加(紀元前3000年ごろ)など古いものがありますが、せいぜい数1000年程度の期間しかありません。それより古くなると、既存の完新世のはじまり(1万1700年前)になります。継続性が保証されないと、意味のない時代区分となります。
 まあそもそも人類が絶滅したら、このような議論は無意味になりますが。
 人新世「騒動」の背景になにがあり、どのような議論が進められていたのか、詳しくはわかりません。私も含めて地質関係者は、人類と自然の関わりについて考えました。しかし、地質関係者だけでなく、興味をもっていた人だけでなく、時代を区切るという意味について、考える契機になりました。

・前期も終わる・
前期の講義は、今週から来週で終わります。
8月上旬の定期試験で、前期が終わります。
暑い日もありますが、
エアコンが使える教室が多くなっているので、
なんとか講義や試験も
進めることができるはずです。
一部小さなゼミ室には、
エアコンがないところがあり
そこで、面接練習が7月中は続きます。
暑い思いをしながらの講義が
今月中はしばらく続きます。

・新しいなにか・
今年度で退職なので、それに向けて
研究の方は順調に進められています。
論文も著書の執筆も順調です。
来年度以降の研究の方針が
なかなかまとまりません。
地質学は退職で一段落します。
地質学の方向性は
今度は縮小ながらも、
進めていくことは決めています。
その後、地質哲学の深化を
どのように進めていくかが
いまだに定まっていません。
それをはじめるには、
人文学的な研究手法を
身につけていく必要もあります。
既存のもので進めていくのも
つまらない気もします。
「新しいなにか」を見つけようと
模索していきたいとも考えています。

2024年7月11日木曜日

6_213 人新世 4:時代と場所

 人新世を議論していく過程で、どこかに境界を示す時代と場を決めなければなりません。そこには、人の営みの痕跡が残されている必要があります。そのような実証できるかどうかが、重要な視点になります。


 人為的な環境の改変が起こった人新世として、時代と場所を決めていく必要があります。時代を決めないと、その時代がでている地層の場所が決められません。逆に場所を決めることで、時代を決定することも可能です。最終的には両方を決める必要があります。
 現在の地質年代区分の「更新世」の最後は「メガラヤン期 Meghalayan」(4250年前から現在)になっています。人新世を設定するためには、メガラヤン期を、2つに分けることになります。つまり、メガラヤン期のどこかに時代境界を設けることになります。
 いろいろな時代が人新世の始まりとする主張もありました。例えば、現在も大気中の二酸化炭素濃度の増加は続いていますが、18世紀後半の産業革命のころから増えはじめています。人新世の提唱者のクルッツェンは、この時期を境界と提唱しています。
 あるいは、核爆弾による放射性炭素の濃度の1964年のピーク、二酸化炭素濃度が低い濃度を記録した1610年のピーク(オービス・スパイクと呼ばれています)、金属製錬に由来する鉛が地層に残されている紀元前1000年~0年ころ、農業で大気中のメタン濃度が上昇した紀元前3000年ころ、なども候補となっていました。
 一方、境界をどの地層を代表的なものとするのかも問題となっていました。上下の時代の地層との境界がはっきりと見られ、そして境界として、客観的なデータを示せるところが必要になります。時代境界をまたいだ地層が出ているところは、模式地(GSSP 国際境界模式層断面とポイント)として指定されることになります。その地には、「ゴールデン・スパイク」が打ち込まれます。
 人新世の議論の過程で、GSSPとして、12の候補地が名乗り出てきました。その中には、日本の別府湾もありましたが、2023年7月には、カナダのオンタリオ州のクロフォード湖の湖底堆積物が選ばれました。
 クロフォード湖は、狭い(2.4ヘクタール)で24メートルの堆積物をもっています。ここの堆積物は、特徴的で、堆積物を撹拌する生物も少なく、毎年夏に一層の堆積物がたまるという特異な「年縞」となっています。毎年の記録を正確に残している地層となります。
 クロフォードの湖底堆積物には、いくつか人類の痕跡が残っています。フライアッシュと呼ばれる球状炭化粒子(spherical carbonaceous particles: SCPs)があります。フラッシュアッシュは、ボイラを燃やしたとき、シリカとアルミの融けたガラスの微粒子です。近年では集塵機で集められているので、あまりでなくなっていますが、昔はたくさん排出していました。また、1940年代後半以降、核爆弾によるプルトニウムが増ていき、1950年代から急激な増加も記録しています。1950年代には気候変動も起こっていることも記録されています。そのような変動は、「グレートアクセラレーション」と呼ばれています。
 模式地としては、クロフォード湖の湖底堆積物が設定までされました。しかし、すでに述べたように、紆余曲折を経ましたが、否決されてきました。これまでの議論の意義は、次回としましょう。

・風邪・
先週末から、風邪を引いています。
6月初旬にひいたの同じような症状です。
会話をしだすと、咳がでやすくなります。
前回の風邪が治ったあとから
咳がなかなか止まらなったのですが、
またぶり返したようです。
同じ症状で進んでいるのですが
不思議な気がします。
前回の風邪が治って、
免疫ができているはずなので、
対処できてないのでしょうか。

・個人経営の講義・
2日ほど休んで復帰することになりました。
無理はできませんが、
講義の代替は補講となります。
前回も休講したため、その補講が学期末にあります。
今回も補講にできません。
少々無理をしてでも、
講義は実施するしかありません。
大学教員の講義の実施形態は
まるで個人経営の業態ようで
代替がしにくいものです。

2024年7月4日木曜日

4_185 積丹半島:強風の岬へ

 北海道の積丹半島は、日本海に突き出した地形です。新しい時代の火山活動でできたので、侵食が激しく、海岸沿いは断崖が多くなっています。日本海は良い漁場なので、少しでも平坦なところがあると漁港になっています。


 6月初旬に、久しぶりに積丹半島を巡りました。夜間に雨が降ったのですが、幸い昼間には降られることがありませんでした。今回の目的地の島武意海岸も神威岬も訪れることできました。いずれも、外国人観光客が多く来れられていました。
 島武意海岸は、半島の山側から道が通っています。駐車場からトンネルを通り、断崖の上の展望台があり、そこから海岸まで降りる遊歩道がありました。ところが、現在、海岸への歩道は通行止めになっており、展望台から海岸を眺めるだけになっていました。残念ですが、しかたがありません。
 神威岬は、雨には降っていななかったのですが、強風でした。岬の先端までは、完備された歩道を歩いていけます。しかし、崖っぷちの歩道や、急な階段もあります。強風の中を歩くので、かなり恐怖を覚えるところもありました。
 積丹半島の全体は、主に新第三紀中新世の火山岩からできています。積丹半島全体は、デイサイトから流紋岩の溶岩や火山砕屑岩の火山岩からできています。半島の周辺部には、海で堆積した泥岩もあります。神威岬では、火山岩と海成層の両方の地層と境界も見られます。島武意海岸の西側には積丹岬があります。島武意海岸の周辺だけが、少し新しい時代の中新世から鮮新世の貫入岩類がでているところです。
 残念がら海岸に降りることはできませんでした。以前来たときは、島武意海岸へ降りることができました。そこは、大きな岩だらけの海岸で、パノラマ撮影などもできました。
 今回は、これまで訪れたことのなかった黄金岬にいきました。整備された歩道が尾根にありましたが、ほとんど訪れる人のないところでした。木造の展望台もあり、そこからは海を眺めることができました。遠目にも露頭はあまりよく見ることはできませんでした。雨上がりの森の散策路を、ウグイスの声を聞きながら歩くのは心地よかったです。
 積丹半島の海岸沿いには、観光地となっているところがいろいろあるのですが、同じところで、代表的な地層や成り立ちをみることができます。ところどころで止まって、いろいろな産状を見ることもできます。そしてできれば、のんびりと一周して見て回った方がいいかもしれませんね。

・豊浜トンネル・
積丹半島では、火山岩の産状が
いろいろ見ることができます。
比較的新しい時代の火山活動で
岩石がもろくなっているところでもあります。
海岸は侵食が激しい切り立った崖が多い所です。
1996年、豊浜トンネルの古平側の入口付近で
大規模な岩盤崩落が起こり、
路線バスと乗用車が巻き込まれました。
8日間に及ぶ救出作業がおこなわれたのですが
20名が犠牲になられました。
トンネル跡には、慰霊碑と公園があります。
現在は新しいトンネルが作られています。

・日本海の漁港・
久しぶりの積丹半島訪問になりました。
北海道内でも自宅から近いところですが、
札幌や小樽を通り抜けていくので
少々遠く感じてしまいます。
半島の周遊すると、北海道の海沿いの自然と、
漁港の町を見ることができました。
最近、ニシンが戻りつつあるようですが、
日本海の漁港は、かつてはニシン漁に賑わった地域です。

2024年6月27日木曜日

6_212 人新世 3:否決

 人新世という時代を、新たに設定するかどうかについて長い間議論されました。紆余曲折があったのですが、審議の結果、否決されました。どのような経緯で審議されたのでしょうか。


 そもそも地質時代の区分は、どこで、どのような手続きを経て、決められているのでしょうか。地質学の時代区分なので、国際地質科学連合(IUGS、Commission for the Management and Application of Geoscience Information)という国際的な学会組織があり、そこで決めます。ただし、専門的な議論は、いくつかの下部組織を経て検討されていきます。
 まず、新たな時代に関しては、2009年に「人新世作業部会」を設置して、議論を進められていきました。「人新世作業部会」で議論した後、作業部会が属する「第四紀層序小委員会」で投票して、新しい時代にするかどうかを判断します。「第四紀層序小委員会」で60%以上の賛成があれば、次のステップに進みます。地質時代の全体を統括する「国際層序委員会」で投票していきます。そこで60%以上の賛成があれば、最終のステップに進みます。「国際地質科学連合」で審議して承認となります。
 人新世については、いろいろ複雑な経緯がありました。当初、2019年に、第四紀層序小委員会で人新世を正式な地質年代とし、20世紀後半に時代境界がおくことが、賛成多数で可決されました。
 この決定には、いろいろと問題があったようで、投票前に委員の少なくとも1人が辞任していました。また、投票も内部規定に違反していたようでした。また、正式発表される前に、メディアで報道されたこともあり、組織内の揉め事を反映していたようです。
 投票が無効であるという申し立てがあり、再度、議論されることになりました。そして、2024年2月1日から6週間かけて、「第四紀層序小委員会」での議論が進められて、投票がおこなわれました。18人の委員のうち4人が賛成、12人が反対、2人は棄権となり、否決されました。最初の小委員会の段階で否定されました。
 その後、否決に対する異議申し立てはありませんでしたので、次のステップには進むことも、再審議もありませんでした。
 これで、「人新世」という時代を新たにつくることはできなくなりました。でも、ここまで議論されたことは、無駄だったのでしょうか。次回としましょう。

・野外調査へ・
今週末から、前期最後の野外調査にでます。
大雪山の山岳地帯を通り日高山脈沿いに進みます。
移動距離も長くなります。
5日間の予定しています。
気候もいい時期ですから、
野外調査でも快適な時期です。
なんといって北海道は花の盛の時期です。
目にも楽しい時期です。

・2編の論文・
現在、論文を書いています。
7月締め切りの論文は書き終わり、
11月締め切りの論文の下書きをしています。
6月中に2編目の粗稿まで完成できればと考えています。
これは、9月に出版する予定の本の
一部にもなっています。
本でその内容を使用するつもりなので、
先行して書いています。
本の粗稿もほぼできているのですが
論文の内容を反映していくつもりです。

2024年6月20日木曜日

6_211 人新世 2:人類の特異な記録

 「人新世」という時代区分が提唱されてきました。その理由は、人類の行為が過去の特異な記録として残されてきたこと、後の時代にその記録が検出できることがわかってきたからです。


