2007年1月25日木曜日

6_53 ロケットガール

 ロケットガールとは、ロケットに関わる少女のことです。小説の世界のような話ですが、実際にロケットガールが養成されています。

 ロケットに乗って宇宙空間を飛行することは、多くの人が一度は夢見たことがあるでしょう。それを実現できた人は、それほどたくさんはいません特には日本では少数の選ばれた人だけが大気圏外にたどり着いています。でも、ロケットの製作、打ち上げに関わっている人なら、多くの人がいます。そして、大学生もその一員となっています。そんな一員にロケットガールと呼ばれる人たちがいます。ご存知でしょうか。
 SF小説、ゲーム、アニメなどに詳しい人は知っているかもしれません。SF小説、ゲーム、アニメに「ロケットガール」というタイトルものがあります。野尻抱介さんが生みの親です。もとは、SF小説から生まれたものです。
 科学者やエンジニアで、ロケット製作に興味のある人は、多分ご存知でしょう。文部科学省がおこなっている平成18年度の「女子中高生理系進路選択支援事業」の一つとして、秋田大学工学資源学部附属ものづくり創造工学センターが「ロケットガール養成講座」としておこなっているものがあります。
 ロケットガール養成講座というものは、女子中・高生が自分達の手で実際にロケットや缶サットを製作して、打上げまでを行い、広く科学の楽しさを伝えることを目的としています。もちろん大気圏外に出るほど大掛かりなものではなく、可能な限り高く打ち上げて、ゆっくりとパラシュートで落下するようなロケットや缶サットです。
 ロケットガール養成講座は、女子中・高生のロケット・缶サットの製作を支援する人たちも、女子大学生が中心です。純粋に科学の普及活動のために女性たちが中心となって、女性のためにおこなわれているという点が特徴です。
 ここで紹介した2つのロケットガールですが、あまり接点がないように思えます。ところが、そうでもないのです。
 女子中・高生で宇宙やロケットなどに興味を持っている人には、アニメやSF小説が好きな人がたくさんいることでしょう。多分、アニメやSF小説が好きな人の方が、宇宙に興味を持っている人より多いことでしょう。アニメやSF小説に興味を持っている人にとっては、ロケットガール養成講座が、アニメやSF小説と同一線上に先にあるように見えるかもしれません。
 その点を考えてのことでしょう、ロケットガール養成講座では、アニメ番組ともタイアップしているようです。メディア・webサイトを通じて、ロケットガール養成講座の様子を全国に公開していくことも、重要な方法と考えられています。
 ロケットガール養成講座に参加できる女子学生は、せいぜい数10名程度です。ですから、文部科学省が目指している、女子中・高生への理系進路選択のための支援事業としては、効果が少ないように思えます。それを、アニメとのタイアップや情報公開によって、同世代の多くの女子学生に興味を持ってもらおうということです。
 昨年末に秋田大学でおこなわれた講演会では、宇宙飛行士の山崎直子さんやSF小説を書かれた野尻抱介さんも参加されています。
 今年はじめからロケットは製作がスタートして、現在も製作中だそうです。そして今年の3月20日から25日にかけて、能代市において、最中調整の後、実際にロケット・缶サットの打上実験がおこなわれる予定です。
 実験の成功もさることながら、ロケット製作にかかわりながら、宇宙や科学技術の面白さに気づいていくことが一番の目的です。このミッションを通じて、ひとりでも多くのロケットガールが生まれることを祈っています。

・大学のあわただしさ・
今年の北海道は、やはり暖かくて雪も少ないです。
そんな1月もそろそろ終わりに近づいてきました。
わが大学の後期の講義も今週で終わります。
そして来週からは定期テスト、
2月の第2週は一般入試となります。
大学は年度末のあわただしさがはじまりました。
教員がどたばたする時期となりました。
しかし、我を忘れないでいたいと願っています。

・サイト・
秋田大学のロケットガール養成講座の公式サイトは
http://www.mono.akita-u.ac.jp/rocketgirl2/index.html
です。
ロケットガール養成講座のサイトは
ロケットガールたちが運営しています。
そしてブログでは、女子高生たちや女子大生が
ロケット製作をしている感想が、現在進行中で述べられています。
ちなみに、
アニメのロケットガールの公式サイトは
http://www.rocket-girl.jp/link/link.html
野尻抱介氏自身のホームページ
http://njb.virtualave.net/web/
です。
興味ある方は覗いてみてはいかがでしょうか。

