2015年6月4日木曜日

2_129 ハビタブル・トリニティ 3:ハビダブル・ゾーン

 生命の惑星になるためには、惑星の軌道条件(ハビタブル・ゾーン)に質量条件を満たした惑星で、さらにハビタブル・トリニティをも満たしていなければなりません。生命の誕生にはいろいろクリアすべき条件があります。

 地球は、青い星、水の惑星などと呼ばれ、「水」があることが特徴となっています。水は生命誕生、そして生命維持、進化においても、なくてはならないものです。
 惑星に水が存在するためには、いくつかの天文学的条件を満たさなければなりません。まず、母星である太陽にも条件が課せられます。太陽の明るさと惑星と太陽の距離が適切でなければなりません。近ければ暑くなり、H2Oは気体になり、遠くて寒ければ氷となります。ある限られた軌道にだけ水が存在できます。この惑星の軌道条件は、「ハビダブル・ゾーン」と呼ばれています。
 また、天体として水を保持し続けるだけの十分な質量(あるいはサイズ)が必要です。大きすぎると木星、土星のようなガス惑星になり、水があっても表層環境で軌道条件を活かすことができません。小さすぎると水星、火星のように大気が薄く、水の存在できる表層の環境を、長期間維持できなくなります。惑星は質量条件を満たす必要もあるのです。
 このような軌道条件を満たした場所に、質量条件を満たした惑星があったときのみ、水が存在します。太陽系でこの条件を満たしているのは、地球だけです。
 軌道条件と質量条件の設定は、惑星の表層に海洋(水)の存在でき、維持ができることを限定するものです。ところが丸山さんたちは、水の存在だけでは生命誕生の条件としては足りないといいます。生命の誕生そして維持には、「栄養素」も必要だというのです。その根拠が前回紹介した生命を構成している化学成分になります。
 人間(生命)の化学成分(元素組成)として、多い順に酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、リンとなっていました。これらの化学成分は、3つのグループに分けることができます。水素と酸素、炭素と窒素、カルシウムとリンの3つです。これらの3つのグループは、元素が地球のどこから由来しているかに基いて分けられています。
 水素と酸素は水(H2O)の素材で、地球での分布場所は、海洋です。炭素と窒素は大気中です。炭素は大気中には二酸化炭素(CO2)として存在し、窒素は2つ結びついた分子(N2)として存在します。二酸化炭素は、現在の地球には量が少ないのですが、かつては大気の主成分として、大量に存在していていたことがわかっています。
 カルシウムとリンは、岩石中に含まれている成分です。また生命の維持にはカルシウムとリンの他にカリウムも必要不可欠な元素です。これらの成分は、どの岩石でもそれなりに含まれているのですが、大陸や列島を構成している花崗岩や安山岩に多い成分です。つまり大陸の存在が生命の栄養源として重要な要素だと、丸山さんたちはいいます。
 生命に必要不可欠な3つの成分、水、大気、岩石(大陸)を「ハビタブル・トリニティ」と呼びました。軌道条件(ハビタブル・ゾーン)と質量条件を満たした惑星で、ハビタブル・トリニティを備えた惑星こそが、生命誕生に必要な条件になります。
 丸山さんたちの考察はここで終わりではありません。まだまた広がってきます。

・個人に属するもの・
急な体調不良が続きダウン状態になりました。
こんなとき大学教員は講義や校務の休む手続きと
それを補う手続きが必要になり
大変な思いをします。
何も大学教員だけでなく
社会人全般のことでしょう。
ただ大学教員は、個人に依存する仕事が多いせいでしょう。
以前の博物館や研究者であった時は、
通常の休みは、電話連絡で済ませられ
損失は自分の仕事がその間ストップするだけでした。
大学の講義や校務は、いろいろ複雑で
あとで代替もしなければなりません。
大学は大きな組織ですが、
講義や研究を考えると
個人に属する部分が大きいのです。
まるで個人経営の自転車操業状態です。

・音での季節変化・
北海道は暑く感じる日が
ときどき訪れるようになってきました。
そんな日にはエゾハルゼミの声も聞こえます。
北海道の6月では、
夏の訪れを感じさせるものが
植物の移ろいだけでなく、他にもいろいろあります。
ヒバリのさえずりからカッコウの鳴き声へ。
エゾハルゼミとYOSAKOIの練習する音楽や掛け声。
音でも季節を感じることができます。

