2024年1月11日木曜日

2_218 生命誕生の条件 13:多数の試行錯誤で

 いよいよ、長かった本シリーズも最後となりました。今回は2つ目の疑問への解決案を考えていきましょう。冥王代だから、ありえる考え方となっています。そんな解決策に納得できるでしょうか。


 生命誕生の条件における疑問の2つ目です。生命の誕生にかけられる時間が短すぎる点です。これまで述べてきたシリーズの復習にもなります。
 水や大気が形成され、ハビタブルトリニティが整うのは、後期重爆撃が落ち着く42億年前だと考えられます。また、41億年前には生命の痕跡(化学化石)が見つかっています。これらがの年代が正しければ、1、2億年ほどの期間で、生命が誕生することになります。条件が整えば、短期間に生命が誕生していくような時間に思えます。
 これまで述べてきたように、生命に必要な化合物を合成するための条件がわかってきました。その条件は多様で、プロセスも複雑なことがわかってきました。化合物の合成には、非常に多く環境や条件で、多数の試行錯誤が必要だったはずです。その試行錯誤を、長くても2億年ほどの期間で進めていかなければなりません。
 プロセスの複雑さを考えると、短期間に生命合成にたどり着くには、非常に困難に見えます。克服するためには、非常に多くの試行を繰り返す必要があるはずです。生命誕生においては、多数の環境で多様な条件があり、そこに多数の試行がなされなければなりません。多数の環境や条件は、どのようにしてできたのでしょうか。
 天然の原子炉説が、合成場として有効だと紹介していきました。天然の原子炉では、放射性元素の235Uが使われています。235Uは超新星爆発で形成された元素で、太陽系にもともとあった元素で、その後は崩壊していきます。半減期が7億年なので、冥王代には現在よりもっと多く(30倍以上)あったはずです。
 そして、ウランは固相に入りにくい元素なので、マグマオーシャンができて、固化する時に表層の大陸地殻に集まる元素です。また、ウラン鉱物は隕石からも供給されます。そのため、冥王代の表層にはウランが多くあったはずです。
 後期重爆撃で揮発成分が供給され、海ができ、大気、大地で水が循環しだすと、水に溶けやすいウランが移動し、地層中への濃集が起こり、天然の原子炉ができる条件が整います。冥王代には、大陸地殻の地下に多数の原子炉ができたと考えれます。
 原子炉で、多様な化合物が合成されます。地表では、大きな大陸はまだ少なく、多数の列島のサイズの陸地だったと考えられ、火山活動も活発な多様な環境ができていました。そこに間欠泉から吹き出された化学合成された多様な分子を含む溶液が流れ出します。多様な環境に溶液がもたされ、新たに化合物ができ、付け加わっていきます。その一部は、地下水となって、再度、別の原子炉に入ってきます。そんか繰り返しが、陸地周辺で繰り返されます。
 冥王代固有の多数の原子炉と、地表の多様な環境で、化合物の合成と循環が継続され、多数の試行錯誤が、同時並行してなされます。その結果、1、2億年ほどの短期間で、最初の生命が誕生したと考えられます。
 長いシリーズで、生命合成に関する新しい考え方を導入しながら、生命誕の条件を見てきました。天然の原子炉という少々奇異なシステムを想定した仮説を紹介しました。近年の多くの成果が盛り込まれた仮説です。今後も検証、修正作業が続いていくでしょう。

・新しい仮説の評価・
最後にこの仮説の感想を述べておきましょう。
天然の原子炉と間欠泉の仮説をみたときは、
あまりにも荒唐無稽に思えました。
20億年前の天然の原子炉であるオクロの存在は
以前から知っていました。
現在には存在しない天然の原子炉を冥王代に想定して
仮説が組み立てられています。
本当に妥当だろうかという疑問も持ちました。
新しい科学的仮説ですから、
これまでの問題点や課題を克服して
なおかつ利点をもったものになっています。
心理的に受け入れがたくとも
理性的に科学的に判断していくべきでしょう。
この仮説に関する論文を
いくつも精読していくと、
だんだんと納得できるようになってきました。
今後、この仮説の問題点を議論し、
それが仮説内で解決できるかどうかを
繰り返していくことになります。
このような議論を重ねていくことが、
もっとも科学的姿勢でしょう。

・充実した冬休み・
今年の大学の冬期休業の期間は、
月曜日の8日が祝日になっているので、
通常の正月休みより長くなっていました。
9日から講義が再開しました。
正月の三ヶ日は休みましたが、
年末も大晦日まで、正月も4日から、
いつものように大学にでていました。
その間、大学は静かなので、研究がはかどりました。
おかげで、論文の粗稿が、なんとか完成しました。
あとは推敲を重ねていくだけです。