2007年1月18日木曜日

3_50 エルニーニョ

 今年の冬の前半は、北国としては雪が少なく、暖かい日々が続きました。しかし、ここ数日の大雪や冷え込みで、一気に冬らくしなってきました。暖冬の原因について考えましょう。


 今年の北海道は雪が少なく、12月から1月上旬にかけて暖かい日が続きました。暖かい天候が続くと、すぐに温暖化がいわれます。でも、それは早計です。
 温暖化が本当に起きると、世界各地で異常気象が起こり、陸にある氷が解けて海水が増加するということが起こると予想されます。これらが温暖化現象の一番の問題となります。
 異常気象によって、暖かくなる地域もあるでしょうが、寒くなる地域も、大雨、旱魃などが起こる地域もあります。ですから、暖かくなったからといって、温暖化現象が起きたというわけではないです。
 気象庁によれば、2006年秋からエルニーニョ現象が起きているようです。北海道の暖冬は、このエルニーニョ現象が起こしている可能性があります。
 エルニーニョ現象とは、太平洋の赤道付近での海水温度の変動によるもので、赤道の中央から南アメリカのペルー沖の海面温度が平年より高くなることをいいます。
 赤道付近では貿易風と呼ばれる東から西への風が、定常的に吹いています。赤道付近の暖められた海水が、貿易風によって太平洋の西側に吹き寄せられます。その結果、インドネシア沖では、暖かい海水が、数100mもの厚さで集まります。
 暖かい海水が西に移動すると、ペルー沖では深い海から、冷たい海水が上昇します。この冷たい海水は、栄養分が豊富で、海面近くに上がってくるとプランクトンの大量発生が起こります。食物連鎖によって魚もたくさん育ちます。ペルー沖は良い漁場となり、ペルーは世界第2位の漁獲高を誇っています。
 これが通常の状態です。
 この通常の状態が起きず、暖かい海水が西に移動しないことがあります。これがエルニーニョ現象です。エルニーニョ現象が起きると貿易風が弱まるか、貿易風が弱まるからエルニーニョ現象が起こるか、その因果関係ははっきりしていません。
 エルニーニョ現象が一度発生すると、1年から1年半の間、持続しますが、昨年秋にはじまった今回のエルニーニョは、春には終わると予測されています。
 前回は、2002年夏から2003年冬までエルニーニョ現象が起きました。ここ数年は、4年ごとくらいに発生してます。
 エルニーニョ現象が起きると、世界各地で異常気象が起きます。地域差や特徴にばらつきがあり、一概には言えないのですが、日本では一般に冷夏、暖冬になります。降雨量はさまざまです。いずれにしても、エルニーニョ現象が起きると、各地で平年とは違う気象現象が起こります。時には大きな災害が起こります。
 でも、エルニーニョ現象は、規則性はあまりよくないですが、繰り返し起こります。ですから、エルニーニョ現象は、平年的な現象として考えた方がいいのかもしれません。そうなると、エルニーニョ現象でおこる気象変化も、異常というべきではなく、平年のこととして受け入れるべきなのかもしれませんね。

・感覚的判断・
人は繰り返し起こることは、前回のことを思い出して、
今回はどう違うかを考え、判断し、評価します。
その良い例が、季節ごとの比較です。
今年の冬を話すとき、前回の冬と比べらて語られることが多くなります。
今回のエッセイも、それではじめました。
もし比較の結果、今回のものに大きな違いや異常があれば、
そんな経験が今までにないかを思いこしてみます。
記憶とは、特別なことが起きた場合をよく覚えています。
それと比べてどうだったかを考えるわけです。
そんな経験がないときは、今回は異常だと思ってしまいます。
このようなプロセスは、非常に感覚的な判断といえます。
現在では、気象に関しては気象庁が、
科学的で正確な判断ができるような情報を提供しています。
ですから調べさえすれば、異常かどうかは誰にでも判断できます。
特別とか異常というものは、比較による判断です。
その比較で、データがないこともあります。
それが、時候の挨拶程度ならいいのですが、重要な判断は、
くれぐれも感覚だけで下さないように、注意しなければなりませんね。

