2024年10月31日木曜日

3_223 内核の回転 2:ペアの地震

 地震波には、液体も伝伝わっていくものがあります。そんな地震波から、外核を通り内核の情報もえられます。ひとつの地震でも、いろいろな経路を経ているものがあります。そんな地震を利用して、内核の解析が進められました。


 地球内部には、液体の鉄(外核)の中に、固体の鉄(内核)が重力によってその位置に固定はされています。ただ、液体の中にある固体なので、浮遊状態でもあるので、動きやすい状態になっています。
 ワン(Wang E.)らの共同研究として、ネイチャー誌に2024年6月12日に
  Inner core backtracking by seismic waveform change reversals
  (地震波形の変化の反転によって逆回転する内核)
という論文が報告されました。この論文は、内核の運動を調べたところ、逆転していることがわかったというものです。
 核の内部は、液体も通過する地震波(P波)を用いて観測することができます。以前から核の内部は観測されており、内核にもいくつかの構造があること、地球の表面に対して、回転していることも知られていました。
 この報告では、1991年から2023年の間にサウスサンドウィッチ諸島で発生した地震のデータを集めています。サウスサンドウィッチ諸島は、南米と南極半島の間のドレイク海峡の東にある列島です。この列島は、大西洋の海洋プレートが沈み込んでいるため、地震が多く発生します。そして、内核を通った地震波が観測できる位置に、ちょうど北米大陸があります。内核を貫通する地震波(PKIKP波と呼ばれています)を、北米大陸の北部にある地震計群で観測しました。
 起こった地震がひとつであっても、外核や内核の内部で異なった経路を通った成分が含まれています。それを見分けていくことで、より詳しい核の情報を読み取ろうとしています。
 サウスサンドウィッチ諸島の42地点で起こった121個の地震から、はっきりとした143組のペアとなっている地震を見つけています。その中には、3から7通りの経路をもった地震も16件、見つかっています。
 それらを分析して、内核が逆転しているという現象を発見してます。その詳細は次回としましょう。

・アイディア勝負・
地震波は地球内部を調べるための有効な方法です。
地球内部を、深部まで調べることができます。
そのためには地震が起こる必要があります。
地震は、自然現象なので、いつ起こるかわかりません。
発生する地震任せに見えますが、
規模を問わなければ、沈み込み帯や海嶺、衝突帯など
プレート境界と呼ばれるところでは
しょっちゅう地震は起こっています。
常時観測と情報ネットワークの体制があれば、
データは自動的に入手できます。
そうなると後はデータ解析の手法や
アイディアの勝負となります。
今回紹介している論文のそんな一つです。

・峠越え・
このエッセイは予約配信しています。
今週初めに1泊2日で調査に出ました。
今年最後の野外調査になります。
山間の峠を通るルートを
予定しているので、雪が心配です。
山では積雪のニュースが流れました。
我が家の車は、まだ冬タイヤには交換していません。
もし雪なら峠越えのルートは、
変更することになります。
当日の天候次第ですが。

2024年10月24日木曜日

3_222 内核の回転 1:液体と固体の核

 核のシリーズの第三弾となります。シリーズごとに、地球の奥深くに入ってきています。今回は、内核の実態を解明したという論文を紹介していきます。まずは、内核の地球における意味を考えておきましょう。


 このシリーズからは、内核の話題となります。核全体は金属鉄できていますが、内核は固体の鉄で、外核は液体の鉄を主成分としています。外核の外側には、岩石できたマントルや地殻があります。鉄と岩石が別れているのは、地球のでき方によると考えらえています。
 太陽系初期には、多数の小天体が衝突合体が起こり、原始惑星ができます。その時、惑星は高温状態になっていきます。小天体の中に含まれていた鉄の成分は、溶けて金属鉄となりますが、岩石と比べて密度が大きいため、地球の中心に向かって落ちていきます。
 その結果、地球の中心部に、液体の金属鉄の核ができたと考えられます。地球形成時に集まってきた熱が、液体の金属鉄の状態で地球内部に蓄えられたことになりました。
 マントルは岩石ができており、断熱効果が高くなっています。核の熱は、そのまま核内に保存されやすい条件となります。ところが、マントルは、対流やプレートテクトニクスにより、物質の移動が起こっています。物質移動に伴って、内部の熱い物質が地球表層で冷やされることで、熱が外に向かって移動していくことになります。地球全体としてみると、形成時の熱が、少しずつ地球外に放出されていることになります。
 外核が液体で、内核が固体の鉄になっています。この相の違いは、金属鉄の密度の差で説明できます。ほぼすべての物質(H2Oは除く)は、固体の密度が液体より大きくなります。そのため、核内でも液体金属の鉄が結晶化すると、固体の鉄ができ、密度大きいため、中心部に向かって落下していきます。
 マントルへ対流により核から熱が運ばれて、核の冷却が起こります。液体の物質で温度が下がっていくと、結晶化が起こります。冷却が進むと、固体の鉄が中心に集まり、固体の内核が成長していきます。
 液体の金属鉄は、地球の自転に伴って対流することで、電流が起こって地場を発生します。これが地磁気の原因だと考えられています。
 核は、液体の中に固体があることになります。固体の部分は重力により中心に固定されていることになります。では、内核は、地球の自転や外核の対流などの影響は受けていないでしょうか。
 それに関する報告が出されました。それは次回としましょう。