2015年5月28日木曜日

2_128 ハビタブル・トリニティ 2:生命とは

 唯一生命が確認されている地球を例にして、生命誕生の条件を考えていくのは正攻法といえます。そのためには、地球で生命が、いつ、どのようにして誕生したか、あるいはその必要条件などを知っておく必要があります。そんなアプローチとして、ハビタブル・トリニティがあります。

 ハビタブル・トリニティ(Habitable Trinity)というのは、生命が存在できるための3条件ということです。最初に考えたのは東京工業大学の丸山さんたちでした。その詳細は、丸山ほか(Maruyama, Ikoma, Genda, Hirose, Yokoyama, Santosh, 2013)やドーム・丸山(Dohm, Maruyama, 2015)で紹介されています。
 これらの論文は、生命の起源に対して、不思議なアプローチをしています。地球生命の一番本質的なものとして、化学組成、あるいは栄養素を考え、それが地球のどのようなところに定常的に供給されているかを概観し、生命の誕生の場や時期、条件を考えています。その時にでてくると考え方として、ハビタブル・トリニティが提案されています。なお、2013年にはハビタブル・トリニティの考えは提示されず、2014年の論文で強く提唱された考えでした。
 丸山ほか(2013)の論文は、
 The naked planet Earth: Most essential pre-requisite for the origin and evolution of life.
(裸の惑星地球:生命の誕生と進化に最も必須の必要条件)
というタイトルです。地球全体の変化や表層環境を総括的にとらえ、地球での生命誕生の条件をみていくものです。そして、地球からの学び(Lesson)として、太陽系外の惑星において、生命や文明のある星を探す方法を提案しています。
 丸山さんらしい非常に壮大な構想の論文です。その内容は後にして、ここでは、ドーム・丸山の論文に基づいて、ハビタブル・トリニティとはどのようなものかを、詳しく見ていきましょう。
 まずは生命の定義からです。一般に生命の定義として、3つの条件が提示されます。
・膜:水などの生体に不可欠な成分が出入りでき、外界と分けるもの
・代謝:取り入れた成分からエネルギーを生み出す一連の化学反応
・自己複製:生命が続くかぎり継続する自己再生
の3つです。
 しかし、丸山さんたちは、これだけでは十分ではないといいます。なぜなら、生命は継続的な化学反応(radical reaction、遊離基反応)がなければならず、そのためには水以外の成分も、恒常的に供給されなければならないからです。
 それらの成分を探るために、ヒトを例に、構成元素をみていくと、多い順に、酸素(重要比で65%)、炭素(18%)、水素(10%)、窒素(3%)、カルシウム(1.5%)、リン(1%)、その他(1.5%)となります。ただし、順番やその量比は生物種によって、少々変わってきます。一番目の酸素と三番目の水素は、水の素材になります。ですから、それ以外の炭素、窒素、カルシウム、リンなどが問題となります。
 では、これらの成分の由来は?ということが、ハビタブル・トリニティの核心につながります。それは、次回としましょう。

・退職・
丸山さんは、よく知っている研究者で
何度もお世話にもなりました。
4月に退職の祝賀会がおこなわれました。
私は、校務があったので
出席はできなかったのですが、
記念品代だけはお送りました。
すると、今回紹介している論文でも使用されている
地球史の図がそのままデザインされた
バスタオルが送られてきました。
その他にも、丸山さんの顔の金太郎飴などもありました。
まだまだ現役で研究者を続けられるでしょうが、
これからも壮大なアイディアを
尽きることなく提示して、
学界を刺激していって欲しいものです。

・腰痛再発・
完治したと思った腰痛が、
先日の日曜日に、再発しましました。
重い荷物を持ち上げなければならなくなったときです。
気をつけないと思っていたのですが、
予想通り腰に来ました。
前回ほどひどくはないのですが、
やはり痛くて治療に通いました。
癖にならないように
気をつけなればなりませんね。

2015年5月14日木曜日

5_129 APT 5:意義

 今回の報告は、11名の著者による共同研究です。その対象は、小さな鉱物の部分を針のように尖らせ、ナノメートルのレベルの測定をおこなっています。小さい部分の測定ですが、そこから得られる意義は、大きいものだと考えられます。