・経験を活かす・
いよいよ大学の講義も残すところ、あと1週間ほどとなりました。
その後には定期試験があります。
大学受験生は、今週末にセンター試験があります。
我が大学も600名の受験する会場となっています。
2月になるといよいよ一般入試がはじまります。
来年度は、入学者数と大学入学定員が一緒になります。
ということは、選り好みさえしなければ、
受験生はどこかの大学に入ることができるということです。
全入時代と呼ばれています。
しかし、希望の大学や希望の分野の学部、学科に
必ずしも全員が入れるわけではありません。
ということは、人気のある大学や分野では、やはり競争が起こります。
それはしかたがないことです。
しかし、団塊の世代や、その後の子供の多い時代に育った大人は、
もっと厳しい受験戦争を生き抜いてきたわけです。
しかし、その受験勉強、その大学、その専門が、
どの程度、社会に出た役に立ったかは、本人が一番知っているはずです。
自分の経験を活かして、子供に伝えるべきでしょう。
私の子供たちには、大学へいかなくて良いといっています。
手に職をつけ、衣食住などの人間になくてはならない職業の
職人になるよう薦めています。
長男は大工、次男はコックなるといってましたが、
次男は幼稚園の保育士になるというのに変わったようです。
まだまだ長い人生ですから、いろいろな可能性を探ってもらいましょう。

2007年1月11日木曜日

2_56 生命の起源9:誕生のストーリ

 生命起源の話も、いよいよ最終回となりました。生命起源のストーリを概観しましょう。

 生命誕生の謎は、今までみてきたどのアプローチからも、解明することでできませんでした。それぞれのアプローチは、独立した考え方、調べ方でありました。ですから、そこから導き出された条件や可能性が一致すれば、生命誕生のストーリを考える上で重要な参考になります。
 生命誕生のストーリを考える前に、ひとつ重要なことがあります。それは、セントラル・ドグマ(中心教義)とよばれているものです。DNAの構造を発見したフランシス・クリックが1958年に提唱したものです。
 セントラル・ドグマとは、すべての生命に共通する仕組みとして、遺伝情報の流れが、
 DNA→RNA→タンパク質
となっていると考えるものです。DNAに蓄えられた遺伝情報は、RNAに複写され、RNAからタンパク質に翻訳されていきます。これが生命の営みにおける遺伝情報からみたじゅうような原理だと考えられました。確かに多くの生命で、遺伝情報はこう流れていき、証拠もいっぱいあります。一杯あるからといって、この仕組みが生命誕生のストーリを規定するものではありません。
 このドクマは、いまや潰れてしまいました。それは、情報の流れや逆行するものがあることがいろいろわかってきたからです。例えばRNAからDNAに遺伝上を書き込む作用をする逆転写酵素が発見されたり、タンパク質からRNAをつくるもの見つかりました。
 また、遺伝情報が常にこのような流れしかないとすると、生命誕生では、DNAが最初に生まれなければなりません。DNAは非常に複雑な構造で、それを最初につくらなければならないことを意味します。しかし、逆転写できるとなると、比較的単純な構造のRNAからDNAをつくることができます。遺伝情報の保存のためにDNAがあとからできればいいことになります。誕生以降の話ですから、生命の進化の過程で生まれたことと合理的に考えられます。こんようなことから現在では、セントラル・ドグマという考えは、用いられていません。
 タンパク質かRNAかのどちらかができれば、他方が合成できるということです。ここまでストーリができると、どちらがつくりやすいか、どちらの証拠が見るかるかということでストーリが決まってきます。残念ながら、その決着はまだついていません。
 地球最初の冥王代におこったはずの化学的進化とは、どのようなものだったのでしょうか。
 まず、原始の地球のどこか(多分、深海の熱水噴出孔だろうと考えられています)で、原料の分子の合成されていきます。あるいは、隕石や彗星か由来するものもあるかもしれません。
 種々雑多な分子量の小さい有機物が合成されて、集まっていきます。そのうちの一部は、高分子へとなっていきます。まるで有機物ががらくたのようにいっぱ集まった状態(がらくたワールドと呼ばれています)が出現します。
 がらくたワールドの次に起こることとして、2つの可能性が提示されています。一つはンパク質ワールド、もうひとつはRNAワールドタです。
 がらくたワールドから、アミノ酸の合成が先に起こったなら、タンパク質ワールドが最初に現われます。タンパク質ワールドでは、いろいろなタンパク質が合成されていき、その中のあるものが、RNAがつくる機能を持てば、RNAをつくることができます。
 RNAが最初に合成されれば、RNAワールドが出現します。各種のRNAが合成され、その中からタンパク質が合成するものが生まれます。
 タンパク質ワールドとRNAワールドのどちらが先でも、タンパク質とRNAの両方を合成できます。
 別のプロセスとして、膜の合成が起こります。実は、比較的簡単な合成過程で、丸い液滴(コアセルベートと呼ばれています)ができることが実験でわかっています。多様な膜が合成され、その中のあるものが、外の特別な成分のみを通すような性質を持つものが生まれます。
 最後に、膜の中にRNAとタンパク質がおさまり、代謝や複製をすることができれば、生命誕生といえます。
 最初の生命は一種類だったのでしょうか。まだ確証はありませんが、科学者たちは一種類と考えて、そのような生物をコモノートと呼んでいます。
 その後、いろいろな試行錯誤(もう生存競争というべきかもしれません)がおこなわれて、多様な生物が生まれ、特別な条件で、化石として残る生命の誕生すれば、私たちはそれを発見することができます。
 これが現在考えられている生命誕生のストーリです。