・秋の深まり・
秋も深まり、紅葉も進んでいます。
朝夕の冷え込みも厳しくなってきました。
そろそろ初雪の報告がありそうです。
今月末に今シーズン最後の野外調査に出ます。
それま山に積雪がなければいいのですが。
積雪があると露頭が見づらくなります。
山なのでしかたがありません。
しかし地殻に温泉があるので、
冷えた体を温めることができるでしょう。

・研究計画・
後期の講義も5週目になってきたため
大学も落ち着てきました。
落ち着いた状態での日常が過ごせています。
研究は順調に進んでいます。
今年度で退職なので、論文も著書の執筆も
これが最後と思い進めています。
いずれも順調に進捗しているので、
今後もこのまま進めていければと思っています。
とはいっても、もうかなり進捗しいるため
次年度以降の研究計画を考えていこうと思っています。

2024年10月17日木曜日

3_221 最外核の水素富化層 4:水素に富む層

 合成実験の結果、核物質がマントルの含水鉱物と反応することがわかってきました。反応により核物質は、密度が小さく、地震波速度が遅くできることがわかってきました。これがE"層になると考えました。


 マントルの含水鉱物と核の鉄ケイ素の合金が、どうのような反応したのでしょうか。高温高圧実験の結果を紹介していきましょう。
 マントルの含水鉱物の中にある水の成分(とはいっても、水酸基OHとなっていますが)が反応します。核のケイ素が酸素と結びつき酸化ケイ素になり、鉄は水素と結びついて鉄水素合金(FeHx)となることがわかってきました。それぞれの成分が、反応により、別の結晶になっていくということです。
 マントルと核の境界で、マントルの水(OH)と核の最上部の物質(Fe-Si)と反応が起これば、核の最上部、もしくはマントル-核の境界に、酸化ケイ素と鉄水素合金ができることになります。合成実験は境界部の条件で実施しているので、境界部にそれらの結晶が安定に存在する可能性を示しています。
 その部分を、キムらは論文のタイトルあるように「水素富化層(hydrogen-enriched layer)」と呼びました。この層ができると、密度が小さくなってき、地震波速度も遅くなってきます。
 前回紹介したように、マントルの最下部にはD"層が広く分布していることが明らかにされてきました。D"層は、境界に沈み込んだスラブだと考えられるので、含水鉱物が境界部の存在していると考えられます。プレートテクトニクスが古くからはじまっていれば、沈み込んだスラブとして含水鉱物が定常的に核-マントル境界に送り込まれることになります。物理化学的条件さえ整っていれば、この実験の反応が起こり、核の最上部にE"層が広くできている可能性があります。もしかすると、地球全体に広がっているかも知れません。これが、シリーズの最初に紹介した、E"層の実態ではないかという報告になります。
 もしそうのような状態になっていれば、詳しい地震波の解析ができれば、検知できるかもしれません。今後、E"層の実態のより正確な解明が必要でしょう。また、D"層とE"層との関係、あるいは両層の相互作用の解明が必要になるでしょう。両者がいつできたのかなども、問題になってくるでしょう。
 地球深部には、まだわからないことが多々ありますね。

・秋の風物詩・
10月中旬なって北海道では秋が深まってきています。
紅葉も落葉も進んでいます。
自宅では、何度かストーブも炊きました。
冬への準備としてエアコンの雪囲いもしました。
まだ雪虫の大群は見ていません。
毎日のように自宅も研究室でも
冬ごもりするカメムシの大群の襲撃を受けています。
脅かさないように、穏やかに退散を願っています。