 人骨も、他の生物と同様に化石として残されています。人類学として研究対象なりますが、他の生物の化石と同じような役割になります。しかし、人類の生活や活動が、地層中の記録として、ある時期から残されていきます。考古学的遺跡などは、その典型となります。道具として使った石器、食べたあとの貝塚、食料保存や調理用の土器、農業や都市の遺構、あるいは資源として利用した鉱山やその残土、加工品など、考古学的記録として残されています。
 天然には存在しない精錬された鉄や加工品、近年ではプラスティックやビニールの合成物など、これらは少量であっても、人類の特徴的な記録として残っています。しかし、地球に対する記録量や影響は微々たるもので、他の生物の生活痕(足跡、巣穴など)などと似たものではないでしょうか。石炭や石油、天然ガス、サンゴの化石の集合の石灰岩などのほうが、地質学的記録としては物量が大きいのではないでしょう。
 文明や産業が進んでくると、農業・酪農や鉱業、都市開発なども大規模になり、地形の改変も著しくなっていきます。科学技術の進歩によって、他の生物にはなし得ない規模の地球への影響を与えるようになってきました。地形の改変では、巨大な火山噴火やプレートテクトニクスのほうが規模は大きくなりますが、人類の科学技術のほうが短時間での改変が激しくなるという特徴があります。
 また、自然界では生態系として多様な生物種が混在して生きているのですが、農業・酪農となると単一種(数種)が大量に広域に繁茂、繁殖していきます。このような選択的種の増加と多様性の欠如も、人類の特徴でしょう。
 人類の特徴的な営みによる記録としては、人類が出現した第四紀(258万年前から現在)や、第四紀を細分した完新世(1万1700年前から現在)として、すでに地質学区分が存在します。それ以外に新たな「人新世」の導入を考えられたのは、そのような人類の特徴的な営みだけでなく、異質で特異な影響として地球に与えているためです。
 分析技術が進んでいるので、いろいろな現象の記録が読み取られます。近年では二酸化炭素の増加が記録されてきていますが、地質時代にはもっと高かった時代もあります。ですから量については特異性は大きくありません。しかし、その増加が急激であることが問題となっています。
 特異性の記録として、米ソの冷戦において核爆弾の実験が多数なされたことに由来するものがあります。炭素同位体組成による年代測定は、大気中に一定の値を持っていた炭素同位体組成を基準にして進められてきました。ところが、大気中で多数の爆発実験がなされたことで、核爆弾由来の放射性核種が加わったことで、測定値に影響ができてきました。その変化のピークは1964年になります。実験が少なくなってきたので、影響は少なくなってきました。炭素同位体の年代で「〇〇年前」とは、1950年を基準にするようになりました。
 二酸化炭素の増加や同位体組成の変化は、他の生物や人類などの生物種には大きな影響はないでしょう。変化が、人類のためだけの科学技術の使用や、人を殺傷し社会や生活を破壊するための核爆弾という武器に由来することが問題ではないでしょうか。さらに、変化が、他の種が適応できないほどの短期間に起こることも問題です。
 オゾンホールの研究でノーベル賞を受賞したクルッツェン(Paul Jozef Crutzen)が、2000年に「人新世」という新しい時代区分を提案しました。人類の特異な行為への自覚を促すためもあったのでしょうが、それ以降、議論が進められてきました。その結果については、次回以降に。

・一気に夏・
北海道では、5月末には涼しい日があり
ストーブを焚くことがありました。
6月はじめまで涼しいが日が続きました。
ところが、先週から一転、
一気に暑くなってきました。
着るもの夏物、窓も全開する日が
突然、訪れました。
YOSAKOIも北海道神宮祭も終わり、
一気に夏めてきました。
前期の講義も3分の2が終わり終盤に入っていきます。
今年で退職なので、すべての講義が、
これで最後だと思いながら進めています。

・風邪で野外調査・
先々週末から先週頭までは
野外調査にでていたのですが
体調を崩していました。
風邪をひいた状態でしたが、
コロナやインフルエンザではなく
今はやっている風邪だそうで
医者で薬をいただき、呑んで調査していました。
咳が時々激しくでるのですが、
体調自体は大丈夫だったので
調査を継続しました。
現在も少し咳が残っていますが
体調は戻りました。

2024年6月13日木曜日

6_210 人新世 1:地質時代の区分

 以前、人新世という新しい地質年代が提案がなされました。長い時間かけて、それを地質時代として認定するかどうかが、議論されてきました。今年の3月に結論がでました。その意味について考えていきましょう。


 地質時代の新しい年代区分として、「人新世」が提唱されたのですが、それを認めるかどうか、15年もかけて議論されきました。
 人新世とは、英語のAnthropoceneの日本語名称となります。anthropoとは、ギリシア語で「人」を意味し、ceneとは、新生代の時代区分の名称に付けられる接尾語になります。それらを合わせて、Anthropocene 人新世という名称がつくられました。
 そもそも地質時代とは、どのようななものかを、概観しておきましょう。
 過去を、地層に記録された地質現象から区分していくことです。地層に残る地質現象としては、年代を記録するものとして、いろいろなものがありますが、化石がもっとも有力です。化石は生物の遺骸なので、生物種の絶滅や出現で、時代を区分することになります。
 ただし、化石が多数産する時代の顕生代(5億3880万年前から)では有効ですが、あまりで見つからない先カンブリア紀には使えません。そのため、先カンブリア紀は、冥王代、太古代、原生代に大きく区分されていますが、あまり細かい区分はできていません。
 顕生代は、古い方から、古生代(5億3880万年前から)、中生代(2億5190万2000年前から)、新生代(6600万年前から)の3つに区分されています。新生代は、古第三紀(6600万年前から)、新第三紀(2303万年前から)、第四紀(258万年前から)に区分され、第四紀はさらに更新世(1万1700年前まで)と完新世に区分されています。完新世は1万1700年前から現在までになります。
 今回の話題は、完新世をさらに2つに区分して、人新世という時代をもっとも新しい時代として加えようという提案です。このような提案は、人類が地質学的に記録に残るような影響を与える時代になってきたということを背景に提唱されてきました。
 長い時間をかけて議論されてきた人新世が、今年の3月に否決され、採用されないことになりました。では、人新世とはどのような意味や意図があり、なぜ否決されたのかを見てきましょう。

・予約配信・
このエッセイは、予約配信しています。
以下の内容もすべて一週間前のものです。
先週末に今シーズン3回目の野外調査にでました。
今回は、広域ですが、オホーツクの周辺を中心に
調査を進めていく予定です。
今回も以前から訪れているところを巡りますが
一部ははじめて訪れるところもあります。
北海道内を、あちこち見て回っているのですが、
まだ見ていない露頭もあります。
もちろん同じ露頭でも、見方を変えれば
新しいこともみえてくるはずです。
そんな繰り返しを今も続けています。

・YOSAKOI・
北海道は、いよいよYOSAKOIの季節になりました。
5日からはじまりまり、9日がファイナルになります。
YOSOKOIがたけなわの時期に出かけています。
北海道は今年は寒い日が多く
前回までの野外調査は、体調をくずしています。
やっと暖かくなってきて、動きやすくなりました。
出かける前なのに、少々風邪気味なので、
体調が心配ですが、予定通り調査にでます。
その不調がまだ残っていますが
なんとか目的のところを巡れればと思っています。

2024年6月6日木曜日

4_184 恵山:ツツジの咲く頃

 恵山は、春にはツツジの咲く山です。ツツジが満開の頃には、イベントも催され、函館から近いので、多くの人が訪れます。周辺には温泉もあります。有史以来何度も噴火をしており、現在も噴気を出している活火山です。


 5月下旬、道南の恵山にいきました。恵山は、渡島半島(亀田半島)の東端にある火山で、現在も噴気を出している活火山です。海に面して火山があるので、東海岸は険しい崖になっています。半島を巡る道は険しいため、途中で切れています。恵山側から北側(椴法華 とどほっけ)にいくには、恵山の西側を通る国道278号線を経由して迂回しなければなりません。
 恵山は、5万から4万年前から活動がはじまり、1万年前までには大きな火山体に成長していきました。8000年前には大規模な火砕流が発生し、溶岩ドームも形成されました。そして、2500年前の噴火で、溶岩ドームを壊す山体崩壊が起こりました。その後も何度も噴火が起こっています。
 恵山を車で登っていくと、登山口に駐車場があり、そこには賽ノ河原と呼ばれる火口原が広がっています。火口原から見ると、山に取り囲まれているように見えます。北から時計回りに、北外輪山、恵山、スカイ沢山、南外輪山、椴山(とどやま)、海向山と呼ばれる山並みがあります。これらは、外輪山となっていますが、恵山のその一部となっていますが、二重の構造をもった火山となっています。恵山は、溶岩円頂丘となっており、現在も火山活動の中心になっています。
 恵山はもっとも高く標高が618mあり、東側は海に囲まれています。海から高くそそり立った火山になっています。恵山の山腹では、現在も噴気を出しており、その噴気口周辺にはイオウの昇華が見えます。今回の目的は、恵山の火山現象や火山地形の観察でした。火口原にはツツジなどの低木の植生はありますが、中腹から上には植生がなく、荒涼とした火山地形となっています。
 たまたま訪れた翌日が、「恵山つつじまつり」の開催日でした。火口原にいく途中に、つつじまつりの会場の公園がありました。公園でツツジも見ていこう立ち寄りました。
 会場の駐車場に向かうと、交通整理のボランティアの方がいたのですが、話をすると「もう、ツツジは終わりだよ」と声をかけてくれました。多くの人が訪れていたのですが、今年は、3週間ほどの前に満開は終わっていたとのことです。しかし、せっかく訪れたので、公園内を見て回りました。すると、メインのツツジは終わっていたのですが、サラサドウダンという小さなピンクの花をつけたツツジの木もたくさんあり満開でした。
 つつじまつりの会場ではツツジは終わっていましたが、火口原でもサラサドウダンが満開でした。火口原では、サラサドウダンが主な植生なので、そこではツツジが賑やかに見えました。

・開花のきっかけ・
花は、花芽の状態で越冬し、
春につぼみが開くというメカニズムがあるようです。
ツツジの花芽は、前年の夏にできるそうです。
一日の昼の長さが、夏至より短くなってくると
花芽が形成されていくそうです。
春になる花芽が休眠からさめ、
一斉に開花していきます。
サクラは2月1日以降の平均気温の合計が
400℃を超えると開花するという「400℃の法則」があり
かなりこの法則に沿っているようです。
しかし、ツツジの開花のきっかけは
まだよくわかっていないようです。

・まつりの賑い・
函館から、恵山に向かう道は、国道なのですが、
普段は交通量は多くありません。
向かった日は、土曜日の午前中だったのですが、
対向車が多くなっていました。
不思議に思ってえました。
つつじまつりにいったのはいいのですが、
満開が過ぎていたので、
諦めてすぐに戻ってきた
人たちの車だったのかもしれません。
そんなことを想像して納得していました。

2024年5月30日木曜日

1_220 月の形成 9:新しい花崗岩体

 現在継続中の中国の探査では、新しいことがいろいろ見つかってきました。以前から、月の裏側で見つかっていた特異な地域での観測で、新たな発見がありました。やはり新しい探査は必要ですね。


 月の高地に関する報告が、2023年のNature誌にセイグラー(Siegler)さんたちの共同研究による報告がだされました。
Remote detection of a lunar granitic batholith at Compton-Belkovich
(コンプトン・ベルコビッチで月の花崗岩バソリスをリモート探査で検出)
というものです。
 コンプトン・ベルコビッチとは、月の裏側の北半球にある火山地帯(北緯61.1度、東経99.5度)です。断層崖に囲まれた不規則な形の窪地があり、それはカルデラ壁となっている火山地形だと考えられています。この地域がクレータが少ないことから、新しい時代(10億年前)にできた可能性も指摘されています。ただし、その年代については、いろいろな見解がありますが。
 1998年にルナー・プロスペクター(Lunar Prospector)が、月を周回しながら探査した結果、コンプトン・ベルコビッチには、トリウム(Th)が多いところだとわかりました。
 マグマで結晶分化作用が起こると、トリウムはマグマ(液相)に残る元素です。最後まで残液に残りやすい元素なので、花崗岩のような岩石に多く含まれています。そのため、この地域には大きな花崗岩が存在していると考えられていました。
 中国の月周回衛星、嫦娥1号と2号のマイクロ波観測装置によって、熱流束が測定され、地熱の放出が多いところがわかってきました。この地域の熱量は、通常の月の高地の20倍ほどになっていました。そして、その広がりも明らかになり、この火山地帯の地下には、巨大な花崗岩の岩体(バソリスと呼ばれています)が存在すると考えられました。取得されたデータから、バソリスは直径48kmの大きさだと推定されています。
 月の高地の岩石は、月の創成期にできたマグマオーシャンが固化した斜長岩からできています。そのため、月では古い時代にできた地帯となります。もしコンプトン・ベルコビッチの火山が、マグマオーシャンのなごりの末期(35億年前)に活動した火山だとしても、現在も発熱を続けていることになります。こんなに長期に熱を発するような花崗岩があるのでしょうか。
 しかし、コンプトン・ベルコビッチの地形からみて、新しい時代に活動した火山になりそうです。月の高地の多い地域で、花崗岩質のマグマによる火成活動が、新しい時代に起こった可能性があります。
 まだまだ、月にはわからないことがあります。中国が現在も探査を継続しているので、新たな発見がありました。2年ほど計画は遅れていますが、中国の嫦娥6号が、2024年5月3日に、無事打ち上げられました。目標は、月の裏側の南極にあるエイトケン盆地のアポロ・クレーターに着陸して、53日間の探査をして、試料を持ち帰ることです。成功すれば月の裏側の試料が、はじめて入手されます。期待が湧きます。

