2024年4月11日木曜日

1_214 月の形成 3:シミュレーション

 ジャイアント・インパクトは、過去の事変なので検証不能です。現在の事実を説明できるモデルを、シミュレーションで確かめていくことになります。ただし、シミュレーションには、落とし穴もあるので注意が必要です。


 ジャイアント・インパクト説は、多くの研究者が起こったと認めるようになってきました。ただし、課題もあり、地球と月のある成分(酸素同位体組成)が似ている点も大きなものです。同位体組成は同じ起源物質からできたことを示しています。
 ジャイアント・インパクトで、ぶつかった天体(ティアと呼ばれています)と地球は、別々にできたものなので、異なった成分(同位体組成)を持っていたはずです。地球に衝突後、粒子が大量に飛び散りますが、ティアと地球の成分が混合していきます。その時、地球と飛び散って月を作った粒子の組成はどうなるでしょうか。地球はもともともっていた成分に、ティアの成分が加わることになるはずですが、月は飛び散った粒子なので混合の程度はさまざまで、異なった組成になりそうです。なのに地球と月の同位体組成は似ています。
 この課題に対して、衝突で地球から飛び出した粒子が高速回転することで加熱され、溶けて均質の雲状態(シネスティア Synestiaと呼ばれています)になったと考えます。シネスティアが冷えて固まり、地球にも月にも降り注げば、お互いに似た組成になるというものです。ただし、できた月の公転軌道が、地球の赤道面になる可能性が低いことが問題でした。
 前回紹介したケゲレイスらの論文は、この問題が解決できたという報告でした。その解決方法は、粒子を100万個から1億個まで増やして高解像度のシミュレーションを進めると、それまでうまくいかなかった月の形成がうまくいくようになりました。
 シミュレーションでは、地球に近い側に大きな天体と、遠い方に小さい天体ができたのですが、地球に近い側にある大きいほうの天体は、地球に衝突してすぐになくなります。遠くの小さい天体(月の0.69倍の質量)は、円軌道をもった月となることがわかってきました。そして、月は、数時間もあれば形成できるという結果もでてきました。衝突さえ起これば、月は簡単にできるということになります。
 この論文では、シミュレーションの精度を上げるために、粒子の数を増やしていきました。従来の研究では、せいぜい100万個でのシミュレーションだったのですが、増やしていくと、約320万個を堺に、別の様相を呈する結果がでてきました。
 現実はどれほどの粒子があったのかは不明ですが、粒子の数が億よりもっと大きな数であったはずです。もしかするとシミュレーションで、もっと大きな数になると、別の様相が生じるかもしれません。そう考えていくと、シミュレーションに終わりがなくなります。
 シミュレーションは、求める結果が出たときに、成功したとして、終わります。しかし、その先に別の様相が起こるかもしれません。どれだけおこなえば変化するのか、それともずっと変化しないのか、それは不明です。現状のシミュレーション結果は、確定したものではありません。

・終わりはない・
シミュレーションは高速の大型計算機を用いて進められます。
研究は、ゴールを想定して進めていきます。
今回紹介した論文のように
これまでいい結果がでていなかった原因が
シミュレーションで扱っている
粒子の数だと想定したのでしょう。
数を増やして、変化を調べてきました。
それまで100万個であったものを増やしていくと、
320万個で、突然、様相が変わりました。
その先に様相がどう変化するかを
1億個まで増やして、同じ結果になることを確かめました。
その先にはもう様相の変化はないでしょうか。
それは不明です。
もし、320億個まで増やしていけば、
そこで変化があったかもしれません。
しかし、さらにその先にも変化があるのかもしれません。
様相の変化は、無限に起こる可能性もありそうです。
シミュレーションの終わりは、
実際の衝突で飛び散った粒子の数に達した時でしょう。
それも不明なので、やはり終わりはないですね。

・講義のスタート・
いよいよ今週から講義がスタートしました。
久しぶりの講義再開なので、
慣れるのに時間がかかりそうです。
今週末には、私用で3日間でかけます。
その次の週の講義の準備も
しておかなければならないので
よけいにバタバタしています。
この私用が今年最初の遠出となります。