・最後の調査・
9月の野外調査を終えて、
研究費が少し余っています。
今月末に1泊の調査に出ることにしました。
遠出も長期もできないので、近場での調査にしました。
紅葉が進んでいるでしょうが、寒さも同時にあるので、
山地での野外調査もそろそろ最後になります。
紅葉を楽しみながら、今シーズン最後の調査を
味わってこようと思っています。

2024年10月10日木曜日

3_220 最外核の水素富化層 3:工夫された試料

 核とマントルの境界を想定した高温高圧実験が進められました。核もマントルも、想定される組成の試料ではなく、工夫を凝らした成分を用いています。そんな成分を用いたのには、どのような目論見があるのでしょうか。


 キムらは、タイヤモンドアンビルを用いて、E"層を再現する実験をしました。外核のもっとも上部と、マントルの最下部の境界の条件での実験となります。用いた試料は、核を想定した鉄と、マントルを想定したケイ酸塩鉱物を使っています。ただし、いずれの試料にも、純粋な金属鉄やケイ酸塩ではなく、工夫が凝らされています。
 核を想定した試料は鉄だけでなく、鉄とケイ素の合金にしています。これは、核の最上部は、地震学のデータからは、純粋な鉄ではなく、鉄とニッケルの合金(鉄:90%、ニッケル:10%)ですが、それより密度が小さいことがわかっています。つまり、密度の小さい元素が混じっていることがわかっています。その候補として、水素や炭素、酸素、イオウ、ケイ素などが考えられていますが、いずれかはまだ決着を見ていません。しかし、この実験では、ケイ素を用いています。
 マントルはカンラン岩からできています。マントルのカンラン岩も、深くなるほど、より高密度の結晶に変わったケイ酸塩鉱物の組み合わせへとなっていきます。ところが、実験ではケイ酸塩だけでなく、含水鉱物(ケイ酸塩やアルミケイ酸塩などで水酸基を含む鉱物)を用いています。
 含水鉱物にしているのは、スラブを想定しているためです。スラブとは、海洋プレートが海溝で沈み込んだものです。スラブは、海洋地殻とマントル物質が混じったものになります。上部・下部の境界のマントル(遷移帯と呼ばれています)でいったん滞留した後、マントル下部へと落ちていくと考えられています。
 スラブには海洋由来の水の成分が混じっている可能性があります。ただし、水といっても、岩石の隙間などに含まれているもの(間隙水)は、高温高圧でなくなっているので、結晶水として鉱物に組み込まれている必要があります。結晶水、つまり含水鉱物として、地球深部まで持ち込まれることになります。ただし、どのような含水鉱物かは、明らかになっていません。
 核もマントルの物質のいずれも、未知の部分があります。しかし、いずれも仮定の上で実験は進められています。核では、軽元素をケイ酸と考え、鉄とケイ素の合金を用いています。マントルでは、含水鉱物をを含んだケイ酸塩鉱物としています。両物質が、核マントル境界の条件で反応したらどうなるかという実験です。そこから、E"層の実態に迫ろうという目論見です。
 次回で、いよいよ実験の結果を見ていきましょう。

・梱包作業中止・
本の入稿が終わり、初校の戻ってきました。
今週中に修正をして、
来週早々にもどす必要があります。
これが最優先の作業となります。
また、これまで集めた砂の試料が
博物館で引き取ってもらえることになりました。
試料の発送のための荷造りも必要になりました。
大量の重い荷物になるので
家内にも手伝ってもらうことにしていす。
先週をこの荷造り作業を実施する予定でしたが
体調不良で中止しました。
できれば今週にしたいのですが、
どうなるでしょうか。

・体調を考えて・
最近、体調不良や健康診断での再検査など
医者に通うことが多くなっています。
常用薬も3種となってきました。
年相応ということなのでしょうが、
無理ができなくなります。
ところが研究へと意欲と
成果の生産量は衰えていません。
いや年齢とともに増えてきているように思います。
ただし、これも定年をすると一段落になるので、
抜け殻状態になりそうです。
退職後の準備も怠りなく
ソフトランディングをするように
考えていかなければなりませんね。