・予約配信・
このエッセイは、予約配信をしています。
本来なら2回目の調査からは
戻っているので配信可能です。
しかし、前回、配信を忘れていて
配信予定の当時に気づいて、
慌てて配信することになりました。
調査から戻ってすぐは、
校務と講義でばたばたしているます。
忙しくて配信が大変になります。
そのため、予約配信をしておくことにしました。

・研究の継続を・
研究は、継続が必要だと思いました。
中国の、久しぶりの月からのサンプルリターンで
今までにない知見がわかりました。
しかしその比較対象となるデータが
アポロの試料からや月隕石からのものです。
より新しいデータが必要です。
今回紹介したリモートの探査でも、
新たに調べなければならない地域がでてきました。
研究には終わりがないので、
継続していくことで
新しいことが次々とわかってきます。
時には大きな発見も生まれることもあります。

2024年5月23日木曜日

1_219 月の形成 8:多様なマントル

 月の形成初期にはマグマオーシャンがありました。中国のサンプルリターンで、新しい時代に活動した地域の特徴がわかっていました。月の形成後には多様なマントルから、マグマが由来していることがわかってきました。


 月の海を構成している岩石の年代は、これまで38~30億年前でした。前回紹介した最近の探査でえられた年代が、20億年前のものでした。一気に10億年も新しい年代の岩石が見つかったことになります。
 月のクレータ年代学では、嵐の海にはクレータが非常に少ないところがあり、20~10億年前と推定される地域が3つほど見つかっていまた。今回は、クレータの少ない地域の中で、北部の新しいと考えられるところの試料を回収しました。そこの岩石の年代が20億年前として実在することが証明されました。
 新しくできた大きなクレータには、溶岩流らしきものも見つかっており、10億年前ころではないかという推定もされています。ですから、他の地域の探査をし、サンプルリターンをすれは、もっと新しい岩石が見つかる可能性もあります。
 次に、岩石の特徴をみてきましょう。今回、回収されたのは、月の海の岩石でした。月には古い時代の形成された、KREEP玄武岩と呼ばれる岩石があります。KREEPとは、カリウム(K)と希土類元素(rare erarth elements: REEと略されています)、そしてリン(P)からとった略号で、これらの元素が多いのが特徴となっています。
 これらの元素は、マグマが冷却して結晶化していくと、残されたマグマの残液に残りやすい元素(液相濃集元素と呼ばれています)です。月では形成初期にはマグマオーシャンがあったと考えらえているので、KREEP玄武岩は、マグマオーシャンでの結晶分化作用の最後に形成されたものだと考えられています。これらは、地球の海洋地殻の玄武岩とは、明らかに異なった特徴があります。
 新しい年代にできた月の海の玄武岩は、マグマオーシャンとは異なった起源になります。チタン(Ti)の含有量の違いによって、多い高チタン(high-Ti basalt)系列、少ない低チタン(low-Ti basalt)系列、あるいは非常に少ない極低チタン(Very Low-Ti basalt)系列に分けられています。このような新しい時代の玄武岩にみられるチタンの含有量の違いは、それぞれのマグマの供給源(マントル)の組成が、不均質であることを示しています。
 今回の試料は、新しい時代の玄武岩になり、チタン系列と低チタン系列の中間的な組成であることがわかりました。これまで知られているのとは、異なった組成のマントルに由来している可能性がでてきました。さらに、ストロンチウム(Sr)やネオジウム(Nd)の同位体組成でも、他の玄武岩と異なっていることがわかりました。これらの同位体組成は、起源物質の違いを示す指標となります。
 少なくとも月の海の下には、履歴のことかったマントル物質が、多様性をもって存在していることになりました。
 ここまで月の海の岩石を中心にみてきましたが、高地の岩石についても新しい報告がありました。それは、次回としましょう。

・新しいルートへ・
先日の調査は、雨の日もありましたが、
幸い、日中は降られることがなく
予定通りの調査ができました。
以前から、工事中の道があり
その直前に興味ある露頭があったのですが、
その先にはいけませんでした。
前回、ひさしぶりにその地にいったとき、
新しい道が完成していることを知りました。
昨年秋は、その道を通ったのですが、
強風と雨で、車から外に出ることもできませんでした。
今回、そのルートを通って、
調査をすることができました。

・新しい露頭も・
今週末には、2回目の野外調査にでかけます。
前回は檜山・後志でしたが
今回は道南の周辺を巡る予定です。
何度も訪れているところもありますが、
しばらく出かけてないところもあります。
興味をもった露頭は、何度みても面白いです。
今回もそんな地域や露頭があります。
そして新たに興味深い露頭も
見つかるかもしれません。
楽しみにしています。

2024年5月16日木曜日

1_218 月の形成 7:若い玄武岩

 月の形成に関する次の話題になります。今回は、中国が進めている月探査からの話題です。新たにサンプルリターンによる試料が入手され、そこから新しい知見が報告されてきました。


 近年、中国は月の探査に力を入れています。嫦娥計画(じょうがけいかく)と呼ばれているもので、最終的には有人による探査から滞在までを計画をしています。
 探査は、2003年からはじまり、20年ほどかけて進めていく計画のようです。嫦娥1号からはじまり2号で、月の軌道上での周回を成功し、3、4号で着陸を成功して月面探査もしています。2020年に打ち上げられた5号では、1.7kgのサンプルリターンを成功しています。
 その試料を用いた研究がいくつか報告されています。嫦娥5号が着陸したのは月の表側の「嵐の海」の北側です。この地域は、月の海の中でも、クレータが少ない地域で、新しい火山活動があった場所となります。
 クレータ年代学と呼ばれる方法があります。表面が硬い天体でその地域の年代を、クレータ密度を調べることで推定する方法です。クレータは隕石の衝突で形成されるため、古くできた地域ほどクレータ密度は大きく、新しいほど少なくなります。高地と呼ばれるところは斜長岩からできており古く、海が玄武岩からできていて新しいことがわかります。アポロなどの試料による年代測定で検証されています。もっとも新しいクレータは、コペルニクスクレータで、約8億年前にできたと推定されています。
 嫦娥5号が着陸した嵐の海は、コペルニクスクレータもある海で、クレータ密度が小さく、月でも新しい時代にできたところになります。海は玄武岩からできているため、新しい時代まで火山活動があった地域となります。年代と岩石の特徴を調べることが、重要な科学的目的となります。
 まずは、えられた年代の報告です。2つの論文で報告され、ひとつは、2021年のScience誌に報告されたチェ(Che)らの共同研究で
Age and composition of young basalts on the Moon, measured from samples returned by Chang'e-5
(嫦娥5号によって持ち帰られた試料の測定による月の若い玄武岩の年代と組成)
と、もうひとつは2021年のNature誌に掲載されたリー(Li)らの共同研究による
Two-billion-year-old volcanism on the Moon from Chang'e-5 basalts
(嫦娥5号の玄武岩からの月の2億年前の火山活動)
というものです。
 いずれもウランによる年代測定の結果です。ひとつでは19.63±0.57億年前が、もうひとつでは20.30±0.04億年前という年代を報告しています。
 これまでえられていた海の岩石の年代は38~30億年前でした。この地域は若いとは推定されていましたので、その推定値は22~12億年前でしたが、その中でも古いものとなりました。
 えられた年代は予想の範囲内でした。しかし、岩石としてははじめて入手された年代のものなので、岩石学的には重要な意味があります。岩石の特徴については次回としましょう。

・野外調査・
先日まで調査にでていました。
檜山・後志の周辺を回りました。
今シーズンはじめての調査になりました。
天気も雨の日もあったのですが、
露頭をみているときは振られずにすみました。
肉体的には疲れますが、
精神的にはリフレッシュします。
野外調査はやはりいいですね。

・観光地とはずれたところ・
今回の調査は、檜山・後志でも
かなりマイナーなところを多くまわりました。
土・日曜日も入っていましたが、
人出は少なく、のんびりと回ることができました。
ただし、積丹半島の周辺は、
平日にも関わらず、観光地なので、
観光バスも乗り付けてくるようなところも多く
外国人観光客も多かったです。

2024年5月9日木曜日

1 _217 月の形成 6:イルメナイト

 定期通信で1回間が空いたのですが、「月の形成」のシリーズの再開です。マントル・オーバーターンがおこったということは前回示しましたが、その詳細を紹介していきましょう。


 月では大規模な溶融を起こしたことは、いろいろ証拠から明らかになってきました。その熱源として、かつては重力エネルギーの開放が考えられました。そのときの事件として、マントル・オーバーターンが起こった考えられたことがありました。証拠がなくて、あまり話題にならなかったのですが、今回紹介している論文で、その可能性が再訴指摘されました。
 天体の中心に金属鉄の核があり、その外側にマントルがあるのですが、そこで少し粘性が小さいところがありました。粘性が小さいということは、一部融けている可能性があります。
 融けている部分には、イルメナイト(ilmenite、チタン鉄鉱)と呼ばれるチタンと鉄の酸化物(FeTiO3)と考えました。ただし、実際にその部分がイルメナイトであることが、確認されているわけではありません。
 なぜイルメナイトだと推定されるのでしょうか。それは、月の内部構造をいろいろと想定して、密度や熱力学的シミュレーションから、どのモデルが一番観測に合うかをチェックしていきます。すると、低粘性のところには、イルメナイトが多く含まれているというモデルだけが合うことがわかりました。
 そのイルメナイトは、どのように形成されたのでしょうか。月の地殻には、火成作用による結晶分化で、鉄やチタンの多い鉱物が含まれていきます。一方、マントルは、マグマが抜けたカンラン岩や、もともとのマントルを構成していたカンラン岩からできています。
 カンラン岩は、マグネシウムが多い岩石があります。元素としてマグネシウムは、鉄やチタンより密度が小さくなります。マグネシウムの多いマントルは密度が小さく、鉄やチタンが多い地殻は密度が大きくなます。イルメナイトが多く集まったところは、特に密度が大きくなります。
 イルメナイトの多いところが、マントルの下部にあるということは、地殻にあったものが、入れ替わったと考えられます。これがマントル・オーバーターンの傍証となります。
 以上が、論文の内容ですが、イルメナイトが低粘性の部分に相当するという必然性がありません。物理的観測に合うモデルとしてイルメナイトを選定していますが、低粘性は部分溶融でもいいし、起源物質の組成変化、物理的条件(温度、圧力、密度など)の違い、溶融によってマグマポケットの形成など、非常の多様なものが想定可能です。多様な可能性があり、他にも説明できるものが出てくるかもしれません。岩石を研究していると、マグマの分別結晶作用によってイルメナイトはできますが、その量は少なく集めることは困難だと思えます。可能性としてはあるでしょうが、今後の検討も必要でしょう。

・植物園へ・
ゴールデンウィークの後半の祝日に
家内と一緒に植物園にいきました。
数年前にいったはのですが、
コロナ禍以降、久しぶりに訪れました。
サクラは終わっていたのですが、
新緑と春の花の季節がはじまっていました。
緑と花に囲まれて、リフレッシュできました。
訪れている人も多かったのですが
広大なので、人の多さを気にせずに
落ち着いて見て回ることができました。

・レストランへ・
札幌は、海外からの観光客は多く、
駅周辺のレストランは、
食事時には、どこでも行列ができています。
家内と植物園に行く前に
昼食を摂る予定をしていました。
あらかじめ店を決めて、
開店直前にいきました。
他のレストランは、どこでも
外国人観光客が行列をしていましたが、
SNSの情報からもれていたためでしょうか、
なぜがその店だけは、だれも並んでいませんでした。
幸い、最初に入店できて
ゆっくりと食べることができました。
美味しかったです。