・難問・
9回にわたった生命誕生シリーズがやっと終わりました。
生命誕生の研究は進んでいますが、
いまだに、解明されていない謎です。
多くの分野の研究者が取り組んでいます。
生命誕生とは、それほど魅力ある研究テーマなのでしょう。
今後も多くの研究者が努力を続ければ、
この謎は本当に解けるのでしょうか。
生命の誕生とは、「私たちはどこから来たか」という問い
への答えともなる重要なものだと思います。
研究が進めば、どの時点で生命誕生しとえるのかが問題になるでしょう。
そこでは、生命とは何かという問題が新たに生じることでしょう。
これは突き詰めると「私たちとは何か」という問いになるでしょう。
現在のこれほど進んだ科学をもってしても、生命の定義すらできません。
ですから、生命誕生の問題も、もしかすると、
なかなか解決しない難問としてずーっと残るのかもしれませんね。

・コモノート・
最初に誕生した架空の生物をコモノートと呼んでいます。
コモノートは、あるひとつの種類の生物だと考えられています。
私は、多数の生物がいてもいいのではないかと考えています。
一つの環境だけで生物が誕生するとは思えないからです。
熱水噴出孔は多数あったはずです。
その環境は同じようでしょうが、緯度や深度、熱水の成分、温度など、
多少の条件は違っていたはずです。
そうなれば、その違いを反映した
多数のコモノートが生まれたかもしれません。
そのちょっと違う生命が、いく種類も生まれ、
やがて生存競争で、生き残ったものが私たち現在の生命につながる
共通の祖先、コモノートだったかもしれません。
コモノートは、生存競争を勝ち抜いた勝者であったのです。
勝者である現在の生物からは、敗者を探ることは困難でしょう。
敗者を探すには、合成実験や化石から見つけるしかないでしょう。
あるいはどこかに隠れているのかもしれません。

2007年1月4日木曜日

2_55 生命の起源8:地球外起源

 正月の3が日も過ぎ、人によっては、もう仕事モードなっているのでしょうか。このエッセイも、昨年からの続きを進めてきましょう。生命起源で地球では生命が発生しなかったという考えです。