 ヴァレリー(John W. Valley)らの研究は、別の研究グループが求めた地球最古の鉱物(ジルコン)の年代を、最新の装置を使って検証することが目的でした。これは、非常に重要な意義があることです。その意義を紹介しましょう。
 ジルコンは、変成作用にも強い鉱物で、多少の熱の受けても成分や構造を保持できます。ただし、ある程度以上の熱を受けると、原子レベルの移動は起こります。しかし、放射性核種であるウランを2種(235Uと238U)を用いて年代測定をする方法であれば、その変化の影響を回避できます。形成後の変成作用の影響は、U-Pbの年代測定(「1_126 最古の認定 3:コンコーディアとディスコーディア」を参照のこと)として利用されているものです。ある時代に起きた熱変性の事件として読み取ることができ、変成作用の年代も求めることができます。
 それでも、年代測定には、誤差がつきものです。鉱物の微小部分の年代測定(SIMSという装置)では、多数の原子を測定して平均化することで誤差を減らすことができます。SIMSでは1000μm^3の範囲の原子を分析します。しかし、APTでは0.02μm^3の体積しかなく、SIMSの10万分の1ほどしか原子の量がありません。APTは、年代測定より原子の分布状況を見ることが主たる目的の装置なのです。
 ただしこの報告の目的は、年代測定の精度を検証することでした。古い年代が得られた試料の同じ部分から6個の針状の試料を削りだして、結晶面を求めて測定に用いています。測定されたのは、直径100nmほどの針状の部分を1μm(1,023nm)の長さに渡って核種(Si、Zr、Y、Yb、Pb、Al)の測定しています。
 結晶の中には、目的の元素である鉛(Pb)が集まっているクラスターがあり、そこには50個ほどの原子ありました。
 注目されたのは、Uが放射性崩壊してできたPbです。質量数の比をみると、そのクラスターは異常に高い207Pb/206Pb比をもっていることわかりました。形成後、熱変成による変化を受けたこと(ディスコーディアを形成するような事件)を示しています。これは、すでに得られていたSIMSの年代と同じ値でした。
 以上のことから、原子レベルで古いジルコンの年代測定は、信頼性があるということを検証したことになります。この試料から得られた地球最古の鉱物年代が、44億0400万年前と確定したことになります。
 同じような検証が、履歴やタイプの違うジルコンでなされ正しいことが判明したら、今後ジルコンにおけるSIMSの年代測定は、すべて信頼できるものであることになります。今回の報告は、鉱物のナノメートルレベルの小さな部分の報告ですが、彼らが目指している目的には大きな意義がありました。

・極小と極大の連結・
小さな部分の最先端の測定ですが、
その検証が目指しているものは、
非常に大きく重要なゴールなのです。
同じようなことが、違う分野でも起こっています。
巨大な実験装置で未知の素粒子を探したり、
大きな天文観測装置でビックバンの名残を探したり、
地下深部の巨大なプールに水を入れたカミオカンデで
陽子の崩壊やニュートリノの素粒子の挙動を観測したり
しています。
そこで得られる成果は、大きな意義を持っています。
このような極小と極大の連結は
それぞ研究の醍醐味といえるものではないでしょうか。

・心残りままに・
ゴールデンウィークは、研究の時間をとるつもりでした。
3日と5日は自宅で家事をいろいろしていましたが、
それ以外は大学に弁当持ちできていたのですが、
研究はあまりできませんでした。
調査の準備と校務が入り込んできました。
このエッセイも予約送信しておくことにしていたので、
その原稿もいくつか書いていました。
Maさんへの返事も書いていません。
考えること、することがいろいろあり
なかなか思ったようにことが進みませんでした。
どうしてでしょうか。
まとまった時間取れるはずだったのに、
少々心残りのまま調査にでました。

2015年5月7日木曜日

5_128 APT 4:装置

 今回からやっと、APTの仕組みを紹介していきます。その原理は比較的わかりやすいのですが、原子ひとつひとつになされる操作なので、そこにはいろいろなアイディアと、極限的な技術が組み込まれています。