2024年5月2日木曜日

4_183 横浜:県立歴史博物館

 以前の職場でもあった県立博物館は、現在では、自然系と人文系の2つに分かれ、横浜馬車道には歴史博物館があります。古巣の博物館を久しぶりに訪れることにしました。


 4月の中旬に、久しぶりに横浜にいきました。神奈川、横浜には11年間、定住しました。家内は、横浜生まれ、横浜育ちです。いわゆる浜っ子です。
 2000年3月初頭に、家内の親族に会うために、横浜に出かける予定をしていました。新しくできたホテルも予約していましたが、COVID-19による北海道で緊急事態宣言が発令されたため、急遽、訪問を中止しました。以降、一度も訪れていませんでした。
 今回、4年ぶりの訪問となりました。家内の親族と会うのも久しぶりでした。施設でのお見舞いも、墓参りもやっとできました。幸いなことに、今年は桜も遅く、名残の桜をみることができました。
 横浜では、親族に会うほかにも、時間をつくって、以前の職場であった県立博物館を久しぶりに見学しました。県立歴史博物館は、明治時代(1904年)に横浜正金銀行本店として石造りの由緒ある建物を利用しています。関東大震災で屋上のドームと内部は焼失したのですが、石組みの部分は残りました。1967年に県立博物館として開館しました。その後、国の重要文化財・史跡に指定されました。
 もともと県立総合博物館であったものを、手狭になってきたので、自然系と人文系の2つに分ける計画が持ち上がりました。その企画が進行中の1991年、基本設計に着手されて半年後に、自然系の要員として博物館に勤務することになりました。県立博物館クラスの展示企画、資料収集、施工から完成に参画するという、得難い経験をすることができました。また、1995年3月に生命の星・地球博物館として完成してからは、小田原に勤務することになりました。そこでは、完成後の博物館活動のスタートとして企画から実施まで、経験することもできました。現在の大学に転職するまで、2002年まで11年間勤務することかできました。
 今回、歴史博物館を久しぶりに見学しました。もう開館から、30年近くたっています。外観は、横浜の馬車道でも、もっとも風格のある建物のひとつです。展示されている資料もすばらしいものでした。
 ただし、博物館の建物は、重要文化財の旧銀行をそのまま使っているため、大きく改造することができず、改変のときも、苦労されてきたのですが、やはりそのハンディは大きいようです。一番残念なのは、見学の動線が複雑になり、展示室も入り組んでいる点です。新しい博物館、改装された博物館、あるいはみなとみらいの開発されている新しい施設と比べると、どんよりとした暗さが気になりました。やはり古い建物を利用するというハンディが大きいことを感じました。
 横浜も時間がなくて、あちこちを見ることはできませんでした。今後は、時間があれば、あちこちを見学していきたいのですが、どうなることでしょうか。

・桜の季節・
北海道も桜の季節がきました。
今年の桜の開花は、どうも不揃いで、
なかなか一斉に満開とはなりません。
同じソメイヨシノで、同じ時期に
同じ並木道に植えられたはずのものでも
開花の時期が、大きくずれています。
バラバラに咲くのは、
少々風情がないような気がしています。

・横浜で中華を・
横浜で中華というと中華街となります。
務めていた頃は、毎日のように、
中華街で昼食を食べていました。
今回の旅行は2泊しかできませんでしたが、
夕食は中華街に出かけるつもりでした。
しかし外国からの旅行者が多いと思い、
どうしようかと迷っていました。
馬車道周辺でも、よく食事をしていたので
周辺での中華の店があるはずなので
散歩をしながら探していました。
以前いっていた店は、見つかりませんでしたが
新たなた中華の店を何軒か見つけて、
2晩とも、馬車道で中華を別の店で食べました。
横浜中華を、人の少ない店で、
お手頃価格で、夫婦でのんびりと、
久しぶりに味わうことができました。

2024年4月25日木曜日

1_216 月の形成 5:マントル・オーバーターン

 月の内部構造を精密にシミュレーションしていくと、金属鉄の核が存在していることがわかってきました。その他にも、マントル内でオーバーターンが起こっていたことも、明らかになってきました。


 前回、天体の内部を探る方法を考えてきました。地震や慣性モーメントなどから探る方法がありましたが、地震波がもっとも正確に内部を探ることができます。ところが、月では、限られた場所、限られた期間しか地震計が設置されていなかったので、情報も限定されています。そのため、正確な内部構造がわかっていませんでした。月を外からの探査した情報を加えることで、内部のより正確に探る試みがなされました。
 2023年のNature誌に、コート・ダジュール大学のブリアウド(Briaud)らの共同研究で、
The lunar solid inner core and the mantle overturn
(月の固体内核とマントルのオーバーターン)
という報告が出されました。この論文では、これまでの地震波データを再検討をして、精度の高い月の形状データも加えた熱対流のモデルから、月の内部構造を検討していきました。さまざまな条件で大量の(12万回)シミュレーションをした結果、前回紹介したように、月に金属鉄の核がある条件が、もっともえられている情報に合うことわかりました。そこから、金属鉄の核が存在すると考えられました。
 さにら、論文のタイトルの後半にあるマントルのオーバーターンがあったという推定も提示されました。論文では、このマントル・オーバーターンの証拠を重視しています。
 月の地殻は、白っぽい斜長岩と黒っぽい玄武岩からできています。月のすべての地殻が火成岩になっているため、大量にマグマが形成されたことになります。月では、形成初期に、大規模な溶融が起こっていたはずです。
 かつてはその熱源として、放射性元素とマントル・オーバーターンによるエネルギーが考えられていました。ただし今では、月の形成時に物質が短期間に集積しことによる重力エネルギーの開放で、マグマオーシャンができたと考えられています。
 マントル・オーバーターンとは、マントル内やマントルと核などで、層をなしていた物質が大きく入れ替わる(オーバーターン)ことです。一般に、天体形成初期の熱かった状態から、冷えていく時に化学分化が起こり、内部に軽い物質と重い物質の分層がおこります。マグマによる化学分別が起こるのですが、できた岩石には密度差ができます。その結果、重力的に不安定な状態(密度の大きいものが上、小さいものが下)が生じれば、ある時一気に、物質の入れ替わりが起こることがあります。例えば、下に岩石(マントル)で上に鉄(核)があると、オーバーターンが起こります。
 では月では、どのようなオーバーターンが起こったのでしょうか。それは、次回としましょう。

・暑い横浜・
先週、横浜にでかけました。
墓参し、親族に会いました。
以前の職場であった博物館を見学し
その周辺をめぐり、その変貌ぶりを味わいました。
また、中華街ではないですが、
馬車道で中華の食事をとりました。
久々の横浜となりました。
桜も遅くまで残っており、
あちこちで名残の桜を見ることができました。

・涼しい北国・
横浜にいる最中、非常に天気もよく、
全国的に暑くなりました。
北海道も夏日になっていました。
ほとんどの雪が溶けてしまいました。
帰札してすぐに、
自家用車のタイヤを夏タイヤに変えました。
すると、また涼しい日が訪れました。
ストーブをまた数日炊きました。
さすがに雪ではないですが
もうすぐゴールデンウィークだというのに
どうしたのでしょうか。

2024年4月18日木曜日

1_215 月の形成 4:核の存在

 月の形成に関する次の話題になります。月の核についてです。月の内部に核があるかどうかは、長らく議論されてきました。前回まで紹介してきたような月の起源とも直接関わることになります。


 月は、有人のアポロ計画から、無人探査機による周回軌道からや表層での調査など、多数の調査がなされていますが、その内部については、未だによくわかっていません。
 天体の内部を調べるのは、どうするのでしょうか。いくつかの方法がありますが、天文学的観測から、質量、半径、角運度量、角速度を調べて、そこから慣性モーメントを求めます。もし内部まで全体の密度一定の物質からできていると、その値は物理学的は方程式から、0.4になります。中に重いものがあるとこの値は小さくなり、軽いものがあると大きくなります。
 地球の慣性モーメントは0.3307、金星が0.336、火星が0.366 となり、岩石惑星は、0.4より小さく、内部に密度大きいものがあることになります。巨大ガス惑星の木星で0.254、土星で0.210となり、値がさらに小さくなるので、より密度差が大きなものがあることになります。
 月は0.393となり、0.4に近いので、内部に密度の大きいものがあることになりますが、小さいはずです。それが金属鉄の核なのかどうかは、この値からは不明です。核があったとしても、小さいものになります。
 他に、地震波の観測から調べる方法があります。地震波の観測には、地震計を月面に置かなくてはなりません。地球と異なって、その設置は限られています。アポロ計画で、月に計5個の地震計が置かれました。9年ほどの観測がされて、1.2万回以上の地震(月震といいます)が記録されました。月震は揺れの大きなもの(マグニチュード3以上のもの)は28回と少なく、大半が深くで起こる小さいものでした。その発生メカニズムもよくわかっていません。時々隕石の衝突による月震も記録されています。
 月震の解析から、月の内部には、地球と同じように固体のマントルがあることはわかってきました。深部には地震波速度が小さくなるところがあり、そこは一部溶融したマントルと金属核(半径480kmのところ)があると考えられています。さらに深部には、また地震波速度が大きくなり、固体の金属核があると考えられるようになってきました。金属核のサイズは半径約330kmから250kmだと考えられ、非常に小さなものです。
 しかしその精度がよくありません。深部の核を詳しく探るには、そこを通る地震波のデータ必要になります。しかし、地震計は月の表側に置かれているために、内部を通る地震波のデータが少ないためです。
 その後、周回衛星で実施された重力探査と組み合わせて、月の内部がある程度正確に推定されるようになってきました。そして、核の存在が確実になってきました。

・横浜へ・
このマガジンは、10日ほどの前に予約配信しています。
それは、横浜に週末から週の前半にかけて
出かけているためです。
以前から訪れたかった義母の墓参りをします。
COID-19のはじまりでの訃報だったので
葬儀にも参列できませんでした。
もうひとつは、義父との面会です。
昨年春までは、COVID-19の影響で
出かける機会がつくれなかったのと
2023年度前半はサバティカルで四国に滞在していたため
今回の機会になりました。
そのため、今回は予約配信となりました。

・遅めの春・
北海道では、今年は雪が遅くまで降ったので
少々遅れ気味です。
それでも、4月に入り、急に春めいてきました。
桜の季節にはまだ早いですが、
初春のフキノトウや福寿草など
咲きはじめています。
ヒバリの鳴き声も賑やかになってきました。
北海道の春は一気に進んでいきます。

2024年4月11日木曜日

1_214 月の形成 3:シミュレーション

 ジャイアント・インパクトは、過去の事変なので検証不能です。現在の事実を説明できるモデルを、シミュレーションで確かめていくことになります。ただし、シミュレーションには、落とし穴もあるので注意が必要です。


 ジャイアント・インパクト説は、多くの研究者が起こったと認めるようになってきました。ただし、課題もあり、地球と月のある成分(酸素同位体組成)が似ている点も大きなものです。同位体組成は同じ起源物質からできたことを示しています。
 ジャイアント・インパクトで、ぶつかった天体(ティアと呼ばれています)と地球は、別々にできたものなので、異なった成分(同位体組成)を持っていたはずです。地球に衝突後、粒子が大量に飛び散りますが、ティアと地球の成分が混合していきます。その時、地球と飛び散って月を作った粒子の組成はどうなるでしょうか。地球はもともともっていた成分に、ティアの成分が加わることになるはずですが、月は飛び散った粒子なので混合の程度はさまざまで、異なった組成になりそうです。なのに地球と月の同位体組成は似ています。
 この課題に対して、衝突で地球から飛び出した粒子が高速回転することで加熱され、溶けて均質の雲状態(シネスティア Synestiaと呼ばれています)になったと考えます。シネスティアが冷えて固まり、地球にも月にも降り注げば、お互いに似た組成になるというものです。ただし、できた月の公転軌道が、地球の赤道面になる可能性が低いことが問題でした。
 前回紹介したケゲレイスらの論文は、この問題が解決できたという報告でした。その解決方法は、粒子を100万個から1億個まで増やして高解像度のシミュレーションを進めると、それまでうまくいかなかった月の形成がうまくいくようになりました。
 シミュレーションでは、地球に近い側に大きな天体と、遠い方に小さい天体ができたのですが、地球に近い側にある大きいほうの天体は、地球に衝突してすぐになくなります。遠くの小さい天体(月の0.69倍の質量)は、円軌道をもった月となることがわかってきました。そして、月は、数時間もあれば形成できるという結果もでてきました。衝突さえ起これば、月は簡単にできるということになります。
 この論文では、シミュレーションの精度を上げるために、粒子の数を増やしていきました。従来の研究では、せいぜい100万個でのシミュレーションだったのですが、増やしていくと、約320万個を堺に、別の様相を呈する結果がでてきました。
 現実はどれほどの粒子があったのかは不明ですが、粒子の数が億よりもっと大きな数であったはずです。もしかするとシミュレーションで、もっと大きな数になると、別の様相が生じるかもしれません。そう考えていくと、シミュレーションに終わりがなくなります。
 シミュレーションは、求める結果が出たときに、成功したとして、終わります。しかし、その先に別の様相が起こるかもしれません。どれだけおこなえば変化するのか、それともずっと変化しないのか、それは不明です。現状のシミュレーション結果は、確定したものではありません。