 パンスパーミア説の起こりは、パスツールの長フラスコによる生命の自然発生説の否定されました。したがって生命の起源をどこに求めるかが問題になります。やはり自然発生説を否定する実験をしたスパランツァニが1787年に唱えた地球外から生命が飛来してきたという説です。1906年にはアレニウスによってパンスパーミア説(panspermia)と呼ばれました。日本語では、胚種広布説や宇宙播種説とも呼ばれています。生命が地球外で誕生したという考えは古くからあります。
 パンスパーミア説は、生命は地球外から飛来したというものですが、現在ではその内容は多様化し、生命の地球外起源説の総称としてパンスパーミア説が使われています。
 現在のパンスパーミア説としては、クリックらの他の文明生物が地球に生命を打ち込んできたという説、ホイルらの彗星で発生した生命が地球に降ってきたという説などがあります。生命は今も地球に降り、病原微生物にも地球外生物が含まれているのではないかとまでいわれています。
 いずれの説も、根拠が不充分であったり、実証されてなかったりで、信頼性は低いものです。しかし、パンスパーミア説は、いまのところ論理的に否定されたわけではありません。太陽系は、ごくありふれた化学成分から構成されており、元素組成に特異性は見られません。地球外生命も似たような元素組成でできているかもしれません。SF的ですが、地球外知的生命が、タネが育ちやすい、化学組成の同じ天体として地球を選び、送り込んだとしても区別できません。
 この説をとれば、地球で複雑な条件をなどを考慮せずに、どこでもいいから生命誕生の適した環境、そして長い時間を使って生命の合成が可能となります。そしてパンスパーミア説を認めることは、生命は宇宙に広く存在しうるものという可能性を生みます。
 でも、いい点ばかりではありません。パンスパーミア説を支持したとしても、その宇宙からやって来た生物は、どのようにして発生したのか、という疑問が新たに現れます。この説には、不可知論的、あるいは循環論的な困難さが付きまといます。それを科学的に検証、解明するためは、試料を手にしなければなりません。しかし、その生命は、私たちの知らない場所で、知らない時に、知らないプロセスで生まれたのです。
 この説は、真実かもしれませんが、疑問を先送りにすることに過ぎず、科学的に生命の起源を解明するものではありません。
 では、この説をどうすればいいのでしょうか。まず、パンスパーミア説は否定も肯定もできない説として、とりあえず保留にしておくのが賢明ではないでしょうか。科学的に議論できる地球上での生命起源を俎上にすべきでしょう。地球上で生命ができないかを科学的にしっかりと考えていきます。そして、どうしても地球上で生命は生まれそうにないとき、パンスパーミア説が取り上げるべき仮説として議論されるべきでしょう。

・パンスパーミア説・
パンスパーミア説はまったく意表をついたような考えです。
もともとは、生命の化学組成にはモリブデン(Mo)という成分が多く、
このモリブデンの多さは、地球の海や大気、
地殻など生命の素材、環境などからは、
そのような条件はでてきませんでした。
地球生命は、モリブデンの多い環境で生まれたと考えなければなりません。
どう考えてみても、地球では説明できない謎でした。
モリブデンの多い環境として、地球以外の場所を想定しなければなりません。
そこから生物を何とか運んでくるという考えです。
その後モリブデンの多いのは、測定ミスであることが判明しました。
しかし、パンスパーミア説は残って議論されています。
生命誕生については、いろいろな説がありますが、
パンスパーミア説は、特別変わっていまが、どうも魅力があるようです。
他の説は地球内での出来事ですから、たとえ過去のことであっても、
なんとか検証しようとアイディアが振り絞られています。
そのアイディアは試料や実験で検証することで、
もっともらしさを高めていきます。
パンスパーミア説は、科学的追及を拒むようなようなところがあります。
それでも、科学者は知恵を絞ってこの謎に取り組んでいます。

・温泉・
今年の北海道は1月1日には天気がよく暖かかったのですが、
それ以外は、あまりいい天気ではありませんでした。
我が家では今年の正月は自宅でのんびりとしていました。
我が家では毎年、正月明けに私の調査を兼ねて旅行をしていたのですが、
昨年はみんな体調不良だったので、
大事をとって、自宅でおとなしくしていることにしました。
しかし、12月下旬になって、体調がよくなってきたので、
暮れに割安の温泉旅館を申し込みました。
温水プールもあり、温泉もあるので、
今日から一泊してのんびりとしてこようと思います。