 前置きが長くなりましたが、いよいよ本題のAPTという装置についての説明に入りましょう。前にも紹介しましたが、APT(atom-probe tomography)の用語の意味として、アトムとは原子のことで、プローブとは束(たば)で、トモグラフィとは断層撮影のことで、直訳すると原子束断層撮影となります。名称はこれくらいにして、装置の仕組みと原理をみていきましょう。
 APTによる分析は、2つの技術を合体させたものです。電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscope:FIMと略されます)と、飛行時間型質量分析器(Time-of-Flight mass spectrometer;TOF、あるいはリフレクトロン;reflectronとも呼ばれることがあります)を組み合わせたものです。
 FIMでの分析は、試料を鉛筆のように尖らすことからはじまります。ただし、鉛筆は比喩で、実際の試料の直径は100 nm(ナノメートル、100 nm=0.1μm)ほどの尖った針のようにします。この技術もいろいろ工夫があるのようなのですが、ここでは略します。この針状の試料を、真空中で高電圧をかけると、先端の原子がイオン化されて飛び出していきます。この現象を電界イオン化と呼びます。ここのいろいろ複雑な技術がありますが、省略します。
 針の先から放出されたイオンが、電極に向かって飛んでいきます。電場によって反対極に向かうのですが、飛び出した原子は放射状に広がります。この広がったイオンをマイクロチャネルプレートとよばれるもので検出します。検出の結果、試料の針の先端の原子を凹凸や分布状態を観測できます。これが電界イオン顕微鏡の原理です。観測するときの倍率は、試料の半径(50 nm)と倍増管までの距離の比によって決まるので、100万倍ほどになります。
 つぎに、マイクロチャンネル・プレートに穴(プローブ・ホールと呼びます)のあけて、イオンの一部を通過させます。プローブ・ホールは2 nmほどです。穴を通りぬけたイオンを、後ろに置いた飛行時間質量分析計に入れて、別の原理での測定に利用します。
 TOFは、原子の種類を質量数を測定することで調べる装置です。試料を飛び出たイオンに一定の電場がかかっていると加速されます。加速されたイオンが、定まった距離を飛ぶのにかかった時間(飛行時間)を測定すれば、イオンの電荷と質量数に応じた値(質量電荷比といいます)が得られます。この値から質量数、核種の判別ができます。
 APTは、FIMとTOFの組み合わせによって、原子レベルの分布状況と同時に一部ですが核種をも決定していきます。この測定を、連続的に時間かけておこなっていくと、試料の針が減っていきます。減っていくということは、試料の針の深さ方向の原子の構造と種類を調べていくことになります。これが、一次元APTと呼ばれる装置になります。
 この方法は、効率の悪いものです。なぜなら大量にでたイオンの大半はマイクロチャンネル・プレートでとらえられますが、原子の種類は判別できません。質量分析されているのは、プローブ・ホールを通り抜けたものだけです。できればすべてのイオンで質量分析したいものですが、この仕組では原理的に無理です。
 技術の進歩が、この困難を解決しました。位置敏感型検出器(position sensitive detector)というものが開発されました。この検出器は、面でイオンを捉えながら、イオンが衝突した位置と飛行時間を同時に決定できるものです。つまり、飛んできたイオンを質量分析する微小装置を平面的に並べたものです。位置敏感型検出器が導入されたとことにより、針から飛び出した全イオンを面的、つまり2次元で測定することが可能になりました。この仕組みで連続的に時間をかけて測定を続けていくと、試料の3次元的な原子の分布が、核種の識別をしながら、測定することが可能となります。
 この分析装置は、原理はわかりやすいのですが、実際に分析をするにはいろいろ困難なことがあります。例えば、試料の準備で、目的の場所をいかに尖らせるか。尖りぐあいが分析の精度を左右していきます。多元素の場合、質量数が同じでも別元素が含まれる可能性もあります。
 それらの困難を克服したのが、ヴァレリー(John W. Valley)らの研究成果でした。彼らの成果には、非常に高度な技術的背景があったのです。

・続く議論・
前回紹介したMaさんとの議論は、じつは、今も続いています。
その前に、メールマガジンでMaさんの略号を
WoやMoなどミスタイプをしていました。
Maが正しい表記でした。
Maさん、申し訳ありませんでした。
Maさんからは、冥王代にシミュレーションと
私の別のエッセイで論じた
「時間」に関する話題へのコメントも頂きました。
冥王代については、私が比較的よく知る内容なので
とりあえず、そのちらの返事は書きました。
別のエッセイで「時間」に関する議論では
私の物理学に関する考え方に対して、
誤解やご指摘いただき、別の見方をご教授頂きました。
物理に関しては、Maさんの方がよくご存じで
いろいろ深い考察をご教示いただきましたが、
それに対してどう答えるかは、まだ考え中です。
連休中か、またはもっと時間がかかるかもしれませんが、
考えていきたいと思っています。
よき読者に感謝します。