・終わりはない・
シミュレーションは高速の大型計算機を用いて進められます。
研究は、ゴールを想定して進めていきます。
今回紹介した論文のように
これまでいい結果がでていなかった原因が
シミュレーションで扱っている
粒子の数だと想定したのでしょう。
数を増やして、変化を調べてきました。
それまで100万個であったものを増やしていくと、
320万個で、突然、様相が変わりました。
その先に様相がどう変化するかを
1億個まで増やして、同じ結果になることを確かめました。
その先にはもう様相の変化はないでしょうか。
それは不明です。
もし、320億個まで増やしていけば、
そこで変化があったかもしれません。
しかし、さらにその先にも変化があるのかもしれません。
様相の変化は、無限に起こる可能性もありそうです。
シミュレーションの終わりは、
実際の衝突で飛び散った粒子の数に達した時でしょう。
それも不明なので、やはり終わりはないですね。

・講義のスタート・
いよいよ今週から講義がスタートしました。
久しぶりの講義再開なので、
慣れるのに時間がかかりそうです。
今週末には、私用で3日間でかけます。
その次の週の講義の準備も
しておかなければならないので
よけいにバタバタしています。
この私用が今年最初の遠出となります。

2024年4月4日木曜日

4_182 駒ケ岳:流山と景観

 今回は、昨年11月に訪れた駒ケ岳と大沼の紹介です。激しい火山活動が、現在のきれいな景観をつくりました。今後の「地球地学紀行」のシリーズについても考えました。


 COVID-19のため、2020年度は野外調査に出かけれられず、2021年度から2022年度にかけても、影響はまだあり北海道中心の野外調査となっていました。北海道は広いのですが、なんとなく似たルートでの野外調査が多くなりました。地質学的興味は尽きませんので、何度でも同じ地域にでかけていきます。それでいいと思っています。
 昨年11月中旬に野外調査にでかけた道南の紹介をします。道南には、毎年のように訪れていますが、今回は駒ケ岳と大沼周辺に出かけました。
 駒ケ岳の山頂部は、馬蹄形に削られたような特徴的な形をしています。もともとは、このような形の山頂ではありませんでした。駒ケ岳は、10万年前から活動しており、4万年前には、きれいな円錐形の成層火山(富士山のような形)をしていました。4万年前にいったん活動を停止したのですが、6800年前に活動を再開しました。何度も噴火を繰り返しながら、やがて活動は収まってきました。
 1640年に、再度、激しい活動をはじめました。この活動で山体崩壊が起こり、もともと1700mの標高があったものが、600mほど低くなって、崩れた山の形になりました。山体崩壊で、大きな岩塊が一緒に崩れました。そのような岩塊が斜面に残った流山地形ができました。1640年の噴火で流れ出た溶岩が、河川をせき止め、大沼ができました。大沼の中にある島々は山体崩壊の岩塊です。
 1929年と1942年に中規模の噴火がありましたが、不規則に小規模な活動を繰り返してきています。駒ケ岳では、時々火山性地震が発生するのですが、火山活動はあまり起こっていませんでした。2000年の小規模な水蒸気爆発があったのですが、その後は穏やかになっています。
 ところが、2023年12月以降、火山性地震が発生しています。3月23日には火山性微動や傾斜変動が起こりましたが、まだ大きな噴火の兆候はなさそうです。噴火警戒レベルは1(活火山であることを留意)のままです。
 激しい噴火で山体崩壊が起こした岩塊や溶岩が、大沼の景観をつくりました。火山活動による地形が駒ケ岳や大沼の観光地となりました。また周辺には温泉もあります。しかし、駒ケ岳は、活火山であることは忘れてはいけません。

【定期的配信】
 月刊メールマガジン「GeoEssay 大地を眺める」というエッセイを、先月で休刊としました。GeoEssayは、露頭写真や地形図、地質図、地形解析図、衛星画像など用いて、その地域の地質を文章で紹介していくものでした。そのため、ホームページで、エッセイ(文章)とともの多くの画像も公開していました。
 GeoEssayを休刊にした代替として、このEarthEssayで、月に一度(月初の号)は、「地球地学紀行」のシリーズを配信していこうと考えています。
 GeoEssayを休刊にしたのは、今年度で定年退職するためです。研究のために大学のコンピュータ室に設置しているサーバで「GeoEssay」を公開しているたのですが、退職で停止しなければなりません。この1年でサーバによる教育活動も、順次停止していく予定をしています。
 このEarthEssayはテキストだけなので、退職後も継続していきます。サーバは使いませんが、メールマガジンとブロクでの公開としていくことになります。

・Last Year・
2024年度がはじまりました。
今年は自分にとってはLast Yearとなるため、
すべての行事、講義が最後となっていきます。
二度とできないものが続いてきます。
実際におこなわれている教育は、
受講する学生にとっては
各出会い、講義が一期一会となります。
ですから、いつであっても、手抜きはできません。
そうはいっても、最後となると・・・

・入学式・
大学の入学式は、街の大きな会場を借りて実施されます。
新入生と保護者が一同に入れるサイズの会場が
大学にはないためです。
多くの大学では、入学式や卒業式は
全員が一度に入れる会場はもっていません。
大きな会場を借りて実施しています。
小中高校では、自前の施設で実施しているのですが、
大学は貸会場となることが多いようです。
全学生が集まるという需要が
ほとんどないためでしょう。
大学の自前のホールで実施しているところもあります。
我が大学も、学位記授与式は学部学科ごとに分けて
学内のホールで実施しています。
十分、セレモニーとして成立しています。

2024年3月28日木曜日

1_213 月の形成 2:ジャイアント・インパクト

 月の形成でジャイアント・インパクト説が、現在では有力となってきたことを、前回、紹介しました。月の起源は二転三転しながら、ジャイアント・インパクト説に再度なってきました。


 かつては、月の起源説には、衝突説があました。それも月形成のアイディアとして、昔の人はその可能性を思いついていました。しかし、太陽系のできかたが、少し明らかになるに従って、大きな天体同士の衝突は、稀な現象だと考えられました。そして、顧みられなくなりました。
 ところが、太陽系形成の現代的なシミュレーションにより、復活しました。初期には多数の微惑星ができ、衝突合体が起こり原始惑星へと成長していきます。ひとつの公転軌道には、いくつかの大きな原始惑星へと成長していきます。そして最終段階には、大きな原始惑星同士の衝突、ジャイアント・インパクトが起こりそうなことが、シミュレーションから明らかになってきました。衝突説は、一旦は消えそうになったのですが、再度復活してきました。
 ジャイアント・インパクト説は有力ですが、課題もまだ残されており、説の詳細は、今でもいろいろと議論されています。議論の中でも、一番の注目は、月ができていく過程でしょうか。その様子はシミュレーションでしか再現できません。
 ケゲレイス(J. A. Kegerreis)らの共同研究で、2022年10月のThe Astrophysical Journal Letters誌で、
 Immediate Origin of the Moon as a Post-impact Satellite
 (月の衝突後の衛星としての短時間の起源)
という論文が報告されました。
 この論文では、高解像でシミュレーションがなされました。衝突で飛び散る粒子の数が、シミュレーションの精度となります。この論文では、1万個から1億個までの範囲でシミュレーションが実施されました。
 これまでは、10万個~100万個の粒子でおこなわれていたシミュレーションで、月ができたり、できなかったりしていました。ところが、粒子の数を1億個まで増やすと、簡単に月ができることがわかってきました。その期間は、わずか数時間ほどでできました。
 非常に短い時間で月の誕生することがわかってきました。このような短い時間は、衝突時に放出される熱エネルギーが、月に取り込まれることになります。これが、月でマグマオーシャンをつくるための用いられることになります。
 このシミュレーションでは、同時に2つの天体ができました。それについて次回にしましょう。

・送別会・
大学は、年度末を迎えています。
在校生のガイダンスや健康診断、
新入生を迎えるための準備も進んでいます。
そんな中、教職員の送別会が学部や大学で
いくつかおこなわれました。
やっと例年通り飲食ができる状態となりました。
私にとっては、久々の公的な宴席が続きます。
退職される知り合いも
数名おられるので、寂しさもあります。
ただし、職員では再雇用や教員では非常勤として
次年度からも勤務される方もおられます。

・思いつきの連鎖・
現在、本を執筆しています。
ライフワークのまとめとなります。
これまで進めてきた
さまざまな方向の研究成果が
不思議と合体してきました。
最初に別のテーマがつながると
思いついたときから、
思いつき連鎖していき、連環していました。
今は、その思いつきを
整合的につなげていく作業を進めています。

2024年3月21日木曜日

1_212 月の形成 1:起源の仮説

 月に関するいくつかの新しい知見が報告されました。まとめてシリーズにして、紹介していきます。月の起源に関していくつかの説がありました。これまでどのような説があり、それぞれでどこが課題なのかを紹介していきましょう。


 かつて、月の起源には、いくつもの説がありました。起源説としては、分離説(分裂説、親子説)、捕獲説(他人説)、集積説(兄弟説、双子)などに分類され、古くから議論されてきました。現在では、ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説 giant impact)が有力となっています。それぞれ、どのような説かをみていきましょう。
 分離説とは、古くからある説で、地球から月が分離してできたというものです。かつては地球の自転が速かったため、地球のマントル物質が飛び出して月が形成されたとする説です。地球がマントルが分裂するほど高速回転していたとすると、現在の地球と月の運動(角運動量)と合わなくなります。
 捕獲説は、太陽系初期に多数形成された微惑星の一つが、地球に捕らえられたというものです。月が地球に捕獲される時、月の運動エネルギーを減らさなければなりません。その方法は現実的ではないものになります。
 集積説は、地球と月は近くで一緒に形成され、連星の状態になったとするものです。ところが、似たような材料物質からできたはずなのに、天体全体の平均密度や平均化学組成に違いがあり、月では揮発成分が少なくなっています。月でも金属鉄の核を持つはずなの、核がないかあっても小さいと推定されています。ただし、同位体組成が似ています。
 これらの3つの説は、いずれも課題の多いモデルとなります。地球と月の岩石の同位体組成が類似しているのに、いくつかの化学組成の違いや運動(角運動量の類似)が問題となっていました。
 ジャイアント・インパクト説より前には、衝突説があり、地球に天体が衝突して、月が飛び出してできたというものです。衝突は、偶然で稀な出来事だと考えられ、もっと困難な説だと考えられてきました。しかし、太陽系初期のシミュレーションにより、多数の微惑星が形成され、衝突合体しながら成長していくことが明らかになってきました。天体同士の衝突は頻繁に起こり、衝突の終わりころには、大きな原始惑星同士が衝突するすることになったと考えれました。それがジャイアント・インパクト説で、現在では、もっとも有力な説となってきました。
 では、ジャイアント・インパクト説で、月はどのようなプロセスでてきていくのでしょうか。いろいろなシミュレーションがなされてきていますが、非常に短期間でできたという報告がありました。その内容は次回にしましょう。

・祝賀会・
先週、学位記授与式がありました。
コロナ禍も終わり、通常通りに開催されました。
その後の祝賀会も、例年通りに実施されました。
全学での開催なので、
落ち着いて話せないのですが
賑やかな会になります。
例年、祝賀会に出席しているのですが、
今年から出席を控えることにしました。
祝賀会のあとも、
学科やゼミの学生たちと
宴会をしていました。
今年度から、ゼミを持たなくなったので、
学生とゆっくりと宴席を囲む場がなくなりました。
さみしいですが、しかたがありません。

・静かな幕引き・
退職まで、あと1年となりました。
失礼にならない程度に、
静かに幕引きをしたいと考えています。
本来なら、退職1年前は校務分掌も
最低限となるはずです。
諸般の事情で、役職に就くようになりました。
しかたがない事情なので引き受けましたが、
それを最後の奉公と思って、
つつがなく務められればと思っています。
サバティカル以降、少しずつですが、
定活(定年活動)を進めています。

2024年3月14日木曜日

6_209 AIで最初の星 4:銀河考古学

 最初の星に由来する元素を、AIで解析した報告がありました。太陽系近傍の若い星には、複数の星に由来する元素が用いられていました。これは、銀河、宇宙の形成の時空間へ、情報を与えることになりそうです。