2006年12月28日木曜日

2_54 生命の起源7:地球外有機物

 生命起源の間接的アプローチとして、地球の材料物質から探ろうという試みがなされています。

 もし、地球をつくった材料の中に、生命誕生に必要な素材があれば、地球上での生命の合成におけるいろいろな難しさはなくなります。
 地球をつくったような材料物質は、太陽系の始まり頃にたくさんあった隕石です。そんな隕石が今も時々落ちてきます。
 なぜ、始まりの頃のものかわかるのでしょうか。それは、隕石のできた年代が、45.6億年前であること、そして炭素質コンドライトとよばれている隕石の化学成分は、気体成分を除くと、太陽の化学組成とそっくりなことです。もし、隕石がたくさん集まれば、太陽、そして太陽系がそのままできると考えられます。もちろん惑星もです。
 ですから、地球の材料物質も、隕石を調べれば、どのようなものかがわかります。隕石の精密な化学分析をしたところ、中に有機物が含まれていることがかわりました。この分析の発表当初は、隕石が地球に落ちたときに、地球生物の有機物が汚染したと指摘されました。
 その後、地球生物の汚染のない南極の氷の中でみつかった隕石の分析や、1969年にオーストラリアに落下した直後で汚染のないマーチソン(Murchison)隕石の分析など、各種の検証によって、隕石に有機物が含まれていることが確実になりました。
 現在では、有機物が、炭素質コンドライトからたくさん発見されています。その中には、地球生命の生体物質あるいはその前駆体、材料物質となるものが多数発見されています。
 隕石は、原始太陽系のガスの中で形成されました。そのガスは、宇宙の主成分である水素(H2)とヘリウム(He)です。しかし、その他の成分も量は少ないながら含まれています。酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)など有機物合成に不可欠な成分もあります。それらが、原始太陽系の初期に化学反応を起こして、有機物に必要な成分がいろいろな合成されたと考えられます。
 もしそうなら、これは太陽系だけの条件やブレンドによって、生命に必要なものがたまたまできたのかもしません。
 ところが、このような化学合成のプロセスは、ありふれたことであるのがわかってきました。宇宙でガスの多いところを観測すると、どのような化合物があるかがわかります。そのような観測によって、生命の材料として重要な成分もたくさん発見されてきました。ところが、その多くは分子量の小さい成分でした。しかし、宇宙線の照射によっても、分子合成が簡単におこなわれていることをがわかってきました。
 もちろん、このような成分から直接生命が合成されることはないでしょうが、このような分子の存在は、宇宙空間のような真空に近い低密度、極低温、低エネルギー状態であっても、分子合成が可能であることを示しています。つまり、生命の材料物質は、特別な元素や特別な物理化学的条件を必要とするものではないようです。ごくありふれた存在であることを示しています。宇宙空間は、生命の材料合成の場として不適ではないのです。まして、天体上の恵まれた環境では、生命の合成は、より有効におこなわれることになります。
 ところがせっかくできた隕石のなかの生命の素材は、隕石が地球に衝突したとき発生する高温高圧によって、すべて分解すると考えられます。元の木阿弥とは、このことなのでしょう。だから、地球の環境や素材で生命合成が考えられているのです。

・地球外有機物・
最近、宇宙空間での有機物の化合が見直されています。
それは、いくつかの理由があります。
1986年にハレー彗星が接近したときの観測で複雑な有機物が発見されたこと、
土星の衛星タイタンの探査から有機物らしきものが発見されていること、
惑星誕生の場を想定した実験で分子量の大きな有機物が合成されること、
などから、どうも原始太陽系には、
いろいろな有機物がたくさん形成されていたかもしれないと
考えられるようになってきました。
すると、そのようなガスが一時的にでも、
原始の惑星の大気としてあれば、
惑星表面に有機物が労せず集めることができます。
また、氷の惑星でも、有機物がたくさん存在することになります。
私たちが知らないタイプの生命がいる可能性もあるのです。

・ラセミ体・
隕石から発見される有機物のアミノ酸も糖もラセミ体とよばれるものです。
有機物には、同じ成分でも、
鏡に映して対象になるような構造を持つ2つものができます。
右利きと左利きにたとえられることがありますが、
D体、L体、あるいはR体、S体などと呼ばれています。
隕石の中の有機物は、その比が1:1に混合しているラセミ体となっています。
ところが、生命は、どちらか一方のみを利用しています。
化学的には似ているものなのですが、生命は区別しているのです。