2024年10月3日木曜日

4_188 白神岬:付加体での変動

 北海道の最南端の白神岬は、津軽海峡を挟んで本州に面しています。白神岬には、不思議な岩石が分布しています。海でできた石、陸でできた石、境界で起こった激しい変動が記録された露頭があります。


 9月中旬に、道南を巡りました。夏の暑さはおさまっていたのですが、秋にはまだ早い時期でした。函館から松前に向かうときには、いつも白神岬の駐車場に車を止めて一休みします。白神岬からは、天気がよく空気が澄んでいると青森の津軽半島が見えます。
 ただ、この白神岬はわかりにくく間違いやすいところです。松前に近いところに、大きな駐車場とトイレのある「白神展望広場」があります。しかし、いつも立ち寄っている白神岬は、トンネルの手前の狭い駐車場のあり、「北海道最南端」の石碑があるところです。
 天気がよければ、海岸への階段があるので、降りて石を眺めます。この周辺では、付加体でみられるタービダイトと海洋プレート層序がバラバラのメランジュになった岩石が見ることができます。
 ここで、付加体、タービダイト層、海洋プレート層序、メランジュという聞き慣れない地質学の用語がいくつも出てきましたが、少し説明しいきましょう。それがこの海岸に来る理由になります。
 海洋プレートが海で沈み込むとき、沈み込まれた側に、日本列島のような火山活動の盛んな列島(島弧と呼ばれています)が形成されていきます。海洋プレートが沈み込むときに圧縮の力が働くため、海溝と島弧の間の海底に、「付加体」ができます。その付加体を構成しているのが、「タービダイト層」と「海洋プレート層序」になります。それらの岩石が、圧縮に力で砕かれてぐしゃぐしゃに入り混じった状態を「メランジュ」といいます。もう少し詳しく説明していきましょう。
 陸地の島弧では、山地ができ、河川などの侵食によって土砂(砕屑物といいます)が海に運ばれ、海岸沿いにたまっていきます。稀に起こる地震などを契機にして、さらに稀に大きな海底地滑りが起こり、大陸棚を土砂が流れ下ることがあります(タービダイト流)。その結果、大陸斜面の海溝近くに、粗い粒の砂から細かい泥まで粒が並んだ一層の堆積層ができます。タービダイト流が長い時間をかけて何度も繰り返されると、砂から泥の堆積層が繰り返される地層(砂泥互層)ができます。それがタービダイト層となります。
 一方、海側では、遠くの海嶺での玄武岩質のマグマ活動によって海洋プレートができます。海洋プレートは、海底表層ではマグマが水中で急冷してできる特徴的な構造をもった玄武岩(枕状溶岩)からできています。海洋プレートが海底を移動していくと、その上にプランクトンの死骸が降り積もり堆積物(層状チャート)となります。海溝に近づくと陸からの堆積物がチャートに混じってきます(半遠洋性堆積物、珪質泥岩という岩石)。
 海洋地殻の上部の玄武岩に、層状チャート、珪質泥岩と重なった地層群が、海溝近くにはできてきます。これを海洋プレート層序といいます。海溝になると圧縮ために付加作用で、陸側のタービダイト層と海側の海洋プレート層序がともに付加体になっていきます。付加体がさらに圧縮で破壊されたものが、メランジュとなります。それらの岩石がメランジュとして白神岬に分布しています。
 この地域の層状チャートから三畳紀の化石(コノドント)が1980年に見つかり、北海道の付加体研究に重要な役割を果たしました。白神岬では、狭い海岸なのですが、堆積岩や火成岩などの他にも付加体やメランジュの複雑な構造も見られます。
 なんといっても、白神岬には、さまざまな岩石が、時にはぐしゃぐしゃにされた露頭は、大地の変動の感じさせてくれます。

・冬支度・
北海道は9月下旬から一気に秋めいてきました。
気温が下がった夕方には
一度ストーブをたいたことがありました。
その後、また暖かくなってきました。
夏に使ったエアコンはもう使わないので
室内機にカバーを掛け、室外機の雪よけの枠を自作し
そこにビニールシートをかけて冬支度としました。
秋から冬の支度をするようになりました。

・カメムシ・
秋が深まると、カメムシが冬ごもりのため
雪の影響のない暖かいことろを求めて、
家に侵入しようとしてきます。
家内が毎日、窓のいるカメムシを
多数、外の追い出しています。
しかし、注意しないと嫌な匂いを出すので
穏やかに引き取ってもらっています。