 観測で調べた若い星の元素組成を、AIで解析した報告がなされました。すると、ひとつの最初の星に由来する元素からだけではなく、複数の星に由来することがわかってきました。この結果は、どのような意味があるのでしょうか。
 星は、形成場の周辺に存在している元素が素材になります。今回の報告では、若い星の形成場には、いくつもの最初の星に由来する元素がありました。形成場は、複数の星の超新星爆発が起こり、元素が混在していたことを示していました。これは、最初の星は、同時期に形成され、同時期に超新星爆発を起こしたことを意味しています。
 複数の最初の星の元素が集まっているということは、近くに最初の星がいくつも形成されていた状態、つまり星団となっていたと考えられます。これは、宇宙創成期に、星の形成場では、星の分布が不均質だった可能性を示していそうです。
 最初の星の様子を、形成時期だけでなく位置関係も推定させることになってきました。これらの内容は、最初の星の誕生のシナリオでも考えられていましたが、今回の報告で、その証拠が示され、定量化もできたことになります。
 さらに、超新星の元素合成であらゆる可能性での元素組成をシミュレーションして、AIに学習させました。その学習結果を、現実の観測値このような過去の星「最初の星」の様子を推定に利用するというアイディアは素晴らしいものでした。そして、太陽系近傍の星に適用してえられた結果は、今後、全宇宙の適用していく時の重要な作業仮説にできます。
 このような研究手法は、過去の銀河や恒星の探査は「銀河考古学」と呼ばれています。銀河考古科学には、星の元素の特徴を用いて調べるほかにも、星の分布、星の運動などを用いても研究が進められています。近年、観測衛星の高精度のデータから、星の固有運動を正確に決定できるようになってきました。星の運動を用いる研究も、進められています。
 太陽系の近くの恒星から、古い銀河、宇宙開闢の様子を探ろうとするアイディアは面白いですね。

・マスク・
集中講義が終わり、3月のバタバタも
これで一段落となります。
今週末には、学位記授与式がおこなわれます。
コロナ禍以来、やっと通常の学位記授与式となります。
まだ教職員にも学生にも
マスクをしている人が、まだ何割かいます。
そのため、素顔を覚えることなく
卒業していく学生もいます。
街で素顔の卒業生とすれ違っても
見分けがつかないかもしれません。

・定活・
今年から、かつての状態に戻り
全学の卒業を祝う会がおこなわれます。
今年からゼミを持たなくなったので、
身近な学生との懇親会がなくなりました。
コロナ禍が終わって、やっと学生との
宴会ができる状態になったのですが
学生との飲み会ができないのが残念です。
まあ、定活(定年退職に向けての準備)と思って
少しずつ、変化に慣れていきましょう。

2024年3月7日木曜日

6_208 AIで最初の星 3:スペクトル分析

 恒星の元素組成は、光のスペクトル分析で調べることができます。最初の星の超新星爆発で形成される元素組成は、理論から推定することができます。両者を、AIを用いて解析することで、新しいことがわかってきました。


 恒星の元素組成は、どうして知ることができるのでしょうか。恒星の光の観測から推定できます。私たちの太陽も同じ方法で調べることができます。
 太陽を例にしましょう。太陽からでている光を、プリズムを通すと波長ごとに分けることができます。その様子を詳しくみていくと、明るい線や暗い線がたくさん見つかりました。
 明るい線(輝線)は、太陽の内側で輝いているところに多くある元素が出している光で、その波長の特徴を示しています。一方、暗い線(暗線)は、太陽が出している光が、外側の大気中にある元素に、吸収された光の波長の特徴を示しています。光の波長ごとの特徴から、恒星(太陽)の元素組成を知ることができます。
 このような方法をスペクトル分析といいます。遠くの星のスペクトル分析ができれば、その元素組成も調べることができます。これは恒星の観測データから、その星の元素組成が決めることを意味しています。
 一方、最初の星の内部の核融合のプロセスが理論的に計算できます。同様に、超新星爆発で合成される元素組成の計算もできます。こちらは理論的に最初の星の元素組成を想定することができます。ただし、最初の星のサイズが異なれば、元素組成も異なってきます。
 二代目の星は、最初の星とその超新星爆発で形成された元素組成と、周辺のビックバンでできた元素からできるはずです。何代目がわからないとして、重い元素の少なければ、若い星とみなせます。若い星の元素組成を観測して調べていきます。
 この論文の工夫された点は、最初の星の超新星爆発で形成される元素組成を、いくつものパターンを理論的に計算して、AIを用いて観測した星が、どのような組成の超新星爆発からできかを区分していったことです。
 AIの解析により、ひとつの超新星爆発の元素でできた星と、複数の超新星爆発でできた星が、区別できようにました。太陽系の近くにある462個の重い元素を含まない星を調べた結果、31.8%がひとつの星から来た元素であることがわかりました。このような星をモノエンリッチ(mono-enriched ひとつに富む)と呼んでいます。それ以外の68%ほどが、複数の超新星爆発による元素からできていることがわかってきました。このような星をマルチプリシティ(multiplicity 多元素性)と呼んでいます。
 これは、どのような意味をもっているのでしょうか。次回としましょう。

・事前指導・
現在、集中講義の最中です。
教育実習のための事前指導のための
授業となります。
ゴールデンウィーク開けから
教育実習がはじまります。
その前の準備となります。
先生として実際の授業を進めてきます。
はじめてのことなので、
なかなかうまくいかないでしょうが
実際の体験すること、
失敗することも重要です。
学ぶことが多いと思います。

・著書の執筆中・
著書の執筆を進めてみます。
当初予定より、1月ほど遅れてスタートしました。
それは、この著書に関係する
論文の草稿を執筆していたためです。
その論文や著書を書きながら
構想を深めてきました。
おかげで、これまで大学で研究してきた
いくつかのテーマがすべてつかって
総括できるような内容に発展してきました。
あとは、その内容をどこまで深めていけるかですが、
これが、なかなか難しく、頭を使う必要があります。
3月中になんとかまとめたいと考えています。

2024年2月29日木曜日

6_207 AIで最初の星 2:超金属欠乏星

 最初の星を見つけるのは難しいのですが、最初の星に近い初期の星なら、見つけられます。初期の星のデータを集めてAIに解析させることで、最初の星の様子を探ろうとしました。


 AI学習による最初の星の探査は、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の客員研究員のハートウィグ(Tilman Hartwig)さんたちの共同研究で、Astrophysical Journalという雑誌に、
論文タイトル:Machine learning detects multiplicity of the first stars in stellar archaeology data
(機械学習が恒星考古学データから最初の星の重複性を検出)
というタイトルで報告されました。
 「最初の星」とタイトルにありますが、直接観測できないので、初期の星から探ろうとするものです。重い元素は、最初の星の中と超新星爆発で合成されていきます。ですから、古い星を探して、その成分に重い元素が少ないほど、初期の星となっていきます。
 重い元素を多く含む星を種族I(population I)と呼んでいます。少ないものが種族II(population II)となります。最初の星は金属をまったく含まないので種族III(population III)と呼ばれています。前回紹介したように、種族IIIの星は見つかっていません。種族IIIに限りなく近い種族にIIの星が研究対象になります。
 そのような星は、「超金属欠乏星」と呼ばれています。これも前回のエッセイの【註】に示したように、リチウムより重い元素は、天文学では「金属」と呼ばれます。そのため重い元素(金属)が極端に(超)少ない(欠乏)星となります。
 重い元素の少ない星の特徴が調べられました。初期の星が、最初の星に由来する元素をもとにできていたら、最初の星の個性をもっているはずです。なぜなら、最初の星のサイズや超新星爆発の特徴により、元素組成にも特徴が現れるからです。元素組成の個性に乱れがあれば、複数、あるいは多数の最初の星の影響を受けていたことになります。
 元素組成のパターンを機械学習したAIを使って、調べていったというのが、この論文となります。その結果は、次回としましょう。

・閏年で29日・
今年は閏年で29日もあった
2月も最後となります。
2月は短く感じました。
それは、授業はなくなっていたのですが、
研究での作業が詰まっていたため、
バタバタとしていたためでしょう。
そのバタバタはまだ終わっていないのですが
充実はしています。

・集中講義・
3月上旬には、集中講義があります。
そのため、1週間、そこに忙殺されます。
学生もその間だけでなく、
準備にも時間を使います。
その相談のために研究室にもきます。
それも教育、指導になります。
熱心な学生ほど集中して準備に取り組んでいます。
ですから、手を抜くことも、
時間を惜しむことはできません。

2024年2月22日木曜日

6_206 AIによる初代星の探査 1:初代星

 いろいろな分野でAIの導入が進められています。天文学でも導入されていますが、2023年にでた論文では「最初の星」をAIで探したました。その論文を紹介していきましょう。


 「最初の星」をAIで探すという研究が報告されました。まず、「最初の星」とはどんなものがを考えておきましょう。それがわかっていないと、見つけることができません。
 「最初の星」は、「初代星」(first star)とも呼ばれていますが、宇宙ができた直後の星になります。「最初の星」は、宇宙の創成のときに存在した材料だけから作られていきます。ここでいう宇宙の創成とは、「ビックバン」のことです。
 ビックバンで形成された元素は、理論と観測でわかっています。ビッグバンで合成された元素は、水素(H)とヘリウム(He)がほとんどで、あとは少量のリチウム(Li)だけです。つまり、「最初の星」は水素とヘリウムからでできたことになります。
 天文に詳しい人であれば、太陽系の恒星(太陽)も、水素とヘリウムからできていることをご存知だと思います。しかし、太陽の構成元素を詳しくみていくと、水素とヘリウムが多いのですが、リチウムより重い元素がいろいろと見つかっています。重くなるほど量は少ないですが、明らかに太陽には存在してます。この重い元素は、ビックバンのときには存在しなかった元素です。ですから、私たちの太陽は「最初の星」ではありません。
 では、重い元素は、どうしてできるのでしょうか。恒星の中で、水素とヘリウムなどが連鎖的に核融合を起こして、鉄(Fe)までの元素ができていきます。恒星内では鉄までしかできませんが、星が一生を終えるときに起こる超新星爆発で、鉄より重い元素が形成されます。ですから、重い元素は、少なくとひとつの恒星ができて、終焉を迎えていないと形成されません。
 「最初の星」は、重い元素を含まない水素とヘリウムからだけの星だといえます。そのような星を探せばいいのです。しかし、「最初の星」は、現在のところ、どのような観測装置を使っても、まだ見つけることはできていません。小さなものは遠くにある(古い)ので暗くて見えないでしょうし、大きくて明るい星はすでに寿命が尽きているでしょう。
 最初の星がだめなら、第2世代の星を見つけることで、そこから最初の星の特徴を探ろうとしています。その手段にAIを導入したという研究が報告されました。その詳細は、次回以降としましょう。

【註】リチウムより重い元素は、天文学では「金属」と呼ばれるのですが、ここでは重い元素と呼ぶことにします。

・外国人観光客・
今年は2月11日まで、
札幌の雪まつりがありました。
中国の日本への旅行も解禁されていて
春節(2/10から2/17)もあったので
海外からの観光客が多くなりました。
寒い中を長時間歩いて見て回ったら
風邪を引いたことがあり懲りました。
今では、雪まつりはテレビで見るだけです。

・祝日の連休・
2月の祝日は、2回あります。
建国記念日と天皇誕生日です。
11日と23日で日程が近くなっています。
それに今年は、曜日の関係で
両方とも連休となります。
実は札幌で訪れたいところがあります。
出かける日程を連休をずらして、
平日にしました。
このエッセイの発行は
木曜日にしているので、
今日、出かけている予定です。

2024年2月15日木曜日

1_211 テクタイト 5:継続する研究

 インドチャイナイトは、非常に広範に分布しています。近年、研究が進み、形成時代や温度などの実体が、徐々に明らかになってきました。このテクタイトを形成した衝突は、生物にどのような影響を与えたのか気になります。