・製品化・
この3次元APTは実はもう商品化されています。
Cameca製のLEAP 5000という装置があります。
ヴァレリーらの研究は、
この装置の前のバージョンのLEAP 4000で
おこなわれたものです。

・野外調査・
このメールマガジンが発行される日に
私は野外調査のために高知に向かっています。
11日までの4泊5日です。
移動に時間が必要なので、調査は実質、3日間です。
天候が心配ですが、いつも気にしていますが、
こればかりは心配しても詮無きことです。
楽しんで、リフレッシュしてきます。

2015年4月30日木曜日

5_127 APT 3:回答

 APTの紹介をするつもりで始めたシリーズでしたが、少々話は脇にそれていますが、話題自体はなかなか興味深いものです。前回は、読者からの質問だけを紹介して、回答をあと回しにしたので、少々欲求不満になったかもしれませんが、やっと回答編です。お待たせしました。

 前回は、冥王代のまとめと、そこからでてきた質問まで紹介しました。復習しておきましょう。冥王代のあとに起こった後期隕石重爆撃(LHB)がありました。すると、LHBのエネルギーで地球の表層が何kmにわたって溶けたのではないかという指摘です。そのような状態があったとすれば、それ以前にできていたジルコンもすべて溶けてしまったのではないか、という質問でした。
 今回はその質問への回答です。以下は、基本的には回答メールの内容ですが、エッセイで示しますので、少々修正しています。(Moさんご了承下さい)

(以下回答)
 後期隕石重爆撃(LHB)はご指摘のように、40億年前(41億年前とも)から38億5000万年前の間の事件です。ですから、冥王代が終わってからすぐの事件です。以前の年代区分(38億年前まで)では、冥王代ですが、今ではLHBは太古代の出来事になっています。
質問は、
・LHBによって表層が数kmにわたって溶けたのではないか
・もし溶けたとしたら、それ以前の鉱物がなぜ残っているのか
の2点でした。
 質問に答える前に、私は冥王代には興味を持っているのですが、今では専門に研究していませんので、最新の情報ではない可能性があることを、お断りしておきます。
 一つ目の点ですが、LHBによって地球の表層での全面の大規模な溶融は、起きていなかったと考えています。全面溶融がないとすれば、それ以前の鉱物が残っている可能性が出てきます。
 このことは、月のLHBでも全面溶融していないことからも推定できます。月の海(黒っぽい部分)は、大きなクレータですが、そこは衝突によってマグマが埋めましたが、岩石が溶融したかあるいは深部に残っていたマグマオーシャンに由来しています。溶けたとしても、地殻のクレータ部だけです。月の裏の高地(より古い岩石から構成)は、残っています。やはりLHBでは、あったとしても部分的な溶融だけだと考えられます。
 月の形成(冥王代の初期)は、地球への大きな微惑星の衝突によるものだと考えられています。月をつくった物質が地球の大気圏から飛び出すような大きな衝突でした。そんな衝突後でも数百万年もあれば地球はもとの状態に戻れ、地球形成でも1億年ほどで冷却して固化したというシミュレーション結果もあります。
 ですから、地球のマグマオーシャンの形成は、LHB以上のかなり激しい連続衝突でないとできないと考えられます。惑星形成において、そのような過程は「暴走成長」と呼ばれているもので、惑星形成の初期に起こった事件でした。
 また、今回紹介する44億年前の固体物質が残っていること自体が全面溶融がなかった可能性を支持しています。ただし、地球はサイズ(質量)も大きく、大気の存在もあったことから、月とは条件が違うので、単純に比較はできませんので、それなりの注意は必要ですが。
(以上)

 Woさんからの返事と再度の質問がありました。それは少々長くなるのと、本シリーズとの関係がますます薄くなるので別の機会にします。次回から、本題にもどって、いよいよ分析方法についてです。

・感謝・
今回の回答のメールに対して
Woさんから2度目の質問がありました。
その回答は、今回の質問以上に長いものになりました。
2度目の質問を書いている時、
頭には、今書いている論文の
構想の記憶が蘇ってきました。
今書いている論文はシリーズとなっているもので、
研究動機では、前回の論文からの経緯から今回の論文への継続性、
課題を提示していました。
前の論文で積み残したテーマが2つあり
一方を本論で論じる内容で、
他方は「別稿にて議論する予定である」としたテーマがありました。
質問に答えているうちに、
このシリーズの別稿の論文として
書こうと考えていた内容につながってきました。
さらに、10数年前に関連分野の概要をまとめ、
自分なりの考えを示した論文があるのですが、
回答の文章はそれに関連していることに気づきました。
再度文献を集める必要がありますが、
やはり興味は継続しているのだと思えました。
購読者、そしてWoさんに感謝です。