2006年12月21日木曜日

2_53 生命の起源6:現在の生物から

 生命の起源を、現在生きている生物から探る方法を紹介しましょう。古細菌という生物がどうも手がかりとなりそうです。

 現在生きている生物から、生命起源を推定する方法は、いくつかあります。
 分子レベルで比較する方法があります。すべての生物がもっている共通の分子から、その配列の違いを比べることによって、分類をしていきます。もしその物質が進化の過程で、単純なものから複雑なものになってきているのであれば、その複雑さの程度から、生物の進化の程度を定性的に見積もることができます。比較生化学とも呼ばれる方法です。
 現在の真核生物がすべてもっている5SリボゾームRNA(5S rRNA)という核酸塩基配列を解析していきます。5SリボゾームRNAのように十分複雑であれば、この配列の違いは、生物としての変化の程度を示しているとみなせます。そして、いつごろ祖先から分岐したか、進化したかを計算で推定すことができます。まあ、真核生物だけですので、生命誕生にはこの物質は利用できませんが、真核生物の出現は、20億年前という値が出てきています。このような分子を進化の時計代わりに利用するものを、分子時計と呼んでいます。
 もっと、わかりやすものとして、現在の生物を分類していく方法です。多くの生物の系統関係を調べ、一番祖先に当たると思われるものを、現在の生物から見つけ出します。その生物が、最初の生物にふさわしいかどうかを検討していきます。もしその生物が、初期地球で最初に誕生した生物として問題がなければ、それと似た生物が、最初の生物の可能性がでてきます。その生物がたくさん手に入るなら、どのような条件を好むのか、どのような条件まで生存できるのかなどを、実験によって確かめることができます。
 系統からみると、最初の生物の候補として、非常にシンプルな生活様式をもつ古細菌があげられます。古細菌には、好熱古細菌、メタン細菌、高度好塩菌など、特異な生化学的特徴をもつ細菌の仲間です。現在の生物にはとうてい住めない環境でしか生育できないようなものが、たくさん見つかってきました。現在では、特殊な環境にだけではなく身近な環境にもよく見られる生物であることがわかってきました。古細菌の名前は原始地球に最初に登場した細菌の直系の子孫とされたことに由来しています。
 現在では、全生物は、古細菌、真正細菌、および真核生物の3つに大きく分類されるようになってきました。これは以前の5界分類よりもっと上の分類体系になり、ドメインと呼ばれています。
 古細菌は真核細胞と類縁性があることがわかってきました。それは、古細菌に、真正細菌が共生してミトコンドリアや葉緑体になり、真核生物になったという細胞共生説とよばれるものです。この説も、証拠がいくつも見つかり、認められるようになってきました。
 最初の生物は、深海の中央海嶺の火山にある熱水噴出孔や、そこに噴出メタンガスを利用するような古細菌ではないかと考えられています。

・古細菌・
古細菌は、最近見つかりました。
最近とはいっても、1977年のことですが。
ウーズとフォックスは、それまで生物が、
真核生物と原核生物に分類されていたのですが、
古細菌の発見によって、真核生物、真正細菌、古細菌の
3つに分けるべきであると主張しました。
その報告が、古細菌の重要性をはじめて世に示したものです。
古細菌の研究が進み、メタン細菌の仲間は、
1980年代に大量に発見されました。
現在も研究中で、その系統関係もたびたび変更されています。

・進歩・
12月もあと少しとなりました。
私は、今年中にすべきことが、まだ終わっていません。
できないにしても、可能な限り仕事を進めておく必要があります。
休むことなく、気を抜くことなく、仕事をしなければなりません。
しかし、25日から母が我が家にきます。
1月1日まで滞在します。
温泉に連れて行ったり、宿泊する予定もあります。
授業も27日まであります。
ですから、年末は忙しくなります。
だから、じっくり仕事をしている余裕がないのです。
このような状態は、毎年のことです。
ということは、私は進歩していないということでしょうかね。