 インドチャイナイトでは、これまでのエッセイで、ラオス南部のボーラウェン高原に落下した隕石によるものだという報告を紹介しました。巨大なクレータができたのですが、その後、火山活動による溶岩で、クレータが埋められたということを、人工衛星からの重力や磁力のデータから示され、やっと位置が特定されました。
 他にも、インドチャイナイトに関する研究がいくつか進められています。2019年にMeteoritics & Planetary Science誌に発表されたジョーダン(Jourdan)らの共同研究による
Ultraprecise age and formation temperature of the Australasian tektites constrained by 40Ar/39Ar analyses
(40Ar/39Ar分析によるオースタラリアンテクタイトの超高精度の年代と形成温度への束縛条件)
という論文があります。
 この論文では、タイ、中国、ベトナム、オーストラリアからそれぞれ一つずつテクタイトを採取して、2つの研究所で3つの測定器を用いて、データが検証されました。加熱しながら測定するという手法でも、精度を上げるようにしました。その結果、40Ar/39Arによる年代は、78.81万年前(78.81 ± 0.28 万年前)となり、これまでより数倍の精度で年代を決めました。また、タイのテクタイトで温度推定がなされました。形成時の最低温度は、2350~3950°Cとわかってきました。
 公表時代は前後しますが、2022年の同誌に発表された論文で、千葉工業大学の多田賢弘らの共同研究による
Identification of the ejecta deposit formed by the Australasian Tektite Event at Huai Om, northeastern Thailand
(北東タイ、フアイオムでのオーストラリアンテクタイト事件による放出物堆積の特定)
という論文があります。
 この論文では、フアイオムの地質調査から、3つの放出物を含むラテライト(鉄やアルミニウムの水酸化物を多く含むサバンナや熱帯雨林に分布する土壌)層から、テクタイトを見つけています。下位には衝突時で再構成された層があり、その上に粗粒の砂とテクタイトの降下物の層ができ、もっとも上には細粒の降下物の堆積層があることを示しました。そして、それらの層には、衝突石英もあることを明らかにしました。
 他にも、テクタイトの分布範囲から、クレータのサイズを33~120kmと推定したり、イリジウム濃度から重量15億tの隕石だったという推定などもされきました。多くの研究者のさまざまな視点での研究によって、インドチャイナイトの実体が少しずつ明らかになってきました。
 隕石のサイズとしては、大絶滅を起こすほどではなかったようですが、このテクタイトの分布域の広さを見ると、その衝突の衝撃は非常に大きなものだったと想像できます。約80万年前は、原人がこの地域にもいたはずです。彼らは絶滅したのでしょうか。アフリカにしか生き残れなかったのでしょうか。ヒトの進化との関係が気になりますが、このシリーズはここまでにしましょう。

・湧き出るアイディア・
現在書いている論文に手こずっています。
来年、出版しようと考えている本の
重要な視座を決める内容なので、
重要な論文になります。
別の論文を書いている時に
新しいアイディアが浮かびました。
そのアイディアが連鎖しながら発展して
この論文の骨子へと繋がりました。
さっさと書けると思っていたのですが、
データを大量に扱い、文献を収集して内容を確認し
なければなりませんでした。
すごく手間がかかっていますが、
近いうちに粗稿ができそうです。
粗稿ができた段階で、この論文は一旦休止します。
本命の著書に執筆を急がなければなりませんので。

・分割した論文・
論文に関しての話題が続きまます。
前回投稿予定の論文は、重要な内容で
長いものになりました。
編集担当の人に相談したら、長編の論文は掲載できない。
しかし、同一著者の別の論文の掲載は可能だ。
ということなので、
いくつかに分けることにしました。
すると3編の内容に分割でき、
そのうち2編を雑誌に投稿しました。
そして残りの1編を、
別の雑誌に投稿するつもりで完成させました。
その時、上記の新たな論文のアイディアが
次々と湧いてきたのです。

2024年2月8日木曜日

1_210 テクタイト 4:地下のクレータ地形

 インドチャイナイトは広域に分布しているのに、クレータが見つかっていません。クレータ地形が地表に残されていないためです。砂漠の地下から見つかったクレータの証拠を紹介していきましょう。


 広域に分布しているテクタイト(オーストラライト、インドチャイナイト、チャイナイトなどの名称がありますが、ここではインドチャイナイトと呼びます)のクレータは見つかっていません。しかし、前回紹介したように、衝突クレータの位置が限定できたという論文が報告されました。
 この論文では、人工衛星による重力および地磁気の探査データから、中国北西部のバダイン・ジャラン砂漠に落ちたと考えました。探査データでは、地下にクレータ構造があることがわかってきました。クレータは、テクタイトの飛び散っているもっとも北の外側にあり、位置的にも合うところでした。しかし、そこは砂漠地帯なので、地形的な痕跡は残されておらず、これまで発見されなったのでしょう。
 衛星から探査されるのは、重力や磁気の平均的な値との差です。重力であれば、地下の物質の密度差があるところ、磁気であれば、通常と異なった磁気的性質の岩石の地域が検出できます。その異常の分布が、クレータの形状になっているかを探ります。表層に現れていない地下の様子を、衛星を用いて広域に探る手段にできます。
 重力では、負と正の異常の分布の状況で、位置が特定されました。ここでは、負の重力異常のところを正の異常が環状に取り囲んでいました。負の重力異常が直径50kmほどあり、その周りを正の重力異常が100kmほどで縁を囲んでいました。地形では見えない地下に、存在していたクレータを見つけたことになります。
 このような重力異常が形成された仕組みは、衝突した地点で、クレーターの中央が持ち上がり山地になります。破壊された岩石なので低密度なので、負の重量異常になったと考えられました。一方、破壊されていない元々の岩石があるところは、正の重力異常の部分となります。
 地磁気のデータでも、磁気異常が乱れているのですが、その分布がクレータの縁に沿っていることがわかり、クレータの存在を支持していました。
 今回は、地下に隠れているクレータらしきものを、探し当てたという報告でした。しかし、地形にでていませんし、シャッターコーンの存在やその分布など、直接の証拠は見つかっていません。衝突クレータだろ確定するためには、掘削などして、なんとか直接の証拠を見つけなければなりません。ただし、200mほど掘らないとわかりそうにありませんが。
 インドチャイナイトというテクタイトについては、衝突クレータがみつかっていないことから、いろいろな研究がなされてきました。次回以降は、このテクタイトについて研究を、いくつか紹介していきましょう。

・静かなキャンパス・
大学は定期試験と追試が
そして一般入試も終わりました。
外見上は一段落しているように見えます。
4年生の卒業がかかっていますので
教員には採点評価が早急に求められています。
学内の競争的資金の申請の締め切りもあります。
来年度のシラバスの作成、入力も必要になります。
入試判定、卒業、進級、資格認定の審査
などの会議も続いていきます。
大学からは、学生の姿が少なくなります。
そのため、キャンパスからは慌ただしさが消えて、
落ち着いた日々が流れていきます。

・研究に励む・
現在、論文1編と本2冊の執筆を
並行して取り組んでいます。
静かなキャンパスであることが助かります。
いろいろと校務は続くのですが、
時間的にはもっとも余裕ができる時期になります。
今年が、ライフワークをまとめる
最後のチャンスとなっています。
日々、自身が課したノルマをこなすため
あくせくと研究に励んでいます。

2024年2月1日木曜日

1_209 テクタイト 3:不明のクレータ

 テクタイトとクレータの対応できないものもあります。その中でも、もっとも広く分布しているテクタイトのクレータが見つかっていません。そのクレータ探しが進められています。


 テクタイトが見つかっていても、クレータが見つからないことがあるのを、前回、紹介しました。テクタイトの分布から、落ちた場所は、推定することができるはずです。なのに、なぜ見つからないのかが不明です。
 もし古い衝突であれば、侵食や地質変動などで消えていくこともあるかもしれません。しかし、新しい衝突であれば、その付近を探索すれば、クレータの証拠が見つかるはずです。それでも見つからないクレータがありました。
 インド洋からオーストラリア、インドネシア、東南アジア、南極大陸まで、最も広く分布しているテクタイトがあります。広域に分布しているので、各地で別の名称が付けられていました。オーストラリアではオーストラライト(Australite)、西南アジアではインドチャイナイト(Indochinite)、中国ではチャイナイト(Chinite)などと呼ばれています。しかし、そのクレータは見つかっていませんでした。
 テクタイトから、衝突の年代は79万年前だとわかっています。新しい時代の衝突なのに、クレータが見つかっていませんでした。テクタイトの分布から、アジア大陸の東部だと考えられています。このように広域にテクタイトを飛ばす衝突であれば、直径20kmのクレータができていたと推定されます。
 かなり大きなクレータができたずです。候補として、カンボジアからラオスのボーラウェン高原に分布する玄武岩台地が、その衝突の結果できたのではないかと考えられました。衝突で地殻下でマグマが発生して、溶岩層になったので、クレータが消えているのではないかとも考えられました。
 2023年、サエンスレポート誌にカリミ(Karimi)らの共同研究で、
Formation of Australasian tektites from gravity and magnetic indicators(重力および地磁気の指標によるオーストラライトの形成)
という論文が報告されました。この論文では、人工衛星からの重力と地磁気のデータを用いて、中国北西部のバダイン・ジャラン砂漠に落ちたという提案がされています。
 その詳細は次回としましょう。

・寒波・
先週の大寒波での大雪は大変でした。
交通は運休部分があり、
各地で間引き運転となっていました。
ちょうど定期試験がはじまる日にあたっており
担当の科目の試験があました。
交通障害で多くの学生が来れず、
大人数が追試を受けるのではないかと
心配になりました。
大人数になるのなら
追試も2クラスになるかもしれず、
もしそうなれば、試験問題も作り変えるつもりでした。
ところが、ほとんどの学生が出席しており
追試の受験者も少な目になりそうです。

・2月になりました・
2月になりました。
1月には大学では、いろいろな行事がありました。
後期の講義も定期試験も終わりました。
そして2月には大学入試がはじまります。
教員は監督、採点、合否判定などが続きます。
1月の正月明けから2月までは
慌ただしい日々が続きます。

2024年1月25日木曜日

1_208 テクタイト 2:クレータとの対応

 テクタイトには、いろいろな形、色、透明度などのものが見つかります。隕石ごとに、その種類や落ちた場所の特徴が異なっているためです。テクタイトには、隕石の落下位置がわかっていないものもあります。


 隕石が衝突した証拠として、隕石の破片やクレータがあれば、すぐにわかります。他にも、シャッターコーンや衝突石英、そして間接的なものとして高温高圧鉱物、特別な元素や津波堆積物や煤の層なども証拠になることを紹介しました。
 前回残していた、テクタイト(tektite)について紹介していきましょう。隕石が衝突した時、高温高圧状態が発生します。隕石と地球の岩石が溶けて、一緒になった液体が飛び散ります。溶けた液体(マグマ)が、飛んでいるうちに、冷え固まりガラス状になったものが、テクタイトになります。
 テクタイトは、成分によって黒色、緑色、黄色、茶色だったり、透明から不透明なものまで、多様なものがあります。また、液体の粘性と飛翔速度によって、形状も、ボタン型や流線型、滴状など、衝突の条件ごとに異なった見かけのものができます。
 テクタイトは、衝突地点の周辺に飛び散ります。特徴のある見かけをしているので、見つかりやすいものです。一つ見つかれば、同じような見かけをしているので、一気に多数見つかっていきます。
 テクタイトは特徴があるので、それぞれ名前がつけられています。モルダバイト、ベディアサイト、ジョージアアイト、アイボライトなどがあります。
 隕石が衝突した方向に応じて、テクタイトの飛び散る方向も決まってきます。ですから、テクタイトの分布からクレータを探すこともできます。テクタイトと対応するクレータが見つかっているものもあります。モルダバイトは1500万年前に衝突でできたドイツのリース・クレータより飛び散ったものです。ベディアサイトとジョージアアイトは、3400万年前のアメリカのチェサピーク湾クレーターから、アイボライトは100万年前のガーナのボスムツイ湖クレータに由来していることがわかっています。
 テクタイトが形成されるような隕石は、かなり大きなサイズだったはずです。衝突でできたクレータも、大きなものだったはずです。クレータが大きくなるほど、衝突の頻度は稀な現象となります。衝突も古い時代のものになります。
 また、地球は3分の2は海で、大陸でできたクレータしか見つかりません。大陸でできた古い時代の衝突のクレータは、大きくても侵食で消えていくこともあります。
 そのため、テクタイトが見つかっていても、クレータがわからないものもあります。実はもっとも広域に分布するテクタイトで、由来したクレータが見つかっていないものあります。次回としましょう。

・後期終了・
大学の今年度の後期の講義が終わり、
現在定期試験の期間に入っています。
担当の講義、2クラスで試験を実施します。
多数の学生が受けるので
採点も、なかなか大変になります。
定期試験のあとには、大学入試が続きます。
その直後には、後期の成績提出となります。
講義が終わってから、
バタバタと忙しい時期がきます。
いつものことですが。

・帰省・
次男が、現在、帰省しています。
長男は3月に帰省するはずです。
子どもたちも、
それぞれの道を進むようになっていくので、
1家4人がそろうのは、
なかなか難しくなっていきます。
これもが家族の時間変遷でしょう。
最後には、夫婦ふたりの生活が基本となってきます。
それに備えて、生活ルーティンや人生設計を
進めていくしかないでしょうね。