・サクラサク・
北海道もやっと桜が咲きはじめるころとなりました。
これから一気に春が深まるはずです。
朝夕はまだ寒さを感じますが、
昼間は暖かくなってきました。
桜の薄いピンク色は、北国の青空に映えます。
忙しくなってきて余裕はないですが、
越し春を楽しみましょう。

2015年4月23日木曜日

5_126 APT 2:最古の年代と疑問

 この論文は以前紹介しています。今回の目的は、その技術と装置の説明をするつもりでした。「最古」の話題は、このエッセイでは、何度も取り上げてきました。本題と少しずれるかもしれませんが、「最古」に関してこれまで書いてきたエッセイのまとめと、それに関連する質問を紹介します。

 前回は、APTを用いた論文のタイトルにある術語の説明をしました。この論文は以前にも紹介しているので、地質学的な内容に関する詳細はそちらを参照していただきたいと思います。「最古」については、「地球のささやき」で何度か取り上げてきました。私が興味をもっているテーマでもあるからです。まずは、これまでの「最古」の情報を、まとめておきましょう。
 地球最古の「岩石」は、かつてはカナダの北西準州のアカスタ地域のトーナル岩の約40億年前のもので、私も調査にいきました。しかし現在では、もっと古い岩石が見つかっています。「1_82 最古の岩石 1:ちょっと前の最古」(2009.10.29)のシリーズで紹介したカナダのケベック州北部ウンガバの「偽角閃岩」です。「偽角閃岩」という不思議な名称ですが、斑レイ岩の一種だと思っていください。詳細はエッセイを参照してください。この岩石は、Sm-Nd法によって、42.86億年前という年代がでました。
 最古の「鉱物」に関しては、「1_6 最古の鉱物のもつ意味」(2001年2月8日)や「1_12 最初の固体」(2001年10月4日)などで紹介しています。この鉱物は、西オーストラリアのジャックヒルの約30億年前の堆積岩の中にある鉱物の粒でした。鉱物はジルコンで、44億0400万年前という年代をえています。また、今回紹介する論文も、その鉱物の年代を検証したもので、「1_124 最古の認定 1:最古の信頼性」(2014.05.01)のシリーズで紹介しています。
 最古ではないですが、古い鉱物や岩石の年代としてジルコンを用いて報告されることがあります。これは、ジルコンが頑丈な鉱物であること、年代測定に利用できるウラン(U)が多く含まれていることです。ジルコンは頑丈で少々の変成作用でもジルコンは残ります。また、半減期の長い238U(44.68億年)と短い235U(7.038億年)を組み合わせて年代測定をする方法が利用できます。内部で少々の元素移動は起こっても補正可能です。しかし、マグマができるほどの高温になれば、ジルコンも溶けてしまいますので、存在自体がなくなります。
 古いジルコンの存在に疑問を感じたMoさんから質問を受けました。冥王代のあとに起こった後期隕石重爆撃(LHB)があったとされています。その詳細は「1_105 LHB 1:ないことの意義」(2012.08.09)のシリーズで紹介しています。Moさんの疑問は、LHBのエネルギー(運動エネルギー)よって、地殻が数kmの深さにわたって溶解してしまうのではないか。もしそうなら冥王代のジルコンが残っていることが疑問だという指摘です。
 重要な指摘です。次回、回答を紹介していきます。

・情報・
私は、古い岩石に興味があり、
その情報については、注意を払っていました。
ただ、身近に同業の地質学者がいないので、
なかなか最新情報を入ってこない環境であります。
それがつらいところでもあるのですが、
まあ、いろいろ思うところがあって
この環境にいるので仕方がありません。
自分で選んだ道でもありますから。

・急がずに・
このシリーズの元の論文は、
以前に紹介したものでした。
ですから、今回は、その技術や装置を
紹介しようと考えてスタートしたのですが
どうも脇道にいっているようです。
APTは製品としてもあるのですが、
その分析能力がすごいので、興味がありました。
APTを調べてみたいと思ってテーマにしました。
しかし、なかなか本題にいけないのですが、
まあそんなこともあるでしょう。
急がず、ゆっくりと進みましょう。