2006年12月14日木曜日

2_52 生命の起源5:生命をつくる

(2006.12.14)
 前回、生命の合成における歴史的なミラーの実験の話をしました。今回は、その後の話をしましょう。

 ミラーによる生命誕生に迫る最初の合成実験は、学界に大きな刺激を与えました。研究者は、その後、さまざまな条件を考えて、合成実験を行っていきました。さまざまなの条件とは、原始地球であったであろう環境で、生命が誕生しそうなもののことです。まだ、どこで誕生したのか、どのようにして誕生したのかもわからない生命ですが、それを実験的に探れる可能性がでてきたのです。その重要性は、多くの研究者が理解し、そしてその研究に魅了されました。
 まず、大気についてです。かつては原始大気は還元的(メタン、アンモニア、水素)であったと考えられていたのですが、近年では酸化的(二酸化炭素、窒素、水蒸気)なものと考えられるようになってきました。ですから、ミラーの大気の条件を変更して、いろいろな合成実験がなされました。
 何も大気中だけが、生命の材料の合成の場でなかったはずです。海洋や地殻の環境でも、どこでも合成がおこっていもいいはずです。合成実験では、深海熱水噴出口、火山、干潟なども候補として、それらの環境を模した実験がされました。
 化学合成のためのエネルギーとして、ミラーの雷の他に、当時の地球表面にあったと考えられるものであれば、何でもいいわけです。激しい火山活動、激しい干満の差、熱水、放射線(紫外線、宇宙線など)、衝撃波(隕石の衝突で起こる)などが考えられました。
 このようないろいろな条件(材料やエネルギー、環境)を想定して、多数の実験がされてきました。その結果、どのような生命の材料、エネルギー、環境を想定しても、条件さえうまく調整すれば、生命に必要な素材は、大抵合成できることがわかってきました。また、生命の入れ物(細胞膜)になるような物質の合成実験も成功しています。完全とはいいませんが、生命の素材として必要なものの多くが、そろってくるようになってきました。
 現在のところ実験室では、まだ完全な生命体はつくられていません。しかし、いいところまでいっています。生命合成は、純粋に科学的興味によって行われています。
 しかし、もし、本当に生命合成ができるようなったとしたら、さまざまな問題が発生する可能性があります。例えば、
・その合成生物は、地球生物全体にとって脅威はないのか
・人に有害とならないのか
・人が生命を創ることに問題はないのか
・このような実験に社会的に合意が得られているのか
・緊急事態の対処は可能なのか
などなど、いろいろ解決しておかなければならないことがあります。
 生命誕生の条件や環境探しだけの実験なら問題がないのですが、合成実験は明らかに生命合成を目指しています。まだ、生命合成の実験には成功していませんが、生命を試験管の中で合成できる可能性があるのであれば、生命に関する倫理や、検疫、隔離などの安全対策を考えておくべきでしょう。そんな時期はもう近いのかもしれません。

・科学者の倫理・
クローン羊ドリーの研究が発表されたときは、
多くの科学者が衝撃を受けました。
そして、それをマネ、引き継いだ実験が行われました。
その時、倫理の問題が生じました。
他にも、人細胞のクローン実験、臓器移植など、
科学が先行しすぎて、人間の心の問題が後追いで
議論されることがありました。
今までの倫理の問題は、人間の心の問題ですみました。
しかし、新しい生命の合成実験の成功は、
今まで地球生物にはないタイプの微生物かもしれません。
もし、それが実験室から流れ出て、自然界に入ったら、
一種の病原菌のような働きをするかもしれません。
現在の地球生態系に大きなダメージを与えるかもしれません。
そうなると、取り返しがつかなくなるかもしれません。
気づいたときには、手遅れということもありえます。
現状の実験がどの段階であっても、
生命合成が一気に完成する条件で、
だれかが実験をしているかもしれません。
そもそもこの研究の目的がそうであったはずです。
だから、新生命がいつ誕生しても不思議ではないのです。
そんなときに備えておかなければなりません。
それを一番知っている科学者が、倫理的な問題を、
もっと真剣に考える時期に、もうなっているのかもしれません。

・エルニーニョ・
昨日(12月12日)は、今まで冷え込みが緩み、暖かくなり雨が降りました。
積もった雪も大部溶けましたが、まだまだ道路以外は雪だらけです。
このように北海道の平年より早い雪、
どうもエルニーニョが発生したようです。
季節は巡ります。
巡る季節にも年毎に変化があり、長期的な変動があります。
エルニーニョはめぐる季節変動の最大のものです。
人は、日々の天気の変動に一喜一憂しながらも、
季節の変化を感じていきます。
その年の季節が平年と違うこと、
その違いにも数年の周期があることを、なんとなく感じてしまいます。
そんな人間や生命の能力は、いったいいつどこで手に入れたのでしょうか。
少なくとも誕生間もない生物にはなかったはずです。