2024年1月18日木曜日

1_207 テクタイト 1:衝突の証拠

 隕石の衝突によって、地球表層では、いろいろな現象や変化が起こります。隕石が見つかる場合もありますが、大きな衝突ほど、隕石は見つかりません。それでも、衝突の証拠は残されています。


 隕石の落下は、そのサイズを問わなければ、常時至る所で起こっています。しかし、大きな隕石ほど衝突でなくなっていったり、古い隕石ほど風化な埋没などで分からなくなっていきます。
 隕石本体が見つかっていなくても、落下した証拠が見つかることがあります。一番わかりやすいものとして、クレータがあります。クレーターが見つかれば、隕石がなくても、衝突があったことがわかります。
 他にも衝突の証拠はあります。テクタイトやシャッターコーン、衝突石英などがあります。他にも、間接的ですが、高温高圧鉱物(コーサイト、スティショバイト、ダイヤモンドなど)、特別な元素(イリジウム)や津波堆積物や煤(すす)の層などもあります。
 聞き慣れないものが、いろいろ出てきましたので、説明していきましょう。テクタイトは、今回のテーマなのであとで説明することにして、それ以外のものについて、紹介しておきましょう。
 シャッターコーン(shatter cone)とは、隕石が衝突した時、周辺の岩石を衝撃波が通り抜けて、その模様が残された岩石のことです。溝は、円錐状の細いスジになっています。衝突の中心から放射状にできます。シャッターコーンのスジから、衝突の位置が推定できます。どのような岩石でも衝撃波は通り抜けますが、細粒で緻密な岩石に残されています。大規模な核爆発の際にも、形成されることがわかっています。
 衝突石英とは、もともとあった岩石中の石英が、衝撃による圧力で結晶構造が変形したものです。特殊な顕微鏡(偏光顕微鏡)てみると、特異な縞模様となって現れます。
 高温高圧鉱物とは、衝突時に瞬間的ですが高温高圧条件が生まれ、その時変成作用が起こります。他の変成作用と比べても、異なっているので、衝突変成作用とも呼ばれます。大きなクレータの内部などで、石英の高温高圧鉱物のコーサイト(1960年にアメリカのバリンジャー・クレーターから発見)やスティショバイト(1962年に同じくバリンジャー・クレータから発見)、石墨の高温高圧鉱物のダイヤモンド(1972年にロシアのポピガイ・クレーターから発見)などができています。
 特別な元素として、イリジウム(Ir)が有名です。白亜紀の終わりに恐竜などの大絶滅が隕石によるものだと知られれています。隕石の衝突の証拠になったのが、イリジウムでした。地球表層には稀な元素ですが、隕石には多く含まれていることから、衝突の証拠となった元素です。
 津波堆積物や煤の層は、隕石の衝突によって起こった巨大津波や大規模火災によって形成されたものが、地層となるほどの量あったことになります。だたし、津波も火災も他でも起こる現象なので、他の証拠がないと隕石衝突と結びつけるのは困難です。
 さて、テクタイトですが、少々長くなってきたので、次回としましょう。

・共通テスト・
多くの大学で実施されていた
大学共通テストは無事終わりました。
監督する側としては一安心です。
一般入試を受ける受験生は、
これからが本番となります。
我が大学も、2月に入試があります。
一年で一番寒い時期の入試は
北国では雪や暴風の危険性が常にあります。
公共の乗り物を基準にしていますので
遅延や運休があると、
配慮しなければなりません。
コロナ罹患や今回の能登地震への対応と同じように
代替の試験準備しておかなければなりません。
なかなか大変ですが、配慮すべき事態なので
致し方がありません。
試験時期が、冬場でなければ、
トラブルは少なくなるのでしょうが。
夏の新学期制度は、すべての教育機関で
進まなければならないので
なかなか難しいでしょうね。

・大学入試・
一般入試までの期間に、
大学での後期の講義が終わります。
その後、定期試験も終わっています。
そして、大学も受験生も
いよいよ入試態勢へとなっていきます。
受験生は、合格すると一過性のイベントになりますが、
大学では、毎年の年中行事になります。
大変ですが、重要な行事なので、
かなり前から準備をしていきます。

2024年1月11日木曜日

2_218 生命誕生の条件 13:多数の試行錯誤で

 いよいよ、長かった本シリーズも最後となりました。今回は2つ目の疑問への解決案を考えていきましょう。冥王代だから、ありえる考え方となっています。そんな解決策に納得できるでしょうか。


 生命誕生の条件における疑問の2つ目です。生命の誕生にかけられる時間が短すぎる点です。これまで述べてきたシリーズの復習にもなります。
 水や大気が形成され、ハビタブルトリニティが整うのは、後期重爆撃が落ち着く42億年前だと考えられます。また、41億年前には生命の痕跡(化学化石)が見つかっています。これらがの年代が正しければ、1、2億年ほどの期間で、生命が誕生することになります。条件が整えば、短期間に生命が誕生していくような時間に思えます。
 これまで述べてきたように、生命に必要な化合物を合成するための条件がわかってきました。その条件は多様で、プロセスも複雑なことがわかってきました。化合物の合成には、非常に多く環境や条件で、多数の試行錯誤が必要だったはずです。その試行錯誤を、長くても2億年ほどの期間で進めていかなければなりません。
 プロセスの複雑さを考えると、短期間に生命合成にたどり着くには、非常に困難に見えます。克服するためには、非常に多くの試行を繰り返す必要があるはずです。生命誕生においては、多数の環境で多様な条件があり、そこに多数の試行がなされなければなりません。多数の環境や条件は、どのようにしてできたのでしょうか。
 天然の原子炉説が、合成場として有効だと紹介していきました。天然の原子炉では、放射性元素の235Uが使われています。235Uは超新星爆発で形成された元素で、太陽系にもともとあった元素で、その後は崩壊していきます。半減期が7億年なので、冥王代には現在よりもっと多く(30倍以上)あったはずです。
 そして、ウランは固相に入りにくい元素なので、マグマオーシャンができて、固化する時に表層の大陸地殻に集まる元素です。また、ウラン鉱物は隕石からも供給されます。そのため、冥王代の表層にはウランが多くあったはずです。
 後期重爆撃で揮発成分が供給され、海ができ、大気、大地で水が循環しだすと、水に溶けやすいウランが移動し、地層中への濃集が起こり、天然の原子炉ができる条件が整います。冥王代には、大陸地殻の地下に多数の原子炉ができたと考えれます。
 原子炉で、多様な化合物が合成されます。地表では、大きな大陸はまだ少なく、多数の列島のサイズの陸地だったと考えられ、火山活動も活発な多様な環境ができていました。そこに間欠泉から吹き出された化学合成された多様な分子を含む溶液が流れ出します。多様な環境に溶液がもたされ、新たに化合物ができ、付け加わっていきます。その一部は、地下水となって、再度、別の原子炉に入ってきます。そんか繰り返しが、陸地周辺で繰り返されます。
 冥王代固有の多数の原子炉と、地表の多様な環境で、化合物の合成と循環が継続され、多数の試行錯誤が、同時並行してなされます。その結果、1、2億年ほどの短期間で、最初の生命が誕生したと考えられます。
 長いシリーズで、生命合成に関する新しい考え方を導入しながら、生命誕の条件を見てきました。天然の原子炉という少々奇異なシステムを想定した仮説を紹介しました。近年の多くの成果が盛り込まれた仮説です。今後も検証、修正作業が続いていくでしょう。

・新しい仮説の評価・
最後にこの仮説の感想を述べておきましょう。
天然の原子炉と間欠泉の仮説をみたときは、
あまりにも荒唐無稽に思えました。
20億年前の天然の原子炉であるオクロの存在は
以前から知っていました。
現在には存在しない天然の原子炉を冥王代に想定して
仮説が組み立てられています。
本当に妥当だろうかという疑問も持ちました。
新しい科学的仮説ですから、
これまでの問題点や課題を克服して
なおかつ利点をもったものになっています。
心理的に受け入れがたくとも
理性的に科学的に判断していくべきでしょう。
この仮説に関する論文を
いくつも精読していくと、
だんだんと納得できるようになってきました。
今後、この仮説の問題点を議論し、
それが仮説内で解決できるかどうかを
繰り返していくことになります。
このような議論を重ねていくことが、
もっとも科学的姿勢でしょう。

・充実した冬休み・
今年の大学の冬期休業の期間は、
月曜日の8日が祝日になっているので、
通常の正月休みより長くなっていました。
9日から講義が再開しました。
正月の三ヶ日は休みましたが、
年末も大晦日まで、正月も4日から、
いつものように大学にでていました。
その間、大学は静かなので、研究がはかどりました。
おかげで、論文の粗稿が、なんとか完成しました。
あとは推敲を重ねていくだけです。

2024年1月4日木曜日

2_217 生命誕生の条件 12:構造侵食

 明けましておめでとうございます。正月早々ですが、昨年まで連載していた、途中であったシリーズ「生命誕生の条件」を続けていきましょう。長くなっているのですが、あと2回で終わる予定です。


 「生命誕生の条件」のシリーズで、生命合成のためには、天然の原子炉と間欠泉というモデルが、現在有力だと紹介してきました。しかし、そこには大きな疑問も2つありました。その1つ目の疑問が、冥王代の年代の砕屑性ジルコンは残っているのに、なぜ岩石が残っていないのか、というものでした。
 鉱物が存在しているということは、冥王代にはマグマができ火成作用が起こって固まり、岩石になった過程があったことになります。間接的ですが、地殻があったことになります。ところが、40億年前より古い岩石は見つかっていません。証拠のない時代「冥王代」との定義通りの時代となります。
 原因のひとつには、古い証拠ほど残りにくくなるという「時間の淘汰」があります。砕屑粒子は残っているのが岩石がないのは、なんらかの作用や原因があったのではないかと考えられます。
 ふたつの要因が考えられています。ひとつは後期重爆撃で、もうひとつが構造侵食です。
 後期重爆撃は、地球に揮発成分をもたらす現象でした。それ以前の地球は、揮発成分がない状態で、硬い地殻が、厚く覆った状態でした(スタグナントリッドテクトニクス stagnant lid tectonics と呼ばれています)。プレートテクトニクスは機能せず、大きな変動はなく、火山が噴出するだけの状態だったと考えられます。
 しかし、43.7~42.0億年前にかけて、大量の隕石の爆撃が起こります。小惑星帯や木星のあたりの軌道から、小天体や隕石が大量に飛んできて、地球に衝突します。厚い地殻が破壊され、揮発成分がマントルへ追加されることで、地球に大きな変化が起こります。
 後期重爆撃で多数のクレータができ、地球の岩石は破壊され飛び散り、時には岩石を溶かしてマグマができます。激しい衝突で、地球の岩石が大半が破壊されたと考えられます。月では、表層はレゴリスと呼ばれる、破砕された礫や砂のようなもので覆われています。レゴリスは、重爆撃で形成されたものがあります。隕石が地球の公転軌道の外側から来ても、地球は自転しているので、表層の岩石が、万遍なく破壊されていきます。表層はレゴリスで覆われ、岩石は破壊され、表面からはなくなっていた状態だと考えらます。ですから、海や大気だできても、堆積作用で移動するのは砕屑性の礫や砂だったのでしょう。
 衝突で揮発成分がマントルにも加わります。するとマントルの流動性が大きくなって、マントル対流が起こります。流動性の増加とともに、対流は大きくなり、やがて破壊された地表付近まで達します。プレートテクトニクスがはじまり、表層でプレート運動が起こります。
 海洋プレートが形成され、沈み込みもはじまります。この時、構造侵食として、地表にあった冥王代の地殻の岩石の大半が、マントルに持ち込まれていきます。その結果、冥王代の岩石の痕跡がなくなったと考えられます。
 残っていたとしても、レゴリスとして砕屑物だったのでしょう。これが、冥王代の岩石が残っておらず、砕屑性ジルコンは残っている理由ではないかと考えられます。

・新鮮な気持ちの正月・
COVID-19の感染対応も消えて
久しぶりに普通の正月を
迎えることができました。
初詣も、正月の買い物も、
マスクなしに、出かけることができます。
4年前には当たり前であったことが
3年間、当たり前ではなくなりました。
そして以前の日常がもってきました。
新鮮な気持ちで正月を迎えられます。

・大学の日常・
大学の1月の講義の再開は、
土日祝日の関係で9日(火)からです。
13、14日は大学入学共通テスト
この日には、行事もあり、飲み会もあり、
忙しい一日になります。
こような忙しさも、大学に日常が
戻ってきた証拠でしょう。
大変ですが、味わっていきましょう。