2015年4月16日木曜日

5_125 APT 1:術語の意味

 地球初期のできごとを知ることは、なかなか難しいものです。試料も少なく、情報も「かすか」なので、微小な試料から得られたデータの信頼性や再現性などが、なかなか検証できないためです。以前求められた地球最古の年代を、新たに検証する報告が出ました。

 1年以上前の2014年2月に、次のようなタイトルの論文が「Nature Geoscience誌」に掲載されました。
  Hadean age for a post-magma-ocean zircon
  confirmed by atom-probe tomography
 (アトムプローブ・トモグラフィによって確認された
  ポスト・マグマ・オーシャンのジルコンの冥王代の年代)
という論文でした。
 ウィスコンシン大学のヴァレリー(John W. Valley)らの11名による共同研究にです。聞きなれない用語がいくつも出てくる論文ですが、内容もさることながら、私はアトムプローブ・トモグラフィという言葉に興味が惹かれました。アトムプローブ・トモグラフィは、少々長ったらい名称なので、多くの専門書ではAPTと略されているので、ここでもそれを用いることにしましょう。
 本題に入る前に、まずは論文のタイトルを解読していきましょう。
 APTのアトムとは原子のことで、プローブとは束(たば)で、トモグラフィとは断層撮影のことです。APTは、微小部分の原子一粒一粒の分布状況を3次元的に分析をし表示できる装置で、詳細は後で説明します。
 ポスト・マグマ・オーシャンのポストは、接頭語で「それ以後」とか「その次」という意味になります。また、マグマ・オーシャンとは、地球初期にあったと考えられているマグマの海(マグマ・オーシャン)のことです。ですから、ポスト・マグマ・オーシャンとは、マグマの海が終わった時代という意味です。
 太陽が形成されているときは、周辺は高温状態であったと考えられています。太陽が安定して輝き出す頃には、ガスが吹き飛ばされて、冷めてきます。すると惑星空間あたるところでは、温度に応じて、気体から小さい固体ができていきます。
 回転する物質には物理的な効果によって、土星の輪のよう位置(黄道面)に物質が集まりました。太陽系の黄道面に固体物質が集まってくると、そこでは物質密度が大きくなり、衝突、合体が起こり、固体物質は成長し微小天体(微惑星と呼ばれます)にまでなっていきます。同じ軌道上の微惑星も、衝突、合体を繰り返し、やがてひとつの軌道上にはひとつの天体(惑星)ができます。つまり、地球軌道では、地球が選択的に成長していきます。
 地球が成長する間、表面では激しい衝突が起こります。地球には素材に含まれていた気体があったため、大気がありました。大気によって温室効果が働き、衝突で開放されたエネルギーは表層にとどまり、非常に高温状態になったと考えられます。その温度は、岩石も溶けるほどでした。マグマの海が地球を覆っていた状態を、マグマ・オーシャンと呼びます。
 ポスト・マグマ・オーシャンとは、マグマ・オーシャンが終わった時代のことです。地球誕生から、マグマ・オーシャンができ、やがて地球表層が固まって地質現象が起こるまでの時代を、冥王代(45.6億から40億年前まで)と呼んでいます。冥王代の終わりの40億年前という値は、必ずしも定まっていませんが、その時代にできたジルコンという鉱物の年代が、確定されたという報告です。
 タイトルの解説は終わったのですが、まだスッキリしないと思います。ですから次回は、この論文における地質学的な意味を紹介しましょう。

・移行時期・
大学の新学期の講義もスタートして2週目になり、
一年生も少しは慣れてきたようです。
しかし、疲れもたまっているようですので、
ゴールデンウィーク空けまで、目を離せません。
教職員も情報関係が新しいシステムになったのですが、
少しずつ使えるようになってきたましたが、
混乱やバクが、あちこちにあるようです。
本格運用には、まだまだ時間が必要なようです。
年々よくなるのですが、
移行時には、それなりの苦労が伴います。

・春を告げる・
今年は雪解けが早かったため
北海道で春をいち早く告げる
フキノトウ、ヒバリの囀り
などはもう始まりました。
しかし、一番驚いたのは、
ツツジがもう花を咲かせています。
私がいつも見ているツツジは
花の時期が長く、夏が過ぎても咲いています。
しかし、ピンクの目立つ花なので
今年の春は一段と早く感じることができました。